人気ブログランキング | 話題のタグを見る

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

CREBとそのco-activator CRTCs:ホルモンと代謝シグナルのセンサー

CREB and the CRTC co-activators: sensors for hormonal and metabolic signals.

Altarejos JY, Montminy M.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2011 Mar;12(3):141-51.

【まとめ】
① CREBは、G蛋白共役受容体にリガンド(グルカゴンなど)が結合→細胞内cAMPが増加→PKAの核内への移行(活性化)→核内でCREBのSer133がリン酸化を受け活性化されることにより、cAMP反応性遺伝子の発現を誘導する。Ser133がリン酸化されたCREBは、CBP/p300との結合が増加することにより、その活性が増加される。
② CRTCsは、細胞内カルシウム増加によってcalcineurinによる脱リン酸化を受け核内へ移行するとCREBに結合し、CREB標的遺伝子の発現を促す。
CRTC1は、視床下部に限局して発現しており、ここでレプチンの食欲抑制に関与している。CRTC1は弓状細胞(arcuate cells)において神経ペプチドCART1の発現を促進することにより、摂食を抑制する。
CRTC2は、空腹時の肝においてグルカゴンによる糖新生を促進する。CREBとCRTC2活性は高血糖、インスリン抵抗性の状態で増加している。
CRTC3は、白色および褐色脂肪組織においてカテコラミンシグナルを抑制することにより肥満を促進する。ヒトにおいてCRTC3の機能亢進性の変異は、肥満に関連している。
⑥ CRTCsは、線虫およびショウジョウバエでグルコースと脂質代謝における空腹・摂食シグナル、寿命を調節している。

【総説内容】
CREB活性の調節

遺伝子プロモーター上のCRE(cAMP-responsive element)への結合蛋白であるCREB(cyclic AMP-responsive element-binding protein)は、リン酸化を受けるとCBP(CREB-binding protein)/p300(=p300はCBPのparalog)との結合が促進され、転写活性が増加する。G蛋白共役受容体にリガンド(グルカゴンなど)が結合すると、細胞膜状のAC(adenylyl cyclase)活性化により、細胞内cAMPが増加する。このcAMPはPKAの調節サブユニットを外すことによってPKAの活性化・核内移行が促進される。核内でCREに結合しているCREBは、PKAによってそのSer133がリン酸化されると、CBP/p300との結合が促進される。CBP/p300はhistone acetyl-transferaseであり、ヒストンをアセチル化する(DNAを「ほぐし」、RNA polymeraseⅡ複合体を呼び寄せる)ことにより、CREBの標的遺伝子の発現を増加させる。

CREBのco-activatorであるCRTCs
CERBのco-activatorであるCRTCs(cAMP-regulated transcriptional co-activators)には、3種類(CRTC1、CRTC2、CRTC3)あり、共通したドメイン構造をもっている。CRTCは、細胞質でSIK2(salt-inducible kinase 2)によってリン酸化されていると14-3-3蛋白が結合し不活性の状態を保っている。しかし、細胞内カルシウム濃度の増加によってcalcineurin(Ser/Thr phosphataseである)が活性化されると、calcineurinにより脱リン酸化を受け、細胞質内に移行、CREBと結合してその活性を増加させる。

肝糖新生におけるCREBの作用
絶食時は膵グルカゴンの分泌が増加し、これがG蛋白共役受容体の活性化を介して標的細胞内cAMP濃度が増加する。これによりPKAが活性化され核内移行すると、核内のCREB Ser133をリン酸化し、CREB標的遺伝子である糖新生酵素(PEPCKやG6Pase)の発現が増加、最終的には肝の糖新生が亢進する(=絶食時の肝糖産生促進)。CREBの標的遺伝子には、PGC-1αやNA4R1があり、これらの発現は持続する絶食に伴う、肝糖産生遺伝子発現の増幅に役立っている。絶食時には、グルカゴンがcAMPの増加、PKA活性化を介してSIK2をリン酸化・不活性化し、CRTC2はリン酸化が抑制されている。その結果、CRTC2は核内に移行し、CREBを活性化、肝糖産生増加に働く。

一方、摂食時はインスリンの分泌が増加し、細胞質でAKTの活性化を介したSIK2の活性化が起きる。これによりCRTC2のSerのリン酸化・核からの除外が起こり、CREB活性は低下し、肝糖産生遺伝子の発現が減少する(=摂食時の肝糖産生抑制)。

なお、上記のようなリン酸化/脱リン酸化によるon-off制御以外に、絶食時はCREBに結合しているCBP/p300がCRTC2のLys628をアセチル化する。このアセチル化によりCRTC2は安定化し、CREBの活性化、肝糖産生酵素の発現増加をもたらす。一方、摂食時はインスリンによるSIK2の活性化により、CBP/p300のSer89リン酸化(CREBとの結合阻害)が起こり、それに伴いCRTC2のアセチル化が消失、ユビキチン化が起こり、CRTC2は proteasomal degradationを受ける。これによってもCREBの不活性化、肝糖産生酵素の発現低下が起きる。

CREBとそのco-activator CRTCs:ホルモンと代謝シグナルのセンサー_d0194774_8395673.jpg

(注:上図では、CREBやCBP/p300が細胞質でリン酸化されて核内に移行するかのように描かれているが、正しくはこれらの蛋白はもともと核内にあり、核に移行したPKAやSIK2によってリン酸化を受ける。CRTC2は、リン酸化・脱リン酸化によって細胞質・核を移行する。)

長時間の絶食や激しい運動により細胞内のエネルギーレベルが減少すると、AMPKが活性化される。このAMPK活性化は、CRTC2のリン酸化・核からの除外を介して肝糖産生を抑制する。肝糖産生が抑制されると、肝のβ酸化やケトン体産生が亢進し、肝のエネルギー産生はグルコースからケトン体によるものへと変わっていく。メトフォルミンもAMPK活性化によるCRTC2リン酸化を促進することにより、糖尿病での肝糖産生亢進を低下させる。絶食が長時間にわたると、CRTC2は、(NAD+依存性脱アセチル化酵素である)SIRT1によってLys628の脱アセチル化を受け、ユビキチン化とproteasomal degradationを受けて、活性が低下する。

糖尿病における高血糖は、細胞内蛋白のSer/Thr残基のO-glycosylaionを起こし、それらのリン酸化を減少させる。高血糖により、肝におけるO-GluNAc transferase(OGT)の発現が亢進し、CRTC2のSer171がO-glycosylationを受けると、CRTC2はリン酸化されなくなり核内へ移行し、CREBの活性化と肝糖産生の亢進を起こす(高血糖に伴う肝のインスリン抵抗性)。

CREBとCRTC2は、高血糖(肝の糖産生亢進)の治療ターゲットになりうる。CRTC2欠損マウスは、高脂肪食を負荷しても肝の中性脂肪が少なく、インスリン抵抗性を起こしにくい。

膵島におけるCREB経路
膵β細胞では、CREBとCRTC2は、グルコースやインクレチンによるインスリン産生に関与している。Dominant negative CREBをβ細胞に過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、β細胞増殖が低下・アポトーシスが増加して、インスリン分泌の低下と高血糖が起きる。インクレチンであるGLP1は、cAMP産生からPKA活性化によるSIK抑制を介したCRTC2のSer171脱リン酸化により、またグルコースは細胞内カルシウム増加によるcalcineurin(Ser/Thr phosphatase)を介したSer275の脱リン酸化により、それぞれCRTC2を核内移行させ、CREB活性化によりIRS2の発現を増加させることにより、β細胞生存を促進していると考えられている。

脂肪組織におけるCREBの役割
肥満や高脂肪食負荷により、脂肪細胞のCREBリン酸化・活性は増加する。これにより転写リプレッサーであるATF3の発現が増加し、アディポネクチンやGLUT4の発現が低下しインスリン抵抗性を起こすと考えられている。白色(WAT)および褐色脂肪組織(BAT)にはCRTC3が発現しており、インスリン抵抗性に関与している。レプチンは視床下部を介して交感神経系活性化、カテコラミン放出を起こし、WATの脂肪分解とBATの脂肪燃焼を引き起こしている。CRTC3欠損マウスは、高脂肪食を負荷しても肥満や脂肪肝をきたさず、エネルギー消費亢進によりインスリン感受性を保っている。これはCRTC3がカテコラミンのシグナル伝達を抑制している(RGS2の発現によりadenylyl cyclaseを阻害するため)ことによる。肥満のヒトにおいても、CRTC3の変異(Ser72Asnのgain-of-function変異)が肥満に関連していることが示されている。

骨格筋におけるCREBの機能
Dominant negative CREBを骨格筋で過剰発現したマウスは、骨格筋において進行性の炎症と壊死を伴う筋ジストロフィーの所見が見られた。また、CREBとCRTCsは、骨格筋のPGC1αの発現を促進してミトコンドリア酸化能を増加させる。

視床下部におけるCREBの役割
CRTC1の発現はほとんど中枢神経系に限られており、主に弓状細胞でエネルギーバランスを調節している。CRTC1欠損マウスは過食、肥満をきたし、レプチン抵抗性である。レプチンは、弓状細胞のCRTC1を脱リン酸化し、核への移行を促進する。これにより、CREBのターゲットである摂食抑制ペプチドCARTの発現を増加させる。

寿命調節におけるCREBの役割
下位生物において、寿命の調節にCREBおよびCRTCsが役立っているという報告がある。ショウジョウバエではCRTCホモログ(Transducer of regulated CREB、TORCと略される。なおmTOR complexであるmTORC1、2とは無関係)は脂肪組織を減らし、飢餓に対する感受性を増加させる。線虫においては、唯一のCRTCホモログとしてCRTC-1が存在し、AMPKによるリン酸化(またはcalcineurinによる脱リン酸化)により核から除外(または核内へ移行)し、CREBホモログ(CRH-1)の活性低下(または亢進)によって、寿命が延長(または短縮)する。
by md345797 | 2012-05-10 00:40 | シグナル伝達機構