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カテゴリ:その他( 90 )

長期的な食事パターンと腸内細菌エンテロタイプとの関連

Linking long-term dietary patterns with gut microbial enterotypes.

Wu GD, Chen J, Hoffmann C, Bittinger K, Chen YY, Keilbaugh SA, Bewtra M, Knights D, Walters WA, Knight R, Sinha R, Gilroy E, Gupta K, Baldassano R, Nessel L, Li H, Bushman FD, Lewis JD.

Science. 2011 Oct 7;334(6052):105-8

【まとめ】
食事は腸内細菌叢の構成を調節することによって、ヒトの健康に影響する。このグループでは、食事リストと16S rDNAシークエンシングを用いて、98名の便のサンプルの特徴を検討した。その結果、BacteroidesとPrevotellaの量によって主に区別されるエンテロタイプに分類できた。このエンテロタイプは長期的な食事、特に蛋白と動物性脂肪(Bacteroides)と炭水化物(Prevotella)に強く関連していた。10名で食事を調節した検討を行ったところ、細菌叢は高脂肪/低線維または低脂肪/高線維食を開始して24時間以内に変化を認めたが、10日間の検討でエンテロタイプに変化は見られなかった。したがって、エンテロタイプは長期の食事に関連することが示された。

【論文内容】
最近、腸内細菌叢の特徴を主に3つのタイプ(Bacteroides, Prevotela, Ruminococcus)に分類する「エンテロタイプ」という考え方が提案されている。エンテロタイプの背景因子は不明で、少なくとも国籍、性別、年齢、BMIとは無関係である。このグループでは、98名の健康なボランティアに2種類の食事質問票(RecallとFFQ)を行い、さらに10名には入院させ管理された食事を摂取させた検討(CAFE)を行った。それぞれで便を採取し、16S ribosomal DNAシークエンシングにより細菌叢の特徴を調べた。その結果、脂質と正の相関を示し、線維と負の相関を示したのがBacteroidetesとAcinetobacteriaであり、逆はFirmicutesとProteobacteriaであった。エンテロタイプでは、脂肪が豊富な食事と相関したのはBacteroidesエンテロタイプであり、高炭水化物と相関したのはPrevotellaであった。

次に短期間の食事管理による細菌叢の変化の検討を行った。10名が10日間高脂肪/低線維または低脂肪/高線維食を割り当てられ、便のサンプルから細菌叢の変化を調べた。その結果、24時間以内に腸内細菌の構成に変化を認めたが、個人間の差(エンテロタイプ)には変化が認められなかった。長期的な食事はエンテロタイプと相関しているが、短期的な食事の変化はエンテロタイプを変化させるほどの影響は与えなかった。
ヨーロッパとブルキナファソ(アフリカ)の子供の腸内細菌叢を比較した最近の研究でも、西洋食を食べているヨーロッパの子供はBacteroidesエンテロタイプであり、アフリカの子供はPrevotellaエンテロタイプであることが示されている。
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by md345797 | 2011-10-27 18:08 | その他

低コストで公平に、良好な健康水準を保つ日本の保健システムの将来:国民皆保険を超えて

Future of Japan's system of good health at low cost with equity: beyond universal coverage.

Shibuya K, Hashimoto H, Ikegami N, Nishi A, Tanimoto T, Miyata H, Takemi K, Reich MR.

Lancet. 2011 Aug 30, published online.

【まとめ】
日本が過去50年の間に達成した健康は、低コストで公平な、保健システムを実現してきたことによる。日本の国民皆保険に対する政策は、多くの国がそれぞれの状況において直面している政策論議と同様に発展してきた。しかし、日本の国民皆保険の財政的な持続可能性(financial sustainability)は、人口・経済・政治的な要因から現在危機にさらされている。東日本大震災(Great East Japan Earthquake)による自然災害と原発問題という一連の危機的状況は、日本の社会制度全体をゆるがすとともに、日本の保健システムの構造的な問題を露呈させた。
ここでは、日本が過去50年間にわたって達成した日本の健康の持続可能性と公平性を確保するため、4つの改革案を提案する。① 「人間の安全」というものに価値を置く改革、②中央政府と地方自治体の役割の再編、③保健医療の質を改善すること、④グローバルヘルスに貢献すること、である。今こそ、日本とその保健システムが生まれ変わる時である。

【論文内容】
国民皆保険(universal health insurance coverage)は、全国民が、支払い可能な費用で、主要な保健介入を利用できることを指す。日本は1961年に国民皆保険を実現したが、その後常に修正が加えられてきた。現在、日本の国民皆保険制度は、低い経済成長・不安定な政治状況・大震災による危機によって、その持続可能性が脅かされている。

低コストで公平に、良好な健康水準を維持
低コストで公平に、良好な健康水準を維持している日本の経験は、他国においても重要な教訓が得られるものと考えられている。国民皆保険に関する懸念は、医療費を持続可能な形にコントロールできるか、というところにある。日本の基本政策は、供給の側で支払を厳格に管理する一方で、サービス提供については自由放任(laissez-faire)アプローチを取ってきた。医療の質としては特に慢性疾患において、まだ不十分と思われる。

日本の将来の課題
経済的な持続可能性:高齢化社会(ageing society)の進展と、医療技術の進歩を迎えた現在の日本では、総医療費を抑制しなければならない。しかし、政府には財源を増やす余力がなく、地震・津波・原発の3つの災害が起きた地域の保障のため、政府に対する財政圧力は増している。
政治ガバナンス:原発危機に対処するための、より強力な政治的リーダーシップと意思決定の透明性を高めることが必要である。混乱した政府の対応は、官僚と政治家の間の相互不信によってさらに悪化している。
国民の期待への対応:日本の医療制度は、国民の健康や保健サービスに対する期待に応えきれていない。

未来のための改革
そこで、日本が過去50年間に達成した国民の健康を持続可能にし、公平にするために、次の4つの改革案を提言する。
「人間の安全」(human security)というものに価値を置く改革:日本が直面している危機に向き合うために、「安全」というコンセプトがこれまで以上に重要である。そして、「安全」を公平に与えられることが、日本の保健政策の中核的な価値になる。それにはすべての利害関係者(stakeholder)が新たに関わり、大胆に連携することが重要である。
中央政府と地方自治体の役割の見直し:トップダウンとしては、省庁別の縦割り(ministerial silos)をなくし、国内外の保健医療政策の分析を行う米国のCDCやNIHのような機関を作る必要がある。ボトムアップとしては、保健医療政策の中核組織は中央政府ではなく、地方自治体(都道府県)がなるべきである。震災後の東北地方は、保健システムの改革にとってテストケースの役割を果たす。
保健医療の質を高める:日本では専門医(subspecialty)認定制度はまだ確立しておらず、その一方で残りの医師は家庭医としての正式なトレーニングを受けないまま総合診療を行っている。医師の養成と診療のミスマッチに対応するために、医学教育の改革が必要である。
グローバルヘルスに参画する:日本の、健康保険と長期ケア(介護制度)に関する経験と知見(experience and expertise)は、グローバルヘルスの流れにとって大きな財産となる。

結論
これら4つの改革案はそれぞれ独立したものではなく、同時に実行しなければならないものである。2011年3月の大震災の後では、変革がより早急に行われねばならない。日本では大きな災害の後には、必ず大きな変革が起こってきた。今回、有望な兆しはある。熱心な若者がソーシャルメディアを使い、情報を集め、プロジェクトの支持を取り付け、大規模な寄付運動を開始している。また、この危機によって日本では社会的な団結(social cohesion)の感覚が共有されていることも分かった。日本の安全に対するアプローチは、21世紀の世界の基本となりうるのである。
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by md345797 | 2011-09-26 18:04 | その他

IRS2は、Huntington病モデルマウスでミトコンドリア機能低下と酸化ストレス増加をもたらす

IRS2 increases mitochondrial dysfunction and oxidative stress in a mouse model of Huntington disease.

Sadagurski M, Cheng Z, Rozzo A, Palazzolo I, Kelley GR, Dong X, Krainc D, White MF.

J Clin Invest. 2011 Oct;121(10):4070-81. Sep 19 published online.

【まとめ】
神経のIGF1やIrs2シグナルが低下すると、マウスの寿命が延長することが示されている。Huntington病(HD)での神経変性にIrs2がどのように関与しているかを検討するために、HDのモデルであるR6/2マウスのIrs2の量を調節したマウスを作製した。R6/2マウスの脳のIrs2の量を増加させると、寿命の短縮、神経の酸化ストレス亢進、ミトコンドリアの機能低下が起きた。一方、全身のIrs2の量を減少させると(膵β細胞は除く、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウス)運動能が改善し、寿命が延長した。後者のマウスでは、転写因子FoxO1の核への局在が起こっており、FoxO1依存性の遺伝子発現(オートファジー、ミトコンドリア機能、酸化ストレス耐性に関与する遺伝子)が増加していた。これらの結果から、Irs2を減少させる治療が、HDの進行を遅らせる可能性があることが示された。

【論文内容】
Huntington病(HD)は、huntingtin遺伝子(HTT)のexon1でのCAGリピートにより、ポリグルタミンが付加すること(polyQ-HTT)によって起きる進行性神経変性疾患である。全長のヒトpolyQ-HTTを発現させたトランスジェニックマウス(R6/2マウス)は、ヒトのHDの病態生理の理解に有用である。このマウスは、変異HTTにより、脳の萎縮だけでなく、膵β細胞の脱落が起き糖尿病を発症する。この変異HTTは、PPARγ coactivator 1αの発現を抑制し、ミトコンドリア生合成や呼吸を障害する。

また、カロリー制限やinsulin/IGFシグナル伝達の低下が寿命を延長し、神経変性を抑制することがC. elegans、Drosophilaおよびマウスで知られている。カロリー制限は、ミトコンドリア生合成を増加させて、変異polyQ-HTTマウスの神経変性も抑制する。マウスにおいては、脳のIGF1受容体が少ないと、またはIRS2シグナルが少ないと寿命が延長することが知られている。特に、脳特異的なIRS2ヘテロノックアウトマウス(IRS2+/-)は、やや体重が多く、高インスリン血症であるものの、活動性が高く、寿命が延長する。

R6/2マウスの寿命に対するIrs2シグナル伝達の影響
R6/2マウスと、中枢神経系にIrs2を過剰発現させたマウスを交配して、R6/2・Irs2ntgマウスを作製したところ、このマウスは通常のR6/2マウスより早期に死亡した。次にR6/2マウスと、全身でIrs2をヘテロで欠損させたIrs2+/-を交配させ、R6/2・Irs2+/-マウスを作製したところ、R6/2に比べて寿命が延長したが高血糖をきたした。膵β細胞の生存や機能にはIrs2が必要であることから、このマウスに膵β細胞特異的Irs2トランスジェニックマウスを交配させ、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスを作製した。このマウスは、R6/2・Irs2+/-マウスと寿命は変わらなかったが、血糖が正常に保たれた。

R6/2マウスの運動機能・脳の神経病理に対するIrs2シグナル伝達の影響
R6/2マウスはコントロールに比べて、hind limb claspingにより測定した運動能が低下していた。R6/2・Irs2ntgマウスはさらに低下したが、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスはそれに比べやや運動能が改善していた。R6/2マウスにおいて、Irs2の発現低下は、運動異常の進行を抑制すると言える。また、R6/2マウス、R6/2・Irs2ntgマウスの皮質・海馬でGFAP陽性 astrocyteが増加していたが、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスでは、コントロールと同程度であった。Irs2の発現低下は神経病理の進行を抑制した。

R6/2マウスの脳におけるFoxO1活性に対するIrs2シグナル伝達の影響
転写因子FoxOは、ミトコンドリア機能・酸化ストレス耐性を促進する遺伝子発現に関わっている。Insulin/IGF1は、PI3K、Aktを活性化し、FoxO1をリン酸化・核から除外する。R6/2マウスの脳では、FoxO1のリン酸化・核からの除外が起こっており、R6/2・Irs2ntgマウスではそれが同程度なのに対し、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスでは、コントロールと同程度であった。R6/2マウスにおいて、Irs2の発現低下は、FoxO1の核からの除外を抑制した。

R6/2マウスの酸化エネルギーバランスに対するIrs2シグナル伝達の影響
R6/2マウスの脳では、活性酸素種の増加、過酸化脂質の増加などの酸化ストレス亢進が起こっており、R6/2・Irs2ntgマウスではそれが進行しているのに対し、R6/2・Irs2+/-・Irs2βtgマウスでは、コントロールと同程度であった。R6/2マウスにおいて、Irs2の発現低下は、ミトコンドリア機能を促進し、酸化ストレスの亢進を抑制した。

【結論】
HDのモデルマウスにおいて、Irs2の発現低下が酸化ストレス・ミトコンドリア機能低下・神経病理を抑制し、死亡率を低下させた。
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by md345797 | 2011-09-22 17:23 | その他

閉ループ制御インスリン注入

Closed-loop insulin delivery: from bench to clinical practice.

Hovorka R.

Nat Rev Endocrinol. 2011 Feb 22;7(7):385-95.

【総説内容】
Closed-loopインスリン注入

この30年間、閉ループ制御インスリン注入(closed-loop insulin delivery)、いわゆる人工膵臓は、糖尿病治療の達成困難な最高の目標 (holy grail:聖杯) と考えられてきた。この装置は、持続グルコースモニター(CGM)とインスリン持続皮下注入(CSII)のコンポーネントが合わさったものであり、リアルタイムの組織液グルコースを測定し、アルゴリズムに基づいてインスリンを注入する。インスリン注入のアルゴリズムには2つあり、MPC(model predictive control)とPID (proportional-integral-derivative)制御による古典的フィードバック制御である。そのほかに、ファジー論理に基づくもの、MPCとPIDの両方によりインスリンとグルカゴンを注入するものがある。

Closed-loopインスリン注入の障壁となるもの
CGMでは組織液のグルコース値を測定するため、血糖値との間に時間差がある(DexComでは6分、Freestyle NavigatorとGuardianでは8-15分の時間差が報告されている)。また、センサーで測定したグルコース値と血糖値の間の偏差もある。さらに、インスリン皮下注入後の最大血糖低下は90‐120分後になるというインスリン吸収の問題、インスリン効果の個人間差の問題もある。食事・運動は血糖変動に影響するが、closed-loopシステムでは血糖だけ見てインスリンを投与するため、インスリン注入量の調整が必要となる。

性能の評価
Closed-loopシステムの性能を評価するのに最もよく用いられる基準は、「グルコースが目標範囲内に入っている時間」である。これは、空腹時またはovernightで3.9-8.0 mmol/l、食後で10.0 mmol/l以下とされる(注:それぞれ、70-144、180 mg/dl)。

Closed-loopインスリン注入の臨床研究
もっとも単純なclosed-loopシステムは、血糖が低値になったらインスリン注入を中止する形である。半数以上の重篤な低血糖は睡眠中に起きるため、また、食事と運動の影響がないため、1型糖尿病でのovernight closed-loopシステムの検討が進んでいる。さらに、食後にインスリンボーラス注入も行えるday-and-night closed-loopシステムが作られている。また、インスリン(MPCによる)注入に加え、グルカゴン(PID制御による)の注入により低血糖を防止するdual-hormone closed loopも報告されている。
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by md345797 | 2011-09-15 16:41 | その他

日本国民はなぜ健康なのか?

What has made the population of Japan healthy?

Ikeda N, Saito E, Kondo N, Inoue M, Ikeda S, Satoh T, Wada K, Stickley A, Katanoda K, Mizoue T, Noda M, Iso H, Fujino Y, Sobue T, Tsugane S, Naghavi M, Ezzati M, Shibuya K.

Lancet. 2011 Sep 17;378(9796):1094-105.

【まとめ】
本研究では、日本国民がなぜ世界で最も平均寿命が長く、健康なのかを検討する。1950年代から1960年代初めにかけて、日本国民は感染性疾患(communicable diseases)を短期間に減少させ、その後、脳卒中による死亡率を低下させた。1950年代には、脳卒中を除く非感染性疾患による死亡率の死亡率はすでに高くはなかった。1960年代半ば以降、非感染性疾患予防のための地域公衆衛生対策が行われ、国民皆保険制度(universal insurance scheme)による先進医療技術の増加に伴って、国民の健康はさらに増進された。また、平等な教育機会や医療へのアクセスを通して、健康の格差(health inequalities)が減少した。第二次大戦後の健康問題で成功を収めた日本は現在、急速な高齢化、医療技術で対処できない問題、社会的格差などの大きな健康上の課題に取り組まねばならなくなっている。

【論文内容】
第二次大戦後の1947年には、日本人の健康状態は良くなく、平均寿命は男性50歳、女性54歳であった。しかし、その後の健康状態は改善し、1950年代後半の急速な経済成長によってかつてないほどに平均寿命が延長した。1986年には日本人女性の平均寿命は世界第1位となり、2009年には86歳に達した。日本人はなぜ健康なのか、どうやって世界最長の平均寿命を実現したのか?第一に、日本人は日常生活のあらゆる場面で衛生に気を配っている。第二に日本人は健康意識が高い。定期健康診断を受けることは普通である。第三に日本食がバランスよく、日本人の食生活も経済成長と並行して改善されてきた。しかし、日本は今、数々の健康問題に直面模している。人口の高齢化が進行し、総人口は1億2800万人(2005年)から9500万人(2050年)に減少し、その40%が65歳以上の高齢者になる。30-59歳の人口の3分の1が過体重か肥満という問題、サラリーマンの不健康な生活、ストレス、極端な場合では自殺の問題がある。

幼児・若年成人の死亡率
過去60年の平均寿命の延びのうち、大半が1950-65年の間のものである。これは、幼児(5歳未満の子供)および若年成人(60歳未満の成人)の死亡率の大きな低下を反映している。5歳未満の健康改善は、消化器や呼吸器の感染症、ワクチンで予防可能な疾患をコントロールできたことによる。また、60歳未満成人における死亡率の減少は、結核による死亡率の低下の効果が大きい。1952年からの結核治療の無料化、胸部レントゲンやストレプトマイシンの使用により、1961-77年の間、結核の有病率は毎年11%ずつ低下した。

非感染性疾患の死亡率
感染性疾患への対処が成功した後も、日本人の平均寿命は着実に伸び続けた。1950年には日本人の脳卒中による死亡率は非常に高かったが、癌と虚血性心疾患の死亡率は先進諸国に比べてかなり低かった。1960年代半ば以降も平均寿命が伸び続けた原因としては、特に脳血管疾患の死亡率が着実に減少したことによる。これは、日本人の血圧が1960年代後半に低下し始めたことと一致する。日本人の血圧の低下には、降圧剤服用の増加と塩分制限を含む生活様式の改善が関連している。

文化的背景と健康格差
日本人の長寿達成の原因には、文化的背景(日本の地域社会における強い連帯など)もあるかもしれない。さらに、均質で平等主義的な(homogeneous and egalitarian)日本社会では、強力な教育政策や雇用安定の規制、国民皆保険が実施されてきた。1970年代まで続いた高度経済成長期には所得格差が減少し、1990年代までは90%以上の人が自らを中流だと考えていた。しかし現在は所得格差が拡大し、健康格差も一致して増加している。

日本国民の健康のための課題
日本における死因の上位は、がん、心疾患、脳血管疾患であり、これらの非感染性疾患を予防する必要がある。日本における予防可能な危険因子は、喫煙と高血圧である。喫煙が有害であることはよく認知されているものの、日本での喫煙はいまだに一般的であり、若い女性の間にも徐々に広まっている。喫煙関連の死亡率を減少させるために、たばこの消費を抑制し、喫煙を促進していく必要がある。また、日本人の血圧管理はいまだ不十分であり、降圧剤により血圧が有効に管理されている人は5分の1以下である。そこで、高血圧の早期発見や生活習慣の是正、降圧治療の取り組みの強化が必要となっている。

さらに、高血糖、運動不足、飲酒、肥満などの危険因子を抑制するために、包括的な予防介入が必要である。2008年から、40-74歳の国民には年1回の健診とメタボリックシンドローム予防のための健康介入を義務付けているが、これらの有効性はまだ証明されていない。

日本において自殺死亡者は1998年から年間3万人を超えており、自殺の予防は日本人の健康における主要な課題の一つである。政府は自殺の増加に対し、2006年に自殺対策基本法、その後包括的な自殺対策指針を決定したが、その効果はまだ顕著ではない。

世界への教訓

戦後日本の経験は、低所得国においても国民の健康達成が可能であることを示している。1950年代の初め、日本の国民所得は少なかったが、子供の生存への介入と結核診療の無料化を通じて、平均寿命を大幅に伸ばすことができた。平等主義的な日本社会では、1961年に国民皆保険が達成され、健康増進への機会を均等に提供する環境の整備が進んだ。世界的に見て、他の国々においても国民皆保険への道が開かれるべきであろう。
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by md345797 | 2011-09-13 17:57 | その他

肥満における腸内細菌叢:プレバイオティクスとプロバイオティクスの効果

Targeting gut microbiota in obesity: effects of prebiotics and probiotics.

Delzenne NM, Neyrinck AM, Bäckhed F, Cani PD.

Nat Rev Endocrinol. 2011 Aug 9 published online.

【総説内容】
ヒト腸管には10の14乗個の細菌が生息しており、その種類は1,000~1,150種類と言われている。細菌のcoding sequence(metagenomeと呼ぶ)の解析により、ヒトやマウスの腸内細菌として多いのはBacteroidetes、Firmicutes、Actinobacteriaであり、肥満ではFirmicutesが増え、Bacteroidetesが減ることが示されている。高脂肪食にすると24時間後には Erysipelotrichi (Firmicutes 門)が増加する。

腸内細菌叢は、消化管からのエネルギー吸収を促進する作用がある。肥満では、炭水化物発酵の容量が増加し、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、L-乳酸)の増加によりエネルギー吸収効率が上がっている。短鎖脂肪酸は特異的受容体GPR41、GPR43に結合し、それぞれ消化管ホルモンPYYの分泌や脂肪組織の増加に働いている。さらに、腸内細菌叢はAngptl4の発現に関与している。Angptl4の発現が増加すると、脂肪組織でのLPL活性が低下し(Angptl4は強力なLPL inhibitorである)、脂肪蓄積が減少する。
高脂肪食による肥満・糖尿病の発症には、グラム陰性菌細胞壁の構成要素であるLPS(lipopolysaccharide)が重要な役割を果たしている(「metabolic endotoxemia」の状態)。この状態では腸管のendocannabinoid系が亢進しており、腸管の透過性亢進を招き、全身性の炎症を引き起こす。また、SAA3(serum amyloid A3 protein)も高脂肪食によって増加し、炎症・インスリン抵抗性のメディエーターになっている。

プレバイオティクス(注:上部消化管で分解されず、腸管内で生体に有利な細菌の増殖を促進する物質)の概念は1995年に提唱され、inulin-type fructans投与によりBifidobacteria(Bacteroidetes門)が増加することが示された。この増加は数日で起こったが、このプレバイオティクス化合物を中止すると1週間でこの変化は消失した。

これに対し、プロバイオティクス(注:経口で腸内細菌叢に到達し、そのバランスを改善することにより生体に利益をもたらす生きた微生物)による治療が期待される。例えば、無菌マウスにLactobacillus paracaseiを単独投与すると、Angptl4が増加し脂肪量が減少する。ヒトに対するLactobacilli補充療法も行われているが、その効果は現在議論中の段階である。

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by md345797 | 2011-08-29 07:19 | その他

腸内細菌叢と肥満、メタボリックシンドローム

Gut microbiome, obesity, and metabolic dysfunction.

Tilg H, Kaser A.

J Clin Invest. 2011 Jun 1;121(6):2126-32.

【総説内容】
ヒトの腸内細菌叢は、10の14乗の細菌(約1,100種類、宿主ゲノムの150倍の遺伝子を含む)からなる。肥満やメタボリックシンドロームが腸内細菌叢と関連することが示されており、食物からエネルギーを多く抽出する「肥満細菌叢」と言うべきものの存在も示唆されている。哺乳類の腸内細菌叢は大きく分けて4つの門(phyla)で構成される。これらは、グラム陰性のBacteroidetesとProteobacteria、グラム陽性のActinobacteriaとFirmicutesである。肥満を示すob/obマウスは、正常マウスと比べてBacteroidetesが減少し、Firmicutesの割合が増加していた。正常マウスに高脂肪食を負荷するとこれと同様の変化があり、他の肥満マウスでも同様のFirmicutesの増加/Bacteroidetesの減少が認められた。ただし、これと反する結果も得られており、これらの門の比率だけでなく、腸内細菌叢メタゲノムに基づいた機能の変化が重要と考えられている。

無菌(germ-free)マウスは、肥満やメタボリックシンドロームを起こしにくく、このマウスに通常の腸内細菌叢を植え付けると(conventionalization)、体脂肪増加やインスリン抵抗性をきたす。そのため、腸内細菌叢が食物からエネルギーを抽出する過程が肥満を促進している可能性が考えられている。

食事内容が細菌構成に影響しているという報告が見られる。Resistin-like molecule β(RELMβ)-KOマウスは食事による肥満が起きにくいが、高脂肪食にすると肥満のあるなしに関わらずBacteroidetesが減少し、FirmicutesとProteobacteriaが増加することが報告されている。別の研究でヒトの便をgerm-freeのC57BL/6Jマウスに移植し(microbially humanized mice)、高脂肪食を負荷すると、マウスは肥満になり、その形質は細菌叢の移植によって他のマウスに伝達可能である。また、アフリカの子供の細菌叢はBacteroidetesに富み、Firmicutesが少ないという特徴があり、環境因子が細菌叢に大きく関与していることが分かる。

Fasting –induced adipose factor (Fiaf、別名angiopoietin-like protein 4, ANGPTL4)は、小腸・肝臓・脂肪組織で作られ、血液中を循環するlipoprotein lipase (Lpl) inhibitorである。Germ-freeマウスをconventionalizationすると、腸上皮細胞でのFiafの発現が低下する。これにより、脂肪組織でのLpl活性が増加し、脂肪細胞の脂肪酸取り込みとトリグリセリド蓄積が増加する。また、高脂肪食負荷マウスにLactobacillus paracaseiを投与すると、血液中のFiafが増加して体脂肪が減少する。このようにFiafはエネルギー代謝調節に重要であり、その活性は腸内細菌叢によって調節されている。さらに、細菌による発酵でSCFAs(短鎖脂肪酸、主に酢酸、プロピオン酸、酪酸)が産生され、小腸上皮にあるGpr41およびGpr43に結合して宿主のエネルギー代謝を調節している。Bacteroidetesの接種により、Grp41が活性化され、腸管由来ホルモンであるPYYの分泌、小腸の食物通過の加速が起こり、食物からのカロリー抽出が少なくなる。

Ob/obマウスに抗生剤(norfloxacin、ampicillin)を投与し腸内細菌叢を変化させるとインスリン抵抗性と耐糖能の改善が認められるが、それに伴い全身の「代謝性」endotoxemiaと炎症性パラメータ―が改善する。また、innate immune systemをつかさどるTlr5を介した経路が示唆されており、Tlr5-/-マウスでは、肥満、インスリン抵抗性が起こるが、このマウスの腸内細菌叢を野生型のgerm freeマウスに移植すると同様のメタボリックシンドローム形質が認められるという報告がある。

解決されていない問題は数多くあるが、将来的には例えば便の移植がClostridium difficile感染の治療になるように、肥満やメタボリックシンドロームの治療にも用いられるかもしれない。
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by md345797 | 2011-06-07 21:22 | その他

アディポネクチン欠損マウスは、肺の内皮細胞アポトーシスをきたし慢性閉塞性肺疾患(COPD)様の形質を示す

Involvement of Endothelial Apoptosis Underlying Chronic Obstructive Pulmonary Disease-like Phenotype in Adiponectin-null Mice: Implications for Therapy.

Nakanishi K, Takeda Y, Tetsumoto S, Iwasaki T, Tsujino K, Kuhara H, Jin Y, Nagatomo I, Kida H, Goya S, Kijima T, Maeda N, Funahashi T, Shimomura I, Tachibana I, Kawase I.

Am J Respir Crit Care Med. 2011 May 1;183(9):1164-75.

【まとめ】
本研究では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症におけるアディポネクチンの役割を明らかにした。アディポネクチン欠損マウスは、進行性の気管の拡大、肺コンプライアンスの増加をきたし、肺気腫を起こす。肺以外にも全身性の炎症および、体重減少、脂肪萎縮、骨粗鬆症が起きている。このマウスでは、肺の内皮細胞における血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)-2およびPECAM-1の発現が低下し、内皮細胞のアポトーシスが亢進しており、このことがCOPD様形質を起こしていると考えられた。さらに、このマウスに、アデノウイルスを用いてアディポネクチンを補充すると、肺気腫様形質を改善することができた。したがって、COPDの発症にアディポネクチンが関与している可能性があり、その治療にアディポネクチン投与が有用であると考えられた。

【論文内容】
エラスターゼにより誘導された肺気腫は低アディポネクチン血症を起こす

アディポネクチン(APN)のCOPDへの関与を検討するため、エラスターゼを経鼻投与した肺気腫モデルマウスのAPNの発現を検討した。エラスターゼ投与後は肺血管に発現するAPNが3日目以降減少し、血漿のAPN濃度も低下した。

アディポネクチン欠損マウスは進行性にCOPD様形質を示す
さらに肺気腫の発症とAPNの関与を検討するため、APN欠損マウスの肺の形態をWTマウスと比較したところ、3週から80週にかけて進行性の肺気腫を認めた。また、全身プレシスモグラフィーで肺コンプライアンスと全肺気量の増加が認められた。さらにCTでは肺の透過性が亢進していた。

アディポネクチン欠損マウスは全身性の炎症、体重減少、脂肪萎縮を認める
APN欠損マウスの肺のlysateではprotease(MMP-9)が増加しており、血漿中にCOPD発症に重要なサイトカインであるTNF-α、IFN-γ、IL-6が増加していた。また、80週ではCRPも増加しており全身性の炎症の存在が示唆された。また、80週のAPN欠損マウスではWTに比べ体重減少、骨密度低下、内臓・皮下脂肪の萎縮が認められ、COPD患者の特徴と一致していた。

アディポネクチン欠損により肺の内皮細胞アポトーシスが亢進し、これにはVEGFR-2およびPECAM-1の低下が伴う
APN欠損マウスの肺ではcleaved caspase-3の発現が増加、内皮細胞(CD31+)でTUNEL+であり、内皮細胞のアポトーシスが亢進していることが分かった。このメカニズムを検討するために、肺におけるVEGF受容体(VEGFR-2)およびPECAM-1(CD31)の発現を確認したところ、どちらも発現が低下していた。このことがAPN欠損マウスの肺内皮細胞のアポトーシス亢進につながり、さらに肺気腫を惹き起こしている可能性がある。

アディポネクチン欠損マウスへのアディポネクチン補充は内皮細胞アポトーシスを低下させ、肺気腫を改善する
APN欠損マウスにAd-APNを尾静脈から注入すると、VEGFR-2、PECAM-1の発現低下が回復し、内皮細胞アポトーシスが少なくなり、肺気腫が起こらなくなった。

【結論】
肺気腫の進展には低アディポネクチン血症が伴っており、アディポネクチン欠損マウスではヒトCOPDで見られるような肺胞拡大が認められる。このCOPD様形質は、内皮細胞のVEGFR-2、PECAM-1の発現低下を伴い内皮細胞アポトーシスが亢進していることによる。またこのマウスには全身性の炎症と肺外の症状(年齢に伴う体重減少、骨粗鬆症、脂肪萎縮など)が認められ、この点も全身疾患としてのCOPDと類似していた。最後にアディポネクチン補充療法は、内皮細胞アポトーシスを抑制して肺気腫様形質の進展を阻害することが示された。
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by md345797 | 2011-05-05 19:56 | その他

原子力発電所事故の短期的および長期的な健康へのリスク

Short-term and long-term health risks of nuclear-power-plant accidents.

Christodouleas JP, Forrest RD, Ainsley CG, Tochner Z, Hahn SM, Glatstein E.

N Engl J Med. April 20, 2011 online publication. 364:2334-2341 June 16, 2011.

【論文内容】
2011年3月11日、マグニチュード9.0の地震とそれによる津波で福島第一原子力発電所が損害を受けたが、その全容はいまだ明らかではない。このような事故に伴う放射線被曝についてスリーマイル島事故(1979年)、チェルノブイリ事故(1986年)に関する議論をもとに述べる。

被曝のメカニズム
原子力発電所では、燃料であるアイソトープを分裂させエネルギーを取り出すが、その際放射性の核分裂生成物が生成される。事故が起こると、これらの生成物が環境中に放出されうる。スリーマイル島事故では少量の放射線が放出されただけであったが、チェルノブイリ事故では爆発とそれに伴う火災によって大量の放射性物質が大気中に放出され、事故の年に28名が放射線被曝のために死亡した。福島の放射能放出と健康被害の状況は、これら二つの事故の中間にある。

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放射線被曝の種類は、①放射線源の近傍にいることによる全身または部分被曝、②外部汚染、③内部汚染に分けられる。①では放射線の種類やエネルギーによって到達度がさまざまである(β線は組織の表面まで到達する一方、γ線は深く浸透するなど)。②は核分裂生成物が付着することによって起こるもので、原子炉事故近隣の住民にできるだけ屋内に留まるように指示が出たのはこのためである。③は核分裂生成物が体内に入ることであり、チェルノブイリ事故の後500万人が内部汚染によって被曝したとされている。原子炉事故の後は、多種類の種類のラジオアイソトープが環境に放出される(下の表参照)。中には半減期の短いもの、半減期の非常に長いもの、気体のもの、線量の少ないものなどさまざまである。その中でもヨウ素131は、吸入や食物連鎖から体内に入り甲状腺に蓄積してβ線源となる。福島では放射性の水が海に放出され、海産物が汚染されて食物連鎖に影響していると考えられる。

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放射線被曝の臨床的な結果
放射線被曝によって起こるDNA障害は、回復する場合もあり、発癌や細胞死に至る場合もある。その臨床的な効果は、被曝の種類(前述の①②③)、被曝した臓器の種類、放射線の種類(β線かγ線か)、身体の深部到達度、被曝線量、線量率(被曝した線量と時間の割合)などさまざまな要因によって異なる。また、放射線の吸収線量をGy、生物学的影響を加えた効果線量をSvで表す。高エネルギーのγ線を全身に被曝した場合、1Gy=1Svである。医療で被曝する線量とスリーマイル島、チェルノブイリ事故での被曝線量を比較した(論文の表2)。

急性放射線障害とその治療(放射線被曝の短期的影響)
全身に1回で1Gy以上の放射線に被曝すると、急性放射線障害(acute radiation sickness; 急性放射線宿酔とも)が起こる。チェルノブイリ事故(最高で16Gyの被曝)では、急性放射線障害患者134名が骨髄抑制を起こし、19名が放射性皮膚炎、15名が強度の胃腸障害を起こした。急性放射線障害は、前駆症状、潜伏期、発症の3段階に分けられる。この3段階と被曝の程度を合わせて、嘔吐・リンパ球減少・疲労・発熱などの症状をまとめた(論文の表3)。治療としては、まず生命を脅かす障害(外傷、熱傷など)があればその管理、さらに放射性物質の汚染除去を行う。中等度の線量(<2Gy)を受けている場合は悪心・嘔吐の管理、2Gy以上の場合は骨髄抑制に対処し抗菌薬の投与や造血因子の投与を検討する。消化管障害には保存療法としてプロバイオティクスの投与などを行う。

長期的な発癌リスクの増加(放射線被曝の長期的影響)
日本の原子爆弾およびチェルノブイリ事故の生存者に白血病、固形癌の発症が多いことが知られているが、後者の場合発癌のスクリーニングが強化されている可能性などがあり、同列に扱うことはできない。しかし、チェルノブイリ事故における小児生存者でヨウ素131による甲状腺癌の発生率が高いことには十分なエビデンスがある。また、チェルノブイリ事故後に安定性ヨウ素を投与された小児は、されなかった小児に比べ甲状腺癌の発症が3分の1だったとする報告もある。ヨウ素131が放出された地域においては、その地域産の食物や水の消費は最小限にすべきである。ヨウ素の半減期は8日のため、2-3か月たてば大部分のヨウ素131は消失する。さらに、それらの地域ではヨウ素131の甲状腺への取り込みを抑えるため、被曝後数時間以内にヨウ化カリウムを服用するようアドバイスをする機関もある。ただしヨウ化カリウムには毒性もあるが、1000万人の青少年が予防的にヨウ化カリウムを服用したポーランドでは罹患率が低かったとする報告がある。

【結論】
原子炉事故は非常にまれな事象であるため、被曝を受けた患者や一般への対応に関する経験がほとんどない。しかし関連機関は、これらの急性放射線障害や慢性の発癌リスクに関して一般の理解を広めておく必要がある。
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by md345797 | 2011-04-21 21:16 | その他

福島第一原子力発電所の作業員の安全性

Safety of workers at the Fukushima Daiichi nuclear power plant

Tanimoto T, Uchida N, Kodama Y, Teshima T, Taniguchi S

Lancet. April 15, 2011. (Published Online)

【Correspondence内容】
2011年3月11日、マグニチュード9.0の地震とそれに伴う津波が日本の東北部の都市を破壊し、東京電力福島第一原子力発電所の冷却システムが機能しなくなり、現在数百名の作業員が復旧作業を行っている。4月12日には、原子力安全・保安院が危機の深刻度を最悪のレベル7に引き上げ、1986年のチェルノブイリ事故と同等と判断した。

一般的に、急速に分裂する細胞(造血細胞、消化管細胞など)は放射線感受性が高い。5Gy以上の放射線被曝の場合、造血細胞に対しては幹細胞レスキューが必要である。そのため3月25日に、福島の作業員の放射線被曝事故に備えて自家末梢血幹細胞(autologous PBSCs)を採取・貯蔵することを提案した。この自家末梢血幹細胞移植の計画の利点は、①他人からの移植と違ってGVHDがない、②免疫抑制剤が不要、③造血細胞の回復が骨髄細胞より速い、④冷凍保存が容易、⑤安全性が確立している、⑥万一白血病を発症した際の治療にも使える、などである。この方法の限界は、①骨髄障害の障害にしか用いられない(消化管や肺の障害には使えない)、②アフェレーシスの過程などで副作用が生じうる、③医療費のコストが高い(これは製薬会社の寄付で補てん可能であるが)、などである。

3月29日に日本造血細胞移植学会は、この計画に全国107施設が対応可能、とする声明を発表した。一方で、国の原子力安全委員会は、自家末梢血幹細胞採取・貯蔵は不要と発表。理由として作業員の負担が大きい、専門家・国民のコンセンサスが得られていないなどとした。

日本の原子力産業は史上最悪の危機を迎えており、世界中の人がその情報開示の不透明性を懸念している。この事態で最も重視されるのは、作業員の生命と地域社会を守ることである。福島原発を廃炉にするまでには数年を要し、その間の放射線被曝事故のリスクが大きくなると、自家末梢血幹細胞の貯蔵はますます重要になってくる。この計画が正しいかどうかの判断は、通常時の費用対効果のバランスではなく、作業員の観点からなされるべきである。東京の虎の門病院では、要求に応じて自家末梢血幹細胞を採取し貯蔵する用意ができている。
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by md345797 | 2011-04-16 23:08 | その他