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日本国民はなぜ健康なのか?

What has made the population of Japan healthy?

Ikeda N, Saito E, Kondo N, Inoue M, Ikeda S, Satoh T, Wada K, Stickley A, Katanoda K, Mizoue T, Noda M, Iso H, Fujino Y, Sobue T, Tsugane S, Naghavi M, Ezzati M, Shibuya K.

Lancet. 2011 Sep 17;378(9796):1094-105.

【まとめ】
本研究では、日本国民がなぜ世界で最も平均寿命が長く、健康なのかを検討する。1950年代から1960年代初めにかけて、日本国民は感染性疾患(communicable diseases)を短期間に減少させ、その後、脳卒中による死亡率を低下させた。1950年代には、脳卒中を除く非感染性疾患による死亡率の死亡率はすでに高くはなかった。1960年代半ば以降、非感染性疾患予防のための地域公衆衛生対策が行われ、国民皆保険制度(universal insurance scheme)による先進医療技術の増加に伴って、国民の健康はさらに増進された。また、平等な教育機会や医療へのアクセスを通して、健康の格差(health inequalities)が減少した。第二次大戦後の健康問題で成功を収めた日本は現在、急速な高齢化、医療技術で対処できない問題、社会的格差などの大きな健康上の課題に取り組まねばならなくなっている。

【論文内容】
第二次大戦後の1947年には、日本人の健康状態は良くなく、平均寿命は男性50歳、女性54歳であった。しかし、その後の健康状態は改善し、1950年代後半の急速な経済成長によってかつてないほどに平均寿命が延長した。1986年には日本人女性の平均寿命は世界第1位となり、2009年には86歳に達した。日本人はなぜ健康なのか、どうやって世界最長の平均寿命を実現したのか?第一に、日本人は日常生活のあらゆる場面で衛生に気を配っている。第二に日本人は健康意識が高い。定期健康診断を受けることは普通である。第三に日本食がバランスよく、日本人の食生活も経済成長と並行して改善されてきた。しかし、日本は今、数々の健康問題に直面模している。人口の高齢化が進行し、総人口は1億2800万人(2005年)から9500万人(2050年)に減少し、その40%が65歳以上の高齢者になる。30-59歳の人口の3分の1が過体重か肥満という問題、サラリーマンの不健康な生活、ストレス、極端な場合では自殺の問題がある。

幼児・若年成人の死亡率
過去60年の平均寿命の延びのうち、大半が1950-65年の間のものである。これは、幼児(5歳未満の子供)および若年成人(60歳未満の成人)の死亡率の大きな低下を反映している。5歳未満の健康改善は、消化器や呼吸器の感染症、ワクチンで予防可能な疾患をコントロールできたことによる。また、60歳未満成人における死亡率の減少は、結核による死亡率の低下の効果が大きい。1952年からの結核治療の無料化、胸部レントゲンやストレプトマイシンの使用により、1961-77年の間、結核の有病率は毎年11%ずつ低下した。

非感染性疾患の死亡率
感染性疾患への対処が成功した後も、日本人の平均寿命は着実に伸び続けた。1950年には日本人の脳卒中による死亡率は非常に高かったが、癌と虚血性心疾患の死亡率は先進諸国に比べてかなり低かった。1960年代半ば以降も平均寿命が伸び続けた原因としては、特に脳血管疾患の死亡率が着実に減少したことによる。これは、日本人の血圧が1960年代後半に低下し始めたことと一致する。日本人の血圧の低下には、降圧剤服用の増加と塩分制限を含む生活様式の改善が関連している。

文化的背景と健康格差
日本人の長寿達成の原因には、文化的背景(日本の地域社会における強い連帯など)もあるかもしれない。さらに、均質で平等主義的な(homogeneous and egalitarian)日本社会では、強力な教育政策や雇用安定の規制、国民皆保険が実施されてきた。1970年代まで続いた高度経済成長期には所得格差が減少し、1990年代までは90%以上の人が自らを中流だと考えていた。しかし現在は所得格差が拡大し、健康格差も一致して増加している。

日本国民の健康のための課題
日本における死因の上位は、がん、心疾患、脳血管疾患であり、これらの非感染性疾患を予防する必要がある。日本における予防可能な危険因子は、喫煙と高血圧である。喫煙が有害であることはよく認知されているものの、日本での喫煙はいまだに一般的であり、若い女性の間にも徐々に広まっている。喫煙関連の死亡率を減少させるために、たばこの消費を抑制し、喫煙を促進していく必要がある。また、日本人の血圧管理はいまだ不十分であり、降圧剤により血圧が有効に管理されている人は5分の1以下である。そこで、高血圧の早期発見や生活習慣の是正、降圧治療の取り組みの強化が必要となっている。

さらに、高血糖、運動不足、飲酒、肥満などの危険因子を抑制するために、包括的な予防介入が必要である。2008年から、40-74歳の国民には年1回の健診とメタボリックシンドローム予防のための健康介入を義務付けているが、これらの有効性はまだ証明されていない。

日本において自殺死亡者は1998年から年間3万人を超えており、自殺の予防は日本人の健康における主要な課題の一つである。政府は自殺の増加に対し、2006年に自殺対策基本法、その後包括的な自殺対策指針を決定したが、その効果はまだ顕著ではない。

世界への教訓

戦後日本の経験は、低所得国においても国民の健康達成が可能であることを示している。1950年代の初め、日本の国民所得は少なかったが、子供の生存への介入と結核診療の無料化を通じて、平均寿命を大幅に伸ばすことができた。平等主義的な日本社会では、1961年に国民皆保険が達成され、健康増進への機会を均等に提供する環境の整備が進んだ。世界的に見て、他の国々においても国民皆保険への道が開かれるべきであろう。
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by md345797 | 2011-09-13 17:57 | その他