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腸内細菌叢は自閉症スペクトラム障害の行動異常・生理的異常を調節している

Microbiota Modulate Behavioral and Physiological Abnormalities Associated with Neurodevelopmental Disorders.

Hsiao EY, McBride SW, Hsien S, Sharon G, Hyde ER, McCue T, Codelli JA, Chow J, Reisman SE, Petrosino JF, Patterson PH, Mazmanian SK.

Cell. 2013 Dec 19;155(7):1451-63.

【まとめ】
自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder, ASD)は、さまざまな消化器症状を伴うことが知られている。この研究で、ASDのモデル動物であるmaternal immune activation (MIA)マウスでは消化管バリアの障害と腸内細菌叢の変化があることが分かった。MIAマウスの仔にヒトの腸内常在菌であるBacteroides fragilisを経口投与したところ、腸の透過性が改善、腸内細菌叢組成が変化して、ASDの症状(コミュニケーション障害、常同行動、不安様の知覚運動性行動)の改善が認められた。また、MIAマウスの仔では血清代謝産物プロファイルの変化が見られたが、B. fragilisを移植するとそれらの代謝産物の量が変化した。MIAで増加していてB. fragilis投与で回復する代謝産物(4ESP)を正常マウスに投与したところ、ASDを示す行動異常が起きた。すなわち、腸内細菌叢の変化が宿主のメタボロームの変化を惹き起こし、それが行動の変化につながりうることが示された。これらの結果から、ASDモデルにおける腸内細菌叢と脳の関連が明らかになり、自閉症スペクトラム障害に対するプロバイオティック治療の可能性が示唆された。

【論文内容】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は米国では88人の出生中1人に生じるとされている疾患で、医学的にも社会的にも重要な問題である。ASDは消化器症状を伴うことがよく知られており、胃腸運動異常や腸管透過性亢進についての臨床的・疫学的報告がある。これらの消化管異常はRett症候群、脳性麻痺、大うつ病などの神経疾患にも伴うことが報告されており、これらのことから神経疾患と腸内細菌叢の関連が指摘されている。腸内細菌叢は、炎症性腸疾患、肥満、心血管疾患などさまざまな疾患に関連があるが、今までにASDで腸内細菌叢の組成が変化していることも報告されている(Adams et al., 2011,Finegold et al., 2010,Finegold et al., 2012,Kang et al., 2013,Parracho et al., 2005,Williams et al., 2011,Williams et al., 2012)。また、マウス(Collins et al., 2012,Cryan and Dinan, 2012)およびヒト(Tillisch et al., 2013)において、腸内細菌叢が社会的、感情的行動、さらに脳の発生などと関連していることが知られている。さらには、多発性硬化症やうつ病のモデルマウス(Bravo et al., 2011,Ochoa-Repáraz et al., 2010)やヒトの慢性疲労症候群の感情症状や心理的障害(Messaoudi et al., 2011,Rao et al., 2009).を、腸内細菌叢を改善することによって治療する試みもある。

本研究ではASDのモデルマウスとして、maternal immune activation (MIA)モデルを用いた検討を行った。母親の炎症が仔の自閉症リスクを増大することが疫学的にしられており、家族性自己免疫疾患(Atladóttir et al., 2009,Comi et al., 1999)や母親の血液や胎盤、羊水における炎症反応の増加は自閉症リスクを増大する(Abdallah et al., 2013,Brown et al., 2013,Croen et al., 2008)とされている。妊娠マウスにウイルス類似物質であるpoly(I:C) (Polyinosinic:polycytidylic acid、TLR3のアゴニストとして免疫を刺激する)を注入するとMIAマウスとなり、その仔はASDで見られるコミュニケーションや社会的行動の障害をきたす。このMIAマウスとその仔マウスに、大腸炎のマウスモデルの腸管異常を改善するとされる腸内常在菌のBacteroides fragilisを移植することによって、ASD関連の消化管障害と行動異常にどのような影響が出るかを検討した。

MIAマウスの仔はヒトASDの腸管症状を示す

ASDの子供は腸管バリア機能が低下し、腸管の透過性が亢進し、いわゆる「漏れやすい腸管(leaky gut)」(D’Eufemia et al., 1996,de Magistris et al., 2010,Ibrahim et al., 2009)という症状をきたす。本研究では、poly(I:C)を注入して作製したMIAマウスの仔、そのコントロールマウス、さらにdextran sodium sulfate (DSS)を投与して腸管透過性を上昇させたマウスで、腸管上皮からFITC-dextranの血中への移行を調べることにより腸管透過性を比較した。その結果、MIAの仔はコントロールに比べ、(DSS投与マウスと同程度に)腸管透過性が亢進していた。また、腸管バリア機能の低下を示すTJP1, TJP2, OCLN, CLDN8発現の低下、CLDN15発現増加が認められた。さらに、MIA仔マウスの腸管では、IL-6発現が増加、IL-12p40/p70とMIP-1αの発現が低下するというサイトカイン/ケモカインの発現異常も認められた。

MIAマウスの仔は腸内細菌叢のバランス異常をきたしている
次にMIA仔マウスの腸内細菌叢の変化を検討した。便の細菌集団を16S rRNAシークエンスを用いて調べたところ、まずコントロール(saline注入のS群)とMIA(poly(I:C)注入のP群)で、便中の細菌種の量や均一性(α多様性)に差はなかった。しかし、unweighted UniFrac解析を用いて細菌集団間の系統発生の類似性(phylogenetic similarity)を調べたところ、コントロールとMIAで主座標分析(principal coordinate analysis; PCoA)に見られる明らかな違いがあった。この違いは、ClostridiaBacteroidiaに限ってPCoAで比較するとより顕著であった。したがって、MIAとコントロールの仔の腸内細菌叢の差は、ClostridiaBacteroidiaのoperational taxonomic units (OTUs)の多様性の変化によるものであると言える。1474のOUTのうち67は細菌による治療グループ間(Lachnospiraceae, Ruminococcaceae, Erysipelotrichaceae, Alcaligenaceae, Porphyromonadaceae, Prevotellaceae, Rikenellaceae,およびunclassified Bacteroidales)を区別することができた。これらのうち、19はコントロールに多く、48はMIAのサンプルで多かった。PCoAの結果にみたように、MIAサンプルとコントロールを区別するOUTの大部分はBacteroidiaとClostridiaであった。Porphyromonadaceae, Prevotellaceae, unclassified BacteriodalesおよびLachnospiriceaeはMIA仔マウスで多く、Ruminococcaceae (2 OTUs), Erysipelotrichaceae、the beta Proteobacteria family Alcaligenaceaeはコントロール仔マウスで多く認められた。以上より、MIAはClostridiaBacteroidiaの特異的OUTの変化を主とした腸内細菌叢の異常をきたしていることが分かった。

Bacteroides fragilisの投与によりMIA仔マウスの腸管バリア機能は改善する
次にヒトの常在菌であるB. fragilisを離乳期のMIA仔マウスに投与したところ、8週齢において消化管異常(腸管の透過性亢進)が改善し、CLDN8とCLDN 15発現変化が正常化、大腸におけるIL-6発現増加も低下した。以上よりB. fragilisを投与する治療により、MIA仔マウスの消化管バリア障害が改善し、tight junctionの変化やサイトカイン発現の変化も正常化することが示された。

B. fragilis投与によりMIA仔マウス特有の腸内細菌叢の変化は回復する
MIA仔マウスに対するB. fragilis投与治療によって、35のOTUのレベルが有意に変化したが、それらはB. fragilis投与治療によって回復した。MIAとコントロールを区別する67のOTUのうちB. fragilis治療によって有意に回復した6種はunclassified BacteroidiaLachnospiraceae (Clostridiaの中のfamily)であった。なお、Bacteroidia OTUsクラスターは1つの系統発生グループ(monophyletic group)に、Lachnospiraceae OTUsクラスターは2つのグループに分類された。

B. fragilis投与によってASD関連の行動異常は改善する
MIA仔マウスはASDの行動異常を示すが、それらは以下の5つの実験方法で定量化することができる。(1) 全周を囲まれた場所(arena)の中央に来る回数、中央にいる時間が少なく(オープンフィールド探索行動の異常)、これは不安様症状を表す。poly(I:C)注入後に生まれたMIA仔マウス(P群)はコントロールのsaline注入後の仔マウス(C群)に比べて、オープンフィールドの探索行動は有意に減少していた。(2)驚愕刺激(pulse)の前に弱い刺激(prepulse)を与えると驚きが抑制される現象はprepulse inhibition (PPI)と呼ばれる。Prepulseが感覚運動のゲートとなると考えられ、これは感覚運動ゲーティングを示す。MIA仔マウスはこのprepulseに伴うPPIが低下していた。(3) ビー玉埋めテスト(marble burying test)は、マウスがビー玉を床敷に埋めるという不合理な行動を繰り返し行ってしまうことを観察するものであり、自閉症で見られる常同行動(stereotyped behavior)の一つである。MIA仔マウスではこのような常同的なビー玉埋め行動がコントロールより多く見られた。(4) マウスのコミュニケーションの測定としては、超音波発声(ultrasonic vocalizations)が用いられる。MIA仔マウスでは社会的コミュニケーションとしても超音波発声の時間や回数が減少していた。(5) 3部屋の社会テスト(three-chamber social test)は自閉症モデルの社会的相互作用の障害を測定するのに用いられる。MIA仔マウスはこの社会テストにより、新しいマウスとの相互作用を好む社会性が欠損していることが明らかになった。以上の5つの実験結果から、MIA仔マウスがASDの行動異常を示すことが示された。

MIA仔マウスにB. fragilisを経口投与すると(P+BF群)、これらの行動異常の多くが改善した。B. fragilis投与により、(1) オープンフィールドでの不安様行動が見られなくなり、(2) PPIが増加し、(3) 常同的なビー玉埋め行動が減少し、(4) コミュニケーション行動が回復した。ただし、(5) 新規な相手を好む社会性は回復しなかった。(5)の社会性をつかさどる神経回路は前4種類の回路とは違っており、B. fragilis投与治療は特異的な回路のみを改善するのだろう。

なお、上記のB. fragilis治療の効果は、全身の免疫の変化やpolysaccharide A (PSA)の変化を介するものではなかった。また、B. fragilisのみで特異的な結果というわけではなく、Bacteroides thetaiotaomicronでもMIA仔マウスの行動異常が改善した。しかし、Enterococcus faecalis投与では効果はなく、このような細菌投与治療のための細菌には何らかの特異性が見られるのだろう。

血清代謝産物のメタボロームはMIAおよびB. fragilis投与によって変化する
MIA仔マウスの腸内細菌叢の変化が血清代謝産物の変化をもたらしている可能性を検討するため、gas chromatography/liquid chromatography with mass spectrometry (GC/LC-MS)を用いたメタボロームプロファイリングを行った。検出された322の代謝産物のうち、MIA仔マウスでは8%有意に変化していた。さらに、出生後にB. fragilis治療を行ったものでは、34%の代謝産物の変化があった。

B. fragilis投与によってMIAによる血清代謝産物の変化が是正される
MIA仔マウスで変化している代謝産物のうち、B. fragilis治療で回復したものとして、最も大きな変化を認めたのが、4-ethylphenylsulfate (4EPS)であった(MIAで46倍に増加し、B. fragilis治療で完全に回復)。この4EPSの量を通常飼育マウス(conventionally colonized (SPF; specific pathogen free) mice)と無菌マウス(germ-free; GF)で比較したところ、GFマウスでは血清4EPS が検出されなかった。すなわち、血清4EPSは腸内常在細菌によって生成されると考えられる。4EPSは自閉症の尿中バイオマーカーとしても報告されているp-cresol (4-methylphenol)と同様の尿毒症性毒素(uremic toxin)である。MIAマウスでは血清p-cresol値の増加も見られており、4EPSはp-cresol の硫酸化型(4-methylphenylsulfate; 4MPS)にも類似していることから、4EPSとp-cresolの機能がオーバーラップしている可能性もある。

そのほかにもB. fragilis治療によって血清中の量が回復した代謝産物にindolepyruvateがあり、これも4EPSと同様に腸内細菌によって産生されると考えられている。Indolepyruvateはトリプトファン代謝経路の分子であり、自閉症モデルである高セロトニン血症モデルではトリプトファン代謝が亢進していることから、自閉症の症状発症に何らかの関連があるのかもしれない。そのほかにMIAで変化しB. fragilis治療で回復している代謝産物には、glycolate、imidazole propionate、N-acetylserineがあった。

4EPSという単一の代謝産物の投与によって不安様行動が惹起される
正常マウスに、3週齢から6週齢にかけて毎日4EPSカリウム塩を投与したところ、それだけでMIA仔マウスと同様の不安様行動が見られるようになった。コントロールに比べ4EPSを投与したマウスは囲いの中央で過ごす時間が短く、PPIテストでは驚愕反応が大きかった。このように腸内細菌叢によって調節されている代謝産物(4EPS)の血中レベルの変化がASDによく見られる症状を惹起することからも、腸内細菌叢と脳の関連が示唆される。

【結論】
自閉症スペクトラム障害(ASD)には消化管症状を伴うことが報告されており、ASDと腸内細菌叢の関連は以前から示唆されていた。本研究では、自閉症モデルマウスで腸内細菌叢の変化が見られ、このマウスにB. fragilisを投与することによって細菌叢を是正すると、腸管透過性亢進が改善し、それに伴いASDの症状が改善することを示した。メタボローム解析により、ASDモデルで増加しB. fragilisの投与で正常化する代謝産物として、腸内細菌叢で調節される4EPSが明らかになり、4EPS投与によってもASD様の症状が改善することが分かった。腸内細菌叢の是正が、腸管透過性を正常化し、それに伴い血中の代謝産物の変化が起こり、これが脳や神経発生に作用してASD改善につながるのかもしれない(図参照)。本研究の知見は、ASDのみならず、ヒトのさまざまな神経発生障害の病態理解や治療にも役立つと思われる。
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by md345797 | 2013-12-12 00:22 | その他