人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

2型糖尿病における血糖目標の個別化

Individualizing glycemic targets in type 2 diabetes: Implications of recent clinical trials.

Ismail-Beigi F, Moghissi E, Tiktin M, Hirsch IB, Inzucchi SE, Genuth S.

Ann Intern Med. 2011 Apr 19;154(8):554-559.

【まとめ】

4つの大規模試験(UKPDS、ACCORD、ADVANCE 、VADT)の結果が出た現在、2型糖尿病治療における血糖目標は個別化(individualization)して考える必要がある。概略をまとめると、①年齢が若いほど、②糖尿病の罹病期間が短いほどHbA1c目標を低く設定する。また、③CVDの診断がついている患者や合併症の進行した患者ではHbA1c目標を高めに設定する。これらの目標は、心理社会経済的な状況を考慮して変更する。
(注:文中のHbA1cはNGSP値であり、現時点で日本の現状に当てはめるには0.4%を引いて考える)

【論文内容】
2型糖尿病治療において、血糖目標を個別化して設定すること(individualizing glycemic goals)は重要である。本論文では、外来診療における個々の患者についての血糖目標の枠組みを提示する。
2型糖尿病を対象とした4つの大規模臨床試験の概要をまとめると、
UKPDS:新規発症2型糖尿病の中年(平均53歳)を対象に、強化血糖降下療法と通常療法の効果を比較したもの。結果はDCCT(1型糖尿病が対象)と同様で、強化療法でミクロアルブミン尿と網膜症の発症・進展が抑制されたが、心筋梗塞のリスクは減らなかった。DCCT10年後の追跡調査では、2年後に強化療法群でHbA1cが8%に戻っても心筋梗塞の割合は減少していた。

以下の②③④は高齢(60-66歳)で糖尿病罹病期間が長い患者で、心血管疾患(CVD)のリスクファクターか既往がある人を対象としている。
ACCORD:5年間の追跡を予定していたが、強化療法群での総死亡とCVD関連死が大きく3.5年で中止された。
ADVANCE:HbA1c 6.5%以下を目標に強化療法を行い、CVDアウトカムについて検討した。
VADT:コントロール不良の2型糖尿病を対象にHbA1c 6.0%以下を目標に強化療法を行った。
③と④では、死亡率に差はなかったもののCVDに関して強化療法のメリットはなかった。また、強化療法群で体重増加と重篤な低血糖が2-3倍多く認められた。①‐④で共通しているのは、強化療法で細小血管症が抑制されたということである。これらの結果をもとに、以下のように臨床的特徴と心理社会経済的状況を考慮して、個別化した血糖目標を設定した。

臨床的特徴
併発症:併発している疾患によって血糖目標の設定は変わってくる。併発症で寿命短縮が予想される場合などはやや高めの血糖目標でもよい。

年齢:若年で発症して間もない2型糖尿病では今後高血糖にさらされる期間が長いが、高齢で発症した場合は併発症があることが多く、残った寿命も短い。若年発症が多くなり、高齢化する現代において、糖尿病治療の際に年齢を考慮することは重要である。

糖尿病罹病期間:UKPDSは新規に糖尿病と診断された患者が対象だったが、ACCORD/ADVANCE/VADTは8.0-11.5年の罹病期間のある糖尿病患者が対象であった。これらの結果は、早期からの強化療法の重要性を示唆している。

CVD(大血管症):心筋梗塞の既往のある2型糖尿病では、イベント再発の危険がある。しかし、強化療法では新たなCVDイベントや死亡率の低下が見られなかった。進行したCVDの患者ではあまり厳格なHbA1cの低下は望ましくない。

細小血管症:Kumamoto studyでは、強化インスリン療法でアルブミン尿と網膜症の進展を抑制できた。ACCORDでも強化療法で網膜症の進展が抑制されたが、進行した細小血管症の複合転帰は改善されなかった。自律神経障害の患者では、低血糖に気づかないことがあったり、心疾患死亡率が高いことがあるので注意する。

重篤な低血糖:強化療法は通常療法に比べ、低血糖が2-3倍多く、特に認知機能が落ちている人に多い。ACCORD、ADVANCEでは低血糖と死亡率の関連が示唆されているが、直接の因果関係は示されていない。重篤な低血糖を起こした患者では、強力なHbA1cの低下は推奨されない。

心理・社会・経済的状況
安全性とサポート:一人暮らしで周囲のチェックがない患者には高度な強化インスリン療法は不適切。患者教育やコーチングは患者のエンパワーメントにつながる。

薬剤の副作用:インスリン・SU薬による体重増加、低血糖、チアゾリジン系薬剤による浮腫、心不全、骨折など。副作用と血糖降下のリスク・ベネフィットを考慮する。
心理的または認知状態:抑うつは糖尿病でしばしば見られ、目標達成を妨げる。糖尿病における認知機能抑制(脳血管障害、アルツハイマー病)も問題となる。

経済的考慮:古くからよくある安い薬で治療すると、患者からは劣った治療を受けていると取られることもある。糖尿病の総死亡率は、低所得層で多い。これらのことも十分議論されるべき。

QOL:治療の究極の目的は短期・長期的なQOLを改善することである。

治療目標の設定 (実際のHbA1c値については論文の表2参照)
概略をまとめると、①年齢が若いほど、②糖尿病の罹病期間が短いほどHbA1c目標を低く設定する。また、③CVDの診断がついている患者や合併症の進行した患者では、HbA1c目標を高めに設定する。さらにこれらの目標は、心理社会経済的な状況を考慮して変更する。
by md345797 | 2011-04-22 21:03 | 症例検討/臨床総説