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インスリン抵抗性、高血糖と動脈硬化

Insulin resistance, hyperglycemia, and atherosclerosis.

Bornfeldt KE, Tabas I.

Cell Metab. 2011 Nov 2;14(5):575-85.

【総説内容】
インスリン抵抗性と動脈硬化

インスリン抵抗性は、高血糖を伴わなくても動脈硬化のリスクとなることが広く知られている。インスリン抵抗性の状態では、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、マクロファージの3種類の細胞でインスリンリンシグナル伝達が著しく低下している。
①内皮細胞
内皮細胞でインスリン受容体(IR)を欠損したマウスをApoe-/-マウスと交配すると(EIRAKOマウス)、コントロールに比べ血糖、インスリン、脂質、血圧に差がないにもかかわらず、動脈硬化が促進される。コントロールの内皮細胞ではインスリンはeNOSのSer1177をリン酸化(eNOS活性化)し、VCAM-1(動脈硬化を起こす鍵となる内皮・白血球接着分子)の発現を抑制し、抗動脈硬化的に作用する。これらがEIRAKOマウスでは減少し、NOによる血管拡張が阻害され、VCAM-1依存性の白血球接着が増加する。すなわち、血管内皮細胞における正常のインスリンシグナル伝達は動脈硬化保護的に作用し、インスリン抵抗性の状態は動脈硬化を促進する。また、Akt1-/-Apoe-/-マウスはApoe-/-に比べ、eNOS Ser-1176のリン酸化が低下して動脈硬化が促進される。したがって、内皮細胞のAkt1リン酸化の低下(インスリン抵抗性)は、動脈硬化促進的に作用すると考えられる。
②血管平滑筋細胞
血管平滑筋細胞では、IRとIGF-1受容体(IGF1R)のヘテロダイマーが発現しており、インスリンの作用は主にIGF1Rを介していると考えられている。IR欠損の血管平滑筋細胞にインスリンを加えるとIGF1Rシグナルを介してERK-1/2の活性化が起こり、細胞増殖を起こす(動脈硬化促進的)。逆に血管内皮細胞のIGF1RをsiRNAを用いてサイレンシングすると、IRを介してAkt活性化が促進される(動脈硬化抑制的)。これらの結果から、IGF1RのIRに対するバランスの異常が動脈硬化を促進すると考えられる。ただし、これを疑問視するデータもあり、インスリン抵抗性の状態においてin vivoでの血管平滑筋細胞のアテローム形成・プラーク進行における役割はさらに検討する必要がある。
③マクロファージ
マクロファージでのIRシグナル伝達が欠損すると動脈硬化促進につながることは、myeloid cell特異的にIRを欠損させたマウスで明らかになっている。しかしこのマウスをApoe-/-マウスと交配し、Western食(高コレステロール、高コール酸)を負荷した場合、myeloid cell特異的IR欠損で動脈硬化病変が50%程度減少した。また、コントロールのApoe-/-骨髄またはApoe-/-Irs2-/-の骨髄を移植すると、Apoe-/-Irs2-/-の骨髄を移植した場合に20-30%動脈硬化病変が減少した。したがってWestern食の条件下では、マクロファージのIRシグナル伝達は動脈硬化を促進するようである。

高血糖と動脈硬化

高血糖と冠動脈疾患の関連については、DCCT-EDIC研究において1型糖尿病患者の強化血糖降下群で冠動脈疾患、脳卒中、心血管死を57%減少できるという結果などが知られている。しかし一方で、ACCORD研究では心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病で強化血糖降下療法が5年生存率を低下させるという結果もある。動物実験では、Ldlr-/-やApoe-/-マウスにSTZを投与したマウスや、Ldlr-/-マウスのインスリンリンプロモーター下にLCMVを発現した(β細胞破壊)トランスジェニックマウスなどが知られているが、いずれも高血糖に伴い大動脈壁で動脈硬化の促進が見られ、インスリン治療で予防可能である。
①内皮細胞
高血糖が直接、内皮細胞に及ぼす影響についてのin vitroの研究は多いが、 in vivo研究は少ない。げっ歯類へのグルコースの急性投与(12時間以内)で血管内皮細胞への白血球の接着が増加することが生体顕微鏡で確認されており、この状態ではP-selectin、VCAM-1、ICAM-1の発現が増加していることが示されている。また、高血糖状態では、細胞内グルコースはaldose reductase(AR)によってソルビトールに変換される(AR /polyol経路)。STZ投与Ldlr-/-マウスにARを過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製すると、高血糖の動脈硬化への影響が増強された。今後、AR inhibitor投与でヒトの心血管疾患の進展が抑制されるかの検討が必要である。また、高血糖で内皮細胞でのPKC活性が起こるが、Apoe-/-マウスでPKCβを欠損させると動脈硬化が抑制されることが示されており、PKCβ阻害剤(ruboxistaurin)を用いた臨床試験も有望な結果を得ている。さらに、高血糖ではAGEsの産生が内皮細胞のRAGEを介してVCAM-1発現を促進し、動脈硬化につながることが示されている。
②血管平滑筋細胞
血管平滑筋細胞では、主にGLUT1を介してグルコース取り込みが行われている。血管平滑筋細胞にGLUT1を過剰発現させたマウスでは、これらの細胞への糖取り込みが増加し、血管内皮細胞の増殖が促進される。このマウスでは、血管障害後のMCP-1が増加、グルタチオンが低下する。
③マクロファージ
マクロファージを高濃度グルコースで培養すると、LPSなどの刺激による炎症が増強される。また、Western食を負荷したLdlr-/-マウスにSTZを投与し、さらにコレステロール低下を行った。その結果、高血糖があると、コレステロール低下に伴う動脈硬化の退縮が妨げられることが明らかになった。

治療への応用
LXR agonistsは、マウスにおいてプラーク形成・進展を抑制することが知られている。LXR agonistsはABCG1およびABCA1トランスポーター発現を増加させ、それぞれHDLおよびApoA-Iによるマクロファージからのコレステロール引き抜きを促進する。また、pioglitazoneはPPARγ活性化剤のみならずLXR inducerでもあり、2型糖尿病の動脈硬化抑制に働く。また、サイトカイン阻害療法として、IL-1β中和抗体が心血管疾患を減少させるかどうかの臨床試験が進行中である。インスリン抵抗性や高血糖が動脈硬化を進展させる際、内皮細胞とマクロファージにおける異常なERストレスが活性化されることも重要である。PBA(4-phenyl butyric acid)をWestern食のApoe-/-マウスに投与すると、血管のERストレスが軽減され、動脈硬化が抑制される。さらに、酸化ストレスもインスリン抵抗性、高血糖に伴う動脈硬化進展の原因になる。 NADPH oxidaseやglutathione peroxidase-1をターゲットとした治療が今後動脈硬化の治療に役立つと考えられる。
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by md345797 | 2011-12-15 23:27 | 心血管疾患