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ケトン体であるβヒドロキシ酪酸は、内因性のHDAC阻害物質であり、酸化ストレス障害の抑制に働く

Suppression of Oxidative Stress by β-Hydroxybutyrate, an Endogenous Histone Deacetylase Inhibitor.

Shimazu T, Hirschey MD, Newman J, He W, Shirakawa K, Le Moan N, Grueter CA, Lim H, Saunders LR, Stevens RD, Newgard CB, Farese RV Jr, de Cabo R, Ulrich S, Akassoglou K, Verdin E.

Science. 2013 Jan 11;339:211-214.

【まとめ】
この研究では、ケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸 (β-Hydroxybutyrate ; βOHB)が、内因性の class Iヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylases; HDACs)阻害物質であることを報告している。マウスにβOHBを投与したり、絶食またはカロリー制限により内因性βOHBを増加させたりすると、腎組織のヒストンアセチル化は全体的に増加した。また、βOHBによるHDAC阻害により、酸化ストレス耐性をコードする遺伝子(FOXO3A、MT2など)の転写が増加した。HEK293細胞にβOHBを添加すると、Foxo3aMt2プロモーターのヒストンアセチル化が増加し、どちらの遺伝子発現もHDAC1とHDAC2の選択的欠損によって活性化された。βOHB を投与したマウスは、FOXO3AとMT2活性増加に伴って、酸化ストレス(パラコートによる蛋白カルボニル化など)に対する耐性が認められた。

【論文内容】
外部環境、栄養状態などによりある種の代謝産物(アセチルCoAやNAD+)が増加すると、これらの代謝産物はエピジェネティックな調節因子としてヒストンの転写後調節を行うことにより遺伝子発現に影響を与える。これらのうち、ヒストンアセチル化においては、ヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferases; HATs)の活性は核内アセチルCoA濃度により調節され、ヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylases; HDACs)のうちclass III HDACs(すなわちsirtuins)の活性はNAD+濃度に依存している。Class I HDACs (HDAC1, 2, 3, 8)、class II HDACs (HDAC4, 5, 6, 7, 9, 10) 、class IV HDAC (HDAC11) はzinc依存性酵素であることが分かっているが、それらの内因性の調節は不明である。

酪酸(butyrate)は、class Iおよびclass II HDACsの阻害因子であることが知られている。哺乳類の運動や空腹時における主要なエネルギー源であるβ-ヒドロキシ酪酸 (β-Hydroxybutyrate ; βOHB)は、酪酸に類似した構造を持つ。血中のβOHB濃度は、2-3日の絶食時または激しい運動時には肝が脂肪酸酸化を行うため1-2 mMに増加、飢餓が持続すると6-8 mMに上昇、糖尿病性ケトアシドーシスでは25 mM以上に増加すると考えられている。

ここで、βOHBが酪酸と同様にHDAC阻害活性を持つのかを検討するため、HEK293細胞にβOHBを8時間添加し、アセチル化ヒストン抗体(アセチル化H3Lys9とLys14: AcH3K9およびAcH3K14に対する抗体)でWestern blotを行うことにより、βOHBのヒストン脱アセチル化への影響を検討した。その結果、βOHBの添加により、用量依存的に(1-2mMの濃度でも)、ヒストンアセチル化が増加した。βOHBは酪酸と同じく、class I HDAC阻害活性を示し、class IIb HDAC (HDAC6)阻害活性 (tublinの脱アセチル化)は示さなかった。

次に、Flag-taggedヒトHDAC1、 HDAC3、 HDAC4、HDAC6をHEK293細胞に発現させて精製し、[3H]-標識アセチル化ヒストンH4ペプチドを用いて脱アセチル化活性を測定した。その結果、βOHBはHDAC1、HDAC3、HDAC4活性を用量依存的に(1-100 mM)阻害したが、HDAC6活性は阻害しなかった。mM濃度のβOHBは、直接HDACを阻害することによってヒストンアセチル化を増加させていると考えられた。

(なお、βOHBは標的細胞内でアセチルCoAへと分解されるので、このときアセチルCoA濃度の増加が起きたためにヒストンアセチル化が増加したのではないことを確認した。また、βOHBがp300とPCAF (p300/CBP関連因子)のHAT活性を亢進させたためにヒストンアセチル化が増加したわけでもないことを確認した。)
(また、高濃度のアセト酢酸(acetoacetate; AcAc)もin vitroおよびHEK293細胞でclass Iおよびclass IIa HDACを阻害した。しかし、AcAcの血中濃度はβOHBの1/3以下で、生理的条件下ではHDACsを阻害する濃度に達するとは考えにくい。βOHB dehydrogenases (βOHBをAcAcに変換する酵素)をsiRNAを用いて欠損させた細胞において、3 mM以下のβOHBに反応するヒストンアセチル化の増加は見られなかったが、10-30 mMの高濃度βOHBには反応してヒストンアセチル化が増加した。したがって、細胞に高濃度のβOHBを添加すると、AcAcまたはアセチルCoAも介してヒストンアセチル化が増加することが示唆された。)

次に、in vivoにおける血中βOHB濃度が組織のヒストンアセチル化に関与しているかを検討するため、24時間絶食マウスまたはカロリー制限マウス、さらには浸透圧ポンプを用いてβOHBを投与したマウスの血清中のβOHB濃度を調べた。その結果、いずれも血清βOHB濃度が増加していたため、これらのマウスの腎組織のヒストンアセチル化(H3K9、H3K14)を調べたところ、いずれも有意に増加していた。また、血清βOHB濃度とアセチル化H3K9、H3K14の間には強い相関が認められた。(なお、腎はヒストンアセチル化の変化が最も大きい臓器であり、βOHBの遺伝子発現への影響が現れやすいと考えられた。)

βOHB投与に伴うヒストンアセチル化増加により発現が調節される遺伝子を同定するため、βOHB投与マウスの腎から抽出したmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果をIngenuity社パスウェイ解析(IPA)により解析したところ、FOXO3Aによって調節される2つの遺伝子(Mt2Lcn2)が同定された。転写因子Foxo3aとmetallothionein2 (Mt2)は、どちらも酸化ストレス耐性に関与する遺伝子である。Foxo3aMt2プロモーターのchromatin immunoprecipitation (ChIP)解析によって、高濃度βOHBを添加したHEK293細胞ではプロモーターのH3K9アセチル化の増加が認められた。

なお、shRNAを用いてclass IおよびII HDACをそれぞれ選択的に欠損させたところ、Foxo3aMt2のmRNAが増加することを確認した。Foxo3aMt2のプロモーターにはHDAC1が結合したが、この結合はβOHB投与によって変化はなかった。したがって、HDAC活性はプロモーターへのHDAC1結合には影響はなく、βOHBはHDAC活性阻害によりプロモーターのヒストンアセチル化を増加させていると考えられた。

Mitochondrial superoxide dismutase (Mn-SOD)とcatalaseもFOXO3Aの標的であり、酸化ストレス耐性に関与している。βOHB投与マウスの腎組織では、FOXO3AおよびMn-SOD、catalaseの発現も増加していた。では、βOHBはin vivoにおいて酸化ストレスを防止する作用を持つのか?浸透圧ポンプを用いてマウスに24時間βOHBを投与し、その後に活性酸素種(ROS)を発生させるパラコートを静注し、2時間後に腎組織の蛋白カルボニル化を調べた(dinitrophenyl(DNP)の抗体でimmunoblottingした)。パラコート静注によりカルボニル化蛋白は2倍に増加したが、事前にβOHBを投与されていたマウスではそれが有意に抑制されていた。またこれらの腎組織を、別の酸化ストレスマーカーである過酸化脂質、4-hydroxynonenal (4-HNE)の抗体でも染色したところ、パラコート静注で3倍に増加した4-HNE染色部位がβOHB投与群では完全に抑制されていた。以上より、in vivoにおける酸化ストレス障害は、βOHB投与によって抑制されることが示された。

【結論】
βOHBは内因性のHDAC阻害物質であり、絶食やカロリー制限によるmM単位の濃度増加で組織にエピジェネティックな変化(ヒストンアセチル化の増加)を起こして、酸化ストレス耐性遺伝子(Foxo3aなど)の発現を増加させることにより、生体の酸化ストレス耐性をもたらすことが明らかになった。以前より、低炭水化物食によるケトン体産生によって神経の酸化ストレス障害耐性がもたらされること(neuroprotectiveな効果)が知られていた。本研究の結果から、ケトン体産生食(ketogenic diets)やカロリー制限による効果は、βOHBのHDAC阻害効果を介しているのかもしれないと考えられた。


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(解説図)可塑性をもつエピゲノム(A plastic epigenome)
本研究では、絶食・カロリー制限・低炭水化物食などに伴うβOHB増加が、HDACsを阻害することにより、ヒストンアセチル化の増加をきたし、酸化ストレス耐性遺伝子の発現を増加させることが示された。
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by md345797 | 2013-01-11 07:17 | その他