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糖尿病のグローバリゼーション

Globalization of diabetes: the role of diet, lifestyle, and genes.

Hu FB.

Diabetes Care. 2011 Jun;34(6):1249-57.

【総説内容】

糖尿病の世界的負担(global burden)

2型糖尿病はかつては西洋の病気であったが、今は世界のすべての国に広がっている。かつては豊かな国の病気であったが、今は貧困層で増加している。かつては成人病であったが、今は小児肥満の増加とともに小児にも広がっている。世界で2億8500万人が糖尿病であり、その人数は2030年までに4億3800人に増加すると考えられていて、その3分の2は低・中所得国が占める。世界中で医療費の12%が糖尿病に向けられると推定され、途上国では糖尿病の蔓延が経済成長の妨げとなっている。世界の糖尿病人口の60%は、急速な経済成長を遂げるアジアが占めている。例えば、1980年には中国の成人に占める糖尿病の割合は1%に満たなかったのが、2008年には10%近くに達している。中国成人の9200万人が糖尿病と考えられ、中国はインドに代わって、世界の糖尿病の中心となりつつある(ただし南インドの都市部では糖尿病の有病率が20%近くに達している)。アジア人の糖尿病は西洋人に比べ、若年発症が多く、肥満が少ない。妊娠糖尿病も多いため、その子供が2型糖尿病になる割合も多いとされている。

糖尿病増加の寄与因子
肥満と脂肪分布

肥満は全世界的に増加しているが、アジアでは欧米諸国に比較して肥満が少ない。にもかかわらず、糖尿病の有病率は高い(特にインドでは肥満が少ないにもかかわらず、糖尿病が多い)。アジア人は欧米人と比較して、同程度の腹囲でも内臓脂肪が多く、筋肉量が少ない。この特性(=metabolically obese)が肥満が少ないにもかかわらず、糖尿病が多いことにつながっていると考えられる。
食事
カロリーの質、すなわち糖質(glycemic load)やトランス脂肪が多いこと、穀類の線維や多不飽和脂肪が少ないことが糖尿病発症のリスクになることが示されている。インドでは、ghee (高度にトランス脂肪酸を含むバター)が多食され、糖尿病増加の原因となっている可能性がある。特に中国・インドで経済成長に伴い、動物性脂肪や高カロリー・低線維の食事の摂取が増加している。
身体活動
座りがちな行動(sedentary behavior)は糖尿病のリスクにつながる。1日2時間TVを見る時間が長くなると、糖尿病発症のリスクが14%増加するという報告もある。途上国においても、機械化と自動車の普及によって運動量が少なくなっている。
喫煙
喫煙は2型糖尿病の独立した危険因子であり、喫煙者は非喫煙者に比べ糖尿病発症のリスクが45%増加するとされている。喫煙者は、血漿コルチゾールが高値、テストステロンが低値になりやすく腹部脂肪蓄積が増えると考えられている。途上国の成人男性の50-60%が喫煙者であり、現在中国は世界一の、インドは世界第2位のタバコの生産・消費国でもある。
アルコール消費
高度のアルコール消費はカロリー摂取過剰や肥満を来たし、糖代謝異常のリスクになる。途上国においても西洋化した生活習慣により飲酒の機会が増加している。

遺伝的な感受性および遺伝子と環境の相互作用
今までに少なくとも40の遺伝子座が2型糖尿病と関連があることが分かっている。ゲノムワイド関連研究(GWAS)によって白人で明らかになった糖尿病遺伝子の多くがアジア人でも再現されているが、人種間で異なるものもある。例えば、白人の20-30%で糖尿病リスクと関連のあるTCF7L2は、アジア人では3-5%程度しか関連がない。一方、東アジア人で糖尿病に関連のあるKCNQ1は、白人ではの関連はまれである。

他の多因子疾患と同様、2型糖尿病も遺伝因子と環境因子の相互作用によって発症する。西洋食パターンと、10の確立した2型糖尿病感受性SNPによるgenetic risk score (GRS)に基づき、糖尿病発症のリスク(オッズ比)を算出した結果、GRSが高く、西洋食が進んだグループで糖尿病のリスクが高かった(ただし、GRSが低いグループでは、西洋食が進んでいても糖尿病のリスクに関連しなかった)。したがって、西洋食の影響は遺伝的感受性が高い群で効果を発揮することが分かった。

倹約遺伝子型(thrifty genotype)と倹約表現型(thrifty phenotype)
倹約遺伝子仮説とは、飢餓の時期に有利な遺伝子型を持つ体質が選別され、肥満・2型糖尿病発症に関与しているとするもので、ピマインディアンなど飢餓と飽食のサイクルを経過した民族で肥満・糖尿病が多いことをよく説明している。しかし、実際の肥満・糖尿病遺伝子座で明らかに倹約遺伝子と証明されたものはなく、その検討が進められている。「倹約遺伝子仮説」が祖先の遺伝子と現在の環境の不適合に基づくものであるのに対し、「倹約表現型仮説」は子宮内と成人の環境の不適合に基づくものである。後者によると、胎児の時期の低栄養が低体重やβ細胞量の減少、インスリン抵抗性の増加をきたし子宮内では有利であるが、その後成人してからの過栄養に伴う2型糖尿病発症に関わるとされる。中国での1950年代後半から1960年代前半にわたる大飢饉を経験したコホート研究により、飢餓による長期の代謝的影響が報告されている。これによると、胎児の時期に飢餓にさらされると、成人期に高血糖をきたすリスクが増加し、この影響は成人期に過栄養になるほど大きいとされる。現在のアジアでの糖尿病増加に、この現象が関与している可能性もある。

2型糖尿病の予防可能性
中国の大慶(Daqing)で行われた糖尿病予防研究では、6年間の食事・運動の介入によって糖尿病発症を31-46%減少させることができた。さらにFinnish Diabetes Prevention Studyおよび米国のDPP (Diabetes Prevention Program)、インドでのIDPP (Indian Diabetes Prevention Program)でも、生活習慣の介入で糖尿病発症を28-58%減少できた。このように、さまざまな民族および人種で食事・生活習慣介入で2型糖尿病は予防可能であることが示されている。これらの研究結果を、実際の臨床および健康政策にtranslateすることが急務である。
by md345797 | 2011-07-31 19:13 | 症例検討/臨床総説