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父親の高脂肪食摂取がメスの仔ラットのβ細胞障害をプログラムする

Chronic high-fat diet in fathers programs β-cell dysfunction in female rat offspring.

Ng SF, Lin RC, Laybutt DR, Barres R, Owens JA, Morris MJ.

Nature. 2010 Oct 21;467(7318):963-6.


【まとめ】
食事による母親の肥満が、子の脂肪蓄積や代謝に与える影響は明らかにされているが、父親の肥満の影響については分かっていない。このグループでは、オスのSDラットに慢性的に高脂肪食を負荷した結果、これらのラットのメスの仔ラットに膵島面積の低下、インスリン分泌低下、耐糖能悪化が認められた。メス仔ラットの膵島において発現の変化が最も大きかったIl13ra2遺伝子ではメチル化の減少が見られ、エピジェネティックなメカニズムの関与が示された。

【論文内容】
オスのSDラットにコントロール食(n=8)と高脂肪食(n=9)をそれぞれ摂取させ、メスのSDラット(コントロール食)と交配させた。高脂肪食を慢性的に摂取したオスのラットでは、体重増加、耐糖能の悪化、インスリン抵抗性の増悪が認められた。このラットのメス仔ラットを、コントロール食を摂取したラットのメス仔ラットと比較すると、体重、脂肪蓄積、leptin、TG、NEFAに差は見られなかった。ところが、GTTで耐糖能異常とインスリン値の減少が見られた。なおインスリン感受性(ITT、insulin resistant index)には差がなかった。

高脂肪食ラットのメス仔ラットでは、膵島面積が低下しており、グルコースによるインスリン分泌を保つには膵β細胞予備能が不十分と考えられた。

次にこれらのラットの膵島で発現に変化が見られた2492個の遺伝子に対するパスウェイ解析を行ったところ、calcium-、MAPK-、Wnt-signalling pathway、apoptosis、 cell cycleの関与が示された(これらは膵形態の変化、インスリン顆粒のexocytosis障害に影響があると考えられる)。発現の変化が最も大きかった遺伝子はIl13ra2で、pancreatic cancer cell lineに発現し、増殖を調節すると考えられている。この遺伝子の-960cytocinのメチル化が高脂肪食ラットのメス仔ラットで低下していた。このメチル化の低下は膵島機能を変化させるepigenetic modificationであると考えられる。

【結論】
父親の高脂肪食摂取という環境因子の影響が、非遺伝的に父親から仔世代へ伝達されることを哺乳類で示した最初の報告である。このメカニズムには遺伝子のepigenetic modificationが含まれると思われるが、今後解明が必要である。
by md345797 | 2010-11-13 00:41 | 糖尿病の遺伝学