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腸内細菌叢の組成と活性は、宿主の代謝形質と疾患リスクに関連する

Gut microbiota composition and activity in relation to host metabolic phenotype and disease risk.

Holmes E, Li JV, Marchesi JR, Nicholson JK.

Cell Metab. 16, 559-564, 7 November 2012.

【総説内容】
ヒポクラテスは「すべての病気は腸に始まる」と言ったが、近年、哺乳類宿主とその腸内細菌叢(microbiota)との共生関係が、宿主のエネルギー摂取・免疫機能・代謝シグナルなどに大きく関与していることが分かってきた。最近の培養によらないゲノム解析法により腸内細菌叢の特徴が明らかになり、腸内細菌叢のゲノム(microbiome)はヒト宿主のゲノムより少なくとも150倍は大きいことが明らかになっている。これらの知見に基づいて、「ヒトは、その腸内細菌叢が事実上主要な臓器の一つとして働いているsuperorganism(超個体)である」という概念が生まれ、生物学や医学のパラダイムシフトをもたらしつつある。

細菌叢が個体の形質に及ぼす影響
乳児は、母親の産道経由で母親の細菌叢の一部を移植される。この初期の「種」となる細菌叢は、無数の環境因子、遺伝的因子、エピジェネティックな因子によって調節・変更され、その人の特有な細菌状態を形成する。Microbiomeの多様性は、体の部位、個人間、年齢、食事などによっても変化し、また時間的にも変化する。個人間の細菌構成の多様性は驚くほど大きいが、それが宿主に同じような作用を及ぼす(表現型模写; phenocopy)ということも分かっている。

健康と疾患における腸内細菌叢の役割
健康な細菌叢はどのように構成されているのか?これについては分かっていないことが多いが、最もよく知られている「哺乳類-細菌相互作用」は粘膜免疫系である。免疫系の適切な発達には細菌叢の存在が不可欠であり、無菌動物ではリンパ組織やT細胞・B細胞サブセットの異常が起こることが知られている。また、細菌叢はToll-like receptors (TLRs)を介して先天的免疫系に影響を及ぼしている。TLR2とTLR4はそれぞれ、リポポリサッカライドとペプチドグリカンを認識し、病原菌から身を守るためのサイトカインやケモカインの産生を刺激する。また、TLR2欠損マウスはインスリ抵抗性であり、このインスリン抵抗性はFirmicutesの増加を伴い、抗生剤投与で改善する。興味深いことに無菌のTLR2欠損マウスはインスリン抵抗性をきたさない。なお、粘膜層のTLRsの役割は病原菌を同定し除去することであるが、共生菌であるBacteroides fragilisはregulatory T細胞上でTLR2を介して認識されることにより粘膜に定着している。すなわち、粘膜のTLRsは宿主にとっての共生菌と病原菌を区別できるのだろう。

宿主と細菌叢との間には、免疫系だけでなく、胆汁酸、短鎖脂肪酸(SCFAs)、コリン分解産物、芳香族酸、植物フェノール、炎症性脂質、エンドカンナビノイドなどの代謝産物(metabolites)による情報伝達が存在する(図のA)。これらは、発達段階や環境によって大きく変化し、同じ個体でも時間的、局所解剖学的な状況により、宿主に良い影響も悪い影響も与えうる。

多くの疾患(Crohn病、大腸癌、糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管疾患、ストレス、不安、食物アレルギー、喘息、自閉症、肝性脳症、湿疹など)が、腸のmicrobiomeの機能異常によって発症しうることが分かっている。特に、肥満と正常を比較すると腸内細菌組成が異なり、肥満ではFirmicutes:Bacteroidetes比が増加していることが指摘されている。ただしこれに当てはまらない結果もあり、肥満と腸内細菌叢の関係はより複雑と思われる。また、高脂肪食を負荷したC57Bl/6マウスは、同じ系統で同じ食餌を与えても腸内細菌叢の違いによって糖尿病形質を示すものと示さないものがあることも分かっている。肥満には細菌による代謝産物が関与している可能性もあり、馬尿酸、フェニルアセチルグルタミンなどの代謝産物は、やせ型の形質に関与するという結果もある。過体重の母親から生まれた6か月までの乳児は、妊娠中の体重増加によりBacteroides種、Staphylococcus種、Clostridium difficileの数が多くなっていることも知られている。このような研究が進めば、腸内細菌の多様性と肥満・メタボリックシンドロームとの関連が理解され、そのバイオマーカーの同定や治療の開発につながるだろう。

腸内細菌叢の機能的メタゲノミクス
Microbiomeの組成を同定するためのハイスループットシークエンス法の発達に伴って、microbiomeの機能を知るための新しい方法が求められている。つまり、どんな細菌が「存在するか」ではなく、どんな細菌が「働いているか(=宿主の代謝に影響しているか)」が重要なわけである。しかし、「宿主にある影響を及ぼすためにはその細菌の作用がどれくらいあればいいか」ということも分かっていない。肥満の状態の細菌組成を明らかにするために、ゲノム多様性のマーカーとして16S rRNA遺伝子が用いられているが、腸内細菌叢の機能を明らかにするもう一つの方法は、宿主の体液や組織をスクリーニングしてその中の細菌由来の代謝産物 (尿中馬尿酸、フェニルアセチルグルタミン、4-クレシルスルフェート、4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸など)を分析する方法であり、代謝プロファイリングのための高分解能スペクトロスコピー法が用いられる。

「エンテロタイプ」の概念:ヒトの細菌組成による層別化の試み
疾患のメカニズムとその遺伝的変異を理解するために、ゲノムワイド関連解析(GWAS)に基づいてヒト集団を異なる遺伝子型(genotype)のグループに層別化することが行われてきた。それと同じく、大腸の細菌構成に基づく層別化が提唱されている。腸内細菌叢の類似性に基づいてバイオインフォマティクスを用いたクラスタリングを行い、ヒト集団を3群に分けた「エンテロタイプ」である。これによるとヒト集団は、Bacteroides種、Prevotella種、Ruminococcus種の各群(clade)に分類され、これは個人の健康状態、年齢、BMI、住む場所、性別には関係しないとされる。その後の研究で、Ruminococcus種はなく、残りの2つエンテロタイプの存在のみが強く示唆されている。この研究では、高脂肪食・低脂肪食負荷により、microbiomeは24時間以内に変化するものの、10日以上たってもエンテロタイプは10日以上たっても変化しなかった。このエンテロタイプの概念は魅力的な仮説であるが、エンテロタイプが個人の健康状態、年齢、BMI、住む場所、性別には関係しないとされる当初の知見を支持しない報告もある(例えばYatsunenkoら、およびClaessonら)。ところで、このようなエンテロタイプは代謝形質(メタボタイプ)にどのように影響し、疾患リスクや治療介入に有用なのか?腸内細菌叢は宿主のメタボロームに影響を及ぼすことは明らかになっているので、「腸内細菌の層別化によって、同じように代謝産物のプールも層別化できるのか」と考えられた。しかし現時点では、尿・便のメタボロームの腸内細菌の層別化に対応するような腸内細菌の層別化は明らかになっていない。また、エンテロタイプとメタボタイプの関連が示されていないため、エンテロタイプは、生物学的・バイオインフォマティクス的に有意な概念なのかという疑問も生じている。2つのエンテロタイプ(BacteroidesPrevotella)に属する細菌の分類学的解析によって、これらの種は属(genus)レベルの群(clade)に分けられることが明らかになっている(図のB)。しかし、この2つの属をそれらの機能によってクラスター化すると、連続しオーバーラップするグループになってしまう(図のC:主因子分析によってクラスター化すると、BacteroidesもPrevotellaもcluster 1に含まれてしまう。なお、cluster 2はEnterobacteriaceae、cluster 3はFirmicutes、Ruminococcui、Acinetobactreriaを含む)。つまり、2つのエンテロタイプは、宿主に対する機能としてはオーバーラップするところがあり、異なる2つのメタボタイプに当てはまるわけではない。そこで、腸内細菌叢がどれだけ変化すれば宿主のメタボタイプを変化させることができるのかを知る必要性が出てくる。実際、食事、抗生剤、プレ/プロバイオティクス、薬剤、外科手術などにより腸内細菌叢を変化させると、例えば、Roux-en-Y胃バイパス(RYGB)により腸内細菌叢をBacterodetes/Firmicutesを主とする集団からEnterobacteriaceaeを主とする集団に変化させると、これは宿主のメタボタイプの変化につながることが知られている。このRYGBように急激な変化であれば、腸内細菌の劇的な変化を伴うため宿主のメタボロームに影響するが、実際の肥満やインスリン抵抗性への進展は持続的でわずかずつゆっくりであると考えられるので、肥満やインスリン抵抗性はエンテロタイプの概念だけでは説明できないかもしれない。

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腸のmicrobiomeは食事によって変化する
Microbiomeの食事により、また、プレバイオティクス(=有益な細菌の成長を促進する物質)やプロバイオティクス(=宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物)の投与により大きく変化することが報告されてきた。ただしこれらの研究は、臨床研究のデザインやガイドライン、対象人数などの点でまだまだ大きな欠陥があり、さらなる検討が必要である。このうち食習慣は、宿主の細菌集団と機能に影響を及ぼし、それが疾患リスクや発症につながることは明らかで、例えばマラウイ(アフリカ南東部の国)人とアメリカ先住民の子供の細菌叢は、アメリカ人の子供の細菌叢よりよく似ていることが報告されている。また、食事中のコリンの欠乏により腸内細菌(GammaproteobacteriaErysipelotrichi)の量が変化し、脂肪肝につながることが知られている。逆に、コリンまたはtrimethylamine-N-oxideを補充した食事をマウスに投与すると、血中trimethylamine-N-oxide濃度が増加し、マウスの動脈硬化が促進されるが、このマウスの腸内細菌叢を抑制しておくと促進されなくなる。これらの結果は、腸内細菌叢と食事と宿主の代謝という三者関係の重要性を示すものだろう。さらに、鉄欠乏ラットはLactobacilliEnterobacteriaceaeが増加、酪酸産生菌であるRoseburia種が減少しており、これに伴って便中の短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸)が減少している。これらの報告はあるものの、腸内細菌叢と宿主の関係はきわめて複雑巧妙であり、この平衡状態を理解して個人の治療介入に用いるためには、何らかのシステム生物学的アプローチが必要になるだろう。

腸内細菌叢と宿主代謝の関係をもとにしたトランスレーショナルな治療
腸内細菌叢と宿主代謝の関連が明らかになれば、さまざまな疾患(肥満、炎症性腸疾患、心血管疾患、さらには自閉症などの神経行動異常)への治療介入に有効な手段となるだろう。成長に伴うmicrobiomeと宿主代謝の関係の変化を知ることにより、若年のうちに成人の疾患を予防することができるようになるかもしれない。Microbiomeをターゲットとする治療は、プレバイオティクス、プロバイオティクスおよびその両方(シンバイオティクス)を用いて、わずかな、また一時的なmicrobiomeの変化をもたらす方法から、便の移植、細菌療法といったもっと劇的にmicrobiomeを変化させる方法(Clostridium difficile感染による潰瘍性大腸炎の治療に便移植が有効であることを示した研究がその代表)までさまざまである。Microbiomeは、宿主の代謝調節を変化させるための薬剤ターゲットになりうるが、まずは個人の細菌組成の多様性がどのようにその個人の代謝形質に影響しているのかを知る必要がある。Microbiome研究は、21世紀のヘルスケアの枠組みにおいて、ヒトの疾患の原因と治療を理解するための史上例を見ないトランスレーショナルな価値を持つ研究であろう。
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by md345797 | 2012-11-14 18:30 | その他