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インスリン抵抗性下で膵β細胞の肥大を起こす、肝由来の全身性因子の存在

Liver-Derived Systemic Factors Drive β Cell Hyperplasia in Insulin-Resistant States.

El Ouaamari A, Kawamori D, Dirice E, Liew CW, Shadrach JL, Hu J, Katsuta H, Hollister-Lock J, Qian WJ, Wagers AJ, Kulkarni RN.

Cell Rep. 2013 Jan 30. Published online.

【まとめ】
肥満、糖尿病における代謝障害では、全身の臓器間クロストークの統合の異常がみられることがある。インスリン抵抗性の状態では膵β細胞の肥大が起きるが、肝特異的インスリン受容体欠損マウス(LIRKO)マウスでは膵島が肥大することが知られている。これは、肝と膵島の間の何らかのクロストークによるものであろうか。このグループは、in vivoのパラバイオーシスおよび移植実験と、in vitroの膵島培養実験を用いて、LIRKOマウス由来のβ細胞増殖を促す、液性因子(これは非神経性で、非細胞自律性の因子である)の存在を示した。さらに、肝細胞由来因子が、ex vivoにおいても、その環境のグルコース、インスリン値とは無関係に、マウスおよびヒトのβ細胞増殖を促進したことを報告する。以上より、インスリン抵抗性の状態において、肝はβ細胞増殖ための重要な液性因子産生臓器であることが示された。

【論文内容】
インスリン抵抗性に対し、生理的に(妊娠時)または病理的に(肥満時)、膵β細胞の代償性肥大が起きることはよく知られているが、そのメカニズムはよく分かっていない。全身性の膵β細胞肥大促進因子としては、腸管由来のGLP-1、GIP、脂肪細胞由来のleptin、adiponectin、筋肉由来のIL-6、マクロファージ由来のIL-1β、 IFN 、TNF-α、骨由来のosteocalcin、甲状腺ホルモン、platelet-derived growth factor (PDGF)、serotonin、FGF21などが報告されている。しかし、このグループの検討によると、インスリン抵抗性動物であるLIRKOマウスでは膵β細胞の増殖が見られるのにこれらの因子が大きく変化していなかったことから、肝由来の未同定の因子の存在が予想された。

まず、3か月齢のLIRKOマウスにBrdU (100 mg/kg body weight)を注入して、膵β細胞、α細胞、肝・脂肪・骨格筋などの増殖について検討した。LIRKOマウスでは膵β細胞量が2倍程度に増加しており、BrdU取り込み能およびKi67陽性β細胞(増殖しているβ細胞)は2.5倍程度に増加していた。TUNEL染色ではβ細胞のアポトーシスに変化は見られなかった。また、β細胞以外の細胞にも増殖能の差は見られなかった。LIRKOマウスのインスリン抵抗性によって、膵β細胞の増殖が促進されていると考えられた。

非神経性・非細胞自律的液性因子がLIRKOマウスのβ細胞複製を促進している
まず、6週齢マウスのcontrol/control、control/LIRKO、LIRKO/LIRKOマウスでパラバイオーシスを行い16週齢まで観察したところ、control/LIRKO群では空腹時血糖・血中インスリンがcontrol/control群に比べ上昇した。膵β細胞へのBrdU取り込みはcontrol/control群で低く、LIRKO/LIRKO群で高かったが、control/control群に比べ、control/LIRKOのcontrolマウスで有意に高値であった。すなわち何らかの液性因子の存在が予想された。以前、膵β細胞増殖に働く肝由来の神経経路が同定されたが、LIRKOマウスでもその可能性を検討するため下記の移植実験を行った。ControlおよびLIRKOマウスから125の同じ大きさの膵島を単離し、それぞれcontrolとLIRKOマウスの腎被膜下に移植した(一匹のレシピエントマウスの左右の腎に、controlとLIRKOのそれぞれのドナーからの膵島を移植)。16週後、移植した膵島を採取してβ細胞へのBrdU取り込みを調べた。Control→control移植のβ細胞ではBrdU取り込みは少ないが、control→LIRKO移植のβ細胞ではBrdU取り込みが8倍大きかった。逆にLIRKO→control移植ではその増加は見られなかった。LIRKOレシピエント環境下では(由来細胞にかかわらず)β細胞増殖が起こり、controlレシピエント環境下では起こらないことから、ここでもβ細胞増殖に働く非神経性・非細胞自律的な因子の存在が考えられた。

LIRKOマウスの血清はin vivoでβ細胞複製を選択的に促進する
この因子が血行に乗った分子なのか細胞なのかを検討するため、6か月齢のLIRKOマウスまたはcontorlマウスの血清を6週齢マウスの腹腔内に1日2回注入した。LIRKO血清を注入されたconrtolマウスの膵β細胞は2倍程度に増加したが、control血清を注入されても増加しなかった。このin vivoの検討から、血清中に安定に存在する血行性分子がLIRKOマウスの膵β細胞増殖を促進していると考えられた。

LIRKO血清はin vitroでマウスおよびヒト膵β細胞を増殖させる
LIRKOおよびcontrolマウス由来の血清を含むmediumでマウス膵島を培養し、Ki67免疫染色でβ細胞増殖を検討した。3か月齢のLIRKOマウスの血清は、培養膵β細胞の増殖をもたらした。12か月齢LIRKO血清でも増殖をもたらしたが、12か月齢control血清(加齢によるインスリン抵抗性がもともと存在する)でもやや増殖が促進されたため、有意差は見られなかった。なお、TUNEL染色ではβ細胞のアポトーシスに差は認められなかった(下図)。(ここでは未発表だが、LIRKO血清中のβ細胞増殖促進因子は熱で不活化されたため、おそらく蛋白である)。

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LIRKOマウスの血清は、ヒトドナー(9名の健常者と2名の2型糖尿病患者由来)の培養膵島でもβ細胞増殖を促進した。LIRKO血清は糖尿病患者由来のβ細胞も増殖を促進したことが重要である。すなわち、血中のβ細胞増殖促進因子は、ヒトとマウスの種間で保存され、2型糖尿病患者の膵島にも効果がある。(ヒトの膵島ドナーはIntegrated Islet Distribution Programに基づき研究用に採取されたものである。)

(なお、膵β細胞増殖を促進する重要な因子はグルコースとインスリンそれ自体であるが、LIRKOマウスパラバイオーシス実験では血糖上昇が認められていないこと、in vitro実験ではグルコース濃度を一定にしインスリン濃度は血清希釈によりin vivoに比べると有意に低値であることから、グルコースやインスリンがその因子ではないと考えられる。)

肝細胞由来因子がin vitroでマウスとヒトの膵β細胞複製を促進する
最後に、LIRKOおよびcontrolマウス由来肝の組織片培養(liver explant cultures: LECM)の上清のmediumを採取し、マウス膵島に添加した。その結果、LIRKOマウスの肝由来のLECM添加によりKi67陽性β細胞数が増加した。同様に2型糖尿病患者由来の膵島においてもβ細胞増殖を促進した。肝には、肝細胞、Kupffer細胞、血管内皮細胞など多くのタイプの細胞が含まれる。そこで、培養肝細胞primary hepatocytesの上清のmedium (hepatocyte-conditioned medium: HCM)を、単離マウス膵島と2型糖尿病ヒトの膵島に添加したところ、controlマウスに比べLIRKOマウスの肝細胞由来のmediumで膵β細胞の増殖が促進された。

【結論】
インスリン抵抗性の肝細胞にはβ細胞の増殖を促進するような因子(βcell growth-promoting factor(s))が含まれていると考えられる。β細胞を増殖させるシグナル伝達経路は数多く報告されている
が(下図)、インスリン抵抗性に反応して血行性に直接β細胞増殖を刺激する因子はまだわかっていない。本研究のLIRKOマウスを用いた検討から、マウスとヒトで保存された、全身性の肝細胞由来液性因子の存在が示唆された。

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by md345797 | 2013-02-12 03:05 | 再生治療