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原子力発電所事故の短期的および長期的な健康へのリスク

Short-term and long-term health risks of nuclear-power-plant accidents.

Christodouleas JP, Forrest RD, Ainsley CG, Tochner Z, Hahn SM, Glatstein E.

N Engl J Med. April 20, 2011 online publication. 364:2334-2341 June 16, 2011.

【論文内容】
2011年3月11日、マグニチュード9.0の地震とそれによる津波で福島第一原子力発電所が損害を受けたが、その全容はいまだ明らかではない。このような事故に伴う放射線被曝についてスリーマイル島事故(1979年)、チェルノブイリ事故(1986年)に関する議論をもとに述べる。

被曝のメカニズム
原子力発電所では、燃料であるアイソトープを分裂させエネルギーを取り出すが、その際放射性の核分裂生成物が生成される。事故が起こると、これらの生成物が環境中に放出されうる。スリーマイル島事故では少量の放射線が放出されただけであったが、チェルノブイリ事故では爆発とそれに伴う火災によって大量の放射性物質が大気中に放出され、事故の年に28名が放射線被曝のために死亡した。福島の放射能放出と健康被害の状況は、これら二つの事故の中間にある。

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放射線被曝の種類は、①放射線源の近傍にいることによる全身または部分被曝、②外部汚染、③内部汚染に分けられる。①では放射線の種類やエネルギーによって到達度がさまざまである(β線は組織の表面まで到達する一方、γ線は深く浸透するなど)。②は核分裂生成物が付着することによって起こるもので、原子炉事故近隣の住民にできるだけ屋内に留まるように指示が出たのはこのためである。③は核分裂生成物が体内に入ることであり、チェルノブイリ事故の後500万人が内部汚染によって被曝したとされている。原子炉事故の後は、多種類の種類のラジオアイソトープが環境に放出される(下の表参照)。中には半減期の短いもの、半減期の非常に長いもの、気体のもの、線量の少ないものなどさまざまである。その中でもヨウ素131は、吸入や食物連鎖から体内に入り甲状腺に蓄積してβ線源となる。福島では放射性の水が海に放出され、海産物が汚染されて食物連鎖に影響していると考えられる。

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放射線被曝の臨床的な結果
放射線被曝によって起こるDNA障害は、回復する場合もあり、発癌や細胞死に至る場合もある。その臨床的な効果は、被曝の種類(前述の①②③)、被曝した臓器の種類、放射線の種類(β線かγ線か)、身体の深部到達度、被曝線量、線量率(被曝した線量と時間の割合)などさまざまな要因によって異なる。また、放射線の吸収線量をGy、生物学的影響を加えた効果線量をSvで表す。高エネルギーのγ線を全身に被曝した場合、1Gy=1Svである。医療で被曝する線量とスリーマイル島、チェルノブイリ事故での被曝線量を比較した(論文の表2)。

急性放射線障害とその治療(放射線被曝の短期的影響)
全身に1回で1Gy以上の放射線に被曝すると、急性放射線障害(acute radiation sickness; 急性放射線宿酔とも)が起こる。チェルノブイリ事故(最高で16Gyの被曝)では、急性放射線障害患者134名が骨髄抑制を起こし、19名が放射性皮膚炎、15名が強度の胃腸障害を起こした。急性放射線障害は、前駆症状、潜伏期、発症の3段階に分けられる。この3段階と被曝の程度を合わせて、嘔吐・リンパ球減少・疲労・発熱などの症状をまとめた(論文の表3)。治療としては、まず生命を脅かす障害(外傷、熱傷など)があればその管理、さらに放射性物質の汚染除去を行う。中等度の線量(<2Gy)を受けている場合は悪心・嘔吐の管理、2Gy以上の場合は骨髄抑制に対処し抗菌薬の投与や造血因子の投与を検討する。消化管障害には保存療法としてプロバイオティクスの投与などを行う。

長期的な発癌リスクの増加(放射線被曝の長期的影響)
日本の原子爆弾およびチェルノブイリ事故の生存者に白血病、固形癌の発症が多いことが知られているが、後者の場合発癌のスクリーニングが強化されている可能性などがあり、同列に扱うことはできない。しかし、チェルノブイリ事故における小児生存者でヨウ素131による甲状腺癌の発生率が高いことには十分なエビデンスがある。また、チェルノブイリ事故後に安定性ヨウ素を投与された小児は、されなかった小児に比べ甲状腺癌の発症が3分の1だったとする報告もある。ヨウ素131が放出された地域においては、その地域産の食物や水の消費は最小限にすべきである。ヨウ素の半減期は8日のため、2-3か月たてば大部分のヨウ素131は消失する。さらに、それらの地域ではヨウ素131の甲状腺への取り込みを抑えるため、被曝後数時間以内にヨウ化カリウムを服用するようアドバイスをする機関もある。ただしヨウ化カリウムには毒性もあるが、1000万人の青少年が予防的にヨウ化カリウムを服用したポーランドでは罹患率が低かったとする報告がある。

【結論】
原子炉事故は非常にまれな事象であるため、被曝を受けた患者や一般への対応に関する経験がほとんどない。しかし関連機関は、これらの急性放射線障害や慢性の発癌リスクに関して一般の理解を広めておく必要がある。
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by md345797 | 2011-04-21 21:16 | その他