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オートファジー解明の歴史

Eaten alive: a history of macroautophagy.

Yang Z, Klionsky DJ.

Nat Cell Biol. 2010 Sep;12(9):814-22.

【総説内容】
オートファジーという単語はギリシア語の「自らを(auto)」「食べる(phagy)」に由来する。細胞質内にある分子は、二重膜の小胞に隔離されて(このような小胞内で輸送される「積み荷」分子は、「cargo=貨物」と呼ばれる)、最終的にリソソームに運ばれて分解されるが、このような真核生物で保存された基本的なメカニズムがオートファジーと呼ばれている。40年以上も前にオートファジーが初めて発見されてから、なぜ細胞はこのよう自己消化の機構があるのかという点は大きな疑問であった。最も単純な仮説として、オートファジーは細胞内の「ごみ」を除去するメカニズムであると考えられた。すなわち、細胞内に蓄積した折り畳み不全の蛋白、傷害を受けた細胞小器官、侵入微生物などの「ごみ」を除去するのがオートファジーであると考えられている。その後、オートファジーはそれらをリサイクルして利用可能な栄養素とし、ストレス下でエネルギーを供給するという適応反応として重要と考えられるようになった。

オートファジー概念の発展
40年以上前、ClarkとNovikoffは、マウス腎のミトコンドリアが膜結合分画内に認めらえることを報告し、この膜構造の中にはリソソーム酵素が含まれていることを見出した。さらにAshfordとPorterは、グルカゴンを添加したラット肝細胞内に、部分的に消化されたミトコンドリアや小胞体(endoplasmic reticulum)を含む膜結合小胞を見つけ、その後NovikoffとEssnerが、この小胞がリソソーム加水分解酵素(hydrolases)を含んでいることを発見した。1963年にdeDuveは、さまざまな傷害段階の細胞質内因子や細胞小器官を含む一重または二重膜の小胞の存在を表すのに、「オートファジー」という新しい造語を用いた。この隔離小胞(sequestering vesicle)を「オートファゴソーム」と名付けた。

1967年にde DuveとDeterはグルカゴンによってラット肝細胞にオートファジーが誘導されることを報告している。グルカゴンとは逆に、インスリンリンはオートファジーを抑制する。Mortimoreとshworerは、オートファジーによる分解の最終産物であるアミノ酸がオートファジー抑制に働くことを見出した。以上から、オートファジーはエネルギー欠乏状態への適応反応として、エネルギーを生成するメカニズムであると考えられた(エネルギー過剰状態ではインスリンシグナルが増加し、これがオートファジーを抑制。グルカゴンシグナルはその逆と考えられる)。SeglenとGordonはオートファジーの阻害剤として3-メチルアデニンが報告され、オートファジーはprotein kinasesとphosphatasesによって調節されることも分かってきた。

1950年から1980年初頭までの初期のオートファジー研究は形態学的解析に基づいたものである。de Duveらはリソソームとの融合というオートファジーの後期段階について検討したが、Seglenはオートファジーの初期、中期の段階について検討し、phargophore(初期の隔離小胞でオートファゴソームに発達する)やamphisome(オートファゴソームとエンドソームの融合によって形成される非リソソーム小胞)を同定した。

ほとんどすべての細胞は、細胞質内の蛋白や細胞小器官を「非特異的に(non-specific)、大雑把に丸ごと(bulk)」隔離して、リソソームで分解するメカニズムを持つとde Duveは考えたが、異常蛋白や細胞小器官を「特異的に」分解する仕組みの存在も考えていた。1973年にはBolenderとWeibelが、細胞小器官が「特異的に」オートファジーによって分解されることを初めて報告した。 BeaulatonとLockshinによって昆虫の変態期にはミトコンドリアが選択的に消失することが示され、1983年にはVeenhuisによって過剰となったペルオキシソームがオートファジーによって選択的に分解されることが示された。このように、当初報告された「非選択的」オートファジーに対して、「選択的」オートファジーが起こりうることが、酵母や高等真核生物で報告されている。

オートファジーの分子機構の解明
当初オートファジーは哺乳類細胞で発見されたものの、オートファジー調節の解明においてブレイクスルーが起きたのは酵母の解析からである。まず、Ohsumi (大隅良典)のグループにより哺乳類細胞と同様のオートファジーの形態変化が酵母でも認められることが報告された。さらに、酵母の遺伝的スクリーニングによりオートファジーに変異が認められる変異体酵母が初めて単離された。同様のスクリーニングによって、ペルオキシソームの分解(ペクソファジー:pexophagy)や液胞に加水分解酵素(aminopeptidaseなど)を運ぶCvt経路 (cytoplasm to vacuole targeting pathway)の変異体が同定された。さらに、1997年には最初のオートファジー関連(autophagy-related=Atg)遺伝子であるATG1が同定された。このATG蛋白は次々と発見され、最近では選択的ミトコンドリア分解(マイトファジー:mitophagy)に関わる変異体から、ATG32とATG33が同定されている。

Cvt経路・pexophagy・mitohpagy、マクロオートファジーは形態的、機能的にも似ているが、重要な点で異なっている。それはマクロオートファジーは一般に非選択的と考えられているが、Cvt経路・pexophagy・mitohpagyは高度に選択的である。Pexophagy・mitohpagy・マクロオートファジーは蛋白や細胞内小器官を分解する方向に作用するが、Cvt経路は生合成的に働く経路である。これらすべての経路は、オートファゴソームの形成に必須であるAtg蛋白のサブセットを共通に利用しているため、このAtg蛋白群をコア・マシーナリー(core machinery)と呼んでいる。

このコア・マシーナリーには4つの基本的なグループがある。(1) Atg1-Atg13-Atg17キナーゼ複合体、(2)classⅢ PI 3-kinase (PtdIns3K)複合体I (Vps34、Vps15、Atg6、Atg14)、(3)ユビキチン様蛋白(Atg12、Atg8)、(4)Atg9とそのサイクリングシステムである。さらに、酵母においては、コア・マシーナリーは液胞(哺乳類細胞のリソソームに相当する小胞)の周囲にあるphagophore assembly site (PAS)と呼ばれる部位に集中しており、phagophoreの拡張がオートファゴソーム形成につながる働きを協調して行っている。コアとなるオートファジー構成因子の5番目のセットは、オートファジーの最後段階、すなわち液胞内に含まれた小胞やcargoの分解に必要な蛋白、さらにはこれらの分解産物を再利用のためにアミノ酸を細胞質に放出する膜輸送体(permease)蛋白などである。

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図1:酵母におけるオートファジーとCvt経路
細胞質内の分子や細胞小器官は、phagophore assembly site (PAS)由来の二重膜隔離小胞(phagophore)によって貪食(engulf)される。これらの分子や細胞小器官はcargo(貨物、積み荷)と呼ばれる。また、Cvt経路は選択的で、生合成的に働くオートファジーの経路である。Cvt小胞(直径140‐160 nm)は特異的cargoであるprApe1(precursor form of aminopeptidase I)とAtg19受容体からなるCvt複合体を包み、細胞質を非特異的に(大雑把に;bulk)除去する作用がある。オートファゴソーム(直径300-900 nm)は、細胞内小器官やCvt複合体をも含む細胞質を貪食する小胞である。これらの小胞は最終的には、液胞(vacuole)と融合し、自らの二重膜のうち内側の一重膜の部分を液胞内腔に放出する。この一重膜が分解されるとprApe1が成熟preApe1(mApe1)となり、細胞質成分が分解され、液胞permease(膜を通過する輸送体、酵素ではないが-aseで呼ばれる)を通して大分子(macromolecule)のリサイクルが起きることになる。

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図2:哺乳類のオートファジー
Phagophore(隔離小胞)が形成され、それらが引き伸ばされ、拡大し、閉鎖するというステップを通って、二重膜オートファゴソームの完成に至る。オートファゴソームはエンドソームやリソソームと融合して、最終的な成熟段階(それぞれamphisome、autolysosomeと呼ばれる)となる。オートファゴソームの内膜およびそのcargoがautolysosome内の加水分解酵素によって分解され、その結果生じた大分子はpermeaseを介してリサイクリングされる。現在までに酵母のPASが哺乳類細胞にもあるという証拠はない。

哺乳類細胞のコアマシーナリーであり、オートファジー誘導に必要とされるULK1/ULK2複合体、オートファゴソーム形成に必要とされるclass III PtdIns3K複合体、細胞膜をオートファゴソーム形成に導くのではないかと考えられているmammalian Atg9(mAtg9)、phagophore膜の延長と拡大に働くことが想定されているLC3II、Atg12-Atg5-Atg16L複合体が図に示されている。

最近の分子レベルの解析によって、多細胞真核生物におけるオートファジーの調節がいかに複雑かが分かってきた。例えば、線虫で多細胞生物に特異的な4つのオートファジー遺伝子が同定された(epg-2epg-3/VMP1, epg-4/EI24, epg-5)。Epg-2はcargo認識に働き線虫に特異的な遺伝子だが、他の3つの遺伝子は線虫から哺乳類まで保存されている。ヒト細胞の2つの大規模スクリーニングによって、ほかにも数多くのオートファジー関連蛋白を結合する因子が同定され、オートファジーの過程を調節するシグナル伝達ネットワークを形成していることが明らかになっている(Behrends C, 2010 Lipinski MM, 2010)。

オートファゴソーム膜の由来については、現在でも議論があるところである。小胞体膜・ミトコンドリア外膜・細胞膜などがオートファゴソーム膜の形成に役立っていると考えられているが、詳細は不明である。また、Atg蛋白の構造解析もオートファジー機構の解明には重要である。最初に報告されたのは哺乳類のAtg8のホモログであるGABARAPおよびLC3の構造であった。最近では、PtdIns3K阻害剤と複合体を形成したVps34の構造が報告され、このキナーゼを標的にしたオートファジー阻害剤のデザインに役立つと考えられている。

オートファジー調節のシグナル伝達
1995年にMeijerのグループはTOR阻害剤であるrapamycinがラット肝細胞にオートファジーを起こすこと、rapamycinがアミノ酸によるオートファジー抑制効果を減少させることを報告し、これによりオートファジーに至るシグナル伝達の研究がスタートした。アミノ酸はribosomal protein S6のリン酸化を促進するが、これはrapamycinにより抑制される。すなわち、オートファジーの調節にはTOR依存性経路とアミノ酸依存性経路が関与していることが分かる(図3)。

ラット肝細胞において、PtdIns3K阻害剤(wortmannin、LY294002)はアミノ酸によるS6リン酸化を阻害するが、予想外なことにPtdIns3K阻害剤はアミノ酸がない状態下でも(アミノ酸依存性経路を介さなくても)オートファジーを阻害する。これはPtdIns3Kに2つのクラスがあることにより説明可能である。すなわち、class III PtdIns3Kの産物であるPtdIns(3)Pはオートファジー促進に働くのに対し、class I PtdIns3Kの産物であるPtdIns(3,4)P2とPtdIns(3,4,5)P3はオートファジーを阻害する。PtdIns(3,4)P2とPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化するphosphataseであるPTENを過剰発現させると、オートファジーは促進される。PtdIns3K阻害剤はどちらのクラスのPtdIns3Kも阻害してしまうので、オートファジーとS6リン酸化両方を低下させることになる。

インスリンはオートファジーを阻害するが、細胞膜のインスリン受容体活性化はclass I PtdIns3K活性化とそれに伴うPtdIns(3,4,5)P3産生を起こし、それによってPDK1活性化によるPKB/Aktリン酸化(活性化)が起きる。これはTOR活性化を起こし、最終的にオートファジー抑制につながることが示されている。さらに、TOR非依存性経路である、ストレス反応性のJNK1およびdeath-associated protein kinase (DAPK)によってBeclin 1が活性化される経路もある。

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図3:哺乳類オートファジーの調節のためのシグナル伝達
図で青く示した分子および矢印はオートファジー促進に、赤い分子と矢印はオートファジー抑制に働くことを表す。TORはclass I PtdIns3K依存性のシグナルとアミノ酸依存性のシグナルを統合してオートファジーを調節する非常に重要な分子である。インスリン受容体活性化によりclass I PtdIns3K-PKB/Akt-TOR経路が活性化される。PKBの活性化はTSC1-TSC2の阻害をもたらし、Rheb GTPase安定化を介してTOR活性化、オートファジー抑制につながる。また、アミノ酸はRaf-1-MEK1/2-ERK1/2シグナル伝達経路を活性化することによりオートファジーを抑制する。エネルギー欠乏はLKB1によるAMPKリン酸化(活性化)をもたらし、これがTSC1-TSC2をリン酸化(活性化)しTORを不活化することによりオートファジーを誘導する。p70S6K kinaseはTORの基質であり、負のフィードバック経路を介してTOR活性を抑制し、基底状態のオートファジーを維持している。JNK1とDAPKはBeclin 1(図ではphagophore膜に結合していることを示している)をリン酸化することによりBeclin 1に結合したclass III PtdIns3K複合体を活性化し、オートファジー促進に働く。

生理機能および疾患においてオートファジーの果たす役割
① がん

がんは、オートファジーの障害によって起きる重要な疾患である。オートファジーに必須の蛋白であるBeclin 1は腫瘍抑制因子でもある。Beclin 1は抗アポトーシス因子であるBcl-2に結合するが、この結合によってBeclin 1結合hVps34 PtdIns3K活性が低下し、オートファジーが阻害される。染色体の17q21でのbeclin 1の単一対立遺伝子性の欠損はヒト卵巣がん、乳がん、前立腺癌の40-75%で認められている。マウスでbeclin 1のヘテロ欠損やAtg4C欠損があると自発的がん化の率が増加する。すなわち、オートファジーは腫瘍抑制に働く重要な機構である。重要なことに、オートファジーは微小環境における低酸素や低栄養といったストレス下では、腫瘍細胞の生存を促進もする。したがって、がんはオートファジーをうまく利用して、がん化学療法における細胞障害に抵抗し、自らの増殖を促進することができる。すなわち、オートファジーはがん細胞生存に対して正にも負にも作用しうるのである。おそらく、オートファジーは当初はがん化を抑制するように働くが、一度がんが成長した後では腫瘍細胞はオートファジーを自らの細胞保護に利用して生存を図るのだろう。

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図4がん化とアポトーシス、オートファジーの複雑な関係
①腫瘍細胞に代謝ストレスがかかると、アポトーシスによって細胞死が起こり、腫瘍の成長が停止する(左)。その際に、ストレス下の腫瘍細胞ではオートファジーが活性化されるため、細胞生存が活性化され、腫瘍が安定化するということがある(右)。②オートファジーが欠損した腫瘍細胞はストレス下では細胞死を起こす。③アポトーシスが欠損した腫瘍細胞はストレス下に置かれても、オートファジーが活性化されることによりp62増加や蛋白凝集体の形成が抑制されるため、細胞死が起こらないようになる。④しかし、ここでアポトーシスに加えてオートファジーも欠損させるとp62蓄積、障害されたミトコンドリアの増加、活性酸素種の増加、蛋白凝集体の蓄積などが起きてきて、これらがゲノムの傷害、がん遺伝子活性化が起きて、腫瘍増殖を促進することになる。


② 神経変性
Rubinszteinらは、オートファジーがある種の凝集体を形成しやすい蛋白(Huntington病に関わる蛋白など)の分解に関わっていることを示した。Huntington病のマウスモデルにおいて、TOR阻害によってオートファジーを起こすと変異huntingtin凝集体の蓄積が減少し、神経変性が防止される。オートファジーの活性化は神経変性疾患における生理的反応として重要である。神経細胞特異的Atg5またはAtg7ノックアウトマウスでは、細胞質内に神経変性を起こしうる異常蛋白の蓄積が起きる。さらに、選択的オートファジーによっても神経細胞から異常な凝集蛋白が取り除かれる。p62およびNBR1はポリユビキチン化された凝集蛋白や傷害を受けた細胞小器官を選択的にオートファジーで除去するためのcargo受容体である。

③ 先天性免疫と適応免疫
1984年にRikihisaはリケッチアに感染した細胞でオートファジーが誘導されていることを報告し、これによりオートファジーが免疫に関与していることを示すことが明らかになった。2004年にはYoshimoriらとDereticおよびColomboらのグループによってオートファジーは細菌性病原体(Mycobacterium tuberculosisおよびStreptococcus pyogenes)の侵入に対する重要な防御機構であることが明らかにされた。最近ではDrosophilaにおいて、細胞内のパターン認識受容体であるPGRP-LEがListeria monocytogensの侵入を認識しオートファジーを介する宿主防御が起きることが報告されている。また、ヒトのオートファジー受容体であるNDP52はユビキチンコートされたSalmonella entericaを検出して、LC3に結合させることによりオートファゴソームに移動させることが示されている。神経細胞にBeclin 1を強制発現させたマウスではalphavirusの複製が起こらず脳炎が防止できる。Herpes simplex virusが先天性免疫をくぐり抜け疾患を起こすためには、オートファジーが抑制されている必要がある。なお、ある種の細菌やウイルスは自身の複製のためにオートファジーを利用していることも重要である。さらに、オートファジーは適応免疫反応の促進にも重要な役割を果たしており、MüntzらはEBウイルス蛋白(EBNA1)のMHC class IIでの抗原提示にはオートファジーが関わっていることを報告している。

④ 老化と寿命
障害を受けた蛋白や細胞内小器官(ミトコンドリアなど)が進行的に蓄積していくことは、老化しつつある細胞で共通に見られる現象である。Bergaminiらは老化マウスにおいてin vivoで、単離肝細胞においてin vitroでオートファジーが低下していることを示している。また、Levineらは、線虫でBec-1(線虫のBeclin 1)をノックダウンすると、daf-2(線虫のインスリンシグナル遺伝子)欠損変異体の寿命延長形質が阻害されることを示した。さらに、Atg7欠損Drosophilaは寿命が短く、成虫Drosophilaでオートファジーを促進すると寿命が延長することから、オートファジーは寿命延長に重要な役割を果たしていることが分かる。

⑤ 発生と細胞死
Ohsumiらにより、オートファジー欠損変異体の酵母は飢餓培地に置いたときに胞子形成が起きないことが報告されている。その後のさまざまな生物での検討によって、オートファジーは発生に重要な役割を果たすことが分かってきた。例えば細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)のオートファジー欠損変異体は多細胞の発生が起きない、線虫のオートファジー遺伝子欠損体では正常な耐性幼虫(dauer)形成が起きない、DrosophilaのAtg1またはAtg3変異体は幼虫からさなぎへのステージで早期死亡する、マウスでbeclin 1を欠損させると胎性致死となる、などのことが報告されている。これらの結果から、オートファジーは発生期のリモデリング過程での栄養素を供給する重要な役割があると考えられてきた。しかし、このような結論には注意が必要なようである。例えば、Atg7欠損Drosophilaは正常な変態を示し、Atg5欠損マウスおよびAtg7欠損マウスは胚形成期を生存すれば正常に誕生する。しかし、Mizushimaらは卵母細胞特異的Atg5欠損マウスを用いて、受精の直後にオートファジーが誘導され、オートファジーは初期の胚形成の短期間に必須であるがその後の胚の発生には必要でないことを報告している。

オートファジーは細胞生存には重要な役割を果たすが、細胞死における意義も長い間想定されてきた。た。1960-1970年代の電子顕微鏡的な検討によってDrosophilaの幼虫組織の破壊の際に、オートファジーの液胞が蓄積していることが観察された。これらの知見から、オートファジーを伴う細胞死というが概念が生まれ、それはアポトーシス(type I programmed cell death)に対して、しばしばtype II programmed cell deathと呼ばれた。YuおよびShimizuによって、アポトーシスが起きないようにすると(caspase-8阻害またはBax/Bakダブルノックアウト)、オートファジー細胞死が起きることが報告されている。発生過程ではある一定の細胞群が大きく除去される必要があるので、オートファジー細胞死は発生にとって特に重要と考えられる。哺乳類の発生における細胞死にオートファジーが必要という証拠はまだないが、Drosophilaの唾液腺細胞の発生においてオートファジーが必要という報告がある。Drosophilaの貪食細胞受容体であるDraperは細胞生存に働くオートファジー(飢餓により誘導されるオートファジー)でなく、細胞死に関わるオートファジー(唾液腺分解におけるオートファジー)を起こすため、この2つのオートファジーは異なるものと考えられた。しかし、唾液腺の急速な破壊の過程で、オートファジーとアポトーシスの独立した役割を分離するのは難しい。発生過程での細胞死におけるオートファジーの生理的役割は複雑であり、たとえ死細胞でオートファジーが起きていることが観察されても、それが「オートファジーによる細胞死」ということにはならないのではないかとも言われている。現在のところ、オートファジーが生理的な細胞死を起こしているという直接の証拠はほとんどなく、多くの研究者が「オートファジーの特徴を伴った細胞死」という表現をしている。なお、オートファジーは発生過程のプログラム細胞死に限らず、さまざまな疾患で見られる細胞死でも観察される。オートファジーには細胞生存と細胞死をそれぞれ促進させるという相反する役割があるようであり、今後の解明が待たれる。

結論
① オートファジーは傷害を受けた蛋白や細胞小器官、侵入病原体などを除去するためのメカニズムとして、また飢餓やストレス下で必要な栄養素を維持し細胞を生存させるメカニズムとして働いている。このようにオートファジーは細胞生存にとって有利な適応反応であるが、オートファジーの過剰な活性化は有害でもある。オートファジーはがん細胞が化学療法に抵抗性となるのにも利用されており、またオートファジーの過剰な活性化は細胞死を起こしうる。したがって、疾患治療のためには適切なオートファジーの刺激や阻害が必要だろう。
② オートファジーを調節するシグナル伝達経路は、まだまだよく分かっていない。特に複雑なシグナル伝達の入力の結果起こるオートファジーの特異性と大きさがどのように規定されているかという問題は今後解明が必要である。
③ Atg蛋白の作用、オートファゴソーム形成における膜の由来、小胞を隔離しておくメカニズム、オートファジーの選択性など、多くの基本的疑問が未解決である。
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by md345797 | 2013-11-22 02:20 | その他