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DPP4はコロニー刺激因子活性とストレス造血を抑制する―DPP4阻害剤の新たな臨床的有用性

Dipeptidylpeptidase 4 negatively regulates colony-stimulating factor activity and stress hematopoiesis.

Broxmeyer HE, Hoggatt J, O’Leary HA, Mantel C, Chitteti BR, Cooper S, Messina-Graham S, Hangoc G, Farag S, Rohrabaugh SL, Ou X, Speth J, Pelus LM, Srour EF, Campbell TB.

Nat Med. 18,1786–1796, 2012. (Published online 18 November 2012)

【まとめ】
放射線治療や化学療法、造血幹細胞移植後の造血回復を促進することは、臨床的に非常に重要な課題である。Dipeptidylpeptidase 4 (DPP4)はさまざまな基質を切断するが、その中にはケモカインであるstromal cell-derived factor-1 (SDF-1)も含まれている。本研究では、DPP4が欠損するとSDF-1による造血前駆細胞の生存が促進されることを示した。その実験の過程で予想外に、DPP4がコロニー刺激因子(CSF)活性を抑制することを発見した。すなわち、DPP4はGM-CSF、G-CSF、IL-3、erythropoietinのN末端を切断し、それらの活性を低下させることを明らかにした。そして、Dpp4遺伝子のノックアウトやDPP4阻害剤投与により、in vitroおよびin vivoにおいてCSF活性が増加した。DPP4により切断されたGM-CSFの活性低下メカニズムは、受容体との結合親和性、GM-CSF受容体のオリゴマー形成およびシグナル伝達活性の変化を介している。最後に、Dpp4欠損マウスやDPP4阻害剤(sitagliptin)投与マウスでは、放射線照射や化学療法後の造血回復が促進されることを確認した。以上の結果は、DPP4阻害剤の新しい臨床応用可能性を示すものである。

【論文内容】
造血幹細胞(HSC)および造血前駆細胞(HPC)移植は血液疾患の重要な治療法であるが、移植のために臍帯血や小児の骨髄由来のHSCsを十分量集めるのは難しい。そこで、限られた数のドナー細胞の生着を促進するための方法が模索されてきた。DPP4(別名CD26)は、HSCsやHPCsの膜に発現しているが、膜に結合していない溶解型(soluble form)のDPP4も産生されている。Dpp4遺伝子の欠損や、DPP4活性ペプチド(diprotin A)によって、HPCsのSDF-1への化学走行が促進され、内因性骨髄SDF-1へのホーミングが増加することにより、HSCsの生着が増強されることが分かっている。このグループはDPP4にSDF-1の他の機能を調節する役割があるかを検討していたところ、予想外に、DPP4阻害がin vitroで GM-CSFによるGM前駆細胞の増殖を促進することを発見した。分泌ケモカイン以外のサイトカインがDPP4切断部位を持つことや、その切断部位がCSFsの活性を調節するということは以前は知られていなかった。本研究では、DPP4による切断がCSFsの活性を低下させ、切断されたCSFsは一部は受容体結合の競合によって全長CSFs活性を阻害し、細胞内シグナル伝達を低下させることが示された。さらに、Dpp4遺伝子欠損またはDPP4阻害剤がin vivoにおいて、放射線照射や化学療法後の造血回復を促進することも明らかになった。

DPP4はSDF-1による生存とex vivoの増殖活性を調節している
SDF-1は、HSCsとHPCsの化学走行・ホーミング・生存に重要な分子である。SDF-1はDPP4によって切断され活性が低下するが、以前このグループはDpp4欠損マウスではHPCsのSDF-1への化学走行とHSCsのホーミングが促進されることを示している。HPCsの生存は、SDF-1添加によって有意に促進され、これはDpp4欠損でより大きく増強された。Dpp4欠損骨髄細胞はSDF-1添加なしでは生存が増強されなかったので、DPP4欠損による生存増強効果はDPP4によるSDF-1の切断が起こらないためと考えられた。DPP4を阻害するdiprotin Aの添加により、SDF-1による生存増強効果は100倍に増加した。したがって、細胞表面のDPP4は、SDF-1によるHPC生存増強効果を負に調節していると考えられる。

DPP4阻害はCSFsのin vitro活性を促進する
これらの実験を行っている過程で、このグループは予期せずdiprotin Aの添加によって、GM-CSF刺激によるGM前駆細胞のコロニー形成が2倍に増加されることを発見した。そこで、GM-CSFおよび他のサイトカインのN末端に、DPP4の認識部位であるアミノ酸配列が存在するか蛋白データベースを調べた。その結果、マウスとヒトのGM-CSF、G-CSF、erythropoietinにそのような部位があり、マススペクトロメとリーによる解析でヒトGM-CSFとヒトIL-3が可溶性DPP4により酵素的に切断されること、それはdiprotin Aによって阻害されることが示された。

骨髄系CSFsの活性にdiprotin Aがどのように影響するかを検討するため、ヒト臍帯血やマウス骨髄にdiprotin Aを添加したところ、ヒトおよびマウスのGM-CSF、マウスG-CSF、ヒトIL-3によるコロニー形成は約2倍に増加した。Diprotin Aを前投与した細胞をDPP4切断部位を持つCSFで刺激したところ、前投与しなかった細胞に比べ、コロニー形成が2倍多かった。また、diprotin Aは(赤血球系のCSFである)erythropoietinによる赤血球系のコロニー形成を刺激した。

DPP4による切断によってCSFの活性は低下する
可溶性DPP4で前処置した(N端を切断された)マウスGM-CSFやヒトerythropoietinは活性が低下した。このようなin vitroでのCSF切断の効果をin vivoにおいても確認するため、WTマウスおよびDpp4欠損マウスに、全長または切断されたrecombinant GM-CSFを単回皮下注したところ、24時間後のHPC数はWTマウスでは差がなかったが、Dpp4欠損マウスでは全長GM-CSF投与によるHPC数の増加が認められた。さらに、全長および切断されたerythropoietinのin vivoでの効果を調べたところ、全長のerythropoietin投与は血中への網状赤血球の放出を促進し、その効果はDpp4欠損マウスで大きかったのに対し、切断されたerythropoietin投与では網状赤血球放出効果は少なかった。以上よりin vivoで、全長のGM-CSFやerythropoietinはHPCs増加促進を示すが、DPP4により切断されたGM-CSFやerythropoietinではそのような効果は示さないことが確認された。

DPP4によって切断されたCSFの作用メカニズム
次に、DPP4によって切断されたCSFsが全長CSFsの活性を阻害するメカニズムについて検討した。TF-1細胞(ヒト赤白血病細胞)は、ヒトGM-CSF、IL-3、erythropoietinに反応して増殖し、細胞表面にDPP4を発現している。この細胞をdiprotin Aで前処置しておくと、全長ヒトGM-CSF、IL-3、erythropoietinに反応してコロニー形成が促進される。DPP4によって切断されたCSFsは全長CSFsに比べ、TF-1細胞のコロニー形成能促進が少なかった。このTF-1細胞を用いたScatchard解析によって、全長および切断された[I 125]GM-CSFの受容体への結合動態を調べた。その結果、切断されたGM-CSFは全長GM-CSFの受容体への結合と競合し、全長GM-CSFのシグナル伝達(JAK2-STAT5系の活性化)を低減させることが示された。

DPP4はin vivoでストレス後の造血回復を抑制する
DPP4によってサイトカイン活性が低下するため、DPP4を阻害するとサイトカインが活性化され、ストレス(放射線や化学療法)後の造血回復を促進することができると考えられる。Dpp4欠損マウスはWTマウスに比べて、放射線照射(400 cGy)の後の造血回復が大きかった。細胞傷害性薬剤(5-FUおよびCytoxan)投与後の造血回復も同様にDpp4欠損マウスの方が大きかった。さらに、DPP4阻害剤であるsitagliptin (Januvia)を経口投与すると、投与しなかったマウスに比べ、放射線や5-FU投与後のHPCsの回復が有意に早く、大きく増加した

Dpp4欠損マウスはWTマウスに比べると、5-FU投与後(または400cGy照射後)の末梢血(白血球、好中球、リンパ球、単球、赤血球)の回復促進も大きかった。ただし、sitagliptinの投与では、Dpp4欠損に比べ、末梢血の回復促進の程度は小さかった。

(なお、in vivoでのDPP4阻害は、機能的HSCsに影響を与えるのかどうかを検討するため、competitive repopulation assayを行った。WTレシピエントマウス(B6.BoyJ CD45.1+)にdirotin Aを皮下投与しておくか、またはF1(CD45.1+CD45.2+)レシピエントマウスにsitagliptinを経口投与し、致死量の放射線照射(950 cGy)を行った。そこ上で、C57BL/6ドナー(CD45.2+)細胞とそれが競合するB6.BoyJ (CD45.1+)細胞を用いてWTマウスの骨髄生着を調べる競合移植実験を行った。その結果、DPP4を阻害した致死量放射線照射レシピエントマウスにおいて、生着は有意に多かった。また、生着した細胞の自己再生能は低下していなかった。すなわち、DPP4阻害によるストレス(ここでは放射線照射)後の回復の増強は、HSC機能(生着、自己再生能)の低下によるものではない。)

(また、in vivoでのDPP4阻害後の生着回復にSDF-1が重要な役割を果たすのではないかと考え、SDF-1受容体(Cxcr4遺伝子)をtamoxifen誘導性に全身的にノックアウトしたマウスを用いた検討を行った。ベースラインでは、Cxcr4-/-マウスの骨髄HPCsの絶対数は、コントロールマウスに比べ有意に少なかった。Sitagliptin投与なしでは5-FU投与7日後のHPCsの回復は、Cxcr4-/-マウスの方が、コントロールマウスより効率的に起こった。しかし、どちらのマウスでもsitagliptin投与によるHPC回復の促進は同様であった。したがって、SDF-1-CXCR4の結合は5-FU投与後の回復を減少させる効果があるが、DPP4阻害の造血回復の促進をもたらす効果に必須というわけではない。)

【結論】
DPP4はCSF作用を抑制する因子である」という今回の発見は、臨床に応用可能なものである。すなわち、放射線照射や化学療法を受けた患者やHSC移植のためのコンディショニング後の患者にDPP4阻害剤を投与すると、造血回復を促進することができ、病院滞在日数減や治療結果の好転をもたらすと考えられる。経口DPP4阻害剤であるsitagliptinは、ヒトの放射線治療や化学療法後の造血回復治療に有用と考えられるが、Dpp4遺伝子欠損と同程度の末梢血の回復をもたらすためには、今後、投与量・タイミング・投与期間を最適化する必要があるだろう。現在、このグループはsitagliptinの経口投与により臍帯血移植の効果が高まるかどうかを検討する臨床試験(pilot study)を始めている。なお、DPP4による切断部位を持つ蛋白は、他にもleukemia inhibitory factor、IL-1α、VEGF-Aのsplice variants、IL-6、thrombopoietinなどさまざまなものがある。そのため、DPP4はマウスES細胞の成長(leukemia inhibitory factor)、炎症(IL-1α)、血管新生(VEGF-A)、骨髄腫細胞の成長(IL-6)、ストレス後の巨核球の増殖・血小板の回復(IL-6およびthrombopoietin)など多くの過程に関与しているのだろう。
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(解説図)
左(化学療法後の造血前駆細胞):DPP4は造血前駆細胞(hematopoietic progenitor cells;HPCs)の表面に発現し、ある種の造血成長因子(ここではhematopoietic growth factor; HGFsと略称している)のN末端2アミノ酸を切断する。切断されたHGFsは、全長HGFsと受容体を競合することによりdominant-negativeに働き、HGFsの作用を阻害する。
右(DPP4阻害剤を添加):DPP4阻害剤は、HGFsの切断を防ぐことによって全長HGFsの受容体への結合を増加させる。これにより、化学療法後の造血回復の抑制を改善することができるかもしれない。
EPO, erythropoietin; TPO, thrombopoietin; HGF-R, hematopoietic growth factor receptor.
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by md345797 | 2012-11-22 00:31 | その他