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Ghrelin‐O‐Acyltransferase阻害剤による血糖・体重の調節

Glucose and Weight Control in Mice with a Designed Ghrelin O-Acyltransferase Inhibitor.

Brad PB, Hwang Y, Taylor MS, Kirchner H, Pfluger PT, Bernard V, LinY-Y, Bowers EM, Mukherjee C, Song W-J, Longo PA, LeahyDJ, Hussain MA, Tschöp MH, Boeke JD, Cole PA.

Science. 2010 Nov. 18 (Published online

【まとめ】
Ghrelinは、体重増加を刺激する胃のペプチドホルモンである。Ghrelinは、ghrelin-O-acyltransferase (GOAT)という酵素により、Ser3残基がoctanylationという転写後修飾を受けることにより生物学的活性をもつ。

そこで、このGOATをantagonizeするペプチドアナログ、GO-CoA-TATをデザイン・合成した。このペプチドは、in vitro、培養細胞、マウスにおいて、GOATを強く阻害した。WTマウスに腹腔内投与した結果、耐糖能を改善、体重増加を抑制したが、ghrelin-KOマウスに投与してもその効果はなかった。Ghrelin作用の研究および代謝疾患の治療薬として、このペプチドが重要な役割を果たすと考えられる。

【論文内容】
このグループは、ghrelinのoctanoylationがghrelinとoctanoyl-CoAという2つの基質を触媒する酵素GOATによって起こるという説をもとに、2つの基質を持つ(bi-substrate)ペプチドアナログ、GO-CoA-TATをデザイン・合成した。

GO-CoA-TATを培養細胞(HeLa, HEK)に添加すると、細胞内でのGOATが阻害され、acyl ghrelinの産生が低下した。GO-CoA-TATをマウスの腹腔内に投与しても血清acyl ghrelinが低下し、in vivoでもGOATを阻害することが示された。中鎖トリグリセリド食(高脂肪食)を負荷したWTマウスにGO-CoA-TATを投与すると、体重増加が抑制され、体脂肪量が低くなった。Ghrelin-KOマウスではGO-CoA-TATを投与してもこれらの抑制は認められなかった。これらのマウスで摂食量に差はなかったので、GO-CoA-TATの効果は、(摂食抑制ではなく)代謝活性の増加によるものと推測される。

Ghrelinは膵島に対し、グルコース応答性インスリン分泌を抑制する作用があり、GO-CoA-TATはこの作用を阻害しインスリン分泌を亢進させた。In vivoでも、GO-CoA-TATを投与したマウスでは、GTTに伴うインスリン分泌の増加、血糖値の低下が認められた。さらに単離膵島をGO-CoA-TAT処理すると、UCP2 mRNA(インスリン分泌抑制に働く)の発現が抑制された。これによりインスリン分泌が促進されていると考えられる。

【結論】
本論文ではGOAT阻害による代謝疾患管理の薬理学的なアプローチを示した。GO-CoA-TATはacyl ghrelinの合成阻害に働くため、受容体のアンタゴニストにはない利点がある。①ホルモンが脳に作用する場合、阻害薬が脳血管関門を通過する必要がない。②受容体アンタゴニストではacyl ghrelinの増加を促進してしまう可能性がある、などの利点である。
by md345797 | 2010-11-25 00:27 | エネルギー代謝