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カテゴリ:再生治療( 8 )

iPS細胞由来のβ細胞を用いた、グルコキナーゼ欠損による糖尿病のモデル作製

iPSC-derived β cells model diabetes due to glucokinase deficiency.

Hua H, Shang L, Martinez H, Freeby M, Gallagher MP, Ludwig T, Deng L, Greenberg E, LeDuc C, Chung WK, Goland R, Dieter Egli D.

J Clin Invest. Published online, June 17, 2013.

【まとめ】
MODY2は、グルコキナーゼ(GCK)遺伝子のヘテロloss-of-functionによってβ細胞機能障害が起きている糖尿病である。本研究ではMODY2の患者由来のiPSCsを作製した。このiPSCsはコントロール細胞と同様の効率でβ細胞に分化し、成熟β細胞のマーカーを発現、マウスに移植も可能であった。iPSCsを分化させて得たGCK変異β細胞は、アルギニンなどの(グルコース以外の)インスリン分泌促進物質刺激によって、正常にインスリンを分泌した。しかし、このGCK変異β細胞では、グルコース応答性のインスリン分泌は低下していた。このグルコース応答性インスリン分泌の低下は、相同組み換えによる遺伝子の補正(正しいGCK遺伝子配列の導入)によって完全に回復した。以上の結果より、MODY2患者iPSC由来のβ細胞は、MODY2患者のβ細胞に内在する形質を反映していることが示された。このような方法を用いることにより、β細胞機能異常をきたす疾患のメカニズム解析が今後可能となるだろう。

【論文内容】
近年、疾患特異的なiPSCsの作製が可能となっており、いくつかのタイプの糖尿病患者からもiPSCsが作製されている(1型糖尿病高齢者2型糖尿病MODY)。しかし、患者iPSC由来のβ細胞がその患者の実際のβ細胞機能異常を再現しているのか、患者β細胞機能を正常に回復させるための試験に用いることができるのかは明らかになっていない。これらのことを証明するため(As proof-of-principle)、MODY2という単遺伝子異常の糖尿病モデルを用いたiPSCsの作製を行った。このMODY2は、全MODYの8-60%を占めると言われ、グルコキナーゼ(GCK)遺伝子異常によるものである。グルコキナーゼは解糖系の第一歩であるグルコースをグルコース-6-リン酸に変換する酵素であるため、β細胞においてグルコース応答性インスリン分泌の閾値を決定する役割を果たしている。GCKの一方のアリルの機能低下は、グルコース応答性のインスリン分泌の低下、ひいては糖尿病をもたらす。

一アリルにGCK欠損を含むiPSCsの作製
本研究ではまず、MODY2患者(GCK遺伝子のミスセンス変異(G299R)を持つ、38歳ヨーロッパ白人女性)の皮膚生検により細胞を得た。MODY2患者由来のiPSCsは、患者GCK G299R/+細胞のGCK遺伝子G299R変異の上流をZFN(zinc finger nuclease)を用いて切断し、ターゲティングプラスミドと相同組み換えすることによって得た。なお、GCK遺伝子が回復していたGCK corrected/+細胞があり、野生型のコントロール細胞として用いることにした。

GCK欠損iPSCsからの効率的なβ細胞作製
iPSCsは胚体内胚葉(SOX17+)、膵前駆細胞(PDX1+)、内分泌前駆細胞(NGN
3+)を経て、インスリン分泌細胞に分化させることができる。本研究では、膵前駆細胞からβ細胞への分化効率を上げるため、exendin-4とSB431542(TGF-βシグナル阻害剤)を前駆細胞に添加した。このようにして作製したGCK G299R/+細胞は、β細胞転写因子であるPDX1とNKX6.1を、コントロールと同様に発現していた。作製したGCK G299R/+細胞を免疫不全マウスの腎被膜下に移植すると、移植3か月後に約半数のマウスで血清にヒトCペプチドが検出された。また、これらの細胞うちインスリン陽性細胞では、成熟β細胞のマーカーであるurocortin-3とzinc transporter 8が陽性であった。

GCK変異は特異的にグルコース応答性インスリン分泌を障害する
上記のMODY2細胞を移植したマウスに腹腔内グルコース負荷試験を行い、血糖と血中のヒトCペプチド濃度の変動を調べた。GCK G299R/+細胞を移植したマウスは血糖上昇に対するヒトCペプチド値増加が低下しており、グルコースに対するインスリン分泌反応は低下していると考えられた。GCK遺伝子が回復しているGCK  corrected/+細胞を移植したマウスでは、この反応低下が回復していた。さらに、in vitroでこれらのβ細胞にグルコース(2.5 mMおよび20 mM)を添加したところ、GCK G299R/+細胞はコントロール細胞に比べグルコース応答性インスリン分泌が低下(または消失)し、GCK corrected/+細胞ではそれが回復していた。GCK G299R/+細胞では他のインスリン分泌刺激因子(アルギニン、カリウム、Bay K8644)によるインスリン分泌反応は障害されていなかったので、GCK変異によるインスリン分泌低下はグルコース応答性に特異的と考えられた。なお、GCK変異はβ細胞機能(インスリン産生、インスリン前駆体のプロセッシング、インスリン分泌の阻害、β細胞増殖)にも影響しているかを調べたところ、 GCK G299R/+細胞は、インスリン量、インスリン顆粒の数、PDX1+前駆細胞からのβ細胞の生成などのいずれもコントロールとの差は見られなかった。

【結論】
単遺伝子変異による糖尿病患者(GCK変異によるMODY2)の細胞からiPSCsを作製し、β細胞に分化させることによって、患者β細胞に内在する欠損の性質を再現することができた。すなわち、このMODY2 β細胞はグルコース応答性のインスリン分泌を示し、これはGCK遺伝子の補正によって回復することが示された。

この方法を用いると、事実上すべてのタイプの糖尿病のモデルβ細胞を作製することが可能である。例えばWFS1KCNJ1の変異による2型糖尿病のリスク増加も、GCKと同様のβ細胞作製によってそのメカズムが検討でき、さらには正常血糖を保つための細胞治療に用いることができるかもしれない。
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by md345797 | 2013-06-20 07:07 | 再生治療

膵β細胞増殖を調節するホルモン・ベータトロフィン

Betatrophin: A Hormone that Controls Pancreatic β Cell Proliferation.

Yi P, Park JS, Melton DA.

Cell. 2013 May 9;153(4):747-58

【まとめ】
膵β細胞は主に自己複製によって生成される。β細胞の複製を刺激して、減少したβ細胞量を再度増加させることは1型、2型を問わず糖尿病の治療戦略としてきわめて重要である。本研究ではまず、マウスにインスリン受容体アンタゴニスト(S961)を投与してインスリン抵抗性を起こした際の代償的なβ細胞の増加が、他の方法による増加に比べ劇的に大きいものであることを見出した。そこでこのマウスモデルを用いて、肝と脂肪組織で発現が増加する遺伝子のマイクロアレイ解析を行い、主に肝からの分泌蛋白であるベータトロフィンを同定した。ベータトロフィンは急速かつ強力に、β細胞を特異的に増殖させるホルモンであり、肝でのベータトロフィン過剰発現によりマウスの血糖と耐糖能が改善されることが示された。将来的には、糖尿病患者にベータトロフィンを投与してβ細胞数を増加させることにより、インスリン注射の増強または代替治療が可能になると思われる。
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【論文内容】
新しいβ細胞の大部分は自己複製によって生成される(Dor et al., 2004; Meier et al., 2008; Teta et al., 2007)。マウスやヒトのβ細胞は、胎生期と新生児期に急速に増加するが、その後は極めて遅い速度 で複製する(1日に0.5%未満が分割するのみ) 。ただし、妊娠中や高血糖時、膵が傷害を受けた際、末梢のインスリン抵抗性がある場合などはβ細胞の複製速度は上昇する能力を持っている。このβ細胞増殖の遺伝的メカニズムはよく分かっておらず、細胞周期調節因子(cyclin D1/D2 やCDK4)、細胞周期関連転写因子(E2F1/2)が重要な働きを担い、細胞周期抑制因子(p15Ink4b、p18Ink4c、p27Kip1)はβ細胞複製を抑制し、その他の蛋白(NFAT、Menin、p53、Rb、Irs2)がβ細胞複製に関与しているなどのことが分かっているのみである。これらのβ細胞に内在する因子のほかに、全身性の因子の存在が報告されている。まずはグルコースそのものがβ細胞複製を刺激する因子である。グルコキナーゼ欠損でβ細胞増殖が低下するが、グルコキナーゼ活性化薬はβ細胞複製を2倍程度に増加させる(Porat et al., 2011)。インスリンを初めとするホルモン(ほかには胎盤性ラクトゲン、プロラクチン)やGLP-1、GIPなどのインクレチンはβ細胞複製を促進する。しかし、現在までにβ細胞のみを強力に増殖させる因子は知られていない。肝特異的インスリン受容体欠損(LIRKO)マウスでは代償的にβ細胞複製が増加し(Michael et al., 2000)、肝にconstitutively active MEK1を発現させた場合は神経依存的なメカニズムを介してβ細胞複製が増加する(Imai et al., 2008)。最近では、肝から分泌され膵島に直接作用する因子の存在も報告されている(El Ouaamari et al., 2013)。

本研究では、β細胞複製を調節する分泌シグナルの同定を試みた。まず、マウスにインスリン受容体アンタゴニストを投与し、インスリン抵抗性の代償的にβ細胞複製を起こす新しいインスリン抵抗性モデルマウスを作製した。このマウスモデルを用いて、インスリン抵抗性の状態において肝と脂肪組織で発現が増加する遺伝子を同定した。この遺伝子がコードする分泌蛋白は、β細胞を特異的にかつ著明に増殖させて耐糖能を改善する作用を持っていたため、ベータトロフィン(betatrophin)と命名した。

インスリン受容体アンタゴニストS961投与により、インスリン抵抗性・β細胞増殖マウスモデルを作製
43アミノ酸からなるペプチドS961(Schäffer et al., 2008)は、インスリン受容体に結合しそのシグナル伝達を阻害するインスリン受容体アンタゴニストである。浸透圧ポンプを用いてマウスにS961を投与したところ、S961の用量依存的に高血糖と耐糖能異常を起こすことができた。また、これらのマウスではβ細胞の代償的な作用によって血漿インスリン濃度は増加した。

S961投与によりβ細胞複製(Ki67免疫染色による)が著明に増加したが、この反応は直ちに起こり、かつS961の用量依存的で、持続的であった(投与4日目で反応が正常化した)。このβ細胞複製は核のβ細胞マーカー(Nkx6.1)、細胞分裂マーカー(PCNA)の免疫染色、細胞周期調節因子の定量的PCR解析の結果からも確認できた。なお、血糖変化が起こらない程度の低用量S961投与であっても4.3倍程度の、高用量S961投与では12倍ものβ細胞複製が認められた。これは今までの薬物投与で報告されたβ細胞複製率をはるかに超える高率なものである

このβ細胞複製増加はすべての膵島で同様に起きており、その結果β細胞面積は1週間で3倍程度まで増加した。S961投与でこのようなβ細胞量の増加が起きたものの、膵のインスリン含量は減少していた(インスリン抵抗性に伴い多くのインスリンを血中に分泌してしまうためか)。低用量S961の7日間投与ではKi67で測定したβ細胞複製は増加しなかったのに、β細胞量は1.5倍多くなっていた。S961投与によりβ細胞のサイズに変化はなかった。したがって、低用量S961の7日間投与によるβ細胞量の増加は、β細胞の過形成(サイズの増大)が原因ではなく、7日目より前の一時的なβ細胞増殖の結果ではないかと考えられた。S961投与による細胞増殖はβ細胞に特異的であり、膵の他の系列の細胞(内分泌、外分泌を含む)、肝や脂肪の細胞の増殖は認められなかった。

S961投与マウスの肝と白色脂肪組織からのベータトロフィンの同定
In vitroでマウスβ細胞にS961を添加しても、直接の細胞増殖効果は認められなかった。そこで、S961が代謝関連臓器(肝、白色脂肪組織、骨格筋)に作用することにより間接的にβ細胞に作用すると考え、これらの臓器における遺伝子発現をマイクロアレイで検討した。その結果、S961を投与したマウスの肝で4倍、白色脂肪組織で3倍に発現が増加した(骨格筋とβ細胞での発現は変化なかった)1つの遺伝子を同定し、これをベータトロフィンと名付けた(右図)。d0194774_10144113.jpg

この遺伝子は198アミノ酸からなる蛋白をコードしていた。なお、この遺伝子はマウスの遺伝子でGm6484、蛋白でEG624219、ヒトの遺伝子でC19orf80、蛋白でhepatocellular carcinoma-associated protein TD26と注釈(annotation)が付けられていたものである。ベータトロフィン遺伝子は他の遺伝子であるDock6の逆ストランドのイントロン中にある4つのエクソンからなり、哺乳類で高度に保存されている遺伝子であった。

ベータトロフィンは肝と脂肪組織に多く、その発現はβ細胞増殖率に関連する
ベータトロフィンmRNAはマウスの肝と脂肪に発現し、他の臓器の発現は少なかった。ヒトではベータトロフィンは主に肝に発現していた(他の臓器に比べ250倍以上のmRNA発現が見られた)。マウスへのS961注入によるβ細胞複製増加の際には、肝で6倍、白色脂肪組織で4倍のベータトロフィン発現の増加が認められた。インスリン抵抗性モデルであるob/obおよびdb/dbマウスの肝でも3-4倍のベータトロフィンmRNA発現の増加が見られ、妊娠中の肝では20倍の増加が認められた。一方、ジフテリア毒素を用いたβ細胞の特異的な欠損モデルでは肝でのベータトロフィンmRNA増加は認めなかった。以上より、ベータトロフィン発現増加はインスリン抵抗性による生理的な代償性β細胞増殖には関与しているが、膵の急性傷害時の再生反応には関与していないことが示された。

ベータトロフィン遺伝子は分泌蛋白をコードする
マウスとヒトのベータトロフィンの配列解析では、N端の分泌シグナルと2つのcoiled-coilドメインを持つことが分かった。そこで、マウスおよびヒトベータトロフィン遺伝子のC端にMyc-tagを付加したもの(mbetatrophin-Mycおよびhbetatrophin-Myc)を発現ベクターに組み込んで、培養細胞に発現またはhydrodynamic tail vein injection法によりマウスの肝に発現させた。その結果、Myc-taggedベータトロフィン蛋白が培養細胞上清およびマウス血漿中で確認され、ベータトロフィンが分泌蛋白であることが示された。ベータトロフィンはヒト血漿中にも検出され、in vivoでの内因性分泌蛋白であることが分かった。

(hydrodynamic tail vein injection法:
目的遺伝子をsleeping beautyトランスポゾン骨格中でCAGプロモーターまたはEF1aプロモーター下に発現させるプラスミドDNA 100 mgにsleeping beauty transposase発現プラスミド (pCMV-SB100) 4 mgを加え、滅菌生理食塩水で希釈してマウス尾静脈から注入し肝で発現させる方法。)

ベータトロフィンをマウス肝で発現させると、劇的なβ細胞特異的増殖が起き、耐糖能が改善する
マウス肝にhydrodynamic injection法を用いてベータトロフィン(またはコントロールのGFP)遺伝子を含むプラスミドを注入したところ、5-10%の肝細胞に少なくとも8日間にわたってベータトロフィンが発現した。その結果β細胞増殖率は、コントロールの0.27%に対して平均4.6%(17倍)に増加し、多いものでは8.8%(33倍)にも増加した
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(上図)マウス肝にベータトロフィン(上段)を過剰発現させると、GFPを過剰発現させたコントロール(下段)に比べ、β細胞(insulin染色で緑色)のうち複製しているもの(Ki67染色で赤色、重ね合わせ像で黄色)の割合が著明に増加した。
(下図)膵切片の弱拡大像(左右はいずれも代表的な切片)。マウス肝のベータトロフィン過剰発現により、白く囲まれたβ細胞領域のうち、複製しているもの(Ki67染色で白い点として見える)の割合が著明に増加していた。

なお、このβ細胞増殖は核マーカーであるNkx6.1や細胞分裂マーカーPCNAの免疫染色、cyclin、CDKs、E2Fsの定量的PCRでの増加でも確認された。また、このβ細胞の増殖はすべての膵島で観察された。ベータトロフィン過剰発現マウスでは、β細胞数と総β細胞量の増加も認められ、膵島サイズの増大と膵の総インスリン量の増加(2倍程度)が見られた。このベータトロフィン発現による複製刺激はβ細胞に特異的なものであり、膵の他の細胞系列や他の臓器(肝、白色・褐色脂肪組織)にはほとんど認められなかった。

次に、ベータトロフィン遺伝子注入マウスの膵島を単離し、グルコース応答性インスリン分泌(glucose-stimulated-insulin-secretion, GSIS)を調べた。その結果、ベータトロフィン遺伝子注入とコントロールのGFP遺伝子注入マウスで膵島のGSISに差は認められず、ベータトロフィンによって増殖したβ細胞は正常な機能を維持していることが示された。さらに、これらのマウスにグルコース負荷試験を行ったところ、ベータトロフィン遺伝子注入マウスはコントロールマウスに比べ空腹時血糖が低く、耐糖能が改善していた。ベータトロフィン発現により空腹時血漿インスリン値は軽度に増加していたのみだったが、これは絶食時間が比較的短いためか、グルコース感受性亢進のためと考えられた。インスリン負荷試験を行ったところ、ベータトロフィン遺伝子注入マウスとコントロールマウスの間にインスリン感受性の差は認められなかった(S961投与では強いインスリン抵抗性が生じる)。すなわち、ベータトロフィンはインスリン抵抗性の発症を介することなく、β細胞複製を促進していると考えられた。(「ベータトロフィンがまずインスリン抵抗性を発症し、これにより代償的なβ細胞増殖を起こしている」のではないことは、ベータトロフィン過剰発現マウスで空腹時血糖が低値であることからも分かる。)

【結論】
マウスおよびヒトのベータトロフィンであるGm6484/TD26遺伝子については、肝と脂肪に多く発現する遺伝子として最近3つ報告がある(Quagliarini et al., 2012; Ren et al., 2012; Zhang, 2012)。これらはリポ蛋白リパーゼ阻害により血清トリグリセリドの調節について報告しているが、β細胞や糖代謝、糖尿病に対する効果については報告していない。今回、β細胞に対する効果が初めて明らかになった。過去のβ細胞複製率についての報告は、妊娠で4倍(Karnik et al., 2007)、高グルコース注入で2-4.5倍(Alonso et al., 2007)、exendin-4投与で2.6倍(Xu et al., 1999)、β細胞傷害モデルで4倍(Nir et al., 2007)、LIRKOマウスで6倍(Okada et al., 2007)程度である。しかし、今回報告したベータトロフィン遺伝子注入では数日で平均17倍(多いもので33倍)と極めて急速で強力な効果が認められた。今後、遺伝子組み換えベータトロフィン蛋白の作製とその直接注入によるβ細胞複製への効果を検討することが重要であろう。ベータトロフィンの作用機序については不明であり、ベータトロフィンのβ細胞への作用は直接作用か間接作用か、ベータトロフィン受容体や他のcofactorがあるのかなども今後検討が必要である。


◇本研究について著者Douglas A. Meltonの動画

◇ベータトロフィンを用いた治療が実現すれば、内在性のβ細胞の数を増加させることが可能となるため、2型糖尿病の進行を遅らせる極めて有効性の高い治療法となるだろう。さらに、小児1型糖尿病の発症初期や1型糖尿病「ハネムーン期」などβ細胞がまだ残存している場合に投与すれば、1型糖尿病発症を防止できるかもしれない。

◇Harvard Universityは、Evotec社(ドイツ・ハンブルク)およびJanssen Pharmaceuticals社(Johnson & Johnson社の一部門)と研究契約「CureBeta」を結び、ベータトロフィンの治療応用に向けた研究を進めている。著者らは「今後3年から5年以内にベータトロフィンの臨床試験が行えるだろう。頻回インスリン注射の代わりに、週1回、月1回、理想的には年1回の投与頻度で行える糖尿病治療が可能になるだろう」と考えている。

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by md345797 | 2013-04-27 10:17 | 再生治療

エピゲノムの可塑性を利用して、ヒト膵α細胞をβ細胞にリプログラミングする

Epigenomic plasticity enables human pancreatic α to β cell reprogramming.

Bramswig NC, Everett LJ, Schug J, Dorrell C, Liu C, Luo Y, Streeter PR, Naji A, Grompe M, Kaestner KH.

J Clin Invest. 2013 Mar 1;123(3):1275-84

【解説記事】
α細胞から新たなβ細胞を作るゲノムの錬金術

(Creating new β cells: cellular transmutation by genomic alchemy)
Moss LG.
J Clin Invest. 2013 Mar 1;123(3):1007-10.

α細胞からβ細胞を作る試みは今までにも行われており、β細胞を完全に欠損させるとα細胞がβ細胞に分化転換(transdifferentiation)することや、α細胞に(β細胞発生に必要な転写因子である)Pax4を発現させたトランスジェニックマウスではα細胞がβ細胞に分化することが報告されている。近年、膵島でのヒストンメチル化の全体像が明らかになり、膵島細胞の分化に伴うヒストン修飾の変化を検討することが可能となった。

下記の研究では、ヒト膵島からα細胞、β細胞、外分泌細胞をFACSで分離し、Chip-Seq法を用いてヒストンメチル化(H3K4me3とH3K27me3)のプロファイルを調べた。これらのメチル化には、次のような4パターンがある。すなわち、一価の(monovalent)のH3K4トリメチル化=H3K4me3(転写活性化)、一価のH3K27トリメチル化=H3K27me3(転写抑制)、二価の(bivalent)トリメチル化=H3K4me3とH3K27me3、H3K4もH3K27もメチル化なし、の4パターンである。これらにより、α細胞特異的なグルカゴン遺伝子は、α細胞ではH3K4me3(活性化)が起こり、β細胞ではH3K27me3(抑制)が起きている。同じくβ細胞特異的なインスリン遺伝子は、β細胞ではH3K4me3(活性化)が起こり、α細胞ではH3K27me3(抑制)が起きている(参考図参照)。

二価のメチル化は、多能性幹細胞や可塑性の大きい細胞に多くみられることが知られている。下記の研究の結果、α細胞はβ細胞・外分泌細胞に比べると、二価のメチル化が多く見られた(すなわち、α細胞とβ細胞はヒストンメチル化に関して「非対称」と言える)。β細胞分化に必要なPDX1やMAFAは、β細胞ではH3K4me3(活性化)のみが起こり、α細胞ではH3K4me3とH3K27me3の両方が起きていて、活性化の可能性(potential)はあるがそれが休止した状態にある。一方、α細胞分化に必要なIRX2は、β細胞ではH3K27me3(抑制)が起きているが、α細胞ではH3K4me3(活性化)が起きており、β細胞とは非対称である(参考図参照)。

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(参考図) β細胞とα細胞のヒストンメチル化の非対称性
β細胞特異的なインスリン、α細胞特異的なグルカゴンは、H3K4me3(転写活性化)とH3K27me3(転写抑制)によって対称的に調節されている。ところが、β細胞分化に必要なPDX1やMAFAは、β細胞では一価の(monovalent)メチル化であるH3K4me3(活性化)を受けているのに対し、α細胞ではH3K4me3とH3K27me3の二価の(bivalent)メチル化を受けており転写活性化の可能性(potential)はあるが転写休止の状態にある。このような転写休止の状態は、β細胞におけるIRX2(α細胞分化に必要な遺伝子)では見られない。すなわち、α細胞の方がβ細胞より可塑性が大きく、分化転換できる可能性は高いと思われる。

ところで下記の研究の限界としては、
① ヒストンメチル化は遺伝子発現を調節するのに重要だが、それが最終的な決定因子ではないことである。例えば、H3K4me3は必ずしも転写を活性化するとは限らない。これは他の遺伝子発現調節(CpG islandの存在、高位のクロマチン構造、DNAのメチル化など)にもよるためである。一方、H3K27me3は確実に転写抑制的に作用する。二価のメチル化が転写「休止」の状態にあるのはそのためと考えられる。
② 限界の2番目としては、この研究で用いたα細胞、β細胞とは「α細胞、β細胞の豊富な分画」であり、全く純粋な集団ではないことである。これらの分画はそれぞれ、δ細胞(somatostatin発現)およびPPY発現細胞を含む。これらの細胞では二価のメチル化の調節が異なっているかもしれない。

次に、下記の研究ではヒト膵島にAdox(メチルトランスフェラーゼ阻害剤で、H3K27me3を減少させる)を添加した。その結果、α細胞におけるβ細胞分化因子(PDX1、MAFA)の二価のメチル化による「転写休止状態」の抑制解除(derepression)が起こり、α細胞がβ細胞様に変化した。(しかし、その逆にβ細胞がα細胞様に変化することはなかった。)

近年Druckerのグループは、肝特異的にグルカゴン受容体を欠損させるとα細胞過形成が起きたという実験結果から、α細胞を増加させる液性因子の存在を想定している。もし、上記方法が臨床的に実用化されれば、「錬金術師の魔法の杖を一振り」(まず内因性のα細胞を増加させ)、「二振り」(増加させたα細胞をH3K27me4に特異的なヒストンメチル化抑制剤を用いて、β細胞に変化)させることによって糖尿病治療が可能になるかもしれない。

【論文まとめ】
ChIP-seqとRNA-seq解析を用いて、ヒト膵のα細胞、β細胞、外分泌細胞のエピジェネティックのおよび転写の全体像を明らかにした。β細胞に比べて、分化したα細胞では、H3K4me3(転写活性化)とH3K27me3(転写抑制)の二価(bivalent)のヒストンメチル化修飾を受けている遺伝子が多かった。それに対し、β細胞では多くの遺伝子がH3K4me3またはH3K27me3のいずれかによる一価(monovalent)のメチル化を受けていた。このヒストンメチル化のパターン(histone methylation signature)を操作することによって、α細胞からβ細胞へのリプログラミングができる可能性を検討した。

【論文内容】
α細胞からβ細胞へのリプログラミングは、α細胞にPax4やPdx1を強制発現させたり、膵島でβ細胞をほぼ完全に欠損させたりすれば起きることが示されてきたが、そのメカニズムは不明であった。本研究では、それがヒストンメチル化というエピジェネティックな機構が関与している可能性を検討した。転写活性化をもたらすH3K4me3と転写抑制をもたらすH3K27me3の両方がメチル化されている二価の(bivalent)メチル化は、多能性幹細胞や未分化の細胞により多く見られ、その細胞が「activableな」細胞であることを示すと考えられている。

死体臓器ドナー由来のヒト膵島をFACS解析によってα細胞(マーカー遺伝子のqRT-PCRにより94%の純度であることを確認)とβ細胞(92%の純度)と外分泌細胞の細胞分画に分け、それぞれChIP-seq とRNA-seqによってヒストンメチル化状態と遺伝子発現プロファイルを調べた。その結果、β細胞特異的遺伝子であるPDX1はβ細胞ではH3K4me3による一価の修飾、α細胞ではH3K4me3とH3K27me4による二価の修飾を受けていた。

また、ゲノムワイドのtranscriptome(遺伝子発現の全体)を主成分分析でクラスターに分類すると、α細胞・β細胞・外分泌細胞の集団にはっきり分離された。また、heat map analysisによりそれぞれの細胞の発現遺伝子が分離できた。例えば、α細胞特異的遺伝子はARX、GCG(glucagon)、PCSK2、DPP4など、β細胞特異的遺伝子はMAFA、NKX6-1、PDX1、INS(insulin)、PCSK1、HDAC9、HNF1A、KCNQ2およびKCNJ11(potassium channel)、SLC30A8(zinc transporter)などであった。

全体として、α細胞はβ細胞に比べて遺伝子発現に対する二価のメチル化修飾が多かった(2915遺伝子部位に対し、1914部位)。β細胞で二価のメチル化を受けている遺伝子のうち多く(77%)はα細胞でも二価のメチル化を受けている。一方、α細胞で二価のメチル化を受けている遺伝子の半分程度(48%)はβ細胞では一価(H3K4me3またはH3K4me3のいずれか)のメチル化しか受けていなかった。

ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(Adox)は特にH3K27me3のヒストンメチル化を低下させる。Adoxを培養膵島に添加すると、α細胞特異的ARX、β細胞特異的MAFAおよびPDX1のH3K27me3が減少した。その結果、α細胞bにおいてMAFAやPDX1の転写抑制が解除され、グルカゴン陽性細胞(α細胞)の細胞質でグルカゴンとインスリンが共染し、核でPDX1が発現するようになった。すなわちAdox添加により、α細胞からβ細胞への部分的な変換が起きたと考えられた。

【結論】
膵島における、細胞特異的ヒストン修飾パターンを知ることは重要である。これにより細胞特異的なエピゲノムの可塑性が明らかになり、ヒストンメチル化を阻害する薬剤(epigenomic drug)を用いてこの可塑性を利用することにより、β細胞への分化を促進できる可能性がある。
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by md345797 | 2013-03-13 07:46 | 再生治療

インスリン抵抗性下で膵β細胞の肥大を起こす、肝由来の全身性因子の存在

Liver-Derived Systemic Factors Drive β Cell Hyperplasia in Insulin-Resistant States.

El Ouaamari A, Kawamori D, Dirice E, Liew CW, Shadrach JL, Hu J, Katsuta H, Hollister-Lock J, Qian WJ, Wagers AJ, Kulkarni RN.

Cell Rep. 2013 Jan 30. Published online.

【まとめ】
肥満、糖尿病における代謝障害では、全身の臓器間クロストークの統合の異常がみられることがある。インスリン抵抗性の状態では膵β細胞の肥大が起きるが、肝特異的インスリン受容体欠損マウス(LIRKO)マウスでは膵島が肥大することが知られている。これは、肝と膵島の間の何らかのクロストークによるものであろうか。このグループは、in vivoのパラバイオーシスおよび移植実験と、in vitroの膵島培養実験を用いて、LIRKOマウス由来のβ細胞増殖を促す、液性因子(これは非神経性で、非細胞自律性の因子である)の存在を示した。さらに、肝細胞由来因子が、ex vivoにおいても、その環境のグルコース、インスリン値とは無関係に、マウスおよびヒトのβ細胞増殖を促進したことを報告する。以上より、インスリン抵抗性の状態において、肝はβ細胞増殖ための重要な液性因子産生臓器であることが示された。

【論文内容】
インスリン抵抗性に対し、生理的に(妊娠時)または病理的に(肥満時)、膵β細胞の代償性肥大が起きることはよく知られているが、そのメカニズムはよく分かっていない。全身性の膵β細胞肥大促進因子としては、腸管由来のGLP-1、GIP、脂肪細胞由来のleptin、adiponectin、筋肉由来のIL-6、マクロファージ由来のIL-1β、 IFN 、TNF-α、骨由来のosteocalcin、甲状腺ホルモン、platelet-derived growth factor (PDGF)、serotonin、FGF21などが報告されている。しかし、このグループの検討によると、インスリン抵抗性動物であるLIRKOマウスでは膵β細胞の増殖が見られるのにこれらの因子が大きく変化していなかったことから、肝由来の未同定の因子の存在が予想された。

まず、3か月齢のLIRKOマウスにBrdU (100 mg/kg body weight)を注入して、膵β細胞、α細胞、肝・脂肪・骨格筋などの増殖について検討した。LIRKOマウスでは膵β細胞量が2倍程度に増加しており、BrdU取り込み能およびKi67陽性β細胞(増殖しているβ細胞)は2.5倍程度に増加していた。TUNEL染色ではβ細胞のアポトーシスに変化は見られなかった。また、β細胞以外の細胞にも増殖能の差は見られなかった。LIRKOマウスのインスリン抵抗性によって、膵β細胞の増殖が促進されていると考えられた。

非神経性・非細胞自律的液性因子がLIRKOマウスのβ細胞複製を促進している
まず、6週齢マウスのcontrol/control、control/LIRKO、LIRKO/LIRKOマウスでパラバイオーシスを行い16週齢まで観察したところ、control/LIRKO群では空腹時血糖・血中インスリンがcontrol/control群に比べ上昇した。膵β細胞へのBrdU取り込みはcontrol/control群で低く、LIRKO/LIRKO群で高かったが、control/control群に比べ、control/LIRKOのcontrolマウスで有意に高値であった。すなわち何らかの液性因子の存在が予想された。以前、膵β細胞増殖に働く肝由来の神経経路が同定されたが、LIRKOマウスでもその可能性を検討するため下記の移植実験を行った。ControlおよびLIRKOマウスから125の同じ大きさの膵島を単離し、それぞれcontrolとLIRKOマウスの腎被膜下に移植した(一匹のレシピエントマウスの左右の腎に、controlとLIRKOのそれぞれのドナーからの膵島を移植)。16週後、移植した膵島を採取してβ細胞へのBrdU取り込みを調べた。Control→control移植のβ細胞ではBrdU取り込みは少ないが、control→LIRKO移植のβ細胞ではBrdU取り込みが8倍大きかった。逆にLIRKO→control移植ではその増加は見られなかった。LIRKOレシピエント環境下では(由来細胞にかかわらず)β細胞増殖が起こり、controlレシピエント環境下では起こらないことから、ここでもβ細胞増殖に働く非神経性・非細胞自律的な因子の存在が考えられた。

LIRKOマウスの血清はin vivoでβ細胞複製を選択的に促進する
この因子が血行に乗った分子なのか細胞なのかを検討するため、6か月齢のLIRKOマウスまたはcontorlマウスの血清を6週齢マウスの腹腔内に1日2回注入した。LIRKO血清を注入されたconrtolマウスの膵β細胞は2倍程度に増加したが、control血清を注入されても増加しなかった。このin vivoの検討から、血清中に安定に存在する血行性分子がLIRKOマウスの膵β細胞増殖を促進していると考えられた。

LIRKO血清はin vitroでマウスおよびヒト膵β細胞を増殖させる
LIRKOおよびcontrolマウス由来の血清を含むmediumでマウス膵島を培養し、Ki67免疫染色でβ細胞増殖を検討した。3か月齢のLIRKOマウスの血清は、培養膵β細胞の増殖をもたらした。12か月齢LIRKO血清でも増殖をもたらしたが、12か月齢control血清(加齢によるインスリン抵抗性がもともと存在する)でもやや増殖が促進されたため、有意差は見られなかった。なお、TUNEL染色ではβ細胞のアポトーシスに差は認められなかった(下図)。(ここでは未発表だが、LIRKO血清中のβ細胞増殖促進因子は熱で不活化されたため、おそらく蛋白である)。

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LIRKOマウスの血清は、ヒトドナー(9名の健常者と2名の2型糖尿病患者由来)の培養膵島でもβ細胞増殖を促進した。LIRKO血清は糖尿病患者由来のβ細胞も増殖を促進したことが重要である。すなわち、血中のβ細胞増殖促進因子は、ヒトとマウスの種間で保存され、2型糖尿病患者の膵島にも効果がある。(ヒトの膵島ドナーはIntegrated Islet Distribution Programに基づき研究用に採取されたものである。)

(なお、膵β細胞増殖を促進する重要な因子はグルコースとインスリンそれ自体であるが、LIRKOマウスパラバイオーシス実験では血糖上昇が認められていないこと、in vitro実験ではグルコース濃度を一定にしインスリン濃度は血清希釈によりin vivoに比べると有意に低値であることから、グルコースやインスリンがその因子ではないと考えられる。)

肝細胞由来因子がin vitroでマウスとヒトの膵β細胞複製を促進する
最後に、LIRKOおよびcontrolマウス由来肝の組織片培養(liver explant cultures: LECM)の上清のmediumを採取し、マウス膵島に添加した。その結果、LIRKOマウスの肝由来のLECM添加によりKi67陽性β細胞数が増加した。同様に2型糖尿病患者由来の膵島においてもβ細胞増殖を促進した。肝には、肝細胞、Kupffer細胞、血管内皮細胞など多くのタイプの細胞が含まれる。そこで、培養肝細胞primary hepatocytesの上清のmedium (hepatocyte-conditioned medium: HCM)を、単離マウス膵島と2型糖尿病ヒトの膵島に添加したところ、controlマウスに比べLIRKOマウスの肝細胞由来のmediumで膵β細胞の増殖が促進された。

【結論】
インスリン抵抗性の肝細胞にはβ細胞の増殖を促進するような因子(βcell growth-promoting factor(s))が含まれていると考えられる。β細胞を増殖させるシグナル伝達経路は数多く報告されている
が(下図)、インスリン抵抗性に反応して血行性に直接β細胞増殖を刺激する因子はまだわかっていない。本研究のLIRKOマウスを用いた検討から、マウスとヒトで保存された、全身性の肝細胞由来液性因子の存在が示唆された。

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by md345797 | 2013-02-12 03:05 | 再生治療

人工多能性幹細胞 (iPS細胞)の過去・現在・未来

Induced pluripotent stem cells: past, present, and future.

Yamanaka S.

Cell Stem Cell. 2012 Jun 14;10(6):678-84.

【総説内容】
2006年、マウス線維芽細胞に同時に4つの遺伝子を導入することで、ES細胞(ESC)と同じ特性をもつ幹細胞を作製しiPS細胞(iPCs)と名付けた。2007年には、同様のアプローチ法でヒト線維芽細胞からヒトiPSCsを作製、同日、James Thomsonのグループから異なる因子の組み合わせを用いたヒトiPSCの作製が報告された。

iPSCs作製につながる3つの流れの合流

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第1の流れは、核移植によるリプログラミング(細胞の「初期化」)であり、1962年にJohn Gurdonがカエルの未受精卵に成体の腸細胞の核を移植することによって幼生(オタマジャクシ)を作製したことに始まる。30年以上後になって、Ian Wilmutは乳腺上皮細胞を用いた体細胞クローニングによって、初のクローン哺乳類であるDollyを誕生させた。これらにより、分化した細胞が全臓器への発生に必要な遺伝情報を持っていることが示され、卵母細胞は体細胞核をリプログラムしうる因子を含んでいることが明らかになった。そして2001年、多田高(京都大学)のグループが、ESCsが体細胞をリプログラムする因子を含んでいることを示した。

第2の流れは、「マスター」転写因子の発見である。1987年、Drosophilaの転写因子Antennapediaを異所性に発現させると、触角の変わりに脚が形成されることが示された。同年、哺乳類の転写因子MyoDは線維芽細胞を筋肉細胞に変換することが見出された。これらの結果により、細胞系列の運命決定を担う「マスター調節因子」としての転写因子の概念がもたらされた。

第3の流れは、ESCsに関する研究である。1981年に最初のマウスESCsが作製された後、Austin Smithらは多能性(pluripotency)の長期維持を可能にする培養条件を確立した。マウスESCsの維持に必要な因子の一つがleukemia inhibitory factor (LIF)であり、ヒトESCsが作製されると、basic fibroblast growth factor (bFGF)を用いた培養条件が確立した。前の2つの流れによって、このグループは、「卵母細胞またはESCsのいくつかの因子の組み合わせが体細胞をリプログラムして胚の状態(embryonic state)に戻す」という仮説を立て、これらの因子を同定する実験を進めることにした。さらに第3の流れの培養条件を用いて、多能性細胞を培養することを通じて、iPSCs作製に必要な4因子を同定することができた。

iPSC技術の成熟と理解
最初のマウスiPSCsの報告のすぐ後から、他のグループでマウス・ヒトの細胞に因子を導入してリプログラミングする検討が繰り返された。iPSC技術の利点の一つは、その単純さと再現性であり、多くの研究室がそのメカニズムと修正手順の検討を始めた。当初、iPSCs作製の効率は低く、遺伝子導入した線維芽細胞がiPSCsになるのは1%に満たなかった。したがって、iPSCsは、培養中の線維芽細胞に含まれるごくわずかの幹細胞または未分化細胞由来である可能性も否定できなかった。しかし、その後の研究では、最終段階まで分化したリンパ球や有糸分裂後のニューロン由来のiPSCsも作製できることが示された。現在、ほとんどの(全部ではないが)体細胞は、(効率の違いはあるとはいえ)iPSCsになれる可能性を持っていることが分かっている。

ではなぜ、少数の因子が体細胞のリプログラミングを起こすことができるのか?リプログラミング因子は、因子を導入した細胞の1%以上でリプログラムの過程を開始するが、そのリプログラミング過程は多くの細胞で完成されないのではないか?または、よく分かっていない確率論的なイベント(stochastic events)が十分なリプログラミングが起こるのには必要なのかもしれない。

当初、iPSCsはretrovirusまたはlentivirusを用いて、遺伝子変異を挿入することにより作成されており、遺伝子治療における場合と同様の副作用を起こす危険はあった。Retrovirusを用いて作製されたマウス由来のiPSCsはc-Mycトランスジーンが発現しない限り明らかな異常はなかったが、ヒトiPSCsの長期的な安全性はこのマウスの実験だけでは保障されなかった。また、retrovirusはiPSCsに免疫原性をもたらすため、細胞移植治療に用いる場合には、宿主ゲノムに取り込まれるベクターを用いる導入方法は避ける必要があった。そこで、宿主ゲノムに取り込まれない(integration-free)でiPSCsを作製する方法がいくつも報告された。例えばプラスミドベクター、センダイウイルス、アデノウイルス、合成RNAs、蛋白を用いる方法などが報告された。さらに、小分子によるリプログラミングの導入も検討された。これらのうち、プラスミドとセンダイウイルスによるものは多くの研究室で用いられている。京都大学CiRA(Center for iPS Cell Research and Application)では、単純さと再現性の観点から、再生治療ではエピソームプラスミドを、in vitroの実験ではretrovirusかエピソームプラスミドを用いている。

iPSC技術から派生する新たな流れ
Rudolf Jaenischらによる鎌状赤血球貧血マウスでの研究を初めとして、iPSCsを用いた再生医学の進展が進んでいる。例えば、Parkinson病、脊椎損傷、黄斑変性の治療などである。患者由来のiPSCsも疾患モデルや薬剤ライブラリーからのスクリーニングに有用である。

George Daley およびKevin Eggan による研究に始まり、ここ3年の間に疾患特異的iPSCsを用いた研究において100以上の報告がなされている。単一遺伝子疾患のみならず、晩発性の多遺伝子疾患(Parkinson病、Alzheimer病、統合失調症)などに、患者特異的iPSCsが用いられメカニズムの解明と治療の応用につながる研究が進んでいる。iPSCs由来の体細胞(特に心筋細胞と肝細胞)を用いた毒性試験は、現在のアプローチに変わる方法として用いられうる。

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さらなる医学への応用としては、iPSCsの動物のバイオテクノロジーへの応用があげられる。サル、ブタ、イヌの iPSCsによりこれらの動物を作製することができるようになり、これらの動物の疾患モデルの作製やヒトの遺伝的疾患で欠損している酵素などの大きい動物でのモデル作製が可能である。この技術は将来的には、絶滅の危機に瀕している動物の保護にも役立つ可能性もある。iPSCsの重要な応用として報告されているのが、中内啓光(東京大学医科学研究所)による、膵を欠損したマウスに、ラットiPSCsに膵発生に必要な遺伝子を導入して作ったラット膵を作製した研究であろう。将来はヒトの移植でも、同様の戦略を用いて、臓器作製が行われるかもしれない。

他のiPSCs技術に派生してできた流れは、ある体細胞系列から他の体細胞系列への「直接リプログラミング(direct reprogramming)」である。Douglas Meltonは、3つの転写因子を組み合わせて用いることにより、マウス膵の外分泌細胞を内分泌細胞に変換することに成功した。その後、線維芽細胞を神経細胞、肝細胞、心筋細胞、造血前駆細胞にin vitroで変換させる方法が報告された。直接リプログラミングは単純で速いが、目的の細胞を十分な量得られるかが一つの課題となっている。この方法を進めた先には、in situ direct reprogramming 法の開発が進んでいる(マウスの心筋線維芽細胞をin vivoで直接心筋細胞に変換する検討)。

iPSCsはESCsとは異なるのかという大問題
iPSCsはESCsと異なるのか、もしそうであればどのような機能的な違いがあるのか?iPSCs研究当初はiPSCsとESCsとの類似性には驚かされたが、2009年以降、それらの違いが報告されるようになってきた。例えば、3系統のヒトESC株と5系統のiPSC系統では、マイクロアレイを用いた検討により、数百種の遺伝子発現が異なることが報告された。すなわち、iPSCsは、多能性細胞の中でもユニークなサブタイプと考えられる。さらに、iPSCsではドナー細胞の遺伝子発現が持続する、というESCsとの違いも示された。また、iPSCsとESCsではDNAメチル化に差があること、BMP3のようにメチル化される遺伝子が異なること、それにより、iPSCsにはドナー細胞のepigeneticな記憶が存在することが示された。しかし他の研究では、iPSCsとESCsを遺伝子発現やDNAメチル化によって区別するのは難しい、または区別できないという結論も出ている(違いがあるとしても、研究室ごとの遺伝子導入や培養条件の差によるものであるとしている)。検討に用いたiPSおよびESのクローン数が多い研究の方が、少ない研究よりも、「iPSCsとESCsは遺伝子発現・DNAメチル化の違いで区別できない」とする結論に至る明らかな傾向がある。

もう一つ重要な論点は、細胞の分化能力においてiPSCsはESCsと機能的に異なっているかということである。2010年、Huらは5系統のヒトESCクローンと12のiPSCクローンを神経細胞に分化させた実験で、ESCは90%以上の効率で神経細胞(Pax6陽性細胞)に分化したのに対し、iPSCsは10-50%程度の低効率でしか分化しなかったことを示している。一方、2011年、Boultingらは16のヒトiPSCクローンを運動ニューロンに分化させる実験で、13のクローンがESCsと同等の効率で分化したことを示している。このように、iPSCsとESCsの類似性に関してはいまだに結論が出ていない。

ESCクローンには多様性があることがよく知られており、同様にiPSCsにも遺伝子発現・DNAメチル化の点で多様性があると思われるが少なくとも一部のiPSCクローンはESCクローンと区別不能である。何がiPSCクローン間の多様性をもたらすかは興味深い問題である。Hochedlinger の研究室とJaenischの研究室でそれぞれ同様の方法でマウスiPSCsを作製したが、前者はDlk1-Dio3遺伝子クラスターのインプリンティングが見られない(4倍体補完法によるall-iPSC マウスの作製は不可能である)のに対し、後者では正常に見られる(all-iPSC マウスの作製は可能、厳密に「多能性(pluripotent)」といえる)という違いが見られた。両研究室の方法の違いは、後者で発現カセットの量の違いにより、iPSCsにおけるOct4とKlf4の発現が多かった、ということであった。このようにiPSC作製時のリプログラム因子の量や培養条件の違いによって、iPSCsのepigeneticな状態や多能性に変化が生じると考えられる。iPSCsの質の差は、技術的なばらつき(因子の組み合わせ、遺伝子導入法、培養条件など)により、さらにはリプログラミング時の確率的なイベントにもよるため、コントロール不可能である。したがって医療への応用においては、それにふさわしいiPSCクローンを同定するための、評価と選択が不可欠である。

人工多能性の「ダークサイド」とは?
iPSCsの潜在的な異常として、体細胞変異、コピー数変異、(細胞移植に用いる際の)免疫原性などが報告されているが、これらは誇張されている部分もある。しかし、iPSCsに見られる多くの遺伝的な差異はもとの体細胞にすでに存在しており、リプログラミング過程そのものから起きるわけではないようである。他の研究では、ある種のiPSCクローンはもとの細胞に比べ遺伝的変異がほとんどなくall-iPSCマウスを作ることができるとされている。Mycトランスジーンを持っていないiPSCs由来のマウスは有害な遺伝的変異がないため、機能の異常が見られない。免疫原性に関しては、トランスジーンのないiPSCs に対しては免疫反応が弱いことが報告されている。

なぜ、ESCsとiPSCsはこのように似ているのか?
ESCsとiPSCsは由来の細胞や作製方法が異なるのに、なぜ非常に似ているのだろうか?人工の細胞(iPSCs)と自然に存在する細胞(ESCs)の間で、このように類似性のある例はほかには見られない。ESCs/iPSCsから作製した神経細胞や心筋細胞のようなある種の(人工)体細胞は、in vivoに存在する自然の体細胞に似てはいるが、非常に違うところもある。その中で、ESCsとiPSCsが似ていることは、多くの点で例外的といえる。

一つの説明としては、ESCsも実は人工細胞である、ということである。ESCsは生理的条件では存在せず、内部細胞塊(ICM)から特定の培養条件下で選択し樹立した細胞だからである。ESCsは多くの点で、ICM内の大多数の細胞とは異なっている。例えば、ICM内の細胞は全体的にDNAメチル化が少ないが、ESCsは高レベルでメチル化している。Rasファミリー遺伝子の一つERasは、マウスESCsに特異的に多く発現しているが、胚では発現していない。また、ESCsは胚で見られるよりも長いテロメアが認められる。以上のことなどから、ESCsとiPSCsは、2種類の人工細胞としてその関係や類似性を考えるのがよいだろう。

結語
それならば、ESCsはiPSCsにとって究極のコントロール細胞またはゴールドスタンダードと言えるのか?答えはNoと思われる。ただし、この点に関しては将来の研究で、iPSCsがESCsと並行して新しい組織や臓器を作れる能力があるかさらなる検討が必要だろう。

iPSC技術は、幹細胞治療を含む多くの応用が可能と考えられる。いくつかの導入方法によってさまざまな質のiPSCクローンが作られてきたが、臨床応用のためのよいクローンが選択されることが必要である。それには、マーカー遺伝子の発現だけでなく、in vitroでの分化特性、ゲノム・エピゲノムの完全性を確認する必要がある。臨床で広く用いられるには、健康なボランティアもしくは臍帯血ストックからの高品質のiPSCクローンのストックが必要となるだろう。さらに、HLA同型ドナーからのiPSCs作製により、免疫拒絶の少ない幹細胞治療が可能になると思われる。

iPSC技術は、科学のみならずビジネスや政治にも大きなインパクトを与えるだろう。しかし、iPSCsは厳格に科学的データに基づいて評価され、そのデータは臨床応用に向け徹底的に検討されるべきである。科学者は研究に集中し、政治やビジネスは科学研究によって得られた事実(hard evidence)のみに依拠するべきだろう。
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by md345797 | 2012-10-25 03:42 | 再生治療

カロリー制限により腸幹細胞機能が増強するが、それはnicheであるPaneth細胞のmTORC1シグナル抑制を介する

mTORC1 in the Paneth cell niche couples intestinal stem-cell function to calorie intake.

Yilmaz OH, Katajisto P, Lamming DW, Gültekin Y, Bauer-Rowe KE, Sengupta S, Birsoy K, Dursun A, Yilmaz VO, Selig M, Nielsen GP, Mino-Kenudson M, Zukerberg LR, Bhan AK, Deshpande V, Sabatini DM.

Nature. 486, 490-495, May 20, 2012.

【まとめ】
ヒトの成人組織幹細胞およびそのniche細胞が栄養状態にどのように反応するかはよく分かっていない。哺乳類の腸幹細胞(intestinal stem-cell; ISC)のnicheであるPaneth細胞は、カロリー制限に反応して幹細胞機能を増強する。カロリー制限は、Paneth細胞のmTORC1を低下させることによりISCの機能増強をもたらすことが明らかになった。カロリー制限中でも、Paneth細胞のmTORC1を強制的に活性化させると、ISC増強効果が消失した。逆にrapamycin投与でmTORC1シグナルを低下させると、カロリー制限同様の効果が認められた。さらに、Paneth細胞でBst1(=paracrine因子であるcyclic ADP riboseを産生する外酵素)の発現を増加させると、ISC機能に対するカロリー制限やrapamycinと同様の効果が起きた。以上の結果より、mTORC1は、細胞非自律的(non-cell-autonomously)に、腸幹細胞自己複製を調節し、個体のエネルギー状態と腸管細胞機能を結びつける役割を担っていることが明らかになった。

【論文内容】
哺乳類の組織幹細胞は、微小環境すなわち「niche」からのシグナルを受けて、自己複製するか分化するかを決定している。マウスでは、カロリー制限により神経前駆細胞からのニューロンの新生が促進されたり、年齢による造血幹細胞の数や機能の低下が抑制されたりすることが知られている。しかし、カロリー制限がどのように幹細胞に影響し、それに幹細胞nicheがどう関わっているかは不明である。

小腸は、幹細胞と急速に分裂する増殖細胞を含む陰窩(crypt)と、吸収性腸管細胞からなる繊毛(villi)によって構成される。絶食と再摂食に反応して、腸管は繊毛の長さや陰窩の深さなどの構造変化を起こす。最近の研究により、腸幹細胞(ISCs)とそののnicheであるPaneth細胞との相互作用が明らかになってきた。大部分のISCはLgr5マーカー陽性であり、Lgr5+ ISCs(crypt base columnar cellsとも呼ばれる)は、陰窩底でPaneth細胞に挟まれた細胞で、自己複製および分化することができる。In vivoでPaneth細胞が失われるとLgr5+ ISCsの数は減少する。その一方、Lgr5+ ISCs にPaneth細胞をin vitroで加えると、「ミニ腸管」とも言える臓器様の自己複製体(organoid)を形成する。このように、Paneth細胞は腸幹細胞nicheの不可欠な因子であることが分かっている。

カロリー制限により幹細胞とniche細胞の数は増加する
4-28週の間カロリー制限をしたマウスでは自由摂食したマウスに比べ、絨毛の量および長さが低下し、ISCsおよびPaneth細胞が増加した。すなわち、カロリー制限は、腸管細胞への分化を抑制してISCsの自己複製を促進する。さらに、nicheであるPaneth細胞がカロリー制限へのISCsの適応を調節している可能性がある、と考えられた。実際、カロリー制限により、crypt base columnar cellsへのBrdU取り込みは増加していた。

カロリー制限により腸管の再生は促進される
カロリー制限をしたマウスから単離した陰窩は、自由摂食マウスに比べin vitroでorganoidを形成する率が高かった。また、カロリー制限は陰窩の再生をin vivoで促進するかを検討するため、両マウスに致死量の放射線を照射し72時間後の腸管を採取したところ、カロリー制限マウスの方が生存陰窩とKi67+腸管前駆細胞の数が多かった。したがって、カロリー制限はin vivoでもin vitroでもISCsの再生能を促進することが示された。

カロリー制限によりnicheを介してISC機能が増強される
次に、Lgr5-EGFP-IRES-creERT2ノックインマウスよりLgr5-EGFP hi ISCsを単離した。その結果、カロリー制限したノックインマウスは、自由摂食マウスに比べてLgr5-EGFP hi ISCsおよびPaneth細胞が多かった。ISCsは、カロリー制限に対しPaneth細胞に対し自律的に(autonomously)、または非自律的に(non-autonomously)に反応するのかを検討するため、別々に培養したところorganoidは形成されず、一緒に培養したときにのみorganoidを形成した(ISCsの反応にはPaneth細胞が必要、すなわちnon-autonomous)。カロリー制限をしたマウスのPaneth細胞と一緒に培養した方が、よりISCsがorganoidを形成したため、適切なnicheシグナルがあった時に幹細胞機能が最も増強されることも分かった。

カロリー摂取はnicheのmTORC1を活性化する
mTORC1は個体の栄養状態の主要なセンサーであるため、カロリー制限のPaneth細胞における効果がmTORC1を介しているかを検討した。腸管のmTORC1活性(S6のリン酸化)は絶食で低下し、再摂食またはインスリンによりPaneth細胞のmTORC1を活性化された(なお、ISCsのmTORC1は活性化されなかった)。空腹時に単離したPaneth細胞でもS6リン酸化は低下しており、インスリン刺激後に単離したPaneth細胞ではリン酸化が増加していた。さらにカロリー制限マウスから単離した陰窩においても、S6およびS6K1(=mTORC1の直接の基質)のリン酸化は低下していた。

NicheのmTORC1はカロリー制限の効果を調節する
Paneth細胞のmTORC1活性の低下がカロリー制限によるISC機能の増強をもたらしているのかを調べるため、Rheb2(mTORC1 activator)を全身で発現する(doxycyclineでRheb2を導入できる)トランスジェニックマウスを作製した。空腹時であっても、Rheb2発現を導入するとPaneth細胞mTORC1が活性化された。さらに、このPaneth細胞をISCsと一緒に培養してもorganoidの形成は少なかった。すなわち、空腹時でもPaneth細胞のmTORC1が活性化されていればカロリー制限に伴うISC機能の促進は起こらないことが示された。

次に、rapamycinによるmTORC1阻害がカロリー制限の効果を模倣するかを検討した。Rapamycinを4週間マウスに投与したところ、ISCsおよびPaneth細胞の量は1.5倍以上に増加した。1週間rapamycinを投与しただけのマウスから単離した陰窩でも、カロリー制限後と同様のorganoid形成が見られた。なお、mTORC2特異的なコンポーネントであるRictorを腸で欠損させたマウスでも同様のorganoid形成が見られたため、rapamycinはmTORC1および、それとは独立にmTORC2も阻害することにより、organoid形成(陰窩のクローン原性)を促進すると考えられる。

Rapamycin投与マウスから単離されたPaneth細胞は、コントロールマウスのISCsと混ぜてもorganoidを形成したため、rapamycinもカロリー制限と同様、非自律的(non-autonomous)に作用していると考えられる。また、rapamycin投与とカロリー制限は、陰窩からorganoidを形成するために相加的な効果は見れられなかったので、rapamycinとカロリー制限は共通にPaneth細胞のmTORC1シグナル抑制を介してISC機能を促進していることが示唆された。

カロリー制限はPaneth細胞のBst1を増加させる
カロリー制限マウスおよび自由摂食マウスからフローサイトメトリーで単離したPaneth細胞の遺伝子発現プロファイルを比較し、カロリー制限で発現が増加した遺伝子としてBst1 (bone stromal antiegen 1)に着目した。Bst1は骨髄間質細胞に発現して造血前駆細胞の増殖を促進する。Bst1はNAD+をcyclic ADP ribose (cADPR)に変換する外酵素(ectoenzyme)であり、cADPRはヌクレオチドトランスポーターを介して細胞内に取り込まれ、細胞増殖を促進することが知られている。カロリー制限によって、Paneth細胞のBst1のmRNAおよび蛋白が増加した。また、cADPRを陰窩に添加して培養すると、自由摂食マウスからの陰窩でもorganoid形成を促進した。最後に、Bst1がカロリー制限によるorganoid形成の促進に必要なのかを検討するため、Bst1 mRNAをノックダウンしたところ、カロリー制限マウスの陰窩からのorganoid形成は抑制された。また、このBst1の低下をrescueするためには外因性にcADPRを添加するのみで十分であった。以上より、カロリー制限は、mTORC1依存性にPaneth細胞でのBst1発現を導入し、これがcADRPの増加をもたらし、ISCs自己複製を促進する(organoid形成が増加する)、と考えられた。

【結論】
個体のカロリー制限は、腸幹細胞(ISC)nicheであるPaneth細胞のmTORC1シグナルを抑制し、ISCの自己複製を増加させるというメカニズムが明らかになった。カロリー制限時には、このメカニズムを介してISC自己複製が促進され、ISCsから腸管細胞への分化が少なくなることが想定される。このメカニズムは、Paneth細胞における外酵素Bst1の発現増加により細胞外のcADPRが増加するために、ISC機能が促進される、という細胞非自律的(non-cell-autonomous)な機構を介している。以上より、mTORC1の阻害剤またはBst1の模倣薬(それぞれrapamycinとcADPRとしてFDAに認可されている)は腸再生や腸機能の改善に有用である可能性が考えられた。

【参考】
腸幹細胞再生の動画:Hubrecht Instituteのページ(Movie 1:The gut, a clonal conveyer belt)より。
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by md345797 | 2012-06-29 07:59 | 再生治療

多能性幹細胞を胚盤胞に注入し、マウスにラット膵を作製

Generation of rat pancreas in mouse by interspecific blastocyst injection of pluripotent stem cells.

Kobayashi T, Yamaguchi T, Hamanaka S, Kato-Itoh M, Yamazaki Y, Ibata M, Sato H, Lee YS, Usui J, Knisely AS, Hirabayashi M, Nakauchi H.

Cell. 2010 Sep 3;142(5):787-99.

【まとめ】
患者自身の多能性幹細胞(pluripotent stem cells; PSC)から臓器を作製することは、再生医学の究極の目的の一つである。本研究では、野生型マウスの多能性幹細胞をPdx1-/-(膵が作られない)マウスの胚盤胞(blastcyst)に注入し、多能性幹細胞由来の膵を作ることに成功した。すなわち、発生段階での「空き」(developmental niche)を、胚盤胞に多能性幹細胞を注入する方法によって、補完することができる(=胚盤胞補完:blastcyst complementation)ことが明らかになった。また、異種間でのキメラ形成が可能かを検討するため、マウスまたはラットの多能性幹細胞をラットまたはマウスの胚盤胞にそれぞれ注入して異種間キメラを作製した。さらに、野生型ラットの多能性幹細胞をPdx1-/-マウスの胚盤胞に注入することによって、Pdx1-/-マウスに、正常に機能する膵を作製することができた。これらの結果から、異種間で胚盤胞補完ができることが証明され、ドナーの多能性幹細胞から異種動物の環境を用いてin vivoで臓器を作製できることが示された。

【論文内容】
現在、iPS細胞の技術を用いて、患者由来の多能性幹細胞を作製することが可能である。しかし、iPS細胞を用いてin vitroで臓器を作るのは極めて複雑で困難である。これに対し、この研究グループは、胚盤胞補完法という方法に着目した。この方法は、発生段階での「空き」(niche)がある動物(例えばリンパ球を欠損したRag2-/-マウス)の胚盤胞に正常動物由来の多能性幹細胞を注入すると、欠損している細胞が多能性幹細胞由来のもので補われるというものである。この方法を、膵形成が欠損したPdx1-/-マウスの胚盤胞に応用した。

[1]Pdx1-/-マウスに、野生型マウスのiPS細胞由来の膵を作製した
Pdx1-/-マウスの胚盤胞に、EGFP(緑色蛍光蛋白)トランスジェニックマウスの尾の線維芽細胞から樹立したiPS細胞を注入し、キメラマウスを作製した。注入された胚は仮親マウスの子宮に移植し、その産仔の膵形成を観察したところ、一葉にEGFP蛍光を示すiPS細胞由来の膵が認められた。この方法で膵を形成したPdx1-/-マウスは、コントロールのPdx1+/-マウスと同様の血糖変動を示した。上記の方法で作製したiPS細胞由来の膵島をSTZ投与糖尿病マウスに移植したところ、STZ投与マウスの高血糖が正常化され、GTTでの血糖変動も正常になった。すなわち、同種間の胚盤胞補完によって、iPS細胞由来の機能的な膵の作製に成功し、この方法が糖尿病治療にも役立つことが示された。

[2]マウスとラットを用いた、異種間キメラの作製
EGFPで標識したマウスおよびラットのiPS細胞をそれぞれラットとマウスの胚盤胞に注入し、それぞれの異種間キメラの胎仔を作製することができた。これらの異種間キメラは、正常に生まれ、成体になってもEGFPマウスまたはラット由来の細胞を一部持ったキメラ状態になっていた。生まれてきた個体はどちらもマウス/ラットのキメラではあるが、これらキメラの個体サイズはその胚盤胞と仮親とおおむね同等であった。

[3]異種間の胚盤胞補完によりマウスにラット膵を作製した
次に上記の[1]と[2]の2つの技術を組み合わせて、Pdx1-/-マウスに異種であるラットの膵を作製することを試みた。結果として、Pdx1-/-マウスの生体内に一様にEGFP蛍光を示すラット膵が作製された。このマウスの膵はインスリン、アミラーゼなどの内分泌・外分泌マーカーを発現し、マウスは成体まで発育してPdx1+/-マウスと同等の血糖を示した。以上より、異種間の胚盤胞補完という方法で、異種iPS細胞由来の臓器の作製が可能であることが示された。

【結論】
この方法は、ブタなどの異種動物を用いてヒトに応用可能かもしれない(ヒトの患者からiPS細胞を樹立し、臓器欠損ブタの胚盤胞に移植してブタで臓器を作製し、もとの患者に移植するなど)。しかし、マウス・ラットといったげっ歯類以外の多能性幹細胞ではキメラ形成能を持たないことが分かっており、キメラ形成能を持つ家畜や霊長類の多能性幹細胞を作製する必要がある。さらに、倫理的な問題(現在の日本では、ヒト多能性幹細胞を動物胚に注入することは禁止)にも直面する。しかし、このin vivoで臓器を作製する方法は、臓器発生のメカニズムの理解を促進し、臓器再生医学の第一歩となるだろう。
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by md345797 | 2011-12-04 21:52 | 再生治療

骨髄由来細胞療法は、内因性の心筋前駆細胞を刺激し心臓の修復を促進する

Bone marrow-derived cell therapy stimulates endogenous cardiomyocyte progenitors and promotes cardiac repair.

Loffredo FS, Steinhauser ML, Gannon J, Lee RT.

Cell Stem Cell. 2011 Apr 8;8(4):389-98.

【まとめ】
細胞療法(cell therapy)は障害後の心機能を改善することが知られているが、そのメカニズムは不明である。このグループは、4-OH-tamoxifen投与後に心筋でGFPが発現するマウスを作製、心筋梗塞後はnon-GFP前駆細胞によって心筋が再生されることを示した。骨髄由来のc-kit+細胞を心筋に注入すると、この再生が促進された。この現象は、体外から投与されたc-kit+細胞の心筋へのtransdifferentiationやcell fusionによっては説明できなかった。心筋に注入されたc-kit+細胞によって内因性の心筋前駆細胞活性が刺激されることが、心筋細胞療法のメカニズムであることが示された。

【論文内容】
骨髄由来c-kit+細胞療法は心筋梗塞後の内因性の心筋前駆細胞を刺激する
このグループは以前作製した4-OH-tamoxifen投与後に心筋特異的にpermanentにβgalに代わってGFPが発現するMerCreMer-ZEGマウス(「pulse」labelingが可能)に、4-OH-tamoxifen投与後14日後に冠動脈結紮により心筋梗塞を起こした後、WTマウスのc-kit+骨髄細胞を左室心筋に注入した。その結果、心筋梗塞後GFP+心筋の割合は減少し、c-kit+骨髄細胞注入後はさらに減少した。その分βgal+細胞の割合が増加しており、再生した心筋細胞は骨髄細胞からのtransdifferentiationでないことが示唆された。心筋梗塞後のBrdU陽性細胞はGFP-でありβgal+の前駆細胞からの分化であることが示された。

心筋梗塞後の骨髄間質幹細胞による細胞治療では内因性前駆細胞を刺激しない
上記の結果がc-kit+細胞に特異的であるかを検討するため、骨髄由来の間質幹細胞(MSCs:臨床研究では心筋への分化が示されている)を用いて同様の実験を行った。しかし、MSCsではc-kit+細胞のように内因性の前駆細胞を活性化する効果はなく、心機能の改善も見られなかった。

Transdifferentiationやcell fusionでは、c-kit+細胞による心筋再生刺激は説明できない
次にMerCreMer-ZEGマウス(♂)の骨髄由来細胞を、心筋梗塞後のWTマウス(♀)に心筋内注入し、その後に4-OH-tamoxifen投与を行った。その結果、梗塞巣辺縁にGFP+の心筋はなく、Y染色体(♂由来)陽性の心筋細胞も見られなかった。これは骨髄由来細胞から心筋細胞へのtransdifferentiationがないことを示し、別の実験(MerCreMre-/ZEG+♂マウスの骨髄をMerCreMre+/ZEG-♂マウスの心筋に注入する)でドナーとレシピエントの間のcell fusionによるものではないことも示された。

c-kit+細胞による細胞治療心筋前駆細胞の数を増加させる
さらに、♂マウスから採取した骨髄c-kit+細胞を、心筋梗塞を起こさせた♀マウスの心筋細胞に注入し、BrdUを浸透圧ミニポンプで注入した。これらのマウスの梗塞巣辺縁をnkx2.5、GATA4(心臓発生に関与する転写因子)で免疫染色した。その結果、c-kit+細胞注入群でnkx2.5+GATA4+細胞の総数、BrdU陽性細胞の数とも増加しており、心筋前駆細胞の数を増加させていることが示唆された。

また、最初の心筋梗塞モデル動物に、内因性の前駆細胞を活性化しうる幹細胞chemokineであるSDF-1αを心筋局所に投与したが、心筋梗塞後のGFP+細胞の割合の低下は見られず、SDF-1が心筋前駆細胞を刺激しているのではないということが分かった。

【結論】
心筋梗塞後にc-kit+骨髄細胞を心筋内に注入することで、内因性の前駆細胞由来の心筋再生ができ、心機能を改善することができる。このc-kit+細胞の効果は、これらの細胞が直接心筋にtransdifferentiationすることによるものではなく、ドナー前駆細胞とレシピエントc-kit+細胞の間の何らかのparacrine communicationによるものではないかと思われる。
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by md345797 | 2011-05-03 17:56 | 再生治療