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概日時計による代謝の調節

Regulation of metabolism: the circadian clock dictates the time.

Sahar S, Sassone-Corsi P.

Trends Endocrinol Metab. 2012 Jan;23(1):1-8.

【総説内容】
概日リズムと代謝の間には相互関係(reciprocal relationship)が見られる。すなわち、概日時計が多くの代謝経路を調節する一方で、代謝産物や摂食行動が概日時計を調節していると言える。

代謝の概日調節
①概日時計によって調節される律速段階

例として、コレステロール生合成の律速酵素であるHMG-CoA reductaseの活性は概日リズムを示し、夜に最大になる。このことは、スタチンなどのコレステロール低下薬は就寝前に服用するのが最も効果的であることに応用されている。また、NAD+ salvage経路の律速酵素であるNAMPTも概日時計によって振動が調節されており、これがNAD+レベルの振動をもたらしている。
②核内受容体の概日調節
多くの核内受容体がCLOCKとBMAL1のヘテロダイマーによる概日調節を受けている。これらの受容体には、RORα、REV-ERBα、PPARαなどがある。CLOCKとBMAL1はPparaのプロモーターのE-box elementに結合することでPPARαの発現を調節し、一方でPPARαはBmal1プロモーターのPPARα response element (PPRE)に結合することでBMAL1の発現を調節する、という相互関係がある。このようなメカニズムにより、グルコースおよび脂質代謝の日内変動が起こると考えられている。
CLOCKとBMAL1は、PER(PERIOD)蛋白の概日発現を調節しており、PER蛋白がCLOCK・BMAL1のヘテロダイマーを阻害することにより、negative feedbackの調節をしている。PER2は、PPARγ、PPARαを含むさまざまな核内受容体と結合し、それらの標的プロモーターへの結合を調節している。そのため、Per2-/-マウスでは脂肪代謝に変化が見られる。すなわち、概日リズムの調節障害は代謝異常を惹き起こす。
③時計調節因子としての栄養素センサー
SIRT1:SIRT1は代謝経路で重要な作用を及ぼすさまざまな蛋白の脱アセチル化を担うdeacetylaseであり、NAD+依存性という特徴がある。NAD+/NADH比は細胞のエネルギー状態の指標となるため、細胞のエネルギー代謝とSIRT1活性は直接結びついている。前述のNAD+レベルの概日振動により、SIRT1活性も概日リズムを示す。SIRT1はCLOCK-BMAL1複合体に結合し、その概日時計の振幅を調節している。さらにSIRT1は、PGC1αやFOXO1を脱アセチル化して活性化することにより糖新生を、LXRを脱アセチル化してABCA1発現を誘導することによりコレステロール引き抜きを調節する。これらは、SIRT1による概日リズムの調節を受ける。
AMPK:AMPKは細胞内のエネルギー状態が低下すると(AMP/ATP比が高いと)活性化され、ATP産生に働く。AMPKはCRY1およびCK1εをリン酸化する。CK1εはPERを、AMPKはCRY1をリン酸化しdegradationすることで概日時計を調節している。AMPK活性化はNAD+の増加をもたらすため、AMPKはSIRT1活性化を介して間接的に概日遺伝子発現を調節する。
④Metabolomeの概日組織化
多数の血漿中の代謝産物(グルコースやアミノ酸、リン脂質など)は、そのレベルが概日振動していることが報告されている。概日時計のoutputというべき代謝産物の概日リズムは、それ自体が概日時計のinputになっている。

代謝による概日機能の調節 ―時には代謝が時計の針をねじ曲げる
マウスの摂食行動は概日時計に従っており、活動的になる夜になると摂食を行う。ところが、昼に摂食するように食餌を制限すると肝(末梢)での概日遺伝子発現が逆転する。すなわち、食餌が末梢時計の強力なZeitgeber(time-giver)になる。さらに、昼に高脂肪食を負荷したマウスは、夜に同じ高脂肪食を負荷したマウスに比べ、肥満の度合いが強く、摂食させるタイミングが代謝に重要であることが分かる。さらにタイミングだけでなく、食餌の質も重要で、高脂肪食負荷自体が概日リズムを変化させることが知られている。すなわち、代謝は末梢時計をコントロールしうるのである。

代謝ホメオスタシスにおける時計構成因子の役割
CLOCK・BMAL1:Clock/Clock変異マウスは概日リズムが消失し、過食・肥満になり、メタボリックシンドロームを呈する。肝特異的BMAL1欠損マウスでは、糖代謝に重要な遺伝子(glut2など)の概日発現が消失しているため、摂食サイクルの絶食相で低血糖をきたす。膵特異的BMAL1欠損マウスは、インスリン分泌が低下し糖尿病を呈する。また、BMAL1は脂肪分化にも関わっており、Bmal1-/-MEFsは脂肪細胞に分化しない。
REV-ERBα:REV-ERBαは当初、脂質代謝や脂肪分化を調節する核内受容体として同定されたが、Bmal1の発現を調節して概日振動の堅牢性を維持するためにも働いていることが明らかになった。REV-ERBαはNCoR1(nuclear receptor corepressor 1)によって活性が調節されている。NCoR1は、HDAC3 (histone deacethylase 3)をBmal1の転写抑制するようにゲノムに結合させる働きがある。肝での脂質代謝をつかさどる遺伝子は、HDAC3とREV-ERBαの主要な標的である。マウスでHDAC3またはREV-ERBαのいずれを欠損させても、脂肪肝が起こることが報告されている。
PGC-1α:PGC1-αは空腹、運動などの刺激によって誘導される転写coactivatorであり、褐色脂肪組織で酸化的リン酸化、適応熱産生などを調節する。このPGC-1αは、RORα、RORγをcoactivateして、Bmal1Rev-erbαの発現を促進する。PGC-1αの欠損マウスでは、時計と代謝の遺伝子発現に異常が生じる。PGC-1αは概日時計によって調節され、一方で時計を調節する。PGC1-αはSIRT1によって脱アセチル化を受けて活性化されるため、代謝状態と概日機能の重要な統合因子となっている。

今後の方向性
概日周期と代謝がカップリングしていることは、ヒトから酵母までさまざまな生物で明らかになっている。臨床的には、時計機能を調節する薬物が、代謝疾患の有効な治療に役立つ可能性がある。さらに、時間療法(chronotherapy:薬物を1日のうちのどの時間に投与するのが一番効果的で、副作用が少ないかの検討)が有用な治療の手段となるだろう。
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by md345797 | 2012-01-18 07:32 | その他