「ほっ」と。キャンペーン

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

IRS2は、Huntington病モデルマウスでミトコンドリア機能低下と酸化ストレス増加をもたらす

IRS2 increases mitochondrial dysfunction and oxidative stress in a mouse model of Huntington disease.

Sadagurski M, Cheng Z, Rozzo A, Palazzolo I, Kelley GR, Dong X, Krainc D, White MF.

J Clin Invest. 2011 Oct;121(10):4070-81. Sep 19 published online.

【まとめ】
神経のIGF1やIrs2シグナルが低下すると、マウスの寿命が延長することが示されている。Huntington病(HD)での神経変性にIrs2がどのように関与しているかを検討するために、HDのモデルであるR6/2マウスのIrs2の量を調節したマウスを作製した。R6/2マウスの脳のIrs2の量を増加させると、寿命の短縮、神経の酸化ストレス亢進、ミトコンドリアの機能低下が起きた。一方、全身のIrs2の量を減少させると(膵β細胞は除く、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウス)運動能が改善し、寿命が延長した。後者のマウスでは、転写因子FoxO1の核への局在が起こっており、FoxO1依存性の遺伝子発現(オートファジー、ミトコンドリア機能、酸化ストレス耐性に関与する遺伝子)が増加していた。これらの結果から、Irs2を減少させる治療が、HDの進行を遅らせる可能性があることが示された。

【論文内容】
Huntington病(HD)は、huntingtin遺伝子(HTT)のexon1でのCAGリピートにより、ポリグルタミンが付加すること(polyQ-HTT)によって起きる進行性神経変性疾患である。全長のヒトpolyQ-HTTを発現させたトランスジェニックマウス(R6/2マウス)は、ヒトのHDの病態生理の理解に有用である。このマウスは、変異HTTにより、脳の萎縮だけでなく、膵β細胞の脱落が起き糖尿病を発症する。この変異HTTは、PPARγ coactivator 1αの発現を抑制し、ミトコンドリア生合成や呼吸を障害する。

また、カロリー制限やinsulin/IGFシグナル伝達の低下が寿命を延長し、神経変性を抑制することがC. elegans、Drosophilaおよびマウスで知られている。カロリー制限は、ミトコンドリア生合成を増加させて、変異polyQ-HTTマウスの神経変性も抑制する。マウスにおいては、脳のIGF1受容体が少ないと、またはIRS2シグナルが少ないと寿命が延長することが知られている。特に、脳特異的なIRS2ヘテロノックアウトマウス(IRS2+/-)は、やや体重が多く、高インスリン血症であるものの、活動性が高く、寿命が延長する。

R6/2マウスの寿命に対するIrs2シグナル伝達の影響
R6/2マウスと、中枢神経系にIrs2を過剰発現させたマウスを交配して、R6/2・Irs2ntgマウスを作製したところ、このマウスは通常のR6/2マウスより早期に死亡した。次にR6/2マウスと、全身でIrs2をヘテロで欠損させたIrs2+/-を交配させ、R6/2・Irs2+/-マウスを作製したところ、R6/2に比べて寿命が延長したが高血糖をきたした。膵β細胞の生存や機能にはIrs2が必要であることから、このマウスに膵β細胞特異的Irs2トランスジェニックマウスを交配させ、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスを作製した。このマウスは、R6/2・Irs2+/-マウスと寿命は変わらなかったが、血糖が正常に保たれた。

R6/2マウスの運動機能・脳の神経病理に対するIrs2シグナル伝達の影響
R6/2マウスはコントロールに比べて、hind limb claspingにより測定した運動能が低下していた。R6/2・Irs2ntgマウスはさらに低下したが、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスはそれに比べやや運動能が改善していた。R6/2マウスにおいて、Irs2の発現低下は、運動異常の進行を抑制すると言える。また、R6/2マウス、R6/2・Irs2ntgマウスの皮質・海馬でGFAP陽性 astrocyteが増加していたが、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスでは、コントロールと同程度であった。Irs2の発現低下は神経病理の進行を抑制した。

R6/2マウスの脳におけるFoxO1活性に対するIrs2シグナル伝達の影響
転写因子FoxOは、ミトコンドリア機能・酸化ストレス耐性を促進する遺伝子発現に関わっている。Insulin/IGF1は、PI3K、Aktを活性化し、FoxO1をリン酸化・核から除外する。R6/2マウスの脳では、FoxO1のリン酸化・核からの除外が起こっており、R6/2・Irs2ntgマウスではそれが同程度なのに対し、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスでは、コントロールと同程度であった。R6/2マウスにおいて、Irs2の発現低下は、FoxO1の核からの除外を抑制した。

R6/2マウスの酸化エネルギーバランスに対するIrs2シグナル伝達の影響
R6/2マウスの脳では、活性酸素種の増加、過酸化脂質の増加などの酸化ストレス亢進が起こっており、R6/2・Irs2ntgマウスではそれが進行しているのに対し、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスでは、コントロールと同程度であった。R6/2マウスにおいて、Irs2の発現低下は、ミトコンドリア機能を促進し、酸化ストレスの亢進を抑制した。

【結論】
HDのモデルマウスにおいて、Irs2の発現低下が酸化ストレス・ミトコンドリア機能低下・神経病理を抑制し、死亡率を低下させた。
[PR]
by md345797 | 2011-09-22 17:23 | その他