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健康なヒトのmicrobiomeの構造、機能、多様性

Structure, function and diversity of the healthy human microbiome.

Human Microbiome Project Consortium.

Nature. 2012 Jun 13;486(7402):207-14.

【まとめ】
ヒトmicrobiomeの研究によって、腸、皮膚、膣などの体内生息環境(body habitat)に常在する微生物は、健康な個人どうしであっても、大きく異なることが分かっている。この多様性の原因はまだ分かっていないが、食事、環境、宿主の遺伝的特性、幼少期の細菌曝露などがすべて関わっていると考えられている。そこでHuman Microbiome Project (HMP)では、今までで最大規模のコホートで体内生息環境に常在する微生物コミュニティの解析を行った。これにより、健康な個体間であっても、体内生息環境の微生物の多様性や量が大きく異なっており、一個人の体内で、また個人間で、強いニッチの特殊化が見られた。このプロジェクトにより、健康な欧米人のmicrobiomeを占める微生物の属(genera)、酵素ファミリー、微生物構成の推定81-99%を見出すことができた。Metagenome的に見た代謝経路は、微生物群構造の違いがあるにもかかわらず個人間で一定しており、民族的・人種的背景が、代謝経路と微生物の両方を臨床的なメタデータに結び付ける要因の一つであることが示された。これらの結果により、健康なヒトの微生物コミュニティの構成が明らかになり、ヒトmicrobiomeの今後の疫学・生態学・トランスレーショナルな応用が可能となった。

【論文内容】
Human Microbiome Project (HMP)の健康な242名(男性129名、女性113名)からの4,788検体を解析した。女性は18の、男性は15の体内生息環境から検体を採取した。すなわち、口腔と咽頭の9か所、皮膚の4か所、鼻孔、便(下部腸管)および、女性は膣3か所から検体を採取した。個人間のmicrobiomeの安定性を調べるため、113名は平均219日の期間をあけて再度採取した。それらの検体は、16S rRNA遺伝子解析を行い、機能解析のためIllumina shotgun metagenomic readsを用いた配列決定を行った。

体内生息環境における微生物の多様性については、例えば肥満や炎症性腸疾患では腸内細菌の多様性が低下し、膣炎では膣内細菌叢の多様性が増加しているなどのことが分かっている。本研究では、健常人の微生物コミュニティの属の81-99%を明らかにした。口腔と便の微生物コミュニティは特に多様であり、膣は比較的単純であった。また、一検体内での多様性(α多様性=ある生息環境内の多様性)と各個体間の同一生息環境検体の多様性の比較(β多様性=別々の環境間の種多様性の違い)は大きく異なる。例えば、唾液はOTU(operational taxonomic unit、操作的分類単位)のα多様性は高いが、β多様性は低い(唾液の中の微生物種は多いが、個人間で比較しても微生物種の種類は大体同じ)。逆に皮膚はβ多様性は高いが、α多様性は中程度。膣はOTUが高いがα多様性は最も低く、Lactobacillus種が多いため属レベルでのβ多様性も極めて低い。なお、同一個人間の時間ごとの変化は、個人間の差異より常に小さかった。

すべての体内生息環境およびすべての個人に存在する微生物の分類群(taxa=属generaの下の分類)はなかった。ただしいくつかの分岐群(clade)が広く存在することは分かった。ほとんどすべての個人のそれぞれの体内生育環境は一つか少ない特徴的な分類群(signature taxa)を持ち、例えば、口腔内の常在菌は主にStreptococcusであり、頬粘膜のHaemophilusがそれに次ぐなどのことが示された。

ヒトmicrobiomeの分類学的詳細は16Sプロファイリングを補うためのmetagenomeデータのマーカー配列を同定することによって得られた。病原体(Vibrio cholerae, Mycobacterium avium, Campylobacter jejuni, Salmonella enterica)は検出されなかったが、Helicobacter PyloriE.coliはわずかに見られた。すなわち、微生物叢(microbiota)は健康な構造をしていることが本研究でも示された。

Microbiomeの個体間の変異は、特異的で、機能的に関連し(functionally relevant)、個別化されたものである。例えば、口腔のStreptococcus種は、個人間で大きな種の違いが見られる。

この研究ではさらに、微生物コミュニティにおける代謝および機能的な経路(pathway)についても検討した。その結果、分類学的および機能的なα多様性は優位に相関した。また、微生物の分類群とは異なり、いくつかのpathwayは個体および体内生息環境を通じて普遍的であった。もっとも多く見られるpathwayとしては、ribosomeと転写の機構、核酸の交換、ATP合成、解糖系などの微生物の生命の基本となるものであった。

最後に、微生物叢の分岐群と代謝の両方と宿主の特性(年齢、性別、BMI、他の臨床的なメタデータ)との関連を検討した。その結果、960の微生物および酵素のpathwayの量は、15個体の形質とメタデータに有意に関連した。例えば、膣のpHは微生物構成と相関し、高いpHではLactobacillusが減少し代謝の多様性が増加していた。個体の年齢は皮膚のmetagenomeにエンコードされたpathwayの高度な変異と関連していた。

【結論】
今回、多くの個人と体内生息環境から採取したヒトmicrobiomeのデータは、欧米の健康人の正常微生物叢(microbiota)の特徴を初めて示したものである。さらに、microbiomeと臨床パラメータの関連も示され、micobiomeに基づいた疾患の理解も進むことになるだろう。
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by md345797 | 2012-07-10 18:07 | その他