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PTENはエキソソームにより細胞外に輸送され、レシピエント細胞においてフォスファターゼ活性を示す

The tumor suppressor PTEN is exported in exosomes and has phosphatase activity in recipient cells.

Putz U, Howitt J, Doan A, Goh CP, Low LH, Silke J, Tan SS.

Sci Signal. 2012 Sep 25;5(243):ra70.

【まとめ】
エキソソーム(Exosomes)はエンドソーム由来の微小胞(microvesicle) であり、細胞から外に分泌されて、その内容物である蛋白、脂質、DNA、microRNAsなどが、受け手の(レシピエント)細胞の生理状態を変える。本研究では、通常は細胞質と核に存在すると考えられてきた癌抑制因子であるPTENが、エキソソームにより細胞外に分泌されることを示した。分泌されたPTENは、レシピエント細胞に取り込まれ、その細胞のAktリン酸化を低下させ、細胞増殖を抑制するという作用を発揮する。エキソソームによるPTEN分泌には、Ndfip1(E3ユビキチンリガーゼであるNedd4ファミリーのアダプター蛋白)が必要である。PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要である(ユビキチンリガーゼNedd4-1やNedd4-2だけでは取り込みは起こらない)。さらに、PTENのLysine 13はNedd4-1によるユビキチン化に必要なアミノ酸だが、この Lysine13はPTENのエキソソーム輸送に必要であった。PTENは発生および正常・異常の両方の状態で重要な働きをするが、それには本研究で明らかになったPTENの細胞を超えたフォスファターゼ活性が重要である可能性がある。

【論文内容】
PTENは、PI 3-キナーゼ(PI3K)によって産生されたPIP3を脱リン酸化してPIP2に変換することにより、PI3Kシグナル伝達をスイッチonからoffにするフォスファターゼである。PI3K下流のAktはPIP3によってリン酸化され細胞増殖を促進するため、このシグナル伝達を阻害するPTENは癌抑制(tumor suppression)の機能を持つことがよく知られている。実際、PTEN変異を持つ患者は、脳、乳癌、前立腺、皮膚の腫瘍を起こすことがある。

PTENは通常は細胞質に存在し、PIP3が存在する細胞膜へと移行してフォスファターゼ活性を示すと考えられている。また、PTENは核にも蓄積し、染色体安定性を促進するなどフォスファターゼ活性とは別の作用を及ぼしており、これがPTENの癌抑制作用に重要と考えられてきた。今まで、PTENが細胞外に分泌され、細胞を超えて活性を発揮するということは知られていなかった。

エキソソーム(exosomes)は、後期エンドソームや多小胞体(multivesicular bodies; MVBs)由来の小胞であり、MVBsが細胞膜と融合することにより細胞外分泌を担うことが知られている。エキソソームは、不要になった蛋白、脂質、RNAsなどを細胞外に輸送するための小胞として働いたり、細胞外に蛋白やmRNAsを分泌し細胞間でシグナルを伝達するのに必要と考えられている。エキソソームの働きの例として、癌に対する抗原を細胞外へと輸送し、T細胞がそのエキソソームを取り込むことによって癌に対する免疫が維持されるなどの作用が知られていた。この研究では、癌抑制因子であるPTENがエキソソームによって細胞外に輸送され、標的細胞の増殖抑制を促進するという予想外の結果を報告する。

PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要である
この研究ではまず、mouse embryonic fibroblasts(MEFs)またはHEK293T細胞から3段階遠心プロトコールによって得られたエキソソーム中に、PTENが存在することを発見した。PTENとNdfip1はショ糖勾配において、エキソソームマーカーであるTsg101と同じ分画に出現し、PTENとNdfip1がエキソソームに存在することが分かった。さらに透過電子顕微鏡によりこれらは典型的な大きさと形態をもつエキソソームであることが分かった。このときの細胞は95%以上生存しており、死細胞からのエキソソーム放出ではないことも確認した。

次に、His-tagged PTENとFLAG-tagged Ndfip1をHEK293T細胞に同時にtransfectし、それぞれの抗体による免疫沈降によって、両者が生理的に結合していることを確認した。Ndfip1-/-MEFsではPTENがエキソソームに取り込まれず、そこに外因性にNdfip1を発現させるとPTENがエキソソームに取り込まれたため、PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要であることが分かった。

ユビキチンリガーゼアダプター蛋白Ndfip1がないとPTENのエキソソームへの取り込みは起こらない
Ndfip1はE3ユビキチンリガーゼのNedd4ファミリーのアダプター蛋白であり、Nedd4ファミリーの一つであるNedd4-1はPTENに結合してユビキチン化することが知られている。そこでユビキチンンリガーゼNedd4-1やNedd4-2がPTENのエキソソームへの取り込みに必要かどうかを検討した。HEK293T細胞にNedd4-1またはNedd4-2を過剰発現させてもPTENのエキソソームへの取り込みは促進されず、Ndfip1を同時に発現させたときのみ促進された。したがって、PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要であり、ユビキチンリガーゼNedd4-1やNedd4-2だけではエキソソームへの取り込みは起こらない。

PTENのユビキチン化部位であるLys13は、PTENのエキソソームへの取り込みに必要である
PTENのLys13は、Nedd4-1によるユビキチン化に重要なアミノ酸である。なお、PTENのユビキチン化部位の変異はPTENの癌抑制作用を障害するため、癌の発症につながることが知られている。HEK293T細胞に、PTENのLys13のグルタミン酸置換体(K13E)と野生型(WT)のPTEN、およびNdfip1を発現させた。その結果、WT PTENを発現させたNdfip1発現細胞ではPTENのエンドソームへの取り込みが見られた。(なお、Ndfip1を発現させなかった細胞では取り込みなし)。それに対し、K13E PTENはNdfip1の有無にかかわらずエンドソームに取り込まれなかった。以上より、PTENのLys13のユビキチン化がエンドソームへの取り込みに必要であると考えられた。

エキソソーム内のNdfip1とPTENはレシピエント細胞に取り込まれた後、機能的に活性を持つ
次に、Ndfip1+/+MEFsより調製したエキソソームを緑色蛍光染色PKH67を用いてラベルし、Ndfip1-/-MEFsに添加した。その結果、レシピエントのNdfip1-/-MEFsで、緑色蛍光染色された外来性のエキソソームが取り込まれているのが観察された。さらに、ドナーMEFs(WTまたはNdfip1-/-)から調製したエキソソームを、Ndfip1+/+およびNdfip1-/-MEFsに添加したところ、Ndfip1+/+MEFs由来のエキソソームのみがレシピエント細胞に取り込まれていることをWestern blottingで確認した。免疫蛍光染色でも、Ndfip1+/+ MEFでの内因性Ndfip1(下図左上:赤く染色されている部分)と、Ndfip1-/- MEFではこれがないことを確認し(下図右上)、Ndfip1を発現させたHEK293T細胞由来のエキソソームを添加したNdfip1+/+ MEFおよびNdfip1-/- MEF(それぞれ左下、右下)の細胞質内にNdfip1が著明に増加して認められることを確認した。
PTENはエキソソームにより細胞外に輸送され、レシピエント細胞においてフォスファターゼ活性を示す_d0194774_1544710.png

(図)レシピエントMEFs(左上はNdfip1+/+でNdfip1は赤色、右上はNdfip1-/-)への、ドナーHEK293T細胞のエキソソーム由来Ndfip1の取り込み(左下はNdfip1+/+、右下はNdfip1-/-MEFsで、Ndfip1は赤色)

次に、HEK293T細胞にPTEN-EGFPとNdfip1を発現させ、そのエキソソームを得て、Ndfip1-/- MEFsに添加して培養した。そのレシピエント細胞の細胞質には免疫蛍光染色でEGFPが認められ(下図左上:EGFP抗体で染色=緑)、PTEN染色では内因性PTENとエキソソーム由来のPTEN-EGFP(下図右上:PTEN抗体で染色=赤)が認められた。両画像の重ね合わせで、レシピエント細胞に取り込まれたPTEN-EGFPが認められた(下図左下:重ね合わせ像で赤は内因性PTEN、黄色は取り込まれたPTEN-EGFP)。これはWestern blottingでも同様の結果が確認された。
PTENはエキソソームにより細胞外に輸送され、レシピエント細胞においてフォスファターゼ活性を示す_d0194774_1551852.png
(図) レシピエントNdfip1-/- MEFsの、エキソソーム由来PTEN-EGFP(左上緑色)、内因性PTEN(右上赤色)、およびエキソソーム由来PTENの取り込み(左下重ね合わせ像の黄色)

では、レシピエント細胞に取り込まれたPTENはフォスファターゼ活性を持つのか。Ndfip1+/+MEFsまたはNdfip1-/- MEFs由来のエキソソームをレシピエントのNdfip1-/- MEFsに添加し、レシピエント細胞内のAktリン酸化を調べたところ、Ndfip1+/+MEFs由来エキソソームを添加したレシピエント細胞でのみAktリン酸化が著明に低下した。

さらに、U87MG細胞(神経膠芽腫=glioblastoma細胞株、PTEN機能が欠損している)に、Ndfip1発現あり・なしの条件下で、WT PTENまたはフォスファターゼ欠損(C142S) PTENを発現させた。その結果、Ndfip1を発現させた場合のみ、WTとC142S PTENのエキソソームへの取り込みが認められた。そこでこれら2種類のエキソソームを採取して、Ndfip1-/-MEFsに添加したところ、WT PTENを含むエキソソームを添加した場合のみレシピエント細胞のAktリン酸化が低下した。

最後に、PTEN取り込みによるレシピエント細胞のAktリン酸化低下が細胞増殖の低下につながっているかを調べた。MTT細胞増殖アッセイにより、レシピエントのNdfip1-/- MEFsはNdfip1+/+MEFs由来のエキソソームを添加した場合のみ細胞増殖の抑制が起きた。Ndfip1-/- MEFs由来のエキソソームでは(エキソソームにPTENが含まれないと考えられ)、細胞増殖抑制は起きなかった。

【結論】
本研究で明らかになった、エキソソームによる内因性PTENの細胞外への輸送およびレシピエント細胞への取り込み(下図)は、レシピエント細胞のAktリン酸化を低下させ、細胞増殖を抑制する働きを示した。この非細胞自律性(non-cell-autonomous)なPTENの効果発現様式は、癌抑制効果のみならず、発生や代謝にとっても重要なものであるかもしれない。
PTENはエキソソームにより細胞外に輸送され、レシピエント細胞においてフォスファターゼ活性を示す_d0194774_144910.jpg
(図) 上はPTENを(Ndfip1依存性に)エキソソームに取り込むドナー細胞、下はそのエキソソームを受け取るレシピエント細胞を表す。
by md345797 | 2012-11-28 01:50 | シグナル伝達機構