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2型糖尿病患者は3つのサブタイプに分けられる―トポロジカルデータ解析に基づくprecision medicineの試み

Identification of type 2 diabetes subgroups through topological analysis of patient similarity.

Li L, Cheng WY, Glicksberg BS, Gottesman O, Tamler R, Chen R, Bottinger EP, Dudley JT.

Sci Transl Med. 2015 Oct 28;7(311):311ra174.

【まとめ】
2型糖尿病は臨床的にも遺伝的にも複雑多様であり、さまざまなサブタイプから成ると考えられている。本研究ではトポロジカルデータ解析という手法を用いて、2型糖尿病患者集団が、臨床的なデータの類似性に基づいて「どのような形の」ネットワークを形成しているかを検討した。その結果明らかになったネットワークの形から、2型糖尿病患者は3つのサブタイプに区別されることが示された。サブタイプ1は糖尿病合併症(糖尿病腎症と網膜症)と関連があり、サブタイプ2はがんと心血管疾患、サブタイプ3は心血管疾患、神経疾患、アレルギー、HIV感染症と関連があった。次に、これらの患者サブタイプの臨床的な表現型とSNPsの関連のデータを解析したところ、各サブタイプに特有の「表現型と遺伝型の関連」が区別して認められた。このように複雑な疾患の新たなサブタイプを見出す本研究の方法は、現在進行しつつあるPrecision Medicine(注1)を推進するものであると考えられる。

トポロジカルデータ解析 (topological data analysis; TDA):
「トポロジカル」という語は、古代ギリシアで普通名詞として使われた「トポス(場所)」に由来する。18世紀以後、トポロジーは数学の一分野として発展した。トポロジカルデータ解析は、一つ一つのデータがネットワーク全体の中で占める「場所」を明らかにし、ネットワークの「形」すなわち「幾何学的な構造」を描き出す解析手法である。大量の複雑なデータから的確な洞察(insight)を得る(意味のあるサブグループを発見する)方法として、Ayasdi(注2)によって開発された。詳しくは、Lum PY, et al. Sci rep 2013を参照。

【論文内容】
2型糖尿病は、その臨床像も遺伝的構造も非常に複雑かつ多様であり、本質的にはさまざまなサブタイプから成ることが想定されている。本研究では、電子診療録(electronic medical records; EMRs)に記録された臨床データを用いて、2型糖尿病の患者集団のネットワークを幾何学的な「形」として表し、そこから臨床的・遺伝的特徴に基づいた2型糖尿病の新しいサブグループを同定することを試みた。対象は、ニューヨークにあるマウントサイナイ病院(Mount Sinai Medical Center)のBiobankに登録された11,210名の患者で、それらの患者のEMRs上の臨床データと、臨床データと遺伝型のデータを結合させたデータセットを用いた。11,210名の患者の内訳は、人種は46%がヒスパニック、32%がアフリカ系アメリカ人、20%がヨーロッパ白人、2%がその他。 性別は61%女性、39%が男性で全体の平均年齢は55.5歳であった。

2型糖尿病の「患者-患者ネットワーク」の作成
まず、EMRの臨床データを用いて、患者の類似性に基づいて患者集団のネットワークを類推する方法を開発した。このネットワークは、患者をグラフ理論でいう「頂点(node)」とし、多種類の臨床指標における類似性に基づいて「辺(edge)」で結んだものである。(臨床指標の種類のことを、ここでは次元(dimension)と呼ぶ。このネットワークでは、非常に多次元の臨床指標に基づいて高度な類似性を示す患者の集団が単一の頂点として示される。) このようにして患者-患者ネットワークを作成したところ、11,210名の患者は図1Aのような2つのクラスターに区別できることが明らかになった。図1Aで左側のクラスター(n=3889)は内分泌代謝異常、免疫異常、感染症、精神障害、循環器系および下部尿路系疾患を有意に多く含んでおり、右側のクラスター(n=7321)は妊娠合併症、呼吸器疾患を多く含んでいた。図1Aの患者-患者ネットワーク上で、2型糖尿病患者がどの場所に多く存在するか(topological enrichment)を調べるため、2型糖尿病患者の多さを色で示した。図1Aでは青→緑色→黄色→赤になるにしたがって2型糖尿病患者が多い頂点であることを表している。これによると2型糖尿病患者はある特定の部位に多く見られたため、2型糖尿病患者集団は複数のクラスターからなることが予想された。そこで次に、2型糖尿病患者2551名を対象として、「2型糖尿病患者のネットワーク」の形を検討した。

その結果、2型糖尿病の患者集団は73の臨床指標をもとに図1Bのようなネットワークの形をしており、3つのクラスターに完全に分離されることが明らかになった。これらをサブタイプ1(n=762)、サブタイプ2 (n=617)、サブタイプ3 (n=1096)と名づけた。なお、図1Bの色分けは頂点の色が赤→黄色→緑色→青になるにしたがって、女性が多い集団から男性が多い集団としている。図1Bを見て分かるように、3つのクラスターは性別には関連がなかった。
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図1A 対象患者全体のネットワークの形(上図)
マウントサイナイ病院のBiobankに登録された11,210名の患者の、臨床指標の類似性に基づくネットワークを示す。ネットワークの頂点(node)は類似性の高い患者の集団を表し、それらを類似性に基づいて辺(edge)で結んでいる。これによると、患者は2つのサブグループに分かれることが分かる。色分けは、青→緑色→黄色→赤となるにしたがって2型糖尿病患者が多い頂点を表しており、2型糖尿病患者はいくつかのサブグループに分けられる可能性があることが分かる。

図1B 2型糖尿病患者のネットワークの形(下図)
次に、上記の患者のうち2551名の2型糖尿病患者について、臨床指標の類似性に基づくネットワークの形を検討した。その結果、2型糖尿病患者集団は3つのサブタイプに分けられることが明らかになった。頂点は類似性の高い患者の集団を表すが、その色分けは赤→黄色→緑色→青となるにしたがって女性が多い集団から男性が多い集団になることを表している。これによると3つのサブタイプで性別の偏りは見られない。


以上で明らかになった3つのクラスターの再現性を検証するため、確認のための訓練事例集合(training set)とテスト事例集合(testing set)のランダム抽出を行った。2型糖尿病患者集団2551名をランダムに2/3をtraining setに、1/3をtest setにと振り分け、上記と同じ73の臨床的指標によって、患者-患者ネットワークを再構築した。このステップを10回繰り返し、10回の検証の適合率と再現率(positive prediction valueとsensitivity)の平均値を求めたところ、training setでの適合率の平均はサブタイプ1、2、3で100%、91%、98%、再現率の平均は99%、96%、94%、同じくtest setでの平均適合率は100%、90%、97%、平均再現率は99%、96%、93%であり、このネットワークのクラスターの高い正確性が確認された。

2型糖尿病患者の各サブタイプに特徴的な臨床指標
この3つのサブタイプにおいて、サブタイプ1に特有な臨床指標は29種、サブタイプ2に特有な臨床指標は3種とサブタイプ3に特有な臨床指標は11種存在した。
サブタイプ1の患者は、最も年齢が低く(59.76±0.45歳)、BMI が高値で(33.07±0.29 kg/㎡)、診察時の血糖が高値(193.69±11.45 mM)であった。そのほかにも、白血球数・好中球数・好酸球数・平均血小板容積が低値で、血小板数は患者の約半数が正常参照値より低値という興味深い特徴が見られた。さらに、診察時のプロトロンビン時間延長、血清アルブミン高値、クレアチニン低値が認められた(なお、サブタイプ1患者の推定GFRは正常参照値よりは低値であった)。さらに、サブタイプ1の患者は血中CO2分圧が高値、1分当たりの呼吸数が少なく、処方ではカルシウム拮抗薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)/アルドステロン変換酵素阻害剤(ACEI)、DPP4阻害剤、メトフォルミンの投与が少なかった。サブタイプ2 の患者は他のサブタイプに比べて体重が少なく(85.17±1.14 kg)、サブタイプ3の患者は収縮期血圧が高値(135.7±0.7 mmHg)、血清Cl値およびトロポニンI値が高値で、ARB/ACEIとスタチンの投与が多かった。

2型糖尿病患者の各サブタイプに特徴的な併存疾患
次に、ICD-9-CM (国際疾病、傷害および死因統計分類)に基づいた疾患分類ソフトウェアClinical Classification Softwareを用いて、サブタイプごとの併存疾患について検討した。その際、7000以上あるICD-9-CMの詳細な疾患コードを、281の単一疾患または18の広いカテゴリーとして用いることとした。
その結果、サブタイプ1は他のサブタイプと比較して、ICD-9-CMの「その他の上気道呼吸器感染症」、「感染症の予防接種およびスクリーニング」、「合併症のある糖尿病」、「その他の皮膚異常」、「失明および視覚障害」と有意に強い関連があった。サブタイプ2は「気管支および肺の癌」、「部位を特定しない場合の悪性新生物」、「結核」、「冠動脈硬化およびその他の心疾患」、「その他の循環器疾患」と関連があり、サブタイプ3は「HIV感染症」、「外的原因による傷害」、「大動脈および末梢動脈の血栓塞栓症」、「合併症を伴う高血圧および二次性高血圧」、「冠動脈硬化およびその他の心疾患」、「アレルギー反応」、「貧血」、「物質乱用および精神疾患の既往」と関連があった。

2型糖尿病患者の各サブタイプに特徴的な「遺伝子-疾患関連」
次に、3つのサブタイプがそれぞれどのような遺伝的多様体(genetic variant)、すなわち遺伝子上の一塩基多型(SNPs)と関連しているかを検討した。図1Bの「患者-患者ネットワーク」は臨床的な表現型(phenotype)に基づいて決定したものであるため、このサブタイプ分類にはSNPsについての情報は含まれていない。しかし、各サブタイプに特異的なSNPsが明らかになれば、各サブタイプの遺伝的マーカーの同定につながるかもしれない。検討の結果、サブタイプ1、2、3に特有のSNPsが1279、1227、1338認められた。これを遺伝子領域にマッピングすると、各サブタイプで有意に関連のある遺伝子がそれぞれ425、322、437同定された。ここで、ヒトの疾患とSNPの関連についてのデータベースであるVarDiを用いて、サブタイプごとに特徴的な遺伝子-表現型関連(gene-phenotype association)を明らかにした(図2)。なお、ここでの表現型とは、「糖尿病腎症」などの診断に基づくものと「血清クレアチニン値」などの検査結果に基づくものを含んでいる。

・サブタイプ1に特有の遺伝的多様体は27の遺伝子-表現型関連に認められた。これらの多くは2型糖尿病に関係することが知られているものであり、血清レチノール値の増加 (関連する遺伝子はFFAR4)、B細胞数の増加(LAMB4)、アルブミン・クレアチニン比の増加(ACE)、ALTの増加(ZNF827)、レプチン受容体の増加(LEPR)、血清マンノース結合レクチン(MBL2)の増加、血清ビタミンD濃度の増加(GC)、および呼吸機能における1秒率の増加(ZSCAN31TNS1)、さらには表現型としての「糖尿病」(BTN2A1)、「糖尿病腎症」(ACE)などの遺伝子-表現型関連が認められた。
・サブタイプ2に特有の遺伝子-表現型関連は25あり、そのうち4つはがんおよびがん治療に関連するものであった。それらは、bleomycin感受性(関連遺伝子はSAMD12)、epirubicinによる薬物副反応(MCPH1)、幹細胞移植(NLRP3)、濾胞性リンパ腫(SV2B)であった。サブタイプ2に多く関連する表現型は、サブタイプ2の患者の併存疾患と合致しており、併存疾患とその遺伝的特徴の関連が示唆された。
・サブタイプ3に特有の遺伝子-表現型関連は28あり、そのうち10は精神疾患及び神経学的疾患と関連があった。それらは、脊髄小脳失調症1型(関連する遺伝子はATXN1)、心室中隔肥厚(EXT1、CERS6)、不安障害(SDK2、FHT)、認知欠損(CNTND2)、認知症(ABCA1)、遊びスキルの障害(DCC)、知能(CNTN4)、抑うつ(FHIT、BICC1)、脳波におけるθ波のパワー(ST6GALNAC3)、HIV関連神経認知障害(SLC8A1)である。さらに、3つは心血管系と関連があるものであり、心電図RR間隔(GPR133)、周産期心筋症(AKAP13)、心房細動(C9orf3、FNDC3B)であった。最近2型糖尿病の危険因子と考えられるようになってきた血清ビタミンD濃度の増加(関連する遺伝子はGC)は、サブタイプ1でも3でも関連が認められた。アレルギー(FHIT)およびスタチンへの反応(ASB18)の2つの表現型は、サブタイプ3に特有の併存疾患と合致するものであった。
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図2 2型糖尿病の3つのサブタイプにおける「遺伝子-表現型の関連」ネットワーク
サブタイプ1が青、サブタイプ2がオレンジ、サブタイプ3がピンクで、内側の楕円形の頂点はそれぞれ表現型、外側の菱型の頂点はそれぞれ多様なSNPsが認められた遺伝子名を表している。表現型と遺伝子名の関連を、関連の有意水準(P値)によって太さを変えた辺で結んでいる。楕円形や菱型の大きさは、関連している表現型や遺伝子の種類の多さを表す。緑色の楕円(「ビタミンD濃度」など)は、複数のサブタイプに共通して関連のある表現型を示している。このような視覚化によって、3つのサブタイプによって関連する表現型と遺伝子の関連が、ほぼはっきりと区別されることが分かる。


2型糖尿病患者の各サブタイプに特有なシグナル伝達と毒性関連のパスウェイ
さらに、各サブタイプに特有なシグナル伝達パスウェイと毒性関連のパスウェイについてIngenuity Pathway Analysisソフトウェアを用いて検討した。その結果、サブタイプ1、2、3に特有な古典的な(canonical)パスウェイが、それぞれ5種類、2種類、6種類同定された。
サブタイプ1で亢進していたパスウェイは、fatty acid β-oxidation III(糖尿病に伴う肝疾患で亢進する)、acetateからacetyl CoAへの変換(糖代謝で重要)、cAMPを介するシグナル伝達(インスリン分泌に関連)であり、さらにnetrinシグナル伝達(糖尿病腎症に対する保護作用が知られる)、GABA受容体シグナル伝達(糖尿病網膜症の早期に認められる)の2つは、サブタイプ1の併存疾患とも関連があるものであった。サブタイプ2で亢進していたパスウェイには、細菌やウイルスの認識における「パターン認識受容体」のシグナル伝達(これは2型糖尿病における結核の有病率高値に関連している可能性がある)、およびトロンボポイエチンシグナル伝達(細胞生存や増殖分化の活性化に関与し、これはサブタイプ2における冠動脈疾患の増加に関連があるのかもしれない)があった。サブタイプ3で亢進しているパスウェイは、αアドレナリン受容体シグナル伝達、シナプスの長期抑圧、ニューロンにおけるCREBシグナル伝達(神経の可塑性、脳の長期記憶形成、アルツハイマー病の治療との関連が示唆されている)、グルタミン酸受容体シグナル伝達(脳神経疾患、肝線維症、肝星細胞活性化および精子運動能に関連するとされる)であった。

毒性関連のパスウェイとは、肝毒性、腎毒性、心血管毒性および臨床的な病理学的エンドポイントなどを指す。これには、サブタイプ1、2、3に特有なパスウェイが、それぞれ9種類、3種類、3種類同定された。サブタイプ1で亢進している毒性関連パスウェイのうち4種類が腎障害に関するものであり(糸球体障害、腎の肥大、腎の増殖、腎の変性)、これらはサブタイプ1に糖尿病性腎症が多いことと関連があると考えられる。他の5つの毒性関連パスウェイは肝機能障害に関連しており、サブタイプ1における肝酵素の増加と一致していた。なお、サブタイプ2と3は関連する遺伝子は異なるのに、どちらも心血管毒性のパスウェイが亢進していた。EMRsからの併存疾患の情報とVarDiによる遺伝的多様体の情報も含めて考えると、サブタイプ2と3はいずれも心血管疾患のリスクが大きい可能性が示唆された。

トポロジカルデータ解析の特長
本研究には、(1) サンプルサイズが中程度であること、(2)疾患の発症や診断からの時間経過が深く考慮されないこと、(3)疾患の診断がICD-9-CM診断コードに基づくことなどの限界がある。しかし本研究は、遺伝的なマーカーが分からなくても、臨床的な表現型のみから患者のネットワークの形を発見できるトポロジカルデータ解析の方法が有効であることを示している。従来言われてきた「オーダーメイド医療」や「個別化医療」の方法では、疾患分類に重要な分子のような表現型の情報やSNPsのような遺伝的多様性の情報が先に分かっていて、それに基づいて患者集団を層別化する必要があった。しかし、本研究のトポロジカルデータ解析では、臨床データのみから、データに駆動される方式で(data-driven)、機械学習における教師なし(unsupervised)の方法によって、患者集団のネットワークの形が自動的に発見できる。本研究は、多因子疾患の新たなサブグループを同定し、それらに対する新たなバイオマーカーの発見や治療の選択を可能にするPrecision Medicineの有効な方法を提示するものと言える。

注1: Precision Medicine
個々の患者を生物学的にまたは疾患の経過によってサブグループに分類し、それぞれにふさわしい的確な予防や治療を考える医療を指す。以前は「個別化医療」(personalized medicine)という用語が類似の考えを表していたが、個別化医療という用語には「遺伝的情報をもとに患者個々人に対して特有の治療をデザインする」というようなイメージがあった。しかし実際の個別化医療の実現は、次世代シーケンサー技術によって個人の複雑な遺伝的背景が明らかになるにつれ非常な困難を伴うことが分かり、かつ高度な医療資源の投入が必要となるため医療コストの高騰につながるという二つの点が問題になっていた。それに代わる「Precision Medicine」という用語は、患者の臨床データや遺伝的データに基づいて、特定の疾患の患者をより細かい「サブグループ」に分類することによって的確な予防と治療を目指すという意味合いがある。

この用語は、2015年1月にオバマ大統領が発表したPrecision Medicine Initiativeへの予算の大幅増額によって一般に広まった。オバマ大統領はこの演説で、「これまでにも各人の血液型を合わせることで、輸血が可能となったのです。これからは、各人にふさわしいがんの治療法や薬の投与量が、体温を測るのと同じくらい簡単に決められたらどんなに良いでしょう」と呼びかけ、従来型の平均的な患者をもとにデザインする「one-size-fits-all」医療から新しい医療への脱却を目指した。

Precision Medicineの日本語訳としては「精密医療」、「的確医療」、「高精度医療」などいくつかの訳が試みられている。中国語でも「精准医疗(jīngzhǔn yīliáo)」、または「精确(jīngquè) 医疗」(いずれも「精密で正確な」医療)と訳される。

注2: Ayasdi社は、スタンフォード大学数学科の博士課程の学生だったGurjeet Singhと指導教官のGunnar Carlsson、ソフトウェア開発者Harlan Sextonの3人によって2008年に設立されたベンチャー企業である。トポロジカルデータ解析を用いて大量のデータから意味のある洞察(insight)を見出すAyasdi Coreの他、臨床的に最適なクリニカルパスウェイを作成するAyasdi Care、ドラッグディスカバリーを行うAyasdi Cure を開発している。なお、ayasdi (アイヤズディー)とは、アメリカ先住民族チェロキーの言葉で「探す」という意味とのこと。
# by md345797 | 2015-11-09 21:48 | その他

β細胞は初期分泌顆粒の分解とそれに伴うオートファジー抑制により空腹時インスリン分泌を低下させる

Insulin secretory granules control autophagy in pancreatic β cells.

Goginashvili A, Zhang Z, Erbs E, Spiegelhalter C, Kessler P, Mihlan M, Pasquier A, Krupina K, Schieber N, Cinque L, Morvan J, Sumara I, Schwab Y, Settembre C, Ricci R.

Science. 2015 Feb 20;347(6224):878-82.

【まとめ】

① 生体における空腹時や、培養細胞をアミノ酸なしまたは低グルコースの培地に置いた状態は、栄養飢餓(nutrient depletion)の状態と呼ばれる。膵β細胞は栄養飢餓の状態では、インスリン分泌を低下させる。では、β細胞では栄養飢餓時にオートファジーが起きるのだろうか?

通常の細胞なら栄養飢餓時にはオートファジーが誘導されて、細胞質蛋白や細胞内小器官を消化して、それにより細胞生存のためのエネルギーが供給される。(このオートファジーを限定してマクロオートファジーともいう。ここでは単にオートファジーとする。)ところが、β細胞には生理的にオートファジーがほとんど観察されず、空腹時にもオートファジーファジーが誘導されないことが知られている。2008年に発表されたオートファジー関連蛋白Atg7のβ細胞特異的欠損マウスの報告(Ebato C, 2008Jung HS, 2008)では、β細胞でオートファジーを欠損させるとインスリン分泌障害が起こることが示された。そこから、「β細胞にはbasal autophagyともいうべき、低レベルの恒常的なオートファジーが起きており、そしてそれが欠損するとβ細胞のインスリン分泌低下が起きるのだろう」という説明がなされている。β細胞では栄養飢餓の状態であってもオートファジーは起きないが、通常観察されないようなbasalなオートファジーは維持されている、というのが現時点での考え方だろう。

② では、β細胞でオートファジーを亢進させるとインスリン分泌は増加するのか?
本論文では、低グルコース培地に置いたβ細胞に(mTOR阻害剤またはオートファジー誘導ペプチドtat-beclin1により)強制的にオートファジーを亢進させると、インスリン分泌が増加するという結果を示している。

これは非生理的な状況を作っているだけで、この結果だけからβ細胞にオートファジーが生理的なインスリン分泌を促進しているとは言えないだろうが、それでもオートファジーを強制的にでも亢進させればインスリン分泌は促進されるようである。なお、なぜオートファジー亢進がインスリン分泌を増加させるかのメカニズムは不明のままである(ATP感受性Kチャネルを介することは示されるがそれ以上は不明)。

③ 従来から下垂体プロラクチン産生細胞などの神経内分泌細胞で、分泌顆粒がリソソームに融合して分解される現象は観察されていて、crinophagyと呼ばれることもある (crinは、endocrineのように分泌を表す語)。これは、古い分泌顆粒が分解されるオートファジーのようだが、オートファジーとの関係はよく分かっていない。

それに対し、本研究で同定したのは、新しいインスリン初期分泌顆粒がリソソームによって分解されるSINGD (starvation-induced nascent granule degradation)というものである。これは通常のオートファジー(マクロオートファジー)ではない。オートファジーは細胞内蛋白を非選択的に分解するものだが、SINGDはβ細胞ではインスリン初期分泌顆粒のみを分解する。そして、SINGDが起きると、オートファジーは抑制されることを示した。

④本研究の内容は下図のように要約される。β細胞は、栄養飢餓時(図の左側)にはp38δMAPキナーゼが活性化され(そのメカニズムは不明)、p38δによってPKD1がリン酸化され不活性化される。(PKDは食後などの栄養があるとき(図の右側)には、活性が上昇しインスリン分泌を促進する(Sumara G, 2009))。栄養飢餓時には、PKDの不活性化を介して、インスリンの初期分泌顆粒がリソソームで分解される(SINGD: starvation-induced nascent granule degradation)。その時、分解産物としてアミノ酸が増加するのでリソソーム膜でmTOR活性が上昇し、それが通常のオートファジーを抑制。オートファジーは前述のようにインスリン分泌を促進する作用があるので(右下の上向き矢印がそれを表している)、栄養飢餓時はSINGDによるオートファジー抑制によってインスリン分泌は抑制される。この仕組みは、空腹時にβ細胞がインスリン分泌を抑制するのに役立っている。

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【オートファジーの経路とその調節機構】

 オートファジーは細胞質成分をリソソームに輸送し分解する現象であり、栄養飢餓時の細胞の生存に重要な役割を果たしている。オートファジーの段階を以下の図に示す。

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オートファジーは、細胞質中に隔離膜(isolation membrane, phagophore)が出現するところから始まる。この隔離膜が細胞質成分を取り囲んで延長し、成熟した二重膜のオートファゴソームを形成する。次にオートファゴソームはリソソームと融合し、オートファゴソームの内膜と隔離した細胞質成分がリソソーム由来の酸性加水分解酵素により分解されて、一重膜のオートリソソームとなる。こうして分解された細胞内蛋白由来のアミノ酸が細胞に供給され、栄養飢餓時の細胞生存のために用いられる。なお、増加したアミノ酸はmTORを活性化し、これがオートファジーを不活性化させる負のフィードバックのシグナルとなる。

また、オートファゴソーム形成と成熟の調節機構は、下図のようなものである。

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飢餓状態(starvation)では、mTOR活性が抑制され、それによりULK1が活性化される。これがオートファゴソーム形成(膜の核生成:nucleation)を促進するシグナルとなる。逆に、アミノ酸などの栄養素やインスリン刺激は、mTORを活性化して、オートファゴソーム形成を抑制する。
② また、bectin1を含むBeclin-1-interacting complexというオートファジーの調節プラットフォーム が刺激されると、この中にあるVPS34 (class III PI 3-kinase )の活性化によってPI3Pが生成され、オートファゴソーム形成が促進される。
③ 次のオートファゴソームの延長・成熟には2つのユビキチン様結合システム、すなわち「ATG5-ATG12結合システム」と「LC3-ATG8結合システム」が必要である。前者のシステムで産生されるATG16L1はオートファジーに必要である。
④ 後者のシステムにおいては、細胞質のLC3-Iがオートファゴソーム膜に結合するLC3(phosphatidylethanolamine結合型:LC3-II)へと変換される。成熟したオートファゴソームは、その膜上にあるLC3 puncta(免疫蛍光染色の斑点)として可視化できる。そのため、GFP-tagを付けたLC3の蛍光顕微鏡で観察される斑点(GFP-LC3 puncta)は、オートファジー活性を評価するときのマーカーとして一般に用いられている。


【論文内容】

(1) β細胞では、栄養飢餓時にオートファジーが抑制される
本研究では、膵β細胞におけるオートファジーを観察するモデルとして、ラットインスリノーマ由来のβ細胞株であるINS1細胞に一過性にLC3B-GFPを過剰発現されたものを用いた。この細胞を、通常の栄養培地GC (growth culture)または栄養飢餓培地で一定時間培養した。栄養飢餓培地は、アミノ酸 (amino acid, AA)やグルコース(glucose, Glc)と血清 (fatal calf serum, FCS)なしの培地で、論文ではno AA/FCS、no Glc/FSCなどと略している。

LC3B-GFP発現INS1細胞を、2時間または6時間の栄養飢餓培地 (no AA/FCSまたはno Glc/FCS)に置いたところ、LC3B-GFP puncta の減少が認められた(Fig S1A, B)。ただし、血清だけを除いた培地(no FCS)では、このようなLC3B-GFP puncta の減少は起こらなかった(Fig S1C)。したがって、β細胞株では、栄養飢餓の状態でオートファゴソーム形成が減少する、すなわちオートファジーが抑制されることを示された。

β細胞のような栄養感知性の分泌細胞ではない他の細胞の例として、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来細胞)を取り上げ、同様の栄養飢餓培地に置いた。HEK293細胞では、栄養飢餓によってLC3B-GFP punctaは増加した(Fig S1D,E)。すなわち、通常の細胞は栄養飢餓状態でオートファジーが誘導されるのに、β細胞では逆であることが分かる。

次に、LC3B-GFPを内因性に発現させた「LC3B-GFP ノックインINS1細胞」を、CRISPR/Cas9 systemを用いて作製した(Fig S2A-C)。このLC3B-GFP ノックインINS1細胞を1時間、栄養飢餓培地(no AA/FCS)に置いた場合も、LC3B-GFP puncta(オートファゴソーム)の減少が認められた(Fig A1, Fig S2D-F)。

LC3Bの減少は、単にリソソームによるLC3Bの分解が亢進しているためなのか?その可能性を除外するために、リソソームの蛋白分解の阻害剤Bafilomycin A1 (BafA1)を添加して、同じ実験を行ったが、栄養飢餓状態によるLC3B-GFP punctaの減少に、BafA1添加の影響は見られなかった(Fig S2D-F)。

次に、LC3BにRFP(赤色蛍光蛋白)とGFP(緑色蛍光蛋白)を直列につないだtandem fluorescent-tagged LC3 (tfLC3)というコンストラクトをINS1細胞に発現させた(FigにあるptfLC3はレポータープラスミド名)。このとき、オートファゴソーム膜上のtfLC3はRFPとGFPの両方で標識されるため、オートファゴソームは赤色と緑色が重なって黄色蛍光で確認できる。これが次のオートリソソームにまで進行すると、GFPはリソソームの酸性で退色するのに対しRFPは退色しないため、オートリソソームは赤色に観察される。これにより、オートファゴソーム(黄色)と オートリソソーム(赤色)を区別し、オートファジーの進行を判定することができる。

tfLC3を発現させたINS1細胞を2時間の栄養飢餓培地(no AA/FCS)に置くと、多くのRFP-GFP斑点(オートファゴソーム)がRFPのみの斑点(オートリソソーム)へと変化した。さらに時間がたつにつれてオートファゴソームは消失し、オートリソソームも減少した(Fig S3)。さらに、CLEM (correlative light and electron microscopy)を用いて蛍光顕微鏡と電子顕微鏡の相関を取って比較することにより、オートファゴソームの始まりも電顕像で確認できた(Fig 1B)。

さらに、通常のINS1細胞を1.5時間の栄養飢餓培地(no AA/FSC)に置いた後、細胞のlysateで界面活性剤可溶性画分 (soluble fraction)を見ると、膜結合型LC3B (LC3B-II)は減少していた(Fig 1C)。これは、BafA1添加によっても影響はなかった(オートリソソームでの分解が亢進しているのではない)。これに対し、同様の栄養飢餓培地に置いても、HEK293細胞ではLC3B-IIが増加していた(Fig S4)。
(Fig 1Cの界面活性剤の不溶性画分(insoluble fraction)は、変性蛋白の凝集体(aggresome)にあるLC3-IIを表すが、これについては特に述べていない。)

p62は、ユビキチン化された蛋白凝集体に結合し、その凝集体をオートファゴソームへ導くアダプター分子である。INS1細胞を栄養飢餓培地に置くと、可溶性画分のp62の量は軽度増加した。これはBafA1添加によって変化しなかった(Fig 1C)。また、栄養飢餓によりp62の免疫染色の斑点が集結するのが見られた。しかし、LC3B-GFP(オートファゴソーム)とp62の共局在は減少した(Fig S5A)。INS1細胞では、栄養飢餓によってオートファジーが低下するので、オートファジー依存性のp62の消失も抑制されたことが分かる。

ATG16L1は、オートファゴソームに結合し、オートファゴソームの延長と成熟に不可欠な因子である。栄養飢餓時のINS1細胞の免疫染色で、ATG16L1およびATG16L1/LC3B-GFPの斑点は軽度減少した(Fig S5B)。

また、マウス単離培養膵島を2時間の栄養飢餓培地 (no AA/FCS)に置いた場合、β細胞のオートファジーの細胞内コンパートメントは減少した。これは定量的電子顕微鏡(quantitative electron microscopy; QEM)によって定量的に確認した(Fig S6)。

さらに、LC3B-GFPを発現させたトランスジェニックマウスでは、空腹時はβ細胞のオートファゴソームは減少していた(Fig 1D, Fig S7)。なお、栄養素が分泌に関係しない他の分泌細胞、例えばマウスの形質細胞を栄養飢餓培地 (no AA/FCS)に置いても、IgGの分泌は低下するが、オートファジーの細胞内コンパートメント(autophagic compartment; AC)は増加した(Fig S8)。

以上のように、通常の細胞では栄養飢餓によってオートファジーが起きるが、β細胞は逆に飢餓状態でオートファジーが抑制される。したがって、β細胞は、他の多くの細胞とは違うメカニズムを用いて栄養飢餓を乗り越えていると考えられる。

(2)β細胞では栄養飢餓時に、オートファジーではなく初期分泌顆粒の分解が亢進する

下垂体前葉のプロラクチン産生細胞では、分泌顆粒が多く産生され過ぎると、分泌顆粒はリソソームに移行して分解されており、このような分泌顆粒のリソソームによる分解がプロラクチン分泌の調節につながることが報告されている。そこで、β細胞でも、生成初期のインスリン分泌顆粒がリソソームによって分解されることでインスリン分泌が調節されている可能性がないかを考え、以下の検討を行った。

実験では、INS1細胞を栄養飢餓状態に置いた場合、インスリンの初期分泌顆粒がリソソームによって分解される現象があるかをまず確認することにした。これは、リソソームが、分解する分泌顆粒を含んだ顆粒含有リソソーム(granule-containing lysosomes; GCLs)になっていることを確認する。このGCLsの確認のために、「リソソーム膜蛋白Lamp1と分泌顆粒蛋白Phogrinがゴルジ体(pGolgi-CFPで可視化)の近くに共局在する斑点(puncta)」を蛍光顕微鏡で観察・定量化した。

INS1細胞を30分間栄養飢餓培地(no AA/FCS)に置いたところ、Lamp1とPhogrinがゴルジ体の近くに共局在するのが確認された(Fig S9)。リソソーム阻害剤を添加すると、この共局在は増加した(リソソーム阻害剤により、顆粒分解が抑制されたためリソソーム内の顆粒蛋白が増加したということか?)。

この栄養飢餓状態に置いたINS1細胞で顆粒含有リソソームが増加する現象は、QEM、CLEM、免疫金標識によっても確認できた (Fig S10)。

NS1細胞を30分の栄養飢餓培地(no AA/FCS)に置いてそのlysateを濃度勾配で分画したところ、Phogrin (=分泌顆粒蛋白)とLamp (=リソソーム膜蛋白)は、顆粒含有リソソームを含むと考えられる重い分画の方に移行した。この移行した分画にはLC3B (=オートファゴソーム膜蛋白)はほとんど検出されなかったので、初期分泌顆粒がリソソームにて分解される現象はオートファジーとは独立であることが示唆された。

また、栄養飢餓培地に置いたINS1細胞では、LC3B-GFP/Phogrinの共局在は増加しないことが免疫染色で確認された(Fig S11) 。すなわち、栄養飢餓によって分泌顆粒のオートファジーが増加するわけではない

さらには、siBeclin1やsiATG5による遺伝子サイレンシングや、オートファジー阻害剤3-methyladenineを用いてオートファジーを不活性化させた状態で、INS1細胞を栄養飢餓培地に置いた場合は、顆粒含有リソソームの量は変化しなかった (Fig S12)。これらの結果は、オートファジーが分泌顆粒のリソソームによる分解に関連しないことを示している。

インスリンの初期分泌顆粒のマーカーはプロインスリンだが、INS1細胞を6時間栄養飢餓培地(no AA/FCS)に置くと、細胞全体のlysateにおいてプロインスリンのimmunoblotのシグナルが著明に減少した(Fig 2A)。このプロインスリンの減少はリソソーム阻害剤によって部分的に回復した。

マウス膵島の初期培養で、β細胞をex vivoで2時間栄養飢餓(no AA/FCS)にすると、ゴルジ領域に分泌顆粒含有リソソームが電顕像(QEM)で多く確認された (Fig 2C) (分泌顆粒はゴルジ体で産生される)。

GFP-LC3B発現マウスを空腹にすると、Lamp2(=リソソーム膜蛋白)とプロインスリン(=分泌顆粒蛋白、インスリンも含むので論文では(Pro)insulinと記載)の共局在は増加したが、GFP-LC3B(オートファゴソーム膜)と(Pro)insulinの共局在は増加しなかった(Fig 2D)。

以上の結果より、β細胞は栄養飢餓時には、インスリン初期分泌顆粒(マーカー:(Pro)insulin)は、オートファゴソーム(マーカー:LC3B)内でオートファジーを受けるのではなく、直接、リソソーム(マーカー:Lamp2)で分解されるのである。新しく同定したこの現象を、「栄養飢餓によって誘導される初期(分泌)顆粒の分解」(starvation-induced nascent granule degradation, SINGD)と呼ぶことにする。

(3) β細胞では栄養飢餓時であっても、mTOR活性を阻害すれば、UKL1脱リン酸化(活性化)を介して、オートファジーは促進される

リソソーム由来のアミノ酸によって、mTOR complex 1 (mTORC1)がリソソーム膜に移行して活性化され、これによりオートファジーの抑制が起きる。Rapamycinまたはtorin 1でmTOR活性を阻害すると、2時間栄養飢餓培地に置いたINS1細胞のLC3B-GFP punctaの数(オートファゴソーム形成)は増加した (Fig 3A)。すなわち、INS1細胞は栄養飢餓状態ではオートファゴソーム形成が低下するはずなのに、mTORを抑制しておけば栄養飢餓状態であってもオートファジーが起きることが分かる。

さらに、INS1細胞を1時間の栄養飢餓培地(no AA/FCSまたはno Glu/FCS)に置くと、ゴルジ体(マーカー:giantin)の近くのPhogrin/Lamp1の斑点(顆粒含有リソソーム)にmTORが局在した (Fig 3B)。

さらに、栄養飢餓状態に置いてもリン酸化ULK1 (S757-ULK1)は多いままだったが、rapamycinでmTORを阻害するとリン酸化は消失した (Fig 3C)。栄養飢餓でもmTORを阻害すればULK1脱リン酸化(活性化)は起きる。(なお、mTORを介するS6K1のリン酸化 (T389-S6K1)は栄養飢餓によって減少していた。これにより、S6K1リン酸化にはULK1リン酸化よりもmTORの高い活性が求められるためと思われる。)

そして、INS1細胞を栄養飢餓培地に置くと、顆粒含有リソソーム(Lamp1/Phogrinの斑点)と共局在するリン酸化ULK1(S757-ULK1)の斑点の形成が増加した (Fig S14)。

以上の結果から、栄養飢餓状態であっても、mTOR活性を阻害すれば、ULK1脱リン酸化(活性化)を介して、オートファジーが活性化されることが示された。実際はβ細胞は、栄養飢餓状態で、リソソームによる初期分泌顆粒分解(SINGD)によってアミノ酸が供給されてmTORが活性化され、ULK1リン酸化(不活性化)を介してオートファジーは抑制されているのだろう。

(4) β細胞が空腹時にインスリン分泌を低下させるのためには、SINGDを介するオートファジーの抑制が必要


上記のように栄養飢餓時であってもmTORを阻害すればオートファジーが誘導されるのなら、それによって(栄養飢餓時でも)インスリン分泌は増加するのか?

低グルコース培地に置いたINS1細胞に(グルコース濃度はインスリン分泌を刺激しない2.8 mMとした)、rapamycinを添加しmTORを阻害し、栄養飢餓にもかかわらずオートファジーが促進されるようにすると、インスリン分泌は40%程度増加した(Fig S15)。すなわち、低グルコース状態でも、オートファジーを強制的に亢進させるとインスリン分泌は増加する。

さらに別のオートファジー誘導方法として、tat-beclin1を用いた。tat-beclin1は、一部のアミノ酸を置換したbeclin1に、HIV tatタンパクのtransduction domainを結合させて細胞膜を透過性を持たせたオートファジー誘導ペプチドである。

マウスの初代培養膵島を低グルコース培地(2.8 mM glucose)におき、そこにtat-beclin1を添加してオートファジーを特異的に惹起させた。この場合も、低グルコースにもかかわらず、Tat-beclin1によるオートファジー惹起が原因で、インスリン分泌は高グルコース刺激時(16.7 mM glucose)に見られるのに近づく程度まで増加した(Fig S16C、一応有意差がないという程度だが・・・)。この時細胞の生存には変化はなかった。すなわちインスリン分泌が増加したのは、細胞死によってインスリンが培地中に放出された現象などを見ているのではない(Fig S16B)。

なお、ヒト膵島をex vivoで低グルコース濃度(2.8 mM)の培地に置き、そこにtat-beclin1を添加した場合、同じ膵島をグルコース16.7 mMの濃度で刺激した場合に近い程度までインスリン分泌が亢進した(Fig 3D)。

ではこのような「β細胞におけるオートファジー亢進によるインスリン分泌促進」は、ATP感受性Kチャネルの閉鎖を介するものだろうか?

β細胞において細胞内ATPの増加 (これは通常はGLUT2を介するグルコース取り込みによってミトコンドリアでATP産生が増加することによる)によって起こるATP感受性Kチャネルの閉鎖は、膜の脱分極、Ca2+流入を介して分泌顆粒のエクソサイトーシス、インスリン分泌の増加をもたらす。ATP感受性Kチャネル開口剤であるdiazoxideを添加すると、Kチャネル閉鎖すなわち膜の脱分極が起きなくなり、上記の効果は消失する。

上記のマウス膵島を低グルコース濃度(2.8 mM)培地でtat-beclin1によってインスリン分泌が増加した効果は、diazoxide添加で消失した。

さらに、マウス膵島をインスリン分泌を刺激する程度の高濃度グルコース(16.7 mM)培地に置いた時も、tat-beclin1添加によってインスリン刺激がさらに増加した (Fig S16E)。このtat-beclin1によるインスリン分泌増強効果もdiazoxide添加で阻害された(Fig S16F)。

すなわち、オートファジー誘導によるインスリン分泌促進は、低グルコース濃度でも、高グルコース濃度でも起こり、それはどちらもATP感受性Kチャネル閉鎖を介していることが示唆される。

以上の結果から考えると、空腹時にβ細胞で見られるSINGDは、空腹時のβ細胞のオートファジーを抑制する。これにより「オートファジーがもし起きれば亢進させてまうはず」のインスリン分泌を、空腹時に抑制しているのだろう。

(5) 栄養飢餓時は、PKD活性低下を介してSINGDが惹起される

最後に、β細胞で栄養飢餓時にSINGDが惹起される分子機構を検討する。以前、この研究グループは、β細胞のprotein kinase D (PKD)が活性化されることがインスリン分泌やβ細胞生存を促進するという結果を報告している。β細胞においてPKDの活性化は、ゴルジ体でのインスリン分泌顆粒の生合成を促進することが分かっている。ではPKDの不活性化は、インスリン初期分泌のターンオーバーに影響するのだろうか?

まず、INS1細胞にPKD阻害剤(CID755673)を添加すると、細胞lysate中のプロインスリンのimmunoblotの濃度が時間依存的に減少した(Fig 4A)。PKD1の発現をノックダウンINS1細胞(shPKD-INS1)ではプロインスリン生合成自体は変化していなかった(Fig S18AB)。しかし、新しく生成されたインスリンの蓄積は減少していたので(35S-methionineのpulse-chase法で確認、Fig S18C)、de novo合成されたインスリンの分解が亢進していたと考えられる。

PKDノックダウンINS1細胞のQEMおよび免疫金標識による観察で、ゴルジ領域に顆粒含有リソソームが増加していることが分かり、それはさらに細胞分画によっても確認された(Fig 4B、Fig S19)。PKD阻害剤を添加すると、PhogrinとLamp1の共局在(顆粒含有リソソーム)が減少したが、その効果はリソソーム阻害剤の場合よりも強力だった(Fig S19)。そして、PKD阻害剤添加によって、Phogrin/LC3B-GFPの共局在(分泌顆粒のオートファジー)は変化しなかった(Fig S20)。PKD1ノックアウトINS1細胞では、mTORは大部分はLamp1(リソソーム膜蛋白)と共局在し(Fig 4C)、細胞lysateでのリン酸化ULK1量は増加していた(Fig 4D)。またPKDノックアウトINS1細胞に、BafA1(リソソーム蛋白分解阻害剤)を添加すると、LC3B-II量が減少した(Fig S21A)。なお、PKD阻害剤によってLC3B-GFP puncta(オートリソソームの形成) が減少したが、BafA1添加を添加してもこのLC3B-GFP puncta 減少が認められた(Fig S21B)。

上記より、PKDがインスリンの初期分泌顆粒のリソソームでの分解を調節していることが分かる。では、栄養飢餓によって、PKD活性が低下し、SINGDに至るのかどうか?これを以下の実験で検討した。

INS1細胞およびMIN6B細胞(マウスインスリノーマ由来β細胞株)を栄養飢餓培地(no AA/FCSまたはno Glc/FCS)に置いた場合、時間依存的にゴルジ体におけるPKD活性は減少していた(G-PKDrep-liveをtransfectした各細胞でのFRETアッセイにて確認、Fig S22)。PKDは、p38δMAPキナーゼによってリン酸化されることによって不活性化される。そして、p38δ欠損マウスでは、β細胞におけるPKD活性が増加していることはこのグループが以前報告している。

そこで、p38δ欠損マウスの膵島をex vivoで栄養飢餓培地に置いたところ、β細胞における顆粒含有リソソームは、電顕像で著明に減少していた(Fig 4E)。同様に、栄養飢餓培地に置いたp38δ欠損β細胞ではLamp2と(pro)insulinの共局在(インスリン初期分泌のリソソームによる分解を示す)は減少していた(Fig S23CD)。したがって、p38δによってPKDがリン酸化され不活性化されるとSINGDが抑制されると考えられる。それに対し、栄養飢餓培地におけるp38δ欠損β細胞でオートファジーの細胞内コンパートメントは増加していたため、SINGD依存性のオートファジー抑制は低下していたと考えられる(Fig 4E)。以上より、β細胞においてPKDはSINGDとオートファジーの主要な調節因子であることが示された。

【結論】
β細胞では、栄養飢餓の状態ではp38δ活性化を介してPKD不活性化が起こり、それによりSINGD、局所でのmTOR活性化、オートファジーの抑制が起きる。オートファジーはもし強制的に起こせばインスリン分泌を促進するが、それは上記の仕組みで栄養飢餓時には抑制されている。これが空腹時におけるインスリン分泌抑制につながっている。

そしてこのSINGDが、栄養飢餓時にオートファジーのないβ細胞が栄養飢餓を乗り切るための栄養供給の方法だろう。また、SINGDによって分解されるインスリン初期分泌顆粒がなくなってくると、それまでSINGDによって起きていたオートファジーの抑制は解除されるので(derepress)、インスリン分泌が増加せずにオートファジーが起きることも可能なのだろう。この「インスリン初期分泌顆粒がいつなくなってくるか」というタイミングが実験モデルやプロトコールによって大きく変わるので、結論も変わり、そのために従来の報告ではβ細胞のオートファジーとインスリン分泌の関係について一貫した説明がなされなかったのだと思われる。

なお、本研究はβ細胞にオートファジーを誘導することがインスリン分泌の増加につながるという結果を示したが、これが治療に役立つかは今後まだ検討が必要である。例えば、空腹時にインスリン分泌を促進してしまって低血糖を起こすようでは問題がある。また、オートファジーは一般に細胞における恒常的な機能、いわゆるhousekeeping機能を果たしていると考えられている。しかし、本研究の結果からは、オートファジーには例えば「インスリン分泌を調節する」というような特異的な役割もあるのかもしれない。ただし、これについてもさらに詳細な検討を待ってからの結論になるだろう。

# by md345797 | 2015-03-15 14:27 | インスリン分泌

Points of significanceコラム 3 :統計学における検出力、エフェクトサイズ、サンプルサイズ

Points of significance: Power and sample size.

Krzywinski M, Altman N.

Nat Methods. 2013 Nov;10: 1139–1140.

【総説内容】
科学研究では、ある現象が観測されたとき、それが偶然によるのか、ある作用によるのかを検討する必要があるだろう。その際、その観測値がもともと含まれる母集団からの標本なのか、それとも別の母集団からの標本なのかを判断するという統計学的手法を用いる(注1)。

注1:ここでの「母集団」は、何らかの実体をもった集団ではなく、抽象的な概念であり架空の存在である無限母集団を想定している。

その際、まず「これら2つの母集団の間には差がない」というnull hypothesis (帰無仮説)を立て、帰無仮説が起きる確率は非常に小さいことを示して帰無仮説を棄却し、alternative hypothesis (対立仮説)を採択するという方法を取る。対立仮説は、「2つの母集団間には差がある」(注2)というもので、これは結局「今回観測された現象は、ある作用によって起きたものであり、偶然のばらつきによるものではない」ことを示す。これをeffect (効果)があったと表現する。

注2:厳密には、2つの母集団間に「差がないとは言えない」というべきだが、以下では分かりやすくするため「差がある」とする。

研究においてeffectは必ず正しく検出されるわけではなく、effectが正しく検出される確率というものがあり、それが今回述べるstatistical power (統計学的パワー、検出力)である。この検出力は非常に重要な概念であるにもかかわらず、医学・生物学研究でしばしば見落されている。しかし、検出力が低い研究では重要なeffectが検出できない可能性がある。そのため、検出力不十分の研究は実験費用や人員の無駄になったり、結果的に有害な条件下に被験者を置く非倫理的な研究になったりする危険がある。そのため、Nature Pulishing Groupの投稿チェックリストでも、「事前に設定したエフェクトサイズ (後述)を検出するための十分な検出力を確保するサンプルサイズ(標本数)を選んでいるか」ということが記載されている。

(1) Sensitivityとspecificity
検出力について述べる前に、疾患と検査の関係でよく用いられるsensitivityとspecificityについて述べる。「実際に疾患があるかないか」と「検査で陽性になるか陰性になるか」の割合は、図1の4通りが考えられる。
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図1 疾患と検査におけるsensitivityとspecificity

この4通りとはTrue/False Positive/Negativeであり、これをもとに、

Sensitivity (感度)=a/(a+c) 疾患があるときに検査で正しく陽性になる率
Specificity (特異度)=d/(b+d) 疾患がないときに検査で正しく陰性になる率

と定義される。ここで、

False Positive率=疾患がないのに検査で誤って陽性になる率 α=b/(b+d)  
False Negative率=疾患があるのに検査で誤って陰性になる率 β=c/(a+c)

というものが考えられる。

(2) Type I errorとtype II error
最初の「観察された標本が、もともと想定される母集団からの標本なのか、それとは異なる母集団からの標本と考えられるのか」という問題についても同様の表ができる。ここでは、2つの母集団間で「実際に差があるか、ないか」と「差があると推測されるか、ないと推測されるか」で図2の4通りに分けられる。
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図2 母集団間の差の有無と推測による判断

ここでは、

False Positive率 α= 正しいH0を誤って棄却する割合
False Negative率 β= 正しくないH0を誤って採択する割合

となっている。このように、前者の本当は差がない (帰無仮説が正しい)のに、「差がない」という帰無仮説を誤って棄却することをType I errorといい、後者の本当は差がある (帰無仮説が誤りである)のに、「差がない」という帰無仮説を誤って採択することをType II errorという (それぞれの確率はαとβ)。

(3) Power (検出力)
図1疾患があるときに検査で正しく陽性になる確率をpower(検出力)といい、感度と同じa/(a+c) である。これは図2では、母集団間に実際に差があるときに、推測によって差があると正しく判断される確率が検出力(1-β)である。

図3では例として、ある蛋白の発現量の観測値がxであったとき、それが単なる偶然のばらつきの結果なのか、それとも何らかのeffectがあった結果なのかを考えている。これは統計学的には、観測値xがもともと想定される正規母集団(平均µ0=ここでは10)からの標本なのか、それともそれとは違う正規母集団(平均µA=12とする)からの標本なのかという問題である。このとき、2つの母集団間に差がないとする帰無仮説H0と、それに対する対立仮説HAを立て、H0が棄却できるかどうかを検討する(注3)。

注3:2つの母集団に差がない場合、平均µ0の母集団とそれと違う平均µAの母集団で、µ0とµAどちらが大きいかは決められていない。しかしここでは便宜上、図3のように後者の方が大きいとする片側検定 (one-tailed test)について考える。µ0とµAの大小が予測できないときは両側検定(two-tailed test)になるが、ここでは省略する。

図3aのように限界値x*を設定し、観測値xがそれより大きければH0は棄却できるとする。H0がx*より大きい確率はαであり、これは例えば0.05のように非常に小さいのでここに観測値が入ると帰無仮説H0は棄却するとする。このとき、帰無仮説が正しいのに棄却してしまう確率(本当は差がないのに、誤って差があると判断してしまう=Type I errorの確率)はα、正しい帰無仮説を正しく採択する確率(本当は差がなく、差がないと正しく判断する確率=specificity)は(1-α)である。
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図3 帰無仮説(a)と対立仮説(b)、推測のエラーと検出力(c)
 
ここでxが限界値x*より大きい時は、観測値xは対立仮説HA母集団からの標本と考えられるとすると、図3bのようにx*より小さいとき、本当は帰無仮説H0は正しくないのに、H0を採択してしまう。したがって、帰無仮説が正しくないのに採択してしまう(本当は差があるのに、誤って差がないと判断してしまう)Type II errorの確率はβ、帰無仮説を正しく棄却し対立仮説を採択する確率(本当は差があり、それを差があると正しく判断できる確率=sensitivityおよび検出力)は(1-β)である。

(4) Effect size
なお、H0の正規母集団とHAの正規母集団はどちらも標準偏差がσで同じとする。そのとき、d=(μA-µ0)/σをエフェクトサイズと呼ぶ。σ=1の標準正規分布のとき、dはμA-µ0である(図3c)。初めに対立仮説の分布を設定する時に、このd (effectがあるとき、どのくらいの差ができるはずなのかという量)を事前に決めておく必要がある。もしこれが医学研究なら、「医学的・生物学的に意味のある差dとはどれくらいなのか」を医学的観点からあらかじめ設定しておかなければならない。

注4:なお以上の議論で、母集団というのは全く未知のものであるはずなのに、その平均や標準偏差の数値があらかじめ分かっているというのはおかしな話だが、ここでは説明のため分かったことにして話を進めている。

(5) 陽性的中率(PPV)
ここで、やや本題からはずれてPPVについて述べる。図1のような疾患と検査において、「ある検査が陽性のとき、本当にその疾患がある割合」を陽性的中率(positive predictive value, PPV)という。「ある疾患が陰性のとき、本当にその疾患がない割合」は陰性的中率(negative predictive value, NPV)である。図1では、

陽性的中率(PPV)=a/(a+b)
陰性的中率(NPV)=d/(c+d)

である。図2の場合は、PPVは「母集団間に差があると推測されたとき、本当に差がある確率」、NPVは「母集団間に差がないと推測されたとき、本当に差がない確率」であり、図2に色で示した通りになる。
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図4 Effectがある割合(a)、検出力が上がると陽性的中率も増加する(b)

図4aでは、上段は50%effectがある(疾患と検査の関係で言うと、疾患がある割合=有病率が50%ということ)、下段は10% effectがある(有病率10%に相当する)場合を表している。青がeffectあり=母集団間に差がある、緑がeffectなし=差がないという帰無仮説を表す。

図4b上段で、検出率0.2で推測した場合(左上)、母集団間に本当に差があるとき、差があると正しく推測される確率が0.2だから、実際にeffectがある点線から右半分のうち、灰色(「差がない」と誤って推測される=false negative)ではなく水色(「差がある」と正しく推測される=true positive)の割合が0.2になっている。検出率0.5(中央上)や0.8(右上)の場合も、同じように青の部分の割合が0.5、0.8になっている。また、帰無仮説を5%の棄却域で棄却するとすると、帰無仮説(点線から左半分) のうち5%(赤い部分)は母集団間に差がないという帰無仮説が誤って棄却されてしまう。すなわち、緑(「差がない」と正しく推測される=true negative)ではなく、赤(「差がある」と誤って推測される=false positive)の部分が左半分の5%になっている(注5)。

注5:元論文のこの図では5%がちょっと大きめに描いてある。

このとき、陽性的中率は「差がある」と推測された場合の本当に差がある確率なので、図4bのようにtrue positive/(false+true positive)、青/(青+赤)で表されるので、検出力が0.2、0.5、0.8と上がると、PPVも0.80、0.91、0.94と上昇する。

実際の生物学実験では、図4下段のように10%しかeffectが見られないことも珍しくない。このときは、検出率0.2の実験では陽性的中率が0.31しかなく、通常求められる検出率0.8であってもその実験の陽性的中率は0.64である。これでは、実験で差があると認められてもその3割以上はfalse positiveである。

検出力の低い実験では、このように陽性的中率が低くなるので、研究の前に十分な検出力のある実験を行っているか注意が必要である。多くの研究では、統計学的に検出力不足(underpowered)であり、そのために再現性の低い結果しか得られていないことが報告されている。

(6) Specificityとsensitivity (検出力)の関係

次に(4)の例に戻って、specificityとsensitivity(検出力)の関係について述べる。

図5aでH0は平均µ0=10、σ=1の正規分布とし、その棄却域αを0.05に決めると、H0を棄却できる限界値x*は11.64になる。ここでHAの正規分布を見ると、観測値xがカットオフ値x*(11.64)より小さい時は、観測値は本当はHAの母集団からの標本なのに、誤ってH0が正しいという判断を下してしまう。これは実際は差(effect)があるのに、差がないとしてしまうtype II errorであり、その確率はβ=0.36)で表される。したがって、1-β=0.64が、差があるときにH0を正しく棄却する(差があると判断する)という検出力(およびsensitivity)である。

ここで、H0の棄却域αを0.05から0.12に引き上げると、観測値xのカットオフ値は11.17に下がり、検出力は上記の0.64から0.80に上がる。この検出力の増加は、αの低下すなわち、本当は母集団間の差(effect)がないのに誤って「差がある」と判断してしまうfalse positiveの増加を犠牲にしていることになる。

注6:なお、原文ではWe can increase power by decreasing sensitivity.と書いてあるが、原文のsensitivityはspecificityの誤植。

図5bでは、2つの母集団H0とHAはそのままで、観測値のカットオフ値が小さくなると ((x*-µ0)が小さくなると)、それにしたがってαが大きくなるが、そのとき検出力(1-β)はどのように変化するかを示している。
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図5:限界値x*が小さくなると検出力が上がる(a)。この関係を示すグラフ(b)。

x*-µ0を小さくすると、検出力 (1-β、図5aの青い部分の面積)はS字カーブを描いて大きくなる(図5bの赤い矢印)。しかしそれに伴って、α (false positive率、赤い部分の面積)も大きくなってしまう。なおそれはspecificity (1-α、緑の部分の面積)が小さくなることにもつながる。研究において真のpositiveを検出するために、検出力は大きくしたいが、しかしfalse positiveは減らしたい。この場合どうすればよいだろうか?

まず、図5aの分布が狭ければ2つの母集団のオーバーラップが減り、HAの分布においてx*より大きい部分(青い部分)が増えて検出力は上昇する。しかし、分布を狭くする、すなわち標準偏差σを小さくする、すなわち実験精度を上げてばらつきを減らすというのは難しいことも多い。より直接的な方法は標本をx一つだけでなく、数多く観察することである。それにより標本分布(標本平均x bar、標本標準偏差σ/√n) を得るようにする。

(7) サンプルサイズとエフェクトサイズが検出力に及ぼす影響
最後に上記のように、標本をn個取ったときの平均値の分布(標本分布)を考える。

図6aにおいて、左の正規分布曲線は標本分布を表している。H0は帰無仮説の母集団から得た標本n個の標本分布であり、HAは対立仮説から得た標本n個の標本分布である(図5のように母集団そのものではないことに注意)。

ここで、標本の大きさnが増えても、標本分布の平均は変わらない (nが大きくなると、それは母集団平均に等しくなるので、ここではいずれも10と12としている)。しかし、標本の大きさnが増えると、標本分布の標準偏差は(母集団の標準偏差σ)/√(標本の大きさn)の式にしたがって小さくなる

これらの分布において、帰無仮説を棄却する棄却域αが0.05になるように、標本分布の平均値のカットオフ値(点線)を決める。そうすると、nが大きくなるにしたがって分布は狭くなり、そのαが0.05になるためのカットオフ値は図6aのように小さくなり、検出力(1-β)は大きくなる。あらかじめ設定した エフェクトサイズd (2つの母集団間にこれ以上差があれば「母集団間に差があった、effectがあった」と考えてよいとする差)が1だったとする。標本の大きさ(サンプルサイズ) nが大きくなると、検出力は図6a右のグラフのように大きくなる。この例では、α=0.05、d=1のとき、有効な検出力0.8以上を確保するためにはサンプルサイズは7個以上必要ということになるだろう。なおグラフのようにαをもっと低く、すなわち棄却域を厳密にすると、同じ検出力を得るにはもっとサンプルサイズを増やす必要が出てくる。
Points of significanceコラム 3 :統計学における検出力、エフェクトサイズ、サンプルサイズ_d0194774_22303090.jpg
図6:サンプルサイズを大きくすると(a)、またはエフェクトサイズを大きく設定しておくと(b)、検出力は大きくなる

サンプルサイズがそれ以上増やせない場合に検出力を上げる方法は、エフェクトサイズdをあらかじめ大きく設定しておくことである。図6b左のように、nが一定で、dが大きくなると2つの標本分布の幅 (標本標準偏差)は変わらないが、2つの標本分布の平均の差が大きくなり、分布のオーバーラップは小さくなる (エフェクトサイズの定義のd=(μA-µ0)/σの式による)。図6左でdが大きくなってもαは0.05で変わらないとカットオフ値(11の点線)は変わらないので、検出力(1-β)は大きくなる。エフェクトサイズを大きくすると、検出力が大きくなるのは図6右のグラフの通りである。

逆に言えば、エフェクトサイズを小さく設定すると、同じ棄却域αでも検出力は小さくてよいことになる。しかし、あまりにエフェクトサイズを小さくすれば、医学的には無意味な差が統計学的には有意となるので注意が必要である。さらに詳しくは、『新版 医学への統計学』(古川俊之監修、丹後俊郎著)の第14章「医学的に意味ある差を積極的に評価する検定ーΔ検定」を参照。

(8) サンプルサイズ設定の注意点

なお、以上の議論ではH0とHAの母集団分布は未知のものであるので、本当はそれらの正確な標準偏差は分からない。そのため標本分布から母集団標準偏差σを推定するが、それでは検出力が小さくなるので、必要な検出力を確保するためにやや大きめのサンプルサイズnを設定する必要がある。

よい研究デザインのためには、サンプルサイズ、エフェクトサイズ、検出力の3つのバランスを取ることが非常に大切である。そのために、まずtype I errorの確率(帰無仮説の棄却域)αを0.05検出力(1-β)を0.8にすることが伝統的に行われる。次に、医学的・生物学的に望ましいエフェクトサイズdをあらかじめ設定しておく

これらのα、1-β、dの値を使って最低限必要なサンプルサイズnを求めてから、研究を開始する必要がある。もし必要なnがあまりに大きく計算された場合は、母集団のばらつきを減らすため、研究開始前に対象や実験条件を再検討する必要があるだろう。

注7:論文のSupplementary Table 1で、検出力などの計算やグラフ作成ができるExcelファイルが利用できる。

【参考】
このような仮説検定理論、帰無仮説を棄却するアイデア(ネイマン=ピアソンの公式)を構築したのは、イェジ・ネイマン(1894-1981)とエゴン・ピアソン(1895-1980)である。エゴン・ピアソンは記述統計学の大成者であるカール・ピアソン(1857-1936)の息子で、ワルシャワ(ポーランド)の数理学者であったネイマンは、ロンドンのエゴン・ピアソンと意気投合し、直接会えない時も郵便のやり取りを通じて1928-1938年にわたって推測統計学を作り上げた。『統計学を拓いた異才たち』(D. サルツブルグ著、竹内惠行・熊谷悦生訳)によると、ネイマンは親切で誰に対しても思いやりのある性格、エゴン・ピアソンは慎重な紳士であった。しかし、父カール・ピアソンの論敵であったやはり統計学の巨人ロナルド・フィッシャー(1890-1962)は彼らを嫌悪し激しく攻撃したという。

# by md345797 | 2014-09-30 21:56 | その他

サッカリン含有人工甘味料は腸内細菌叢を変化させ耐糖能異常を起こしうる

Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.

Suez J, Korem T, Zeevi D, Zilberman-Schapira G, Thaiss CA, Maza O, Israeli D, Zmora N, Gilad S, Weinberger A, Kuperman Y, Harmelin A, Kolodkin-Gal I, Shapiro H, Halpern Z, Segal E, Elinav E.

Nature. 2014 Oct 9;514(7521):181-6.

【まとめ】
ノンカロリー人工甘味料(Non-caloric artificial sweeteners, NAS)は、世界的に広く用いられている食品添加物の一つである。NASは低カロリーであるため肥満者や糖尿病患者に有用と考えられてきたが、その安全性については以前から議論が続いている。

本研究では、C57 Bl/6マウスに市販の「サッカリン含有人工甘味料(5%がサッカリン、95%がグルコースの混合物である)」を、ヒトにおけるFDAの1日許容最大摂取量(体重あたり)をマウスに換算して摂取させた。その結果、マウス腸内細菌叢の組成や機能が変化し、それに伴って耐糖能異常が起きた。このようなNAS摂取に伴う耐糖能異常は、これらのマウスに抗生剤を投与すると起こらなくなった。また、NAS投与マウスから採取した便の細菌叢やNASを加えてin vitroで培養した便細菌叢を無菌マウスに接種しただけで、レシピエントのマウスに耐糖能異常が起きた。NAS摂取後の腸内マイクロバイオームでは、グリカン分解パスウェイの遺伝子発現が亢進しており、それにより短鎖脂肪酸(SCFAs)の増加が惹き起こされるなどして、耐糖能異常が起きた可能性が示された。ヒトにおいても、長期的なNAS摂取者はメタボリックシンドロームを示す数値が高値を示しており、健常者ボランティア7名に6日間NASを摂取させた場合にも4名に腸内細菌叢の変化を伴う耐糖能異常が起きた。このようなNAS摂取に伴う耐糖能異常は、おそらくその個人の腸内細菌叢によって、起きやすい者とそうでない者(レスポンダーとノンレスポンダー)がいると考えられた。

以上より、NASの摂取は、腸内細菌叢を変化させて耐糖能異常を起こす可能性があることが示唆された。肥満者や2型糖尿病患者がNASを大量に摂取することについては、今後再考の必要があるだろう。

【論文内容】
ノンカロリー人工甘味料 (NAS)は、高カロリー食品である砂糖を用いずに食品に甘味を加える手段として100年以上前に開発された。NAS摂取によってカロリー摂取を減らすことにより、体重減少と血糖値の正常化という健康上の有用性がもたらされると考えられている。砂糖を使わないカロリーオフの清涼飲料水やシリアル、デザートなどでよく用いられ、肥満者および耐糖能障害、2型糖尿病患者には推奨されることもある。しかし、NASは血糖を上昇させないという有用性を示す研究結果がある一方で、NASは体重を増加させ2型糖尿病のリスクを増加させるという有害性を示す結果も報告されてきた。このように相反する結果が報告されてきたことには、すでにメタボリックシンドロームを持つ患者がNASを多く摂取しているという背景もある。このような議論があるにもかかわらず、アメリカ食品医薬品局 (FDA)は現在、アメリカ合衆国において6種類の人工甘味料製品の使用を承認している。

多くのNASは摂取後分解されることなく消化管を通過し、腸内細菌叢に直接作用する。腸内細菌叢は健常人と肥満者糖尿病患者では組成や機能が異なり、逆に腸内細菌叢の違いがメタボリックシンドロームに関連することが分かっている。そこで本研究では、NASが腸内細菌叢の組成や機能を変化させて宿主の耐糖能に影響するかを検討した。

長期のNAS摂取は耐糖能異常を起こす
NASの糖代謝に対する影響を検討するため、10週齢のC57 Bl/6マウスの飲み水にサッカリン、スクラロース、アスパルテームを含有する市販の人工甘味料を添加して摂取させる実験を行った。これら3種類のNASは、約5%の人工甘味料と約95%のグルコースからなるものである。対照群には水のみ、水にグルコース、水にショ糖(sucrose)を混ぜたものを摂取させた。人工甘味料の商品名はそれぞれ、「Sucrazit」 (5% サッカリンと95% グルコース)、「Sucralite」 (5% スクラロース含有)、「Sweet’n Low Gold」 (4% アスパルテーム含有)であり、いずれも10%溶液として水に混ぜたものを摂取させた。対照群には水、10%グルコースまたは10%ショ糖の溶液を摂取させた。

摂取開始11週目には、水、グルコース、ショ糖を摂取させたマウスは同様の耐糖能曲線を示したのに対し、上記3種類のNASを摂取したマウスは著明な耐糖能異常を示した。NASの中ではサッカリンが耐糖能障害を起こす作用が最も大きかったので、以後の人工甘味料の作用の検討では市販のサッカリンを用いることとした

また、肥満の状態でのNASの影響を調べるため、高脂肪食(HFD、脂肪が総カロリーの60%を占める)を負荷したC57 Bl/6マウスに、市販のサッカリン含有人工甘味料またはコントロールとしてグルコースを摂取させた。その結果HFD負荷マウスにおいても同様に、サッカリンは耐糖能異常を起こすことが明らかになった。次に、0.1 mg/mlの純粋なサッカリンを水に加え、HFDを負荷した10週齢マウスに摂取させ耐糖能への影響を検討した。サッカリン濃度は、ヒトにおいてFDAで認められている1日許容最大摂取量 (5 mg/kg体重)をマウスに換算して用いた。この濃度は市販のサッカリン含有人工甘味量よりもサッカリン濃度としては少ないが、それでも耐糖能異常を示した。この結果は、C57 Bl/6マウスの代わりにSwiss Websterマウスを用いた実験でも同様だった。

なお、以上のマウスで摂餌量、摂水量、酸素消費量、運動量、エネルギー消費などは正常食、HFDマウスにおいてNAS投与とコントロールで同様であった。また、空腹時血清インスリンとインスリン負荷試験による血糖低下も同様の結果であった (インスリン抵抗性の程度に差がないことを示唆する)。以上から、NASはヒトと同様の人工甘味料の組成または体重あたりの量において、マウスの種類や肥満かどうかによらず耐糖能異常を起こすことが示された。

以下、本論文では「サッカリン5%、グルコース95%からなる人工甘味料」を「市販サッカリン」と呼び、100%のサッカリンを「純粋サッカリン」と呼ぶことにする。

NAS摂取による耐糖能異常は腸内細菌叢を介して起こる
食事は腸内細菌叢の組成や機能を変化させ、腸内細菌叢の変化は宿主の代謝に大きく影響することが分かっているので、NASによる耐糖能異常も腸内細菌叢の変化を介しているのではないかと考えた。そこで、正常マウスまたはHFDマウスにまずグラム陰性菌を標的とした抗生剤 (シプロフロキサンとメトロニダゾール)を投与し、NASを含む水またはコントロールの水のみを摂取させた。その結果、抗生剤A投与4週後には両者の耐糖能障害の差は消失した。グラム陽性菌を標的とした抗生剤 (バンコマイシン)を投与した場合も、同様の効果が認められた。これらの結果からNASによる耐糖能障害は、腸内常在細菌叢しかも幅広い細菌群が関与していることが分かった。

次に、市販サッカリンまたはグルコース(コントロール群)を含む水を摂取させた正常食負荷マウスの便を正常食負荷無菌マウス(germ-free mice)に移植する実験を行い、腸内細菌叢が原因になっているかどうかを検討した。その結果、便移植6日後には、市販サッカリンを摂取させたマウスから便を移植されたレシピエントマウスは、コントロール群から便移植されたレシピエントマウスと比較して耐糖能異常を示した。この結果は、HFD負荷マウスに水または純粋サッカリンのみを摂取させた場合の便移植実験でも同様の結果であった。したがって、NAS摂取による耐糖能異常は、腸内細菌叢を介して起きていることが示唆された。

NASは腸内細菌叢の機能を変化させる
次に、上記のマウスにおける腸内細菌叢の組成の違いを16S ribosomal RNA遺伝子のシークエンシングの結果をもとに検討した。まず、市販サッカリン摂取マウスは、摂取開始11週目において当初の腸内細菌叢および他のコントロール群の腸内細菌叢とは異なる組成を示していた (下の図1g)。同様に、市販サッカリンを摂取させたドナーマウスから便移植を受けたレシピエントの無菌マウスの腸内細菌叢は、主座標分析(Principal Coordinate Analysis; PCoA)において、グルコース摂取ドナーマウスから便移植を受けたコントロールマウスの腸内細菌叢とは異なるクラスターを形成していた (図1h)。
サッカリン含有人工甘味料は腸内細菌叢を変化させ耐糖能異常を起こしうる_d0194774_035860.png

市販サッカリンを摂取させたマウスは、40以上のoperational taxonomic units (OTUs)で細菌叢の変化を起こしていた。相対量が増加していた細菌群の多くはBacteroides属とClostridiales目に属していたが、Clostridialesと同じFirmicutes門に属する腸内常在菌量であるLactobacillus reuteriは減少していた。量が減少していた細菌群の多くも Clostridiales目に属するものであった。同様に、HFDに加え純粋サッカリンを摂取したマウスでも、腸内細菌叢の異常が起きていた。以上より、サッカリンはその形態、濃度、与えた食餌などが異なっても、おおむね同様の腸内細菌叢の異常をもたらすことが示された。

(注) Operational Taxonomic Units (OTUs、操作性分類単位):配列決定した16S遺伝子のうちある程度以上の類似度(97%以上など)を持つ配列を一つのまとまりと考え、「1菌種」として扱う単位とする。「形成されたOTU数」を「菌種数」と考え、細菌の多様性を把握するのに用いる。

次に、ショットガン・メタゲノムシークエンシングを用いて腸内細菌叢の比較を行った。16S rRNAによる検討と同様、市販サッカリンを11週間摂取させる前とさせた後の便の細菌叢を、グルコースまたは水のみを摂取させた場合のコントロールの便の細菌叢を比較した。相対的な細菌種の量を比較するために、シークエンス結果をヒトマイクロバイオームプロジェクト (HMP)のリファランスゲノムデータベース上で解析した。結果は16S rRNAを用いた解析と同様、市販サッカリンを摂取させた場合に細菌種の量の変化が最も大きかった。さらに、メタゲノム解析の結果を腸内細菌遺伝子カタログ上で解析し、グループ化した遺伝子をKEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)上でどのパスウェイに当たるかを検討した。遺伝子発現の変化したパスウェイは、市販サッカリとグルコースを摂取させたマウスで変化が逆であった。市販サッカリンは95%グルコースを含むことを考えると、この違いはサッカリンによるものと考えられる。市販サッカリンを摂取させたマウスはグリカン分解パスウェイの遺伝子発現が大きく増加していた。

グリカンは発酵してさまざまな物質になるが、その中には短鎖脂肪酸(short-chain fatty acids, SCFAs)が含まれている。SCFAは宿主のグルコースおよび脂質のde novo合成の前駆体やシグナル伝達分子になるので、その増加は宿主のエネルギー吸収を増加させ肥満につながりうることがマウスおよびヒトで示されている。このパスウェイは、市販サッカリン摂取マウスの腸内細菌のうち5種類のグラム陰性および陽性細菌の増加によって起こることが分かった。そのうち2種は16S rRNA解析で示されたBacteroides属であった。さらに、市販サッカリン摂取マウスはコントロールのグルコース摂取マウスと比較して、便中のSCFAsであるプロピオン酸と酢酸が大きく増加していた。市販サッカリン摂取マウスの腸内マイクロバイオームでは、デンプン・ショ糖の代謝、フルクトース・マンニトース代謝、葉酸・グリセロリピド・脂肪酸生合成に関与する遺伝子発現が亢進し、糖輸送に関与する遺伝子発現が低下しているという、以前報告された2型糖尿病患者の変化と同様の変化が認められた。

その他にも、純粋サッカリンを摂取させたHFDマウスでは、ascorbate/aldarate代謝 (レプチン受容体欠損糖尿病マウスで増加)、LPD生合成 (代謝性エンドトキシン血症で増加)、細菌走性(肥満マウスで増加)に関与するパスウェイの遺伝子発現の増加が見られた。以上より、市販サッカリンの摂取は腸内細菌叢の機能的変化をもたらすこと、特にグリカン分解パスウェイの遺伝子発現が亢進し、エネルギー吸収の増加につながる便中SCFAsの増加が起きることが示された。

NASは腸内細菌叢を直接変化させ、耐糖能異常を促進する
次にNASの腸内細菌叢への直接の影響を検討するため、通常マウスの便をサッカリンを添加した培養液を用いてin vitroで嫌気性培養した。このサッカリン添加in vitro便培養で、培養9日目にはBacteroidetes門の増加とFirmicutesの減少が認められ、この培養産物を無菌マウスに胃管投与したところ、コントロール便投与群に比べて有意な耐糖能異常が認められた。サッカリン添加in vitro便培養を投与されたマウスの便でもBacteroides属の増加とある種のClostridialesの減少が見られた。ショットガンメガゲノムシークエンシングによっても、サッカリン添加in vitro便培養で、サッカリン摂取マウスの便と同様のグリカン分解パスウェイの遺伝子発現の増加が認められた。その他にはスフィンゴ脂質代謝に関与する遺伝子発現の増加(非肥満糖尿病マウスでの増加が報告されている)、糖輸送に関与する遺伝す発現の減少が認められた。以上より、サッカリンは腸内細菌叢の組成と機能を直接変化させ、耐糖能異常を起こしうる細菌叢の変化をもたらすことが示された。

ヒトにおいてNASは耐糖能異常に関連している
最後にヒトにおいて、長期的および短期的なNAS摂取の耐糖能にどのように影響するかを検討した。まず、長期のNAS摂取と臨床データの関連について381名の非糖尿病者 (男性44%、女性56%、年齢は43.3 ± 13.2歳)のコホートを対象に調べた。NASの摂取量 (食事質問票による)は、体重、ウエスト・ヒップ率(中心性肥満を表す)、空腹時血糖、HbA1c、ブドウ糖負荷試験 (GTT)の血糖値、ALT (肝機能障害を表す)の高値と関連があった。HbA1cは、NAS摂取が多い40名は、NASを摂取しない236名に比べて高値であった(BMIで補正しても高値だった)。さらに、これらの被験者のうち、ランダムに172名を選び出し、便の細菌叢を16S rRNA解析を用いて調べた。その結果、NASの摂取とEnterobacteriaceae科、Deltaproteobacteria綱、Actinobacteria門の量の増加とは有意な関連があった。なお、細菌叢のOTUの量とBMIの間には有意な関連は見られず、上記のNAS摂取と細菌叢の関連は肥満を介する関連ではないと考えられた。

ヒトにおいて短期的なNASの摂取が耐糖能異常をもたらすかを調べるため、普段NASを摂取しないか、ここ1週間NASを含む食物を摂取していない7名の健常ボランティア(5名が男性、2名が女性、年齢は28-36歳)にNASを摂取させて検討を行った。7日間の試験期間のうち2日目から7日目まで、FDAの1日許容最大摂取量の市販サッカリン(5 mg/体重kg)を1日3回に分け連日摂取させ、、連日GTTを行った。その結果、このような短期間でも7名中4名の被験者が1-4日目に比べ、5-7日目にGTTでの有意な血糖上昇をきたした(図4c)。また、残り3名は血糖上昇はなかった (有意な耐糖能改善もなかった) (図4d)。このように、被験者にはNASに反応して耐糖能悪化が見られた者と見られなかった者があり、反応があった者を「NASレスポンダー」、反応がなかった者を「NASノンレスポンダー」と呼ぶことにした。

NASレスポンダーの腸内マイクロバイオームは、ノンレスポンダーのNAS投与前後とは異なるクラスターを形成していた(図4e)。さらに、ノンレスポンダーのマイクロバイオームはこのNAS摂取期間を通じて変化がなかったのに対し、レスポンダーではNAS摂取によってマイクロバイオームの変化が見られた(図4f)。
サッカリン含有人工甘味料は腸内細菌叢を変化させ耐糖能異常を起こしうる_d0194774_081343.jpg

レスポンダーとノンレスポンダーのNAS摂取前(1日目)と摂取後(7日目)の便サンプルを正常食負荷無菌マウスに移植した。その結果、NAS摂取後のレスポンダーの便を移植されたレシピエントマウスは有意な耐糖能異常を示したのに対し、レスポンダーのNAS摂取前およびノンレスポンダーのNAS摂取前後の便では耐糖能異常は起きなかった。レスポンダーのマイクロバイオームを移植された無菌マウスの便では、サッカリン摂取マウスの腸内細菌叢変化と同様の変化がいくつか認められ、Bacteroides fragilis (Bacteroidales目)とWeissella cibaria (Lactobacillales目)が20倍増加、Candidatus Arthromitus (Clostridiales目)が10分の1に減少していた。

【結論】
本研究では、NASの摂取が腸内細菌叢を変化させ、耐糖能異常を起こす可能性がマウスとヒトで示された。NAS摂取による主な細菌群の変化は、以前に2型糖尿病のヒトでも報告されたBacteroidesの増加とClostridialesの減少であった。また、NAS摂取は腸内マイクロバイオームのうち、グリカン分解パスウェイの遺伝子発現を変化させ、食物からのエネルギー吸収を増加させる可能性があることが分かった。その他にもNASはマウスやヒトで糖尿病や肥満への関連が報告されている代謝パスウェイ (スフィンゴ脂質代謝やLPS生合成など)を変化させることが明らかになった。本研究は、マウスだけでなく、ヒトにおいても長期的および短期的なNAS摂取が耐糖能異常を起こしうることを示した。ヒトにおいては、NASの摂取に反応して耐糖能異常を起こすレスポンダーと起こさないノンレスポンダーがいることが分かり、このような反応の違いは個人の腸内細菌叢の組成と機能の違いによる可能性が示唆された。一般に食事に対する代謝疾患の起こりやすさには個人差があるが、これは個人による腸内マイクロバイオームの違いによるものかも知れず、もしそうだとすれば将来はマイクロバイオームに基づいた「個別化栄養療法 (personalized nutrition)」が重要になるのかもしれない。

人工甘味料は、人間の甘味に対する欲求を妨げることなくカロリー摂取を減らし、糖尿病患者の血糖を正常化させるのに役立つと考えられてきた。近年、多くの食事の変化に並行して、人工甘味料の消費も増加している。もしかしたら人工甘味料の使用は、意図に反して肥満や糖尿病増加に寄与してきた可能性もある。さらには、人工甘味料の影響には個人差があることが示唆され、それが腸内マイクロバイオームに基づく可能性についても今後検討が必要になるだろう。
# by md345797 | 2014-09-23 23:58 | その他

Points of significanceコラム 2:統計における推定と検定(1)

Points of significance: Significance, P values and t-tests.

Krzywinski M, Altman N.

Nat Methods. 2013 Nov;10(11):1041-2.

Points of significanceの第2回では、まず(1)母集団概念と統計的推測の時制についてまとめ、(2)母集団からこれから観測するデータを「予言」する方法について触れた後、(3)観測したデータからもとの母集団を「推測」する統計的推定を4段階で理解する。最後に(4) Nature Methods総説にある仮説棄却による統計的検定の例を見る。

1. 母集団概念と統計的推測の「時制」
(1) 母集団と統計的推定

統計学では、抽象的な概念である「母集団」(無限母集団)というものを想定している。母集団は、具体的に見たり数えたりできない架空の存在である。何らかの「もの」ではなく、思弁的に想定している「自然現象」という「こと」と考えてよいだろう。これを観測して得たデータが「標本」である。自然現象を観測すると、そのたびに全く同じ値が得られることはないが、これはもとの自然現象がランダムな散らばりを持っていると考える。自然現象はある確率分布の関数で表されるため、一つの「真の値」というようなものは決して知ることはできず、その値は観測から推測するしかない。母集団としての自然現象の数値は、「観測の外」とか「観測値に匹敵するもの」というような語源をもつ「パラメーター」と呼ばれ、母数と訳される。母集団の確率分布はよく正規分布と考えられ、その母平均μ、母標準偏差σなどが母数である。観測データすなわち標本とは、母集団の確率分布に従って生起する数値であると考える。以下では、標本を加工して「統計量」(検定統計量、注1)という数値を作り、統計量の分布を考えることによって母数をある範囲で推測する。これが統計的推定(statistical inference)である。

注1:統計学で扱う数量のうち、平均や標準偏差など標本データを要約した量は「基本統計量(basic statistics)」と呼ぶ。検定に用いるためにこれらから計算した量のことを「検定統計量(test statistics)」と呼び、以下では検定統計量のことを単に「統計量」と記載することにする。

(2) 統計学における「時制」
統計学は、未来に向かって「予言する」のと、過去を向いて「推定する」という大きく分けて2つの時間的方向がある。これに関しては『完全独習 統計学入門』(小島寛之著、ダイヤモンド社)に詳しく、ここでも「95%予言的中区間」という分かりやすい用語を引用させていただいた。
95%予言的中区間:「これから観測するデータ」を95%の確率で「予言する」ときの用語。ある現象の本質がすでに分かっていて、将来の観測でそこからどのような結果が得られるかを95%の確率で予測する。「未来に向かって」の用語である。
95%信頼区間:「すでに起きて確定していること」だが、まだ自分が知らないことを推論するときの用語。「過去に向かって」の用語ととれるが、実際にはわれわれの観測を要約して、それを用いてある現象の本質を理解したいというときに用いる。

以下の2では「将来の観測結果を95%予言的中区間で予言する」、3では「ある現象を95%信頼区間で区間推定する」という順でまとめる。以下の議論の進め方も『完全独習 統計学入門』(小島寛之著)を参考にさせていただいている。

2. 母集団が分かっているとき、これから観測するデータを予言する
(1) 1個の観測データを予言する (統計量zと標準正規分布を用いる)

母集団を表す正規分布の中で、平均0、標準偏差(SD)1のものを標準正規分布という。標準正規分布では、-2以上~+2以下の範囲(平均±2SDの間)にデータの95.44%が含まれる。95%を含む範囲は約-1.96以上~約+1.96以下(平均±1.96SDの間) である。

平均μ標準偏差σが分かっている正規分布母集団から、1回だけ観測したときのデータx (1個だけ取り出した標本x)がどのような数値か、95%の予言的中区間で(未来のことを)予言したい。以下、分かっている値を青字これから知りたい未知の値を赤字で表す。

ここで、観測データxから母平均µを引いて母標準偏差σで割った統計量zを考える。

統計量z


である。xは正規母集団から取り出したので、その分布は正規分布に従っている。zは上の式から標準正規分布上の数値であることが分かる。そのため、zは95%の確率で、

-1.96≦≦+1.96


の区間に含まれる。この式を変形すると、xの95%予言的中区間は、

µ-1.96µ+1.96


と計算できる。

(2) n個の観測データの平均を予言する (統計量Uと標準正規分布を用いる)
同じく平均μ標準偏差σが分かっている正規母集団から、n個の観測値を得る(標本サイズnの標本をこれから取り出す)。このとき、これから取り出す標本の標本平均¯xがどのような値か95%の確率で予言したい。

標本を何回も取り出すと、そのたびにできる標本平均¯xによって分布(標本分布)ができる。この標本分布は、平均µ標準偏差σ/√nの正規分布になることが分かっている(Points of significance (1) 参照)。ここで¯xから平均µを引いて標準偏差σ/√nで割ることにより、標準正規分布に従う統計量ができる。これを、


統計量U




とする。Uは95%の確率で、

-1.96+1.96


の区間に含まれる。この式を変形すると¯xの95%予言的中区間は、

µ-1.96µ+1.96


と計算できる。
上記の統計量zとUは似ているが、zは1個の観測データxに関する統計量で、Uはn個の観測データからなる標本の平均¯xに関する統計量である。

3. 観測したデータから、未知の母集団について推定する
次に、観測したデータを用いて、未知の現象について推定する方法を述べる。これは、今持っている標本を用いて、すでに存在している母集団について推定するという(過去に向かっての)流れであり、以下のような5段階で順に考える。既知の観測データから統計量を作り、その統計量の分布を用いて、今度は未知の母集団について推論する。以後も分かっている値を青字これから知りたい値を赤字で示す。

第0段階:未知の母集団について本当に何もわかっていないとすると、母集団が「正規分布に従っているかどうか」も不明なはずである。しかし以下では母集団が正規分布であることを前提に考えることにする。それ以外の場合は、中心極限定理を用いた大標本の推定かノンパラメトリック手法を用いるが、これは別の回で考える。

第1段階: 正規母集団であり、母分散が分かっているとき、母平均を区間推定する。
ここで、「母集団については正規母集団であるという以外分かっていない」と言っているの、「母分散は分かっている」というのは、不自然な前提である。しかし、まずはこのような段取りで考えていくことが必要なため、この段階を踏むことにする。

第2段階: 正規母集団であり、母平均が分かっているとき、母分散を区間推定する。
これから知りたい母集団について、あらかじめ「母平均が分かっている」というのも不自然だが、先のためにこの段階も理解する。

第3段階: 正規母集団であり、母平均が分かっていないとき、母分散を区間推定する。
ここから先の段階では、母集団は正規母集団であるということ以外は分かっていない。まずこの段階では母分散を推定する。最終目標としては母分散より母平均の方が知りたいが、順番上この段階を踏むことにする。

第4段階:正規母集団であり、母分散が分かっていないとき、母平均を区間推定する。
いよいよ最終的な段階であり、母集団について正規母集団であるという以外何も分かっていないところから母平均を推定する。

【第1段階:あらかじめ母分散が分かっている正規母集団から、標本サイズn、標本平均¯xの標本を取り出した。このとき、まだ分かっていない母平均µを95%の信頼区間で区間推定する】
→統計量Uと標準正規分布を用いる

ここでは、前項でも出てきた標本平均の分布を考えると、標本平均¯xは平均µ(母平均と同じ)、標準偏差σ/√nの正規分布に従う。前項と同じように

統計量U


を計算すると、Uは標準正規分布に従うから、95%の信頼区間で、

-1.96+1.96


に含まれる。この式を知りたいμについて変形すると、

-1.96+1.96


となり、母平均μが95%信頼区間で区間推定できることになる。(これは「未来の」予言ではないから「95%の確率で予言的中する区間」と言わず、「95%信頼区間での区間推定」と呼ぶことに注意)。


【第2段階:あらかじめ母平均µが分かっている正規母集団から、標本サイズn (x1、x2・・・、xn)、標本平均¯xの標本を取り出した。このとき、まだ分かっていない母分散σ2を95%の信頼区間で区間推定する】
→統計量Vと自由度nのカイ二乗分布を用いる

カイ二乗分布について:
標本サイズn (x1、x2・・・、xn)のとき、これらの観測データをすべて二乗して合計した、を考える。このとき、観測の機会ごとに(標本の取り方によって)Vはまちまちの値を取るので、Vはある分布に従う統計量となる。この時の観測データ数nを自由度と呼ぶと(例えば3個ずつ観測データを取っていれば自由度3)、Vは「自由度nのカイ二乗分布(chi-square distribution)」(図1)に従っている。
Points of significanceコラム 2:統計における推定と検定(1)_d0194774_22452858.png
図1:カイ二乗分布の図。
自由度nによってグラフの形が違う。

さて、母標準偏差σの推定に戻る。まず各観測データからそれぞれの統計量zを計算すると、

z1z2、・・・、zn


となり、zは標準正規分布に従っている。そこで、zを標準正規分布から取り出した数値、新しい標本と考える。これらの標本を二乗して合計すると、その統計量Vは自由度nのカイ二乗分布に従うはずである。

統計量V・・・    

22+・・・+2


青字は分かっている数値なので、この式は

V=


というようにまとめられる。最後に、カイ二乗分布するVが95%の頻度で含まれる区間を考えるが、図2のようにVがa以上なら97.5%を含み、b以上なら2.5%を含むという値a、bがカイ二乗分布の数値表から分かる。Vは95%の頻度でこの間にあると言えるので、

ab


この式をσ2について変形すれば母分散σ2を95%の信頼区間で区間推定できる。
Points of significanceコラム 2:統計における推定と検定(1)_d0194774_219291.gif
図2 カイ二乗分布するxの値は、95%の頻度でaとb(黒で塗った外側の面積がそれぞれ2.5%である)の間に含まれる。aとbは自由度nによって値が異なるが、これらはカイ二乗分布の数値表によって分かる。

次項(2)に続く。

Points of significanceコラム 2:統計における推定と検定(1)_d0194774_22475144.png
休憩コーナー:カイ二乗分布のぬいぐるみ発見!!
( http://nausicaadistribution.blogspot.jp/より)

# by md345797 | 2014-06-28 01:40