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脂肪酸受容体のGPCRsを標的とする治療はインスリン抵抗性と炎症性疾患を改善する

Targeting GPR120 and other fatty acid-sensing GPCRs ameliorates insulin resistance and inflammatory diseases.

Talukdar S, Olefsky JM, Osborn O.

Trends Pharmacol Sci. 2011 Sep;32(9):543-50.

【総説内容】
遊離脂肪酸受容体であるGPCRsは治療のターゲットになる

現在約850種類のGPCRs(G-protein-coupled receptors)があり、処方されているすべての薬剤の約30%はGPCRsをターゲットにしている。遊離脂肪酸はその脂肪族末端によって短鎖(炭素が6未満)、中鎖(炭素6-12)、長鎖(炭素が12より多い)の脂肪酸に分けられ、それぞれが異なるGPCRsのリガンドとして働いている(後述)。2型糖尿病や肥満では遊離脂肪酸の増加が見られるが、膵β細胞に遊離脂肪酸が作用すると、急性にはインスリン分泌を促進し、慢性にはインスリン分泌を障害する。また、慢性の低レベルの代謝における炎症(metaflammationとも呼ばれる)は、肥満・インスリン抵抗性の病態の根底にあるが、マクロファージにあるGPCRsが遊離脂肪酸による炎症の過程に関与していると考えられている。

中鎖・長鎖脂肪酸受容体
GPR120

GPR120は、マクロファージと脂肪細胞にあるω3脂肪酸の生理的受容体であり、強い抗炎症作用・インスリンリン感受性増強作用を持つ。LPS(lipopolysaccharide)はTLR4に、またTNF-αはTNFRに結合し、細胞質内のTAK1-TAB1複合体を介してNF-κB経路・JNK経路を刺激して炎症を引き起こすが、ω3受容体(GPR120)にリガンド(DHAなど)が結合すると、受容体が細胞内でβarrestin2を介してTAB1に結合し、TAK1との結合を阻害するため、炎症が抑制される。通常のマウスは高脂肪食でインスリン抵抗性になるが、ω3脂肪酸補充によりインスリン抵抗性が改善される。マクロファージ特異的GPR120ではこのインスリン抵抗性改善が起きないため、ω3脂肪酸の作用はマクロファージのGPR120を介していると言える。

魚油によるω3脂肪酸の補充が、さまざまな炎症性疾患(関節リウマチ、歯周病、気管支喘息、心血管疾患、がんなど)に与える影響が臨床試験で検討されつつある。ヒトのω6/ω3脂肪酸の比は、早期人類の1:1から、現代米国では10:1まで急激に増加している。そのため、心血管疾患予防のためにω3脂肪酸の摂取が推奨されている。なお、GPR120は味蕾にも発現しており、GPR120欠損マウスはリノレン酸(ω3脂肪酸)を好まないため、味蕾でのGPR120発現がω3食を好むために重要である可能性がある。

ω3脂肪酸の臨床研究
低用量のEPA+DHAまたはALAの補充は、心筋梗塞患者での心血管イベントを有意に減少させなかった。臨床試験で用いられるω3脂肪酸の用量は、400mgから16.2g/日にわたっており、ヒトでどの容量が効果があるかは検討中である。ω3魚油の副作用は、魚油の後味の悪さ・悪心・胃出血・脳出血のリスクなどである。近年、GRP120の合成アゴニストが開発されており、今後の臨床研究が待たれる。

GPR40(FFAR1)
GPR40(Free Fatty Acid Receptor 1: FFAR1)は、膵β細胞に発現し、FFAのインスリン分泌に対する急性・慢性効果に重要な役割を果たしている。GPR40は他にも消化管の内分泌細胞にも発現しており、FFAによるインクレチン分泌に関与している。GPR40を欠損させると、肥満による高インスリン血症や脂肪肝、耐糖能異常が起きず、過剰発現させるとβ機能不全、高インスリン血症を伴う糖尿病をきたす。しかし、GPR40欠損マウスに8週間高脂肪食を負荷した場合、空腹時高血糖や肥満、インスリン抵抗性をきたすという逆の報告もある。GRP40のアゴニストとアンタゴニスト、どちらが2型糖尿病の治療ターゲットになるのかは議論が分かれている。

GPR84
白血球に多く発現する中鎖脂肪酸の受容体であり、LPSによるIL-12産生に関与している。脂肪酸代謝と免疫をつなぐ役割があると考えられている。
GPR119
膵や小腸・大腸に発現する長鎖脂肪酸の受容体。 GPR119の刺激によりインスリンやGLP-1が増加し、耐糖能が改善するため、 GPR119アゴニストの臨床試験が行われている。

短鎖脂肪酸受容体
GPR43(FFAR2)

短鎖脂肪酸受容体で、免疫細胞(特に多型核球)に多く発現する。白血球の活性化に関与している。消化管のPYY産生内分泌細胞や5-HT産生粘膜細胞にも発現し、短鎖脂肪酸によるPYYや5-HTの腸管への分泌を司っている。GPR43欠損マウスは、高脂肪食を負荷しても体重が増加せず、耐糖能は悪化しない。しかし、GRP43アゴニストである酪酸(butyrate)を多く投与すると大腸がんを発生する恐れがある(in vitroではGRP43は大腸の腫瘍抑制因子として作用しているが、in vivoでは逆でありbutyrate paradoxと呼ばれる)。

GPR41(FFAR3)
脂肪細胞に多く発現し、短鎖脂肪酸(特にプロピオン酸)によるレプチン産生に関与している。腸内細菌叢は500-1000種類の、10の14乗個の細菌からなり、宿主の免疫系および炎症性疾患に影響しているが、これらによる食物線維の醗酵の副産物がGPR43およびGPR41の内因性アゴニストになっている。


【結論】
ω3脂肪酸に対するGPR120を初めとする、脂肪酸に対するGPCRsを標的とする治療は、インスリン抵抗性と炎症性疾患を改善することが明らかになりつつある。
by md345797 | 2011-09-05 17:55 | インスリン抵抗性