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PPARγ-FGF1軸は、適応のための脂肪組織リモデリングと代謝恒常性の維持に必要である

A PPARγ–FGF1 axis is required for adaptive adipose remodelling and metabolic homeostasis.

Jonker JW, Suh JM, Atkins AR, Ahmadian M, Li P, Whyte J, He M, Juguilon H, Yin Y-Q, Phillips CT, Yu RT, Olefsky JM, Henry RR, Downes M, Evans RM.

Nature. Published online, 22 April 2012.

【まとめ】
脂肪組織のリモデリングは、飢餓と飽食のサイクルという栄養状態の変動に適応して代謝恒常性を維持するために重要な過程だが、そのメカニズムは分かっていない。このグループは、FGF1がこの過程の重要な調節因子であり、FGF1の発現はPPARγによって調節されていることを明らかにした。

FGF1は22種の蛋白を含むFGFファミリーの原型で、発生・創傷治癒・心血管の変化など多くの生理学的過程で重要な役割を果たしているにもかかわらず、FGF1欠損マウスは通常の条件下では明らかな形質を示さない。しかし、このグループは、高脂肪食負荷を行うと脂肪組織におけるFGF1の発現が誘導されこと、Fgf1-/-マウスは強い糖尿病形質を示し、脂肪拡大の異常をきたすことを明らかにした。高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスの脂肪組織では血管ネットワークの異常や、炎症反応の亢進、脂肪細胞サイズの異常、膵リパーゼの異所性発現などが認められた。このマウスで高脂肪食負荷を中止すると、炎症性脂肪組織は広範な脂肪壊死を起こした。また、摂食後の高脂肪食による脂肪組織でのFGF1発現誘導はPPARγによって調節されている(FGF1遺伝子のプロモーターに近いPPAR反応性エレメントに作用することによる)ことが分かった。このFGF1欠損マウスの形質の発見によって PPARγ-FGF1軸が代謝恒常性とインスリン感受性維持に必要であることが明らかになった。

【論文内容】
高脂肪食に反応する遺伝子発現スクリーニングにより、内臓脂肪(精巣脂肪gonadal WAT=gWAT)の脂肪細胞分画で、FGF1発現が選択的に増加することが明らかになった。Fgf1-/-マウスは、過去の報告でもこの研究でも、通常条件下では代謝異常や遺伝子発現の変化は見られなかった。しかし、このマウスに高脂肪食を負荷すると、糖尿病形質(空腹時血糖およびインスリン値の増加、インスリン負荷試験でのインスリン抵抗性亢進、マクロファージの脂肪浸潤のマーカーである血清MCP1濃度の上昇)が認められた。さらに、この高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスは、高インスリン正常血糖クランプにて、グルコース注入率および肝糖産生抑制が低下しており、インスリン抵抗性の亢進が示された。このマウスは野生型と比較して脂肪肝が増強され(=脂肪がWATに貯められず肝にたまってしまう)、gWATへのマクロファージ浸潤の増加(=炎症性変化)が認められた。

高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスのgWATでは脂肪細胞のサイズが増加し、蛍光マイクロビーズを腹腔内注射した後の蛍光顕微鏡で血管密度の減少が認められた。さらに、マイクロアレイを用いた転写変化の解析で、PPARγの発現が増加していた。しかも、脂肪壊死関連の膵リパーゼと組織リモデリング因子であるelastase1の発現が大きく増加していた。

これらの異常は、高脂肪食負荷に反応する正常な脂肪リモデリングが障害されていることを示唆する所見である。そこで、高脂肪食負荷後のFgf1-/-および野生型マウスに再び正常食を与えたところ、Fgf1-/-では適応の異常が起こり脂肪組織の断片化および脂肪壊死が見られた。このことから、FGF1は、高脂肪食とその後の正常食という栄養状態の変動に伴う、脂肪組織の拡大と収縮過程に必要であることが分かる。言い換えれば、Fgf1-/-マウスは、食事の変化に反応する内臓脂肪のリモデリングができない。FGF1欠損による脂肪可塑性(adipose plasticity)の欠落は、脂肪肝や全身のインスリン抵抗性につながると考えられる。以上より、FGF1は栄養の変動に反応する脂肪組織リモデリングの調節因子であり、代謝疾患の防止に不可欠であると考えられた。

高脂肪食は血中のPPARリガンドの濃度を増加させる。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、PPARα、PPARγ、PPARδによる活性化によるFGF1A転写誘導の中では、PPARγによるものが最も強力であることがわかった。FGF1A転写産物のプロモーター領域の検討により、転写開始部位から約100bp近位に、高度に保存されたPPAR反応性エレメント(PPRE)を含む部位を同定した。このPPREを変異導入により不活化したところ、PPARγに対する反応は完全に消失した。PPARγによるFGF1調節の機能的保存性を確認するために、いくつかの動物種のPPREsを含むレポーターコンストラクトでヒト・マウスのFGF1Aプロモーターのアッセイを行ったところ、PPARγによるFGF1Aプロモーターの活性化は、4種の動物(ヒト、マウス、ラット、ウマ)のプロモーターで認められた。ChIP実験では、3T3-L1脂肪細胞でPPARγが実際に同定されたPPREに結合することを確かめた。PPARγ-Fgf1aプロモーターとの相互作用はWATの中でも脂肪細胞分画で特異的に起きている。以上より、脂肪細胞のPPARγ-FGF1軸は多くの動物で機能的に保存されていることが示唆された。

さらに、PPARγリガンドであるrosiglitazoneに対するFgf1a転写産物の発現を調べた。Fgf1-/-マウスに経口でrosiglitazoneを投与すると食後の状態でのみgWATのFgf1a転写産物が増加した。なお、脂肪細胞特異的PPARγ欠損マウスでは、脂肪細胞のFGF1量が低下していた。

【結論】
この研究では、栄養状態の変化(=高脂肪食の負荷と中止)が「センサースイッチ」であるPPARγのスイッチをON/OFFし、その「シグナル変換因子」であるFGF1が、栄養状態に適応するための脂肪組織リモデリングを起こす、というメカニズムが明らかになった。FGF1欠損マウスは、食事に応じた脂肪組織のリモデリングが正しく起きず、その結果代謝障害・インスリン抵抗性をきたすことから、FGF1が代謝恒常性に不可欠な役割を果たしていることが分かる。最近は、いくつかのFGFファミリー(FGF15/19、FGF21)が代謝恒常性に関連していることが分かってきている。今回の研究では、FGF1も代謝恒常性に関与し、PPARγ–FGF1軸が脂肪組織に必要なリモデリングと全身のインスリン感受性の亢進を担っていることが示された。
by md345797 | 2012-04-25 04:48 | エネルギー代謝