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カテゴリ:心血管疾患( 6 )

腸内細菌叢によるphosphatidylcholineの代謝産物TMAOはヒトの心血管疾患リスク増加に関連

Intestinal microbial metabolism of phosphatidylcholine and cardiovascular risk.

Tang WHW, Wang Z, Levison BS, Koeth RA, Britt EB, Fu X, Wu Y, Hazen SL.

N Engl J Med. 2013; 368:1575-1584. April 25, 2013.

【まとめ】
背景:最近のマウスを用いた検討により、食餌中のphosphatidylcholine (lecithin)のcholine部分から、腸内細菌叢の代謝によってtrimethylamineが生成され、それが肝で代謝されてtrimethylamine-N-oxide (TMAO)となり、これが動脈硬化性の心血管疾患の発症に関連があることが示されている。本研究ではヒトにおいて、①食事中のphosphatidylcholineの腸内細菌叢による代謝、および②TMAO値と心血管イベントの関係について検討した。方法:①健常者に広範囲抗生剤を投与して腸内細菌叢を抑制した前と後で、phosphatidylcholine負荷(ゆで卵2つとdeuterium [d9]ラベルしたphosphatidylcholineを摂取)を行い、血漿中および尿中のTMAO値、血漿choline、betaine(choline代謝産物)値を定量した。②さらに、待期的冠動脈造影を受けた4007人の患者を3年間追跡し、ベースラインの空腹時血漿TMAO値と心血管イベント(死亡、心筋梗塞、脳梗塞)の発症率との関連を検討した。結果:①Phosphatidylcholine負荷後に、時間依存的にTMAO値とラベルされたTMAO(d9 isotopologue)値、および他のcholine代謝産物の増加が認められた。抗生剤投与後は血漿TMAO値は著明に抑制され、抗生剤を中止すると再度上昇した。②また、空腹時血漿TMAO高値は冠動脈イベントのリスク増加と関連があった。既知の危険因子で補正した後であっても、TMAO高値は心血管イベントのリスク増加と関連していた。結論:①食事中のphosphatidylcholineからTMAOが産生されるためには、腸内細菌叢による代謝が必要である。②TMAO値の増加は心血管イベントの発症リスクの増加に関連している。
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【論文内容】
リン脂質であるphosphatidylcholine (lecithin)は食事中の主要なcholine源である。Cholineは脂質代謝や細胞膜の構成に必要であり、そのほかにも神経伝達物質アセチルコリンの前駆体であるなどさまざまな役割を持つ。また、cholineの代謝産物(betaineなど)はある種のアミノ酸に正しくメチル基を負荷するために必要である。このグループは、マウスモデルにおいて腸内細菌叢によるphosphatidylcholine–cholineの代謝経路が動脈硬化性の冠動脈疾患の発症に関与することを報告した。また、phosphatidylcholineのcholine部分の腸内細菌叢依存性代謝産物であるTMAOの空腹時血漿中の値と心血管疾患の罹患歴に関連があることも報告している。今回の研究では、①ヒトにおけるphosphatidylcholineの経口摂取と腸内細菌叢によるTMAO産生の関連について検討した。②また、空腹時血漿TMAO値と長期の心血管イベント発症リスクの関連についても検討した。

① Phosphatidylcholine負荷
40人の健康な成人にphospahtidylcholine負荷を行い、そのうち6人に抗生剤(メトロニダゾールとシプロフロキキサシンを1週間)投与した後に2回目のphosphatidylcholine負荷を行った。さらに、抗生剤中止1か月以上後に腸内細菌叢の回復を待って3回目のphospahtidylcholine負荷を行った。Phospahtidylcholine負荷は、2つの固ゆで卵とトレーサーとしてdeuteriumラベルしたphosphatidylcholine (d9-phosphatidylcholine)を摂取させ、摂取前後の血液と24時間蓄尿で代謝産物を評価するという方法で行った。内因性の(ラベルされていない)TMAOとcholine、betaineが空腹時血漿に認められるが、負荷後はTMAOおよびd9-TMAOが血漿と尿中に出現した。抗生剤投与1週間(腸内細菌叢抑制)には、血漿および尿中のTMAOとd9-TMAOはほぼ完全に消失していた。(Phosphatidylcholine負荷後のcholineとbetaineの増加は変化がなかった。)さらに、抗生剤中止1か月以上後の腸内細菌叢が回復した状態では、phosphatidylcholine負荷後に血漿と尿中のTMAOおよびd9-TMAOの増加が認められた。

② 臨床的なアウトカム
(1) TMAO値と心血管イベントの関連

待期的冠動脈造影を受けて、少なくとも1枝病変があり心血管リスクが高い4007人の成人を対象に、冠動脈カテーテル検査時に血液サンプルを採取し、その後3年間主要な心血管イベントの発症がないかを追跡調査した。(これらの対象患者の心血管リスクは、高齢、高血糖、高率の糖尿病と高血圧の合併および心筋梗塞の既往である。)これらの対象患者のうち、心血管イベントを発症した患者のベースラインの血漿TMAO値は、発症しなかった患者の値より有意に高かった。TMAO値の最低四分位の患者は、最高四分位の患者に比べイベント発症リスクが高かった(hazard ratio 20.54, 95% CI 1.96-3.28, P<0.001)。既知の危険因子とベースラインの共変数で補正した後であっても、TMAO高値は心血管イベントの有意な危険因子であった。Kaplan-Meier解析でリスクの増加を比較すると、いずれのTMAO値でもリスク増加は同様に認められた(下図)。(unadjusted hazard ratio, 1.40 [95% CI, 1.29-1.51; P<0.001]; adjusted hazard ratio, 1.30 [95% CI, 1.20-1.41; P<0.001])
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なお、心血管イベントの要因を別々に解析してもTMAO値の増加はリスク増加に有意に関連していた(死亡に対してはhazard ratio, 3.37; 95% CI, 2.39-4.75; P<0.001、非致死的心筋梗塞と脳梗塞に対しては、hazard ratio, 2.13; 95% CI, 1.48-3.05; P<0.001)。既知の危険因子にTMAOを共変数として含むと、リスク予測は有意に改善した(net reclassification improvementとintegrated discrimination improvementでみる改善度は、それぞれNRIが 8.6% [P<0.001]およびIDIが9.2% [P<0.001]; リスク評価の正確性を表すC 統計量が68.3% vs. 66.4% [P=0.01]と改善が認められた)。

(2) 低リスクサブグループの心血管リスク
血漿TMAO値上昇の心血管リスク上昇は、リスクが低い群でも有意に予後予測的な価値を持っていた。(これらの低リスク群は、若い年齢(65歳未満)、女性、冠動脈疾患の既往なし、脂質異常やアポ蛋白異常が少ない、血圧低値、非喫煙者、リスクマーカー(CRP、myeloreoxidase、白血球数)の増加が少ないなどのグループである。)

【結論】
Phosphatidylcholineは卵、レバー、牛肉、豚肉に多く含まれ、腸内細菌叢で代謝されtrimethylamineを経て肝で代謝されてTMAOになり、これが動脈硬化促進的に働くことがマウスを用いた検討および臨床研究で示されている。本研究では、①アイソトープトレーサーを用いて食事中のphosphatidylcholineからTMAOが産生されることを示し、これが抗生剤投与で消失、抗生剤中止で回復することを確認した。さらに、②空腹時血漿TMAO値が、既知の危険因子とは独立して心血管イベントのリスクを予測する因子であることを明らかにした。


(なお、形質に影響する要因を「遺伝要因」と「環境要因」にはっきり区別して考えるガルトン的な考え方(Galton, 1875)はもはや単純化しすぎの二分法であろう。現代では、環境はエピジェネティックな過程や転写後修飾を通して遺伝的機能を変え、遺伝は環境へのストレス耐性などの因子を変えることが知られているからである。さらに最近では、食事中の成分が腸内細菌叢に影響を与え、宿主の100倍以上の遺伝子を含む腸内細菌叢のゲノムであるmicrobiomeが宿主の疾患に大きく影響していることなどが明らかになってきた。すなわち、宿主ゲノムとmicobiomeが相互作用することにより「supraorganismal」な代謝を形成し、遺伝・環境因子を統合して形質形成に関わっていると考えられている。本研究では、「環境からのphosphatidylcholine摂取が、腸内細菌叢による代謝を経てTMAOを生成し、それがヒトの動脈硬化性疾患を促進する」という宿主と環境の複雑な相互作用が明らかになった。)
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by md345797 | 2013-04-26 07:27 | 心血管疾患

人類4000年の歴史にわたる動脈硬化の存在:4つの古代集団に基づくHorus研究

Atherosclerosis across 4000 years of human history: the Horus study of four ancient populations.

Thompson RC, Allam AH, Lombardi GP, Wann LS, Sutherland ML, Sutherland JD, Muhammad Al-Tohamy Soliman MA, Frohlich B, Mininberg DT, Monge JM, Vallodolid CM, Cox SL, Abdel-Maksoud G, Badr I, Miyamoto MI, Nur El-Din Ael-H, Narula J, Finch CE, Thomas GS.

Lancet. Published online March 10, 2013.

【まとめ】
背景:動脈硬化は現代人の病気であり現代のライフスタイルに伴う疾患であると、一般的には考えられている。しかし、現代以前の動脈硬化の有病率は実際には分かっていない。方法:本研究では、4000年以上にわたる4つの異なる地理的集団から得られた137体のミイラの全身のCTスキャンの結果を得た。4つの集団は、古代エジプト、古代ペルー、南西アメリカのプエブロインディアンの祖先(Ancestral Puebloans)、アリューシャン列島の先住民族(Unangan)である。動脈硬化は、動脈壁の石灰化プラークがあれば確定例、動脈と思われる部位に石灰化があれば疑い例とした。結果:動脈硬化の疑い例または確定例は137体のミイラの47例(34%)で、4つの地理的集団のいずれにも認められた。大動脈の動脈硬化は28例(20%)、腸骨動脈または大腿動脈の動脈硬化は25例(18%)、膝窩または脛骨動脈の動脈硬化は25例(18%)、頚動脈の動脈硬化は17例(12%)、冠動脈の動脈硬化は6例(4%)に認められた。上記の5つの血管床のうち、1か2の血管床に動脈硬化が認められたのは34例(25%)、3か4の血管床に動脈硬化が認められたのは11例(8%)、5つの血管床すべてに動脈硬化が認められたのは2例(1%)であった。死亡時の年齢は動脈硬化の有無および血管床の数と有意に関連した。結論:動脈硬化は産業化以前の人類(農業開始以前の狩猟採集民族を含む)において、地理的、時間的に広範囲にわたって認められた。一般に動脈硬化は現代病とみなされてきたが、近代以前の人類に広く動脈硬化が存在したという本研究の結果から、ヒトには加齢に伴い動脈硬化を起こしやすい基本的な素因がある可能性が示唆された。

【論文内容】
動脈硬化は人類の歴史のいつから始まったのだろう。そもそも動脈硬化はライフスタイルの疾患なのか、加齢疾患か、それとも他の原因によるものか。西暦1800年から2000年の間に先進国の平均余命が倍増し、先進国の主な死因は感染症から動脈硬化性疾患に置き換わった。そのため、動脈硬化はライフスタイルに関連する現代病という考えが広がり、産業化以前、農業化以前のライフスタイルでは動脈硬化は起こらないとさえ考えられるようになった。しかし、紀元前3000年頃(今から5300年前頃とされる)に生きていたヒトの自然にできたミイラ、通称アイスマン(1991年にイタリアの氷河から発見されたのでこの名がある)のCTスキャンでは、動脈硬化と考えられる血管の石灰化が認められている。また、紀元前1000年頃のエジプト人のミイラでも動脈硬化を示す証拠が認められている。以前このグループも、紀元前1981年から紀元後364年の間に存在したエジプト王朝時代の44体のミイラのうち20体に動脈硬化を示す所見が見られたことを報告している。しかし、このような動脈硬化は古代エジプトの文化やライフスタイルに特有の現象かもしれないし、ミイラ化された人体はエジプト人の中でも社会的地位が高い人たちだからかもしれない。そこで、このHORUS研究(「ホルス」は古代エジプト神話において最も偉大な神の名)では、新たに古代エジプトを含む4つの地理的、時間的に異なる文化のミイラをCTスキャンすることによってこの疑問に答えようとした。

方法:
地理的に全く異なる4つの地域から得られた137体のミイラの全身CTスキャンを行った。ミイラの地域と時代の内訳は、①古代エジプト(先王朝時代(紀元前3100年)からローマ時代の終わりまで(紀元後364年)まで)の76体、②古代ペルー(early intermediate期からlate horizon期の紀元後200-1500年)の51体、③南西アメリカのプエブロインディアンの祖先(古期からバスケットメーカーII期文化の紀元前1500年から紀元後1500年)の5体、および④アラスカのアリューシャン列島に住んでいた先住民族(Unangan)(紀元後1756-1930年)の5体である。

動脈壁の明らかな石灰化があれば動脈硬化と判断した。動脈と思われる部位の石灰化は動脈硬化疑い例とした。血管病変部位は5つの血管床に分けられる。すなわち、①頚動脈、②冠動脈、③大動脈、④腸骨または大腿動脈、⑤膝窩または頚骨動脈の5つである。個々のミイラのライフスタイルや食事についての情報は得られなかったが、できる限り動脈硬化の危険因子となるものについて再構成すべく人類学・考古学の情報を用いた。

結果:
動脈硬化の疑い例および確定例は137体のミイラのうち47例(34%)であった。動脈硬化のあった例はなかった例に比べて、死亡時の年齢が高かった(43歳[SD 10] vs 32歳[SD 15], p<0.0001)。5つの血管床のうち、1か2の血管床に動脈硬化があったのは34例(25%)、3か4の血管床に動脈硬化があったのは11例(8%)、5つ全部の血管床に動脈硬化があったのは2例(1%)であった。多重ロジスティック回帰モデルによると、年齢は動脈硬化の重症度(動脈硬化のあった血管床の数)のオッズの増加と関連があった。年齢が10歳上がるごとに動脈硬化重症度のオッズは69%ずつ増加した。ミイラの地域差で補正しても、年齢は動脈硬化重症度と有意に関連した。冠動脈の動脈硬化の例では、Unanganの47-51歳女性(紀元後19世紀)や、エジプト第18王朝の王女アーモセ・メリタムン(40-45歳、紀元前1580-1550)で冠動脈硬化が見られた。さらに、Unangan女性(25-29歳)やエジプトの男性書記官(40-50歳、紀元前1570-1293年の新王朝時代)に頚動脈の動脈硬化があり(下図)、4つの地域のそれぞれのミイラで大動脈分岐部や総腸骨動脈に動脈硬化が認められた。
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(図) 頚動脈病変のCT 3D再構成像
(A) アリューシャン列島のUnagan女性(紀元後19世紀)の頚動脈石灰化、(B)エジプトの男性書記官(紀元前1570-1293の新王朝時代、ルクソール近郊で発見)の両側頚動脈、鎖骨下動脈、腕頭動脈の石灰化。

考察:
本研究で調査した4つの地域の食事やライフスタイルは以下の通りである。古代エジプト人やペルー人は家畜を飼っていた農民であり、プエブロインディアンの祖先は飼料を採取する農民、Unangansは農業を行わない狩猟採集民族である。いずれの文化も菜食主義ではなく、すべての文化で魚や狩猟の肉を食べていたが、蛋白源はエジプトのように家畜の牛であったり、Unangansのように海産物であったりと文化によって異なっていた。ミイラとされたエジプト人は一般的に社会的地位が高く、家畜の肉を多く食べ、飽和脂肪酸の摂取が多かったと考えられている。リマの近くに住んでいた古代ペルー人は、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、バナナなどの食糧が豊富だったと考えられる。彼らは家畜化したモルモット、アヒル、アンデスジカ、鳥、カエルなども食べていた。プエブロインディアンの祖先は狩猟採集民族から飼料採取する農民に移行しつつあり、トウモロコシやカボチャを育てていた。蛋白源はウサギ、ネズミ、シカ、オオツノヒツジの肉であった。Unanganはアリューシャン列島でカヤック(カヌー型小船)を用いていた狩猟採集民族であり、海産物としてアザラシ、アシカ、ラッコ、クジラ、魚、ウニ、貝、鳥やその卵などを食べていた。すべての文化で火を用いて調理していたため、火の使用による煙の吸引が動脈硬化に影響を及ぼした可能性がある。また、これら4つの文化のいずれも感染症が主な死因であった。そのため、慢性感染に伴う炎症があり、これが動脈硬化の発症につながった可能性もある(現代でも関節リウマチやSLEに伴う慢性炎症があると動脈硬化をきたしやすい)。

本研究の限界は、動脈硬化のマーカーとして石灰化を用いており、病理学的な確認ができなかったことである。また、Unanganとプエブロインディアンの祖先については少人数の解析しか行えていない。さらに、137体という小さいサンプルサイズのため、性別や異なる文化間で動脈硬化の発症率や重症度の差を検出するための統計学的パワーが得られなかった。

【結論】
4つの産業化以前の集団(農業化以前の狩猟採集民族も含み、人類の文化と歴史の広範囲にわたる4集団)において、動脈硬化が一般的に認められた。そのため、動脈硬化は現代のライフスタイルによって起きる現代病とは考えにくく、特定の食事やライフスタイルに関連なく加齢によって起こるヒト生来の疾患であることが示唆された。
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by md345797 | 2013-03-12 01:36 | 心血管疾患

インスリン抵抗性、高血糖と動脈硬化

Insulin resistance, hyperglycemia, and atherosclerosis.

Bornfeldt KE, Tabas I.

Cell Metab. 2011 Nov 2;14(5):575-85.

【総説内容】
インスリン抵抗性と動脈硬化

インスリン抵抗性は、高血糖を伴わなくても動脈硬化のリスクとなることが広く知られている。インスリン抵抗性の状態では、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、マクロファージの3種類の細胞でインスリンリンシグナル伝達が著しく低下している。
①内皮細胞
内皮細胞でインスリン受容体(IR)を欠損したマウスをApoe-/-マウスと交配すると(EIRAKOマウス)、コントロールに比べ血糖、インスリン、脂質、血圧に差がないにもかかわらず、動脈硬化が促進される。コントロールの内皮細胞ではインスリンはeNOSのSer1177をリン酸化(eNOS活性化)し、VCAM-1(動脈硬化を起こす鍵となる内皮・白血球接着分子)の発現を抑制し、抗動脈硬化的に作用する。これらがEIRAKOマウスでは減少し、NOによる血管拡張が阻害され、VCAM-1依存性の白血球接着が増加する。すなわち、血管内皮細胞における正常のインスリンシグナル伝達は動脈硬化保護的に作用し、インスリン抵抗性の状態は動脈硬化を促進する。また、Akt1-/-Apoe-/-マウスはApoe-/-に比べ、eNOS Ser-1176のリン酸化が低下して動脈硬化が促進される。したがって、内皮細胞のAkt1リン酸化の低下(インスリン抵抗性)は、動脈硬化促進的に作用すると考えられる。
②血管平滑筋細胞
血管平滑筋細胞では、IRとIGF-1受容体(IGF1R)のヘテロダイマーが発現しており、インスリンの作用は主にIGF1Rを介していると考えられている。IR欠損の血管平滑筋細胞にインスリンを加えるとIGF1Rシグナルを介してERK-1/2の活性化が起こり、細胞増殖を起こす(動脈硬化促進的)。逆に血管内皮細胞のIGF1RをsiRNAを用いてサイレンシングすると、IRを介してAkt活性化が促進される(動脈硬化抑制的)。これらの結果から、IGF1RのIRに対するバランスの異常が動脈硬化を促進すると考えられる。ただし、これを疑問視するデータもあり、インスリン抵抗性の状態においてin vivoでの血管平滑筋細胞のアテローム形成・プラーク進行における役割はさらに検討する必要がある。
③マクロファージ
マクロファージでのIRシグナル伝達が欠損すると動脈硬化促進につながることは、myeloid cell特異的にIRを欠損させたマウスで明らかになっている。しかしこのマウスをApoe-/-マウスと交配し、Western食(高コレステロール、高コール酸)を負荷した場合、myeloid cell特異的IR欠損で動脈硬化病変が50%程度減少した。また、コントロールのApoe-/-骨髄またはApoe-/-Irs2-/-の骨髄を移植すると、Apoe-/-Irs2-/-の骨髄を移植した場合に20-30%動脈硬化病変が減少した。したがってWestern食の条件下では、マクロファージのIRシグナル伝達は動脈硬化を促進するようである。

高血糖と動脈硬化

高血糖と冠動脈疾患の関連については、DCCT-EDIC研究において1型糖尿病患者の強化血糖降下群で冠動脈疾患、脳卒中、心血管死を57%減少できるという結果などが知られている。しかし一方で、ACCORD研究では心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病で強化血糖降下療法が5年生存率を低下させるという結果もある。動物実験では、Ldlr-/-やApoe-/-マウスにSTZを投与したマウスや、Ldlr-/-マウスのインスリンリンプロモーター下にLCMVを発現した(β細胞破壊)トランスジェニックマウスなどが知られているが、いずれも高血糖に伴い大動脈壁で動脈硬化の促進が見られ、インスリン治療で予防可能である。
①内皮細胞
高血糖が直接、内皮細胞に及ぼす影響についてのin vitroの研究は多いが、 in vivo研究は少ない。げっ歯類へのグルコースの急性投与(12時間以内)で血管内皮細胞への白血球の接着が増加することが生体顕微鏡で確認されており、この状態ではP-selectin、VCAM-1、ICAM-1の発現が増加していることが示されている。また、高血糖状態では、細胞内グルコースはaldose reductase(AR)によってソルビトールに変換される(AR /polyol経路)。STZ投与Ldlr-/-マウスにARを過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製すると、高血糖の動脈硬化への影響が増強された。今後、AR inhibitor投与でヒトの心血管疾患の進展が抑制されるかの検討が必要である。また、高血糖で内皮細胞でのPKC活性が起こるが、Apoe-/-マウスでPKCβを欠損させると動脈硬化が抑制されることが示されており、PKCβ阻害剤(ruboxistaurin)を用いた臨床試験も有望な結果を得ている。さらに、高血糖ではAGEsの産生が内皮細胞のRAGEを介してVCAM-1発現を促進し、動脈硬化につながることが示されている。
②血管平滑筋細胞
血管平滑筋細胞では、主にGLUT1を介してグルコース取り込みが行われている。血管平滑筋細胞にGLUT1を過剰発現させたマウスでは、これらの細胞への糖取り込みが増加し、血管内皮細胞の増殖が促進される。このマウスでは、血管障害後のMCP-1が増加、グルタチオンが低下する。
③マクロファージ
マクロファージを高濃度グルコースで培養すると、LPSなどの刺激による炎症が増強される。また、Western食を負荷したLdlr-/-マウスにSTZを投与し、さらにコレステロール低下を行った。その結果、高血糖があると、コレステロール低下に伴う動脈硬化の退縮が妨げられることが明らかになった。

治療への応用
LXR agonistsは、マウスにおいてプラーク形成・進展を抑制することが知られている。LXR agonistsはABCG1およびABCA1トランスポーター発現を増加させ、それぞれHDLおよびApoA-Iによるマクロファージからのコレステロール引き抜きを促進する。また、pioglitazoneはPPARγ活性化剤のみならずLXR inducerでもあり、2型糖尿病の動脈硬化抑制に働く。また、サイトカイン阻害療法として、IL-1β中和抗体が心血管疾患を減少させるかどうかの臨床試験が進行中である。インスリン抵抗性や高血糖が動脈硬化を進展させる際、内皮細胞とマクロファージにおける異常なERストレスが活性化されることも重要である。PBA(4-phenyl butyric acid)をWestern食のApoe-/-マウスに投与すると、血管のERストレスが軽減され、動脈硬化が抑制される。さらに、酸化ストレスもインスリン抵抗性、高血糖に伴う動脈硬化進展の原因になる。 NADPH oxidaseやglutathione peroxidase-1をターゲットとした治療が今後動脈硬化の治療に役立つと考えられる。
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by md345797 | 2011-12-15 23:27 | 心血管疾患

新しい非侵襲的集学的イメージング法を用いたdalcetrapibの動脈硬化性疾患に対する安全性と効果

Safety and efficacy of dalcetrapib on atherosclerotic disease using novel non-invasive multimodality imaging (dal-PLAQUE): a randomised clinical trial.

Fayad ZA, Mani V, Woodward M, Kallend D, Abt M, Burgess T, Fuster V, Ballantyne CM, Stein EA, Tardif JC, Rudd JH, Farkouh ME, Tawakol A; for the dal-PLAQUE Investigators.

Lancet. 2011 Oct 29, 378, 1547-1559.

【まとめ】
CETPを調節してHDL-Cを上昇させる薬剤であるdalcetrapibを用いて、非侵襲的集学的イメージングに関する初めての多施設研究を行った。今回のPhase 2b試験では、冠動脈心疾患の、またはそのハイリスクのある合計130名の患者をdalcetrapib群とプラセボ群にランダムに割り付けた。エンドポイントは、24か月後のMRIによる指標(総血管面積、血管壁厚)、6か月後のPET/CTによる評価(左右頸動脈および下降胸部大動脈の炎症)を用いた。MRIによる総血管面積および、PET/CTによる頸動脈の炎症は、はdalcetrapib群で低下していた。Dalcetrapib群では血圧の上昇はなく、他の有害事象もプラセボ群と同様であった。Dalcetrapibは24か月の検討で、動脈壁に病的な影響をもたらさず、総血管拡張の低下など血管に有効な効果をもたらした。今後、dalcetrapibの長期的な安全性と効果が評価されるべきである。

【論文内容】
CETPに対する薬剤はHDL-Cを上昇させるのに有効であるが、以前検討されたCETP阻害薬であるtorcetrapibは血圧増加・血管炎症の亢進によって死亡率の増加が見られた。Dalcetrapib はCETP活性を調節する新たな薬剤でHDL-Cを増加させる。しかし、現在までヒトでの動脈硬化に直接影響するかは不明であった。

MRIおよびPET/CTは血管の形態および炎症を評価するのに有用な技術である。本研究(dal-PLAQUE)において、MRIにより動脈硬化進展や退消といった形態を評価し、PET/CTによって18F-FDGの取り込みによって血管の炎症を評価することが今回の研究の目的である。

130名の24か月追跡したところ、dalcetrapib群でHDL-Cが31%増加、apoA1が10%増加した。また、高感度CRPが33%増加していた。MRIにてdalcetrapib群で総血管面積が少なく、PET/CTにて6か月目の頸動脈の炎症も少なかった。血管拡張(動脈硬化によるりモデリングを表す)はプラセボ群の方が多かった。

非侵襲的集学的イメージングによってdalcetrapib群とプラセボ群を比較したところ、前者で病理学的所見は認めなかった。現在dalcetrapibに関する2つの臨床試験が進行中である。一つはdal-PLAQUE2で動脈硬化を冠動脈IVUSで調べるもの、もう一つはdal-OUTCOMESで心血管疾患の死亡率をによって長期の安全性と効果を検討するものである。
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by md345797 | 2011-10-29 22:10 | 心血管疾患

アテローム性動脈硬化症の基礎から臨床へ

Progress and challenges in translating the biology of atherosclerosis.

Libby P, Ridker PM, Hansson GK.

Nature. 2011 May 19;473(7347):317-25.

【総説内容】
アテローム発生の現在の考え方

脂質異常症、高血圧、炎症性メディエータ―の増加などの刺激によって血管内皮細胞で接着分子が発現し、血流中の白血球が内皮細胞に結合することがアテローム発生の始まりである。同時に内皮透過性亢進により、LDLが内膜に取り込まれ、酸化LDLとなる。これを、単球由来のマクロファージが取り込み、泡沫細胞(foam cells)を形成する。そこに中膜からの平滑筋細胞(SMC)の遊走が起こり、脂質の豊富なプラークの壊死性コアが形成される。プラークはそれだけで血流を阻害する血管狭窄を起こすが、プラークが破綻すると血小板凝集が起こって血栓ができる。

脂質とアテローム性動脈硬化
LDLのサクセスストーリーには最終章がまだない:

脂質はプラーク形成に重要な役割を果たすが、特にLDLはヒトの心血管リスクや動脈硬化の形成に相関している。スタチンによる治療は大変な成功を収めたが、それでも残存するリスクにより心血管疾患の再発が起きている。そのため、新しい治療ターゲットに対するLDL降下療法が開発されつつある(NPC1L1阻害剤のezetimibe、PCSK9(LDL受容体分解に働く)の阻害剤など)

HDL、じれったい次の開拓分野:
HDL値は心血管リスクと逆相関することが知られており、HDLを増加させる治療が開発中であるが、いまだ確立されたものはない。HDL中のコレステロールはCETPによりApoB含有リポ蛋白に転送される。最近、CETP阻害薬であるanacetrapibが第Ⅲ相臨床試験で心血管イベントを減少させることが示されている。HDLの主要な蛋白であるApoA-Ⅰをターゲットにした治療や、ニコチン酸などがさらなる候補として考えられているが、現在十分な効果のあるものがない。

中性脂肪をめぐる臨床試験:
中性脂肪低下による心血管イベント改善効果は明らかではない。フィブラートは中性脂肪を低下させるが、心血管イベントや死亡率を下げることはない。Omega-3脂肪酸も中性脂肪を低下させるが、他にも炎症抑制、血小板凝集抑制の効果があり、今後心血管イベントにある程度効果があることが示されるかもしれない。近年、中性脂肪値よりもApo-CⅢを含有する中性脂肪の豊富なリポ蛋白が、炎症性メディエーターとして重要と考える報告もある。

酸化LDLが「ヒトの動脈硬化」を進行させるかは証明されていない:
実験的に酸化LDL(oxLDL)は動脈硬化を進展させることが報告されているが、これがヒトの動脈硬化に関与しているという直接的なエビデンスは少ない。アンチオキシダント(vitamin E/C、succinobucol)が心血管イベントを低下させることも示されていない。

マウスからヒトへ
アテローム中にT細胞が存在することが分かって以来、免疫系と炎症がアテローム形成に重要な働きを担っていることが明らかになっている。しかし、炎症と動脈硬化病変の形成の間にはどちらが原因かという問題(chicken-and-egg problem)が依然として存在する。また、抗炎症剤(炎症を抑制するmethotrexate、IL-1β阻害抗体canakinubab)を用いた臨床試験が進められている。

動脈硬化の理解に動物実験は不可欠であるが、ヒトに応用できるかどうかの限界も忘れてはならない。例えば、マウスでは血栓を伴うプラークの破綻はまず起こらない。マウスの実験では大動脈か近位の大血管の動脈硬化を見ているのに対し、ヒトの場合は構造(内膜SMCの存在)や血行動態(血流があるのが収縮期か拡張期か)の違う冠動脈や頚動脈、脳動脈における動脈硬化が重要である。実験的な動脈硬化は、ヒトの状態の完全なモデルとなっているわけではない。
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by md345797 | 2011-05-29 17:33 | 心血管疾患

腸内細菌叢によるホスファチジルコリン代謝は心血管疾患を促進する

Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease.

Wang Z, Klipfell E, Bennett BJ, Koeth R, Levison BS, Dugar B, Feldstein AE, Britt EB, Fu X, Chung YM, Wu Y, Schauer P, Smith JD, Allayee H, Tang WH, DiDonato JA, Lusis AJ, Hazen SL.

Nature. 2011 Apr 7;472(7341):57-63.

【まとめ】
本研究ではメタボロミクスの手法を用いて、食餌中に含まれるホスファチジルコリン(別名レシチン)の3つの代謝産物であるコリン、TMAO (トリメチルアミン N-オキシド)、ベタインが心血管疾患リスクを予測できることを臨床コホートで示した。そこで、マウスの食餌中にコリン、TMAO、またはベタインを追加すると、動脈硬化と関連するマクロファージスカベンジャー受容体の発現が増加し、コリンまたはTMAOで動脈硬化が促進された。無菌マウスを用いた研究によって、食餌中のコリンが、腸内細菌叢のTMAO産生とマクロファージのコレステロール蓄積促進と泡沫細胞形成に重要な役割を果たすことが明らかになった。さらに、動脈硬化を発症しやすいマウスの腸内細菌叢を抗生剤で抑制すると、食餌中のコリンによる動脈硬化促進が抑制された。高脂血症マウスの動脈硬化によって、TMAOの産生酵素であるフラビンモノオキゲナーゼ(FMO)3の発現を調節する変異が分離された。腸内細菌叢依存性の食餌中ホスファチジルコリンの代謝と心血管疾患の関連が発見されたことは、動脈硬化性心疾患の新たな診断と治療が開発につながりうる。

【論文内容】
腸内細菌叢は、食物という外的環境に対するフィルターの役割を果たしており、肥満やインスリン抵抗性、NAFLDなどの疾患との関連が知られている。この研究ではメタボロミクスの手法を用いて、「検討コホート」(3年以内に心筋梗塞、新血管イベント、死亡をきたした50例とその対照群50例)の血漿を採取し、LC/MSおよびメタボロミクスの手法を用いて心血管疾患に特異的な分析物質の同定を試みた。さらに、独立した「確認コホート」で同様の検討を行い、両者の結果から代謝産物を絞り込んだ。その結果、心血管疾患リスクに関連する分子として、TMAO、コリン、ベタインが同定された。さらに、血漿中のコリン、TMAO、ベタイン濃度がアテローム性動脈硬化のリスクになることが示された。

マウスに重水素ラベルしたコリン(d9-PC)を食餌と一緒に与えると、d9-TMAOが血漿中に出現する。この実験で、抗生剤で腸内細菌叢を抑制しておくと、TMAOが産生されなくなる。食餌中のコリンからTMAOを生成するのに腸内細菌叢が必要であることが分かる。

動脈硬化を起こしやすいマウス(C57BL/6J Apoe-/-マウス)に高コリン食を与えたところ、正常食に比べ大動脈の動脈硬化病変が大きかった。また、血漿TMAOの濃度と動脈硬化病変の面積には正の相関が見られた。

肝のFMO (Flavine monooxygenase)3は、(コリン代謝産物である)TMAからTMAOを作る酵素である。この酵素異常はTMA尿症(fish malodour syndrome)をきたす。前述の動脈硬化を起こしやすいマウスと起こしにくいいマウス(C3H/HeJ Apoe-/-)の肝に発現遺伝子を比較したところ、Fmo3の発現は、動脈硬化病変面積と正の相関を、HDL-Cと負の相関を、血漿TMAO濃度とは正の相関を示した。

動脈硬化を起こしやすいマウスに、コリン、TMAOまたはベタインを食餌中に入れて投与したところ、腹腔マクロファージにおいてスカベンジャー受容体CD36とSR-A1の発現が増加した。食餌中にコリンを多く追加した場合、腹腔マクロファージがコレステロールを多く含む泡沫細胞化した。一方、このコリン負荷の影響は抗生剤投与で腸内細菌叢を抑制すると、認められなくなった。さらに、高コリン食によって大動脈プラーク面積が大きくなったが、この増加は抗生剤投与で腸内細菌叢を抑制すると認められなかった。

【まとめ】
以上の結果から、食餌中の脂質 (コリン)→腸内細菌叢 (TMAの生成)、→肝(FMO3によるTMAOの生成)→動脈硬化発症をつなぐ新たなpathwayを同定した。

コリン自体は必須の栄養素であり、その欠乏は動脈硬化や脂肪肝につながると考えられてきた(そのためレシチンとしてサプリメントとしても服用されてきた)。しかし、その効果は腸内細菌叢の構成が個人間の差によって影響されると考えられる。

本研究は「腸内細菌叢と心血管疾患リスク」を結び付けた初めての成果である。新しい動脈硬化の治療として、コリンの摂取を減らしたり、腸内細菌叢の中でTMAを産生する菌が同定できればその菌を減らしたり、probiotics (治療に有用な生きた細菌)を用いてTMA産生を抑制したり、肝でFMO3の活性を調節したりすることが考えられる。
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by md345797 | 2011-04-12 04:20 | 心血管疾患