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脂肪組織のnatural killer T細胞はインスリン抵抗性を防止する

Natural killer T cells in adipose tissue prevent insulin resistance.

Schipper HS, Rakhshandehroo M, van de Graaf SF, Venken K, Koppen A, Stienstra R, Prop S, Meerding J, Hamers N, Besra G, Boon L, Nieuwenhuis EE, Elewaut D, Prakken B, Kersten S, Boes M, Kalkhoven E.

J Clin Invest. 2012 Aug 6. Published online.

【まとめ】
CD1d拘束性invariant natural killer T (iNKT)細胞は、脂質負荷に伴うインスリン抵抗性の発症への関与が想定されているが、最近、高脂肪食負荷時にはiNKT細胞数が減少し、iNKT細胞のインスリン抵抗性への関与は少ないことが報告されている。そこで、本研究では、正常食負荷の状態におけるiNKT細胞の役割について検討した。CD1d欠損マウス(iNKT細胞欠損マウス)は低脂肪食(マウスにとっての正常食)下では、脂肪組織の炎症はないが独特のインスリン抵抗性形質を示した。このインスリン抵抗性は、脂肪細胞の肥大、レプチンの増加、アディポネクチンの低下などの脂肪細胞機能異常を伴っていた。このマウスでは肝に異常を認めないことから、インスリン抵抗性の発症には脂肪組織に存在するiNKT細胞が重要な役割を果たすと考えられた。興味深いことに、iNKT細胞の機能は脂肪細胞によって直接調節され、脂肪細胞はCD1dを介する脂質抗原提示細胞として作用していた。これらの結果から、低脂肪食下では、脂肪組織に存在するiNKT細胞は脂肪細胞との直接の相互作用を介してインスリン抵抗性を防止し、正常な脂肪組織機能を維持することに役立っていると考えられた。

【論文内容】
CD1d拘束性インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞は脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性発症に関与しているという報告があるものの、高脂肪食負荷時のiNKT細胞のインスリン抵抗性への関与の程度は少ないとされている。そこで、本研究では、高脂肪食下ではない正常食の状態での脂肪組織に存在するiNKT細胞の機能について検討することにした。ここでは、CD1d欠損マウス、およびJα18欠損マウス、WTマウスからiNKT細胞を抗体を用いて欠損させたモデル(いずれもiNKT細胞欠損モデル)を用いて、低脂肪食(マウスにとっての正常食)下におけるiNKT細胞の正常な脂肪細胞機能維持およびインスリン抵抗性の防止効果を検討した。

iNKT細胞を欠損または抗体により減少させるとインスリン抵抗性が惹起される
CD1d欠損マウス(iNKT細胞を欠損するマウス)および野生型(WT)C57BL/6マウスに低脂肪食(LFD)または高脂肪食(HFD)を負荷したところ、体重・摂食に差はなかったが、CD1d欠損マウスでは(特にLFDで)耐糖能が悪化した。同様に、Jα18欠損マウス(type 1 iNKT細胞が選択的に欠損したマウス)や 抗NK1.1抗体投与によるiNKT細胞減少マウスでも、LFD負荷後の耐糖能が悪化した。これとは逆に、CD1d拘束性iNKT細胞の活性化リガンドであるα-galactosyl ceramide (αGalCer)を注入したマウスでは、in vivoでiNKT細胞が活性化されると考えられたが、このマウスでは耐糖能は改善しなかった(これはWTマウスではもともとLFDで十分にインスリン感受性になっていたため、さらには改善しなかったと考えられる)。以上より、CD1d拘束性iNKT細胞は、特にLFD負荷マウスではインスリン抵抗性を防止する役割を果たしていると考えられた。

iNKT細胞は肝にも脂肪組織にも存在するが、LFD負荷CD1d欠損マウスの肝は、組織像、脂肪含量、肝機能酵素(AST、ALT)、肝の炎症マーカー(lipocalin-2、serum amyloid A)が、WTマウスと比較して差がなかったため、脂肪組織に存在するiNKT細胞に注目することにした。

脂肪組織に存在するiNKT細胞は抗炎症形質をもち、HFD負荷により減少する
脂肪組織に存在するiNKT細胞は、内臓脂肪組織T細胞の5-10%を占め、脾由来のiNKT細胞に比べ、多くがCD4-CD8-で、NK1.1の発現が減少しているという特徴がある。脂肪組織に存在するiNKT細胞は、脾由来iNKT細胞に比べると、細胞内IL-4、IL-13が多く、IFN-γが少ないという、抗炎症形質を示す。CD1d欠損マウスでは脂肪組織のIl4Il13 mRNA発現が減少していたため、脂肪組織のこれらのサイトカインレベルの維持にはiNKT細胞が重要な役割を果たしていると考えられた。また、HFD負荷WTマウスは、LFD負荷マウスに比べると、内臓脂肪と皮下脂肪のiNKT細胞の数と活性が低下していた。

CD1d欠損マウスは脂肪組織Treg数が増加し、インスリン抵抗性の増悪を防止している
HFD負荷したWTマウスでは、脂肪組織へのCD8+T細胞の浸潤およびM1形質マクロファージの浸潤がインスリン抵抗性発症に重要と考えられている。しかし、同様にインスリン抵抗性を示すLFD負荷CD1d欠損マウスでは、このような脂肪組織CD8+T細胞浸潤、マクロファージ浸潤、M1形質への分極化は見られなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスではCD4+CD25+T細胞数の増加が見られ、この細胞はFoxp3を高発現していた。すなわち、iNKT細胞の欠損状態では、インスリン抵抗性防止に役立つと考えられているTreg (regulatory T細胞)の増加が認められた。そこで、LFD負荷CD1d欠損マウスにおいて、抗CD25抗体を用いてTregを減少させたところ、耐糖能・インスリン抵抗性はさらに悪化した。したがって、LFD負荷CD1d欠損マウスでは、よく知られたHFD負荷に伴う脂肪組織へのCD8+T細胞やマクロファージの浸潤ではなく、脂肪組織Treg数の増加が認められた。このTregの増加は、LFD負荷CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性のさらなる悪化を防止する働きがあると考えられる。

CD1d拘束性 iNKT細胞がないと脂肪細胞の機能不全が生じる
LFD負荷CD1d欠損マウスの脂肪組織のマイクロアレイ解析によると、このインスリン抵抗性マウスの脂肪組織の遺伝子発現は、HFD負荷インスリン抵抗性マウスのパターンとは異なっていた。HFDで増加する古典的な炎症性マーカー(Tnfa、F4/80、Cd11c、Ccl2、Saa3、Adam8)は、LFD負荷CD1d欠損マウスでWTマウスと比べて増加していなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスはWTマウスに比べ脂肪細胞の肥大が見られたが、精巣上脂肪重量や総脂肪量に差はなかった。また、脂肪合成(Scd1、Fas)、脂肪滴形成(perilipin1=Lipin1、Pparg) 、熱産生(Ucp1、Ppara)に関連する遺伝子も増加はなかった。しかし、LFD負荷CD1d欠損マウスではadiponectinの低下とleptinの増加が見られ、adipokine分泌において脂肪細胞の機能低下があることが示唆された。

ヒト脂肪組織にはCCR2+iNKT細胞が豊富である
健康なヒトドナー6名より採取した腹部皮下脂肪組織と血液でiNKT細胞数を測定したところ、血中に比べ腹部皮下脂肪組織ではiNKT細胞が約10倍多かった。血液と腹部脂肪組織のiNKT細胞のケモカイン受容体の発現を検討したところ、血中に比べ腹部脂肪組織のiNKT細胞ではCCR2(脂肪細胞が分泌するMCP-1の受容体)、CXCR2、CXCR6の発現が多かった。このことから、脂肪組織へのiNKT細胞の浸潤にはMCP-1/CCR2および、CXCR2、CXCR6を介する走化性が関与していると考えられた。

ヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、iNKT細胞機能を調節する
脂肪細胞はCD1d抗原リガンドとなる脂質を含んでいる。そこで、脂肪細胞が脂質抗原を提示することにより、直接iNKT細胞機能を調節している可能性について検討した。まず、培養細胞系であるヒトSGBS preadipocyte(未分化の状態)では、抗原提示に必要な因子(pro-saponin、NPC2、α-galactosidase)とCD1Dの発現が少ないが、分化したSGBS adipocyteとヒト初代脂肪細胞ではこれらの発現が増加していることを確認した。このことから、脂肪細胞がiNKT細胞の脂質抗原提示細胞として機能している可能性を考えた。そこで、5名の健常者の血液からiNKT細胞株を作製し、脂質抗原であるαGalCerを加え、ヒト脂肪細胞株と共培養した。その結果、iNKT細胞の細胞内および上清中のIL-4、IL-13、IFN-γが増加し、これらは脂肪細胞のCD1dノックダウンにより減少した。以上より分化したヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、脂質抗原提示細胞としてiNKT細胞の機能を調節していると考えられた。

【結論】
マウスの正常食負荷(ここではLFD)の状態では、CD1d拘束性iNKT細胞は、脂肪細胞機能異常を防止し、インスリン抵抗性の発症を抑制することが示された。また、脂肪細胞に発現するCD1dが脂肪組織に豊富に存在する脂質抗原を提示することによりiNKT細胞の機能を調節するという、ユニークな調節機構があることも分かった。CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性は、脂肪組織のTregを減少させることによりさらに悪化したため、iNKT細胞はTregと協調してインスリン抵抗性を防止していると考えられた。本研究のLFD条件下でiNKT細胞により産生されるIL-4、IL-13はインスリン抵抗性を抑制すると考えられる。(iNKT細胞から産生されるIFN-γはインスリン抵抗性を増悪させることが知られているが、これはHFD負荷でのiNKT細胞によるインスリン抵抗性増悪に関連しているのかもしれない。HFD条件下でのiNKT細胞の役割は種々の報告があるものの不明。) 脂肪組織に存在するiNKT細胞のインスリン抵抗性防止効果は、食餌の構成や期間によって異なり、今回の検討では長期のLFD負荷によって最も著明に認められた。
by md345797 | 2012-08-16 00:56 | インスリン抵抗性