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肝臓由来分泌蛋白selenoprotein Pはインスリン抵抗性を惹起する

A liver-derived secretory protein, selenoprotein P, causes insulin resistance.

Misu H, Takamura T, Takayama H, Hayashi H, Matsuzawa-Nagata N, Kurita S, Ishikura K, Ando H, Takeshita Y, Ota T, Sakurai M, Yamashita T, Mizukoshi E, Yamashita T, Honda M, Miyamoto K, Kubota T, Kubota N, Kadowaki T, Kim HJ, Lee IK, Minokoshi Y, Saito Y, Takahashi K, Yamada Y, Takakura N, Kaneko S.

Cell Metab. 2010 Nov 3;12(5):483-95.

【まとめ】
肝はさまざまな分泌蛋白を産生しており、2型糖尿病の病態生理にも関与が想定されている。このような分泌蛋白をhepatokineと呼び、その一つであるselenoprotein P (SeP)がインスリン抵抗性を惹起することを明らかにした。

【論文内容】
2型糖尿病患者と非糖尿病者から外科的にまたはエコーガイド下に肝を採取し、SAGE(serial analysis of gene expression)およびDNA chip法を用いてインスリン抵抗性と相関する遺伝子を検索した。その結果Sepp1 gene (=selenoprotein Pをencode)が糖尿病で8倍増加しており、グルコースクランプによるインスリン抵抗性とも有意な相関があることが明らかになった。血清SeP蛋白も糖尿病で増加しており、空腹時血糖やHbA1cと有意に相関した。

インスリン抵抗性モデル動物(OLETF rats, KKAy mice)ではSepp1 mRNA・血清SeP蛋白が増加、培養肝細胞ではSePの発現はグルコースで増加、インスリンで低下した。

培養肝細胞にSePを加えるとインスリンシグナル(pIR, pAkt)が低下、糖新生酵素の発現が低下、培養筋肉細胞にSePを加えるとインスリンによる糖取り込みが減少した。正常マウスにSePをip投与すると、耐糖能低下・インスリン感受性の低下、肝・筋でのpAktの低下、高インスリン正常血糖クランプでのインスリン抵抗性の増加が認められた。

培養肝細胞、KKAyマウスにSepp1 siRNAを用いてSePの発現をノックダウンさせると、インスリンシグナルが亢進、インスリン抵抗性が改善した。

Sepp1 欠損マウスでは、食後インスリン値の低下、耐糖能・インスリン感受性の改善、肝・筋でのインスリンシグナルの亢進が見られた。また、このマウスに高脂肪高ショ糖食を負荷しても脂肪細胞の大型化が起こりにくく、耐糖能とインスリン感受性が良好であった。

SePは、培養肝細胞とマウス肝臓でAMPKのリン酸化を減少させた。これに伴いインスリンシグナルの低下(Aktリン酸化の低下)が認められ、インスリン抵抗性の一部はAMPKの不活性化を介すると思われた。その機序として、AMPKを脱リン酸化するphosphataseであるPP2Cの発現を増加させることが示された。

【結論】
肝臓由来分泌因子(hepatokine)の一つとしてselenoprotein Pが同定され、in vivo、in vitroでインスリン抵抗性を惹起することが示された。SePの作用機序を明らかにするには、SePの受容体を同定することが必要だが、本研究では少なくとも作用の一部はAMPKを介することが分かった。また、SePは肝臓および培養肝細胞に作用したことから、作用の一部はautocrine/paracrineの機序で行われていると考えられる。今後、SePは2型糖尿病治療の新たなターゲットになりうる。
by md345797 | 2010-11-14 00:04 | インスリン抵抗性