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ヒト多能性幹細胞の白色および褐色脂肪細胞へのプログラミング

Programming human pluripotent stem cells into white and brown adipocytes.

Ahfeldt T, Schinzel RT, Lee Y-K, Hendrickson D, Kaplan A, Lum DH, Camahort R, Xia F, Shay J, Rhee EP, Clish CB, Deo RC, Shen T, Lau FH, Cowley A, Mowrer G, Al-Siddiqi H, Nahrendorf M, Musunuru K, Gerszten RE, Rinn JL, Cowan CA.

Nat Cell Biol. Published online 15 Jan 2012.

【まとめ】
この研究では、ヒト多能性幹細胞(human pluripotent stem cells:hPSCs)を白色または褐色脂肪細胞に分化させる確実で効率的な方法を報告する。PPARG2のみまたは、CEBPBPRDM16 を、多能性幹細胞から分化させた間葉系前駆細胞(mesenchymal progenitor cells:MPCs)に、誘導可能な方法で(inducible)発現させることによって、白色または褐色脂肪細胞に85-90%の効率で分化させることができた。これらの脂肪細胞は、数週間培養で維持可能であり、成熟脂肪細胞のマーカーを発現し、脂質の分解やインスリン反応性などの成熟脂肪細胞の機能的特性を持っていた。さらに、これらのプログラムされた細胞をマウスに移植すると、白色または褐色脂肪組織に形態的にも機能的にも特徴的な脂肪パッドを異所性に形成した。これらの細胞は、ヒトの疾患の正確なモデルとして利用可能と考えられる。

【論文内容】
白色脂肪組織はヒトから採取可能であるが、培養によって維持したり増殖させたりすることは困難である。3T3-L1細胞の分化・転写調節の研究によって、PPARG2が脂肪分化のマスター調節因子であることが広く知られるようになっている。褐色脂肪組織は、CEBPBおよびPRDM16がその発生や機能の重要な調節因子である。いくつかのグループが脂肪細胞分化のヒト細胞モデルを作製するため、骨髄由来の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells:MSCs)や脂肪由来間質血管細胞(adipose-derived stromal vascular cells:ADSVCs)を用いているが、増殖能の低さや継代培養に伴う分化能の低下などの問題がある。これらの問題を解決するため、hPSCsを用いてヒト脂肪細胞を作製することが試みられてきたが、現在までに報告は白色脂肪細胞の作製のみに限られている。しかも、大量のhPSC由来脂肪細胞を作製できる効率的な方法はいまだに見つかっていない。この研究では、hPSCsから成熟した機能を持つ白色または褐色脂肪細胞を作製する、単純で高効率のプロトコールを報告する。

「ヒト多能性幹細胞(hPSCs)から間葉系前駆細胞(MPCs)への分化」および「MPCsから白色脂肪細胞への分化」
hPSCsから、(脂肪細胞へと分化する潜在能力を持っている)MSCsまたはMPCsを作製するプロトコールはいくつか知られている。そこでまず、hPSCsからMPCsの作製の単純化を検討した。ヒトES細胞(HUES8, HUES9)とヒトiPS細胞(BJ RiPS)を胚様体(embryoid bodies)に分化させると、10日後には線維芽様細胞が認められた。これらの細胞で、MSCに運命付けるマーカーであるStro1、CD29、CD105、CD73、CD44でフローサイトメトリー解析を行い、96%以上の細胞でこれらのマーカーが発現していることを確認した。この線維芽様細胞は骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞(後述)の3種類に分化させることができたため、この細胞を間葉系前駆細胞(MPCs)と呼ぶことにした。上記のhPSC由来のMPCsに、脂肪分化の誘導物質であるインスリン、rosiglitazone、デキサメサゾンを添加したところ、21日後には未熟な白色脂肪細胞に似た、脂肪滴を含む細胞が3-10%出現した。

MPCsから白色および褐色脂肪細胞へのプログラミング
このMPCsから白色脂肪細胞への分化効率を、脂肪細胞分化のためのプログラム因子であるPPARG2を用いることで改善しようと試みた。MPCsにdoxycycline(DOX)誘導性のPPARG2発現コンストラクト(lenti-tet-PPARG2)と恒常発現型reverse tetracycline transactivatorコンストラクト(lenti-rtTA)を、レンチウイルスを用いて発現させた。MPCsを脂肪分化mediumで培養し、DOXを用いて16日間発現誘導し、DOXを除いて5日間培養することにより、脂肪滴を含む成熟した白色脂肪細胞を得た。さらに、白色脂肪細胞の分化効率をCEBPAの発現で確認したところ、88%の細胞が白色脂肪細胞に分化していた。これらの細胞は白色脂肪細胞マーカーであるhormone-sensitive lipase (HSL)、adiponectin (ADIPOQ)およびFABP4を発現していた。

さらにこの方法を、MPCsを褐色脂肪細胞への分化にも用いた。転写因子CEBPBとPRDM16の組み合わせは、マウスとヒトの筋芽細胞を褐色脂肪細胞に分化させることが示されているため、PPARG2、CEBPB、PRDM16をDOX誘導性レンチウイルスコンストラクトを用いて発現させ、DOXを含んだ脂肪分化mediumで14日間、DOXを除いて7日間培養した。その結果得られた細胞には、UCP1の発現とミトコンドリアマーカー(MitoTracker)による染色が強く認められた。これらは褐色脂肪細胞と一致するものである。

hPSC由来の脂肪細胞は成熟マーカーを発現する
上記のPPARG2のみで誘導した脂肪細胞(programmed)は、分化させなかった細胞やDOXで誘導しなかった細胞(unprogrammed)と異なり、成熟白色脂肪細胞のマーカー遺伝子(LPL、HSL、ADIPOQ、FABP4、 CEBPA、PPARG2)の発現が認められた。また、PPARG2-CEBPB-PRDM16で誘導した脂肪細胞は、褐色脂肪細胞のマーカー(UCP1、ELOVL3、PGC1A、およびミトコンドリア生合成の調節因子CYC1)の発現を認めた。

プログラムされた白色脂肪細胞は培養脂肪細胞と同じ転写シグネチャを示し、プログラムされた褐色脂肪細胞はそれとは異なるシグネチャを示す
次に、上記のhPSC由来の白色脂肪細胞が、培養白色脂肪細胞(primary white adipocytes)と比較して転写プロファイルが似ているかをAffimetrixマイクロアレイとsignificance analysis of microarrays (SAM) アルゴリズムを用いて検討した。その結果、PPARG2の導入でプログラムされた白色脂肪細胞は、培養白色脂肪細胞と著明な類似を示した。また、プログラムされた褐色脂肪細胞は、transcriptomeのレベルでも、プログラムされた白色脂肪細胞および培養白色脂肪細胞とは異なっていた。

プログラムされた白色脂肪細胞、プログラムされた褐色脂肪細胞は各々の成熟した機能的特性を示す
プログラムされた白色脂肪細胞は、βアドレナリン受容体アゴニスト(isoproterenol)に反応して中性脂肪分解とグリセロール放出を行った。また、この細胞はadiponectinを多く分泌した。さらに、de novo脂肪酸合成と貯蔵を行っていることがtandem mass spectroscopy lipidomics platformによって示された。また、この細胞はインスリンに反応してAkt発現とSer473リン酸化が増加し、FFAの存在下でAktリン酸化が低下した。インスリンによる2-deoxy-D-glucoseの取りこみも増加した。したがってこの細胞はインスリン反応性や抵抗性のモデルとしても利用可能であると考えられる。

褐色脂肪細胞の機能的な特徴は、脂質分解による熱産生である。プログラムされた褐色脂肪細胞は、forskolinによるグリセロール放出が増加していた。さらに、酸素消費率(OCR)と細胞外酸化率(ECAR)が増加しており、これらはミトコンドリア活性の上昇によることが阻害剤による検討で示された。

hPSC由来脂肪細胞のin vivo移植
hPSC由来で得られた褐色および白色脂肪細胞を、3T3-F442A細胞をコントロールとして、免疫不全のRag2-/-Il2rg-/-マウスに移植し、in vivoでの機能を検討した。移植4-6週後に移植片の組織学的検討を行ったところ、奇形腫は認めなかった。また、ヒトの核特異的抗体(MAB1281)で染色したところ、ヒトの細胞核が染色され、白色脂肪細胞では同時にCEBPAが、褐色脂肪細胞ではUCP1が染色された。最後に18FDG取り込みとPET-CTを用いて、成人ヒトの褐色脂肪組織の検出を試みたところ、hPSC由来褐色脂肪細胞で、hPSC由来白色脂肪細胞と比べて明らかなFDG取り込みによるPETシグナルが認められた。

【結論】
本研究では、ヒト多能性幹細胞から白色および褐色脂肪細胞を効率よく作製するプロトコールを確立した。得られた褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞と異なる形態および遺伝子発現プロファイルを示し、実際の生体の組織と同様の特徴を示した。これらヒト多能性幹細胞から作製された脂肪細胞は、ヒトの疾患の正確なモデルとして利用可能であると考えられた。
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by md345797 | 2012-01-16 22:40 | その他