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カロリー制限はアカゲザルにおいて健康は改善するが、寿命は延長しない:NIA研究

Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study.

Mattison JA, Roth GS, Beasley TM, Tilmont EM, Handy AM, Herbert RL, Longo DL, Allison DB, Young JE, Bryant M, Barnard D, Ward WF, Qi W, Ingram DK, de Cabo R.

Nature. Published online 29 August 2012.

【まとめ】
カロリー制限(CR=栄養素の摂取を10-40%減少させる)は、寿命(lifespan)および健康寿命(healthspan)を延長させる、最も確実な方法とされてきた。アカゲザル(rhesus monkey)では、CRは免疫機能や運動協調機能を改善し、骨格筋減少を防止することが最近示されている。

National Institute on Aging (NIA)で行われた本研究では、アカゲザルにおいてCRは生存期間延長をもたらさないことが示された。この結果は、現在進行中のWisconsin National Primate Research Center (WNPRC)での研究結果(=30%のCRによってアカゲザルの生存が7-14年延長した)とは異なるものである。WNPRCは、げっ歯類におけるCRの寿命延長効果を、より長期生存する霊長類でも証明した。しかし、NIAにおける本研究は、霊長類においてCRは健康への好影響をもたらすものの、寿命延長効果はないことを示し、CRの寿命延長には研究計画や食餌の組成などが影響している可能性を示唆するものである。

【論文内容】
NIAにおけるCR研究は1987年に開始され、若年および高齢の非ヒト霊長類(Macaca mulatta、平均年齢は約27歳、最高齢は約40歳)を対象に20年以上行われている。

このNIA研究において、高齢(16-23歳)からCRを開始されたサルは、コントロールに比べて生存は延長しなかった。両群での死因にも明らかな差は認めなかった。ただし、高齢からCRを開始したサルはコントトロールに比べて、健康機能が改善しており、中性脂肪・コレステロール・空腹時血糖・酸化ストレスマーカー(isoprostane)が低値であった。なお、高齢からCRを開始したサルは免疫機能は悪化傾向にあった。

さらに、NIA研究では、若年からCRを開始したオスおよびメスのサルで、全死因および加齢関連死因による生存曲線に差は認めなかった。現在も若年サルの50%未満は生存していることを考えると、これは本研究の最終結果とは言えないが、hazard関数を用いた寿命予測に基づくと、さらに5-10年研究期間を延長しても平均生存に有意差が認められる確率は非常に低いと考えられた。

若年からCRを開始したサルでは、予測されるCRの効果が見られなかった(空腹時血糖はCRとコントロールで差がなく、中性脂肪はオスのCRサルでやや低いのみであった)。ただし、癌の発症率はCRサルで有意に低下していた。加齢関連疾患の発症は、CRに比べコントロールの方が早かったが有意差はなかった。

では、NIAとWNPRCの寿命延長の結果の違いは何によるものであろうか?

まず、これら2つの研究では食餌組成の違いがあった。NIAでは天然組成の食餌(バッチ間での混合物の差がありうる)が用いられたが、WNPRCでは精製食餌(ビタミン・ミネラルなどは後から加えられている)が用いられている。食餌中のタンパク質の由来も異なり、NIAでは小麦、トウモロコシ、大豆、魚、アルファルファ由来であるが、WNPRCではラクトアルブミン由来である。NIAの食餌には抗酸化作用のあるフラボノイド、魚由来の脂質(omega-3脂肪酸が豊富)を含むのに対し、WNRPCの食餌脂質はトウモロコシ油由来である。炭水化物組成も異なり、NIAでは小麦とトウモロコシ由来なのに対し、WNRPCではコーンスターチとショ糖由来である。NIAの食餌は3.9%のショ糖しか含まないが、WNRPCの食餌は28.5%含んでおり、ショ糖が多いことは2型糖尿病発症にも関連しうる。さらに、NIAとWNRPCでは、ビタミンとミネラルの補充も異なっている。

さらに、NIA研究におけるコントロールサルは、WNPRC研究のように自由摂食(fed ad libitum)ではなく、肥満をきたさない程度に分割された食餌を与えられていた。すなわち、NIA研究のコントロールは軽度のカロリー制限が行われていた可能性がある。そのため、WNPRC研究のコントロールはNIAのコントロールに比べ全体的に体重が多かった。また、NIAのサルは中国とインド由来で、厳密にインドのコロニー由来のWNPRCのサルに比べて遺伝的多様性が大きかった。

ヒトにおける最初のランダム化試験では、6か月のCRによって加齢のバイオマーカーや心血管の健康が改善し、加齢関連疾患のリスクが減ることが示唆されているが、ヒトにおける寿命研究はできそうもない。今後は、2つのサルのCR研究の結果を比較しながら、CRによる健康指標の改善を除いた寿命そのものに対する影響を継続して検討する必要がある。
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by md345797 | 2012-08-30 23:42 | その他