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急性栄養失調であるクワシオルコルの原因因子として、食事だけでなく腸マイクロバイオームが重要である

Gut microbiomes of Malawian twin pairs discordant for kwashiorkor.

Smith MI, Yatsunenko T, Manary MJ, Trehan I, Mkakosya R, Cheng J, Kau AL, Rich SS, Concannon P, Mychaleckyj JC, Liu J, Houpt E, Li JV, Holmes E, Nicholson J, Knights D, Ursell LK, Knight R, Gordon JI.

Science. 339(6119): 548-554, 2013.

【まとめ】
クワシオルコル(Kwashiorkor)は、栄養摂取不良と環境からの悪影響の結果起こる、原因不明の重症急性栄養失調である。この研究では、マラウイ(アフリカ南東部の国)における317双生児ペアを出生から3歳まで追跡し、その腸内細菌叢について検討した。これらの双生児ペアは50%が栄養状態良好であったが、残り50%の内訳は、43%で双生児のどちらか一方のみにクワシオルコルが見られ(クワシオルコルの有無に関して不一致:discordant for kwashiorkor)、7%は両方にクワシオルコルが認められた。そこで、上記の「クワシオルコルに関して不一致が見られた双生児」の両方の児に、RUTFを与え治療した。
(RUTF=ready-to-use therapeutic foodの略。調理不要ですぐに食べられる栄養補助食品のこと)

さらに、これらの双生児の腸microbiomeを、継時的なメタゲノム解析によって追跡した。RUTFの投与によって、クワシオルコルの腸microbiomeの代謝機能は一過性に正常化したものの、RUTFが中止されると悪化した。

次に、何組かの「クワシオルコルに関して不一致を示す双生児」の両方の児から採取した便の細菌叢を、それぞれノトバイオティックマウスに移植する動物実験を行った(gnotobiotic mice=細菌叢がすべて明らかになっているマウス)。その結果、クワシオルコルの児由来の腸microbiomeとマラウイの食事の両方が重なったときに、レシピエントマウスの体重が著明に減少した。また、これによりレシピエントマウスの代謝産物の障害が認められたが、これらはRUTF投与では一過性にしか改善しなかった。このような動物実験の結果から、クワシオルコルの原因因子として、食事だけでなく、腸microbiomeが重要であることが示された。

【論文内容】
世界の小児の死亡原因の多くは、栄養失調である。重症の急性栄養失調(severe acute malnutrition: SAM) のうち、「クワシオルコル」と呼ばれるものは、全身性の浮腫、脂肪肝、皮膚炎と潰瘍、食欲不振など独特の特徴を示す、SAMの中でも悪性のタイプをさす(一番下の写真参照)。このクワシオルコルの原因はよく分かっていない。一般的には蛋白摂取不良や酸化ストレス過剰が関与しているとされているが、そうでないとする疫学的な調査や臨床研究もある。

そこでこのグループは、アメリカ合衆国(都市部)・ベネズエラ(アマゾン川流域)・マラウイ(農村部)に住む小児・成人の調査をもとに、(1) 腸microbiomeは出生後の健全な成長と発達に必要な因子ではないか、(2)腸microbiomeの構造と機能が(腸管病原菌感染などによって)かく乱を受けるとクワシオルコルのリスクが高まるのではないか、(3)栄養失調は腸microbiomeの機能を変化させることにより、健康状態に大きく影響するのではないか、などの仮説を立てた。

これらの仮説の検証のため、マラウイに生まれた一卵性(monozygotic)および二卵性(dizygotic)双生児ペアのうち、「クワシオルコルに関して不一致を示した双生児」(一方はクワシオルコルを示したが、一方は示さなかった双生児ペア)の便microbiomeの長期にわたる比較研究を行った。マラウイは世界で最も小児死亡率が高い国の一つであり、「クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペア」のうちクワシオルコルを示さない、栄養状態良好な方の児(co-twin)は、クワシオルコルを示した児にとって食事や細菌環境が同様であり、望ましいコントロールと考えられた。

RUTFは、ピーナッツペースト・砂糖・植物油・ビタミンミネラル強化牛乳などからなる栄養補助食品で、国際的にSAMの標準的治療となっている。マラウイにおいて「クワシオルコルに関して不一致をしめす双生児ペア」の標準治療はRUTFを与えることであるため、両方の児でお互い相手の児をコントロールとして治療前・治療中・治療後の腸microbiomeを比較することができる。また、同地域に住み、RUTFを与えられていない栄養状態良好の双生児ペアの便microbiomeも、さらなるコントロールとした。

マラウイ南部地区5か村に住む317組の双生児ペア(46組が一卵性、残りが二卵性)を対象に、出生から36か月齢(3歳)まで追跡した。これらの双生児ペアのうち50%は栄養状態良好であったが、43%は一方が急性栄養失調、7%は両方が急性栄養失調を呈していた。(なお、これらの栄養状態は、一卵性か二卵性かとは関連がなかった)

健康な双生児と、クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアの便microbiomeの比較
栄養状態良好な9の双生児ペアと、クワシオルコルに関して不一致を示す13の双生児ペアのそれぞれの便microbiomeのメタゲノム解析を行い、それを主座標分析(principal coordinate analysis)を用いて視覚化した。ばらつきの最大の説明変数となる第1主座標(PC1)は年齢と強く相関するものであった。栄養状態良好な双生児ペアは二人とも月がたつにつれてPC1が上昇したのに対し、クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアでは、健康な児はRUTF投与によりPC1が上昇したが、クワシオルコルの児はRUTFを投与してもそのような変化が見られなかった。健康状態と腸microbiomeに関連があることは分かったが、このことだけから「腸microbiomeがクワシオルコルの原因因子である」とまでは言えない。

便細菌叢のノトバイオティックマウスへの移植
そこで、クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアの凍結便細菌叢をノトバイオティックマウス(gnotobiotic mice)に移植し、その細菌叢の構造・代謝・宿主との共代謝(cometabolism)の特徴を調べることとした。6名のヒトドナーの便細菌叢を、それぞれC57BL/6J germ-freeマウスに強制経口投与(single oral gavage)した。その1週間前からそれらのマウスには南部マラウイ地方の主食に基づいた滅菌食を摂食させておいた。クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアのうち、クワシオルコルの児の細菌叢を移植したマウスは、健康な方の児の細菌叢を移植したマウスに比べて、体重が有意に減少した。ただしこの減少は、マウス通常食(standard mouse chow)を与えた場合には見られなかった。したがって、この体重減少はマラウイ食摂取とクワシオルコル細菌叢移植の両方に依存して起きたと考えられた。

クワシオルコルの細菌叢を移植したマウスは上述のように便移植3週間後から急激に摂食が減少したが、食餌をマラウイ食からRUTFに変更したところ体重が増加した。2週間RUTFを与えた後再びマラウイ食に戻したところ、これらのマウスは健康な細菌叢を移植したマウスに比べ体重は少なかったものの、以前のような急な体重減少は見られなかった。すなわち、双生児のうちどちらのドナー細菌叢を移植されるか、どのような食餌を与えられるかで代謝状態は決定される。これらの微生物種やその遺伝子、代謝産物量の解析に移ることにした。

マラウイ食を与えられているレシピエントの2つの群(クワシオルコルの細菌叢を移植された群、健康な細菌叢を移植された群)では、37種の分類群(taxa)の細菌で有意な差が見られ、その中でもBilophila wadsworthia(ヒトの炎症性腸疾患(IBD)に関連あるProteobacteria)とClostridium innocuum(免疫不全患者の日和見感染を起こす)で大きい差があった。マラウイ食からRUTFへの移行は、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスの便細菌叢に急速な変化をもたらした。特に、BifidobacteriaとLactobacilli(先天性免疫を刺激)、Ruminococcus(腸炎モデルマウスにおいて抗炎症作用を示す)が著明に増加、Bacteroidalesが有意に低下していた。

クワシオルコルに関連する代謝プロファイルの変化
上記のマウスの異なる食餌期(マラウイ食、RUTF、再度のマラウイ食)における便中の短鎖脂肪酸(SCFA)・炭水化物・アミノ酸・核酸・脂質の代謝を、ガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリーにより解析した。マラウイ食をRUTFに移行させると便中の6必須アミノ酸と3非必須アミノ酸の量が増加したが、RUTFをマラウイ食に戻すと、健康な細菌叢を移植されたマウスではこれらの量は増加したままだったが、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスでは前の値に低下した。また、RUTFによるSCFA (propionate、butyrate、lactate、succinate)の増加は健康な細菌叢を移植されたマウスで大きかった。

「細菌-宿主共代謝」は、ドナー細菌叢と宿主の食餌の両方の影響を受ける
さらに、これらのマウスの尿の代謝産物プロファイルをNMR spectroscopyを用いて比較した。その結果、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスの尿では、マラウイ食からRUTFに移行した場合の代謝産物の変化は、再びマラウイ食に戻した場合に大きく変化したが、健康な細菌叢を移植されたマウスの尿ではそれらはあまり変わらなかった。また、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスの尿中taurineは、健康な細菌叢を移植されたマウスの尿中taurineに比べ有意に少なかった。なお、いずれのマウスでもマラウイ食を負荷したマウスで尿中taurineは高値であった。マラウイ食は(動物性)蛋白が欠乏しており、血中methionine低下とそれに伴う尿中硫酸塩(sulfate)の低下はクワシオルコルでよく見られるものである。このマウス実験においては、クワシオルコルの細菌叢とマラウイの蛋白欠乏食の両方が硫酸塩代謝の異常を介して、急性栄養失調につながりうる可能性が示唆された。

【結論】
本研究では、ある疾患(クワシオルコル)に関して不一致を示す双生児のドナーの腸内細菌叢をレシピエントであるマウスに移植する動物実験を行った。この「個別化(personalized)ノトバイオティックマウスモデル」に対し、食餌の種類を変えて、その栄養状態やメタゲノムの解析を行うことにより、元の疾患におけるmicrobiomeの役割を明らかにすることができた。本研究では、クワシオルコルの病因として、マラウイの蛋白欠乏食と腸microbiomeの両方が影響していることが明らかになった。また、もともとの腸microbiomeの違いによってRUTFに対する反応性も異なることが示された。この方法を用いることにより、栄養失調という地球規模の健康問題に腸microbiomeがどのような役割を果たしているのかが解明できる可能性がある。

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図:クワシオルコルの小児(左)と、その状態を示すモデル(右)
右下は、栄養失調が持続する悪循環を表したモデルで、食事摂取不十分→免疫反応の障害→腸の感染→細菌叢の変化→腸の透過性の調節異常→吸収不良→これが最初の食事摂取不十分につながる。さらに右上は、ヒトと細菌のエコシステムの安定性に関する、アトラクター理論における「吸引流域 (basin of attraction)」を表す。治療食だけでは栄養不良の状態(赤丸)から脱することはできない(赤実線矢印)。健康な栄養状態(黄色丸)に至る(赤点線矢印)ためには、宿主の腸細菌叢がより効率的な栄養素利用ができるように変化する必要がある。
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by md345797 | 2013-02-04 23:45 | その他