一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

生物学的過程にロバストネスをもたらすmicroRNAの役割

Roles for MicroRNAs in Conferring Robustness to Biological Processes.

Ebert MS, Sharp PA.

Cell. 2012 Apr 27;149(3):515-24.

【総説内容】
MicroRNA (miRNA)は20-24塩基からなるRNAで、標的遺伝子のmRNAの3’ UTRに結合して、その発現を転写後に抑制する。蛋白をコードする遺伝子の60%以上がmiRNAの標的であると考えられている。また、ロバストネス(robustness)とは、システムが内的・外的な擾乱に対して、その機能を維持する能力のことをさす。生物学では、蛋白レベル、細胞レベル、個体レベルなど様々なレベルでのロバストネスが想定されている。この総説では、miRNAが生物学的なロバストネスにどのように貢献しているかを概説する。

正確な発生分化のための調節
最も早くに見出されていたmiRNAの機能は、発生を決まった方向に遷移させる役割であった。例えば、Drosophilaの胚で神経外胚葉前駆細胞がニューロンに分化する過程では、ニューロンの遺伝子はmiRNAであるmiR-124によって抑制される部位を持っていないが、同じ神経外胚葉由来である表皮組織の遺伝子はmiR-124によって抑制される部位を持っているため、miR-124が作用すると表皮組織ではなくニューロンに分化する発生過程が促進される。同じく、表皮組織に分化する過程では外胚葉に特異的なmiR-9aが作用しニューロンへの分化を抑える、という相互作用のパターンが見られる(下図)。このようなパターンを(ニューロン、表皮組織が両者ともお互いの発生をどちらも抑制しあう;位相が合っているという意味で)コヒーレントな調節と呼ぶ。
d0194774_894245.jpg


細胞運命決定のためのフィードフォワード・フィードバック
コヒーレントなフィードフォワードループ(FFL)とは、下図のAのように、コンポーネントAはCを抑制するが、AはさらにBを活性化する。そのBもCを抑制するといったものである(A、BもどちらもCを抑制する点が「コヒーレント」である)。もし、Aのシグナルが一時的に減少しても、その影響は残存するBによって代償され、下流のCを確実に阻害することができる。このネットワークモチーフは分化系列の決定においてよく見られ、例えば顆粒球形成において、C/EBPαはE2F1の転写を阻害するが、C/EBPαは同時にmiR-223の発現を促進しこれが転写後調節を介してE2F1の発現を抑制している。さらに、このフィードフォワードループには、E2F1がmiR-223の発現を阻害するというフィードバックループが連動している。このフィードバックループにより、細胞は「消去すべき一時的な外乱」を受けたのではなく、「維持されるべき持続的な変化」を遂げる方向に進む。また、下図のBでは、コンポーネントAとBの間に相互に負のフィードバックが見られる。このモチーフは、骨髄系前駆細胞が顆粒球に分化したのち顆粒球が再び前駆細胞の状態に戻るのを防ぐために、転写因子NFI-AがmiR-223を阻害し、さらにmiR-223がNFI-Aを阻害することにより安定性を保つ際に用いられている。下図のCでは、コンポーネントAとBの間に相互に正のフィードバックが存在している。これは線虫において、LIN12がmiR-61の転写を活性化し、miR-61がLIN12の負の制御因子であるvav-1を抑制することで、LIN12活性を保ち分化決定を促進する機構に見られる。
d0194774_6425533.jpg


正のフィードバックが小さな変化を増幅する
個々のmiRNAがターゲットの蛋白発現量に及ぼす影響はわずかであるが、蛋白発現量のわずかな変化が増幅されると大きい生理学的な効果をもたらしうることは以下のような例でみられる(下図)。癌細胞では、Srcの一時的な活性化がNFκB活性化をもたらし、活性化されたNFκBはIL6の転写を活性化する。NFκBは一方で、Lin-28Bの活性化を介してmiRNAであるlet-7の転写を阻害する。ここでlet-7の減少は、直接の抑制ターゲットであるIL6およびRasの抑制解除(derepression)につながり、これらの増加がNFκBのさらなる活性化を介してIL6の増加を増幅する。増幅されたIL6はSTAT3を大きく活性化し、細胞成長を促進する。正常の組織ではlet-7が多く発現しているためにNFκB/IL6間の正のフィードバックは抑制されるが、癌ではlet-7発現が低下しており、NFκB/IL6間の正のフィードバックが暴走してしまう。ヒトの癌ではさらに癌原生の変異(v-Srcやv-Ras)がこの正のフィードバックをさらに増強する。
d0194774_6431373.jpg


バッファーとしてのmiRNA
miRNAには、遺伝子発現量の変化に対抗するための「バッファー」としての働きがある。発現量の変化を抑える一つの方法が、下図AのようにコンポーネントAがBを活性化し、BがAを阻害するという負のフィードバックループである。例えば、MeCP2はBDNFを介して神経のmiR-132の発現を増加させ、miR-132はMeCP2の発現を抑制する。この負のフィードバックループにより、MeCP2の恒常性が保たれる(MeCP2の発現は、増加しすぎても減少しすぎても神経発生の障害を起こしてしまう)。蛋白発現量は、以下で述べるような内因性のノイズや外因性のノイズによってランダムに変動しうるが、miRNAはその変動を小さくする働きを担っている。

内因性のノイズとは、転写のような「確率的なイベントから生じる変動」のことをいう。転写は確率的バースト(ある間隔をおいて送り出される信号)として起こり、転写速度が高いとノイズは少なくなる。翻訳はmRNAバーストを増幅するため、ノイズは翻訳速度の増加とともに直線的に増加する。したがって、ある遺伝子が高速で転写され、同時にmiRNAを用いて翻訳速度を低下させると、細胞は発現蛋白量の変動を少なくできる。下図Bでは、単位時間あたり同じ20分子の蛋白(紫のバー)を発現させる場合、転写速度が大きければmRNAバースト(黒のバー)が多くなり、それぞれのmRNAの翻訳速度が小さければ蛋白発現量の変動は少なくなることを示している。
d0194774_6434054.jpg

また、外因性のノイズとは、転写因子などの違いから生じる変動のことをさす。ある遺伝子の外在性のノイズはターゲット遺伝子を転写因子と共同で調節するmiRNAによって減少させることができる(上図C右)。このようなモチーフは、ターゲット遺伝子は転写因子により発現が「促進」、miRNAにより発現が「抑制」と位相が違うため、「インコヒーレントなフィードフォワードループ」と呼ばれる。ここでもし転写因子活性が低下しても、miRNAの抑制解除によりターゲット遺伝子の発現は増加する。すなわち、蛋白発現量は転写因子活性の変動(外因性のノイズ)を受けにくい。mRNA量とそれに伴う蛋白発現量の関係のグラフ(図C左)を見ると、インコヒーレントなフィードフォワードループでは蛋白発現量が安定している。これらはmiRNAがバッファーとして作用している例と考えることができる。

mRNA発現の閾値効果と内因性のmiRNA競合
最近、miRNAターゲット遺伝子は、それ以下では発現が効果的に抑制され、それ以上ではmiRNA効果を超えるという「mRNAの閾値」を持つことが示された(下図参照)。ターゲットmRNAの量がある閾値以下のとき、ターゲットは強く抑制され(赤の部分)、閾値以上であれば抑制は弱い(青の部分)、というように、miRNAとそのターゲットmRNAの量の関係によってターゲット蛋白の量は非直線的に増加する(下の白線)。
d0194774_6442944.jpg

また最近、内因性の転写産物で、自然にできたmiRNAデコイ(おとり)のように働く「競合内因性RNA(competitive endogenous RNA; ceRNA)」の存在が報告されている。細胞あたりどのくらいの量のceRNA分子が、どのくらいの量のmiRNAに競合しているのかという定量的な検討はまだ行われていない。
[PR]
by md345797 | 2012-05-15 06:45 | その他