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内因性カンナビノイドによるβ細胞消失は、膵島浸潤マクロファージのNlrp3インフラマソーム活性化を介する

Activation of the Nlrp3 inflammasome in infiltrating macrophages by endocannabinoids mediates beta cell loss in type 2 diabetes.

Jourdan T, Godlewski G, Cinar R, Bertola A, Szanda G, Liu J, Tam J, Tiffany Han T, Mukhopadhyay B, Skarulis MC, Ju C, Aouadi M, Czech MP, Kunos G.

Nat Med. Published online 18 August 2013.

【まとめ】
2型糖尿病は、インスリン抵抗性を代償していたβ細胞機能が代償しきれなくなって高血糖を発症すると考えられており、その過程はモデル動物であるZucker diabetic fatty (ZDF)ラットで再現されている。Nlrp3 インフラマソーム(inflammasome)は、肥満に伴うインスリン抵抗性とβ細胞機能不全において重要な役割を果たす蛋白複合体である。また、内因性カンナビノイド(endocannabinoids)は末梢のCB1受容体(CB1R)の活性化を介してインスリン抵抗性とβ細胞機能不全を起こすことが知られている。この研究では、ZDFラットのβ細胞機能不全は、β細胞ではなく、膵島に浸潤したM1マクロファージのCB1Rシグナル伝達の異常によるものであること、さらにそれがマクロファージのNlrp3 inflammasomeの活性化を介するものであることを示した。ヒトおよびマウスのマクロファージに内因性カンナビノイドであるアナンダミド(anandamide)を添加して in vitroで培養するとこの効果は起こるが、CB1R欠損 (Cnr1-/-)マウスまたはNlrp3-/-マウスのマクロファージでは起きなかった。さらに、末梢CB1Rの薬剤による阻害、薬剤投与(クロドロン酸)によるマクロファージの欠損、またはsiRNAによるマクロファージ特異的なCB1Rノックダウンを行うと、マウスのβ細胞におけるインスリン分泌が回復し、血糖が正常化した。これらの結果から内因性カンナビノイドとインフラマソーム活性化はインスリン分泌低下に重要な役割を果たしており、マクロファージに発現するCB1Rが2型糖尿病治療に有用な治療ターゲットであることが明らかになった。

【論文内容】
2型糖尿病の発症には、脂肪組織の炎症に伴うインスリン抵抗性と、炎症性細胞の膵島への浸潤によるβ細胞機能不全が関与している。また、Nlrp3 inflammasomeはcaspase-1活性化を介してIL-1βの切断と分泌を起こす蛋白複合体である。内因性カンナビノイドは、その受容体であるCB1R およびCB2Rのリガンドであり、さまざまな作用がある。特にCB1Rの活性化は、摂食の促進、脂肪組織および肝での脂肪合成の増加、インスリン抵抗性と脂質異常症を引き起こすため、内因性カンナビノイド-CB1R系の過剰な活性化は内臓脂肪肥満とその合併症の発症につながりうる。そのため、長期にわたるCB1Rの阻害は、体重減少と肥満関連のインスリン抵抗性や脂質異常症の改善をもたらす。実際、2型糖尿病患者にCB1R拮抗薬を投与すると、血糖改善が認められる。しかし、このようなCB1Rアンタゴニスト(rimonabant)またはインバースアゴニスト(taranant)は、中枢神経系においてはCB1Rを活性化することによると考えられる精神症状の副作用があったため、その開発は中止されている。

2型糖尿病モデル動物であるZDFラットは、インスリン抵抗性をβ細胞機能が代償しきれなくなって高血糖を呈しているが、このラットに脳に移行性のあるCB1R阻害薬を投与すると、インスリン分泌が回復し高血糖が改善することが報告されている。この作用は、β細胞のCB1R活性化に伴って起こるβ細胞死を防ぐからなのか、または膵島に浸潤したマクロファージのCB1R活性化に伴って起こるβ細胞障害を防ぐためなのか、内因性カンナビノイドによる中枢神経系のCB1Rの活性化に伴って起きるβ細胞機能・β細胞生存の調節機構を介するのか、などそのメカニズムはよく分かっていない。本研究により、内因性カンナビノイドが膵島に浸潤したM1マクロファージ上のCB1Rを活性化し、それによりNlrp3 インフラマソームが活性化されることによってマクロファージからIL-1βが放出されるためにβ細胞障害が起きるという機構が示された。

【論文内容】
末梢のCB1R阻害は2型糖尿病の進行を遅延させる
8週齢のZDFラットに脳に浸透しないCB1RのインバースアゴニストであるJD5037を28日間経口投与した。コントロールのZDFラットは肥満、過食、肝のトリグリセリド含量高値と脂肪合成遺伝子(FasScd1)発現亢進、著明な高血糖、高トリグリセリド血症を示す。それに対し、JD5037を投与したZDFラットはコントロールと比べ体重の差はなかったが、肝の脂肪含量や脂肪合成遺伝子発現は有意に少なかった。なお、血糖は正常だが、インスリン分泌の増加が認められた。これは、JD5037投与によってβ細胞の機能と生存が改善しインスリン分泌は亢進しているが、インスリン抵抗性も起きて正常血糖になっていると考えられ、実際高インスリン正常血糖クランプにおいてインスリン抵抗性の亢進が認められた。

上記の結果からJD5037投与によりβ細胞アポトーシスが防止されていると考えられ、これも実際TUNEL陽性の膵島細胞が少なく、アポトーシスマーカーであるBak1、Bax、Fas、Faslg、Tnfrsf1aの発現低下、抗アポトーシスマーカーであるBcl2、Bcl2lの発現増加が確認された。JD5037投与によりβ細胞生存に関する転写因子Pdx1、Mafa、Neurog3の発現および増殖マーカーKi67の発現が増加し、β細胞数は増加していた。なお、ZDFラットの膵島で見られるCnr1(cannabinoid receptor 1、CB1Rの遺伝子)発現増加とアナンダミド(初めて発見された内因性カンナビノイド。別名arachidonoylethanolamide, AEA)量の増加は、JD5037投与により消失していた。ZDFラットのin vitro単離膵島ではグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)が消失していたが、JD5037投与によりGSISと、β細胞の糖取り込みにかかわるグルコキナーゼ(Gck)、Glut2(Slc2a2)遺伝子の減少は回復していた。6週齢ZDFラットに3か月間JD5037を投与した場合は、高血糖とインスリン分泌低下の進行が遅延されたことから、末梢CB1Rの阻害は2型糖尿病の発症(β細胞機能の低下)を遅くすることができると考えられる。

CB1R阻害はZDFラット膵島へのマクロファージ浸潤を減少させる
ZDFラットの膵島は、CD68+マクロファージ(炎症性のM1マクロファージ。Tnf、Nos2発現が増加、Tgfb1、Il10、Arg1発現が低下している)の浸潤によってサイズが増加している。JD5037投与によって、M1からM2への移行が起こり、膵島マクロファージ浸潤は減少した。また、ZDF膵島ではNlrp3、IL-1β(Il1b)、IL-18(Il18)の発現、p65-NFκB蛋白量、caspase-1活性が増加していた。しかし、これらはJD5037投与により正常ラットのレベルまで低下した。なお、IL-1Rantagonist(Il1rn)発現は増加した。Nlrp3インフラマソームの形成には、Nlrp3とアダプター蛋白であるASCの結合が必要である。ZDFラット膵島ではASCをコードする遺伝子pycard(パイカード)の発現が増加していたが、これはJD5037の投与で正常化した。

クロドロネート投与によりマクロファージを欠失させると2型糖尿病の発症を遅延できる
ZDFラットにクロドロネート(クロドロン酸、マクロファージをアポトーシスさせるビスフォスフォネート薬)を内包したリポソームを投与すると高血糖やインスリン分泌減少を抑制できた。膵島へのマクロファージ浸潤とマクロファージ由来サイトカインMCP-1、TNF-αの発現はクロドロネート投与によって低下していた。また、膵のアナンダミド含量、Cnr1、Nlrp3、Txnip (TXNIP:thioredoxin interacting protein=ERストレスとNlrp3インフラマソーム活性化につなぐ蛋白)発現もクロドロネートによってマクロファージを欠失させることで減少、膵インスリン含量はやや増加した。

マクロファージにおけるCB1Rの選択的ノックダウンは2型糖尿病を軽減する
次に、ZDFラットの腹腔に、CB1R siRNAをβ1,3-d-glucanにカプセル化したsiRNA particles (GeRPs)を10日間注入し、マクロファージ特異的にCB1Rをノックダウンした。コントロールとして、scrambled siRNAを内包したGeRPsを注入した。CB1R siRNA注入により、腹腔内マクロファージのCR1RのmRNAは95%以上抑制された。CB1R siRNAを注入したZDFラットは、コントロールが進行性の高血糖、インスリン低値を示したのに対し、正常血糖、高インスリン血症を示した。さらに、このラットでは膵島内のインスリン発現、インスリン含量の増加、マクロファージ浸潤の低下、膵島のNlrp3、Pycard、 Il1b、 Il18、 Cnr1、Ccl2発現の低下が認められた。これらの効果は、JD5037やクロドロネート投与で見られたのと同様のものである。

高濃度グルコースおよびパルミチン酸はマクロファージ内のアナンダミド量を増加させる
ZDFラットから単離した膵島は、正常ラットやJD5037慢性投与ラットの膵島に比べ、アナンダミド含量が多く、アナンダミドの分解酵素(FAAH)活性が低く、合成酵素(NAPE-PLD)の発現が多かった。正常ラットの腹腔内マクロファージを250 μMのパルミチン酸または33 mMのグルコースとともに培養したところ、アナンダミド値はいずれも増加し、これらの効果は相加的なものであった。

アナンダミドの炎症惹起効果はマクロファージを介するものである
CB1Rを介する炎症性シグナル伝達はどの細胞で起きているかを検討するため、RAW264.7マクロファージ細胞またはMIN6インスリノーマ細胞、ヒト初代培養マクロファージ、マウス(野生型、Cnr1−/− およびNlrp3−/−)の腹腔内マクロファージにアナンダミドを添加する実験を行った。RAW264.7細胞にアナンダミドを加えると、IL-1β、TNF-α、MCP-1の分泌が著明に増加したが、MIN6細胞では増加が見られなかった。同様に、アナンダミドを添加したマクロファージではNlrp3、Casp1、Cnr1の発現が著明に増加したが、MIN6細胞では増加しなかった。したがって、内因性カンナビノイドは(β細胞に直接ではなく)マクロファージ由来のサイトカイン分泌増加を介して間接的にβ細胞アポトーシスを促進している可能性がある。

単離ヒトマクロファージにアナンダミドを添加した場合もNLRP3、PYCARD、IL1B、IL18、CNR1の発現増加とIL-1βとIL-18の分泌増加が認められ、これらの効果は100 nM JD5037の添加によって消失したため、ヒトマクロファージにおいてもCB1Rを介するインフラマソーム活性化が起こると考えられた。また、ZDFラット単離膵島にアナンダミド、IL-1β、高濃度グルコースを添加した影響を調べた。膵島でのIL-1β分泌量は高濃度グルコース(33 mM)またはアナンダミド(1 μM)の添加で増加し、その効果はグルコースの方がアナンダミドより大きかった。IL-1β (30 ng ml−1)添加により、 MCP-1 およびIL-6分泌が増加した。最後に、正常ヒト膵島でも高濃度グルコースはアナンダミドに比べてIL-1β分泌促進効果、およびIL-1β刺激によるMCP-1分泌刺激効果が大きかった。

【結論】
内因性カンナビノイドは末梢のCB1Rを介してβ細胞消失を引き起こし、これは2型糖尿病発症につながる。さらに、このCB1Rを介するシグナルは膵島に浸潤したマクロファージで起きている。内因性カンナビノイドは膵島浸潤マクロファージでのNlrp3インフラマソーム活性化とそれに伴うIL-1β放出を介してβ細胞のアポトーシスを惹き起こしている。

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図:内因性カンナビノイドがβ細胞死を起こす際の、膵島浸潤マクロファージ(右)とβ細胞(左)におけるシグナル伝達
AEA:内因性カンナビノイドの一種、アナンダミド、CB1R:β細胞および膵島浸潤マクロファージに発現している内因性カンナビノイド受容体、JD5037:CB1Rの阻害剤(インバースアゴニスト)、なお、この図はServier medical artのテンプレートを用いて作成したとのこと。
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by md345797 | 2013-08-28 03:30 | インスリン分泌