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DPP4は新種ヒトコロナウイルス(human coronavirus-EMC)の機能的受容体である

Dipeptidyl peptidase 4 is a functional receptor for the emerging human coronavirus-EMC.

Raj VS, Mou H, Smits SL, Dekkers DHW, Müller MA, Dijkman R, Muth D, Demmers JAA, Zaki A, Fouchier RAM, Thiel V, Drosten C, Rottier PJM, Osterhaus ADME, Bosch BJ, Haagmans BL.

Nature. 495,251-254, 14 March 2013.

d0194774_12223970.jpg新種ヒトコロナウイルス(hCoV-EMC)
(右写真:Elizabeth R. Fischer, Rocky Mountain Labs/NIAID/NIHより)

2002から2003年にかけて発生したSARSコロナウイルス感染症は、世界で8098名の感染者(死者774名)を出した。2012年に新型コロナウイルス(hCoV-EMC)の発症があり、サウジアラビアなどで15名が感染(9名が死亡)している(2013年3月13日現在)。今のところコウモリからヒトへの感染が考えられているが、もしヒトからヒトへの感染があれば大流行(pandemic)となる可能性もあり、WHOが監視中。


【まとめ】
ヒトコロナウイルスの多くは軽度の上気道感染症を起こすのみであるが、免疫不全患者では重症肺炎をきたす場合もある。しかし、SARSコロナウイルス(2002年当時は新種コロナウイルスだった)は重症の下部気道感染症を引き起こし、その致死率は約10%であった。最近、別の新種コロナウイルスであるヒトコロナウイルス-EMC (human coronavirus-Erasmus Medical Center; hCoV-EMC)が同定され、致死率の高い下部気道感染症を起こすことが報告されている。この新種ヒトコロナウイルスは、コウモリに感染するコロナウイルスに近い。本研究では、hCoV-EMCの機能的受容体がDPP4(dipeptidyl peptidase 4、別名CD26)であることを明らかにした。DPP4は、hCoV-EMCのスパイク蛋白の受容体結合S1ドメインに特異的に結合する蛋白として、ウイルスが感染しうるHuh-7細胞の可溶化物から単離された。DPP4に対する抗体により、ヒト気管支上皮細胞およびHuh-7細胞へのhCoV-EMC感染が阻害された。逆に、通常では感染しないCOS-7細胞にヒトおよびコウモリのDPP4を発現させると、hCoV-EMCが感染するようになった。hCoV-EMCは、異なる種の間で(すなわちコウモリからヒトまで)進化的に保存されているDPP4を機能的受容体にすることによって、感染範囲を拡大させていると考えられる。本研究の結果は、新種ヒトコロナウイルスの病態の理解や治療開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
コロナウイルスは広範囲の哺乳類と鳥類に感染するウイルスで、細胞表面の受容体にスパイク蛋白(S蛋白)が侵入することにより感染する。最近、コウモリ由来のコロナウイルスと考えられている新種ヒトコロナウイルス(hCoV-EMC)が同定された。現在までに7施設で重症の呼吸器感染症を引き起こしている。このウイルスは遺伝的には、オランダのホオヒゲコウモリで発見されたコロナウイルスHKU4およびHKU5と同様のものである。少なくとも60種の新型コウモリコロナウイルスが発見されており、その中にはSARSコロナウイルス近縁のものもある。新種コロナウイルスも、コウモリから中間の動物宿主を介してヒトに感染するhCoV-EMCが成立したのではないかと考えられている。

コロナウイルスの受容体は2種が同定されており、hCoV-229Eは aminopeptidase N (APN, CD13)を、SARS-CoV はangiotensin converting enzyme 2 (ACE2)を受容体としている。ところが新種のhCoV-EMCは、SARSコロナウイルスと違って、ACE2を受容体としていなかった。そこで本研究では、ウイルス蛋白のN端スパイクドメインS1にヒトIgGのFc領域を結合させたキメラ蛋白を作製し、アフリカミドリザル腎由来細胞(COS-7)およびヒト肝由来細胞株(Huh-7)における結合蛋白の同定を試みた。COS-7細胞にはS1の結合は、COS-7細胞には結合しなかったが、Huh-7細胞には結合した(なおアフリカミドリザル腎由来細胞のVero細胞には結合したが、ここでは省略)。そこでHuh-7細胞を可溶化してS1蛋白に結合する110kDaの蛋白を得て、マススペクトロメトリー解析を行ったところ、結合蛋白はDPP4であった。そこで、DPP4とACE2の可溶型(膜に結合していない)フォームを作ってhCoV-EMC S1蛋白との結合を調べたところ、S1蛋白はDPP4には結合したがACE2には結合しなかった。

DPP4蛋白は異種間でアミノ酸配列が高度に保存されており、ヒトとコウモリ(P. pipistrellus)の間の相同性も高い。そのためヒトDPP4ポリクローナル抗体(抗血清)で、ヒトおよびコウモリのDPP4を染色した。コウモリDPP4を発現させたCOS-7細胞およびHuh-7細胞(もともとヒトDPP4が発現)は、DPP4抗体によって染色された。ヒトの培養気管支上皮細胞やヒトの肺気管支組織の非繊毛細胞にもDPP4発現が認められ、これがhCoV-EMC感染をもたらすと考えられた。

DPP4がhCoV-EMC感染に必要であることを示すため、Huh-7細胞にウイルスを接種する前にDPP4ポリクローナル抗血清を添加して培養した。その結果Huh-7細胞への感染は阻害された(コントロールの血清やACE2抗体を添加しても阻害されなかった)。同様に、培養気管支上皮細胞への感染も、DPP4抗体によって濃度依存性に阻害された。逆に、もともとhCoV-EMCが感染しないCOS-7細胞にDPP4を発現させると、hCoV-EMCが高率に感染するようになり、細胞内のウイルスRNAも認められた(なおhCoV-EMC以外の他種のコロナウイルスは感染しなかった)。以上の結果から、DPP4はhCoV-EMCの機能的受容体であることが示された。

【結論】
DPP4は、ACE2およびAPNに続くコロナウイルスの3番目の受容体であることが明らかになった。DPP4は766アミノ酸の細胞膜貫通糖蛋白であり、インクレチンを初め多くのホルモンやサイトカインを切断しそれらの活性を調節するexopeptidase活性を持つ。ただし、APNやACE2でも同様だが、ペプチド切断活性そのものよりも、気管支上皮組織に多く発現しているということ自体が、コロナウイルス感染に有用なのだろう。実際、本研究でもDPP4阻害剤(sitagliptin, vildagliptin, saxagliptin, P32/98)でDPP4活性を低下させてもhCoV-EMC感染は阻害されなかったので(Supplementary Fig. 9に示している)、DPP4活性が感染に影響しているのではないと考えられた。DPP4はヒトでは小腸などいくつかの組織に発現し血中に可溶性フォームも存在するが、hCoV-EMCは気道スワブ(ぬぐい液)、尿、喀痰、気管支吸引液からしか検出されておらず、hCoV-EMCのin vivoでの親和性についてはほとんど分かっていないのが現状である。hCoC-EMCの疫学についても謎が多い。もともとはコウモリ由来で、なんらかの中間動物宿主を介してヒトに感染するようになったと思われるが、伝播経路は不明である。hCoV-EMC は、DPP4が進化の過程で保存されている蛋白であるということを利用して、コウモリからヒトへという宿主の転換を行ったのだろう。

血中の可溶型DPP4の量が、2型糖尿病とウイルス感染に関連していることが報告されているが、この可溶型DPP4がhCoV-EMC感染とどう関係しているかも検討が必要である。また、本研究でのHuh-7細胞を用いたpreliminaryな検討では、hCoV-EMCのS1蛋白がDPP4に結合してもDPP4量やDPP4酵素活性の低下は起きなかった。今後、DPP4発現量の調節やhCoV-EMCとDPP4の結合阻害抗体(hCoV-EMCに対するワクチンとなるかもしれない)が、hCoV-EMC感染に対する治療戦略として重要になるだろう。

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(参考図)コロナウイルス(SARS-CoVと新種のhCoV-EMC)の種間の伝播様式
ヒト気道非繊毛細胞に発現しているDPP4はhCoV-EMCの受容体である。DPP4はコウモリからヒトにわたって保存された配列を持つため、コウモリから直接の伝播に重要と考えられる。SARSの病原体であるSARS-CoVは気道繊毛細胞のACE2を受容体としており、コウモリからジャコウネコ(ハクビシン)を介してヒトに感染するようになった。なお、ACE2もDPP4もexopeptidaseだが、それらの酵素活性自体はウイルス侵入に関連はなく、これらの蛋白が気道に多く発現していることをウイルスが感染のために利用していると考えられる。
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by md345797 | 2013-03-14 07:03 | その他