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がんの抗体療法

Antibody therapy of cancer.

Scott AM, Wolchok JD, Old LJ.

Nat Rev Cancer. 2012 Mar 22;12(4):278-87.

【総説内容】
がんの抗体療法は15年以上も前に研究が始まり、今や血液悪性疾患と固形腫瘍の治療のための最も重要な治療法の一つになっている。腫瘍細胞では、細胞表面抗原の過剰発現や変異が見られたり、正常組織にはない特異的抗原が出現したりしている。そこで、1960年代にはすでに血清学的手法を用いて、それらの腫瘍細胞の表面抗原を標的とした抗体療法が試みられていた。これらは、抗体を用いた表面抗原や受容体機能、免疫系の変化を惹起したり、特異的薬剤を抗体に結合させて特異的抗原を発現する組織を標的としたりするなどといったさまざまな方法であった。このような治療においては、標的となる抗原の選択、抗体の抗原とのアフィニティ、何を標的とするか(腫瘍細胞の抗原、細胞内シグナル伝達、T細胞活性化などの免疫機能など)、抗体の薬物動態特性はどうか、などさまざまな重要な要因があり、それらを改善しつつ多くの臨床試験が行われてきた。

1. がんに対する血清学的治療の歴史
19世紀末に抗体が発見されると、すぐに抗体をがんの診断や治療の「魔法の弾丸」として用いることができるのではないかというアイデアが生まれた。そして、ヒトのがん細胞を用いて動物を免疫し、がん特異的な抗血清を作製する試みが行われた。このような試みはほとんどがうまくいかなかったが、CEAが大腸がんの、α-フェトプロテインが肝細胞がんのマーカー抗原として有用であるという発見がなされた。さらに近交系マウスの発達によって、同種抗体の反応性解析の強力な手段としての細胞毒性試験など、がんの血清学的治療の重要な方法が発達した。また、細胞表面は高度に分化した構造によって認識可能であることが分かってきた。当初、リンパ球サブセットの区別に用いられていた細胞表面分化抗原が同定された。さらに、ハイブリドーマ技術とセルソーター(FACS)を用いた解析技術の発達がそれに拍車をかけた。これらの進歩によって、ヒトがん特異的抗原の検索と、モノクローナル抗体を用いた細胞表面構造の解析が進展した。最近は、がん細胞の間質や血管細胞が発現する新たな抗原によって、がんと正常組織が区別できることも分かってきた。将来的にはバイオインフォ―マティクスの手法を用いて、がん細胞表面抗原の全体、すなわち「surface-ome」の構築が行わると考えられている。

2. 腫瘍細胞を死滅させるためのさまざまな戦略
腫瘍細胞を死滅させる攻撃(tumor cell killing)にはさまざまな方法がある(図1)。①抗体の直接作用を利用するもの。腫瘍細胞表面の受容体の阻害または活性化、アポトーシスの誘導、細胞傷害性薬剤の導入。②免疫系を介した腫瘍細胞攻撃。補体依存性の細胞毒性(complement-dependent cytotoxicity; CDC)、抗体依存性の細胞毒性(antibody-dependent cellular cytotoxicity; ADCC)、T細胞機能の修飾など。③細胞の血管構造や間質に対する抗体の特異的効果を利用したもの。これらはいずれも臨床応用され、それらの中でも、腫瘍細胞のシグナル伝達を障害するもの(cetuximab、trastuzumab)、ADCCを介するもの(rituximab)、T細胞機能を調節するもの(ipilimumab)は最も成功したものである。
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抗体を用いた腫瘍細胞死滅のための戦略
a(左上): 本文①の抗体による細胞表面受容体の直接刺激により、受容体の二量体化、受容体キナーゼ、下流のシグナル伝達などを阻害するものである。また、抗体に結合させた酵素や細胞傷害性薬剤、 siRNA 、アイソトープを用いた腫瘍細胞攻撃などがある。
b(右):免疫系を介して腫瘍細胞を攻撃する方法で、細胞貪食(phagocytosis)の誘導、補体(complement)活性化、抗体依存性の細胞毒性(ADCC)、単鎖抗体(single-chain variable fragment;scFv)によるT細胞機能の調節、抗体による樹状細胞への抗原提示、T細胞阻害受容体の(重要分子としてcytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4; CTLA4)の阻害などである。
c(左下):抗体を血管構造の受容体に対するアンタゴニストや間質細胞の阻害として利用、抗体に血管を傷害する薬剤を結合させるなどして、血管や間質細胞を傷害する。

3. 抗体療法の標的となる腫瘍抗原
がんの抗体療法の効率と安全性は、標的となる抗原の性質にかかっている。理想的には、標的となる抗原は腫瘍細胞の表面に一様に発現し、豊富で到達しやすいなどの特徴が必要である。また、ADCCやCDCを利用するなら抗原抗体複合体は急速に細胞内に移行しない方がよいし、細胞傷害性薬剤を結合させた抗体を用いた治療の場合は逆に効率よく細胞内に移行するのが望ましい。モノクローナル抗体治療に利用される腫瘍関連抗原は、表1のようにさまざまなものがある。造血分化抗原はcluster of differentiation (CD)で表される糖蛋白で、これらに対する抗体が血液悪性疾患の治療に用いられる。また、成長因子や成長因子受容体が抗原になることもあり、EGFR(ERBB1)、ERBB2(HER2)、ERBB3、MET(HGFR)、IGF1R、ephrin receptor A3(EPHA3)、TNF-related apoptosis-inducing ligand receptor 1 (TRAILR1、TNFRSF10A), TRAILR2 (TNFRSF10B)、receptor activator of nuclear factor-κB ligand (RANKL、TNFSF11)などに対する抗体が作製されている。血管新生に関する蛋白で抗原となるものはvascular endothelial growth factor (VEGF)、VEGF receptor (VEGFR)、integrin αVβ3、integrin α5β1などである。がんの間質や細胞外マトリックスの抗原(fibroblast activation protein; FAP、tenascin)なども抗体の標的となる。
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4. 臨床で用いられる抗体の開発

これらを抗体療法として臨床で用いる場合には、抗体が腫瘍組織だけでなく正常組織に到達するか、すなわち毒性の問題が重要になる。本グループ(Ludwig Institute for Cancer Research)は、抗体の生体分布や薬物動態から毒性を解析する臨床試験のモデルを作成した(Scott AM, 2007)。この試験デザインは他の15以上のがんの抗体療法の臨床試験に応用されている。例として、cetuximabの開発につながったマウスEGFR特異モノクローナル抗体や、ERBB2を標的としたtrastuzumabの試験がある。非ホジキンリンパ腫に対するCD20を標的とした抗体にアイソトープを結合させた、tositumomabおよびibritumomab tiuxetanもその重要な例である。

5. 認可されたがん抗体療法
1997年以来、固形がんおよび血液悪性疾患に対する12の抗体療法がFDAに認可され (表2)、現在も多数の臨床試験が進行中である。
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また、複数のモノクローナル抗体すなわち異なる受容体に対する2種類の抗体や一つの受容体の異なるエピトープに対する2種類の抗体(trastuzumabとpertuzumabなど)を用いた組み合わせ治療(combination therapy)の臨床試験も進んでいる。血液悪性疾患に対するrituximabはCD 20陽性非ホジキンリンパ腫に対する治療として成功を収めているが、アイソトープ(131Iおよび90Y)でラベルしたCD20抗体が非ホジキンリンパ腫患者の生存率を改善することが示されている。抗体に治療薬および細胞毒性をもつ薬剤を結合させた抗体複合体(antibody conjugates)による治療も行われており、CD33陽性AMLに対するgemtuzumab ozogamicinやCD30陽性ホジキンリンパ腫に対するbrentuximab vedotinの臨床試験が行われた(ただし前者は化学療法と比較して効果不十分のため試験中止)。このような方法は固形がんに対しても行われ、ERBB2陽性乳がんに対するtrastuzumab emtansine (T-DM1)として現在第Ⅲ相臨床試験中である。抗体療法は米国にとどまらず、例えばCD3とEPCAMに対する二重の特異性を持つマウスモノクローナル抗体であるcatumaxomabはEUで認可され、EPCAM陽性腫瘍に伴う癌性腹水の患者に用いられるようになった。EGFRに対するヒト化IgG抗体であるnimotuzumabは頚部癌、グリオーマ、耳鼻科腫瘍に対してアジア、南アメリカ、アフリカの諸国で承認された。細胞内DNA関連抗原を標的とした、肺がんに対する131I-ラベルIgG1κキメラモノクローナル抗体Vivatuxinは中国で承認を受けている。

6. 抗体を用いた免疫調節療法
抗体は、上記以外にも、がんの監視に重要な免疫機能を活性化または阻害するという重要な働きがある。抗原特異的な免疫反応は、抗原提示細胞、T細胞、標的細胞間のダイナミックな相互作用の結果である。T細胞活性化のためには、主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex, MHC)に結合した抗原ペプチドをT細胞受容体が認識するだけでは不十分で、T細胞活性化因子であるCD28が共刺激分子(CD80またはCD86)のB7ファミリーと結合することが必要である。これにより一連のシグナル伝達系が活性化され、最終的にIL-2のオートクリン産生とT細胞活性化が起きる。CTLA4は、細胞内から免疫シナプス(免疫細胞どうしが結合して情報伝達をしている部位)に移行し、B7分子に強力に結合してCD28によるT細胞活性化シグナルを止め、T細胞活性化を阻害する分子である。抗体を用いてCTLA4を阻害することにより、T細胞活性化が増強され、これを腫瘍細胞攻撃に応用することができることが明らかになっている(Leach DR, 1996)。これを利用して現在2種類のCTLA4阻害ヒトモノクローナル抗体(ipilimumabとtremelimumab)が開発され、ipilimumabは切除不能の転移性悪性黒色種(metastatic melanoma)患者の全生存を延長し(Hodi F, 2010)、これによりFDAやEMA(欧州医薬品庁)など多くの国で承認を受けた。T細胞活性化阻害分子であるCTLA4を阻害することによって、「T細胞活性化阻害」の抑制(dis-inhibition)が非特異的に起きるため、組織特異的な炎症反応すなわち「免疫関連有害事象(immune-related adverse events, irAEs)」が生じうる。これらが起きるのは主に皮膚と消化管で、そのほかには肝と内分泌腺にも起こるが、一般的にはコルチコステロイド投与でipilimumabの抗腫瘍効果を減弱させることなく管理できる。

CTLA4のような免疫チェックポイントを阻害する(抗体が直接腫瘍細胞を刺激するのではなく、T細胞機能を増強する)という方法の成功は、他の免疫調節抗体を用いた治療の扉を開くことになった。次に現れたのはprogrammed cell death protein 1 (PD1)を阻害する抗PD-1ヒトモノクローナル抗体である。PD1は、活性化または疲弊した(exhausted) T細胞のマーカーであり、そのリガンドであるPD1 ligand (PD-L1, B7H5)が結合すると、T細胞のアポトーシスが起きる。そして、このリガンドは抗原提示細胞表面だけではなく、多くの腫瘍細胞上にも認められる。PD1を阻害する治療法は、悪性黒色腫、腎細胞がん、非小細胞肺がん、直腸がんの早期臨床試験において、有効で副作用の少ない治療であることが示されている。

免疫調節療法としては、阻害抗体だけでなく活性化抗体(agonistic antibody)の利用も行われている。CD137(T細胞活性に働くTNF受容体スーパーファミリーの一つ、別名4-1BB)を活性化する2種類のヒトモノクローナル抗体がPfizerとBristol-Myers Squibbで作製されている。また、CD40活性化抗体は膵がんに対する効果が認められている(Beatty GL, 2011)。

7. 抗体療法の治療抵抗性発症のメカニズム
がんの抗体療法で期待した治療効果が得られない場合は、表3のようないくつかの理由が考えられる。
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標的となる抗原や受容体の発現の変化(治療によって発現が変わってしまうこともある)、抗体の物理的特性や薬物動態の変化(腫瘍への到達度が変わってしまう)、腫瘍内の微小環境の変化により腫瘍内の抗体の濃度や受容体飽和度が変化し、シグナル伝達が変わったり免疫エスケープが起きたりすることもある。原発巣と転移巣の間で、または転移巣の間で抗原の発現が不均一なために、抗体の効率が変化することもある。さらに、trastuzumab反応性は受容体発現の量に関連しているが、かといって受容体の発現量で反応性が予測できるわけでもない。また、直腸がんはEGFR発現量ではcetuximabやpanitumumabの反応性が予測できない。すなわち腫瘍における標的受容体の発現量は、抗体治療の効率は部分的にしか予測できない。抗体と腫瘍の結合には複雑な相互作用が影響しているのだろう。

ADCCは抗体の治療効率に重要な役割を果たす。Fcγ受容体(FcγR)は、免疫細胞の表面に発現しており、抗体のFc部分に結合してこれらの細胞の細胞毒性や貪食能を活性化する作用を有している。FcγRIIa-131H遺伝子多型があると直腸がんに対するcetuximab、乳がんに対するtrastuzumab、濾胞性リンパ腫に対するrituximabの反応性が高くなることが分かっている。そのため、ADCC活性を高めるための方法として、抗体をフコシル化修飾するなどの方法が臨床的にも用いられるようになってきた。しかし、FcγR遺伝子型によって抗体の反応性を完全に予測できるわけでなく、抗体の腫瘍への反応には他の重要な因子がまだあるのだろう。さらに、腫瘍細胞におけるナチュラルキラー細胞阻害蛋白の発現(human leukocyte antigen E ;HLA-EやHLA-G)が抗体のADCC機能に影響しているかもしれない。また、抗体がT細胞の腫瘍抗原に対する反応を惹起する能力は、例えば樹状細胞による抗原のクロスプレゼンテーションや、抗原プロセッシングや、制御T細胞による免疫エスケープなどさまざまな要因が影響していると考えられている。

シグナル伝達経路の阻害は、抗体による腫瘍細胞攻撃の重要な戦略である。そのため、先天的・後天的なシグナル伝達の変化は抗体治療への抵抗性を起こす原因となる。先天的なシグナル伝達の変化とは、遺伝子変異(直腸がんにおけるKRAS変異など)や細胞表面受容体の相互作用(例えばEGFRとMETの間に見られるような)などによるものによる。後天的なシグナル伝達の変化(治療後の変化)には、受容体の内在化や分解の変化によるシグナル伝達の減弱がある。また、あるシグナル伝達経路を阻害しても、別の経路が過剰に活性化させることになっては抗体療法抵抗性が増強されてしまうこともある。しかし、腫瘍細胞ごとのシグナル伝達系の特徴が解明されれば、どのような患者にはどの抗体療法が適しているか、またどの抗体療法を組み合わせればよいかなどの選択に役立つだろう。

この10年間の医科学におけるもっとも大きな成功の一つが、癌の抗体療法である。この成功は、抗原抗体反応の解明、抗原の選択方法の進歩、抗体受容体機能、がんに対する免疫系の理解など多くの分野における長年の検討による。現在、認可された抗体療法のほか、いくつかの臨床試験が進められており、がん治療確立のための適切な戦略が打ち立てられつつある。

【参考1】WHOの国際一般名International nonproprietary names (INN)によるモノクローナル抗体製剤の命名法:

① 接頭語:自由に決めてよい。ただし他と区別できるように。

② 標的臓器、癌のある臓器
標的臓器:bacterial =ba(c)、bone=os-(presubstem)、cardiovascular=ci(r)、inflammatory lesion=le(s)、immunomodulator=li(m)、viral=vi(r)

腫瘍:colon=co(l)、testis=go(t)、ovary=go(v)、mammary=ma(r)、melanoma=me(l)、prostate=pr(o)、その他いろいろの癌(tumor)=tu(m)

③ 抗体の動物種
Human=u、hamster=e、mouse=o、primate=i、rat=a、chimeric=xi、humanized=zu、rat-murine hybrid=axo-(presubstem)

④ モノクローナル抗体を表す接尾語 monoclonal antibody=mab

例:
Trastuzumab(ハーセプチン® 、トラス-ツ-ズ-マブ)=①tras(接頭語)-②tu(いろいろな癌種)-③zu(ヒト化抗体)-④mab(モノクローナル抗体)
Rituximab(リツキサン®、リ-ツ-キシ-マブ)=①Ri(接頭語)-②tu(いろいろの癌種)-③xi(キメラ抗体)-④mab(モノクローナル抗体)
Bevacizumab(アバスチン®、ベバ-シ-ズ-マブ)=①Beva(接頭語)-②ci(血管)-③zu(ヒト化抗体) -④mab(モノクローナル抗体)
Ipilimumab(Yervoy® イピ-リム-マブ)=①Ipi(接頭語)-②lim(免疫系調節)-③u(ヒト抗体)-④mab(モノクローナル抗体)


【参考2】
2013年には、進行性の黒色腫(advanced melanoma)に対する抗PD-1抗体であるlambrolizumab (MK-3475) の有効性(Hamid O, NEJM 2013)、抗CTLA4抗体(ipilimumab)と抗PD-1抗体(Nivolumab)の併用療法の有効性(Walchok LD, NEJM 2013)が示された。これらの免疫チェックポイント阻害モノクローナル抗体ががん治療の画期的新薬として報告された2013年末には、NatureScienceの「2013年のブレイクスルー」としてcancer immunotherapyが挙げられている。


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by md345797 | 2014-01-14 22:15 | その他