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iPS細胞由来のβ細胞を用いた、グルコキナーゼ欠損による糖尿病のモデル作製

iPSC-derived β cells model diabetes due to glucokinase deficiency.

Hua H, Shang L, Martinez H, Freeby M, Gallagher MP, Ludwig T, Deng L, Greenberg E, LeDuc C, Chung WK, Goland R, Dieter Egli D.

J Clin Invest. Published online, June 17, 2013.

【まとめ】
MODY2は、グルコキナーゼ(GCK)遺伝子のヘテロloss-of-functionによってβ細胞機能障害が起きている糖尿病である。本研究ではMODY2の患者由来のiPSCsを作製した。このiPSCsはコントロール細胞と同様の効率でβ細胞に分化し、成熟β細胞のマーカーを発現、マウスに移植も可能であった。iPSCsを分化させて得たGCK変異β細胞は、アルギニンなどの(グルコース以外の)インスリン分泌促進物質刺激によって、正常にインスリンを分泌した。しかし、このGCK変異β細胞では、グルコース応答性のインスリン分泌は低下していた。このグルコース応答性インスリン分泌の低下は、相同組み換えによる遺伝子の補正(正しいGCK遺伝子配列の導入)によって完全に回復した。以上の結果より、MODY2患者iPSC由来のβ細胞は、MODY2患者のβ細胞に内在する形質を反映していることが示された。このような方法を用いることにより、β細胞機能異常をきたす疾患のメカニズム解析が今後可能となるだろう。

【論文内容】
近年、疾患特異的なiPSCsの作製が可能となっており、いくつかのタイプの糖尿病患者からもiPSCsが作製されている(1型糖尿病高齢者2型糖尿病MODY)。しかし、患者iPSC由来のβ細胞がその患者の実際のβ細胞機能異常を再現しているのか、患者β細胞機能を正常に回復させるための試験に用いることができるのかは明らかになっていない。これらのことを証明するため(As proof-of-principle)、MODY2という単遺伝子異常の糖尿病モデルを用いたiPSCsの作製を行った。このMODY2は、全MODYの8-60%を占めると言われ、グルコキナーゼ(GCK)遺伝子異常によるものである。グルコキナーゼは解糖系の第一歩であるグルコースをグルコース-6-リン酸に変換する酵素であるため、β細胞においてグルコース応答性インスリン分泌の閾値を決定する役割を果たしている。GCKの一方のアリルの機能低下は、グルコース応答性のインスリン分泌の低下、ひいては糖尿病をもたらす。

一アリルにGCK欠損を含むiPSCsの作製
本研究ではまず、MODY2患者(GCK遺伝子のミスセンス変異(G299R)を持つ、38歳ヨーロッパ白人女性)の皮膚生検により細胞を得た。MODY2患者由来のiPSCsは、患者GCK G299R/+細胞のGCK遺伝子G299R変異の上流をZFN(zinc finger nuclease)を用いて切断し、ターゲティングプラスミドと相同組み換えすることによって得た。なお、GCK遺伝子が回復していたGCK corrected/+細胞があり、野生型のコントロール細胞として用いることにした。

GCK欠損iPSCsからの効率的なβ細胞作製
iPSCsは胚体内胚葉(SOX17+)、膵前駆細胞(PDX1+)、内分泌前駆細胞(NGN
3+)を経て、インスリン分泌細胞に分化させることができる。本研究では、膵前駆細胞からβ細胞への分化効率を上げるため、exendin-4とSB431542(TGF-βシグナル阻害剤)を前駆細胞に添加した。このようにして作製したGCK G299R/+細胞は、β細胞転写因子であるPDX1とNKX6.1を、コントロールと同様に発現していた。作製したGCK G299R/+細胞を免疫不全マウスの腎被膜下に移植すると、移植3か月後に約半数のマウスで血清にヒトCペプチドが検出された。また、これらの細胞うちインスリン陽性細胞では、成熟β細胞のマーカーであるurocortin-3とzinc transporter 8が陽性であった。

GCK変異は特異的にグルコース応答性インスリン分泌を障害する
上記のMODY2細胞を移植したマウスに腹腔内グルコース負荷試験を行い、血糖と血中のヒトCペプチド濃度の変動を調べた。GCK G299R/+細胞を移植したマウスは血糖上昇に対するヒトCペプチド値増加が低下しており、グルコースに対するインスリン分泌反応は低下していると考えられた。GCK遺伝子が回復しているGCK  corrected/+細胞を移植したマウスでは、この反応低下が回復していた。さらに、in vitroでこれらのβ細胞にグルコース(2.5 mMおよび20 mM)を添加したところ、GCK G299R/+細胞はコントロール細胞に比べグルコース応答性インスリン分泌が低下(または消失)し、GCK corrected/+細胞ではそれが回復していた。GCK G299R/+細胞では他のインスリン分泌刺激因子(アルギニン、カリウム、Bay K8644)によるインスリン分泌反応は障害されていなかったので、GCK変異によるインスリン分泌低下はグルコース応答性に特異的と考えられた。なお、GCK変異はβ細胞機能(インスリン産生、インスリン前駆体のプロセッシング、インスリン分泌の阻害、β細胞増殖)にも影響しているかを調べたところ、 GCK G299R/+細胞は、インスリン量、インスリン顆粒の数、PDX1+前駆細胞からのβ細胞の生成などのいずれもコントロールとの差は見られなかった。

【結論】
単遺伝子変異による糖尿病患者(GCK変異によるMODY2)の細胞からiPSCsを作製し、β細胞に分化させることによって、患者β細胞に内在する欠損の性質を再現することができた。すなわち、このMODY2 β細胞はグルコース応答性のインスリン分泌を示し、これはGCK遺伝子の補正によって回復することが示された。

この方法を用いると、事実上すべてのタイプの糖尿病のモデルβ細胞を作製することが可能である。例えばWFS1KCNJ1の変異による2型糖尿病のリスク増加も、GCKと同様のβ細胞作製によってそのメカズムが検討でき、さらには正常血糖を保つための細胞治療に用いることができるかもしれない。
by md345797 | 2013-06-20 07:07 | 再生治療