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カテゴリ:シグナル伝達機構( 26 )

GLP-1受容体アゴニストは心房においてEpac2を介してANP分泌を増加させることにより血圧低下をもたらす

GLP-1 receptor activation and Epac2 link atrial natriuretic peptide secretion to control of blood pressure.

Kim M, Platt MJ, Shibasaki T, Quaggin SE, Backx PH, Seino S, SimpsonJA, Drucker DJ.

Nature Medicine. Published online 31 March 2013.

【まとめ】
GLP-1受容体(GLP-1R)アゴニストには血圧低下作用があるが、そのメカニズムはよく分かっていない。本研究では、心臓のGlp1r発現が心房に限局しており、心房心筋細胞におけるGLP-1Rの活性化がANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)の分泌を促進して血圧を下げる機構を解明した。GLP-1Rアゴニストであるリラグルチドは、直接cGMPを増加させたり、前収縮させた大動脈輪を拡張したりすることはないが、リラグルチドを潅流させた心臓の潅流液は内皮細胞非依存性、GLP-1R依存性に大動脈輪を拡張させた。なお、Glp1r−/−マウスやNppa−/−(ANP欠損)マウスにリラグルチドを投与しても、ANP分泌増加、血管拡張、血圧低下は起きなかった。心筋細胞においてGLP-1Rを活性化させると、Rap guanine nucleotide exchange factor であるEpac2が膜にtranslocationしたが、Rapgef4−/− (Epac2)欠損マウスではGLP-1R依存性のANP分泌増加は起こらなかった。野生型マウスの絶食後再摂食で(生理的なGLP-1増加によって)血漿中ANP濃度の増加が起きたが、Glp1r−/−マウスでは摂食後にANP濃度は増加しなかった。また、リラグルチドを投与した野生型マウスでは尿中Na排泄が増加したが、Nppa−/−マウスではリラグルチド投与で増加しなかった。以上の結果から、腸管から心臓に至るGLP-1R依存的、ANP依存的な経路(GLP-1R-ANP軸)が血圧調節に役立っていることが明らかになった。

【論文内容】
GLP-1には血圧を下げる作用があることが知られていたが、これはGLP-1が直接血管に作用して血管拡張をもたらすためと考えられ、GLP-1の血管平滑筋や内皮細胞に対する作用やNOを介する機構が想定されてきた。また、GLP-1の腎臓に対する作用としてNa利尿を促進し、腎細胞のNa調節蛋白のリン酸化を変化させる作用があるため、GLP-1が腎を介して血圧を下げている可能性も考えられていた。そこで本研究では、GLP-1Rアゴニストの血圧低下作用のメカニズムについて検討した。

リラグルチドはGLP-1Rを介して血圧を低下させる
C57BL/6 (WT)マウスにangiotensin II (Ang II)を注入して血圧上昇マウスモデルを作製した。このマウスに分解抵抗性のGLP-1Rアゴニストであるリラグルチド(薬品名:ビクトーザ)を投与すると、収縮期血圧、拡張期血圧がそれぞれ23、19 mmHg低下した。しかし、Ang IIを注入したGlp1r−/−マウスにリラグルチドを投与しても血圧の低下は見られなかった。次に、WTマウスに2日間exendin9–39 (GLP-1Rアンタゴニスト)、L-NMMA (NO synthase inhibitor阻害剤) 、またはanantin (natriuretic peptide receptorアンタゴニスト)を投与しておいたところ、exendin9–39およびanatinでリラグルチドの降圧効果は阻害されたが、L-NAMEでは阻害されなかった。Anantinでリラグルチドの降圧効果が阻害されたことにより、この効果はnatriuretic peptide receptor Aを介するものであると考えられた。Phenylephrineを用いて収縮させた大動脈輪にin vitroでリラグルチドを添加しても直接の血管拡張効果は認められなかったが、acetylcholine (Ach)を添加すると直接の血管拡張効果があった。Achの添加により、大動脈輪の内皮細胞のeNOS やvasodilator-stimulated phosphoprotein (Vasp:NO-cGMPシグナル伝達経路の下流)のリン酸化は増加し、cGMP量を増加した。一方、リラグルチドは、eNOS、Vaspリン酸化、cGMP量の増加に対する直接の効果はなかった。以上の結果により、リラグルチドは血管に対して直接の血管拡張作用を及ぼすのではないと考えられた。

リラグルチドはANP分泌を刺激する
上の実験でanantinがリラグルチドによる血圧低下を阻害したため、リラグルチドの効果はatrial natriuretic peptide (ANP)またはbrain natriuretic peptide (BNP)を介するものではないかと考えられた。そこでWTマウスにリラグルチドの急性投与を行ったところ、血漿ANP濃度が1.8倍に上昇した(BNPは変化なし)。Ang II注入マウスはベースラインの血漿ANP濃度が高かったが、このマウスにリラグルチドを投与すると二相性のANP濃度変化が起きた(最初にANP濃度が低下した後、160分後にその3.7倍まで上昇)。一方、リラグルチドはGlp1r−/−マウスの血漿ANP濃度は増加させなかった。また、リラグルチドを3週間にわたって1日2回慢性投与した場合には、持続的にANP濃度が増加し、血圧が低下した。(なお、Ang II注入とは別の、経大動脈収縮(TAC)に伴う圧負荷による高血圧モデルマウスでも、リラグルチドはANP濃度を増加させ、血圧を低下させた。また、リラグルチド以外のGLP-1そのものやexendin-4をAng II注入マウスに投与したところ、exendin-4では持続的な降圧効果、GLP-1では(in vivoでは急速に分解・不活化されるため)一時的で弱い降圧効果のみを示した。そこで、GLP-1、リラグルチド、exendin-4をそれぞれin vitroでWTの心房心筋細胞に添加したところ、いずれもANP分泌が増加した。Glp1r−/−マウスの心筋細胞ではその効果は見られなかった。)

次に、食事摂取による内因性のGLP-1の増加(=GLP-1濃度の生理的増加)によって血漿ANP濃度が増加するかを検討した。その結果、WTマウスでは空腹後の再摂食で急速にANP濃度の増加が認められたが、Glp1r−/−マウスではその効果は認められなかった。以上より、GLP-1Rの薬理学的活性化(リラグルチド投与)および生理的活性化(絶食後再摂食)によって、ANP分泌が促進されることが示された。

では、心臓におけるGLP-1R活性化はANP分泌を直接促進しているのかを検討するため、単離したマウス心臓にリラグルチドを潅流させ、その潅流液中のANP濃度を測定する実験を行った。WTマウスの心臓にリラグルチドを潅流させると、潅流液中のANP濃度は約5倍に増加した。Ang II注入高血圧マウスの心臓の潅流液ではベースラインのANP濃度が高かったが、リラグルチド潅流により潅流液中のANP濃度は10倍増加した。Ang II注入Glp1r−/−マウスの心臓でも潅流液中のベースラインのANP濃度は増加していたが、リラグルチドを潅流させた後の潅流液中のANP濃度は増加しなかった。以上の結果により、リラグルチドは、心臓のANP分泌を直接促進していると考えられた。さらに、リラグルチドを潅流させたWTマウス心臓の潅流液を収縮させた大動脈輪にin vitroで添加すると、容量依存性に大動脈輪が拡張したが、この拡張はGlp1r−/−マウスの心臓のリラグルチド潅流液では認められなかった。なお、血管内皮細胞をはがした大動脈輪では、Achに反応した血管拡張は消失したが、リラグルチド投与WTマウスの心臓潅流液反応性の血管拡張は保たれていた。このリラグルチド心臓潅流液を添加すると、大動脈輪のVaspのリン酸化が増加した。一方、リラグルチドを潅流させたGlp1r−/−マウスの心臓潅流液では、このVaspリン酸化増加は消失していた。以上の結果から、GLP-1R–ANP軸は(血管内皮細胞ではなく)血管平滑筋の緊張低下によって血圧低下をもたらすことが示唆された。

ANP受容体のシグナル伝達はguanylyl cyclaseを介している。リラグルチドを潅流させたWTマウス心臓の潅流液は大動脈輪のcGMP量の増加をもたらしたが、Glp1r−/−マウスの心臓潅流液ではcGMP増加は起きなかった。すなわち、リラグルチドはANP分泌を増加させ、標的(大動脈)のANP受容体に作用し、ANP受容体下流のcGMP増加を起こしていると考えられた。

リラグルチドはANPを介して、Na利尿と血管拡張を促進する
次にリラグルチドの降圧効果におけるANPの重要性を検討するため、ANP欠損(Nppa−/−)マウスを用いた。リラグルチドは、正常血圧およびAng II注入高血圧WTマウスの尿中Na排泄を増加させたが、Nppa−/−マウスでは尿中Na排泄増加は認められなかった。Nppa−/−(ANP欠損)マウスはNppa+/+マウスに比べ、ベースラインの血圧が有意に高い。リラグルチド投与により、Ang II注入高血圧Nppa+/+マウスの血圧は有意に低下したが、Nppa−/−マウスの血圧は低下しなかった。なおNppa−/−マウスにおいても、GLP-1の他の作用(血糖低下、血漿インスリン値の低下、摂食と胃内容排出の抑制)は認められたため、上記の作用はANP欠損マウスでGLP-1Rの作用が全身的に低下しているためではないことが分かる。リラグルチドを潅流させたNppa+/+マウスの心臓の潅流液をin vitroで大動脈輪に添加すると血管拡張とVaspのリン酸化増加が起きたたが、Nppa−/−マウスの心臓潅流液ではそれらの効果は見られなかった。したがって、GLP-1R活性化がマウス心房からのANP分泌を促進し、これが血管のVaspリン酸化、cGMP生成、大動脈平滑筋の拡張とNa利尿を促進することにより血圧が低下するというメカニズムが想定された。

リラグルチドによるANP分泌促進はEpac2を介する
GLP-1は膵β細胞でcAMP依存性経路を活性化するが、心筋細胞でも同様のcAMPを介するシグナル伝達経路を活性化するかを検討した。その結果、リラグルチドはAng II注入高血圧Glp 1r+/+マウスの心房心筋細胞でcAMPを増加させたが、Glp 1r-/-マウスでは増加させなかった。さらに、マウスから取り出した心臓にH-89(PKA阻害剤)、SB203580(p38MAPK阻害剤)または2-APB(inositol 1,4,5-triphosphate受容体アンタゴニスト)を潅流させ、その直後にリラグルチドを潅流させ、その潅流液中のANPの増加を調べた。リラグルチドはex vivoで、PKA、p38MAPK、inositol 1,4,5-triphosphate受容体のいずれにも非依存性にANP分泌を増加させた。しかし、exendin 9-39(GLP-1Rアンタゴニスト)、U73122(phospholipase C阻害剤)の潅流後は、リラグルチド潅流によるANP分泌促進は阻害された。Epacの選択的活性化剤であるESCA-AMは、それだけでもANP分泌を増加させ、その増加はリラグルチドによるANP分泌増加と相加的ではなかった。したがって、リラグルチドによるANP分泌促進は、cAMP依存的であってもPKA非依存的であり、PLC依存的なシグナル伝達を介すると考えられた。β細胞ではGLP-1R活性化によるcAMP増加はEpac2のtranslocationを活性化するため、心筋細胞でも同様の変化がないかを検討した。その結果、Glp 1r+/+心筋細胞はリラグルチド添加によって細胞質内Epac2が減少し、膜分画でのEpac2が増加した。この変化はGlp 1r-/-心筋細胞では見られなかった。

リラグルチドはGlp 1r+/+の心房 (Glp 1rが主に局在しているのは心房)の心筋細胞ではANP分泌を増加させたが、心室の心筋細胞では増加させなかった。Glp 1r-/-の心房心筋細胞ではリラグルチドを添加してもANP分泌は変化なかった。しかし、ESCA-AMの添加では、Glp 1r+/+でもGlp 1r-/-でも心房、心室の心筋細胞でANP分泌が増加した(心筋のANP分泌は心房に比べ少ない)。

リラグルチドによる血圧低下にはEpac2が必要である
そこでリラグルチドによるANP分泌促進および血圧降下にはEpac2が必要と考え、Epac2をコードする遺伝子であるRapgef4の欠損マウスを用いた実験を行った。なお、Rapgef4+/+マウスもRapgef4-/-マウスも、心房におけるGlp 1rの発現は同程度であった。リラグルチドは、Rapgef4+/+マウスの心房心筋細胞のANP分泌を直接刺激したが、Rapgef4-/-マウスではその効果は認められなかった。Ang II注入マウスの心臓へのリラグルチド潅流でもRapgef4+/+マウスではANP分泌が増加したが、Rapgef4-/-マウスでは増加しなかった。さらに、Rapgef4+/+マウスの心臓リラグルチド潅流液は収縮した大動脈輪を拡張させたが、Rapgef4-/-マウスを用いた潅流液では拡張させなかった。なお、Rapgef4-/-マウスの心筋細胞にアデノウイルスを用いて後からEpac2を発現させると、リラグルチドによるANP分泌増加が回復した(したがって、上記のRapgef4-/-心筋細胞のリラグルチド反応性の低下はEpac2欠損による発生過程の異常によるものではないことが分かる)。以上の結果より、GLP-1RによるANP分泌促進はEpac2を介していることが確認された。

【結論】
GLP-1アゴニストには血圧降下作用があることが知られているが、それは心房からのANP分泌増加を介していることが明らかになった。本研究で明らかになったGLP-1による降圧の機構は下図のようなものである。

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GLP-1は心房の心筋細胞のGLP-1Rを活性化させ、心筋細胞内のcAMPを増加させる。この心房心筋細胞のcAMP増加は、(PKA活性化ではなく)Epac2のtranslocationを介して、large dense core vesicle(LDCV)からのANP分泌を増加させる。 ANPは、標的である血管平滑筋においてcGMPを介して血管拡張を起こし、さらに腎においてNa利尿を起こすことにより、血圧低下をもたらす。

なおANPには、脂肪分解を促進したり、脂肪細胞の熱産生を増加させたり、骨格筋細胞の脂肪酸化や酸化的リン酸化を増加させたり、グルコース応答性のインスリン分泌を増加させたりする新しい役割があることが知られるようになってきた。本研究の結果から考えると、GLP-1のさまざまな代謝作用は心臓からのANP分泌増加を介しているのかもしれず、GLP-1R-ANP軸 (腸管-心臓軸)がGLP-1作用に重要な役割を果たしている可能性も示唆される。
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by md345797 | 2013-04-02 02:52 | シグナル伝達機構

ビグアナイドはcAMP減少を介して、肝のグルカゴンシグナル伝達を阻害し、肝糖産生を抑制する

Biguanides suppress hepatic glucagon signalling by decreasing production of cyclic AMP.

Miller RA, Chu Q, Xie J, Foretz M, Viollet B, Birnbaum MJ.

Nature. 2013 Feb 14;494(7436):256-60.

【まとめ】
ビグアナイド系薬剤は50年前から肝の糖産生を抑制する有効な治療薬と考えられてきたが、その作用機序は詳しくは不明である。MetforminがAMPK活性化を介して肝糖産生を抑制するという作用機序は10年前より提唱されてきたが、近年メトフォルミンがLKB1/AMPK経路とは独立して肝糖産生を抑制することが示されて、前者の機序は疑問視もされている。本研究では、「メトフォルミンが、肝においてグルカゴン作用を阻害することにより空腹時血糖を低下させる」という新しいメカニズムを報告している。マウス肝細胞にmetforminを添加すると、ミトコンドリア呼吸鎖の抑制によってAMPが蓄積する。(それがAMPKを活性化すると考えられているのだが)ここではそれがadenylate cyclaseを抑制し、その結果cAMP産生が減少、PKA活性が低下する。PKAの標的蛋白には肝糖産生酵素があり、不活性化によって、グルカゴン依存性の肝糖放出が抑制されるという機序が示された。抗糖尿病薬metforminは、肝におけるグルカゴンアンタゴニストとしての新たな作用機序をもつことが明らかになった。

【論文内容】
10年ほど前から、metforminの作用はAMPKを介すると考えられてきたが、最近AMPKまたはその上流のLKB1を欠損した肝臓や肝細胞でもmetforminの効果が見られることが報告され、当初の考えは疑問視もされている。そこで、メトフォルミンが肝でのグルカゴンシグナル伝達を阻害する可能性を考えて検討を進めた。

グルカゴンが肝細胞表面の受容体に結合すると、adenylate cyclaseが活性化、cAMPが増加、PKAが活性化され、肝の糖産生を増加させる蛋白をリン酸化(活性化)する。ビグアナイドであるphenforminまたはmetforminをマウス培養肝細胞に2時間または24時間添加すると、用量依存的にグルカゴンによるcAMP増加が低下した。次にアデノウイルスを用いてAKRA3 FRET reporterを発現させた肝細胞(PKA活性化を確認する細胞)に、まずグルカゴンを添加したところ、2分以内に最大のFRET増加(PKA活性化)を認めたが、phenforminはこの増加を遅延させた。さらに、phenforminは、グルカゴン刺激によるPKA基質蛋白(PFKFB1、IP3R)のリン酸化を阻害した。このように、グルカゴンはcAMP増加によりPKAを活性化しその基質蛋白のリン酸化を増加させ、phenforminはこの過程を阻害したが、グルカゴンの代わりに膜透過性cAMPアナログ(SP-8Br-cAMPS-AM)を添加した場合はphenforminでPKA活性化は阻害されなかった。したがって、phenforminはPKA活性化よりも上流でグルカゴンシグナル伝達経路を遮断していると考えられた。同じく、肝細胞に治療域濃度のmetforminを添加した場合、グルカゴンによる糖産生の増加は抑制したが、SP-8Br-cAMPS-AMによる増加は抑制できず、metforminの糖産生抑制作用はcAMP減少を介していると考えられた。

次に、AMPKのα1とα2のfloxedマウスにCreを発現させるアデノウイルスを注入し、AMPKのcatalytic(α)サブユニットを欠損させたマウスを作製した。このマウスの(AMPK欠損)肝細胞にphenforminを添加しても、グルカゴンによるcAMP増加の抑制はコントロールと同じように起こった。すなわち、ビグアナイドによるcAMP増加抑制効果はAMPK非依存性であることが分かる。

では、ビグアナイドがグルカゴンによるcAMP増加を抑制するのは、ビグアナイドがcAMP phosphodiesterase (PDE)を活性化するためであろうか?グルカゴンを添加した肝細胞にIBMX(PDEの非特異的阻害剤)またはRo-20-1724(PDE4の特異的阻害剤)を添加したところ、cAMPは増加した。この効果はcilostamide (PDE3の特異的阻害剤)では見られなかったので、これらの細胞でのcAMPの分解にはPDE4が重要であることが分かる。しかし、phenformin添加によるcAMP増加抑制に、IBMXやRo-20-1724は影響しなかった一方、forskolin(adenylate cyclaseを活性化させてcAMP増加を起こす)によるcAMP増加は、phenforminで阻害された。すなわち、phenforminは、cAMP分解促進(PDE4活性化)ではなく、cAMP増加抑制(adenylate cyclase活性化抑制)によって、cAMP量を低下させていると考えられた。

AMPはadenylate cyclaseを抑制することが古くから報告されてきたが、ビグアナイドによるAMP増加がadenylate cyclase抑制をもたらしているのだろうか?Metformin投与マウスの肝におけるAMP濃度がadenylate cyclaseを阻害するのに十分なレベルかを検討するため、肝のAMP値を測定した。その結果、肝のAMP濃度は2.3 mM、metformin投与後は2.9 mMと高かった。培養肝細胞でのAMPの濃度は215 μMで、phenformin添加によって1 mM以上に増加した。

次にin vivoで、metforminのグルカゴン注入に対する効果を検討した。Metforminを事前に投与しておいたマウスでは、グルカゴン急速注入による血糖上昇は抑制された。この時、metformin投与により肝のエネルギー蓄積が減少して(=AMPが増加して)AMPK活性が増加したが、重要なことは、metformin前投与でグルカゴンによる肝臓内cAMPの上昇、PKA活性化、PKA基質のリン酸化が抑制されたことである。空腹時マウス(内因性のグルカゴン上昇)にmetforminを投与しても、肝のcAMP濃度が減少した。高脂肪食負荷マウスにmetforminを投与しても、肝のAMP増加、それに伴うPKA標的蛋白であるPFKFB1とIP3Rのリン酸化が低下し、空腹時血糖が低下した。このような急性投与によりAMPKリン酸化(活性化)が認められたものの、Aktリン酸化の変化(急性のインスリン抵抗性改善)までは見られなかった(metformin投与→AMP増加→AMPK活性化によるインスリン抵抗性改善は、少なくとも急性には起こっていないことを示唆する)。

【結論】
本研究では、ビグアナイド系薬剤が肝細胞においてcAMPを減少させる効果があることを確認した。治療域濃度のmetforminは、肝細胞においてミトコンドリア呼吸鎖のcomplex Iを阻害してATPの減少とAMPの増加をもたらすことにより、グルカゴンによるadenylate cyclase活性化を阻害する(AMPは内因性リガンドとして、adenylate cyclaseの活性化を直接抑制する作用があることは古くから知られている)。Adenylate cyclase活性低下により、細胞内cAMPが減少し、PKA活性化低下が起き、糖産生酵素の活性化を減少させ、肝糖産生を抑制する。このような経路(下の参考図)が新たなmetforminの作用機序と考えられる。

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(参考図)Metforminまたはphenforminは、OCT1(organic cation transporter)によって細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアに集積して呼吸鎖のcomplex Iを抑制し、細胞内のATPを減少させADP/AMPを増加させる。増加したAMPは、AMPKを活性化させるのみならず、adenylate cyclaseを直接阻害して、グルカゴンによるcAMP増加を抑制、その結果PKA活性化が抑制される。それにより、グルカゴンによる糖新生酵素が糖新生抑制に働き、肝糖産生が抑制されることになる。
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by md345797 | 2013-03-09 16:13 | シグナル伝達機構

ストレスはRAC1のエピジェネティックな発現低下をもたらし、シナプスのリモデリングと抑うつ行動を起こす

Epigenetic regulation of RAC1 induces synaptic remodeling in stress disorders and depression.

Golden SA, Christoffel DJ, Heshmati M, Hodes GE, Magida J, Davis K, Cahill ME, Dias C, Ribeiro E, Ables JL, Kennedy PJ, Robison AJ, Gonzalez-Maeso J, Neve RL, Turecki G, Ghose S, Tamminga CA, Russo SJ.

Nat Med. Published online Feb 17, 2013.

【まとめ】
抑うつは脳の報酬回路のシナプスに可塑的変化を起こすことが知られているが、その分子機構と行動への関与については不明である。本研究では、報酬・快感・恐怖などに重要な役割を果たしている側坐核(nucleus accumbens, NAc)において、シナプス構造の調節因子として知られているRho GTPase関連遺伝子の転写プロファイリングを行った。その結果、マウスに慢性の社会的ストレス「social defeat stress(社会的敗北ストレス)」を与えた後では、NAcにおいてRac1の発現が低下していることが明らかになった。これは、Rac1プロモーター周囲のクロマチン状態(ヒストンのアセチル化とメチル化)が転写抑制的(repressive)に変化したためであることが分かり、class 1 HDAC阻害剤MS-275を投与すると、社会的敗北ストレス後のRac1発現低下と抑うつ関連行動が起こらなくなった。また、大うつ病性障害のヒトの死後脳のNAcにおいてもRAC1プロモーター周囲のクロマチン状態は転写抑制的に変化しており、実際RAC1発現は減少していた。

さらに、マウスにおいて、ウイルスベクターを用いてNAcでのRac1発現を抑制すると、社会的敗北ストレスを与えた後の社会的回避(引きこもり)や快感消失症状が増悪した。慢性的な社会的敗北ストレスを与えると、NAcの中型有棘ニューロンの樹状突起において、隆起型の興奮性スパイン(stubby excitatory spine)が形成される。これはRac1下流のアクチン提供蛋白であるコフィリンの再配分によるものである。マウスのNAcに恒常活性型のRac1を過剰発現させておくと、社会的敗北ストレスを与えても、樹状突起において隆起型スパインの形成が起きず、それに伴って抑うつ関連行動も起きなかった。

以上の結果から、NAcにおけるRAC1のエピジェネティックな調節は、社会的ストレス後の抑うつ関連行動の発現を調節する分子機構であることが明らかになった。

【論文内容】
大うつ病性障害(major depressive disorder: MDD)は治療に抵抗性を示し、寛解持続期間が短い場合があるなど、治療困難なことが多い。抑うつのメカニズムについては、従来からのモノアミン仮説を初めとするさまざまな説があるが、その一つが興奮性シナプス構造の調節異常によるというものである。実際、マウスに慢性の社会的敗北ストレス(後述)を与えると、脳の側坐核(NAc;抑うつの際の報酬関連機能の障害を調節する領域)の中型有棘ニューロンにおいて、シナプスの構造的・機能的可塑的変化が起きる。しかし、このようなストレスによるシナプスの構造変化の分子メカニズムは不明であった。

マウスにおける社会的敗北ストレス後のRac1の転写調節
Rac1のようなsmall Rho GTPaseは、ニューロンの樹状突起スパインの維持のためにアクチン細胞骨格の再構成を調節する役割があり、シナプス構造を調節する重要な因子となっている。そこで、この研究ではまず、マウスに社会的敗北ストレスを与えた後のNAcにおけるsmall Rho GTPaseシグナル関連遺伝子の発現変化をマイクロアレイを用いて検討した。本研究での「社会的敗北ストレス」とは、C57BL/6Jマウスを、より大きく攻撃的なCD-1マウスと連日繰り返し戦わせて敗北させることにより、社会的回避(引きこもり)や快感消失(マウスではショ糖を好む性質が消失する)などの抑うつ関連行動を起こさせる方法である。C57BL/6Jマウスの多くは、このような敗北ストレスに影響を受けやすい(susceptible)マウスであるが、1/3程度はそうでなく社会的回避や快感消失を起こさない回復力(レジリエンス)を持った(resilient)マウスである。このようにストレス関連の行動形質には個体差があるため、この差を利用して抑うつ行動の分子機構を探ることが可能である。

社会的敗北ストレスを与えた後のsusceptibleマウスとresilientマウスのNAcにおけるRho GTPase関連遺伝子の発現を検討したところ、13種の遺伝子のうちRac1がsusceptibleマウスのみで選択的にストレスによる発現変化を示した。敗北エピソードの48時間後にはRac1の発現は大きく低下しており、Rac1の発現低下は社会的回避行動と相関があった。このsusceptibleマウスに抗うつ剤(imipramine)の連日腹腔内投与を行うと、NAcにおけるRac1発現の低下は50%程度のマウスで予防できた。

マウスにおける社会的敗北ストレス後のRac1発現のエピジェネティックな調節
上記のNacにおけるRac1の発現低下にエピジェネティックな調節が関与している可能性を考え、マウス脳のChromatin immunoprecipitation (ChIP)解析を行った。クロマチン状態の変化(ヒストンの修飾)には、転写を許可し(permissive)遺伝子発現を促進するヒストンH3 アセチル化(acH3)と、転写を抑制し(repressive)遺伝子発現を抑制するヒストンH3 Lys27トリメチル化(H3K27me3)がある(下の参考図を参照)。本研究において社会的敗北ストレスを与えたsusceptibleマウスのNacでは、Rac1のプロモーターと2000bp上流の領域にわたって)H3アセチル化が減少していた。逆に、resilientマウスではRac1プロモーター領域でH3K27メチル化が減少し、susceptibleマウスではRac1プロモーター上流のH3K27メチル化が増加していた。

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(参考図) 
上段:Permissiveな(転写を「許可する」=遺伝子発現を促進する)ヒストンアセチル化と、下段:repressiveな(転写を「抑制する」=遺伝子発現を抑制する)ヒストンメチル化。
中段は、HDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)とHAT(ヒストンアセチル化酵素)によるアセチル化調節およびHMT(ヒストンメチル化酵素)によるメチル化調節による,
permissiveとrepressive間の「スイッチ」を表す。
Eberharter A, Becker PB. Histone acetylation: a switch between repressive and permissive chromatin. EMBO Rep. 3(3):224-9, 2002より引用)

社会的敗北ストレス後のsusceptibleマウスではH3アセチル化が減少していたので、(H3アセチル化を増加させる目的で)class 1 HDAC阻害剤MS-275をNAc局所に10日間浸透圧ミニポンプを用いて投与した。その結果、Rac1 の発現が正常化し、それまで認められていた社会的回避は見られなくなった。したがって、Rac1のエピジェネティックな調節は、社会的敗北ストレスと抑うつ行動をつなぐ分子メカニズムであることが示唆された。

大うつ病性障害の患者におけるRAC1の発現調節
次に、大うつ病性障害(MDD)患者の死後の病理解剖で得た凍結NAc組織を用いて、同様の検討を行うこととした。MDD患者の病理組織は、独立した2つのコホート(テキサスとモントリオール)から得た。両方のコホートで、抗うつ剤投与を受けていなかった患者の場合、MDD患者のNAcでは正常者と比較してRAC1発現が大きく低下していた。抗うつ剤投与を受けていた患者の場合は、モントリオールコホートにおいて、健常者と同程度の高いRAC1発現を示すものと抗うつ剤投与を受けていなかった患者と同程度の低い発現を示すものの二峰性の分布が認められた。(すなわち、抗うつ剤が効いていた患者と効かなかった患者がいた。実際、マウスの実験においても、susceptibleマウスのRac1 発現低下で抗うつ剤投与によって正常化したのは50%程度であった。)

さらに、凍結ヒト死後NAc組織におけるRAC1遺伝子のクロマチン状態を調べた。その結果、RAC1遺伝子配列の約200bp上流領域と転写開始部位( transcription start site; TSS)の下流領域でH3アセチル化が減少し、TSSの約200bp上流領域でH3K27メチル化が増加していることが明らかになった。なお、RAC1 mRNA発現とプロモーターアセチル化とメチル化の状態は、それぞれ正と負に相関していた。(図1)

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(図1)上段:大うつ病性障害患者の側坐核における、RAC1プロモーターのH3アセチル化(acH3、左)と、H3K27メチル化(H3K27me3、右)の変化。
下段:RAC1プロモーターのH3アセチル化はRAC1発現と正の相関を示し、H3K27メチル化はRAC1発現と負の相関を示した。

Rac1発現低下は抑うつ関連行動を引き起こす
次に、NacでのRac1の発現を変化させたマウスに、社会的敗北ストレスまたは弱い微小敗北ストレス(microdefeat)を与える実験を行った。Microdefeaとtは、C57BL/6JマウスをCD-1マウスと5分戦わせて15分引き離すことを3回繰り返すのみの弱いストレスで、この程度のストレスでは、社会的敗北ストレスと違って社会的回避や快感消失までは起こらない。

実験では、herpes simplex virus (HSV)による遺伝子導入を用いて、GFP、dominatnt-negative Rac1(RacDN)、constitutively active Rac1 (RacCA)のいずれかとCre recombinase、という2つの発現遺伝子を含む(bicistronic)ウイルスを、floxed Rac1 (Rac1 flox/flox)マウスのNAcに直接注入した。このマウスにHSV-GFP-Creを注入すると、NAc局所のRac1発現はノックダウンされる。これによりNAcでRac1発現が消失すると、microdefeatを与えられた場合であっても社会的回避と快感消失が起こるようになる(ストレスに対してsusceptibleになる)。同じくRacDNを過剰発現させた場合も、microdefeatに対する感受性亢進形質(pro-susceptibility phenotype)を示した。逆にRacCAを過剰発現させると、(強い)社会的敗北ストレスを与えられた場合も、社会的回避や快感消失という感受性形質(susceptible phenotype)は起こらなかった。

Rac1はストレスによる興奮性樹状突起スパインの形成を起こす
マウスに慢性的な社会的敗北ストレスを与えると、NAcの中型有棘ニューロンにおいて、未成熟型の隆起型樹状突起スパイン(stubby dendritic spines)の形成が促進される。この変化によって後シナプス密度が低下し、興奮性刺激の頻度が大きく増加する(シナプスの不安定性がもたらされる)ことが、これはマウスの抑うつ行動の発現に必要十分であることが分かっている。このようなストレスによるスパイン形成のメカニズムを理解するため、Rac1の下流のターゲット分子であり、スパイン形成のためのアクチン提供に必要なコフィリン(cofilin)に注目した。すなわち、慢性的な社会的敗北ストレス後のNAcの中型有棘ニューロンの樹状突起をコフィリンの免疫組織染色と重ね合わせた三次元再構成像を作製した。その結果、慢性的な社会的敗北ストレスによって、コフィリン陽性の隆起型スパインが選択的に増加した(隆起型以外の通常型(thin type)やキノコ型(mushroom type)のスパインは増加しなかった)。

ところが、RacCAを過剰発現させたsusceptibleマウスのNAcでは、社会的敗北ストレス後の隆起性スパイン形成は減少していた。この隆起型スパインの密度は社会的回避行動と逆相関があった。すなわち、Rac1過剰発現によって隆起型スパイン形成が減少すると、社会的回避行動が増加する傾向が認められた。

最後に、Rac1の発現低下だけでNAcで隆起型スパイン形成が起こるのかを検討した。NAc特異的にRac1を欠損させると、それだけで通常型と隆起型の両方のスパイン形成が増加した。さらにこのマウスにmicrodefeatを与えると、与えないときに比べて隆起型スパインの密度が2倍に増加した(図2)。NAc特異的なRac1欠損によって隆起性スパイン密度が増加すると、社会的回避が増加する傾向が認められた。

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(図2) 側坐核(NAc)の中型有棘ニューロンの樹状突起の三次元再構成像:NAc特異的にRac1を欠損させたマウス(下の2つ)では、コントロールマウス(上の2つ)に比べて、隆起型スパイン(白矢印)と通常型スパイン(青矢印)の密度が増加した(他のキノコ型棘突起(黄色矢印)の密度は変わらなかった)。
NAc特異的Rac1欠損マウス(下の2つ)で、microdefeatストレスなし(上から3番目)とストレスあり(一番下)を比較すると、ストレスありのRac1欠損マウスで隆起型スパイン(白矢印)が増加していることが分かる。なおこの隆起性スパインの増加は、社会的回避(抑うつ行動)の増加と相関していた。

【結論】
本研究では、①慢性的な社会的ストレスが与えられると、マウスおよびヒトの側坐核においてRac1発現が低下する。②このRac1発現低下はエピジェネティックなメカニズム(Rac1プロモーターのH3アセチル化減少とH3K27メチル化増加)によるものであることが明らかになった。さらに、③社会的ストレスによるRac1発現の減少が、Rac1下流のコフィリンの局在の変化を介して、中型有棘ニューロン樹状突起の隆起型スパインを増加させ、これがシナプスの不安定性をもたらすことにより、社会的回避などのストレス行動が起きるというメカニズムが解明された。

上記の結果に基づくと、RAC1プロモーターのエピジェネティックな変化に対する治療(すなわち、ヒストン脱アセチル化抑制、脱メチル化促進)によって抗うつ効果が期待できそうである。ただし、そのような治療はゲノム全体に影響を与える可能性があるため、より遺伝子特異的なエピジェネティックスに対する治療戦略(最近のzinc finger artificial transcription factorsなど)が求められるだろう。
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by md345797 | 2013-02-27 05:48 | シグナル伝達機構

ヒトにおいてオートファジーが果たす生理的役割と疾患における役割

Autophagy in Human Health and Disease.

Choi AMK, Ryter SW, Levine B.

N Engl J Med. 368:651-662 February 14, 2013.

【総説内容】
ヒトにおいて、オートファジー(Autophagy:self-eatingの意味をもつ)が果たす生理学的役割および疾患における役割が明らかになりつつある。一般に「オートファジー」と呼ばれるmacroautophagyは、細胞質内の不要物に対してオートファゴソームが形成され、それがリソソームと融合し、分解・リサイクルを行う過程である(図1)。

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(図1)オートファジー経路の段階
左から、オートファジーの開始(initiation)→小胞(vesicle)の延長→成熟したオートファゴソームの形成→オートファゴソームのリソソームとの融合(fusion)→リソソームの酸性加水分解酵素(acid hydrolases)によるオートファゴソーム内容物の分解と、代謝へのリサイクルという過程がある。

オートファジー調節の分子機構
オートファジーの調節機構は、図2のようなものである。
①環境からの刺激(cues)は細胞内シグナル伝達を活性化して、オートファジーの調節分子(当初酵母で同定されたautophagy-related genes (Atg) 産物のホモログ)に伝達される。飢餓状態(starvation)はmTOR活性の抑制によりオートファジーを活性化する。栄養素の欠乏およびエネルギー喪失によりmTORC1(mTOR-Raptor-PRAS40-GβL)は阻害されるが、それによりULK1が活性化される。これがオートファジー開始の重要な段階である。逆に、インスリンや成長因子刺激(class I PI3-kinase-AKTの活性化を介する)および栄養素(leucineなど)は、mTORC1を活性化して、ULK1、ATG13、ATG101、FIP200からなるmTOR基質複合体を阻害する。これによりオートファゴソーム形成は阻害される。
②一方、Beclin-1-interacting complex は、Beclin1、BCL-2 family蛋白(オートファジーを抑制)、class III PI 3-kinase (VPS34)、ATG14L(オートファジーに必要)からなるオートファジーの調節プラットフォームである。この複合体が刺激されると、phosphatidylinositol-3-phosphate(PI3P)が生成され、オートファゴソーム形成(膜の核生成:nucleation)が促進される。
③オートファーゴソームの延長には2つのユビキチン様結合システム、すなわち「ATG5-ATG12結合システム」と「LC3-ATG8結合システム」が必要である。
④後者のシステムにおいて、細胞質欠失型LC3 (LC3-I)がオートファゴソーム膜結合型LC3(phosphatidylethanolamine結合型(PE-conjugated form):LC3-II)へと変換されことはオートファーゴソームの形成を示唆し、免疫蛍光染色上の斑点(LC3 puncta)として可視化できる。
⑤その後、オートファゴソームとリソソームの融合が起きるが、この過程の障害は、オートファーゴソーム数の増加をもたらし、さまざまな疾患につながりうる。

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(図2) オートファジー経路の分子調節機構。上のオートファゴソーム形成の調節と下のオートファゴソーム延長と成熟の調節に分けられる。

オートファジーの機能
オートファジーは、代謝前駆物質の再生と細胞内不要物の消去を行うことにより細胞機能を維持するという、ストレス下の生存メカニズムとして機能している。最近、オートファジーを受ける基質の選択性が同定され、これらは細胞内輸送機関(cargo)に特異的な因子によって調節されていることが明らかになってきた。オートファジーは、ミトコンドリアや他の細胞内小器官(endoplasmic reticulum やperoxisomes)のターンオーバーに関わっている(ミトコンドリアターンオーバーに関するものはmitophagy)。さらにストレスや加齢、蛋白構造の異常などで蓄積するポリユビキチン化された凝集体蛋白(protein aggregate)の消失(aggrephagy)や、脂質代謝(lipophagy)にも関わっている。

オートファジーは主に、細胞死を予防する保護的メカニズムとして作用している。そのため、オートファジー調節因子とアポトーシス調節因子の相互作用が認められている(BCL-2とBeclin 1、KC3BとFasの相互作用など)。オートファジーが過剰であっても、逆に障害されていてもそれだけでは直接細胞死を起こすわけではないが、両者はアポトーシスを介する細胞死に関連があると考えられている。

感染下では、オートファジーは細胞内細菌やウイルスの分解により(xenophagy)、免疫反応を助ける作用がある。オートファジーは、ウイルス感染に対するインターフェロン反応や病原体に対する炎症性サイトカイン反応といった炎症反応を低下させ、インフフラマソーム依存性の炎症性サイトカイン(IL-1βやIL-18)の産生を抑制する。オートファジーは、抗原提示やリンパ球発生といった獲得免疫反応においても重要な役割を果たしている。また、オートファジーは自己寛容T細胞レパトアの生成も促進し、炎症および免疫機能全体の調節に関わっている。

疾患におけるオートファジー
(1) 癌

オートファジーは癌の発生と進展にさまざまな影響を及ぼし、その化学療法に対する治療効率にも関係している。ヒト乳癌、子宮癌、前立腺癌の40-75%で、Beclin 1遺伝子(BECN1)の単一対立遺伝子性(monoallelic)の異常が起きている。腫瘍組織でBeclin 1の発現異常は、癌の予後不良と関連がある。マウスではBecn1のmonoallelicな欠失(Becn1+/-)は発癌につながるため、Beclin 1は腫瘍抑制蛋白と考えられている。その他のオートファジー関連蛋白(Uvrag、Bif1)やオートファジー蛋白(Atg4C、Atg5、Atg7)は腫瘍抑制機能をもつ。また、既知の腫瘍抑制蛋白(PTEN、TSC1/2、LKB1、p53)はオートファジーを刺激する。Beclin 1-依存性オートファジー機能は、AKT活性化を通じてヒトの癌を抑制すると考えられている。前立腺癌におけるATG5の発現増加のように、他のオートファジー蛋白の発現の変化もヒト癌で認められる。

オートファジーは、代謝ストレスに対してミトコンドリアターンオーバーを増加させ、蛋白凝集体消失を促進することにより、発癌抑制機能を持つと考えられている。オートファジー蛋白を遺伝的に欠損させると、ミトコンドリア機能異常および酸化ストレス増加が起こり、炎症性刺激に対する感受性が増加し、DNA傷害と遺伝的不安定性をもたらされる。その一方で、腫瘍組織では、オートファジーが腫瘍の生存に有利に働くことも知られている。高い増殖能と血行不良によって低酸素状態にさらされている腫瘍組織は代謝ストレス下にあり、化学療法はこれを利用して腫瘍細胞を攻撃する。ここでオートファジーを阻害すると(ATG5、ATG7の欠損など)、化学療法の効率が上昇する。すなわち、逆に考えればオートファジーは腫瘍細胞の化学療法に対する抵抗性を増加させていることが分かる。このように腫瘍細胞においてオートファジーは化学療法に対抗すると同時に、それとは逆にオートファジー関連細胞死経路によって化学療法の細胞毒性を増強することも一方では知られている。このオートファジー蛋白と腫瘍の化学療法抵抗性の間の複雑な関係については、さらなる検討が必要であろう。

(2) 神経変性疾患
神経変性疾患は、蛋白の遺伝子変異や異常蛋白の消失メカニズムの障害によって、ミトコンドリア機能異常と蛋白凝集体の蓄積が起こることが原因である。すなわち、神経変性疾患ではオートファジーの障害が起きていると考えられる。例えば、アルツハイマー病の脳にはオートファーゴソームの蓄積が増加している。また、マウスのオートファジー蛋白の欠損モデルでは、神経変性疾患の発症は蛋白凝集体の蓄積に関連がある。薬物でオートファジーを刺激すると、これらのモデルの神経変性に伴う症状が緩和される。ハンチントン病と関連するポリグルタミン疾患では、変異した(mutated) huntingtin(mhtt)がニューロンの核周囲の細胞質に凝集して核内封入体を形成しているが、この過程でオートファジー経路の障害が見られる。最近、mhttがオートファーゴソームの細胞内輸送体の認識を直接障害し、オートファジー経路の障害を起こすことが報告された。アルツハイマー病では、過剰にリン酸化したtau蛋白の蓄積が見られ、これが神経原線維濃縮体の形成と神経斑におけるβ amyloid peptide (Aβ)の蓄積をもたらしている。Aβはリソソーム機能を障害し、オートファジーによるAβの消失は抑制されている。さらにγ-secretaseとその関連酵素を含むオートファーゴソームは、前駆体からのAβ産生に関与しており、オートファーゴソーム-リソソーム融合の障害の条件下でのAβ源となっている。パーキンソン病では、ミトコンドリア機能異常と神経変性と関連が示されている。機能異常をきたしたミトコンドリアはターンオーバーのためにオートファーゴソームに輸送されるが(mitophagy)、この過程はPINK1およびParkinにより調節されている。これらの蛋白の遺伝子変異は、劣性家族性パーキンソン病の原因となる。散発性パーキンソン病はα-synuclein凝集体(Lewy小体)が蓄積し、これがミトコンドリア機能異常を起こす。α-synucleinはオートファジーを受ける基質であるが、この蛋白の蓄積自体がオートファジーを障害し、自身の消失を阻害していることが分かっている。

(3) 感染性疾患
細菌(A群Streptococcus、Mycobacterium tuberculosisShigella flexneri
Salmonella enterica Listeria monocytogenes,、Francisella tularensis)、ウイルス(HSV-1、chikungunya virus)、寄生虫(Tocoplasma gondii)は、in vitroにおいてxenophagyによって分解される。マクロファージ特異的にAtg5を欠損させたマウスは、M. tuberculosis感染を受けやすい。薬剤によりオートファジーを亢進させると、細胞内の病原体がオートファーゴソームに輸送される。細菌の毒性因子は宿主のオートファジーを抑制するが、この毒性因子を阻害することは新たな感染性疾患の治療戦略となりつつある。Sirolimus (従来名はrapamycin)はmTOR抑制により、オートファジーを亢進させ、ヒト免疫不全ウイルスやM. tuberculosisの複製を阻害する。また、前述のようにオートファジーは獲得性免疫の調節にも重要であり、オートファジーを亢進させる治療はワクチン開発にも有用である。オートファジー遺伝子は、感染性・炎症性疾患への感受性に関連しているということがわかってきた。ヒトのGWASによってオートファジー調節遺伝子(ATG16L2、NOD2、IRGM)のSNPsとCrohn病のリスク増加が関連していることが示されている。IRGMのSNPsはヒトにおいてM. tuberculosis感染と関連がある。このように、オートファジーの異常と炎症性・感染性疾患の関連が指摘されている。

(4) 心血管疾患
LAMP2(オートファーゴソームとリソソームの融合を促進する蛋白)の遺伝性X染色体連鎖欠損は、Danon病として知られる心筋症を引き起こす。この患者の心筋細胞の異常はミトコンドリア機能異常とオートファーゴソーム数の増加である。実験的な、虚血再灌流傷害はオートファジーの異常を起こし、ATP欠乏、低酸素、Ca2+バランスの変化などをもたらす。動脈硬化性プラークのマクロファージでは、オートファーゴソームの数が増加している。オートファジーは、動脈硬化プラークをマクロファージのアポトーシスを予防することで安定化させる。

(5) 代謝疾患

オートファジーはさまざまな代謝前駆物質を再生し放出するので、組織の代謝には大きな影響を与える。例えば、オートファジー蛋白の遺伝的欠損では肝の脂肪滴のトリグリセリド蓄積が促進され、p62/SQSTM1の変異は骨代謝異常のPaget病と関連している。運動により筋・脂肪組織・膵β細胞でのオートファジーは亢進し、運動によるオートファジー亢進は高脂肪食による耐糖能異常を改善する。脂肪細胞特異的なオートファジー蛋白(Atg7)欠損では、脂肪分化が変化し(褐色脂肪組織増加につながり)インスリン感受性が亢進する脳のAgRPニューロンでのオートファジー欠損では、摂食調節異常が起きる。

(6) 肺疾患
COPD患者の肺では、LC3B-II発現とオートファーゴソーム形成が増加している。また、LC3Bを欠損させたマウスにタバコの煙を長期に吸入させても、肺気腫は起こりにくい。嚢胞性線維症(cystic fibrosis, CFTR変異)の発症機構に、凝集蛋白の消失(aggrephagy)の障害が関与している。喘息の発症とオートファジーについてはよく分かっておらず、オートファーゴソーム増加とATG5発現の増加などが報告されている。

(7) 加齢
オートファジーは、不要な蛋白のターンオーバーと障害を受けた細胞内小器官の除去を行うため、加齢にとって非常に重要な役割を果たしている。加齢は、オートファジーの低下(ATG5ATG7BECN1発現の低下)でもあり、老廃物(リポフスチン色素やユビキチン化された蛋白凝集体)の蓄積が起きている。カロリー制限はこの加齢依存性のオートファジー低下を抑制する。

オートファジーの臨床応用
現在のところ、オートファジーの理解がまだ不十分で、オートファジーを特異的に促進する化合物もないため、ヒトの疾患でオートファジーをターゲットにした治療は限られている。限られた治療薬剤としては、ビタミンD、AMPK活性化薬、sirolims (mTOR阻害薬)などが挙げられる。ヒストン脱アセチル化酵素(Sirtuin-1, HDAC1, 2, 6)はオートファジーを調節し、HDAC阻害剤やリソソーム酸性化剤(クロロキン、ヒドロキシクロロキン)もオートファジーを調節する。これらは、癌に対する化学療法の効率を増加させるとして乳癌や前立腺癌、膵β細胞腺癌、非小細胞肺癌に対する臨床試験が行われている。オートファジーのメカニズムがさらに理解されれば、新しい診断・治療薬剤の同定につながるだろう。
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by md345797 | 2013-02-25 03:08 | シグナル伝達機構

肥満によるmiR-802過剰発現は、ヒトMODY5の原因遺伝子Hnf1b発現抑制を介して糖代謝を阻害する

Obesity-induced overexpression of miR-802 impairs glucose metabolism through silencing of Hnf1b.

Kornfeld JW, Baitzel C, A. Könner AC, Nicholls HT, Vogt MC,Herrmanns K, Scheja L, Haumaitre C, Wolf AM, Knippschild U, Seibler J, Cereghini S, Heeren J, Stoffel M, Brüning JC.

Nature 494,111–115, 07 Feb 2013.

【まとめ】
いくつかのmiRNA(miR-143miR-181miR-103 とmiR-107)には、肝のインスリン抵抗性を変化させる働きがあることが知られている。この研究では、肥満マウスモデルおよび肥満のヒトの肝でmiR-802の発現が増加していることを明らかにした。誘導性のmiR-802過剰発現トランスジェニックマウスは耐糖能異常とインスリン抵抗性を示し、miR-802をターゲットにしたlocked nucleic acids (LNA)を用いてmiR-802発現を減少させるとインスリン抵抗性は改善した。さらに、miR-802によるsilencingのターゲットは Hnf1b (別名Tcf2)であり、shRNAにより肝のHnf1bをノックダウンすると耐糖能異常とインスリン抵抗性、肝糖産生増加が起こった。逆に、db/dbマウスの肝にHnf1bを過剰発現させるとインスリン抵抗性が改善した。以上より、肝のmiR-802の発現増加は「肥満に伴うインスリン抵抗性」の一因であり、そのメカニズムはmiR-802によるHnf1bの減少を介することが示された。


【論文内容】
肥満にはインスリン抵抗性や2型糖尿病が伴うが、その際に変動するmiRNAを同定するため、肥満のモデルマウス(高脂肪食負荷、およびLepr db/dbマウス)とそれぞれのコントロールから採取した肝のRNAで、miRNA マイクロアレイを用いて「miRNome」発現プロファイルの検討を行った。肥満で増加するmiRNAの中には、既知のmiR-103/miR-107, miR-143, miR-335が含まれたが、さらに新しいものとしてmiR-802の増加を同定した(高脂肪食で5.5倍、db/dbで30倍に増加)。このmiR-802は正常ヒト肝に比べ、過体重(BMIが25を超える)ヒトの肝でも発現が有意に増加していた。

まず、miR-802をhepatome細胞株であるHep1-6細胞に過剰発現させたところ、インスリンによるAktリン酸化が低下、インスリンシグナル伝達抑制に働くSocos1とSocs3の発現が増加した。さらに、G6pcの発現も増加しており(肝の糖産生亢進に向かうため)、インスリン抵抗性亢進に働くことが分かった。次に、in vivoでのmiR-802過剰発現の効果を調べるため、Dox誘導性のmiR-802過剰発現トランスジェニックマウス(miR-802マウス)を作製した。このマウスは、Doxの誘導により全身でmiR-802の発現が増加する。このマウスはmiR-802過剰発現により、耐糖能とインスリン抵抗性が悪化し、HOMA-IRが増加した。

また、肥満マウスでmiR-802発現を減少させるため、miR-802をターゲットにしたlocked nucleic acids (LNA)を作製して、高脂肪食負荷マウスに注入した。その結果は高脂肪食マウス肝のmiR-802発現は80%減少した(なお、他の臓器、骨格筋、膵、白色脂肪組織、視床下部などのmiR-802発現の減少はわずかだった)。この高脂肪食負荷miR-802発現抑制マウスの耐糖能障害、インスリン抵抗性は改善しており、正常血糖高インスリンクランプによって、インスリンによる骨格筋・WATの糖取り込みは変化しなかったが、肝糖産生抑制は改善(p=0.065)、G6pc発現は低下、Aktリン酸化は亢進した。以上より、miR-802の発現抑制は、主に肝のインスリン作用改善を介して全身のインスリン抵抗性改善をもたらすことが示された。

次に、バイオインフォマィテックスの手法を用いて、miR-802のターゲットとなるmRNAを同定したところ26のターゲット遺伝子が得られ、その中にhepatocyte nuclear factor 1 beta (Hnf1b; 別名transcription factor 2, Tcf2。ヒトのHNF1B遺伝子に相当)が含まれていた。ヒトのHNF1BはMODY type5の原因遺伝子であり、GWASでもHNF1Bのvariantは2型糖尿病発症に関連していることが知られている。miR-802の過剰発現でHepa1-6細胞にtransfectしたHnf1b 3’ UTRのluciferase活性が低下し、miR-802結合部位の変異によりその低下は回復した。 Hepa1-6細胞でのmiR-802過剰発現によりHnf1b蛋白発現も増加した。miR-802発現が増加しているdb/dbマウスでは、肝のHnf1b蛋白発現は50%低下しており、anti-miR-802 LNAによってこれは回復した。Hepa1-6細胞でshRNAを用いてHnf1bをsilencingするとG6pcとPck1の発現はぞうか、およびSocs1とSocs3発現が増加した。肝細胞(in virtoとin vivo)において、Hnf1bはmiR-802の転写後silencingターゲットであることが示された。

なお、Hnf1bのヘテロ欠損マウス(Hnf1b+/−)ではHnf1b mRNAの低下はほとんどなく、蛋白発現量はコントロールと同じであった。このマウスでは肝のmiR-802発現は低下しており、そのためにHnf1b蛋白量の低下が見られなかったのかもしれない。そこで、急性にHnf1b蛋白を減少させるため、Hnf1bをターゲットとしたshRNAを含むアデノウイルス(Ad-shHnf1b)をマウスに静注し、肝のHnf1b mRNAを40%減少させた。このマウスでは耐糖能、インスリン抵抗性は大きく悪化していおり、インスリンによるAktリン酸化も障害されていた。このマウスの肝から単離したmRNAのマイクロアレイ解析によると、Hnf1bの発現低下に伴って糖新生、脂肪酸のβ酸化、酸化的リン酸化、TCA回路の遺伝子発現増加が認められた。qRT–PCR解析では、Pgc1a発現誘導により、糖新生遺伝子であるPck1とG6pc発現が増加していた。逆にanti-miR-802 LNAを投与した高脂肪食負荷マウスではPck1とG6pcのmRNA発現は減少した。

さらに、Hepa1-6細胞にmiR-802を過剰発現させたところに、アデノウイルスでHnf1bを過剰発現させると、G6pc発現増加は低下(回復)した。同様にdb/dbマウス肝にアデノウイルスでHnf1bを発現させると、インスリン抵抗性が改善した。すなわち、miR-802によって肝のHnf1b発現が低下していたことが、肥満マウスにおける代謝障害の一因になっていたことが分かる。

【結論】
肥満の状態においては、肝でmiR-802が発現し、そのターゲットである肝の転写因子Hnf1b発現が抑制されることにより耐糖能障害・インスリン抵抗性が惹起される。ヒトにおいてはHNF1Bの欠失またはloss-of-functionアリルはMODY type5の原因であり、膵β細胞だけでなくインスリン抵抗性にも関連する。インスリン抵抗性亢進に至る経路は、miR-802発現増加→Hnf1b発現抑制→これによるSocs1、Socs3の転写の増加(de-repression)、によるのかもしれない。いずれにしろ、in vivoにおいて、miR-802とHbf1bを介する糖代謝・インスリン抵抗性の調節経路が明らかになったことは意義深い。さらに、miR-802は、一般的な肥満に伴うインスリン抵抗性と、まれな遺伝病であるMODY5をつなぐ新しいmiRNAとしても注目される。

◇なお、本論文のmiR-802および既報のmiR-143に関しては、Keysotone Symposia (2013. Jan, keystone, CO)にてJens C.Brüningによって発表された。
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by md345797 | 2013-02-07 17:20 | シグナル伝達機構

PTENの機能低下型変異を持つ患者は、肥満だがインスリン感受性が亢進している

PTEN mutations as a cause of constitutive insulin sensitivity and obesity.

Pal A, Barber TM, Van de Bunt M, Rudge SA, Zhang Q, Lachlan KL, Cooper NS, Linden H, Levy JC, Wakelam MJ, Walker L, Karpe F, Gloyn AL.

N Engl J Med. 2012 Sep 13;367(11):1002-11.

【まとめ】
2型糖尿病と肥満と癌は関連があることが知られているが、代謝と細胞増殖の両方に影響する分子としてPTENがある。PTENの機能低下型(loss-of-function)変異は「cancer predisposition syndrome」の原因となる(この一つがCowden症候群である)。本研究では、15名のCowden症候群(PTENのハプロ不全haploinsufficiencyを持つ)患者と15名の対照者のインスリン感受性の違いと、両群各5名ずつの骨格筋・脂肪組織におけるインスリンシグナル伝達について検討した。その結果、PTEN変異を持つ患者は対照者に比べ、インスリン抵抗性が少なく(血漿インスリン値が低値、高インスリン正常血糖クランプ法でグルコース注入率が高値)、脂肪組織でAKTリン酸化の亢進を示していた。なお、PTEN変異患者は、一般のコントロール(2097名の正常対照者)に比べ肥満であった。本研究により、PTEN haploinsufficiencyは肥満をもたらすがインスリン感受性を亢進させるという相反する効果をもたらすことが明らかになった。

【論文内容】
癌抑制因子のフォスファターゼとして知られるPTENは、下図のようにPI3K経路を抑制(PI3Kの産物であるPIP3を脱リン酸化)することにより細胞増殖やインスリンシグナル伝達を抑制する働きがある。
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PTENの機能低下型(loss-of-function)変異は発癌性の遺伝子変異として知られ、ヒトのCowden症候群(cancer predisposition syndromeの一つ)の原因である。マウスモデルでは、Ptenの1コピーを欠損した(Pten haploinsufficiency)マウスは、PI3K-AKT経路の活性化によりインスリン感受性が亢進する。同様に、Ptenを組織特異的に骨格筋脂肪組織膵β細胞で欠損させると耐糖能が改善することが示されている。本研究では、Cowden症候群患者と正常対照者のインスリン感受性の違いを調べた。

15名のCowden症候群患者(PTENの機能低下型変異をもつhaploinsufficiencyを確認している。7名はnonsense変異、2名は欠失、6名はmissense変異である)、および年齢・性別・BMIが対応する15名の対照者(PTEN変異がないことを確認している)を対象とした(人種はいずれも白人の欧州人)。

この2群にOGTTを施行したところ、血糖変動には有意差がなかったが、インスリン値はPTEN変異群で有意に低値(空腹時インスリン値は対照の60%低値、インスリン曲線のAUCは67%低値)、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRは59%低値、インスリン感受性を表すStumvoll index scoreは1.67倍、Matsuda index scoreは2.2倍大きく、インスリン感受性の亢進が示された。なお、各群の対応する5名ずつで高インスリン正常血糖クランプを施行したところ、PTEN変異群のグルコース注入率は約2倍で、クランプによってもインスリン感受性の亢進が認められた。なお、disposition indexから判断した膵β細胞機能は、PTEN変異群15名と対照群15名で有意差は認めなかった(これはマウスの膵β細胞特異的Pten欠損でインスリン分泌が増加するという報告とは相反する結果であった)。

次に、PTEN変異を持つ15名とのBMIと空腹時インスリン値を、一般の2097名のコントロールと比較したところ、PTEN変異群のプロットは一般の集団の5th percentileのあたりに存在し(図のA)、コントロールと同じBMIであっても空腹時インスリン低値(インスリン感受性が高い)ことが示唆された。また、一般のコントロールと比べ、PTEN変異を持つ15名はBMIが高かった(図のB:箱ひげ図の箱は第1四分位数(25 percentile)と第3四分位数(75 percentile)の間を表し、垂直線(ひげ)はデータの範囲を表す)。
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なお、PTEN変異を持つ15名は、年齢・性別・BMIが対応する対照群15名と比較すると、体組成(除脂肪体重、骨量、総脂肪量、脂肪分布)に差はなかった。

また、PTEN変異を持つ群は対照群と比べ、空腹時血漿adiponectin値が有意に低値であり、leptin値や脂質プロファイルには有意差がなかった(インスリン感受性亢進にもかかわらず、adiponectinの上昇や脂質の改善は見られなかった)。

両群のうち各5名で、OGTTの0分と120分で、外側広筋と皮下脂肪組織の生検検体を採取した。その結果、両群の0分で骨格筋のPIP3値、PIP3:PIP2比、AKT発現レベルは同じであった。PTEN変異群の骨格筋でのリン酸化AKTは低値(有意ではない)だったが、脂肪組織のリン酸化AKTは高値(これも有意ではなかったが)であった。なお、PTEN変異群の0分でのPTEN mRNAは、脂肪組織でのみ有意に低下しており、骨格筋では有意な低下はなかった。そのため、脂肪組織でのみリン酸化AKTの低下があったと思われる。なお、両群とも、OGTT120分の骨格筋・脂肪組織でリン酸化AKTは増加していた。以上より、PTEN変異群のインスリン感受性亢進は、(空腹時においては脂肪組織の)PI3K-AKTシグナル伝達の亢進を介する可能性が示唆された。

【結論】
PTENの変異は、Cowden症候群という癌リスク増加傾向と肥満を伴うが、一方でインスリン感受性は亢進させることが示された。

PTENにはPI3K-AKTシグナル伝達を促進することで増殖と代謝を抑制する働きがあると考えられるが、その作用機序はさらに複雑なようである。例えば、全身にPTENを過剰発現させたトランスジェニックマウス(Super-PTENマウス)ではエネルギー産生が増加し、そのマウスの細胞は発癌性形質転換を起こしにくい(glycolysisを抑制するanti-Warburgの状態)という結果が報告されている。

また、本研究のPTEN変異を持つ患者は肥満だが、インスリン感受性は高いという特徴を示している。さらに、インスリン感受性が高いにもかかわらずadiponectinは低値であった。Adiponectin値とインスリン感受性の関連も複雑であり、例えばインスリン受容体の遺伝的変異を持つ患者は、高度なインスリン抵抗性を示すにもかかわらずadiponectinは高値である。本研究のCowden症候群の場合、adiponectin低値は発癌リスクが増加することとは合致するが、インスリン感受性亢進とは合致していない。
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by md345797 | 2012-11-30 07:40 | シグナル伝達機構

PTENはエキソソームにより細胞外に輸送され、レシピエント細胞においてフォスファターゼ活性を示す

The tumor suppressor PTEN is exported in exosomes and has phosphatase activity in recipient cells.

Putz U, Howitt J, Doan A, Goh CP, Low LH, Silke J, Tan SS.

Sci Signal. 2012 Sep 25;5(243):ra70.

【まとめ】
エキソソーム(Exosomes)はエンドソーム由来の微小胞(microvesicle) であり、細胞から外に分泌されて、その内容物である蛋白、脂質、DNA、microRNAsなどが、受け手の(レシピエント)細胞の生理状態を変える。本研究では、通常は細胞質と核に存在すると考えられてきた癌抑制因子であるPTENが、エキソソームにより細胞外に分泌されることを示した。分泌されたPTENは、レシピエント細胞に取り込まれ、その細胞のAktリン酸化を低下させ、細胞増殖を抑制するという作用を発揮する。エキソソームによるPTEN分泌には、Ndfip1(E3ユビキチンリガーゼであるNedd4ファミリーのアダプター蛋白)が必要である。PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要である(ユビキチンリガーゼNedd4-1やNedd4-2だけでは取り込みは起こらない)。さらに、PTENのLysine 13はNedd4-1によるユビキチン化に必要なアミノ酸だが、この Lysine13はPTENのエキソソーム輸送に必要であった。PTENは発生および正常・異常の両方の状態で重要な働きをするが、それには本研究で明らかになったPTENの細胞を超えたフォスファターゼ活性が重要である可能性がある。

【論文内容】
PTENは、PI 3-キナーゼ(PI3K)によって産生されたPIP3を脱リン酸化してPIP2に変換することにより、PI3Kシグナル伝達をスイッチonからoffにするフォスファターゼである。PI3K下流のAktはPIP3によってリン酸化され細胞増殖を促進するため、このシグナル伝達を阻害するPTENは癌抑制(tumor suppression)の機能を持つことがよく知られている。実際、PTEN変異を持つ患者は、脳、乳癌、前立腺、皮膚の腫瘍を起こすことがある。

PTENは通常は細胞質に存在し、PIP3が存在する細胞膜へと移行してフォスファターゼ活性を示すと考えられている。また、PTENは核にも蓄積し、染色体安定性を促進するなどフォスファターゼ活性とは別の作用を及ぼしており、これがPTENの癌抑制作用に重要と考えられてきた。今まで、PTENが細胞外に分泌され、細胞を超えて活性を発揮するということは知られていなかった。

エキソソーム(exosomes)は、後期エンドソームや多小胞体(multivesicular bodies; MVBs)由来の小胞であり、MVBsが細胞膜と融合することにより細胞外分泌を担うことが知られている。エキソソームは、不要になった蛋白、脂質、RNAsなどを細胞外に輸送するための小胞として働いたり、細胞外に蛋白やmRNAsを分泌し細胞間でシグナルを伝達するのに必要と考えられている。エキソソームの働きの例として、癌に対する抗原を細胞外へと輸送し、T細胞がそのエキソソームを取り込むことによって癌に対する免疫が維持されるなどの作用が知られていた。この研究では、癌抑制因子であるPTENがエキソソームによって細胞外に輸送され、標的細胞の増殖抑制を促進するという予想外の結果を報告する。

PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要である
この研究ではまず、mouse embryonic fibroblasts(MEFs)またはHEK293T細胞から3段階遠心プロトコールによって得られたエキソソーム中に、PTENが存在することを発見した。PTENとNdfip1はショ糖勾配において、エキソソームマーカーであるTsg101と同じ分画に出現し、PTENとNdfip1がエキソソームに存在することが分かった。さらに透過電子顕微鏡によりこれらは典型的な大きさと形態をもつエキソソームであることが分かった。このときの細胞は95%以上生存しており、死細胞からのエキソソーム放出ではないことも確認した。

次に、His-tagged PTENとFLAG-tagged Ndfip1をHEK293T細胞に同時にtransfectし、それぞれの抗体による免疫沈降によって、両者が生理的に結合していることを確認した。Ndfip1-/-MEFsではPTENがエキソソームに取り込まれず、そこに外因性にNdfip1を発現させるとPTENがエキソソームに取り込まれたため、PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要であることが分かった。

ユビキチンリガーゼアダプター蛋白Ndfip1がないとPTENのエキソソームへの取り込みは起こらない
Ndfip1はE3ユビキチンリガーゼのNedd4ファミリーのアダプター蛋白であり、Nedd4ファミリーの一つであるNedd4-1はPTENに結合してユビキチン化することが知られている。そこでユビキチンンリガーゼNedd4-1やNedd4-2がPTENのエキソソームへの取り込みに必要かどうかを検討した。HEK293T細胞にNedd4-1またはNedd4-2を過剰発現させてもPTENのエキソソームへの取り込みは促進されず、Ndfip1を同時に発現させたときのみ促進された。したがって、PTENのエキソソームへの取り込みにはNdfip1が必要であり、ユビキチンリガーゼNedd4-1やNedd4-2だけではエキソソームへの取り込みは起こらない。

PTENのユビキチン化部位であるLys13は、PTENのエキソソームへの取り込みに必要である
PTENのLys13は、Nedd4-1によるユビキチン化に重要なアミノ酸である。なお、PTENのユビキチン化部位の変異はPTENの癌抑制作用を障害するため、癌の発症につながることが知られている。HEK293T細胞に、PTENのLys13のグルタミン酸置換体(K13E)と野生型(WT)のPTEN、およびNdfip1を発現させた。その結果、WT PTENを発現させたNdfip1発現細胞ではPTENのエンドソームへの取り込みが見られた。(なお、Ndfip1を発現させなかった細胞では取り込みなし)。それに対し、K13E PTENはNdfip1の有無にかかわらずエンドソームに取り込まれなかった。以上より、PTENのLys13のユビキチン化がエンドソームへの取り込みに必要であると考えられた。

エキソソーム内のNdfip1とPTENはレシピエント細胞に取り込まれた後、機能的に活性を持つ
次に、Ndfip1+/+MEFsより調製したエキソソームを緑色蛍光染色PKH67を用いてラベルし、Ndfip1-/-MEFsに添加した。その結果、レシピエントのNdfip1-/-MEFsで、緑色蛍光染色された外来性のエキソソームが取り込まれているのが観察された。さらに、ドナーMEFs(WTまたはNdfip1-/-)から調製したエキソソームを、Ndfip1+/+およびNdfip1-/-MEFsに添加したところ、Ndfip1+/+MEFs由来のエキソソームのみがレシピエント細胞に取り込まれていることをWestern blottingで確認した。免疫蛍光染色でも、Ndfip1+/+ MEFでの内因性Ndfip1(下図左上:赤く染色されている部分)と、Ndfip1-/- MEFではこれがないことを確認し(下図右上)、Ndfip1を発現させたHEK293T細胞由来のエキソソームを添加したNdfip1+/+ MEFおよびNdfip1-/- MEF(それぞれ左下、右下)の細胞質内にNdfip1が著明に増加して認められることを確認した。
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(図)レシピエントMEFs(左上はNdfip1+/+でNdfip1は赤色、右上はNdfip1-/-)への、ドナーHEK293T細胞のエキソソーム由来Ndfip1の取り込み(左下はNdfip1+/+、右下はNdfip1-/-MEFsで、Ndfip1は赤色)

次に、HEK293T細胞にPTEN-EGFPとNdfip1を発現させ、そのエキソソームを得て、Ndfip1-/- MEFsに添加して培養した。そのレシピエント細胞の細胞質には免疫蛍光染色でEGFPが認められ(下図左上:EGFP抗体で染色=緑)、PTEN染色では内因性PTENとエキソソーム由来のPTEN-EGFP(下図右上:PTEN抗体で染色=赤)が認められた。両画像の重ね合わせで、レシピエント細胞に取り込まれたPTEN-EGFPが認められた(下図左下:重ね合わせ像で赤は内因性PTEN、黄色は取り込まれたPTEN-EGFP)。これはWestern blottingでも同様の結果が確認された。
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(図) レシピエントNdfip1-/- MEFsの、エキソソーム由来PTEN-EGFP(左上緑色)、内因性PTEN(右上赤色)、およびエキソソーム由来PTENの取り込み(左下重ね合わせ像の黄色)

では、レシピエント細胞に取り込まれたPTENはフォスファターゼ活性を持つのか。Ndfip1+/+MEFsまたはNdfip1-/- MEFs由来のエキソソームをレシピエントのNdfip1-/- MEFsに添加し、レシピエント細胞内のAktリン酸化を調べたところ、Ndfip1+/+MEFs由来エキソソームを添加したレシピエント細胞でのみAktリン酸化が著明に低下した。

さらに、U87MG細胞(神経膠芽腫=glioblastoma細胞株、PTEN機能が欠損している)に、Ndfip1発現あり・なしの条件下で、WT PTENまたはフォスファターゼ欠損(C142S) PTENを発現させた。その結果、Ndfip1を発現させた場合のみ、WTとC142S PTENのエキソソームへの取り込みが認められた。そこでこれら2種類のエキソソームを採取して、Ndfip1-/-MEFsに添加したところ、WT PTENを含むエキソソームを添加した場合のみレシピエント細胞のAktリン酸化が低下した。

最後に、PTEN取り込みによるレシピエント細胞のAktリン酸化低下が細胞増殖の低下につながっているかを調べた。MTT細胞増殖アッセイにより、レシピエントのNdfip1-/- MEFsはNdfip1+/+MEFs由来のエキソソームを添加した場合のみ細胞増殖の抑制が起きた。Ndfip1-/- MEFs由来のエキソソームでは(エキソソームにPTENが含まれないと考えられ)、細胞増殖抑制は起きなかった。

【結論】
本研究で明らかになった、エキソソームによる内因性PTENの細胞外への輸送およびレシピエント細胞への取り込み(下図)は、レシピエント細胞のAktリン酸化を低下させ、細胞増殖を抑制する働きを示した。この非細胞自律性(non-cell-autonomous)なPTENの効果発現様式は、癌抑制効果のみならず、発生や代謝にとっても重要なものであるかもしれない。
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(図) 上はPTENを(Ndfip1依存性に)エキソソームに取り込むドナー細胞、下はそのエキソソームを受け取るレシピエント細胞を表す。
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by md345797 | 2012-11-28 01:50 | シグナル伝達機構

Cryptochromeの小分子活性化剤の同定

Identification of Small Molecule Activators of Cryptochrome.

Hirota T, Lee JW, St. John PC, Sawa M, Iwaisako K, Noguchi T, Pongsawakul PY, Sonntag T, Welsh DK, Brenner DA, Doyle III FJ, Schultz PG, Kay SA.

Science. 337(6098) 1094-1097. August 31, 2012.

【まとめ】
概日時計の障害は、代謝疾患を含む多くの疾患の原因となりうる。時計蛋白の選択的ターゲット化合物がいくつか同定されており、これらは時計機能を改善し疾患の治療に役立つ可能性がある。この研究では、unbiased cell-based circadian phenotypic screenにより、cryptochrome(CRY)に特異的に結合する小分子、KL001を同定した。KL001は、ubiquitin依存性のCRYのdegradationを防ぐことにより、概日周期を増強する。KL001を用いた実験と数学的モデリングと組み合わせて検討したところ、CRY1とCRY2は概日調節において同様の機能的役割を担っていることが分かった。さらにKL001によりCRYを安定化すると、初代肝細胞においてグルカゴンによる糖新生が抑制された。小分子化合物KL001は、CRYによる時計の調節機構の解明と時計遺伝子に基づく糖尿病治療の開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
概日リズムは、転写因子CLOCKとBMAL1がPeriod (Per1、Per2)とCryptochrome (Cry1、Cry2)の転写を活性化させ、PERとCRY蛋白がCLOCK-BMAL1を抑制するというフィードバックループによるリズミックな遺伝子発現によって発生する。肝での糖産生は、肝糖新生遺伝子(Pck1、G6pc)がCRYおよび核内受容体REV-ERBの影響を受けることにより、概日調節を受けている。この時計機能が遺伝的変異や環境因子(シフトワークや時差など)によって障害を受けると、睡眠障害、がん、心血管疾患や代謝疾患の原因となるため、時計機能を調節する小分子化合物はそれらの治療に有用と考えられてきた(casein kinase I阻害剤であるlongdaysinREV-ERBの合成リガンドなど)。本研究では、CRY蛋白に特異的に作用する小分子を同定し、これが肝糖新生を調節することを示す。

カルバゾール誘導体KL001は時計周期を延長する
時計遺伝子を調節する分子を同定するために、約60,000の化合物のライブラリーを、Bmal1-dLuc luciferaseレポーターを組み込んだヒト骨肉腫細胞U2OS細胞株を用いてスクリーニングした。そのうち、3種のカルバゾール誘導体(KL001、KL002、KL003)が、この細胞に対して用量依存的に時計周期の延長と振幅の減少をもたらすことが示された。なお、これらの化合物はBmal1-dLuc細胞に比べるとPer2-dLuc細胞のベースのレポーター活性を低下させた。さらに、Bmal1-dLucおよびPer2-dLucレポーターを組み込んだマウスNIH-3T3線維芽細胞、mPer2Lucレポーターをノックインしたマウス視交叉上核(SCN)と肺の組織片に対するKL001の効果を検討したところ、KL001は濃度依存性に、時計周期の延長とPer2レポーターのシグナル減弱をもたらした。

KL001はCRY1とCRY2に結合する
Affinity-based proteomic approachを用いて、KL001の分子ターゲットを調べたところ、KL001の結合蛋白としてCRY1が同定された。さらに抗体を用いてCRY2にも結合することが示された。Flag-tagged時計蛋白を発現させたHEK293T細胞の抽出物とKL001-agarose conjugateとの結合により、KL001はCRY1、CRY2とは結合するが、PER1、PER2、CLOCK、BMAL1とは結合しないことが分かった。CRYのcofactorであるflavin adenine dinucleotide (FAD)を過剰量添加すると、KL001 affinity resinとCRY1との結合が阻害され、CRY1のFAD結合部位の変異体はKL001 affinity resinにごく弱くしか結合しなかったため、KL001はCRYに(FAD結合部位を介して)選択的に結合すると考えられた。

KL001はCRY蛋白を安定化させる
次に、mPer2LucレポーターをノックインしたCry欠損マウス繊維芽細胞に対するKL001の効果を検討した。WT細胞ではKL001によりmPer2Luc活性が減少したが、Cry1/2欠損細胞では減少が見られなかった。さらに、CRY上のCLOCK-BMAL1結合部位(E2 enhancer element)の変異があると、KL001によるPer2レポーター反応は消失した。以上より、KL001はCRYおよびE2 enhancer依存的に、CRYによるPer2の抑制を促進すると考えられた。

また、U2OS細胞にKL001を添加すると、濃度依存性に内因性のPer2 mRNAの発現が減少した。KL001添加後のPER1蛋白量はPer1 mRNA発現減少と並行しているが、CRY1とCRY2の蛋白量はそれぞれ増加か同程度であり、mRNA発現と並行していない。そこで、KL001がCRY蛋白を安定化する作用があるのではないかと考えた。CRY1-luciferase融合蛋白 (CRY1-LUC)を発現させたHEK293T細胞を用いて、CRY1の半減期に対するKL001の影響を検討した。その結果、KL001は容量依存的にCRY1-LUCの半減期を増加させたが、FAD結合部位の変異体(KL001が結合しないCRY1)の半減期には影響はなかった。KL001とKL002は、CRY1とCRY2の半減期を増加させたため、これらの化合物はCRY安定化を介して時計周期の延長をもたらしていると考えられた。CRY蛋白は、E3 ubiquitin ligase complex SCFFBXL3のターゲットであり、ubiquitin-proteasome 経路を介してdegradationを受けるため、KL001によるCRY1 ubiquitinationへの効果をin vitroで検討した。その結果、KL001(50 μM)はCRY1のubiquitinationを阻害し、上記のKL001が結合しない変異体CRY1ではその効果は見られなかった。また、U2OS細胞で、FBXL3をsiRNAを用いて欠損させると、KL001のPer2レポーターへの効果が減弱した。以上より、KL001は、FBXL3- およびubiquitin-依存性のCRY蛋白のdegradationを阻害することが示された。

KL001によりCRYアイソフォームの役割とその肝糖新生調節機構が明らかになった
KL001によるCRY安定化がどのように時計周期延長をもたらすのか、また、CRYアイソフォーム(CRY1、CRY2)のredundantな役割について検討するために、数学的モデリングを用いた検討を行った。まず、PER-CRYネガティブフィードバックループの単純な数学的モデルを作成したところ、このモデルでCry1およびCry2のそれぞれの用量依存的なノックダウンによる時計周期短縮および延長、細胞質CRY2の安定化による周期短縮が再現できた。KL001依存性のCRY安定化による周期延長については、このモデルではCRY1安定化が核で起きることが予測された。実際、KL001を添加したU2OS細胞においてCRY1とCRY2蛋白の量は、核分画でそれぞれ増加および同程度であった。さらに、Cry1欠損状態での核内CRY2の、Cry2欠損状態で核内CRY1の安定化は、in silicoの検討でどちらも時計周期の延長をもたらした。この予測と一致して、KL001をCry1欠損およびCry2欠損線維芽細胞に添加したところ、用量依存的に周期延長が認められた(CRY1、CRY2をノックダウンしたU2OS細胞や、Cry1欠損マウスおよびCry2欠損マウスのSCN組織片にKL001を添加した場合でも同様の結果が得られた)。CRY1とCRY2のどちらのCRYアイソフォームも同様の周期調節の機能をもつが、それぞれの欠損によって自由継続周期(free-running periods)が異なり、核内CRY1/CRY2比によって時計周期は二方向性に調節される。すなわち、CRY1がより多いと周期が長くなり、CRY2がより多いと周期が短くなる。(CRY1が長周期のCLOCK-BMAL1の抑制を担い、CRY2はより短周期の抑制を担うと考えられる。)

肝において、CRY蛋白は、空腹時のホルモンによるPck1G6pc遺伝子(糖新生の律速酵素)の転写を負に調節している。そこで、マウス初代肝細胞にKL001を添加すると、これらの遺伝子発現がどのような影響されるかを検討した。その結果、KL001は、グルカゴン依存性のPck1G6pc遺伝子発現を用量依存的に抑制した。これに伴い、グルカゴン依存性の糖産生活性化も抑制された。したがって、KL001は、空腹時のホルモンによる糖新生の調節(抑制)に有用であろう。なお、ヒトのゲノムワイド関連研究では、CRY2遺伝子座は空腹時血糖と2型糖尿病に関連が見られており、KL001が糖尿病治療に有用な薬剤として用いられる可能性が考えられる。
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by md345797 | 2012-08-31 23:24 | シグナル伝達機構

SirT1依存性のPparγ脱アセチル化による、白色脂肪組織の褐色化

Brown Remodeling of White Adipose Tissue by SirT1-Dependent Deacetylation of Pparγ.

Qiang L, Wang L, Kon N, Zhao W, Lee S, Zhang Y, Rosenbaum M, Zhao Y, Gu W, Farmer SR, Accili D.

Cell. 150 (3), 620-632, 3 August 2012.

【まとめ】
褐色脂肪組織(BAT)は蓄積されたエネルギーを熱として放散するため、白色脂肪組織(WAT)を褐色様形質に転換させること(browning、褐色化)は、肥満の重要な治療戦略となりうる。本研究によって、SirT1(NAD+依存性脱アセチル化酵素)のgain-of-function、またはその内因性阻害蛋白であるDbc1のloss-of-functionは、WATの褐色化を促進することが分かり、それは、PparγのLys268とLys293の脱アセチル化を伴うことが明らかになった。このSirT1依存性のPparγ Lys268とLys293の脱アセチル化は、BAT分化のcoactivatorであるPrdm16のPparγへの結合に必要であり、BAT遺伝子の発現増加とインスリン抵抗性をもたらす内臓WAT遺伝子の発現抑制をもたらした。また、脱アセチル化が起こらないPparγ変異体は白色脂肪細胞に褐色様形質をもたらし、逆にアセチル化を模倣したPparγ変異体では「白色」遺伝子の活性化を保持し「褐色」遺伝子の発現が起こらなかった。以上より、SirT1依存性のPparγの脱アセチル化は白色脂肪細胞の褐色化をもたらすことが明らかになり、このことが肥満治療に有用である可能性が示された。

【論文内容】
エネルギーを蓄積する白色脂肪組織(WAT)を、エネルギーを熱として消費する褐色脂肪組織(BAT)様に転換させること(browning、褐色化)は肥満治療において有用と考えられる。マウスのWATを褐色化させるためには、ホルモンやサイトカインによる方法(Irisin、Fgf21)や転写因子調節による方法(Prdm16、FoxC2、RIP140、4E-BP1、TIF2、pRb、p107)が知られているが、これらを臨床に応用する方法の確立が必要である。白色脂肪細胞において、Pparγをthiazolidinediones (TZDs)によって活性化させると、褐色脂肪特異的遺伝子(褐色遺伝子)発現が増加し、内臓WAT遺伝子(白色遺伝子)発現が抑制されることにより褐色化が誘導されるが、そのような治療を進めるにはTZDの副作用も問題となっている。また、SirT1(NAD+依存性脱アセチル化酵素)を活性化させることによりミトコンドリア生合成や活性が促進されることから、SirT1がBAT機能を調節している可能性がある。SirT1のgain-of-function変異は、in vivoでPparγリガンドのインスリン感受性亢進機能を模倣することも知られている。これらのことから、Pparγの褐色化促進効果はSirT1依存性の脱アセチル化を介するのではないか、SirT1はTZDsと同様の褐色化効果をもたらすのではないかと考え、以下の検討を行った。

SirT1はリガンド依存的にPparγを脱アセチル化する
まず、PparγとSirT1を発現させた293細胞をrosiglitzoneで刺激したところ、Pparγのアセチル化(Acetyl-Lys抗体でblot)が減少した。また、PparγのアンタゴニストGW9662を添加するとPparγとSirT1の結合が低下した。Pparγのアセチル化はアセチル化酵素であるCbpで増強され、逆にSirT1過剰発現やresveratrolによるSirT1活性化によって減少した。精製したSirT1とアセチル化したPparγを用いてin vitro脱アセチル化アッセイを行ったところ、WTのSirT1はPparγをNAD+依存性に脱アセチル化した(SirT1の不活性型変異体(H363Y)はPparγを脱アセチル化しなかった)。したがって、SirT1はPparγを脱アセチル化の基質であり、SirT1によるPparγ脱アセチル化にはPparγのリガンド結合が必要と考えられた。さらに、精巣上WATおよび鼠径部WATのlysateのPparγ免疫沈降物からSirT1が検出され、SirT1トランスジェニックマウス(SirT1 Bacterial Artificial Chromosome Overexpressor transgenic mice (SirBACO))の鼠径部WATのSirT1の免疫沈降物にPparγが認められたため、SirT1とPparγの結合はin vivoにおける生理的なものと考えられた。

SirT1はPparγリガンドの白色遺伝子・褐色遺伝子への効果を模倣する
TZDsもSirT1もPparγアセチル化を減少させるため、SirT1のgain-of-functionはTZDsによるPparγ活性化を模倣するのではないかと考えた。TZDの効果としてインスリン抵抗性をもたらす内臓WAT遺伝子(白色遺伝子)の発現を抑制することが知られているが、3T3-L1白色脂肪細胞にresveratrolを投与してSirT1を活性化しても同様の効果が認められた(白色遺伝子であるAngiotensinogen (Agt)、 ResistinWdnm1LChemerinPank3の発現が抑制)。これらはSirT1の不活性型変異体(H363Y)では抑制されなかった。次にHIB-1B細胞(Ucp1、SirT1およびSirT1阻害蛋白であるDbc1の発現が3T3-L1細胞よりも皮下脂肪組織に近い褐色脂肪細胞株)を用いて、褐色遺伝子に対するSirT1とPparγリガンドの影響を比較した。ResveratrolによるSirT1の活性化、またはtroglitazoneによるPparγの活性化によって、Ucp1発現は増加し、それぞれSirT1阻害剤(nicotinamide)およびPparγアンタゴニスト(GW9662)によって抑制された。WT SirT1の過剰発現はPparγアセチル化を低下させて褐色遺伝子(Ucp1Dio2)を増加させたが、SirT1の不活性型変異体の過剰発現は逆の効果をもたらした。以上より、SirT1のPparγ脱アセチル化活性は褐色遺伝子発現増加と白色遺伝子発現抑制に必要であり、リガンドが結合したPparγの効果を模倣していることが明らかになった。

SirT1は皮下WATの褐色化をもたらす
マウス脂肪組織(精巣上WAT、鼠径部WATおよびBAT)において、SirT1と褐色遺伝子の発現には正の相関があり、 SirT1阻害蛋白Dbc1と褐色遺伝子の発現には負の相関があった。そこで、SirT1活性を調節した3つのモデルマウス、すなわち、Sirt1欠損マウス(Sirt1-/-)、SirT1活性亢進マウス(Dbc1-/-)、SirT1過剰発現マウス(SirBACO)を用いて、SirT1と褐色化の関連について検討した。Sirt1-/-マウスはBATのUcp1レベルは正常だったが、鼠径部WATのUcp1は減少しており、SirT1が皮下WATにおける熱産生に必要であることが示された。Dbc1-/-マウスの熱産生を増加させるため4℃に寒冷曝露したところ、通常は単胞性(unilocular)の鼠径部WAT脂肪細胞が、Ucp1陽性で脂肪胞の少ない(paucilocular)脂肪細胞が増加し、褐色遺伝子(Ucp1C/ebpβ)の発現が増加、白色遺伝子(Chemerin, Resistin)の発現が抑制された。すなわち、Dbc1-/-マウスの皮下白色脂肪細胞は寒冷曝露に伴って褐色化した(なお、BATにおけるUcp1発現は変化なかった)。SirBACOマウスを同じく4℃に寒冷曝露した場合にも同様の変化が認められた。以上より、SirT1は鼠径部WATを褐色化させる役割を担っていると考えられた。

SirT1のgain-of-functionとPparγリガンドは、インスリン感受性亢進に関して重複した効果をもたらす
加齢Dbc1-/-マウスでは耐糖能異常が見られたが、このDbc1-/-マウスを軽度の低温(12℃)に4週間置くと、耐糖能が改善した。SirBACOマウスでも鼠径部WATの脂肪細胞がサイズが小さく、脂肪胞が小さく、多く(multilocular)なり、Ucp1陽性のものが増加し、褐色遺伝子発現が増加した。高脂肪食を負荷したSirBACOマウスの鼠径部WATでは、高脂肪食負荷したコントロールマウスに比べてインスリン抵抗性関連遺伝子の発現が低下していた。高脂肪食を負荷したSirBACOマウスは高脂肪食を負荷したコントロールマウスに比べインスリン抵抗性が低下していたが、ここにrosiglitazoneを投与してもSirBACOマウスのインスリン抵抗性がさらに改善することはなかった。したがって、SirT1増加による効果とPparγリガンドによる効果はオーバーラップしていることが示唆された。

SirT1はPparγのLys268とLys293を脱アセチル化する
次に、Pparγ上のSirT1によって脱アセチル化される部位の同定を試みた。Trypsin-およびchymotrypsinによって分解したPparγのペプチド断片をHPLC/MS/MS解析することにより、脱アセチル化されるのはLys268とLys293であることが分かった。以前より、P467L変異Pparγを持つヒトは高度のインスリン抵抗性を示すことが知られていたが、P467L変異Pparγは過剰にアセチル化されており、SirT1との結合が阻害されていた。この変異にさらにLys268とLys293の変異を起こすとアセチル化が大きく減少することから、P467L変異に伴うアセチル化部位はこの2つのLysであると考えられた。

Pparγアセチル化の生理的調節
鼠径部WATのPparγアセチル化は、寒冷曝露による褐色遺伝子活性化の際に減少していたが、高脂肪食によるインスリン抵抗性に伴って増加していた。この高脂肪食によるPparγアセチル化の増加は、SirT1との結合低下を伴っており、rosiglitazone投与、Dbc1欠損、SirT1過剰発現によって回復する。ヒト皮下脂肪組織にresveratrolを添加した場合のSIRT1活性化もPparγアセチル化を減少させた。これはresveratrolのヒトへの投与でインスリン抵抗性が改善することと一致する。

Pparγアセチル化部位変異体のBAT様機能
Swiss-3T3 fibroblastsに、WT Pparγ、アセチル化模倣K293Q(KQ)、脱アセチル化模倣K293R(KR)、2か所の脱アセチル化模倣K268R/K293R(2KR)のそれぞれのPparγ変異体を発現させた。WT PparγおよびKRを発現したfibroblastは通常に脂肪細胞に分化したが、KQを発現させた場合は分化が遅かった。2KRを発現させたfibroblastは、WT Pparγを発現させたものより脂質蓄積が多く、adiponectinの発現が多く、脂肪分化を抑制するβ-cateninのdegradationが促進されていた。すなわち、Pparγの十分な活性化には、脱アセチル化が必要であると考えられた。ミトコンドリア呼吸はKQ発現で抑制され、2KR発現で増加していた。2KRは、褐色遺伝子(Ucp1Elovl3CideaCox7aPgc1α)の活性化作用がWT Pparγより強かった。逆にKQの発現によりこれらの遺伝子発現が抑制された。また、TZD反応性遺伝子であるFgf21も同様にKQの発現で抑制され、2KRの発現で活性化された。以上より、SirT1によるPparγ Lys268とLys293の脱アセチル化は、TZDによる白色脂肪細胞の褐色化を促進すると考えられた。

SirT1依存性の脱アセチル化は、Pparγのcoactivator/corepressor交換を調節する
PparγのSer273リン酸化はPparγ活性を調節している(TZDによりSer273が脱リン酸化されることに伴い、adiponectin発現が増加する)。興味深いことに、Ser273リン酸化はLys293のアセチル化とのみ並行しているが、Lys268とは並行していない。PparγのS273A(SA=Ser273がリン酸化されない)またはS273A/2KR(AR=Ser273がリン酸化されず、2つのLysがアセチル化されない)変異体をそれぞれSwiss-3T3細胞に過剰発現させると、両者のadiponectin発現に対する効果は同じであるが、褐色遺伝子活性化はSAよりもARの方が強い。したがって、Pparγ Lysアセチル化とSer273リン酸化はadipokine産生には協調して作用するが、褐色遺伝子発現には脱アセチル化が作用していると考えられる。

Prdm16は皮下WATを褐色化させる、褐色脂肪細胞系列分化決定のcoactivatorである。Prdm16は、293細胞においてrosiglitazone依存性にPparγに結合した。CbpによってPparγをアセチル化するとPrdm16とPparγの結合が阻害されたが、rosiglitazone添加によってPparγが脱アセチル化されるとPrdm16との結合はその分回復した。アセチル化しないPparγ 2KRは、リガンド結合に関わらず恒常的にPrdm16に結合した。同様に、Cbpによる(Pparγアセチル化に伴う)PparγとPrdm16結合の阻害は、SirT1過剰発現によって(Pparγが脱アセチル化されると)回復した。SirT1のgain-of-functionはPparγとPrdm16との結合を促進したが、PparγアンタゴニストGW9662はこの結合を阻害した。なお、SirT1を発現させたHIB-1B細胞で、Ucp1エンハンサーからのchromatin免疫沈降物から、Prdm16に結合したPparγが検出された(不活性型SirT1 H363Y変異体を発現させた細胞では結合は検出されなかった)。

Pparγの2つのLys→Argの変異体作製により、Prdm16のPparγへの結合に必要なのはLys293であり、Lys268ではないことが分かった。また、転写のcorepressorであるNCoRはPparγを中心とした複合体の重要なコンポーネントである。興味深いことに、PparγとNCoRとの結合はどちらのLysの変異体でも阻害されたため、PparγとNCoRとの結合には両方のLysの脱アセチル化が必要であることが分かった。CbpはPparγをアセチル化してNCoRとの結合を増加させ、SirT1はPparγを脱アセチル化してこの結合を阻害した。以上より、PparγのLys293の脱アセチル化はcoactivatorであるPrdm16の結合を促進し、Lys268とLys293の脱アセチル化はcorepressorであるNCoRとの解離に必要である。このようにLys268とLys293のアセチル化状態はPparγのcorepressor/coactivatorの交換に必要であることが分かる。

【結論】
SirT1はエネルギーの欠乏により活性化されることが知られており、SirT1によりPparγのLys268とLys293が脱アセチル化されることが明らかになったため、Pparγのこの2つのLysがアセチル化されているということはエネルギーが十分にあることを示している。逆にPparγのLysの脱アセチル化はエネルギーが貯蔵から消費に傾いており、インスリン感受性が促進されている状態を示していると言える。本研究では、寒冷曝露のような刺激によってSirT1が活性化すると、Pparγの脱アセチル化を介して、白色脂肪細胞が褐色化されることが示された。

PparγのLysはsumoylationおよびubiquitinationによっても修飾される。Fgf21はPparγのLys107のsumoylationを促進することにより、白色脂肪細胞の褐色化を起こし、インスリン感受性増加をもたらす。また、Pparγへのリガンド結合は、Lys268とLys293の脱アセチル化によって調節されるubiquitinによるPparγのdegradationを促進する。さらに、TZDsはCDK5によるPparγ Ser273のリン酸化を阻害することによりインスリン感受性増加をもたらす(PparγのSer273はLys268、Lys2963によって作られるgroove内に埋まっていて、Lysのアセチル化がSer273リン酸化を調節していると考えられる)。

以上の結果から、PparγリガンドにSirT1アゴニストを合わせて用いることによって、TZDの副作用(体液貯留、体重増加、骨代謝亢進、ある種の癌の発生や心血管リスクの疑いなど)を軽減した代謝疾患の治療が可能になるかもしれないと考えられた。
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by md345797 | 2012-08-04 01:31 | シグナル伝達機構

Fetuin-AはTLR4の内因性リガンドとして作用し、脂質によるインスリン抵抗性を促進する

Fetuin-A acts as an endogenous ligand of TLR4 to promote lipid-induced insulin resistance.

Pal D, Dasgupta S, Kundu R, Maitra S, Das G, Mukhopadhyay S, Ray S, Majumdar SS, Bhattacharya S.

Nat Med. Published online. 29 July 2012.

【まとめ】
TLR4 (Toll-like receptor 4)は炎症性シグナル伝達経路を活性化することにより、先天性免疫を調節する役割を果たしている。遊離脂肪酸(FFAs)は、TLR4経路を介して、脂肪組織の炎症を活性化させ、インスリン抵抗性を惹起することが知られている。しかし、FFAsが直接TLR4に結合するという証拠は得られておらず、TLR4の内因性リガンドは不明である。この研究では、肝で分泌される糖蛋白であるfetuin-A (FetA)がTLR4の内因性リガンドであり、マウスにおいてTlr4シグナルを介するインスリン抵抗性調節において重要な役割を果たしていることを示す。FetAをノックダウンしたマウスでは、Tlr4を介する炎症性シグナルの低下によって高脂肪食によるインスリン抵抗性が抑制される。逆にマウスにFetAを投与すると、炎症性シグナルが亢進しインスリン抵抗性が惹起される。FFAによる脂肪細胞における炎症性サイトカイン発現は、FetAとTlr4の両者が存在するときにのみ起こり、それらのどちらかがないとFFAによるインスリン抵抗性は起こらない。この研究ではさらに、FetAは末端のgalactoside部分が、Tlr4の2か所のleucine-rich repeats(Leu100-Gly123およびThr493-Thr516)に直接結合することを明らかにした。これらの変異Tlr4やgalactosideを切断したFetAでは、FFAによる脂肪細胞のインスリン抵抗性は惹起されなかった。以上の結果より、FetAはTLR4の内因性リガンドであり、脂質によるインスリン抵抗性を仲介する原因蛋白であると考えられた。

【論文内容】
FetAは肝で分泌される糖蛋白であり、脂肪細胞やマクロファージからの炎症性サイトカインの分泌を刺激することから、慢性炎症性疾患のバイオマーカーとしても用いられている。FFAsは肝におけるFetAの発現を増加させ、血中FetAの増加が脂肪細胞からの炎症性サイトカイン産生を増加させることが分かっている。また、FetAおよびTlr4の欠損マウスは高脂肪食を負荷してもインスリン抵抗性をきたさないことと、FetAは血中においてはFFAsの主要なキャリアー蛋白であることから、FetAがTLR4の内因性リガンドとして作用しているという仮説のもと、以下の検討を行った。

脂質によるTLR4活性化におけるFetAの果たす役割
まず、肥満糖尿病のヒト、高脂肪食負荷マウス、およびdb/dbマウスでは、血中のFetA濃度と脂肪細胞のTLR4発現・NF-κB活性化は、それぞれのコントロールに比べ増加していることを確認した。次に、vivo-morpholino(in vivo用モルフォリノアンチセンスオリゴ)を用いてFetAおよびTlr4をノックダウンしたマウスに高脂肪食を負荷したところ、いずれもインスリン抵抗性をきたさなかった。これらのマウスの脂肪細胞ではNf-κb活性およびIl-6Tnf-αのmRNA発現もコントロールに比べ減少していた。したがって、高脂肪食によるインスリン抵抗性の発症には、FetATlr4の両方が必要と考えられた。また、FetAのrecombinant蛋白をendotoxin-freeの状態で作製した(endotoxinは細菌で発現するTLR4リガンドであり、細菌によるrecombinant蛋白作製の過程で混入するため)。このFetAをFetAノックダウンマウスに投与すると、脂肪組織でのTLR4活性化が起こり、高脂肪食(またはFFA注入)によるインスリン抵抗性が出現した。

FFAによるTLR4活性化にはFetAが必要である
FFAであるパルミチン酸(palmitate)を単独でまたはFetAと一緒に、ヒト脂肪細胞、3T3-L1細胞に添加して培養した。その際、FetAの存在下でのみ、NF-κBが活性化されIL-6とTNF-αの発現が増加した。また、TLR4阻害剤であるCLI-095添加やsiRNAによるTlr4発現のsilencingを行うと、NF-κB活性化やIL-6とTNF-αの発現増加が起こらなかった。(なお、通常の培養条件ではmedium中の血清(10%FBS)にFetAが含まれているので、この実験はserum-free mediumを用いて行った)。

TLR4シグナル伝達経路の下流にはMyD88およびMEKがあり、MyD88欠損3T3-L1脂肪細胞やMEK阻害剤(U0126)でpreincubateした細胞にFFA+FetAを添加してもNf-κb活性化が起こらなかったことから、FFA+FetAはTlr4経路を介して作用すると考えられる。これらの脂肪細胞における結果は、Tlr4ノックダウンマウスから採取したマクロファージでも同様であり、Tlr4はFFA+FetAによるNf-κb活性化効果に必要であることが確認された。

FetAとTLR4の結合
FFAsはTLR4には直接結合しないが、FetAには結合することが分かっている。したがって、FetAはFFAとTLR4の結合を仲介する蛋白ではないかと考えられた。実際、FetAとTLR4は免疫沈降で共沈する。さらに表面プラズモン共鳴により、FetAが、チップに固定化したTLR4に濃度依存的に結合することが確認された。逆にチップに固定化したFetAにもTLR4が同様のaffinityで結合した。また、細胞内でのFetAとTLR4の結合をyeast two-hybrid (Y2H) assayで確認したところ、FetAはTlr4の細胞外ドメインに結合した。TLR4の細胞外ドメインには8つのleucine-rich repeat (LRR)があるが、それらの変異体を作製してY2H assayでの結合およびFFA+FetAによるNf-κB活性化の低下をluciferase活性で調べたところ、Tlr4のLRR2(Leu100-Gly123)またはLRR6(Thr493-Thr516)がFetAとの結合に重要であり、FFAの効果を仲介していることが示された。さらに、[3H]-palmitateとFetAをヒトTLR4とincubateすることにより、これら三者がternary complexを形成していることが示された。

末端β-galactosideが切断されたFetAはTLR4経路を活性化しない

さらに、SEAP reporterによりTLR4-NF-κB活性化を検出するHEK-Blue hTLR4細胞を用いて、FFA+FetAによるNF-κB活性化と、これがCLI-095で抑制されることを確認した。また、FetAのどの部分がTLR4を認識しているのかは分かっていない。糖蛋白の糖質部分が受容体認識に役立っている(特に、Gram陰性菌によるTLR4活性化にLPSのglycan部分が関与している)ことから、FetAのTLR4結合部位としてglycan部分に注目した。Glycanを切断するいくつかの酵素をHEK-Blue hTLR4細胞に作用させたところ、β-galactosidaseによりFetAが切断された場合にNf-κbプロモーター活性が低下した。そのため、FetA末端のβ-galactoside部分がTLR4の認識に必要と考えられた。なお、β-galactosidaseにより切断されたFetAを脂肪細胞に添加してもFFAによるインスリン抵抗性は起きなかった。

【結論】
FFAとその結合糖蛋白FetAはTLR4経路を介して、NF-κB活性化と炎症性サイトカインの産生を起こし、その結果脂肪細胞におけるインスリン抵抗性を引き起こす。本研究の結果により、FetAはTLR4の内因性リガンドであり、血中のFFAと脂肪細胞のTLR4を結びつけてインスリン抵抗性を惹起する役割を果たしていることが明らかになった。脂質によるインスリン抵抗性と2型糖尿病治療のために、FetAは重要なターゲットになるだろう。
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by md345797 | 2012-08-01 01:16 | シグナル伝達機構