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カテゴリ:その他( 90 )

Brite脂肪細胞と白色脂肪細胞の双方向性相互変換

Bi-directional interconversion of brite and white adipocytes.

Rosenwald M, Perdikari A, Rülicke T, Wolfrum C.

Nat Cell Biol. 15, 659–667, 2013.

【まとめ】
褐色脂肪組織は、冬眠動物およびげっ歯類・哺乳類の新生児において、脂質とグルコースを熱に変換して体温を維持し、エネルギー消費を増加させる役割を担っている。成体のげっ歯類およびヒトは、上記の古典的褐色(classical brown)脂肪細胞に加えて、白色脂肪組織の中に褐色脂肪様の脂肪細胞を含んでいる。これらはbrite (brown-in-white)脂肪細胞と呼ばれ、慢性寒冷に対する生理的反応を担っているが、その細胞起源は明らかになっていない。本研究では、マウスにおける寒冷刺激によって形成されたbrite脂肪細胞が、5週間の温暖適応により白色脂肪細胞に戻ることを示した。単離脂肪細胞の遺伝的追跡と転写の性質を明らかにすることにより、これらの脂肪細胞が白色脂肪細胞の形態および遺伝子発現を示す細胞に変換されることが示された。さらに、古典的白色(classical white)脂肪細胞はさらなる寒冷刺激によってbrite脂肪細胞に変換されることも分かった。白色からbriteヘの形質の相互変換のバランスを変えることにより、エネルギー消費を増加させて肥満を治療する新たな治療法が確立する可能性がある。

【論文内容】
哺乳類の脂肪組織は、非ふるえ熱産生を起こす褐色脂肪組織(BAT)と、過剰エネルギー貯蔵に働く白色脂肪組織(WAT)に大別される。白色脂肪細胞は大きな一つの脂肪滴を薄い細胞質の層が囲んでいるのに対し(unilocular; 単房性)、褐色細胞細胞はいくつかの小さい脂肪滴とUCP-1を含むミトコンドリアの多い細胞質からなる(multilocualr; 多房性)。成人の脂肪組織はWATが大部分を占めるが、新生児は低体温防止のためにBATが主体である。近年、成人でも頚部と鎖骨の近くに機能的なBATがあるという報告がなされている。また、ヒトとマウスにおいて白色脂肪組織の中に褐色様の脂肪細胞が見られ、これはbrite(またはbeige、inducible brown、brown-like)脂肪細胞と呼ばれている。Brite脂肪細胞は非常に動的な細胞集団であり、寒冷刺激で増加する(britening)一方、温暖環境で減少する(whitening)ことが以前から知られている。このbriteningとwhiteningは、成熟した白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の間で直接相互変換(interconversion)する過程(一種のtransdifferentiation)である可能性がある。一方で、このような成熟細胞の相互変換ではなく、WATの中にもともとbrite脂肪細胞に分化する前駆細胞があるとする報告もある。本研究では、in vivoの系統追跡アプローチを用いて、briteおよび白色脂肪細胞の間の相互変換があることを示す。

鼠径脂肪組織の寒冷刺激によるbriteningは5週間の温暖環境で可逆的に変化しうる
C57BL/6マウスをまず寒冷環境(8℃)に1週間おき、その後温暖環境(23℃)に置いた場合の、脂肪細胞における遺伝子発現・蛋白発現と脂肪細胞形態の変化を時系列で検討した。まず、寒冷刺激によって鼠径部脂肪組織において、Ucp1Cox7a1Cidea(褐色/brite脂肪細胞に特異的な遺伝子)の発現が増加した。その後マウスを温暖環境に戻すと、これらの遺伝子発現は正常化した。鼠径部脂肪組織に発現するUCP1蛋白量も同様の変動を示した。また、寒冷刺激により鼠径脂肪組織に多房性の褐色細胞細胞様の細胞が増加し、これらは温暖適応によって消失した。以上より、寒冷刺激により鼠径脂肪組織のbriteningが起こり、生じたbrite脂肪細胞は温暖環境で可逆的に消失することが示された。

Briteおよび褐色脂肪細胞を一過性、または永続的にラベルしたトランスジェニックマウスの作製
本研究ではbrite脂肪細胞を追跡するために、2系統のトランスジェニックマウスを作製した。1つ目は膜結合型eGFPをUcp1プロモーター下で発現させるUcp1-GFPマウスである。このマウスでは、肩甲骨間BATの褐色脂肪細胞と、寒冷刺激後の鼠径脂肪組織におけるbrite脂肪細胞(Ucp1が発現している一時的な状態)をGFPで追跡できる

2つ目のUcp-CreERマウスは、Ucp1プロモーター下に「CreとER(estrogen receptor)の融合遺伝子」が発現するため、ERに結合するtamoxifenによってUcp1発現細胞でCre recombinaseの発現が誘導される。このマウスをROSA-tdRFPマウス(ROSAは全身で均一に発現させるプロモーター、tdRFPはtandem-dimerの赤色蛍光蛋白)と交配すると、(Creが発現した細胞ではloxPに挟まれたSTOP配列が切り出されてRFPレポーターが常時発現するため)褐色脂肪細胞とbrite脂肪細胞がRFPで永続的にラベルできる

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これら2つのマウスを交配し(これをUcp1-トレーサーと名付けた)、GFP(一時的なUcp1発現)とRFP(永続的なUcp1発現)を同時に可視化することで、brite脂肪細胞の継時的な出現を調べる方法をとった。Ucp1トレーサーマウスをtamoxifen含有食を与えながら寒冷刺激においたときの脂肪細胞を観察した。その結果、RFP陽性brite脂肪細胞の多くは多房性であった。ただし、一部の少量の細胞は褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の中間の形質を示した(相互変換における過程の一時的な形質と考えられる)。これらRFP陽性細胞の多くはGFP陽性であったが、新に形成されたGFP陽性細胞でまだRFP陽性になっていない細胞が認められた(一時的なUcp1発現を示す)。

Brite脂肪細胞は温暖適応の過程でアポトーシスによって除去されるのではない
鼠径脂肪組織に生じたbrite脂肪細胞が再び白色脂肪細胞に変化するように見える現象は、次のような3つの可能性で説明しうる。まず第一の可能性は「brite脂肪細胞が白色脂肪細胞に変換する(すなわちwhiteningが起きている)」、第二の可能性はbrite脂肪細胞がいったん間質血管分画(stromal vascular fraction; SVF)に脱分化(dedifferentiation)したあと白色脂肪細胞に分化する、第三の可能性はbrite脂肪細胞がアポトーシスによって除去されているだけで白色脂肪細胞に変化(whitening)しているわけではない、という可能性である。

まず第三の可能性について検討するため、寒冷刺激によって生じたbrite脂肪細胞が温暖条件下でも維持されているのかを調べた。そのため、Ucp1-CreER x ROSA-tdRFPマウスにtamoxifen含有食を与えて寒冷環境におき、その後tamoxifenなしの温暖環境に戻して飼育した。BAT中のラベルされた細胞の割合は時間とともに変化せず、成体マウスでは古典的褐色脂肪細胞のターンオーバーは非常に低かった。鼠径脂肪組織における、寒冷環境でラベルされた細胞の割合は温暖環境の最初の3週で軽度増加し、7週で元に戻った。ここで見られた一時的増加は寒冷刺激直後のbrite脂肪細胞の形成の結果であり、Ucp1発現が一旦ピークとなったためと考えられる。鼠径脂肪組織にラベルされた細胞(Ucp1発現細胞)が残っていたことから、brite脂肪細胞がアポトーシスによって除去されるという可能性は否定された。

Brite脂肪細胞はwhiteningの過程を経た後も、脂肪細胞の形質を維持している
次に第一、第二の可能性、brite脂肪細胞が白色脂肪細胞に変換されるのか、それとも一度脱分化するのかを調べるため、寒冷刺激6週後の単離脂肪細胞とSVFの遺伝子発現を解析した。その結果、褐色/brite遺伝子の発現は寒冷刺激を受けていないコントロールマウスのレベルまで低下していた。しかし、鼠径脂肪細胞におけるRFPの発現はコントロールと比較して4-5倍高かった(SVFではそのような上昇はなかった)。すなわち、ラベルされたbrite脂肪細胞はwhiteningの過程を経ても脂肪細胞の形質を維持していた。さらに、whiteningを受けたbrite脂肪細胞が単に刺激を受けていなかった褐色脂肪細胞でないことを確認するために、FACSを用いて脂肪組織からRFP陽性脂肪細胞を単離した。肩甲骨間脂肪組織および鼠径脂肪組織から単離したRFP陽性脂肪細胞(それぞれ、古典的褐色脂肪細胞とwhiteningの過程を経たbrite脂肪細胞)の比較により、温暖環境により誘導された古典的褐色脂肪マーカー発現の減少は、古典的褐色脂肪細胞よりも鼠径RFP陽性細胞の方が強いことが分かった。すなわち、brite脂肪細胞のwhiteningは、古典的褐色脂肪細胞が刺激されていないためではないことが示された。

Tbx1発現はin vivoで古典的褐色脂肪細胞からbrite脂肪細胞を分化させる
細胞系統のマイクロアレイスクリーニングにより、brite脂肪細胞のマーカーとして、Tbx1、 Tmem26、Tnfrsf9 (CD137をコードする遺伝子)が同定されている。Tbx1は、古典的褐色脂肪細胞に対してbrite脂肪細胞で多く発現している遺伝子であり、whiteningの過程で発現が減少している。しかし、寒冷刺激によるbrite脂肪細胞ではTmem26とTnfrsf9の転写産物は認められず、Tmem26とTnfrsf9は寒冷刺激とは関係なく鼠径SVFに多く発現していることが示された。

Brite脂肪細胞は白色脂肪細胞にwhiteningされると、白色脂肪細胞特異的な遺伝子発現を示すようになる
さらに、whiteningの過程において、褐色脂肪特異的な遺伝子の消失だけでなく、白色脂肪特異的な遺伝子発現を獲得するかどうかを調べた。今までに褐色脂肪細胞で発現していなくて白色脂肪細胞のみで発現している特異的遺伝子は知られていない。そこで、C57BL/6マウスの肩甲骨間褐色脂肪組織、鼠径および精巣上脂肪から得た脂肪細胞とSVFのマイクロアレイ解析を行い、褐色脂肪やSVFの細胞に対して白色脂肪細胞で多く発現する転写産物の同定を試みた。定量的PCRによって確認された、寒冷刺激で発現量が変化しない転写産物は7つあり、レプチンとレジスチンが含まれていた。これら7種類の転写産物は1つの例外を除いて、whiteningの過程を経たbrite脂肪細胞でmRNA発現が大きく増加しており、古典的褐色脂肪細胞での発現は低いままであった。多くの場合、これらの遺伝子発現は寒冷刺激8週後には白色脂肪細胞の発現レベルに達した。なお、寒冷刺激後のRFP陰性の鼠径脂肪細胞には、検出できるレベルのRFP発現が見られないbrite脂肪細胞の分画が含まれていることに注意すべきである。一般的な脂肪細胞マーカー(Fabp4、Pparg)の発現はすべてのサンプルで同一であった。以上の結果から、whiteningを経たbrite脂肪細胞は、古典的褐色脂肪細胞で見られるような刺激以前の状態に戻ったわけではなく、機能的に異なる細胞に変換したのであることが示された。

Brite脂肪細胞は白色脂肪細胞から形成しうる
Briteと白色脂肪細胞間の相互変換は「双方向性」(bi-directional)の適応メカニズムであると考えられるため、whiteningした脂肪細胞がさらにbrite脂肪細胞に戻る可能性を検討した。Ucp1トレーサーマウスをさらに寒冷刺激し、新たなtamoxifen誘導なしで8℃のまま7週間飼育した。このマウスの鼠径脂肪組織を解析すると、RFP陽性のwhiteningを経たbrite脂肪細胞(最初の寒冷刺激でラベルされた細胞)は、2度目の寒冷刺激後に明らかに再びGFP陽性(すなわちUcp1陽性)になっていた。2度目の寒冷刺激がなければ、RFP陽性細胞はほとんど褐色脂肪細胞の形態を示さず、古典的白色脂肪細胞の形質(または一つの大きな脂肪滴を含む中間的な形質)を示していた。再刺激後、平均75%のRFP陽性細胞が褐色脂肪細胞形質を椎飯、少なくともそれらの一部は単房性のwhitening脂肪細胞由来であった。それにもかかわらず、whiteningされたbrite脂肪細胞は新たに形成されたbrite脂肪細胞の唯一の発生源ではなく、2度目の寒冷刺激を受けたGFP陽性brite脂肪細胞はRFP陰性であった。 GFPを再び発現し始めた、再刺激後のRFP陽性細胞のうち、白色脂肪細胞の形態を示すものは認められなかったため、形態的な変化はUCP1発現以前に起こると考えられた。以上の結果から、生理的な温度適応のメカニズムとしてbrite脂肪細胞と白色脂肪細胞の相互変換が起こっていることが結論づけられた。

【結論】
本研究では、brite脂肪細胞がいったん脱分化(dedifferentiate)してその後白色脂肪細胞に分化するのではなく、WAT内でbrite脂肪細胞がアポトーシスによって除かれるのではなく、briteから白色脂肪細胞への変換が起きていることを示した。

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(図) 寒冷環境によるbriteningと温暖環境によるwhitening、さらなる寒冷環境によるre-britening
初めの寒冷刺激で白色脂肪細胞からbrite脂肪細胞が生じる(britening)。これらの細胞は永続的なUcp1発現を表すRFPと一時的なUcp1発現を表すGFPを発現している。Brite脂肪細胞は温暖環境で白色脂肪細胞に戻り(whitening)、それらは永続的なRFPを発現しているが一時的なGFPの発現は消失している。2回目の寒冷刺激によって一度戻った白色脂肪細胞(whitened former brite)が再びbrite脂肪細胞に変換した(re-britening、図の黄色)。図では新たに生じたbrite脂肪細胞(緑)も示している。
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by md345797 | 2013-06-07 01:29 | その他

DPP4は新種ヒトコロナウイルス(human coronavirus-EMC)の機能的受容体である

Dipeptidyl peptidase 4 is a functional receptor for the emerging human coronavirus-EMC.

Raj VS, Mou H, Smits SL, Dekkers DHW, Müller MA, Dijkman R, Muth D, Demmers JAA, Zaki A, Fouchier RAM, Thiel V, Drosten C, Rottier PJM, Osterhaus ADME, Bosch BJ, Haagmans BL.

Nature. 495,251-254, 14 March 2013.

d0194774_12223970.jpg新種ヒトコロナウイルス(hCoV-EMC)
(右写真:Elizabeth R. Fischer, Rocky Mountain Labs/NIAID/NIHより)

2002から2003年にかけて発生したSARSコロナウイルス感染症は、世界で8098名の感染者(死者774名)を出した。2012年に新型コロナウイルス(hCoV-EMC)の発症があり、サウジアラビアなどで15名が感染(9名が死亡)している(2013年3月13日現在)。今のところコウモリからヒトへの感染が考えられているが、もしヒトからヒトへの感染があれば大流行(pandemic)となる可能性もあり、WHOが監視中。


【まとめ】
ヒトコロナウイルスの多くは軽度の上気道感染症を起こすのみであるが、免疫不全患者では重症肺炎をきたす場合もある。しかし、SARSコロナウイルス(2002年当時は新種コロナウイルスだった)は重症の下部気道感染症を引き起こし、その致死率は約10%であった。最近、別の新種コロナウイルスであるヒトコロナウイルス-EMC (human coronavirus-Erasmus Medical Center; hCoV-EMC)が同定され、致死率の高い下部気道感染症を起こすことが報告されている。この新種ヒトコロナウイルスは、コウモリに感染するコロナウイルスに近い。本研究では、hCoV-EMCの機能的受容体がDPP4(dipeptidyl peptidase 4、別名CD26)であることを明らかにした。DPP4は、hCoV-EMCのスパイク蛋白の受容体結合S1ドメインに特異的に結合する蛋白として、ウイルスが感染しうるHuh-7細胞の可溶化物から単離された。DPP4に対する抗体により、ヒト気管支上皮細胞およびHuh-7細胞へのhCoV-EMC感染が阻害された。逆に、通常では感染しないCOS-7細胞にヒトおよびコウモリのDPP4を発現させると、hCoV-EMCが感染するようになった。hCoV-EMCは、異なる種の間で(すなわちコウモリからヒトまで)進化的に保存されているDPP4を機能的受容体にすることによって、感染範囲を拡大させていると考えられる。本研究の結果は、新種ヒトコロナウイルスの病態の理解や治療開発に役立つと考えられる。

【論文内容】
コロナウイルスは広範囲の哺乳類と鳥類に感染するウイルスで、細胞表面の受容体にスパイク蛋白(S蛋白)が侵入することにより感染する。最近、コウモリ由来のコロナウイルスと考えられている新種ヒトコロナウイルス(hCoV-EMC)が同定された。現在までに7施設で重症の呼吸器感染症を引き起こしている。このウイルスは遺伝的には、オランダのホオヒゲコウモリで発見されたコロナウイルスHKU4およびHKU5と同様のものである。少なくとも60種の新型コウモリコロナウイルスが発見されており、その中にはSARSコロナウイルス近縁のものもある。新種コロナウイルスも、コウモリから中間の動物宿主を介してヒトに感染するhCoV-EMCが成立したのではないかと考えられている。

コロナウイルスの受容体は2種が同定されており、hCoV-229Eは aminopeptidase N (APN, CD13)を、SARS-CoV はangiotensin converting enzyme 2 (ACE2)を受容体としている。ところが新種のhCoV-EMCは、SARSコロナウイルスと違って、ACE2を受容体としていなかった。そこで本研究では、ウイルス蛋白のN端スパイクドメインS1にヒトIgGのFc領域を結合させたキメラ蛋白を作製し、アフリカミドリザル腎由来細胞(COS-7)およびヒト肝由来細胞株(Huh-7)における結合蛋白の同定を試みた。COS-7細胞にはS1の結合は、COS-7細胞には結合しなかったが、Huh-7細胞には結合した(なおアフリカミドリザル腎由来細胞のVero細胞には結合したが、ここでは省略)。そこでHuh-7細胞を可溶化してS1蛋白に結合する110kDaの蛋白を得て、マススペクトロメトリー解析を行ったところ、結合蛋白はDPP4であった。そこで、DPP4とACE2の可溶型(膜に結合していない)フォームを作ってhCoV-EMC S1蛋白との結合を調べたところ、S1蛋白はDPP4には結合したがACE2には結合しなかった。

DPP4蛋白は異種間でアミノ酸配列が高度に保存されており、ヒトとコウモリ(P. pipistrellus)の間の相同性も高い。そのためヒトDPP4ポリクローナル抗体(抗血清)で、ヒトおよびコウモリのDPP4を染色した。コウモリDPP4を発現させたCOS-7細胞およびHuh-7細胞(もともとヒトDPP4が発現)は、DPP4抗体によって染色された。ヒトの培養気管支上皮細胞やヒトの肺気管支組織の非繊毛細胞にもDPP4発現が認められ、これがhCoV-EMC感染をもたらすと考えられた。

DPP4がhCoV-EMC感染に必要であることを示すため、Huh-7細胞にウイルスを接種する前にDPP4ポリクローナル抗血清を添加して培養した。その結果Huh-7細胞への感染は阻害された(コントロールの血清やACE2抗体を添加しても阻害されなかった)。同様に、培養気管支上皮細胞への感染も、DPP4抗体によって濃度依存性に阻害された。逆に、もともとhCoV-EMCが感染しないCOS-7細胞にDPP4を発現させると、hCoV-EMCが高率に感染するようになり、細胞内のウイルスRNAも認められた(なおhCoV-EMC以外の他種のコロナウイルスは感染しなかった)。以上の結果から、DPP4はhCoV-EMCの機能的受容体であることが示された。

【結論】
DPP4は、ACE2およびAPNに続くコロナウイルスの3番目の受容体であることが明らかになった。DPP4は766アミノ酸の細胞膜貫通糖蛋白であり、インクレチンを初め多くのホルモンやサイトカインを切断しそれらの活性を調節するexopeptidase活性を持つ。ただし、APNやACE2でも同様だが、ペプチド切断活性そのものよりも、気管支上皮組織に多く発現しているということ自体が、コロナウイルス感染に有用なのだろう。実際、本研究でもDPP4阻害剤(sitagliptin, vildagliptin, saxagliptin, P32/98)でDPP4活性を低下させてもhCoV-EMC感染は阻害されなかったので(Supplementary Fig. 9に示している)、DPP4活性が感染に影響しているのではないと考えられた。DPP4はヒトでは小腸などいくつかの組織に発現し血中に可溶性フォームも存在するが、hCoV-EMCは気道スワブ(ぬぐい液)、尿、喀痰、気管支吸引液からしか検出されておらず、hCoV-EMCのin vivoでの親和性についてはほとんど分かっていないのが現状である。hCoC-EMCの疫学についても謎が多い。もともとはコウモリ由来で、なんらかの中間動物宿主を介してヒトに感染するようになったと思われるが、伝播経路は不明である。hCoV-EMC は、DPP4が進化の過程で保存されている蛋白であるということを利用して、コウモリからヒトへという宿主の転換を行ったのだろう。

血中の可溶型DPP4の量が、2型糖尿病とウイルス感染に関連していることが報告されているが、この可溶型DPP4がhCoV-EMC感染とどう関係しているかも検討が必要である。また、本研究でのHuh-7細胞を用いたpreliminaryな検討では、hCoV-EMCのS1蛋白がDPP4に結合してもDPP4量やDPP4酵素活性の低下は起きなかった。今後、DPP4発現量の調節やhCoV-EMCとDPP4の結合阻害抗体(hCoV-EMCに対するワクチンとなるかもしれない)が、hCoV-EMC感染に対する治療戦略として重要になるだろう。

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(参考図)コロナウイルス(SARS-CoVと新種のhCoV-EMC)の種間の伝播様式
ヒト気道非繊毛細胞に発現しているDPP4はhCoV-EMCの受容体である。DPP4はコウモリからヒトにわたって保存された配列を持つため、コウモリから直接の伝播に重要と考えられる。SARSの病原体であるSARS-CoVは気道繊毛細胞のACE2を受容体としており、コウモリからジャコウネコ(ハクビシン)を介してヒトに感染するようになった。なお、ACE2もDPP4もexopeptidaseだが、それらの酵素活性自体はウイルス侵入に関連はなく、これらの蛋白が気道に多く発現していることをウイルスが感染のために利用していると考えられる。
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by md345797 | 2013-03-14 07:03 | その他

TALENs:ゲノム編集のための広範に応用可能な技術

TALENs: a widely applicable technology for targeted genome editing.
Joung JK, Sander JD.

Nat Rev Mol Cell Biol. 2012 Dec 12;14(1):49-55.

【まとめ】
特定のDNAに結合するドメインと、人工ヌクレアーゼを結合させた人工蛋白を用いて、多くの生物や細胞種のほとんどすべての遺伝子の改変が可能となった。この新たに開発されたtranscription activator-like effector nucleases (TALENs)を用いることにより、生物種を問わず、簡便かつ短時間にノックアウトやノックインを行うことができる。

【総説内容】
標的ゲノム編集(Targeted genome editing)は細胞や生物において、ほとんどすべての目的の配列を効率よく改変できる、広範に応用可能な技術である。この技術は、①配列非特異的にDNAを切断する人工ヌクレアーゼ(engineered nucleases)と②配列特異的DNA結合ドメインからなる蛋白を融合させたものを用いている。当初は、zinc-finger nucleases (ZFNs)を用いた、点変異、欠損、挿入、逆位、重複、転移などの遺伝子操作が多く行われていた(図1:ZFNによるゲノム編集の原理)。

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近年は、ZFNsの代わりに、transcription activator-like effector nucleases (TALENs)の急速な発展が見られる。TALENsでは、カスタム化されたDNA結合ドメインと非特異的なFokI ヌクレアーゼドメインとを融合させたものである。DNA結合ドメインは、Xanthomonas 種プロテオバクテリアが分泌し宿主植物の遺伝子転写を変えさせる蛋白であるtranscription activator-like effectors (TALEs)由来の保存されたリピートからなっている。(図2 TALENの概要とTALEリピート構造)。このDNA結合TALEリピートは、単純な「蛋白-DNAコード」を用いて、標的部位の塩基に対して簡単・迅速に作製できる(DNA塩基配列の塩基1つを認識するアミノ酸33-35のリピート構造を連結して塩基配列を認識する)。

ここ2年間でTALENsは、酵母、ショウジョウバエ、線虫、コオロギ、ゼブラフィッシュ、カエル、ラット、ブタ、牛、シロイヌナズナ、コメ、カイコ、およびヒトの体細胞と多能性幹細胞など、さまざまな細胞・生物の遺伝子改変に応用されてきた。TALENsの技術は非常に成功率が高く、事実上どのような配列にも応用できるため、非専門家にとっても広い用途があることが期待されている。

カスタムTALE DNA結合ドメイン
DNAに結合するTALEドメインは保存された33-35アミノ酸リピート構造をしているアミノ酸配列である。それぞれのリピートはDNAのそれぞれの塩基に特異的に結合する。ほとんどすべての人工TALEリピート配列は、超可変残基であるNN、NI、HD、NG (それぞれDNAのG、A、C、Tに対応)からなっている。(より特異的にGを認識する超可変残基であるNKやNHも報告されている。)

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ヌクレアーゼを用いた遺伝子改変
ZFNによる二重鎖切断(double strand breaks: DSB)は、非相同末端再結合non-homologous end-joining; NHEJ) または相同組換え修復(homology-directed repair; HDR)によって修復されるが、これを利用して切断部位由来のさまざまな長さの挿入/欠失変異 (insertion or deletion mutation; indel mutation)を作製することができる(図3a 切断と修復に基づくゲノム編集)。NHEJによる二重鎖切断の修復は、しばしば遺伝子コーディング配列のフレームシフトを起こすため、遺伝子機能のノックアウトにつながる。また、HDPが起こることにより、切断部位の正確なヌクレオチド置換や切断部位への配列挿入(~7.6 Kb)が可能である。すでに、ZFNでは、NHEJまたはHDRを用いて遺伝子変更を行うのを、ショウジョウバエ、線虫、ゼブラフィッシュ、ニジマス、ナマズ、ウニ、カエル、ブタ、ウシ、コオロギ、ウサギ、カイコ、チョウ、マウス、ラット、ダイズ、白イヌナズナ、トウモロコシ、タバコ、ペチュニア、ハムスター細胞、ヒト体細胞と多能性幹細胞で行うことができる。この方法で、高率に変異体を作製し、選択マーカーなく変異体をスクリーニングすることができる。

ZFNsとI-SceI homing endonucleaseによって、2つのDSBとそれに続く介在配列の欠失(~15Mb)や異なる染色体の2つのDSBによる転座など、より複雑なゲノムの変更が可能となる(図3b)。操作性がよりシンプルなTALENsは初めて2年前に導入されたが、すでに同様の多くの応用がなされている。

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ゲノム編集への応用
モデル生物

TALENsもZFNsと同様に以前は操作困難だった多くの生物モデルに効率よく応用可能である。現在まで、ショウジョウバエ、線虫、ゼブラフィッシュ、カエル、ラット、ブタ、ウシ、コオロギ、カイコに用いられている。また最近、ブタ(Ossabaw swine)を用いたヒト疾患(LDL受容体変異による家族性高コレステロール血症)のモデル作製に用いられた。

細胞を用いた疾患モデリング
TALENsに伴うNHEJを用いてコーディング配列にindelを導入することによって、loss-of-mutationを導入した細胞の疾患モデルが作製できる。また、HDRによって内因性のヒト遺伝子に正確な挿入配列を入れることもできる。この際、蛍光蛋白やエピトープタグを挿入して蛋白を視覚化することも可能である。GWASやENCODEで明らかになった特定の一塩基多型(SNPs)を持った細胞を作製することもできる。

治療に対する応用
ZFNに伴うHDRは最近、鎌状赤血球症やα1-アンチトリプシン病、パーキンソン病(SNCA遺伝子)の患者由来のiPS細胞からそれぞれの遺伝的変異を修正するために用いられた。このような修正をex vivoで行い、患者に戻す治療が行われる。ヒトiPS細胞や体細胞に対するTALENsに伴うHDRを用いた治療も行われている。また、NHEJを用いた遺伝子の活性消失も治療に用いられる(HIV感染のco-receptorであるCCR5遺伝子を破壊する、というAIDSの治療)。TALENsはいかなるDNA配列もターゲットにできるため、遺伝子修正と遺伝子破壊による遺伝病の治療に対する役割は計り知れないと考えられる。

TALENs作製のためのプラットフォーム
TALENsリピートアレイをエンコードするプラスミドをデザインするプラットフォームが存在する。この方法は、標準的な制限酵素とligationに基づくクローニングである「Golden Gateクローニング」などである。TALENsの特異的な設計は注意深く検討する必要があり、Rebarらによる枠組みが最も広く試されているものである。

将来への方向性
TALENs技術はここ3年で急速に進歩しているが、重要な問題点もある。①TALENsは特異的な部位のHDRを起こすが、NHEJによる変異導入はHDRによって変化したアリルの予期しない部位への変異を起こさないか。これにはNHEJによる修復とHDRによる修復のバランスをとることが大切であろう。②NHEJによるoff-targetの変異を作らないために、TALENsのゲノムワイドの特異性の確立が不可欠である。③TALENsを細胞内に効率よく導入する方法(現在はmRNAを細胞または受精卵の核にマイクロインジェクションして細胞内で発現させる)は、今後の研究の重要な課題になるだろう。さらに、TALEに基づく転写因子(activators and repressors)の導入はすでに報告がされつつある。

TALENsは簡便で成功率が高く、多くの生物や細胞種に応用可能なゲノム編集技術であり、将来の生物学研究にとって重要な技術となるに違いない。


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by md345797 | 2013-02-08 06:08 | その他

急性栄養失調であるクワシオルコルの原因因子として、食事だけでなく腸マイクロバイオームが重要である

Gut microbiomes of Malawian twin pairs discordant for kwashiorkor.

Smith MI, Yatsunenko T, Manary MJ, Trehan I, Mkakosya R, Cheng J, Kau AL, Rich SS, Concannon P, Mychaleckyj JC, Liu J, Houpt E, Li JV, Holmes E, Nicholson J, Knights D, Ursell LK, Knight R, Gordon JI.

Science. 339(6119): 548-554, 2013.

【まとめ】
クワシオルコル(Kwashiorkor)は、栄養摂取不良と環境からの悪影響の結果起こる、原因不明の重症急性栄養失調である。この研究では、マラウイ(アフリカ南東部の国)における317双生児ペアを出生から3歳まで追跡し、その腸内細菌叢について検討した。これらの双生児ペアは50%が栄養状態良好であったが、残り50%の内訳は、43%で双生児のどちらか一方のみにクワシオルコルが見られ(クワシオルコルの有無に関して不一致:discordant for kwashiorkor)、7%は両方にクワシオルコルが認められた。そこで、上記の「クワシオルコルに関して不一致が見られた双生児」の両方の児に、RUTFを与え治療した。
(RUTF=ready-to-use therapeutic foodの略。調理不要ですぐに食べられる栄養補助食品のこと)

さらに、これらの双生児の腸microbiomeを、継時的なメタゲノム解析によって追跡した。RUTFの投与によって、クワシオルコルの腸microbiomeの代謝機能は一過性に正常化したものの、RUTFが中止されると悪化した。

次に、何組かの「クワシオルコルに関して不一致を示す双生児」の両方の児から採取した便の細菌叢を、それぞれノトバイオティックマウスに移植する動物実験を行った(gnotobiotic mice=細菌叢がすべて明らかになっているマウス)。その結果、クワシオルコルの児由来の腸microbiomeとマラウイの食事の両方が重なったときに、レシピエントマウスの体重が著明に減少した。また、これによりレシピエントマウスの代謝産物の障害が認められたが、これらはRUTF投与では一過性にしか改善しなかった。このような動物実験の結果から、クワシオルコルの原因因子として、食事だけでなく、腸microbiomeが重要であることが示された。

【論文内容】
世界の小児の死亡原因の多くは、栄養失調である。重症の急性栄養失調(severe acute malnutrition: SAM) のうち、「クワシオルコル」と呼ばれるものは、全身性の浮腫、脂肪肝、皮膚炎と潰瘍、食欲不振など独特の特徴を示す、SAMの中でも悪性のタイプをさす(一番下の写真参照)。このクワシオルコルの原因はよく分かっていない。一般的には蛋白摂取不良や酸化ストレス過剰が関与しているとされているが、そうでないとする疫学的な調査や臨床研究もある。

そこでこのグループは、アメリカ合衆国(都市部)・ベネズエラ(アマゾン川流域)・マラウイ(農村部)に住む小児・成人の調査をもとに、(1) 腸microbiomeは出生後の健全な成長と発達に必要な因子ではないか、(2)腸microbiomeの構造と機能が(腸管病原菌感染などによって)かく乱を受けるとクワシオルコルのリスクが高まるのではないか、(3)栄養失調は腸microbiomeの機能を変化させることにより、健康状態に大きく影響するのではないか、などの仮説を立てた。

これらの仮説の検証のため、マラウイに生まれた一卵性(monozygotic)および二卵性(dizygotic)双生児ペアのうち、「クワシオルコルに関して不一致を示した双生児」(一方はクワシオルコルを示したが、一方は示さなかった双生児ペア)の便microbiomeの長期にわたる比較研究を行った。マラウイは世界で最も小児死亡率が高い国の一つであり、「クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペア」のうちクワシオルコルを示さない、栄養状態良好な方の児(co-twin)は、クワシオルコルを示した児にとって食事や細菌環境が同様であり、望ましいコントロールと考えられた。

RUTFは、ピーナッツペースト・砂糖・植物油・ビタミンミネラル強化牛乳などからなる栄養補助食品で、国際的にSAMの標準的治療となっている。マラウイにおいて「クワシオルコルに関して不一致をしめす双生児ペア」の標準治療はRUTFを与えることであるため、両方の児でお互い相手の児をコントロールとして治療前・治療中・治療後の腸microbiomeを比較することができる。また、同地域に住み、RUTFを与えられていない栄養状態良好の双生児ペアの便microbiomeも、さらなるコントロールとした。

マラウイ南部地区5か村に住む317組の双生児ペア(46組が一卵性、残りが二卵性)を対象に、出生から36か月齢(3歳)まで追跡した。これらの双生児ペアのうち50%は栄養状態良好であったが、43%は一方が急性栄養失調、7%は両方が急性栄養失調を呈していた。(なお、これらの栄養状態は、一卵性か二卵性かとは関連がなかった)

健康な双生児と、クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアの便microbiomeの比較
栄養状態良好な9の双生児ペアと、クワシオルコルに関して不一致を示す13の双生児ペアのそれぞれの便microbiomeのメタゲノム解析を行い、それを主座標分析(principal coordinate analysis)を用いて視覚化した。ばらつきの最大の説明変数となる第1主座標(PC1)は年齢と強く相関するものであった。栄養状態良好な双生児ペアは二人とも月がたつにつれてPC1が上昇したのに対し、クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアでは、健康な児はRUTF投与によりPC1が上昇したが、クワシオルコルの児はRUTFを投与してもそのような変化が見られなかった。健康状態と腸microbiomeに関連があることは分かったが、このことだけから「腸microbiomeがクワシオルコルの原因因子である」とまでは言えない。

便細菌叢のノトバイオティックマウスへの移植
そこで、クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアの凍結便細菌叢をノトバイオティックマウス(gnotobiotic mice)に移植し、その細菌叢の構造・代謝・宿主との共代謝(cometabolism)の特徴を調べることとした。6名のヒトドナーの便細菌叢を、それぞれC57BL/6J germ-freeマウスに強制経口投与(single oral gavage)した。その1週間前からそれらのマウスには南部マラウイ地方の主食に基づいた滅菌食を摂食させておいた。クワシオルコルに関して不一致を示す双生児ペアのうち、クワシオルコルの児の細菌叢を移植したマウスは、健康な方の児の細菌叢を移植したマウスに比べて、体重が有意に減少した。ただしこの減少は、マウス通常食(standard mouse chow)を与えた場合には見られなかった。したがって、この体重減少はマラウイ食摂取とクワシオルコル細菌叢移植の両方に依存して起きたと考えられた。

クワシオルコルの細菌叢を移植したマウスは上述のように便移植3週間後から急激に摂食が減少したが、食餌をマラウイ食からRUTFに変更したところ体重が増加した。2週間RUTFを与えた後再びマラウイ食に戻したところ、これらのマウスは健康な細菌叢を移植したマウスに比べ体重は少なかったものの、以前のような急な体重減少は見られなかった。すなわち、双生児のうちどちらのドナー細菌叢を移植されるか、どのような食餌を与えられるかで代謝状態は決定される。これらの微生物種やその遺伝子、代謝産物量の解析に移ることにした。

マラウイ食を与えられているレシピエントの2つの群(クワシオルコルの細菌叢を移植された群、健康な細菌叢を移植された群)では、37種の分類群(taxa)の細菌で有意な差が見られ、その中でもBilophila wadsworthia(ヒトの炎症性腸疾患(IBD)に関連あるProteobacteria)とClostridium innocuum(免疫不全患者の日和見感染を起こす)で大きい差があった。マラウイ食からRUTFへの移行は、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスの便細菌叢に急速な変化をもたらした。特に、BifidobacteriaとLactobacilli(先天性免疫を刺激)、Ruminococcus(腸炎モデルマウスにおいて抗炎症作用を示す)が著明に増加、Bacteroidalesが有意に低下していた。

クワシオルコルに関連する代謝プロファイルの変化
上記のマウスの異なる食餌期(マラウイ食、RUTF、再度のマラウイ食)における便中の短鎖脂肪酸(SCFA)・炭水化物・アミノ酸・核酸・脂質の代謝を、ガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリーにより解析した。マラウイ食をRUTFに移行させると便中の6必須アミノ酸と3非必須アミノ酸の量が増加したが、RUTFをマラウイ食に戻すと、健康な細菌叢を移植されたマウスではこれらの量は増加したままだったが、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスでは前の値に低下した。また、RUTFによるSCFA (propionate、butyrate、lactate、succinate)の増加は健康な細菌叢を移植されたマウスで大きかった。

「細菌-宿主共代謝」は、ドナー細菌叢と宿主の食餌の両方の影響を受ける
さらに、これらのマウスの尿の代謝産物プロファイルをNMR spectroscopyを用いて比較した。その結果、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスの尿では、マラウイ食からRUTFに移行した場合の代謝産物の変化は、再びマラウイ食に戻した場合に大きく変化したが、健康な細菌叢を移植されたマウスの尿ではそれらはあまり変わらなかった。また、クワシオルコルの細菌叢を移植されたマウスの尿中taurineは、健康な細菌叢を移植されたマウスの尿中taurineに比べ有意に少なかった。なお、いずれのマウスでもマラウイ食を負荷したマウスで尿中taurineは高値であった。マラウイ食は(動物性)蛋白が欠乏しており、血中methionine低下とそれに伴う尿中硫酸塩(sulfate)の低下はクワシオルコルでよく見られるものである。このマウス実験においては、クワシオルコルの細菌叢とマラウイの蛋白欠乏食の両方が硫酸塩代謝の異常を介して、急性栄養失調につながりうる可能性が示唆された。

【結論】
本研究では、ある疾患(クワシオルコル)に関して不一致を示す双生児のドナーの腸内細菌叢をレシピエントであるマウスに移植する動物実験を行った。この「個別化(personalized)ノトバイオティックマウスモデル」に対し、食餌の種類を変えて、その栄養状態やメタゲノムの解析を行うことにより、元の疾患におけるmicrobiomeの役割を明らかにすることができた。本研究では、クワシオルコルの病因として、マラウイの蛋白欠乏食と腸microbiomeの両方が影響していることが明らかになった。また、もともとの腸microbiomeの違いによってRUTFに対する反応性も異なることが示された。この方法を用いることにより、栄養失調という地球規模の健康問題に腸microbiomeがどのような役割を果たしているのかが解明できる可能性がある。

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図:クワシオルコルの小児(左)と、その状態を示すモデル(右)
右下は、栄養失調が持続する悪循環を表したモデルで、食事摂取不十分→免疫反応の障害→腸の感染→細菌叢の変化→腸の透過性の調節異常→吸収不良→これが最初の食事摂取不十分につながる。さらに右上は、ヒトと細菌のエコシステムの安定性に関する、アトラクター理論における「吸引流域 (basin of attraction)」を表す。治療食だけでは栄養不良の状態(赤丸)から脱することはできない(赤実線矢印)。健康な栄養状態(黄色丸)に至る(赤点線矢印)ためには、宿主の腸細菌叢がより効率的な栄養素利用ができるように変化する必要がある。
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by md345797 | 2013-02-04 23:45 | その他

ドナーの便の十二指腸注入による再発性C. difficile感染治療

Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.

van Nood E, Vrieze A, Nieuwdorp M, Fuentes S, Zoetendal EG, de Vos WM, Visser CE, Kuijper EJ, Bartelsman JFWM, Tijssen JGP, Speelman P, Dijkgraaf MGW, Keller JJ.

N Engl J Med. Published online, January 16, 2013.

【まとめ】
再発するClostridium difficile感染は難治性の疾患であり、抗生剤治療の失敗率も高い。腸内細菌叢の正常化を図るために、ドナーの便を十二指腸に注入する治療の有効性が検討されているが、本研究ではこの方法の初のランダム化比較試験を行った。すなわち、患者をランダムに、①vancomycin投与(500 mg経口で1日4回を4日間)を行い、さらに腸洗浄後にドナーの便の溶液を経鼻十二指腸チューブで投与する群、②標準的なvancomycin投与(500 mg経口で1日4回を14日間)群、③標準的なvancomycin投与と腸洗浄を行う群、の3群に割り付けた。主要評価項目はC. difficile感染による下痢が軽快し10週後まで再発がないこととした。その結果、ドナーの便注入群では81%が最初の注入後にC. difficile関連の下痢が軽快したが、vancomycinのみの群ではその割合は31%、vancomycinおよび腸洗浄群では23%にとどまった。なお、患者の便細菌叢の多様性をSimpson’s Reciprocal Indexおよび系統発生マイクロアレイ(phylogenetic microarray)を用いて評価したところ、患者の便細菌叢の多様性はドナーの便注入後には、ドナーと同程度まで増加していた。以上の結果から、再発性のC. difficileの感染の治療として、ドナーの便注入はvancomycin投与に比べ優れた方法であることが示された。

【論文内容】
再発するC. difficile感染に有効な治療はなく、vancomycinを繰り返し投与するしか方法がないとされている。Vancomycinの初回有効率は60%で、その後の投与では有効性が低下する。その原因として、腸内細菌叢(intestinal microbiota)の多様性が低下することが一因と考えられている。そこで、再発性のC. difficile感染に対し、健康なドナーから便を移植する方法が試みられてきた。本研究では、このドナーの便移植の有用性について初のランダム化試験を行った。

43名の患者を、①vancomycin(4日間)投与後に4Lのmacrogol solutionによる腸洗浄を行った後、ドナーの便の溶液を経鼻十二指腸チューブから注入した群(17名、そのうち1名除外)、②vancomycin(14日間)投与群(13名、そのうち1名死亡)、③vancomycinおよび腸洗浄群(13名)の3群にランダムに割り付けた。注入群には、25名のドナーから排便後平均3.1±1.9時間に、141±71gの便を移植した。主要評価項目(primary end point)は、C. difficile関連の下痢が軽快し、治療開始から10週以内に再発がないこととした。

ドナーの便注入群16名のうち、13名(81%)が最初の注入後に治癒、2名が2回の注入後に治癒した(合計15名、94%が治癒)。しかし、vancomycinのみの投与群では13名中4名(31%)、vancomycinおよび腸洗浄群では13名中3名(23%)が治癒したのみであった。全体の治癒率は、ドナーの便注入群はvancomycinのみの群と比較して3.05、vancomycinおよび腸洗浄群群と比較して4.05で、ドナーの便注入群の方が有意に優れていた。

治療の副作用としては、ドナーの便注入群の94%が下痢をきたし、そのほか痙攣痛(31%)、げっぷ(19%)が認められたが、いずれの症状も3時間以内に軽快した。フォローアップ期間ではドナーの便注入群の3名に便秘が起こったが、その他の副作用は認められなかった。

次に、9名の便細菌叢の多様性を、Simpson’s Reciprocal Indexを用いて評価した。ドナーの便注入前には低かった多様性指標が、注入2週間以内にドナーと同様の数値まで上昇した。さらに、それぞれの便のサンプルの系統発生マイクロアレイ(phylogenetic microarray=16S rRNA gene ampliconを調べるHuman Intestinal Tract Chip, HITChip)のプロファイルを用いて、主因子分析(Principal Component Analysis:PCA)を行った。その結果、ドナーの便注入前の細菌叢は、注入後には、ドナーの細菌叢に向かってシフトしていることが示された。また、ドナーの便注入によりBacteroidetes種とclostridium cluster IVとXIVaの量が増加、Proteobacteriaの量が減少していた。

【結論】
今回の小規模オープンラベルランダム化比較試験により、ドナーの便の注入は再発性C. difficile感染に対する有効な治療法であることが示された。この方法が有効性あるメカニズムとして、ドナーの便注入により正常の細菌叢が再構成されることによりC. difficileに対する宿主防御が確立することが考えられる。

1958年にデンバーの医師たちが劇症偽膜性腸炎患者に正常者の便を注腸投与することにより、治療に成功した。また、1989年にはTvedeとRask-Madsenによって培養細菌の混合物を注入することによるC. difficile感染の治療法が報告されている。これらの方法は、現在ではfecal microbiota transplantation (FMT)とも呼ばれており、抗生剤投与などで破壊された正常の腸内細菌叢を再構成させる方法として知られている。しかし、ランダム化比較試験によって有効性のエビデンスが示されたのは、本研究が最初である。本研究のような方法は、腸内細菌叢が関わる他の疾患、すなわち炎症性腸症候群(IBS)、直腸癌の予防、さらには代謝疾患の治療にまで有用かもしれない。
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by md345797 | 2013-01-18 00:00 | その他

ケトン体であるβヒドロキシ酪酸は、内因性のHDAC阻害物質であり、酸化ストレス障害の抑制に働く

Suppression of Oxidative Stress by β-Hydroxybutyrate, an Endogenous Histone Deacetylase Inhibitor.

Shimazu T, Hirschey MD, Newman J, He W, Shirakawa K, Le Moan N, Grueter CA, Lim H, Saunders LR, Stevens RD, Newgard CB, Farese RV Jr, de Cabo R, Ulrich S, Akassoglou K, Verdin E.

Science. 2013 Jan 11;339:211-214.

【まとめ】
この研究では、ケトン体であるβ-ヒドロキシ酪酸 (β-Hydroxybutyrate ; βOHB)が、内因性の class Iヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylases; HDACs)阻害物質であることを報告している。マウスにβOHBを投与したり、絶食またはカロリー制限により内因性βOHBを増加させたりすると、腎組織のヒストンアセチル化は全体的に増加した。また、βOHBによるHDAC阻害により、酸化ストレス耐性をコードする遺伝子(FOXO3A、MT2など)の転写が増加した。HEK293細胞にβOHBを添加すると、Foxo3aMt2プロモーターのヒストンアセチル化が増加し、どちらの遺伝子発現もHDAC1とHDAC2の選択的欠損によって活性化された。βOHB を投与したマウスは、FOXO3AとMT2活性増加に伴って、酸化ストレス(パラコートによる蛋白カルボニル化など)に対する耐性が認められた。

【論文内容】
外部環境、栄養状態などによりある種の代謝産物(アセチルCoAやNAD+)が増加すると、これらの代謝産物はエピジェネティックな調節因子としてヒストンの転写後調節を行うことにより遺伝子発現に影響を与える。これらのうち、ヒストンアセチル化においては、ヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferases; HATs)の活性は核内アセチルCoA濃度により調節され、ヒストン脱アセチル化酵素 (histone deacetylases; HDACs)のうちclass III HDACs(すなわちsirtuins)の活性はNAD+濃度に依存している。Class I HDACs (HDAC1, 2, 3, 8)、class II HDACs (HDAC4, 5, 6, 7, 9, 10) 、class IV HDAC (HDAC11) はzinc依存性酵素であることが分かっているが、それらの内因性の調節は不明である。

酪酸(butyrate)は、class Iおよびclass II HDACsの阻害因子であることが知られている。哺乳類の運動や空腹時における主要なエネルギー源であるβ-ヒドロキシ酪酸 (β-Hydroxybutyrate ; βOHB)は、酪酸に類似した構造を持つ。血中のβOHB濃度は、2-3日の絶食時または激しい運動時には肝が脂肪酸酸化を行うため1-2 mMに増加、飢餓が持続すると6-8 mMに上昇、糖尿病性ケトアシドーシスでは25 mM以上に増加すると考えられている。

ここで、βOHBが酪酸と同様にHDAC阻害活性を持つのかを検討するため、HEK293細胞にβOHBを8時間添加し、アセチル化ヒストン抗体(アセチル化H3Lys9とLys14: AcH3K9およびAcH3K14に対する抗体)でWestern blotを行うことにより、βOHBのヒストン脱アセチル化への影響を検討した。その結果、βOHBの添加により、用量依存的に(1-2mMの濃度でも)、ヒストンアセチル化が増加した。βOHBは酪酸と同じく、class I HDAC阻害活性を示し、class IIb HDAC (HDAC6)阻害活性 (tublinの脱アセチル化)は示さなかった。

次に、Flag-taggedヒトHDAC1、 HDAC3、 HDAC4、HDAC6をHEK293細胞に発現させて精製し、[3H]-標識アセチル化ヒストンH4ペプチドを用いて脱アセチル化活性を測定した。その結果、βOHBはHDAC1、HDAC3、HDAC4活性を用量依存的に(1-100 mM)阻害したが、HDAC6活性は阻害しなかった。mM濃度のβOHBは、直接HDACを阻害することによってヒストンアセチル化を増加させていると考えられた。

(なお、βOHBは標的細胞内でアセチルCoAへと分解されるので、このときアセチルCoA濃度の増加が起きたためにヒストンアセチル化が増加したのではないことを確認した。また、βOHBがp300とPCAF (p300/CBP関連因子)のHAT活性を亢進させたためにヒストンアセチル化が増加したわけでもないことを確認した。)
(また、高濃度のアセト酢酸(acetoacetate; AcAc)もin vitroおよびHEK293細胞でclass Iおよびclass IIa HDACを阻害した。しかし、AcAcの血中濃度はβOHBの1/3以下で、生理的条件下ではHDACsを阻害する濃度に達するとは考えにくい。βOHB dehydrogenases (βOHBをAcAcに変換する酵素)をsiRNAを用いて欠損させた細胞において、3 mM以下のβOHBに反応するヒストンアセチル化の増加は見られなかったが、10-30 mMの高濃度βOHBには反応してヒストンアセチル化が増加した。したがって、細胞に高濃度のβOHBを添加すると、AcAcまたはアセチルCoAも介してヒストンアセチル化が増加することが示唆された。)

次に、in vivoにおける血中βOHB濃度が組織のヒストンアセチル化に関与しているかを検討するため、24時間絶食マウスまたはカロリー制限マウス、さらには浸透圧ポンプを用いてβOHBを投与したマウスの血清中のβOHB濃度を調べた。その結果、いずれも血清βOHB濃度が増加していたため、これらのマウスの腎組織のヒストンアセチル化(H3K9、H3K14)を調べたところ、いずれも有意に増加していた。また、血清βOHB濃度とアセチル化H3K9、H3K14の間には強い相関が認められた。(なお、腎はヒストンアセチル化の変化が最も大きい臓器であり、βOHBの遺伝子発現への影響が現れやすいと考えられた。)

βOHB投与に伴うヒストンアセチル化増加により発現が調節される遺伝子を同定するため、βOHB投与マウスの腎から抽出したmRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果をIngenuity社パスウェイ解析(IPA)により解析したところ、FOXO3Aによって調節される2つの遺伝子(Mt2Lcn2)が同定された。転写因子Foxo3aとmetallothionein2 (Mt2)は、どちらも酸化ストレス耐性に関与する遺伝子である。Foxo3aMt2プロモーターのchromatin immunoprecipitation (ChIP)解析によって、高濃度βOHBを添加したHEK293細胞ではプロモーターのH3K9アセチル化の増加が認められた。

なお、shRNAを用いてclass IおよびII HDACをそれぞれ選択的に欠損させたところ、Foxo3aMt2のmRNAが増加することを確認した。Foxo3aMt2のプロモーターにはHDAC1が結合したが、この結合はβOHB投与によって変化はなかった。したがって、HDAC活性はプロモーターへのHDAC1結合には影響はなく、βOHBはHDAC活性阻害によりプロモーターのヒストンアセチル化を増加させていると考えられた。

Mitochondrial superoxide dismutase (Mn-SOD)とcatalaseもFOXO3Aの標的であり、酸化ストレス耐性に関与している。βOHB投与マウスの腎組織では、FOXO3AおよびMn-SOD、catalaseの発現も増加していた。では、βOHBはin vivoにおいて酸化ストレスを防止する作用を持つのか?浸透圧ポンプを用いてマウスに24時間βOHBを投与し、その後に活性酸素種(ROS)を発生させるパラコートを静注し、2時間後に腎組織の蛋白カルボニル化を調べた(dinitrophenyl(DNP)の抗体でimmunoblottingした)。パラコート静注によりカルボニル化蛋白は2倍に増加したが、事前にβOHBを投与されていたマウスではそれが有意に抑制されていた。またこれらの腎組織を、別の酸化ストレスマーカーである過酸化脂質、4-hydroxynonenal (4-HNE)の抗体でも染色したところ、パラコート静注で3倍に増加した4-HNE染色部位がβOHB投与群では完全に抑制されていた。以上より、in vivoにおける酸化ストレス障害は、βOHB投与によって抑制されることが示された。

【結論】
βOHBは内因性のHDAC阻害物質であり、絶食やカロリー制限によるmM単位の濃度増加で組織にエピジェネティックな変化(ヒストンアセチル化の増加)を起こして、酸化ストレス耐性遺伝子(Foxo3aなど)の発現を増加させることにより、生体の酸化ストレス耐性をもたらすことが明らかになった。以前より、低炭水化物食によるケトン体産生によって神経の酸化ストレス障害耐性がもたらされること(neuroprotectiveな効果)が知られていた。本研究の結果から、ケトン体産生食(ketogenic diets)やカロリー制限による効果は、βOHBのHDAC阻害効果を介しているのかもしれないと考えられた。


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(解説図)可塑性をもつエピゲノム(A plastic epigenome)
本研究では、絶食・カロリー制限・低炭水化物食などに伴うβOHB増加が、HDACsを阻害することにより、ヒストンアセチル化の増加をきたし、酸化ストレス耐性遺伝子の発現を増加させることが示された。
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by md345797 | 2013-01-11 07:17 | その他

DPP4はコロニー刺激因子活性とストレス造血を抑制する―DPP4阻害剤の新たな臨床的有用性

Dipeptidylpeptidase 4 negatively regulates colony-stimulating factor activity and stress hematopoiesis.

Broxmeyer HE, Hoggatt J, O’Leary HA, Mantel C, Chitteti BR, Cooper S, Messina-Graham S, Hangoc G, Farag S, Rohrabaugh SL, Ou X, Speth J, Pelus LM, Srour EF, Campbell TB.

Nat Med. 18,1786–1796, 2012. (Published online 18 November 2012)

【まとめ】
放射線治療や化学療法、造血幹細胞移植後の造血回復を促進することは、臨床的に非常に重要な課題である。Dipeptidylpeptidase 4 (DPP4)はさまざまな基質を切断するが、その中にはケモカインであるstromal cell-derived factor-1 (SDF-1)も含まれている。本研究では、DPP4が欠損するとSDF-1による造血前駆細胞の生存が促進されることを示した。その実験の過程で予想外に、DPP4がコロニー刺激因子(CSF)活性を抑制することを発見した。すなわち、DPP4はGM-CSF、G-CSF、IL-3、erythropoietinのN末端を切断し、それらの活性を低下させることを明らかにした。そして、Dpp4遺伝子のノックアウトやDPP4阻害剤投与により、in vitroおよびin vivoにおいてCSF活性が増加した。DPP4により切断されたGM-CSFの活性低下メカニズムは、受容体との結合親和性、GM-CSF受容体のオリゴマー形成およびシグナル伝達活性の変化を介している。最後に、Dpp4欠損マウスやDPP4阻害剤(sitagliptin)投与マウスでは、放射線照射や化学療法後の造血回復が促進されることを確認した。以上の結果は、DPP4阻害剤の新しい臨床応用可能性を示すものである。

【論文内容】
造血幹細胞(HSC)および造血前駆細胞(HPC)移植は血液疾患の重要な治療法であるが、移植のために臍帯血や小児の骨髄由来のHSCsを十分量集めるのは難しい。そこで、限られた数のドナー細胞の生着を促進するための方法が模索されてきた。DPP4(別名CD26)は、HSCsやHPCsの膜に発現しているが、膜に結合していない溶解型(soluble form)のDPP4も産生されている。Dpp4遺伝子の欠損や、DPP4活性ペプチド(diprotin A)によって、HPCsのSDF-1への化学走行が促進され、内因性骨髄SDF-1へのホーミングが増加することにより、HSCsの生着が増強されることが分かっている。このグループはDPP4にSDF-1の他の機能を調節する役割があるかを検討していたところ、予想外に、DPP4阻害がin vitroで GM-CSFによるGM前駆細胞の増殖を促進することを発見した。分泌ケモカイン以外のサイトカインがDPP4切断部位を持つことや、その切断部位がCSFsの活性を調節するということは以前は知られていなかった。本研究では、DPP4による切断がCSFsの活性を低下させ、切断されたCSFsは一部は受容体結合の競合によって全長CSFs活性を阻害し、細胞内シグナル伝達を低下させることが示された。さらに、Dpp4遺伝子欠損またはDPP4阻害剤がin vivoにおいて、放射線照射や化学療法後の造血回復を促進することも明らかになった。

DPP4はSDF-1による生存とex vivoの増殖活性を調節している
SDF-1は、HSCsとHPCsの化学走行・ホーミング・生存に重要な分子である。SDF-1はDPP4によって切断され活性が低下するが、以前このグループはDpp4欠損マウスではHPCsのSDF-1への化学走行とHSCsのホーミングが促進されることを示している。HPCsの生存は、SDF-1添加によって有意に促進され、これはDpp4欠損でより大きく増強された。Dpp4欠損骨髄細胞はSDF-1添加なしでは生存が増強されなかったので、DPP4欠損による生存増強効果はDPP4によるSDF-1の切断が起こらないためと考えられた。DPP4を阻害するdiprotin Aの添加により、SDF-1による生存増強効果は100倍に増加した。したがって、細胞表面のDPP4は、SDF-1によるHPC生存増強効果を負に調節していると考えられる。

DPP4阻害はCSFsのin vitro活性を促進する
これらの実験を行っている過程で、このグループは予期せずdiprotin Aの添加によって、GM-CSF刺激によるGM前駆細胞のコロニー形成が2倍に増加されることを発見した。そこで、GM-CSFおよび他のサイトカインのN末端に、DPP4の認識部位であるアミノ酸配列が存在するか蛋白データベースを調べた。その結果、マウスとヒトのGM-CSF、G-CSF、erythropoietinにそのような部位があり、マススペクトロメとリーによる解析でヒトGM-CSFとヒトIL-3が可溶性DPP4により酵素的に切断されること、それはdiprotin Aによって阻害されることが示された。

骨髄系CSFsの活性にdiprotin Aがどのように影響するかを検討するため、ヒト臍帯血やマウス骨髄にdiprotin Aを添加したところ、ヒトおよびマウスのGM-CSF、マウスG-CSF、ヒトIL-3によるコロニー形成は約2倍に増加した。Diprotin Aを前投与した細胞をDPP4切断部位を持つCSFで刺激したところ、前投与しなかった細胞に比べ、コロニー形成が2倍多かった。また、diprotin Aは(赤血球系のCSFである)erythropoietinによる赤血球系のコロニー形成を刺激した。

DPP4による切断によってCSFの活性は低下する
可溶性DPP4で前処置した(N端を切断された)マウスGM-CSFやヒトerythropoietinは活性が低下した。このようなin vitroでのCSF切断の効果をin vivoにおいても確認するため、WTマウスおよびDpp4欠損マウスに、全長または切断されたrecombinant GM-CSFを単回皮下注したところ、24時間後のHPC数はWTマウスでは差がなかったが、Dpp4欠損マウスでは全長GM-CSF投与によるHPC数の増加が認められた。さらに、全長および切断されたerythropoietinのin vivoでの効果を調べたところ、全長のerythropoietin投与は血中への網状赤血球の放出を促進し、その効果はDpp4欠損マウスで大きかったのに対し、切断されたerythropoietin投与では網状赤血球放出効果は少なかった。以上よりin vivoで、全長のGM-CSFやerythropoietinはHPCs増加促進を示すが、DPP4により切断されたGM-CSFやerythropoietinではそのような効果は示さないことが確認された。

DPP4によって切断されたCSFの作用メカニズム
次に、DPP4によって切断されたCSFsが全長CSFsの活性を阻害するメカニズムについて検討した。TF-1細胞(ヒト赤白血病細胞)は、ヒトGM-CSF、IL-3、erythropoietinに反応して増殖し、細胞表面にDPP4を発現している。この細胞をdiprotin Aで前処置しておくと、全長ヒトGM-CSF、IL-3、erythropoietinに反応してコロニー形成が促進される。DPP4によって切断されたCSFsは全長CSFsに比べ、TF-1細胞のコロニー形成能促進が少なかった。このTF-1細胞を用いたScatchard解析によって、全長および切断された[I 125]GM-CSFの受容体への結合動態を調べた。その結果、切断されたGM-CSFは全長GM-CSFの受容体への結合と競合し、全長GM-CSFのシグナル伝達(JAK2-STAT5系の活性化)を低減させることが示された。

DPP4はin vivoでストレス後の造血回復を抑制する
DPP4によってサイトカイン活性が低下するため、DPP4を阻害するとサイトカインが活性化され、ストレス(放射線や化学療法)後の造血回復を促進することができると考えられる。Dpp4欠損マウスはWTマウスに比べて、放射線照射(400 cGy)の後の造血回復が大きかった。細胞傷害性薬剤(5-FUおよびCytoxan)投与後の造血回復も同様にDpp4欠損マウスの方が大きかった。さらに、DPP4阻害剤であるsitagliptin (Januvia)を経口投与すると、投与しなかったマウスに比べ、放射線や5-FU投与後のHPCsの回復が有意に早く、大きく増加した

Dpp4欠損マウスはWTマウスに比べると、5-FU投与後(または400cGy照射後)の末梢血(白血球、好中球、リンパ球、単球、赤血球)の回復促進も大きかった。ただし、sitagliptinの投与では、Dpp4欠損に比べ、末梢血の回復促進の程度は小さかった。

(なお、in vivoでのDPP4阻害は、機能的HSCsに影響を与えるのかどうかを検討するため、competitive repopulation assayを行った。WTレシピエントマウス(B6.BoyJ CD45.1+)にdirotin Aを皮下投与しておくか、またはF1(CD45.1+CD45.2+)レシピエントマウスにsitagliptinを経口投与し、致死量の放射線照射(950 cGy)を行った。そこ上で、C57BL/6ドナー(CD45.2+)細胞とそれが競合するB6.BoyJ (CD45.1+)細胞を用いてWTマウスの骨髄生着を調べる競合移植実験を行った。その結果、DPP4を阻害した致死量放射線照射レシピエントマウスにおいて、生着は有意に多かった。また、生着した細胞の自己再生能は低下していなかった。すなわち、DPP4阻害によるストレス(ここでは放射線照射)後の回復の増強は、HSC機能(生着、自己再生能)の低下によるものではない。)

(また、in vivoでのDPP4阻害後の生着回復にSDF-1が重要な役割を果たすのではないかと考え、SDF-1受容体(Cxcr4遺伝子)をtamoxifen誘導性に全身的にノックアウトしたマウスを用いた検討を行った。ベースラインでは、Cxcr4-/-マウスの骨髄HPCsの絶対数は、コントロールマウスに比べ有意に少なかった。Sitagliptin投与なしでは5-FU投与7日後のHPCsの回復は、Cxcr4-/-マウスの方が、コントロールマウスより効率的に起こった。しかし、どちらのマウスでもsitagliptin投与によるHPC回復の促進は同様であった。したがって、SDF-1-CXCR4の結合は5-FU投与後の回復を減少させる効果があるが、DPP4阻害の造血回復の促進をもたらす効果に必須というわけではない。)

【結論】
DPP4はCSF作用を抑制する因子である」という今回の発見は、臨床に応用可能なものである。すなわち、放射線照射や化学療法を受けた患者やHSC移植のためのコンディショニング後の患者にDPP4阻害剤を投与すると、造血回復を促進することができ、病院滞在日数減や治療結果の好転をもたらすと考えられる。経口DPP4阻害剤であるsitagliptinは、ヒトの放射線治療や化学療法後の造血回復治療に有用と考えられるが、Dpp4遺伝子欠損と同程度の末梢血の回復をもたらすためには、今後、投与量・タイミング・投与期間を最適化する必要があるだろう。現在、このグループはsitagliptinの経口投与により臍帯血移植の効果が高まるかどうかを検討する臨床試験(pilot study)を始めている。なお、DPP4による切断部位を持つ蛋白は、他にもleukemia inhibitory factor、IL-1α、VEGF-Aのsplice variants、IL-6、thrombopoietinなどさまざまなものがある。そのため、DPP4はマウスES細胞の成長(leukemia inhibitory factor)、炎症(IL-1α)、血管新生(VEGF-A)、骨髄腫細胞の成長(IL-6)、ストレス後の巨核球の増殖・血小板の回復(IL-6およびthrombopoietin)など多くの過程に関与しているのだろう。
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(解説図)
左(化学療法後の造血前駆細胞):DPP4は造血前駆細胞(hematopoietic progenitor cells;HPCs)の表面に発現し、ある種の造血成長因子(ここではhematopoietic growth factor; HGFsと略称している)のN末端2アミノ酸を切断する。切断されたHGFsは、全長HGFsと受容体を競合することによりdominant-negativeに働き、HGFsの作用を阻害する。
右(DPP4阻害剤を添加):DPP4阻害剤は、HGFsの切断を防ぐことによって全長HGFsの受容体への結合を増加させる。これにより、化学療法後の造血回復の抑制を改善することができるかもしれない。
EPO, erythropoietin; TPO, thrombopoietin; HGF-R, hematopoietic growth factor receptor.
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by md345797 | 2012-11-22 00:31 | その他

標的エストロゲン療法によるメタボリックシンドロームの治療

Targeted estrogen delivery reverses the metabolic syndrome.

Finan B, Yang B, Ottaway N, Stemmer K, Müller TD, Yi CX, Habegger K, Schriever SC, García-Cáceres C, Kabra DG, Hembree J, Holland J, Raver C, Seeley RJ, Hans W, Irmler M, Beckers J, de Angelis MH, Tiano JP, Mauvais-Jarvis F, Perez-Tilve D, Pfluger P, Zhang L, Gelfanov V, Dimarchi RD, Tschöp MH.

Nat Med. 18,1847–1856, 2012. (Published online Nov 11, 2012)

【まとめ】
核内ホルモンとペプチドを結合させた複合体を作製することにより、ある組織にはホルモンを選択的に到達させ、かつ他の組織におけるホルモンの副作用は起こさない、という新たな治療法が可能である。本研究では、メタボリックシンドロームに有効な核内ホルモンであるエストロゲンと、ペプチドであるGLP-1を結合させたGLP-1-エストロゲン複合体を作製して、高脂肪食負荷肥満マウスに投与したところ、個々のホルモン投与以上に体重減少とメタボリックシンドロームの改善効果が認められたことを示す。この複合体は、GLP-1受容体が発現している標的組織のエストロゲン作用を選択的に活性化し、さらにGLP-1自体の代謝改善作用も促進した。この複合体はGLP-1受容体が発現していない子宮や乳腺には到達しないため、エストロゲンの副作用である生殖内分泌毒性や癌の増殖促進作用は起こさなかった。本研究は、「ペプチドを用いて小分子をある組織にのみ選択的に到達させ相乗的効果を狙う」という治療戦略を、メタボリックシンドロームの治療に応用した一例と言える。本研究で報告するGLP-1-エストロゲン複合体は糖尿病や肥満に対する新たな治療法になりうるが、同様の概念で他の疾患の治療に対してもさまざまなペプチドとホルモンを組み合わせた複合体を用いることが可能となるだろう。

【論文内容】
慢性疾患の治療には多剤を用いたアプローチが必要になることが多く、例えば2型糖尿病の場合しばしば、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下に対する薬剤の両方が必要である。このグループは以前、GLP-1受容体とグルカゴン受容体の両方のアゴニストになるペプチドを作製し、高脂肪食負荷マウスの体重と代謝の正常化に有効であることを示したが、本研究では核内受容体ホルモンを用いた多剤アプローチについて報告する。

エストロゲンは、視床下部におけるレプチン様作用によりエネルギー消費と摂食行動を調節して、肥満・2型糖尿病に有用であることが繰り返し示されている。しかし、エストロゲンは生殖内分泌毒性および腫瘍促進作用のために臨床的な応用は限られている。そこで、組織特異的作用を持つ選択的エストロゲン受容体調節薬(selective estrogen receptor modulators; SERMs)が用いられてきたが、それにも毒性の懸念やメカニズム不明の点がある。本研究では、エストロゲンを選択的にある組織だけに到達させるペプチドを用いた別の方法を報告する。

GLP-1-エストロゲン複合体のin vitro(培養細胞系)における特徴
本研究では、GLP-1とエストロゲンを結合させた2種類の「GLP-1-エストロゲン複合体」を合成した。一つは17β-estradiolへのエーテル結合として、もう一つはestroneの芳香族エステルとして、エストロゲンにGLP-1アナログを共有結合させたものである。結合させたGLP-1アナログは、DPP- IVにより不活性化を受けないものである(2-aminoisobutyric acid置換、exendin-4由来のC末端9残基の付加、エストロゲン結合部位としてのC末端lysine amideの付加による)。このGLP-1-エストロゲン複合体は、GLP-1と同様のGLP-1受容体(GLP-1R)への親和性と生化学活性を持っている。これにより、GLP-1のGLP-1Rへの結合に続く受容体のエンドサイトーシスによって、複合体のエストロゲンを細胞内エストロゲン受容体に輸送することができる。

上記2種類の複合体を、GLP-1Rが発現していないHEK293細胞に添加した。その結果、エーテル複合体は細胞内エストロゲン活性が17β-estradiolの0.005%未満であった。細胞にGLP-1Rが発現していなければ、この複合体は細胞膜を透過せず細胞内受容体を活性化することはないことが分かる。一方、芳香族エステル複合体はestroneと同程度の細胞内エストロゲン活性を持っていた。前者のエーテル複合体はpH 7.4、37℃のヒト血漿中(生理的条件下)で120時間安定なため、「安定型 (stable)GLP-1-エストロゲン複合体」と呼び、芳香族エステル複合体は6時間以内に完全に分解しエストロゲンを放出するので、「不安定型 (labile)GLP-1エストロゲン複合体」と呼ぶことができる。安定型複合体は、GLP-1Rが発現している細胞にのみ取り込まれ、そうでない細胞では細胞膜を透過しない。一方、不安定型複合体は通常のエストロゲンと同様に膜を透過し作用を発揮するため、in vivo投与ではGLP-1Rの発現の有無に関係なく全身の組織にエストロゲン作用をもたらすと考えられる。

安定型GLP-1-エストロゲン複合体はin vivoで体重減少と代謝改善をもたらす
GLP-1-エストロゲン複合体が全身の代謝に及ぼす影響を検討するため、高脂肪食負荷した肥満マウス(オス)に、これらの複合体またはGLP-1のみのコントロールを投与した。安定型GLP-1-エストロゲン複合体は、GLP-1や不安定型複合体に比べて、用量依存的な体重低下作用がより大きかった。高用量投与(400 μg/kg体重)では、GLP-1はマウスの体重を10.3%低下、不安定型複合体は7.5%低下させたの対し、安定型複合体は23.8%低下させた。すなわち、GLP-1単独よりも、GLP-1-エストロゲン複合体の方が体重減少効果は優れており、それにはエストロゲンとGLP-1の安定な結合が必要と考えられた。この安定型GLP-1-エストロゲン複合体による体重減少は、摂食減少、体脂肪量低下、血漿レプチン濃度低下を伴っていた(レプチン感受性の改善が示唆される)。安定型GLP-1-エストロゲン複合体は、高血糖、インスリン感受性、脂質異常、呼吸商、脂肪肝と肝細胞障害を改善したが、エネルギー消費と運動活性には影響がなかった。これらの安定型複合体による代謝改善は、高脂肪食負荷した肥満のメスのマウスでも同様に認められた。

ここで、細胞内におけるエストロゲン放出が大きければ、もっと大きい代謝改善効果が認められるのではないかと考え、「血漿では安定だが、細胞内ではただちに分解する」複合体を2種類作製した。しかし、これらは安定型複合体より大きな体重低下作用を示さなかった。これにより、血漿中で安定な安定型複合体であっても、細胞内では効率よく分解され、十分量の活性型エストロゲンを標的細胞内に放出することが示唆された。

安定型GLP-1-エストロゲン複合体はエストロゲンの副作用を示さない
GLP-1-エストロゲン複合体が子宮肥大の副作用を示さないか確認するため、複合体を卵巣摘出(OVX)ラットに投与した。最大用量(4,000 μg/kg体重)でGLP-1単独および安定型複合体では子宮重量は増加しなかったが、不安定型複合体では2.5倍に増加した。不安定型複合体による子宮肥大は、複合体からの遊離エストロゲンの放出による全身の非標的効果(全身エストロゲン治療に伴う毒性)があることを示している。安定型複合体では、エストロゲン放出および血中エストロゲンの増加がなく、この副作用は見られない。さらに、安定型複合体を投与しても、血漿黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度は変化せず、安定型複合体は視床下部-下垂体-性腺系には影響を与えなかった。また、これら複合体が乳腺組織の腫瘍形成に与える影響を調べるため、OVXヌードマウスにおけるエストロゲン依存性MCF-7(ヒト乳癌細胞株)異種移植片の増殖を検討した。移植21日間で、estradiolおよび不安定型エストロゲン複合体は腫瘍の増殖を起こしたが、安定型複合体は腫瘍の増殖を起こさなかった。いずれの群でも注入した腫瘍細胞はin vivoで生存したが、安定型複合体を投与した群は他の2群より腫瘍サイズは小さかった。移植68日にはestradiol投与群と不安定型複合体投与群での乳癌発症率は100%だったのに対し、安定型複合体の投与群では30%にとどまり、腫瘍のサイズも小さかった。このように、安定型複合体はエストロゲンによる生殖内分泌毒性と発癌性の副作用を防止できることが示された。

さらに、エストロゲンによる骨密度への副作用を骨量測定により評価した。不安定型複合体を投与したマウスでのみ、peripheral quantitative computed tomography (pQCT)で大腿骨骨幹端と骨幹の皮質と皮質下の骨量の増加が見られた。骨はGLP-1Rの発現がきわめて少ないので、骨には安定型GLP-1-エストロゲン複合体は作用せず、骨に対する副作用が回避されていることが分かる。

GLP-1-エストロゲン複合体の効果は中枢神経系のGLP-1受容体活性化依存的に起こる
次に、これらの複合体の効果におけるGLP-1の役割について検討するため、アミノ酸を一部置換した「活性低下型」GLP-1アナログとエストロゲンの複合体を作製し、高脂肪食負荷肥満マウスに投与した。「安定型・活性低下GLP-1複合体」は最大用量投与(4,000 μg)で5.1%の体重減少を起こしたが、これは「安定型・活性型GLP-1複合体」よりもはるかに効果が弱い。一方、「不安定型・活性低下GLP-1複合体」では20.6%の体重減少をきたし、これは血中への遊離エストロゲン放出によるものと考えられた。これに伴い、摂食減少と血漿脂質の改善が認められたが、子宮肥大と肝細胞障害の副作用が起きた。活性低下GLP-1と安定結合したエストロゲンでも体重減少は起こるものの、その効果は少なかった。ただ、GLP-1と安定結合させたための標的効果によって副作用が回避されることが示された。

次に、中枢神経系特異的なGLP-1R欠損 (nestin-Cre Glp1r−/−)マウスに高脂肪食を負荷し、安定型GLP-1-エストロゲン複合体投与の効果が見られるかを検討した。GLP-1のみの投与では野生型(WT)マウスで3.6%の体重減少があったが、同じ用量(400 μg/kg体重)の安定型複合体投与で8.5%の体重減少が認められた。しかし、中枢神経系特異的GLP-1R欠損マウスでは、GLP-1でも安定型複合体でも体重減少、摂食低下、代謝改善は認められなかった。WTマウスに安定型複合体を投与すると、GLP-1のみまたはエストロゲンのみの投与に比べ、視床下部弓状核のproopiomelanocortin (POMC)とレプチン受容体の発現が増加した。エストロゲンの投与ではneuropeptide Y (NPY)の発現が減少したが、安定型複合体の投与では減少しなかった。すなわち、GLP-1による標的効果でエストロゲンを視床下部POMCニューロンに到達させることによって、GLP-1のみまたはエストロゲンのみの投与に比べ代謝がより改善されることが示唆された。

GLP-1-エストロゲン複合体はエストロゲン受容体も介して代謝改善を起こす
エストロゲン受容体のあるINS-1E細胞(マウス膵β細胞株)をGLP-1で刺激しても、Trim25遺伝子(エストロゲンで発現が誘導される遺伝子)の発現は増加しないが、estradiolで刺激すると濃度依存的に発現が増加する。この細胞を安定型複合体で刺激した際も、(やや低値ながら)同様のTrim25遺伝子発現増加が見られた。In vivoで、安定型複合体を高脂肪食負荷肥満マウスに投与すると、視床下部のTrim25発現が増加し(1.75倍)、これは不安定型複合体投与(1.36倍)の場合よりもやや多かった。このような安定型複合体によるTrim25の発現はGLP-1Rを発現している視床下部弓状核で見られたが、GLP-1Rを発現していない肝ではみられなかった。

さらにこれらの複合体の作用におけるエストロゲン受容体(ERα、ERβ)の必要性を調べるため、安定型複合体を高脂肪食負荷したWT、ERα欠損(Esr1−/−)、ERβ欠損(Esr2−/−)の各マウスに投与した。WTマウスでは、GLP-1のみまたは安定型複合体の投与により体重がそれぞれ10%、23.6%減少したが、ERα欠損マウス(GLP-1で10.2%、安定型複合体で15.9%)とERβ欠損マウス(GLP-1で9.9%、安定型複合体で14.5%)では、安定型複合体による体重減少の程度が少なかった(GLP-1による体重減少の程度は同じ)。以上より、安定型複合体の投与では、GLP-1作用とエストロゲンシグナル伝達(ERαとERβの両方必要)が協調して全身の代謝を改善していると考えられる。

GLP-1-エストロゲン複合体の効果は、GLP-1の薬物動態(pharmacokinetics)の変化によるものではない
上記のGLP-1-エストロゲン複合体の効果は、GLP-1の薬物動態が促進されているために起きているという可能性もありうる(エストロゲンというステロイドと複合体を形成しているために、GLP-1と血漿蛋白との結合が増加する可能性)。血漿蛋白と結合しても(20%ヒト血漿存在下)、結合しなくても(血漿のない状態)でも、GLP-1と安定型複合体とでは、in vitroでのGLP-1Rへの親和性は同じであった。ところが、エストロゲンの代わりにpalmitoyl鎖を付加したアシル化GLP-1アナログでは、血漿蛋白が存在すると、GLP-1Rへの結合は存在しない状態の約400分の1に減少した。すなわち、エストロゲン付加によりGLP-1の血漿蛋白結合能には影響がないことが分かった。

GLP-1へのエストロゲン付加はin vivoにおいてもGLP-1の薬物動態に影響していないことを調べるため、正常マウスに安定型複合体またはGLP-1をそれぞれ単回注射し、GLP-1の血中濃度を測定した。その結果、GLP-1に比べ安定型複合体は、最大濃度(Cmax)がやや大きかったが、最大濃度到達時間(Tmax)と半減期(T1/2)、8時間で消失するといった薬物動態は同様であった。すなわち、GLP-1にエストロゲンを付加しても、in vivoでGLP-1の初期の濃度はやや上昇するが、GLP-1のクリアランスには影響しないことが分かった。さらに、安定型複合体と前述のアシル化GLP-1アナログとGLP-1-リトコール酸複合体でin vivoでの効果を比較した(リトコール酸は脂溶性のためGLP-1の薬物動態にエストロゲンと同様の効果をもたらすが、エストロゲンのような代謝活性はない)。大きい方から、アシル化GLP-1、安定型複合体、GLP-1-リトコール酸複合体の順に体重減少効果が見られた(それぞれ30.2% 、22.1%、13.1%の体重減少)。GLP-1-リトコール酸複合体による体重減少は、GLP-1のみの効果と同様であった。

さらに、エストロゲン複合体の代謝効果はエストロゲンを「GLP-1と結合させたことによる」ものであることを示すため、エストロゲンとGIPまたはエストロゲンとグルカゴンを結合した複合体を作製し、高脂肪食負荷マウスに投与した。その結果、GIP-エストロゲン複合体ではGLP-1-エストロゲン複合体で見られたような体重減少と代謝改善効果は見られなかった。グルカゴン-エストロゲン複合体では体重減少は見られなかったものの、血糖は15.5%低下した(この血糖低下はコントロールのGLP-1のみの投与と同程度)。グルカゴンのみの投与では血糖は上昇するが、グルカゴン-エストロゲン複合体投与で血糖が低下した原因は不明。エストロゲンにより肝にこの複合体が到達し、グルカゴンによる肝の糖新生を抑制したためか、と推測している。

以上の結果より、「GLP-1とエストロゲン」の組み合わせは、GLP-1の薬物動態を変えたり、GLP-1に対するsuperagonist(内因性アゴニストであるGLP-1以上にGLP-1Rを刺激するアゴニスト)として働くわけではないが、薬理学的な長所を発揮する組み合わせと考えられた。

【結論】
本研究では、メタボリックシンドロームの治療に有効と思われるエストロゲンを選択的に標的臓器に届けるために、薬物シャペロン(medicinal chaperone)としてGLP-1を結合させ、選択的でより効果の強いGLP-1-エストロゲン複合体を作製した。これにより、エストロゲンの高濃度全身投与に伴う副作用(子宮肥大や乳癌の発生)も避けることができた。また、GLP-1の食欲抑制作用とエストロゲンのレプチン様作用により、中枢を介して(おそらく視床下部弓状核のGLP-1Rとエストロゲン受容体を発現したPOMCニューロンを介する摂食抑制により)、強力にな体重減少が達成できた。また、GLP-1は膵β細胞に対する増殖促進作用、エストロゲンは膵β細胞のアポトーシス抑制作用を持つため、このGLP-1-エストロゲン複合体は2型糖尿病治療にも有効であろう。

この安定型GLP-1-エストロゲン複合体は細胞内でエストロゲン作用を起こすため、血漿中では結合が切断されないが細胞内で切断されると考えられる。すなわち、抗体と化学療法剤を結合させた薬剤と同じように、特定の細胞に作用し細胞内で結合が切断されることにより効果を発揮すると考えられる(例としてtrastuzumab emtansine、略称T-DM1、転移性乳癌に過剰発現するHER2に対するモノクローナル抗体トラスツズマブと化学療法剤DM1をリンカーで結合した複合体がある)。以上、本論文では、「ペプチドと核内ホルモンを結合させて相乗的に作用させることにより、特定の細胞に選択的に核内ホルモンを送る」という新しい代謝疾患の治療法の概念を報告した。このような概念により、甲状腺ホルモンを視床下部に選択的に送ることにより褐色脂肪組織での熱産生を刺激することができるかもしれないし、肥満は視床下部の炎症を伴うことから、グルココルチコイドを視床下部(や脂肪組織)に選択的に送ることによりその抗炎症作用を介して肥満を改善することが可能になるかもしれない。
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by md345797 | 2012-11-17 04:36 | その他

腸内細菌叢の組成と活性は、宿主の代謝形質と疾患リスクに関連する

Gut microbiota composition and activity in relation to host metabolic phenotype and disease risk.

Holmes E, Li JV, Marchesi JR, Nicholson JK.

Cell Metab. 16, 559-564, 7 November 2012.

【総説内容】
ヒポクラテスは「すべての病気は腸に始まる」と言ったが、近年、哺乳類宿主とその腸内細菌叢(microbiota)との共生関係が、宿主のエネルギー摂取・免疫機能・代謝シグナルなどに大きく関与していることが分かってきた。最近の培養によらないゲノム解析法により腸内細菌叢の特徴が明らかになり、腸内細菌叢のゲノム(microbiome)はヒト宿主のゲノムより少なくとも150倍は大きいことが明らかになっている。これらの知見に基づいて、「ヒトは、その腸内細菌叢が事実上主要な臓器の一つとして働いているsuperorganism(超個体)である」という概念が生まれ、生物学や医学のパラダイムシフトをもたらしつつある。

細菌叢が個体の形質に及ぼす影響
乳児は、母親の産道経由で母親の細菌叢の一部を移植される。この初期の「種」となる細菌叢は、無数の環境因子、遺伝的因子、エピジェネティックな因子によって調節・変更され、その人の特有な細菌状態を形成する。Microbiomeの多様性は、体の部位、個人間、年齢、食事などによっても変化し、また時間的にも変化する。個人間の細菌構成の多様性は驚くほど大きいが、それが宿主に同じような作用を及ぼす(表現型模写; phenocopy)ということも分かっている。

健康と疾患における腸内細菌叢の役割
健康な細菌叢はどのように構成されているのか?これについては分かっていないことが多いが、最もよく知られている「哺乳類-細菌相互作用」は粘膜免疫系である。免疫系の適切な発達には細菌叢の存在が不可欠であり、無菌動物ではリンパ組織やT細胞・B細胞サブセットの異常が起こることが知られている。また、細菌叢はToll-like receptors (TLRs)を介して先天的免疫系に影響を及ぼしている。TLR2とTLR4はそれぞれ、リポポリサッカライドとペプチドグリカンを認識し、病原菌から身を守るためのサイトカインやケモカインの産生を刺激する。また、TLR2欠損マウスはインスリ抵抗性であり、このインスリン抵抗性はFirmicutesの増加を伴い、抗生剤投与で改善する。興味深いことに無菌のTLR2欠損マウスはインスリン抵抗性をきたさない。なお、粘膜層のTLRsの役割は病原菌を同定し除去することであるが、共生菌であるBacteroides fragilisはregulatory T細胞上でTLR2を介して認識されることにより粘膜に定着している。すなわち、粘膜のTLRsは宿主にとっての共生菌と病原菌を区別できるのだろう。

宿主と細菌叢との間には、免疫系だけでなく、胆汁酸、短鎖脂肪酸(SCFAs)、コリン分解産物、芳香族酸、植物フェノール、炎症性脂質、エンドカンナビノイドなどの代謝産物(metabolites)による情報伝達が存在する(図のA)。これらは、発達段階や環境によって大きく変化し、同じ個体でも時間的、局所解剖学的な状況により、宿主に良い影響も悪い影響も与えうる。

多くの疾患(Crohn病、大腸癌、糖尿病、メタボリックシンドローム、心血管疾患、ストレス、不安、食物アレルギー、喘息、自閉症、肝性脳症、湿疹など)が、腸のmicrobiomeの機能異常によって発症しうることが分かっている。特に、肥満と正常を比較すると腸内細菌組成が異なり、肥満ではFirmicutes:Bacteroidetes比が増加していることが指摘されている。ただしこれに当てはまらない結果もあり、肥満と腸内細菌叢の関係はより複雑と思われる。また、高脂肪食を負荷したC57Bl/6マウスは、同じ系統で同じ食餌を与えても腸内細菌叢の違いによって糖尿病形質を示すものと示さないものがあることも分かっている。肥満には細菌による代謝産物が関与している可能性もあり、馬尿酸、フェニルアセチルグルタミンなどの代謝産物は、やせ型の形質に関与するという結果もある。過体重の母親から生まれた6か月までの乳児は、妊娠中の体重増加によりBacteroides種、Staphylococcus種、Clostridium difficileの数が多くなっていることも知られている。このような研究が進めば、腸内細菌の多様性と肥満・メタボリックシンドロームとの関連が理解され、そのバイオマーカーの同定や治療の開発につながるだろう。

腸内細菌叢の機能的メタゲノミクス
Microbiomeの組成を同定するためのハイスループットシークエンス法の発達に伴って、microbiomeの機能を知るための新しい方法が求められている。つまり、どんな細菌が「存在するか」ではなく、どんな細菌が「働いているか(=宿主の代謝に影響しているか)」が重要なわけである。しかし、「宿主にある影響を及ぼすためにはその細菌の作用がどれくらいあればいいか」ということも分かっていない。肥満の状態の細菌組成を明らかにするために、ゲノム多様性のマーカーとして16S rRNA遺伝子が用いられているが、腸内細菌叢の機能を明らかにするもう一つの方法は、宿主の体液や組織をスクリーニングしてその中の細菌由来の代謝産物 (尿中馬尿酸、フェニルアセチルグルタミン、4-クレシルスルフェート、4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸など)を分析する方法であり、代謝プロファイリングのための高分解能スペクトロスコピー法が用いられる。

「エンテロタイプ」の概念:ヒトの細菌組成による層別化の試み
疾患のメカニズムとその遺伝的変異を理解するために、ゲノムワイド関連解析(GWAS)に基づいてヒト集団を異なる遺伝子型(genotype)のグループに層別化することが行われてきた。それと同じく、大腸の細菌構成に基づく層別化が提唱されている。腸内細菌叢の類似性に基づいてバイオインフォマティクスを用いたクラスタリングを行い、ヒト集団を3群に分けた「エンテロタイプ」である。これによるとヒト集団は、Bacteroides種、Prevotella種、Ruminococcus種の各群(clade)に分類され、これは個人の健康状態、年齢、BMI、住む場所、性別には関係しないとされる。その後の研究で、Ruminococcus種はなく、残りの2つエンテロタイプの存在のみが強く示唆されている。この研究では、高脂肪食・低脂肪食負荷により、microbiomeは24時間以内に変化するものの、10日以上たってもエンテロタイプは10日以上たっても変化しなかった。このエンテロタイプの概念は魅力的な仮説であるが、エンテロタイプが個人の健康状態、年齢、BMI、住む場所、性別には関係しないとされる当初の知見を支持しない報告もある(例えばYatsunenkoら、およびClaessonら)。ところで、このようなエンテロタイプは代謝形質(メタボタイプ)にどのように影響し、疾患リスクや治療介入に有用なのか?腸内細菌叢は宿主のメタボロームに影響を及ぼすことは明らかになっているので、「腸内細菌の層別化によって、同じように代謝産物のプールも層別化できるのか」と考えられた。しかし現時点では、尿・便のメタボロームの腸内細菌の層別化に対応するような腸内細菌の層別化は明らかになっていない。また、エンテロタイプとメタボタイプの関連が示されていないため、エンテロタイプは、生物学的・バイオインフォマティクス的に有意な概念なのかという疑問も生じている。2つのエンテロタイプ(BacteroidesPrevotella)に属する細菌の分類学的解析によって、これらの種は属(genus)レベルの群(clade)に分けられることが明らかになっている(図のB)。しかし、この2つの属をそれらの機能によってクラスター化すると、連続しオーバーラップするグループになってしまう(図のC:主因子分析によってクラスター化すると、BacteroidesもPrevotellaもcluster 1に含まれてしまう。なお、cluster 2はEnterobacteriaceae、cluster 3はFirmicutes、Ruminococcui、Acinetobactreriaを含む)。つまり、2つのエンテロタイプは、宿主に対する機能としてはオーバーラップするところがあり、異なる2つのメタボタイプに当てはまるわけではない。そこで、腸内細菌叢がどれだけ変化すれば宿主のメタボタイプを変化させることができるのかを知る必要性が出てくる。実際、食事、抗生剤、プレ/プロバイオティクス、薬剤、外科手術などにより腸内細菌叢を変化させると、例えば、Roux-en-Y胃バイパス(RYGB)により腸内細菌叢をBacterodetes/Firmicutesを主とする集団からEnterobacteriaceaeを主とする集団に変化させると、これは宿主のメタボタイプの変化につながることが知られている。このRYGBように急激な変化であれば、腸内細菌の劇的な変化を伴うため宿主のメタボロームに影響するが、実際の肥満やインスリン抵抗性への進展は持続的でわずかずつゆっくりであると考えられるので、肥満やインスリン抵抗性はエンテロタイプの概念だけでは説明できないかもしれない。

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腸のmicrobiomeは食事によって変化する
Microbiomeの食事により、また、プレバイオティクス(=有益な細菌の成長を促進する物質)やプロバイオティクス(=宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物)の投与により大きく変化することが報告されてきた。ただしこれらの研究は、臨床研究のデザインやガイドライン、対象人数などの点でまだまだ大きな欠陥があり、さらなる検討が必要である。このうち食習慣は、宿主の細菌集団と機能に影響を及ぼし、それが疾患リスクや発症につながることは明らかで、例えばマラウイ(アフリカ南東部の国)人とアメリカ先住民の子供の細菌叢は、アメリカ人の子供の細菌叢よりよく似ていることが報告されている。また、食事中のコリンの欠乏により腸内細菌(GammaproteobacteriaErysipelotrichi)の量が変化し、脂肪肝につながることが知られている。逆に、コリンまたはtrimethylamine-N-oxideを補充した食事をマウスに投与すると、血中trimethylamine-N-oxide濃度が増加し、マウスの動脈硬化が促進されるが、このマウスの腸内細菌叢を抑制しておくと促進されなくなる。これらの結果は、腸内細菌叢と食事と宿主の代謝という三者関係の重要性を示すものだろう。さらに、鉄欠乏ラットはLactobacilliEnterobacteriaceaeが増加、酪酸産生菌であるRoseburia種が減少しており、これに伴って便中の短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸)が減少している。これらの報告はあるものの、腸内細菌叢と宿主の関係はきわめて複雑巧妙であり、この平衡状態を理解して個人の治療介入に用いるためには、何らかのシステム生物学的アプローチが必要になるだろう。

腸内細菌叢と宿主代謝の関係をもとにしたトランスレーショナルな治療
腸内細菌叢と宿主代謝の関連が明らかになれば、さまざまな疾患(肥満、炎症性腸疾患、心血管疾患、さらには自閉症などの神経行動異常)への治療介入に有効な手段となるだろう。成長に伴うmicrobiomeと宿主代謝の関係の変化を知ることにより、若年のうちに成人の疾患を予防することができるようになるかもしれない。Microbiomeをターゲットとする治療は、プレバイオティクス、プロバイオティクスおよびその両方(シンバイオティクス)を用いて、わずかな、また一時的なmicrobiomeの変化をもたらす方法から、便の移植、細菌療法といったもっと劇的にmicrobiomeを変化させる方法(Clostridium difficile感染による潰瘍性大腸炎の治療に便移植が有効であることを示した研究がその代表)までさまざまである。Microbiomeは、宿主の代謝調節を変化させるための薬剤ターゲットになりうるが、まずは個人の細菌組成の多様性がどのようにその個人の代謝形質に影響しているのかを知る必要がある。Microbiome研究は、21世紀のヘルスケアの枠組みにおいて、ヒトの疾患の原因と治療を理解するための史上例を見ないトランスレーショナルな価値を持つ研究であろう。
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by md345797 | 2012-11-14 18:30 | その他

Myf5前駆細胞由来の白色脂肪細胞の存在と、Myf5系列でのPTEN欠損による体脂肪の再分布

PTEN Loss in the Myf5 Lineage Redistributes Body Fat and Reveals Subsets of White Adipocytes that Arise from Myf5 Precursors.

Sanchez-Gurmaches J, Hung C-M, Sparks CA, Tang Y, Li H, Guertin DA.

Cell Metab. 16(3) 348-362, September 5, 2012.

【まとめ】
Myf5を発現する間質前駆細胞は褐色脂肪細胞と骨格筋を発生させると考えられてきたが、本研究では、これらの細胞が白色脂肪細胞のある種の集団も発生させることを示した。褐色および白色脂肪組織は、Myf5陽性(Myf5+)とMyf5陰性(Myf5 neg)系列由来の脂肪前駆細胞(APCs)を含んでおり、その数は個々の脂肪組織の部位によって異なっていた。白色脂肪細胞の中のある集団は、β3-adrenoreceptor刺激に反応して、Myf5+およびMyf5 negの両方の前駆細胞からそれぞれ発生した。すなわち、”brite”脂肪細胞は複数の起源を持つ。さらに、myf5+系列でPTENを欠損させると、Myf5+由来脂肪細胞のみが選択的に増加することによって、体脂肪の再分布が起こり脂肪腫症と脂肪萎縮が併存した。以上より、①Myf5+前駆細胞由来である脂肪細胞の範囲は今まで考えられていたより広い(ある種の白色脂肪細胞も含む)。②脂肪細胞系列間のPI3K活性の違いによって(=PTEN欠損によりPI3K活性は増加)、体脂肪の分布が変化することが明らかになった。

【論文内容】
白色脂肪組織(WAT)が不均一(heterogeneous)であることは最近明らかになっており、個々の白色脂肪細胞は発生学的に異なると考えられている。また、β3-adrenergic receptor刺激によって誘導される、白色脂肪内の「褐色脂肪様」細胞、brite細胞が、肥満治療に有用と考えられ注目を集めている。褐色脂肪は白色脂肪に比べ、発生学的には骨格筋に近く、遺伝子発現も筋発生様の転写プロファイルを持つ。褐色脂肪細胞は、筋発生のための転写因子Myf5を発現する間質前駆細胞由来である。Myf5+前駆細胞から褐色脂肪と骨格筋が発生し、Myf5 neg前駆細胞から白色脂肪とbrite脂肪が誘導されると考えられてきた。

褐色脂肪分化の調節についてはよく分かっていないが、in vitroでは脂肪前駆細胞からの脂肪細胞への分化にはインスリンを用い、これはPI3K活性化を介する機構が考えられている。PI3K活性は、PTENによって負に調節されている。この研究では、conditionalにMyf5+系列のみでPTENを欠損(PI3Kを活性化)させるマウスを作製し、in vivoでの褐色脂肪分化の変化を調べた。その結果、Myf5+系列でPTENを欠損させると、全身の脂肪組織分布が変化し、脂肪腫症と部分的脂肪萎縮が同時に起きた。予想外なことに、これは、Myf5+-Cre+前駆細胞由来の白色脂肪、褐色脂肪の増加によるものであった。Myf5+前駆細胞由来の脂肪細胞の範囲は今まで考えられていたものより広く、Myf5+前駆細胞のPI3K活性化により体脂肪の再分布が起きることが示された。

Myf5+前駆細胞でのPTEN欠損は、脂肪腫症と部分的脂肪萎縮を同時に起こす
PTEN fl/flマウスとmyf5-creノックインマウスを交配して、褐色脂肪前駆細胞でPI3Kシグナルが活性化されたマウスを作製した。このPTEN myf5cKOマウスは出生時からコントロールに比べ、馬の首輪様(horse collar-like)の成長と、水雷型(torpedo shape)によってはっきり区別できた。6-12週では体重は正常だったが、脂肪の分布は著しく異なっていた。すなわち、肩甲骨間(interscapular)、肩甲骨下(subscapular)、頚部(cervical)褐色脂肪組織(iBAT、sBAT、cBAT)と、肩甲骨間(iWAT)、後腹膜(retroperitoneal:rWAT)、脊椎(vertebral) のWATが大きく増加していた。さらに、腸間膜(mesenteric)、性腺周囲(perigonadal:pgWAT)、鼠径部(inguinal: ingWAT)、臀部(gluteal)、後面皮下(posterior subcutaneous)のWATは欠損していた。このように、PTEN myf5cKOマウスは重篤な脂肪腫症と部分的脂肪萎縮を合併していた。

PTEN myf5cKOマウスの脂肪組織では、脂肪細胞が大きく、細胞数も多い
PTEN myf5cKOマウスのBATの脂肪滴は典型的な多房性(multilocular)を示していたが、脂肪細胞の大きさは大きかった。PTEN myf5cKOマウスのrWAT、iWATでは単房性(unilocular)の脂肪滴を持つ大きい白色脂肪細胞(コントロールの2倍程度)を認めた。PTEN myf5cKOマウスは6週齢では、褐色脂肪の細胞数も多かった。

PTEN myf5cKOマウスは白色、褐色脂肪のどちらにおいてもPTENを完全に欠損している
PTEN myf5cKOマウスの胚の褐色脂肪前駆細胞および6週齢のBATでは、PTENの確実な欠損とPI3Kシグナルの増強(AKT S473リン酸化の増加)が認められた。なお、興味深いことに、下肢骨格筋では(骨格筋なのでMyf5系列と考えられるが)PTEN欠損が認められなかった。過去の報告によると、Myf5+およびMyf5 negの両方の系列から骨格筋が発生する(骨格筋の部位によってどちら由来か異なる)と考えられており、下肢骨格筋はMyf5 neg由来の筋芽細胞(PTENを発現している)がMyf5+由来の筋芽細胞(PTEN発現なし)に融合してPTEN欠損を代償してしまっている可能性が考えられた。一方、白色脂肪はMyf5+前駆細胞か由来とは考えられていない。ところが予想外なことに、PTEN myf5cKOマウスのiWATとrWATでは、BAT同様のPTEN欠損が認められた。このことは、「褐色脂肪はMyf5+前駆細胞由来の唯一の脂肪」という前提に反し、「ある種の白色脂肪もMyf5+前駆細胞由来である」ことを示唆する。

白色脂肪細胞の中のある集団はMyf5+前駆細胞由来である
そこで、myf5-cre;R26R-EYFPマウス(前にmyf5-creノックインアレルを発現した細胞のみにYFPを発現するマウス)を作製し、Myf5+系列を追跡した。予想通り、このマウスは、BATや骨格筋で高レベルのYFPを発現しており、これは褐色脂肪と骨格筋がMyf5+前駆細胞由来であることと一致する。しかし、このマウスは、BATと同程度にiWATとrWATでYFPを発現していた(ingWATやpgWATに比べると15-20倍多く発現)。しかも、iWATやrWATでのYFP発現は、褐色脂肪マーカー(ucp1、prdm16)の発現とは相関せず、例えばYFP発現の少ないingWATではucp1、prdm16が多く発現していた。以上より、myf5系列の追跡では、BATおよび骨格筋に加えて、iWATとrWATもラベルされた。

さらに、Myf5+系列を追跡するための確認として、myf5-cre;R26R-LacZマウスを作製したところ、同様にBATとiWAT、rWATでLacZ陽性であり、ingWAT、pgWATではLacZは陰性であった。Myf5 neg系列由来と考えられるingWATには多房性脂肪滴を含む脂肪細胞(=brite脂肪細胞)が多く含まれており、Myf5+由来と考えられるiWATとrWATには単房性脂肪細胞が多く含まれていた。

では、Myf5+系列由来のiWATとrWATは、BATに特有の遺伝子発現signatureを示すのかをqRT-PCRで検討した。まず、iBATはrWATに比べて褐色脂肪マーカー(cidea、prdm16、zic1、ucp1)の発現が多く、rWATはiBATに比べて白色脂肪マーカー(HoxC8、Hoxc9、Dpt)の発現が多かった。したがって、rWATは、Myf5+系列由来とは言え、褐色脂肪signatureは持たなかった。すなわち、Myf5+前駆細胞は(褐色脂肪に加え)、白色脂肪の中のある種の集団を生み出すと考えられた。

Myf5+前駆細胞由来の脂肪前駆細胞(APC)の数は、脂肪組織の部位によって異なる
myf5-cre;R26R-LacZマウスから、個々の脂肪組織(fat depot)を単離し、それぞれのstromal vascular fraction (SVF)を調整して、LacZ発現を検討した。コントロールに比べ、このマウスのiBAT、iWAT、rWATは強くLacZに染色された。ingWAT、pgWATはLacZ陽性細胞が少なかった。これらのSVF細胞を分化させたところ、iBAT由来の脂肪含有細胞(SVF中のadipogenic cells)はほとんどがLacZ陽性(=Myf5+前駆細胞由来)であり、iWATとrWAT由来の脂肪含有細胞は半分程度がMyf5+前駆細胞由来であった。それに対し、ingWATとpgWAT由来の脂肪含有細胞にはMyf5+前駆細胞由来のものはほとんどなかった。

SVFは、血液、血管、神経、マトリックス細胞に加え、脂肪細胞前駆細胞(APCs:adipocyte progenitor cells)を含む。そこで、myf5-cre;R26R-EYFPマウスの各脂肪組織からAPCsを精製し(CD31-:CD45-:Ter119-:CD29+:CD34+:Sca1+)、flow cytometryでYFPの発現を検討した。その結果、BATから精製したAPCsの85%はYFPを発現していた(褐色脂肪はMyf5+前駆細胞由来であることに一致する)。iWATとrWATから精製したAPCsでは、それぞれ48.9%、69.4%がYFPを発現していたが、ingWATとpgWATのAPCsではそれぞれ6.1%、9.1%しかYFPを発現していなかった。

次に、WATに存在するMyf5系列のAPCsが、褐色脂肪の遺伝子発現signatureを示すのかを調べた。その結果、iBAT由来のAPCsでは、YFP陽性のものもYFP陰性のものも褐色脂肪マーカーZic1を発現していたが、YFP陽性のもののみがprdm16を発現していた。また、rWAT由来のYFP陽性APCsは、褐色脂肪マーカーは発現しておらず、白色脂肪マーカーを多く発現していた。したがって、 WATに存在するMyf5+のAPCsは古典的な褐色脂肪マーカーを発現しているわけではなく、BAT前駆細胞とは異なる遺伝子発現signatureを持っていることが分かる。

β3-adrenoreceptorアゴニストを長期投与してもMyf5+脂肪細胞系列は選択的に増加しない
では、WATに存在するMyf5系列由来の脂肪細胞が、ingWATに存在するMyf5 negのbrite脂肪細胞とは区別できる、別のbrite脂肪細胞の集団である可能性を検討した。WATに存在するMyf5系列由来の脂肪細胞は、誘導可能な褐色脂肪細胞なのか(brite脂肪細胞になるのか)を調べるために、myf5-cre;R26R-LacZマウスに1週間CL316,243(β3-adrenoreceptorアゴニスト)を投与した。CL316,243によって誘導されたrWATの多房性細胞はLacZ陽性であり、この組織(後腹膜)はMyf5系列の細胞が多いことが分かった。ingWATとrWATの両方ともCL316,243によってucp1発現が強く誘導された。以上より、β3-adrenoreceptor刺激は、Myf5+およびMyf5 negの両方の系列からのbrite脂肪細胞の産生を誘導するといえる。次に、Myf5系列のAPCsにCL316,243を長期に投与し、選択的に刺激した。myf5-cre;R26R-EYFPマウスでは、BATにおいてYFP陽性のAPC組成は変わらなかった。興味深いことに、CL316,243はiWATのYFC陰性APC組成を増加させた。(rWAT、ingWAT、pgWATではCL316,423による効果は少なかった。)したがって、CL316,423は、Myf5+前駆細胞由来のAPCsの増大を選択的に刺激しないといえる。

Myf5-creでPTEN欠損させると、Myf5+前駆細胞由来の脂肪細胞系列を選択的に増殖させる
Myf5+系列でPTENを欠損させると体脂肪の再分布が起きるメカニズムを理解するため、PTEN myf5cKO-LacZマウス(Myf5+系列でPTENをconditionalに欠損させ、Myf5+由来細胞はLacZで染色されるようにしたマウス)を用いた検討を行った。このマウスでは、iBAT、sBAT、iWAT、rWATが一様にLacZ染色された。このWAT由来の細胞を分化させると、脂肪含有細胞のほとんどはLacZ染色された(=Myf5+前駆細胞由来であった)。さらに、PTEN myf5cKO-YEPマウス(Myf5+系列でPTENをconditionalに欠損させ、Myf5+由来細胞はYEPでラベルしたマウス)では、WATに存在するPTEN欠損YFP陽性(=Myf5+由来)APCsは、コントロールのAPCsに比べ90%程度増加していた。すなわち、myf5+系列におけるPTENの欠損は、WATにおけるAPC中のMyf5+系列細胞の増加をもたらすことが示された。さらに、PTEN myf5cKOマウスの脂肪の過形成は、APCの脂肪合成能力(adipogenic potential)によるものではなく、APCの数の増加によることも分かった。

最後に、PTEN myf5cKO-YEPマウスのiBATとrWATから精製したAPCsの分子プロファイルを行った。このマウスのBAT APCsは褐色脂肪マーカー(Zic1、Prdm16)を発現し、これらはこのマウスのrWAT APCsでは検出されなかった。逆にこのマウスのrWATでは白色マーカー(Hoxc8、Hoxc9)が高度に発現していたが、iBATでは発現していなかった。したがって、myf5+系列でPTENを欠損させても、APCのidentity(分子プロファイル)には影響せず、BATとWATの両方でMyf5+前駆細胞由来の脂肪細胞を増加させることが示された。

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【結論】
本研究により、単房性の白色脂肪細胞のうち、ある種の集団はMyf5+前駆細胞由来であることが示された。すなわち、WATはMyf5+由来またはMyf5 neg由来の両方の細胞集団を含む。また、iWAT内に見られるbrite脂肪細胞はMyf5+由来ではなかった。さらに、β3-adrenoreceptor刺激に反応してWATにおいてMyf5+から発生する多房性脂肪細胞はごく一部であった。したがって、褐色脂肪細胞とbrite脂肪細胞とある種の白色脂肪細胞の発生学的由来は、単純にMyf5+に基づいて考えることはできない。

さらに、Myf5+系列のPTENの欠損(PI3K活性化)により、体脂肪の再分布が起こることが分かった。このような変異が脂肪前駆細胞に及ぼす影響を検討することは、肥満やメタボリックシンドロームのようなありふれた疾患や、ヒトの多発性対称性脂肪腫症(multiple symmetrical lipomatosis)のようなまれな疾患(PTEN myf5cKOマウスの形質に似ており、本症の原因もMyf5系列のような何らかの脂肪細胞系列が選択的に障害されているためかもしれない)の理解につながる可能性がある。

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by md345797 | 2012-09-05 01:13 | その他