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標的エストロゲン療法によるメタボリックシンドロームの治療

Targeted estrogen delivery reverses the metabolic syndrome.

Finan B, Yang B, Ottaway N, Stemmer K, Müller TD, Yi CX, Habegger K, Schriever SC, García-Cáceres C, Kabra DG, Hembree J, Holland J, Raver C, Seeley RJ, Hans W, Irmler M, Beckers J, de Angelis MH, Tiano JP, Mauvais-Jarvis F, Perez-Tilve D, Pfluger P, Zhang L, Gelfanov V, Dimarchi RD, Tschöp MH.

Nat Med. 18,1847–1856, 2012. (Published online Nov 11, 2012)

【まとめ】
核内ホルモンとペプチドを結合させた複合体を作製することにより、ある組織にはホルモンを選択的に到達させ、かつ他の組織におけるホルモンの副作用は起こさない、という新たな治療法が可能である。本研究では、メタボリックシンドロームに有効な核内ホルモンであるエストロゲンと、ペプチドであるGLP-1を結合させたGLP-1-エストロゲン複合体を作製して、高脂肪食負荷肥満マウスに投与したところ、個々のホルモン投与以上に体重減少とメタボリックシンドロームの改善効果が認められたことを示す。この複合体は、GLP-1受容体が発現している標的組織のエストロゲン作用を選択的に活性化し、さらにGLP-1自体の代謝改善作用も促進した。この複合体はGLP-1受容体が発現していない子宮や乳腺には到達しないため、エストロゲンの副作用である生殖内分泌毒性や癌の増殖促進作用は起こさなかった。本研究は、「ペプチドを用いて小分子をある組織にのみ選択的に到達させ相乗的効果を狙う」という治療戦略を、メタボリックシンドロームの治療に応用した一例と言える。本研究で報告するGLP-1-エストロゲン複合体は糖尿病や肥満に対する新たな治療法になりうるが、同様の概念で他の疾患の治療に対してもさまざまなペプチドとホルモンを組み合わせた複合体を用いることが可能となるだろう。

【論文内容】
慢性疾患の治療には多剤を用いたアプローチが必要になることが多く、例えば2型糖尿病の場合しばしば、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下に対する薬剤の両方が必要である。このグループは以前、GLP-1受容体とグルカゴン受容体の両方のアゴニストになるペプチドを作製し、高脂肪食負荷マウスの体重と代謝の正常化に有効であることを示したが、本研究では核内受容体ホルモンを用いた多剤アプローチについて報告する。

エストロゲンは、視床下部におけるレプチン様作用によりエネルギー消費と摂食行動を調節して、肥満・2型糖尿病に有用であることが繰り返し示されている。しかし、エストロゲンは生殖内分泌毒性および腫瘍促進作用のために臨床的な応用は限られている。そこで、組織特異的作用を持つ選択的エストロゲン受容体調節薬(selective estrogen receptor modulators; SERMs)が用いられてきたが、それにも毒性の懸念やメカニズム不明の点がある。本研究では、エストロゲンを選択的にある組織だけに到達させるペプチドを用いた別の方法を報告する。

GLP-1-エストロゲン複合体のin vitro(培養細胞系)における特徴
本研究では、GLP-1とエストロゲンを結合させた2種類の「GLP-1-エストロゲン複合体」を合成した。一つは17β-estradiolへのエーテル結合として、もう一つはestroneの芳香族エステルとして、エストロゲンにGLP-1アナログを共有結合させたものである。結合させたGLP-1アナログは、DPP- IVにより不活性化を受けないものである(2-aminoisobutyric acid置換、exendin-4由来のC末端9残基の付加、エストロゲン結合部位としてのC末端lysine amideの付加による)。このGLP-1-エストロゲン複合体は、GLP-1と同様のGLP-1受容体(GLP-1R)への親和性と生化学活性を持っている。これにより、GLP-1のGLP-1Rへの結合に続く受容体のエンドサイトーシスによって、複合体のエストロゲンを細胞内エストロゲン受容体に輸送することができる。

上記2種類の複合体を、GLP-1Rが発現していないHEK293細胞に添加した。その結果、エーテル複合体は細胞内エストロゲン活性が17β-estradiolの0.005%未満であった。細胞にGLP-1Rが発現していなければ、この複合体は細胞膜を透過せず細胞内受容体を活性化することはないことが分かる。一方、芳香族エステル複合体はestroneと同程度の細胞内エストロゲン活性を持っていた。前者のエーテル複合体はpH 7.4、37℃のヒト血漿中(生理的条件下)で120時間安定なため、「安定型 (stable)GLP-1-エストロゲン複合体」と呼び、芳香族エステル複合体は6時間以内に完全に分解しエストロゲンを放出するので、「不安定型 (labile)GLP-1エストロゲン複合体」と呼ぶことができる。安定型複合体は、GLP-1Rが発現している細胞にのみ取り込まれ、そうでない細胞では細胞膜を透過しない。一方、不安定型複合体は通常のエストロゲンと同様に膜を透過し作用を発揮するため、in vivo投与ではGLP-1Rの発現の有無に関係なく全身の組織にエストロゲン作用をもたらすと考えられる。

安定型GLP-1-エストロゲン複合体はin vivoで体重減少と代謝改善をもたらす
GLP-1-エストロゲン複合体が全身の代謝に及ぼす影響を検討するため、高脂肪食負荷した肥満マウス(オス)に、これらの複合体またはGLP-1のみのコントロールを投与した。安定型GLP-1-エストロゲン複合体は、GLP-1や不安定型複合体に比べて、用量依存的な体重低下作用がより大きかった。高用量投与(400 μg/kg体重)では、GLP-1はマウスの体重を10.3%低下、不安定型複合体は7.5%低下させたの対し、安定型複合体は23.8%低下させた。すなわち、GLP-1単独よりも、GLP-1-エストロゲン複合体の方が体重減少効果は優れており、それにはエストロゲンとGLP-1の安定な結合が必要と考えられた。この安定型GLP-1-エストロゲン複合体による体重減少は、摂食減少、体脂肪量低下、血漿レプチン濃度低下を伴っていた(レプチン感受性の改善が示唆される)。安定型GLP-1-エストロゲン複合体は、高血糖、インスリン感受性、脂質異常、呼吸商、脂肪肝と肝細胞障害を改善したが、エネルギー消費と運動活性には影響がなかった。これらの安定型複合体による代謝改善は、高脂肪食負荷した肥満のメスのマウスでも同様に認められた。

ここで、細胞内におけるエストロゲン放出が大きければ、もっと大きい代謝改善効果が認められるのではないかと考え、「血漿では安定だが、細胞内ではただちに分解する」複合体を2種類作製した。しかし、これらは安定型複合体より大きな体重低下作用を示さなかった。これにより、血漿中で安定な安定型複合体であっても、細胞内では効率よく分解され、十分量の活性型エストロゲンを標的細胞内に放出することが示唆された。

安定型GLP-1-エストロゲン複合体はエストロゲンの副作用を示さない
GLP-1-エストロゲン複合体が子宮肥大の副作用を示さないか確認するため、複合体を卵巣摘出(OVX)ラットに投与した。最大用量(4,000 μg/kg体重)でGLP-1単独および安定型複合体では子宮重量は増加しなかったが、不安定型複合体では2.5倍に増加した。不安定型複合体による子宮肥大は、複合体からの遊離エストロゲンの放出による全身の非標的効果(全身エストロゲン治療に伴う毒性)があることを示している。安定型複合体では、エストロゲン放出および血中エストロゲンの増加がなく、この副作用は見られない。さらに、安定型複合体を投与しても、血漿黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度は変化せず、安定型複合体は視床下部-下垂体-性腺系には影響を与えなかった。また、これら複合体が乳腺組織の腫瘍形成に与える影響を調べるため、OVXヌードマウスにおけるエストロゲン依存性MCF-7(ヒト乳癌細胞株)異種移植片の増殖を検討した。移植21日間で、estradiolおよび不安定型エストロゲン複合体は腫瘍の増殖を起こしたが、安定型複合体は腫瘍の増殖を起こさなかった。いずれの群でも注入した腫瘍細胞はin vivoで生存したが、安定型複合体を投与した群は他の2群より腫瘍サイズは小さかった。移植68日にはestradiol投与群と不安定型複合体投与群での乳癌発症率は100%だったのに対し、安定型複合体の投与群では30%にとどまり、腫瘍のサイズも小さかった。このように、安定型複合体はエストロゲンによる生殖内分泌毒性と発癌性の副作用を防止できることが示された。

さらに、エストロゲンによる骨密度への副作用を骨量測定により評価した。不安定型複合体を投与したマウスでのみ、peripheral quantitative computed tomography (pQCT)で大腿骨骨幹端と骨幹の皮質と皮質下の骨量の増加が見られた。骨はGLP-1Rの発現がきわめて少ないので、骨には安定型GLP-1-エストロゲン複合体は作用せず、骨に対する副作用が回避されていることが分かる。

GLP-1-エストロゲン複合体の効果は中枢神経系のGLP-1受容体活性化依存的に起こる
次に、これらの複合体の効果におけるGLP-1の役割について検討するため、アミノ酸を一部置換した「活性低下型」GLP-1アナログとエストロゲンの複合体を作製し、高脂肪食負荷肥満マウスに投与した。「安定型・活性低下GLP-1複合体」は最大用量投与(4,000 μg)で5.1%の体重減少を起こしたが、これは「安定型・活性型GLP-1複合体」よりもはるかに効果が弱い。一方、「不安定型・活性低下GLP-1複合体」では20.6%の体重減少をきたし、これは血中への遊離エストロゲン放出によるものと考えられた。これに伴い、摂食減少と血漿脂質の改善が認められたが、子宮肥大と肝細胞障害の副作用が起きた。活性低下GLP-1と安定結合したエストロゲンでも体重減少は起こるものの、その効果は少なかった。ただ、GLP-1と安定結合させたための標的効果によって副作用が回避されることが示された。

次に、中枢神経系特異的なGLP-1R欠損 (nestin-Cre Glp1r−/−)マウスに高脂肪食を負荷し、安定型GLP-1-エストロゲン複合体投与の効果が見られるかを検討した。GLP-1のみの投与では野生型(WT)マウスで3.6%の体重減少があったが、同じ用量(400 μg/kg体重)の安定型複合体投与で8.5%の体重減少が認められた。しかし、中枢神経系特異的GLP-1R欠損マウスでは、GLP-1でも安定型複合体でも体重減少、摂食低下、代謝改善は認められなかった。WTマウスに安定型複合体を投与すると、GLP-1のみまたはエストロゲンのみの投与に比べ、視床下部弓状核のproopiomelanocortin (POMC)とレプチン受容体の発現が増加した。エストロゲンの投与ではneuropeptide Y (NPY)の発現が減少したが、安定型複合体の投与では減少しなかった。すなわち、GLP-1による標的効果でエストロゲンを視床下部POMCニューロンに到達させることによって、GLP-1のみまたはエストロゲンのみの投与に比べ代謝がより改善されることが示唆された。

GLP-1-エストロゲン複合体はエストロゲン受容体も介して代謝改善を起こす
エストロゲン受容体のあるINS-1E細胞(マウス膵β細胞株)をGLP-1で刺激しても、Trim25遺伝子(エストロゲンで発現が誘導される遺伝子)の発現は増加しないが、estradiolで刺激すると濃度依存的に発現が増加する。この細胞を安定型複合体で刺激した際も、(やや低値ながら)同様のTrim25遺伝子発現増加が見られた。In vivoで、安定型複合体を高脂肪食負荷肥満マウスに投与すると、視床下部のTrim25発現が増加し(1.75倍)、これは不安定型複合体投与(1.36倍)の場合よりもやや多かった。このような安定型複合体によるTrim25の発現はGLP-1Rを発現している視床下部弓状核で見られたが、GLP-1Rを発現していない肝ではみられなかった。

さらにこれらの複合体の作用におけるエストロゲン受容体(ERα、ERβ)の必要性を調べるため、安定型複合体を高脂肪食負荷したWT、ERα欠損(Esr1−/−)、ERβ欠損(Esr2−/−)の各マウスに投与した。WTマウスでは、GLP-1のみまたは安定型複合体の投与により体重がそれぞれ10%、23.6%減少したが、ERα欠損マウス(GLP-1で10.2%、安定型複合体で15.9%)とERβ欠損マウス(GLP-1で9.9%、安定型複合体で14.5%)では、安定型複合体による体重減少の程度が少なかった(GLP-1による体重減少の程度は同じ)。以上より、安定型複合体の投与では、GLP-1作用とエストロゲンシグナル伝達(ERαとERβの両方必要)が協調して全身の代謝を改善していると考えられる。

GLP-1-エストロゲン複合体の効果は、GLP-1の薬物動態(pharmacokinetics)の変化によるものではない
上記のGLP-1-エストロゲン複合体の効果は、GLP-1の薬物動態が促進されているために起きているという可能性もありうる(エストロゲンというステロイドと複合体を形成しているために、GLP-1と血漿蛋白との結合が増加する可能性)。血漿蛋白と結合しても(20%ヒト血漿存在下)、結合しなくても(血漿のない状態)でも、GLP-1と安定型複合体とでは、in vitroでのGLP-1Rへの親和性は同じであった。ところが、エストロゲンの代わりにpalmitoyl鎖を付加したアシル化GLP-1アナログでは、血漿蛋白が存在すると、GLP-1Rへの結合は存在しない状態の約400分の1に減少した。すなわち、エストロゲン付加によりGLP-1の血漿蛋白結合能には影響がないことが分かった。

GLP-1へのエストロゲン付加はin vivoにおいてもGLP-1の薬物動態に影響していないことを調べるため、正常マウスに安定型複合体またはGLP-1をそれぞれ単回注射し、GLP-1の血中濃度を測定した。その結果、GLP-1に比べ安定型複合体は、最大濃度(Cmax)がやや大きかったが、最大濃度到達時間(Tmax)と半減期(T1/2)、8時間で消失するといった薬物動態は同様であった。すなわち、GLP-1にエストロゲンを付加しても、in vivoでGLP-1の初期の濃度はやや上昇するが、GLP-1のクリアランスには影響しないことが分かった。さらに、安定型複合体と前述のアシル化GLP-1アナログとGLP-1-リトコール酸複合体でin vivoでの効果を比較した(リトコール酸は脂溶性のためGLP-1の薬物動態にエストロゲンと同様の効果をもたらすが、エストロゲンのような代謝活性はない)。大きい方から、アシル化GLP-1、安定型複合体、GLP-1-リトコール酸複合体の順に体重減少効果が見られた(それぞれ30.2% 、22.1%、13.1%の体重減少)。GLP-1-リトコール酸複合体による体重減少は、GLP-1のみの効果と同様であった。

さらに、エストロゲン複合体の代謝効果はエストロゲンを「GLP-1と結合させたことによる」ものであることを示すため、エストロゲンとGIPまたはエストロゲンとグルカゴンを結合した複合体を作製し、高脂肪食負荷マウスに投与した。その結果、GIP-エストロゲン複合体ではGLP-1-エストロゲン複合体で見られたような体重減少と代謝改善効果は見られなかった。グルカゴン-エストロゲン複合体では体重減少は見られなかったものの、血糖は15.5%低下した(この血糖低下はコントロールのGLP-1のみの投与と同程度)。グルカゴンのみの投与では血糖は上昇するが、グルカゴン-エストロゲン複合体投与で血糖が低下した原因は不明。エストロゲンにより肝にこの複合体が到達し、グルカゴンによる肝の糖新生を抑制したためか、と推測している。

以上の結果より、「GLP-1とエストロゲン」の組み合わせは、GLP-1の薬物動態を変えたり、GLP-1に対するsuperagonist(内因性アゴニストであるGLP-1以上にGLP-1Rを刺激するアゴニスト)として働くわけではないが、薬理学的な長所を発揮する組み合わせと考えられた。

【結論】
本研究では、メタボリックシンドロームの治療に有効と思われるエストロゲンを選択的に標的臓器に届けるために、薬物シャペロン(medicinal chaperone)としてGLP-1を結合させ、選択的でより効果の強いGLP-1-エストロゲン複合体を作製した。これにより、エストロゲンの高濃度全身投与に伴う副作用(子宮肥大や乳癌の発生)も避けることができた。また、GLP-1の食欲抑制作用とエストロゲンのレプチン様作用により、中枢を介して(おそらく視床下部弓状核のGLP-1Rとエストロゲン受容体を発現したPOMCニューロンを介する摂食抑制により)、強力にな体重減少が達成できた。また、GLP-1は膵β細胞に対する増殖促進作用、エストロゲンは膵β細胞のアポトーシス抑制作用を持つため、このGLP-1-エストロゲン複合体は2型糖尿病治療にも有効であろう。

この安定型GLP-1-エストロゲン複合体は細胞内でエストロゲン作用を起こすため、血漿中では結合が切断されないが細胞内で切断されると考えられる。すなわち、抗体と化学療法剤を結合させた薬剤と同じように、特定の細胞に作用し細胞内で結合が切断されることにより効果を発揮すると考えられる(例としてtrastuzumab emtansine、略称T-DM1、転移性乳癌に過剰発現するHER2に対するモノクローナル抗体トラスツズマブと化学療法剤DM1をリンカーで結合した複合体がある)。以上、本論文では、「ペプチドと核内ホルモンを結合させて相乗的に作用させることにより、特定の細胞に選択的に核内ホルモンを送る」という新しい代謝疾患の治療法の概念を報告した。このような概念により、甲状腺ホルモンを視床下部に選択的に送ることにより褐色脂肪組織での熱産生を刺激することができるかもしれないし、肥満は視床下部の炎症を伴うことから、グルココルチコイドを視床下部(や脂肪組織)に選択的に送ることによりその抗炎症作用を介して肥満を改善することが可能になるかもしれない。
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by md345797 | 2012-11-17 04:36 | その他