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ベージュ脂肪細胞は、マウスとヒトにおける独自の熱産生脂肪細胞である

Beige adipocytes are a distinct type of thermogenic fat cell in mouse and human.

Wu J, Boström P, Sparks LM, Ye L, Choi LH, Giang A-H, Khandekar M, Virtanen KA, Nuutila P, Schaart G, Huang K, Tu H, Lichtenbelt WDM, Hoeks J, Enerbäck S, Schrauwen P, Spiegelman BM.

Cell. 2012 Jul 20;150(2):366-76. Epub 2012 Jul 12.

【まとめ】
褐色脂肪は、ミトコンドリア脱共役蛋白UCP1を介して熱産生を行い、低体温と肥満を防止する働きをしている。最近の研究により、2つの区別できるタイプの褐色脂肪があることが分かっている。一つはmyf-5(筋肉様)細胞系列から発生する古典的な褐色脂肪であり、もう一つは非myf-5系列由来の白色脂肪から発生するUCP-1陽性細胞であり、後者はベージュ(または”brite”)脂肪細胞と呼ばれている。この研究では、マウスの白色脂肪組織からベージュ脂肪細胞を単離したことを報告する。ベージュ細胞は、白色脂肪と同じくベースのUCP1の発現は極めて低いが、古典的な褐色脂肪同様、cAMP刺激に反応して高レベルのUCP1発現と呼吸率を示す。ベージュ細胞は、白色脂肪とも褐色脂肪とも区別される独自の遺伝子発現パターンを持ち、ポリペプチドホルモンであるirisinに選択的に反応する。さらに、以前同定された成人ヒトの褐色脂肪組織は、ベージュ脂肪細胞からなることも示された。この新しいタイプの脂肪細胞の研究は治療への基礎につながると考えられる。
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【論文内容】
多房性のUCP1陽性細胞は、マウス皮下白色脂肪組織に多く含まれる
従来より、マウスの皮下白色脂肪組織は、内臓白色脂肪組織に比べると、高率にUCP1や他の褐色脂肪遺伝子を発現する傾向があることが知られていた。129SVEマウスの鼠径皮下脂肪においても、多房性(multilocular)の褐色脂肪様の細胞が見られた。この皮下脂肪組織の遺伝子発現解析によると、UCP1および褐色脂肪遺伝子 (CIDEA、PGC1α)の発現が見られた(発現量は内臓白色脂肪組織と古典的な褐色脂肪組織の中間程度であった)。これらの細胞をin vitroで分化させても、同様の遺伝子発現が見られたため、これらの細胞の「中間的な褐色」の性質は、外因(神経支配、血流など)によるものでないと考えられた。

遺伝子発現解析により、皮下脂肪組織の中に2つの区別できる脂肪細胞タイプが存在することが示された
鼠径部皮下脂肪のSVF(stromal vascular fraction)を単離して培養し、限界希釈法によって個々の細胞をクローン化した。これらのうち、20以上が分化誘導によって脂肪を蓄積した。同様に肩甲骨間褐色脂肪からも3つのクローン細胞株を得た。これらの細胞株を分化させ、forskolin(cAMP-inducing agent)で処理したのち、RNAをマイクロアレイで解析したところ、白色脂肪細胞の23細胞株は2つのグループに分けられた。このクラスタリングによると、鼠径部白色脂肪由来の1グループの方はもう1つのグループに比べて、褐色脂肪細胞株により近い遺伝子発現を示した。これら3つの細胞株グループを主成分分析で解析したところ、古典的な褐色脂肪細胞に近い(が同じではない)独自の細胞集団(ベージュ細胞)の存在が示唆された。

ベージュ細胞は白色および褐色脂肪細胞の両方の特徴を持つ
皮下脂肪由来の2つのサブグループ(白色脂肪細胞とベージュ細胞)は、同様の脂肪合成と脂肪細胞特異的マーカー(aP2、Adiponectin、Adipsin、Pparγ)の発現を示した。どちらの細胞もベースの状態では、古典的な褐色脂肪細胞で見られる遺伝子(Ucp1、Cox7a1、Cidea)の発現は少なかった。しかし、cAMP刺激後はベージュ細胞株でのUcp1遺伝子発現の誘導は非常に大きく、肩甲骨間褐色脂肪細胞と同レベルに達した。cAMPによるUcp1誘導の倍率は、褐色脂肪細胞で40倍程度なのに対し、ベージュ細胞では150倍程度と非常に大きかった。

次に、移植実験によりin vivoでの白色脂肪細胞およびベージュ細胞のUcp1発現能の差を検討した。免疫不全マウスに白色またはベージュ細胞株を移植すると、in vivoで分化して4-6週間後には異所性脂肪パッドを形成する。ベースの刺激のない状態では、ベージュ細胞株も白色細胞株も、Cidea、Cox7a1、Ucp1発現レベルは同様であった。これらのマウスに交感神経刺激を模倣するCL316,243 (β3-adrenergic agonist)を投与し5時間後に脂肪パッドを採取したところ、ベージュ細胞株由来の脂肪由来の脂肪パッドではUcp-1 mRNAがベースの10-30倍に増加していたのに対し、白色細胞株由来の脂肪パッドでは5倍程度の増加であった。このように白色およびベージュ細胞のUcp1発現の違いは、in vivoでも確認することができた。

さらに、白色、ベージュ、褐色細胞のミトコンドリア呼吸(酸素消費)を調べるため、oligomycin(ATP synthase inhibitor)添加により、脱共役呼吸率(uncoupled respiration rate)を比較した。まず、褐色細胞でcAMP刺激なしのとき、脱共役呼吸がベースの呼吸率の78%を占めていた。これはベージュ細胞の60%より有意に大きかった。cAMP存在下では、脱共役呼吸は褐色細胞で1.2倍に増加したのに対し、ベージュ細胞では2倍に増加した。白色脂肪細胞では脱共役呼吸のcAMPによる増加はほとんど見られず、褐色およびベージュ細胞に比べcAMP存在下でのベースまたは脱共役呼吸率は有意に低かった。以上より、ベージュ細胞は高い呼吸能を持ち、cAMPに対する反応性は褐色細胞より高いことが明らかになった。

ベージュ脂肪細胞は独自の遺伝子発現プロファイルを示す
ベージュ脂肪細胞と褐色脂肪細胞は、関連はあるが別個の遺伝子発現プロファイルを示していた。ベージュ選択的遺伝子は、発生過程の転写因子(Tbx1)、脂質代謝経路のコンポーネント(Slc27a1)、免疫・炎症経路で重要な分子(CD40、CD137)などを含んでいた。マウス脂肪組織においても、鼠径脂肪組織ではTMEM26、CD137、TBX1などのベージュ脂肪細胞マーカーが増加していたのに対し、肩甲骨間褐色脂肪組織ではEva1などの褐色脂肪細胞マーカーの発現が増加していた。これらの発現は、in vivoの免疫染色でも確認でき、鼠径脂肪組織のUCP1陽性細胞はCD137とTMEM26の発現が認められた(肩甲骨間褐色脂肪組織のUCP1陽性細胞には認められなかった)。

ベージュ細胞表面蛋白は、初代ベージュ脂肪前駆細胞の選択に用いることができる
ベージュ細胞特異的マーカー(CD137、TMEM26)が同定されたので、FACSを用いてSVFから初代細胞を単離することが可能となった。CD137陽性細胞やTMEM26陽性細胞はそうでない細胞に比べてUcp1の発現や他の熱産生関連遺伝子(ミトコンドリア遺伝子のCox7a1Cox8b、転写調節因子Prdm16Pgc-1β、熱産生ホルモンFgf21)の発現が高レベルであった。

このグループは最近、筋肉から分泌され運動によって増加するペプチドホルモンであるirisinを報告している。Irisinは、皮下白色脂肪組織を「褐色化(browning)」するが、肩甲骨間から採取した古典的な褐色脂肪細胞にはほとんど影響を及ぼさない。このirisinをヒトIgGのFcフラグメントとの融合蛋白(irisin-Fc)、または膜貫通前駆体であるFNDC5として、初代鼠径部前駆細胞として単離したベージュ細胞(CD137高発現細胞)に添加した。Irisin添加により、これらの細胞ではUcp-1および他の褐色様遺伝子(Prdm16Cox8b)の発現が増加した。Irisinは白色脂肪細胞(CD137低発現細胞)にはほとんど影響はなかった。このことから、ベージュ前駆細胞はirisinによる褐色化効果の感受性が特に高いことが分かる。

成人ヒトの褐色脂肪は、マウスの褐色脂肪細胞よりベージュ細胞の分子的特徴を多く持っている
2つの独立したコホートから生検で採取した成人ヒト褐色脂肪組織を用いて、ベージュ細胞または褐色細胞特異的遺伝子の発現レベルを解析した。褐色脂肪組織にも白色脂肪細胞が混入しているものの、Ucp1 mRNA発現レベルは、白色脂肪組織サンプルに比べ、褐色脂肪組織で数倍多かった。ベージュ細胞の特徴的遺伝子であるCD137、TMEM26、TBX1の発現は、ヒト白色脂肪組織に比べ褐色脂肪組織で多かった。重要なことは、古典的なマウス褐色脂肪の特徴的遺伝子であるEBF3、EVA1、FBO31はどちらの組織でも発現に差がなかったということである。成人ヒト褐色脂肪組織には褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞が混合しているため、免疫染色によりUCP1陽性細胞を同定した。すると、鎖骨上部位の褐色脂肪組織におけるUCP1陽性細胞は、ベージュ細胞マーカーであるCD137とTMEM26も陽性であった。一方、近傍の白色脂肪組織(perilipin-1陽性、UCP1陰性)ではCD137の発現は見られなかった。これらの結果から、成人ヒトで同定された褐色脂肪組織は、マウスにおける古典的な褐色脂肪ではなく、ベージュ脂肪により似ていると考えられる。

【結論】
マウス皮下脂肪内に、古典的な白色脂肪細胞とも褐色脂肪細胞とも異なる「ベージュ脂肪細胞」を生じる前駆細胞を同定した。ベージュ細胞は、非刺激下の状態ではUCP1を含む熱産生遺伝子をほとんど発現していないが、刺激後は褐色脂肪細胞と同程度のUCP1を発現する。また、成人ヒトの鎖骨上および頚部の褐色脂肪組織は、、古典的な褐色脂肪細胞というよりもベージュ脂肪細胞に選択的なマーカーを発現していた。なお、運動によって増加するホルモンであるirisinは、マウスのベージュ脂肪細胞を活性化することが示されているため、ヒトでの応用可能性も示唆された。
by md345797 | 2012-07-18 01:08 | エネルギー代謝