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グルコース応答性のインスリン分泌を示すヒト膵β細胞株

A genetically engineered human pancreatic β cell line exhibiting glucose-inducible insulin secretion.

Ravassard P, Hazhouz Y, Pechberty S, Bricout-Neveu E, Armanet M, Czernichow P, Scharfmann R.

J Clin Invest. 2011 Aug 25 Published on line.

【まとめ】
げっ歯類の膵β細胞株(ラット、ハムスター、マウス由来)は存在するが、ヒトの膵β細胞株は30年以上の努力にも関わらず得られていなかった。この研究では、ヒト胎児組織に腫瘍形成を起こさせることにより、機能的なヒトβ細胞株を作製する技術を開発した。ヒト胎児膵芽に、インスリンプロモーター下にSV40LTを発現させるレンチウイルスベクターを形質導入し、それをSCIDマウスに移植して膵組織を発生させた。新しく形成されたSV40LTを発現するβ細胞は、増殖してインスリノーマを形成した。そのβ細胞にヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を導入し、別のSCIDマウスに移植し、それをin vitroで増殖させ細胞株を得ることができた。その細胞株の一つであるEndoC-βH1は、多くのβ細胞特異的マーカーを発現しており、他の膵細胞のマーカーは発現していなかった。この細胞は、グルコースやその他のインスリン分泌刺激に反応してインスリンを分泌し、糖尿病マウスに移植すると糖尿病を改善した。この細胞は、大規模創薬研究や糖尿病の細胞治療にも有用な手段になる。さらに、この技術はヒト細胞株を作製する一般的な方法にもなりうる。

【論文内容】
ヒト胎児膵由来のインスリン陽性細胞

ヒト胎児の膵原基に、ラットインスリンⅡプロモーター下でSV40LTを発現するレンチウイルスベクターを導入し、SCIDマウスの腎被膜下に移植した。移植3か月後、インスリン陽性細胞でSV40LTの発現が増殖(増殖マーカーのKi67が陽性)を促しており、インスリノーマを形成していた。この腫瘤を取り出し、細胞の老化を防止するため、hTERTを発現させるレンチウイルスを導入し別のSCIDマウスに移植した。このマウスは低血糖をきたし、インスリン発現細胞はSV40LTおよびPDX1陽性であったが、グルカゴンやアミラーゼは陽性ではなかった。

EndoC-βH1ヒトβ細胞株の派生と特徴
上記のインスリノーマを持った移植マウスを500以上作製し、in vitroで細胞株を派生させた。そのうちの一つであるEndoC-βH1は、冷凍・融解可能で、少なくとも80 passageを継代でき、ヒト膵島と同程度のβ細胞転写因子(PDX1、MAFA、NKX6-1、PAX6、NEUROD1)を発現していた。グルコースセンサーであるグルコキナーゼ(GCK)も高レベルに発現していた。グルカゴンやソマトスタチン、IAPP(islet amyloid pancreatic polypeptide)は陰性であった。

インスリン量とインスリン分泌
EndoC-βH1細胞は、0.46μg/million cellsのインスリンを含む。グルコース刺激によりインスリン分泌は3倍に増加し、GLP1R agonistであるexendin-4や、K-ATPチャネル阻害薬のglibenclamide、分枝鎖アミノ酸(L-leucine)によってもインスリン分泌が促進された。

EndoC-βH1細胞の移植によりマウス糖尿病が改善する
EndoC-βH1細胞のin vivoでの機能を検討するため、STZを投与したSCIDマウスにEndoC-βH1細胞を移植した。数日以内に血糖は低下し、GTTでの反応も改善した。このマウスの膵にはインスリン陽性細胞はほとんどないが、移植部位にはヒトのインスリン陽性細胞が認められた。

【結論】
グルコース応答性のインスリン分泌を示すヒト膵β細胞株を作製する技術を開発した。この技術は他のヒトの細胞株作製に応用可能である。このEndoC-βH1細胞はヒトβ細胞の生理学の理解、大規模創薬研究、糖尿病の細胞治療に有用と考えられる。
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by md345797 | 2011-08-26 17:28 | インスリン分泌