一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

2012年 02月 23日 ( 1 )

脂質センサーGPR120の機能不全は、マウスとヒトの両方で肥満をもたらす

Dysfunction of lipid sensor GPR120 leads to obesity in both mouse and human.

Ichimura A, Hirasawa A, Poulain-Godefroy O, Bonnefond A, Hara T, Yengo L, Kimura I, Leloire A, Liu N, Iida K, Choquet H, Besnard P, Lecoeur C, Vivequin S, Ayukawa K, Takeuchi M, Ozawa K, Tauber M, Maffeis C, Morandi A, Buzzetti R, Elliott P, Pouta A, Jarvelin MR, Körner A, Kiess W, Pigeyre M, Caiazzo R, Van Hul W, Van Gaal L, Horber F, Balkau B, Lévy-Marchal C, Rouskas K, Kouvatsi A, Hebebrand J, Hinney A, Scherag A, Pattou F, Meyre D, Koshimizu TA, Wolowczuk I, Tsujimoto G, Froguel P.

Nature. 2012 Feb 19 Published online.

【まとめ】
遊離脂肪酸は、生体の重要なエネルギー源でありシグナル伝達分子でもある。いくつかのG蛋白共役受容体が、遊離脂肪酸の受容体として同定されている。GPR120 (別名O3FAR1)は不飽和長鎖遊離脂肪酸の受容体として、血管新生や食欲調節などの過程で重要な役割を果たしている。本研究では、GPR120欠損マウスに高脂肪食を負荷したところ、脂肪細胞分化と脂肪合成の低下を伴う肥満、耐糖能異常、脂肪肝をきたした。また、インスリンシグナル伝達の低下、脂肪組織の炎症の亢進を伴ったインスリン抵抗性が認められた。ヒトにおいては、肥満者で、脂肪組織のGPR120発現の増加が見られた。肥満者のGPR120のexon sequencingにより、有害な非同義突然変異であるp.R270H(注:アミノ酸置換が起こるミスセンス変異、p.はproteinの略)が認められ、これによりGPR120のシグナル伝達活性が阻害されることが示された。さらに、p.R270H変異体は、ヨーロッパの集団において、肥満のリスクを増加させた。以上より、脂質センサーであるGPR120は、高脂肪食を感知するのに重要な役割を果たし、ヒトとマウスの両方においてエネルギーバランスを調節していることが明らかになった。

【論文内容】
GPR120欠損マウスは、野生型(WT)マウスに比べ、正常食では体重に差はないが、高脂肪食を負荷したときの体重増加が10%程度大きかった。両マウスのエネルギー消費を比較したところ、9-10週齢でGPR120欠損マウスにおいて明期(非活動時間)のエネルギー消費が小さかった。GPR120は特に若いマウスでのbasalの代謝に関与していることが示された。高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスはWTに比べ、脂肪量が多く、脂肪細胞が大きく、脂肪組織へのマクロファージの浸潤(F4/80陽性細胞数)が多かった。また、脂肪肝を示し、肝の中性脂肪含量が多かった。

高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスはWTに比べ、空腹時血糖・インスリン値が高値であり、ITTおよびGTTでの血糖が高値であった。また、白色脂肪組織(WAT)、肝、骨格筋におけるインスリンによるAKTのリン酸化が低下していた。qRT-PCRで、WATにおいて脂肪分化マーカー(Fabp4)、脂肪合成関連遺伝子(Scd1)の発現低下が見られ、肝ではScd1および脂肪酸トランスポーター遺伝子(Cd36)の発現増加が認められた。Western blotでも同様にWATでのSCD1の発現低下、肝での増加を認めた。WAT、肝、血漿のlipidomics解析によると、高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスでは肝のオレイン酸(C18:1n9c)が増加し、C18:1対C18:0比(SCD1酵素活性を示す)が増加していた。このマウスでは、WATおよび血漿のパルミトオレイン酸(C16:1n7)は低下しており、WATでのScd1発現低下と一致している結果であった。GPR120欠損マウスでは、脂肪合成の異常があり、特に脂質ホルモンであるC16:1n7パルミトオレイン酸の低下が示された。GPR120欠損マウスにC16:1n7パルミトオレイン酸を6時間注入すると、肝のScd1発現亢進が低下した。これらの結果から、パルミトオレイン酸の低下はこのマウスの代謝異常の原因であることが示唆された。

次に、ヒトにおいてGPR120が肥満に関与しているかを検討した。まず、肥満者と正常者(各n=14)の皮下および大網脂肪組織におけるGPR120の発現を比較したところ、肥満者で有意にGPR120の発現が増加していた。さらに、312名のフランス人非血縁高度肥満者でGPR120の4つのexonの塩基配列を調べた。その結果、2つの非同義突然変異(non-synonymous variant)であるR270Hとp.R67C/rs6186610を同定した。この非同義変異の遺伝子型を6,942名の肥満者と7,654名の正常コントロールで比較したところ、R270Hが肥満と関連していることが明らかになった。次に、p.R67Cとp.R270Hの2つのarginine(67と270)変異の受容体機能への影響を検討するため、内因性アゴニストであるα-リノレン酸(ALA)反応性の細胞内カルシウム([Ca2+]i)反応を比較した。その結果、ALA反応性[Ca2+]i反応は、p.R270Hを持つ受容体で有意に低下していた。また、p.R270H変異受容体を発現させたヒト腸管NCI-H716細胞からのGLP-1分泌を、WTの受容体を発現させた細胞と比較したところ、WTと違ってALA反応性のGLP-1分泌増加が認められなかった。

次に、T-Rex 293細胞にbicistronicに(1つの遺伝子が2種類の蛋白をコード)WT/WT、WT/p.R270H、p.R270H/WT受容体を発現させた場合のALA依存性の[Ca2+]i上昇の用量依存曲線を解析した。WT/WTを発現させた細胞に比べ、WT/p.R270Hまたはp.R270H/WTを発現させた細胞では、ALAによる [Ca2+]i上昇反応が低下していた。したがって、p.R270H変異は、長鎖遊離脂肪酸のシグナル伝達を障害することによりGPR120の機能を抑制することが示された。

p.R270H変異をheterozygousに持つ肥満者10名とnon-carrierの肥満者を比較したところ、皮下・大網脂肪組織でのGPR120発現は同様であった。脂肪分化マーカーPPARGおよび脂肪合成関連因子SCD、マクロファージマーカーCD68の発現も両群で差はなかった。しかし、脂肪酸結合蛋白FABP4の大網脂肪組織での発現は、p.R270H carrierで有意に低下していた。

【結論】
omega-3脂肪酸の受容体である脂質センサーGPR120は、マウスとヒトの両方で肥満に関連していた。この受容体は、肥満および脂質代謝異常、肝疾患などの治療の有望なターゲットになると考えられる。
[PR]
by md345797 | 2012-02-23 17:17 | 糖尿病の遺伝学