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TZDsは近位尿細管にてPPARγのnongenomicなシグナル伝達を介してNa+と共役したHCO3-の吸収を促進する

Thiazolidinediones Enhance Sodium-Coupled Bicarbonate Absorption from Renal Proximal Tubules via PPARγ-Dependent Nongenomic Signaling.

Endo Y, Suzuki M, Yamada H, Horita S, Kunimi M, Yamazaki O, Shirai A, Nakamura M, Iso-O N, Li Y, Hara M, Tsukamoto K, Moriyama N, Kudo A, Kawakami H, Yamauchi T, Kubota N, Kadowaki T, Kume H, Enomoto Y, Homma Y, Seki G, Fujita T.

Cell Metab. 2011 May 4;13(5):550-61.

【まとめ】
チアゾリジン系薬剤(TZDs)は、水分貯留の副作用が問題になるが、その機序は不明である。この研究では、TZDsが、近位尿細管においてNaと共役したbicarbonate(HCO3-)の再吸収を刺激することをin vitro、in vivoで明らかにした。この過程は、PPARγ/Src/EGFR/ERK経路(PPARγによる転写活性化を介さない急性のシグナル伝達経路)を介し、ウサギ・ラット・ヒトで見られる(マウスでは見られない)。

【論文内容】
インスリン抵抗性改善に効果があるチアゾリジン系薬剤(TZDs)は、腎でのNa・水の再吸収を促進して浮腫を起こすことがあるが、そのメカニズムは不明である。PPARγを介したeptherial Na channel (ENaC)の転写促進が重要と考えられているが、それだけでないとする報告もある。

TZDsの、単離ウサギ近位尿細管のNa+/HCO3-輸送機能に対する作用
まず、TZDsが近位尿細管輸送を促進するかを検討するため、Na+-HCO3- cotransporterであるNBCe1に対するTZDsの効果を調べた。単離したウサギ近位尿細管にpioglitazone(PGZ)またはrosiglitazone(RGZ)を投与したところ、submicromolarの濃度で数分以内にNBCe1活性が上昇した。TZDsは急性に近位尿細管でのNa+とHCO3-再吸収を刺激することが分かる。このHCO3-再吸収促進は、PD98059(MEK阻害剤)、GW9662(PPARγantagonist)、AG1478(EGFR tyrosine kinase 阻害剤)によって阻害されたため、TZDsの近位尿細管への作用には、PPARγによって活性化されたEGFR/ERK経路の関与が示唆された。

TZDの近位尿細管輸送に対する影響の、種による違い
上記のウサギによる実験をラットで行っても同様の結果だったが、マウスではPGZによるNBCe1活性上昇は見られなかった。一方、PP2(Src阻害剤)はウサギのこの活性上昇を完全に抑制した。マウスの近位尿細管ではSrcがconstitutiveに活性化されており(近位尿細管以外の他の細胞では活性化されていない)、下流のEGFRシグナル(ERK活性化)が常に起こっていてPGZに反応しないことが分かった。ヒトの近位尿細管はウサギ、ラットと同様Srcのconstitutiveな活性化は起こっておらず、PPARγ刺激によるERK活性化を介するNBCe1活性化が起こることが示された。

TZDの急性 in vivo効果
ラットにPGZを単回投与し、90分以上尿を採取した。PGZ投与によって尿量が減少し、FE of Lithium+と自由水クリアランスが低下し(クレアチニンクリアランスと尿中Na排泄は変化なかった)、尿浸透圧は増加した。PGZと同時にアセタゾラミド(近位尿細管輸送阻害剤)を投与すると、これらの変化は消失した。PGZは急性に近位尿細管再吸収を刺激し水貯留を促進することが示唆された。

PPARγ依存性のNHE1活性の刺激
次にPPARγ-/-マウスの唯一の生きている細胞であるEF(embryonic fibroblast) 細胞を用いて、NHE1(Na+/H+ exchanger、ERK経路によって刺激される)の調節について検討した。WTおよびPPARγ-/-のEF細胞は細胞内アシドーシスによってERK依存的にNHE1活性化が起こるが、PGZによる活性化はPPARγ-/-細胞では起きない。WT細胞でのNHE1活性化はPD98059、GW9662、AG1478で阻害されるが、actinomycinD(転写阻害剤)では阻害されない。そのため、PGZによるNHE1活性化阻害はPPARγ依存性のnongenomicな(ゲノムの転写を介さない)、ERK活性化を伴うシグナル伝達によると考えられた。

PPARγ依存性の急速なシグナル伝達はnongenomicであり、Srcを介する
PPARγ-/-のEF細胞に全長PPARγをadenovirusで発現させたところ、PGZによるERK依存性のNHE1活性化がrescueされた。ここで、リガンド結合ドメイン(LBD)のみでDNA結合ドメインのないPPARγコンストラクトを発現させても同様にrescueが起こった。このことからNHE1の活性化にはリガンド結合は必要だが、転写活性化は不要であることが分かった。そこで、PGZによるNHE1活性化におけるSrcの役割を検討するため、Src-/-マウス由来のEF細胞を用いて同様の検討をしたところ、Src-/-ではNHE1活性化が起こらなかった。PPARγによるnongenomicなシグナル伝達にはSrcが必要であり、免疫沈降実験にてPPARγとSrcが共沈すること、PGZは両者の結合を促進することが明らかになった。

【結論】
この研究では、TZDsがウサギ・ラット・ヒトの近位尿細管にてNaと共役したbicarbonateの再吸収を促進することを示し、これはPPARγ/Src/EGFR/ERK経路を介するNBCe1 (Na+-HCO3- cotransporter)の活性化によることを明らかにした。また、EF細胞を用いた検討でPPARγ/Src/EGFR/ERK経路(転写活性化を介さない急性のシグナル伝達経路)を介するNHE1(Na+/H+ exchanger)活性化機構を解明した。近年、核内受容体がnongenomicな作用を及ぼすことが知られている。PPARγも何らかの選択的modulatorによって、部分的に(この場合nongenomicな経路を刺激しない)活性化ができれば、水分貯留の副作用の少ない薬剤が可能になるかもしれない。
by md345797 | 2011-05-04 20:59 | 腎高血圧