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カテゴリ:エネルギー代謝( 34 )

絶食時の肝のグリコーゲン不足は、肝-脳-脂肪の神経回路を介して脂肪組織のトリグリセリド分解を促進する

Glycogen shortage during fasting triggers liver-brain-adipose neurocircuitry to facilitate fat utilization.

Izumida Y, Yahagi N, Takeuchi Y, Nishi M, Shikama A, Takarada A, Masuda Y, Kubota M, Matsuzaka T, Nakagawa Y, Iizuka Y, Itaka K, Kataoka K, Shioda S, Niijima A, Yamada T, Katagiri H, Nagai R, Yamada N, Kadowaki T, Shimano H.

Nat Commun. 4:2316 doi: 10.1038/ncomms3316 (2013).

【まとめ】
生体は、絶食中のエネルギー源として当初は肝のグリコーゲンを利用するが、絶食が長引くと肝のグリコーゲンの不足が引き金となって、脂肪組織のトリグリセリドを利用するようになる。絶食遷延時にこのようなエネルギー源の移行が起きるためのメカニズムはよく分かっていない。

この研究では、絶食によって肝のグリコーゲンの不足が起きても、肝から脳への迷走神経を遮断しておくと、脂肪組織でのトリグリセリド分解が起こらなくなることを見出した。これにより、「肝のグリコーゲン不足をきっかけに、脂肪組織でのトリグリセリド分解を惹起するような肝-脳-脂肪組織の神経回路(liver–brain–adipose axis)」の存在が想定された。

次にグリコーゲン合成酵素または転写因子TFE3の過剰発現によって肝のグリコーゲンを増加させたところ、絶食にしても脂肪組織でのトリグリセリド分解が促進されなかった。グリコーゲンホスファターゼ遺伝子をノックダウンしてグリコーゲン分解を抑制することによりグリコーゲン量を増加させても、肝からの脂肪分解シグナルが消失したため、この神経回路を活性化するカギとなるのは肝のグリコ―ゲンの不足と考えられた。逆にグリコーゲン合成酵素をノックダウンして肝のグリコーゲンを通常より減少させると脂肪組織での脂肪分解は促進されたが、これは肝からの迷走神経を遮断することにより消失した。

以上より、絶食が遷延すると肝のグリコーゲンが不足してきて、それによって肝から脳へ、脳から脂肪組織へと伝達される交感神経回路が活性化されることにより、脂肪組織でのトリグリセリド分解が惹起されることが明らかになった。このことが、絶食時のエネルギー源が肝のグリコーゲンから脂肪組織のトリグリセリドに移行するメカニズムであると考えられる。

【論文内容】
生体は、絶食時にも絶えずエネルギーが供給されるようなメカニズムを持っている。絶食時の重要なエネルギーとしては、短期的なエネルギー貯蔵形態である肝のグリコーゲンと、長期的かつ大量のエネルギー貯蔵形態である脂肪組織のトリグリセリドがある。絶食時にはまず肝のグリコーゲンが分解され、グルコースとして血中に動員されることによりエネルギーが供給される。しかし絶食が長引くと、肝のグリコーゲンが不足してきてエネルギー供給が滞る可能性が出る。そうすると、次には脂肪組織に蓄えられていたトリグリセリドが脂肪酸とグリセロールに分解されて血中に放出され、これが新たなエネルギー源となる。(放出された脂肪酸は酸化されてエネルギーとして用いられるほか、肝で代謝されてケトン体となり、脂肪酸が利用できない脳でのエネルギー源となる。さらに、放出されたグリセロールは肝でグルコースに変換されてエネルギーとして用いられる。)

このように、生体は絶食時のエネルギー源を、肝に蓄積されたグリコーゲンから脂肪組織に蓄積されたトリグリセリドに移行させることにより、十分なエネルギーの供給を保つことができる。このようなエネルギー源の移行は、従来は血糖値や血中のホルモン量の変化によると考えられてきた。すなわち、絶食時の血糖低下に伴うグルカゴン分泌の増加や、交感神経刺激による副腎からのエピネフリン分泌の増加によるとする説である。しかし、本論文では、グリコーゲンの不足が肝-脳-脂肪へと向かう神経回路(liver–brain–adipose axis)を活性化することによって脂肪組織からのトリグリセリドの動員を惹き起こす、という新しいメカニズムを提唱する。

肝から脳へ向かう迷走神経を遮断すると、絶食時の脂肪量の減少が抑制される
この研究では、上記のように絶食時のエネルギー源の移行が、肝から脳に向かう求心性交感神経と脳を介して脂肪組織へ向かう遠心性交感神経という一連の神経回路を介するのではないかという仮説を立て、肝からの迷走神経を遮断する実験を行った。実験では、マウスの迷走神経肝臓枝を選択的に切断し(hepatic vagotomy; HVx)、3週間たってから24時間絶食とした。このような神経切断を行っていないコントロールであるsham手術マウスは、24時間絶食にすると内臓脂肪(精巣上脂肪)の量が減少する(これは絶食により脂肪分解が起こるためで、脂肪組織から放出された脂肪酸とグリセロールは絶食中のエネルギーとして利用される)。ところが、HVxを行ったマウスでは、24時間絶食にしてもこのような内臓脂肪量の減少は少なかった。HVxの変わりに迷走神経肝臓枝をカプサイシンで処理しても、同様の効果が認められた。カプサイシンは、無髄神経である求心性交感神経のみを遮断する薬剤なので、上記の効果は肝臓から脳への求心性交感神経が重要な役割を果たしていることが分かる。さらに、DEXAを用いた解析により、HVxマウスとshamマウスは24時間絶食による体重減少は同じであったのに対し、HVxマウスは絶食による脂肪重量の減少が有意に少ないことが示された。

肝から脳へ向かう迷走神経を遮断すると、脳から脂肪組織へ向かう交感神経による脂肪分解が抑制される
次に、脂肪組織における交感神経による脂肪分解を調べる目的で、アデノウイルスを用いてCRE-luc (cAMP反応性エレメント下でルシフェラーゼレポーターを発現させるコンストラクト)を導入したマウスを用いて、脂肪組織におけるcAMPのin vivoイメージングを行った。cAMPは交感神経活性化による脂肪分解のセカンドメッセンジャーなので、このイメージングにより脂肪組織での脂肪分解を起こす交感神経の活性が可視化できる。実際、コントロールマウスにおいては20時間の絶食によって精巣上脂肪でのcAMPシグナルが認められたが、HVxを行ったマウスではこのシグナルは有意に低下していた。さらに、迷走神経遮断(HVxおよびカプサイシン処理)によって、ホルモン感受性リパーゼ(hormone sensitive lipase; HSL、エピネフリンなどのホルモンによって活性化され、トリグリセリドを加水分解する)、脂肪組織トリグリセリドリパーゼ(adipose triglyceride lipase ; ATGL、脂肪組織においてトリグリセリドを加水分解する)、pyruvate dehydrogenase kinase 4 (絶食やエピネフリンによって誘導されグリセロール合成に働く)のmRNA発現、およびHSLの活性化(HSL蛋白のSer 563リン酸化)も減少した。これらの減少の程度は、HVxとカプサイシン処理で差が見られなかったことから、求心性迷走神経の遮断が重要であったことが分かる。

また、このようなHVxによる遺伝子発現やリン酸化の変化に伴って、血漿NEFAおよびグリセロール濃度の減少、呼吸商の増加と脂肪利用の減少が認められた。さらに、これらの変化は交感神経からのカテコラミン放出を減少させるグアネチジンの投与によって消失した。なお重要なことに、HVxマウスとshamマウスの間で、絶食時の血糖、血漿インスリン、グルカゴン、カテコラミン、FGF21濃度に有意な差は見られなかった。したがって、脂肪組織の脂肪分解を調節するのは、血糖やこれらのホルモンではなく、交感神経系を介していることが分かる。

肝のグリコーゲンが増加すると、肝-脳-脂肪の神経回路の活性化は起こらない
次に、グリコーゲン合成酵素(glycogen synthase 2; Gys2)または転写因子TFE3をアデノウイルスを用いて肝に過剰発現させて、肝のグリコーゲン量を増加させた。そうすると、絶食後の脂肪組織量の減少は起こらず、迷走神経遮断マウスと同様のレベルであった。この時、脂肪組織でトリグリセリドを分解するHSLやATGLのmRNA発現、HSL蛋白のリン酸化は、肝のグリコーゲン量増加により抑制された。すなわち、肝のグリコーゲンを増加させると、肝-脳-脂肪の神経回路は抑制された状態になり、脂肪組織でのトリグリセリド動員が起こらないことが分かった。

肝のグリコーゲンを減少させると肝からの脂肪分解シグナルは促進され、肝でのグリコーゲン分解を抑制すると肝からの脂肪分解シグナルは抑制される

*ここでのグリコゲン分解 (glycogenolysis)は、当初glycolysisと表示されていた。これでは「解糖」という別の意味になる。これはJournal側の誤植とのことで、現在は筆者らによって正しく表示されている。

今度は逆に、shRNAのアデノウイルスを用いてGys2の発現をノックダウンして肝のグリコーゲン量を通常より減少させた。その結果、脂肪組織量はより速く減少する傾向にあり、その傾向はHVxを行うと消失した。

最後に、このようなグリコゲン不足によるシグナルはグリコーゲンの減少自体によるのか、それともその下流の代謝産物の減少によるのか。このことを検討するため、shRNAを用いて肝型グリコーゲン脱リン酸化酵素(glycogen phosphorylase liver type gene; Pygl=グリコーゲンを分解してグルコースを作る)をノックダウンして肝でのグリコーゲン分解を抑制した。これにより、肝のグリコーゲンは(分解が抑制されたために)増加し、グリコーゲン分解より下流の代謝産物は減少するはずである。このshRNAの発現に伴って、脂肪組織での脂肪分解は減少した。この結果は、下流の代謝産物の減少およびグリコーゲンの増加は、肝-脳-脂肪の神経回路の抑制を起こし、脂肪分解を抑制することを示している。逆に考えれば、肝から脂肪組織への神経回路の活性化には、グリコーゲン下流の代謝産物の変化ではなく、肝のグリコーゲンそのものの不足が重要な役割を果たすと考えられる。なお、グリコーゲン脱リン酸化酵素のノックダウンによってAMPKは活性化される傾向があった(AMPKαのリン酸化は増加した)。

【結論】
この研究では、生理的な絶食条件下で肝のグリコーゲンが不足すると、肝からの求心性交感神経および脂肪組織への遠心性交感神経が活性化されて、脂肪組織でのトリグリセリド分解が起こり、脂肪酸とグリセロールの放出が促進されることを示した。絶食中の肝は、血糖変化やホルモンとは別の何らかのメカニズムによって肝のグリコーゲン不足を感知し、生体のエネルギー源を炭水化物から脂肪へと移行させるシグナルを発する。そしてそれは、肝から脳へ、脳から脂肪組織へと伝わる神経回路を介すると考えられた。


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by md345797 | 2013-09-07 21:45 | エネルギー代謝

胃バイパス術による腸内細菌叢の変化は宿主の肥満減少をもたらす

Conserved shifts in the gut microbiota due to gastric bypass reduce host weight and adiposity.

Liou AP, Paziuk M, Luevano Jr. JM, Machineni S, Turnbaugh PJ, Kaplan LM.

Sci Transl Med. 5, 178ra41. 27 March 27 2013.

【まとめ】
Roux-en-Y gastric bypass (RYGB) は急速に体重減少と肥満の低下、糖代謝の改善をもたらす。この効果は単なるカロリーの摂取や吸収の減少によるものではないことが分かっているが、消化管の再構成による代謝改善がどのようなメカニズムにで起きるかはよく分かっていない。RYGBはヒトやマウスにおいて腸内細菌叢を変化させることから、本研究ではRYGBの肥満改善効果が宿主‐細菌間の相互作用を変化させるためではないかと考えた。RYGBを行ったマウスの便サンプルで16S ribosomal RNA gene sequencingを行ったところ、コントロールのsham手術群、sham手術とカロリー制限を行った群に比べて腸内細菌叢が変化していた。具体的にはGammaproteobacteria (Escherichia)とVerrucomicrobia (Akkermansia)の相対的な増加が急速かつ持続的に起こっていた。このような変化は、体重減少やカロリー制限とは独立して認められ、多くは手術部位より下流の遠位腸管に見られた。さらに、RYGBマウスの腸内細菌叢を無菌マウスに移植したところ、レシピエントマウスの体重減少と脂肪量の減少が認められ、これはRYGBマウスの腸内細菌叢による短鎖脂肪酸の産生減少によるものと考えられた。本研究は、RYGB手術後の体重および肥満の減少は腸内細菌叢の変化によるものであるとする最初の報告である。

【論文内容】
Roux-en-Y gastric bypass (RYGB)は、余剰体重の65-75%を減少させることができる、肥満2型糖尿病のための非常に効率の良い治療法である。この肥満改善のメカニズムは当初カロリー制限と吸収の阻害によるものと考えられたが、最近は体重減少とは独立したメカニズムがあることが分かってきた。 本研究では、RYGB後の腸内細菌叢の変化が代謝改善に影響している可能性について検討した。

マウスモデルにおけるRYGBの肥満に対する効果
高脂肪食負荷マウスにRYGBを行うと3週間以内に体重が29 ± 1.9%減少し、この減少は12週間の試験期間中維持された。それに対し高脂肪食を負荷したsham手術群(SHAM)では体重が増加した。高脂肪食を負荷したRYGB群とsham手術に25%のカロリー制限をした群(weight-matched sham-operated; WMS)は、脂肪量が減少し、脂肪肝が改善した。RYGB群とSHAM群では摂食に差はなく、RYGB群では便中へのエネルギーの消失が大きかった。RYGB群の合計のエネルギー摂取(摂食エネルギーと便中消失エネルギーの差)はSHAM群よりは少ないが、WMS群よりは大きかった。すなわちRYGB群では、合計のエネルギー摂取量が低下し、エネルギー消費も増加していると考えられる。このRYGB後のエネルギー消費の増加は以前にマウスとラットでも報告されているものである。

RYGBは遠位腸管の腸内細菌叢の急速な変化をもたらす
次に、RYGB、SHAM、WMS群の手術前と術後の便サンプルで16S ribosomal RNA (rRNA) gene sequencingを行った。その結果、RYGBでは術後1週間という早期に遠位の腸内細菌叢の構成が著明に変化し、その変化は5週後まで継続した。SHAM群でも便細菌叢の変化は見られたもののその程度はRYGBに比べ小さく、SHAM群とWMS群の差はほとんど見られなかった。したがって、RYGBによって消化管の再構成が起きた際の便細菌叢の変化は、食事制限による体重減少に伴う変化に比べて非常に大きいことが分かった。

さらに、手術していない高脂肪食負荷マウス、手術していない正常食負荷マウス、RYGBを行った正常食負荷マウス(NC-RYGB)の便サンプルの解析結果を比較した。予想通り、高脂肪食負荷マウスと正常食負荷マウスの便サンプルでは、細菌種レベルのoperational taxonomic units (OTUs)が有意に異なっていた(Spearmanの相関の範囲は、群内で0.58から0.84へ、群間で0.16から0.24へと有意(P < 10−7, Student t検定)に変化していた)。しかし、RYGBの腸内細菌叢への影響は正常食および高脂肪食の違いに関わらず同等であり、RYGBの影響は食事による腸内細菌叢への影響を上回ることが分かった。

食事制限およびRYGB後の体重減少に伴うFirmicutes門の量の変化は同じであった。RYGB群とWNS群の細菌叢は手術前は同じくClostridiales優位だったが、SHAM群ではLactobacillalesとErysipelotrichalesが有意に多かった。それに対し、Bacteroidalesの量は手術前後で3群とも変化がなかった。

RYGBはいくつかの特異的な腸内細菌叢の変化をもたらす。術後2週間でEnterobacterialesが増加し、Verrucomicrobialesの増加も大きかった。Linear discriminant analysis (LDA) effect size (LEfSe)法を用いて、RYGB群、SHAM群、WMS群の便サンプルの間で有意に量が変化した細菌種の同定を行った。RYGB群の腸内細菌叢は、Bacteroidetes、Verrucomicrobia、Proteobacteriaの門レベルの増加、Alistipes、Akkermansia、Escherichiaの属レベルの増加が認められた。

次にRYGB群、SHAM群、WMS群の術後15週の胃、小腸、盲腸、大腸のそれぞれの8か所から管腔および粘膜に付着した細菌を採取して、unweighted UniFrac metricを用いて比較した。その結果、RYGBにより遠位胃、回腸、盲腸、大腸の細菌叢が強く影響を受けていることが分かった。RYGB群の細菌叢はSHAM群と比べてEnterobacteriales、Bacteroidales、Verrucomicrobialesの割合が有意に多かった。管腔および粘膜に付着した細菌集団はRYGBの各部位とSHAM群では同様だったが、WMS群では小腸部位のすべてにわたって細菌集団の多様性が見られた。すなわち、食事制限による体重減少により影響されるのは小腸の面膜表面の細菌で、RYGBによって影響されるのは遠位小腸、盲腸、大腸の細菌であることが示唆される。

さらに、RYGB群、SHAM群、WMS群の便サンプルの脂肪、窒素量とpHを調べた。RYGB群のサンプルはSHAM群、WMS群に比べ、pHが有意に低く、脂肪量が多かった。RYGB群とWMS群の便ではSHAM群に比べ、窒素量が少なかった。RYGB群の遠位胃内のpHはSHAM群に比べて高く、これは食物による直接の胃酸分泌刺激がないことによると思われる。これらの変化が腸内細菌叢の変化と管腔内環境の変化をもたらすと考えられた。

細菌叢の移植によって宿主の肥満を減少させることができる
次に、RYGBによる代謝の変化が腸内細菌叢の変化に直接影響されているものであるか検討するため、RYGBドナーの盲腸の内容物を無菌マウスに移植する実験を行った。このレシピエントマウスをRYGB-R(Rはrecipientの略)と呼ぶ。コントロールには、SHAMまたはWMSドナーの盲腸内容物を移植した無菌マウス(SHAM-RとWMS-R)と、何も移植していない無菌マウスを用いた。移植2週間でRYGB-Rマウスは有意に体重が減少したが、SHAM-Rマウスや無菌コントロールマウスでは体重減少は見られなかった。なお、RYGB-Rマウスの摂食は無菌コントロールマウスに比べ差がなかったが、SHAM-Rマウスの摂食は無菌コントロールマウスに比べて有意に減少していた。内臓脂肪(精巣上および後腹膜脂肪)量および血中レプチン値はRYGB-Rと無菌コントロールマウスで差はなく、SHAM-Rで有意に多かった。肝のトリグリセリド含量とインスリン抵抗性を表すHOMA-IR値はSHAM-Rに比べてRYGB-Rマウスで低い傾向にあり、空腹時トリグリセリドは有意に低かった。

レシピエントの肥満減少に寄与するドナー細菌叢からのシグナルを同定しようとして、回腸のfasting-induced adiposity factor (FIAF)遺伝子の発現と盲腸の短鎖脂肪酸(SCFA)の組成を調べた。SHAM-RとRYGB-Rの回腸では無菌コントロールマウスに比べてFIAF遺伝子発現は同様に低下していたが、盲腸SCFAはこれら3種のマウスで異なっていた。すなわち、無菌コントロールマウスに比べてSHAM-Rマウスでは盲腸SCFA量が有意に多く、RYGB-Rはその中間の値を示した。SCFAの組成としてacetate/propionate/butyrate比はSHAMおよびWMSマウス(75:12:13)とSHAM-Rマウス(74:11:15)は同じだったが、RYGB(62:27:11)とRYGB-R(54:30:16)では異なっていた。

RYGBのレシピエント形質に特異的な細菌のバイオマーカーを同定するため、RYGB-R群、SHAM-R群、WMS-R群の便サンプルの16S rRNA gene sequencingを行った。いずれの群でも移植後2週間の間にEnterobacterialesが増加したが、Bacteroidalesが持続的に優位だった。RYGB-RのサンプルではSHAM-R群およびWMS-R群に比べてVerrucomicrobia(Akkermansia属)が有意に多かった。LefSeによる解析でRYGB-R のサンプルにはドナー(RYGB群)と同様、AkkermansiaおよびAlistipes (Bacteroidetes門)が有意に多かった。ヒト、ラット、今回のマウスのRYGB後にGammaproteobacteria(Enterobacteriales目)が増加していることから、この種が宿主の代謝の変化に大きく貢献している可能性がある。RYGB後に最も多い属であるEscherichiaは炎症性疾患に関与する病原性のある系統もあるが、ある種のものは代謝に良い影響をもたらすのかもしれない。Verrucomicrobium AkkermansiaはRYGBによって増加し、無菌マウスに移植した後にも維持されているので、Akkermansiaも宿主の肥満改善に関係している可能性がある。

【結論】
本研究により、RYGBに伴う腸内細菌叢の変化(特にSCFA構成の変化)が、宿主の代謝と肥満の改善をもたらしていることが明らかになった。
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by md345797 | 2013-03-29 05:07 | エネルギー代謝

脂肪特異的TFAM欠損マウスでは、脂肪細胞のミトコンドリア酸化が亢進し、肥満・インスリン抵抗性が改善する

Adipose-specific deletion of TFAM increases mitochondrial oxidation and protects mice against obesity and insulin resistance.

Vernochet C, Mourier A, Bezy O, Macotela Y, Boucher J, Rardin MJ, An D, Lee KY, Ilkayeva OR, Zingaretti CM, Emanuelli B, Smyth G, Cinti S, Newgard CB, Gibson BW, Larsson NG, Kahn CR.

Cell Metab. 2012 Dec 5;16(6):765-76.

【まとめ】
脂肪組織のミトコンドリア機能異常は肥満・2型糖尿病をもたらすと考えられているため、脂肪細胞特異的にTFAM (mitodhondrial transcription factor A)を欠損させたマウスを作製した。このマウスの脂肪組織では、ミトコンドリアDNAコピー数の減少やミトコンドリア形態の変化が見られた。このマウスのミトコンドリア電子伝達系ではcomplex Iやcomplex IVの活性が低下したが、complex IIの機能は亢進するなどミトコンドリア酸化的リン酸化(OXPHOS)が「リモデリング」され、脂肪細胞ミトコンドリアの酸素消費率と脱共役(uncoupling)は増加することが明らかになった。そのため、このマウスは(最初の予想に反して)エネルギー消費が亢進し、高脂肪食に伴う肥満・インスリン抵抗性が改善していた。すなわち、脂肪組織においてTFAM欠損によりミトコンドリア機能異常を起こすと、(逆説的に)全身のインスリン感受性が亢進した。なお、このマウスはインスリン感受性亢進にも関わらず、血中adiponectin値が低値であった。本研究の結果から、脂肪組織のミトコンドリア機能は、肥満・インスリン抵抗性の治療にとって有効な標的になりうると考えられた。

【論文内容】
白色脂肪組織(WAT)と褐色脂肪組織(BAT)の機能は、ミトコンドリア活性に依存している。BATは多くのミトコンドリアを含み脂肪酸のβ酸化を行うほか、UCP1がproton (H+) leakを起こすことにより熱産生によるエネルギー消費を行う。WATはBATに比べ、ミトコンドリアの量は少ないものの、正常な分化や機能維持(adipokine分泌など)のためには正常なミトコンドリア機能が必要である。肥満・2型糖尿病ではWATにおいて、ミトコンドリアDNA (mtDNA)コピー数・ミトコンドリア量・ミトコンドリア活性・酸化的リン酸化(OXPHOS)遺伝子の発現が低下している。

Mitochondrial transcription factor A (TFAM)は、mtDNAの安定性・転写に不可欠の因子であり、全身でTFAMを欠損させたマウスは胚性致死である。本研究では、脂肪細胞におけるミトコンドリア機能のインスリン抵抗性への影響を検討するため、脂肪組織(WATおよびBAT)特異的なTFAM欠損(F-TFKO)マウスを作製した。このマウスでは、ミトコンドリアcomplex Iの欠損が起きたが、驚くことに脱共役(uncoupling)の増加によってミトコンドリア酸化能は増加し、エネルギー消費の増加によって、肥満・インスリン抵抗性が改善することが分かった。

F-TFKOマウスのWATとBATでTFAMの欠損を確認
脂肪細胞特異的aP2プロモーター下にTFAMを欠損させ、F-TFKO (Fat-specific TFAM KO)マウスを作製した。このマウスの鼠径部WATから脂肪細胞分画を採取、またBATは間質部分(stromal vascular fraction)が少ないため分画を行わずそのまま採取した。F-TFKOマウスのWAT単離脂肪細胞とBATでは、ミトコンドリア遺伝子(mtATP6、mtCytb、mtCo1)の発現低下、ミトコンドリアDNAのコピー数低下が認められた。電顕像では、BATのミトコンドリアは不整形をしており、cristaeの破壊が見られた。WAT単離脂肪細胞のミトコンドリアは凝集し、コントロールの2.4倍の量に増加していた。すなわち、F-TFKOマウスの鼠径部WATとBATでは、ミトコンドリア遺伝子発現の低下、ミトコンドリアDNAコピー数の減少、ミトコンドリア形態の変化(下図)が確認された。
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WAT・BATでのTFAM減少は、加齢および高脂肪食による肥満を改善する
F-TFKOマウスとコントロールマウスを正常食または高脂肪食で飼育したところ、F-TFKOマウスはコントロールに比べ、週齢に伴う体重増加と鼠径部WAT重量の増加が小さく、WATの脂肪細胞が小型であった。また、F-TFKOマウスのWATではGlut4とHSLの発現が増加しており、単離脂肪細胞のインスリン刺激による2-deoxy glucoseの取り込みとisoproterenol刺激によるlypolysisが増加していた。さらに、F-TFKOマウスの褐色・白色脂肪細胞では、脂肪酸(14C-palmitate)の酸化が増加していた。なお、脂肪組織へのマクロファージ浸潤と炎症(TNF-α発現および血中濃度)は、両マウス間で差はなかった。

WAT・BATでのTFAM減少は、インスリン抵抗性を改善しエネルギー消費を増加させる
F-TFKOマウスは、コントロールマウスに比べ(正常食・高脂肪食いずれの場合でも)空腹時血糖とインスリン値が低値で、耐糖能とインスリン感受性の亢進が認められた。また、高脂肪食負荷しても脂肪肝が認められなかった。また、興味深いことにF-TFKOマウスはインスリン感受性であるにもかかわらず、血中adiponectin値が44%低値であった。脂肪細胞内のadiponectin 蛋白量およびmRNAは両マウス間で差がなかったため、血中adiponectin低値はadiponectinの分泌またはプロセッシングの低下によるものと考えられた。なお、F-TFKOマウスのエネルギー消費を代謝ケージで調べたところ、コントロールに比べ摂食が22%増加していたが、酸素消費量は10%増加しており、エネルギー消費の増加が認められた。

TFAM欠損により、脂肪細胞ミトコンドリアのOXPHOS機能が「リモデリング」される
F-TFKOマウスのBAT・WATの脂肪細胞では、Western blotにおいて、ミトコンドリア遺伝子でコードされる蛋白であるmtCytbとmtCo1、complex Iの代表的な蛋白であるNDUFB8、complex IVのsubunit 1の発現が低下していた。一方、complex V の構成蛋白であるAtp5Aとcomplex IIの構成蛋白であるSDHBの発現は増加していた。さらに、マススペクトロスコピー解析では、電子伝達系(ETC)の蛋白の多くが減少していたが、特にcomplex Iとcomplex IIIが全体的に減少していた。さらに酵素機能としては、complex Iとcomplex IVの機能が低下、complex IIの機能は増加していた。なお、TCAサイクルの重要な因子であるcitrate synthase (CS)活性はF-TFKOマウスのBATおよびWATの脂肪細胞で増加しており、酸素消費率(OCR)は増加していた。さらに、化学的脱共役剤(uncoupler)であるFCCPを添加するとコントロール脂肪組織のOCRはF-TFKO脂肪組織以上に上昇したことから、F-TFKO脂肪組織はすでに最高の代謝率または脱共役の状態に達していると考えられた。

TFAM欠損によりcomplex I活性が低下するが、脱共役が増加することにより、ミトコンドリア呼吸能は増加する
次に、C3H10T1/2間葉細胞株でTFAMをノックダウンしたところ(TFAM-shRNA1、TFAM-shRNA2)、同様にミトコンドリア遺伝子の発現とmtDNA量が減少したが、ATPターンオーバーの低下とproton leakの増加が見られ、脱共役が亢進した。また、活性酸素種(ROS)および脂質過酸化が増加しているという特徴が認められた。

F-TFKO脂肪細胞から単離したミトコンドリアの代謝能を検討したところ、complex Iの基質の存在下ではstate 3のOCRはコントロールと比べ有意差がなかったが、脂肪酸存在下ではstate 3のOCRはF-TFKOで有意に高かった。さらに、complex IIの基質の存在下では、(complex Iの機能障害にもかかわらず)F-TFKOのOCRは増加していた。したがって、F-TFKO脂肪細胞のミトコンドリアでは呼吸機能はcomplex II機能に依存していた。ミトコンドリア脱共役の指標であるRCR (respiratory control ratio=state 3/state 4)を計算すると、F-TFKOのミトコンドリアで有意に低値(慢性の脱共役を示す)であった。さらに、単離ミトコンドリア機能をフローサイトメトリーで検討したところ、F-TFKOのミトコンドリアはoligomycin A (complex V(ATP synthase)阻害剤)添加後のproton leakが大きかった。Complex II基質の存在下でのF-TFKOミトコンドリアのstate 3 OCRは大きく増加しており、酸化能の増加が認められた。以上より、F-TFKOマウス脂肪細胞のミトコンドリアでは、酸化率と脱共役が亢進していることが示された。

TFAM欠損による脂肪組織の代謝産物(metabolite)への効果
最後にF-TFKO脂肪組織の有機酸とアシルカルニチンのメタボロームプロファイルを検討した。高脂肪食負荷F-TFKOマウスのWAT・BATでは脂質過酸化(TBARS)と酸化DNA(8OHdG)の増加を認めた。メタボローム解析では、F-TFKOマウスBATでKrebs回路のほとんどの中間産物、およびピルビン酸と乳酸の増加が認められた(OXPHOSによるATP産生が低下しているため、解糖系が亢進していると考えられる)。脂肪酸のプロファイルでは、F-TFKOのWAT・BATで多種のアシルカルニチンが増加していた。脂肪組織のTFAM欠損により、OXPHOS過程の「リモデリング」、ETC増加による解糖系と脂質酸化の変化、脱共役呼吸の増加が起こり、「より代謝的に活発な」脂肪組織となった。

【結論】
脂肪組織においてTFAMを欠損させたところ、mtDNAのコピー数は減少しcomplex Iやcomplex IVの活性は低下したが、complex IIの活性は上昇するなどの電子伝達系のリモデリングが起こり、結果としてミトコンドリア呼吸機能が亢進肥満・インスリン抵抗性が改善した。これは、骨格筋特異的TFAM欠損マウスの結果や、ヒトの骨格筋complex I単独欠損症の患者で見られたのと同様の所見である。また、本研究のF-TFKOマウスでは、肥満抵抗性とインスリン感受性亢進にもかかわらず血中adiponectin値が低値、脂肪組織では酸化ストレス(過酸化脂質と酸化DNA)が増加している、という特徴が認められた。

インスリン抵抗性の状態では、ミトコンドリア電子伝達系の機能異常や、OXPHOS遺伝子の発現低下が認められることや、骨格筋でミトコンドリア生合成が増加すればインスリン感受性が亢進することが報告されていた。しかし、上記の骨格筋特異的TFAM欠損マウスAIF欠損マウスでは、本研究のF-TFKOマウスの結果と同様に、complex Iやcomplex IV活性の低下にもかかわらず、肥満・インスリン抵抗性の改善が見られた。

肥満・インスリン抵抗性改善の戦略として、BATの量を増加させる、WATの褐色化を促進するという方法が考えられる。もう一つのアプローチとして、WATや他の組織の脱共役呼吸を増加させる方法がある。これには安全な化学的脱共役剤(chemical uncoupler)が求められるが、今までにTZDsやmetforminがcomplex I活性を抑制することが知られており、これらの薬剤は、本研究の結果と同様、ミトコンドリア共役を低下させて酸化率を上昇させることで、インスリン抵抗性を改善しているのかもしれない。また、脂肪組織のTFAMを減少させる薬剤があれば、インスリン抵抗性に有効だろう。さらに、本研究の結果より、脂肪組織のミトコンドリア機能の調節機構は、肥満・2型糖尿病治療の有効な標的となると考えられる。
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by md345797 | 2012-12-12 17:55 | エネルギー代謝

肝のグルコキナーゼは、神経シグナルを介するBATの熱産生抑制により肥満しやすさの傾向に影響している

Hepatic glucokinase modulates obesity predisposition by regulating BAT thermogenesis via neural signals.

Tsukita S, Yamada T, Uno K, Takahashi K, Kaneko K, Ishigaki Y, Imai J, Hasegawa Y, Sawada S, Ishihara H, Oka Y, Katagiri H.

Cell Metab. 16, 825–832, December 5, 2012.

【まとめ】
世界規模で肥満が増加し続けていることを考えると、生体には栄養過剰の条件下でもエネルギー貯蔵を促進するような未知のメカニズムが存在すると考えざるをえない。本研究は、栄養過剰に伴う肝のグルコキナーゼ(GK)発現増加に端を発し、エネルギー貯蔵を促進するようなフィードフォワードのシステムが存在することを明らかにした。実験では、高脂肪食負荷に伴う肝のGKの発現増加や、肝でのGKの強制発現によって、褐色脂肪組織(BAT)の熱産生遺伝子発現が低下し、適応熱産生が低下することが示された。この肝からBATへの臓器間システムは、肝から脳幹への求心性迷走神経とそれを受けた延髄からBATへの遠心性交感神経からなり、この経路はレプチンの熱産生促進による抗肥満作用に拮抗していることも分かった。また、高脂肪食負荷に伴う肝のGKの発現増加は、肥満抵抗性系統のマウスよりも肥満傾向系統のマウスでより顕著であり、それはBATの熱産生の程度と逆相関していた。さらに、肥満抵抗性の系統の肝にGKを過剰発現させると体重増加が促進され、肥満傾向系統のマウスで肝のGKをノックダウンすると適応熱産生が亢進して体重増加が減弱した。このような肝のGKから交感神経系を介してBATに至る組織間システムは、エネルギー貯蔵に働く倹約システムとして機能しているのみならず、肥満しやすさの傾向を決めるのに影響しているのかもしれない。

【論文内容】
生体のエネルギー恒常性は、レプチンのような液性因子や求心性・遠心性の神経シグナルによって保たれているが、これらのシステムが適切に機能してれば肥満は起こらないはずである。しかし、現実には世界的に肥満は増加しており、栄養過剰の条件下で肥満が進行し続ける何らかのメカニズムが存在すると考えられる。以前の報告により肝のグルコキナーゼ(GK)を過剰発現させたトランスジェニックマウスは体重が増加しやすいことが知られており、肝の糖代謝は全身のエネルギー恒常性調節に重要であると考えられている。そこで本研究では、アデノウイルスを用いて肝にGKを過剰発現させ、それが特にBATにおけるエネルギー代謝にどう影響するかを検討した。

肝にGKを過剰発現させグリコゲン蓄積が増加することを確認
まず、肥満しやすい傾向の系統であるC57BL/6マウスに高脂肪食を負荷したところ、内因性のGKの発現は著明に増加した。そこで、この高脂肪食負荷に伴う肝のGK発現増加が全身の代謝を変化させる可能性を考え、通常食負荷マウスの肝にアデノウイルスを用いてGKを過剰発現させた(コントロールにはLacZアデノウイルスを注入したマウスを用いた)。このマウスでは、GK発現に対し用量依存性にグリコゲン蓄積および肝トリグリセリド含量が増加し、マイクロアレイ解析によりグリコゲン生成と脂肪合成経路の酵素の発現増加が確認された。GK過剰発現マウスとコントロールマウスで、糖・脂質代謝、体重・白色脂肪組織(WAT)量、摂食、運動、体温・肝の温度に差はなかった。

肝にGKを過剰発現させると、交感神経を介してBATの適応熱産生が抑制される
興味深いことに、このGK過剰発現によりBATの脂肪細胞のサイズは増加し、熱産生関連遺伝子(UCP1、PGC-1α、D2)の発現はGK発現の用量依存的に低下していた。これらのBAT熱産生遺伝子は交感神経系(SNS)の活性化を介して発現が増加することが知られているが、このマウスではノルエピネフリンターンオーバー(SNS活性)が低下していた。さらにこのマウスで、BAT熱産生に重要な交感神経プレモーターニューロンを含むrostral raphe pallidus nucleus(吻側淡蒼縫線核:rRPa)のc-fos発現を調べた。その結果、肝のGK過剰発現によりrRPaニューロンのc-fos mRNAおよびc-fos陽性ニューロン数は有意に減少していた。したがって、肝のGK過剰発現はSNS活性低下を介して、BATの熱産生を抑制している可能性が考えられた。

このGK過剰発現マウスのノルエピネフリンによる全身の酸素消費(適応非ふるえ熱産生)は、コントロールに比べ大きく抑制されていた(basalの酸素消費はコントロールと同じだが、ノルエピネフリンによる酸素消費の増加が抑制)。さらに、このマウスのBATでの適応熱産生の低下を確認するため、マウスをthermoneutral (自然放熱のない28-30℃)およびsubthermoneutral(自然放熱のある18-23℃)のそれぞれの環境に置く実験を行った。UCP-1欠損マウスD2欠損マウスのようにBAT熱産生が抑制されているマウスをsubthermoneutralな環境に置いた場合、ふるえ熱産生などの他の組織の熱産生が起きて、WATのlipolysisが増加し体重が減少する。一方、これらのマウスをthermoneutralな環境に置くと、他の組織の熱産生が起きる必要がないため、BAT熱産生低下によって体重が増加する。この実験のGK過剰発現マウス(BATのUCP1・D2発現が低下)でも同様のことが認められ、subthermoneutralityではWATのHSL活性化に伴ってWAT重量の減少が認められたが、thermoneutralityではそれらが認められなかった。またsubthermoneutralityでは基礎代謝率が有意に増加したが、thermoneutralityでは増加しなかった。さらに、thermoneutralityの状態に13日間置いたところ、肝のGK過剰発現の用量依存的に体重およびWAT重量が増加した。以上より、肝のGK過剰発現によってBAT熱産生が抑制されることが改めて確認された。

肝からの迷走神経シグナルが肝からBATへ組織間作用を伝達している
このグループは、肝にPPAR-γを過剰発現させると肝からの求心性迷走神経を介して交感神経系が活性化されることを報告しており、このマウスでも肝からの求心性迷走神経がBATの交感神経による作用に影響しているかを検討した。肝の迷走神経切断(hepatic vagotomy; HV)を行った7日目にGKを含むアデノウイルスを注入したところ、BATのUCP1・PGC-1α・D2の発現低下とBAT脂肪細胞サイズの増加は消失していた。また、HVによって、GK過剰発現に伴うrRPaニューロンのc-fos発現低下も見られなくなった。以上の結果より、肝のGK過剰発現によるBAT熱産生の抑制は、肝からの求心性迷走神経シグナルを介していると考えられた。

肝のGK過剰発現によりレプチンの熱産生促進効果は抑制される
6日間連続で、GK過剰発現マウスおよびコントロールLacZマウスの腹腔内にレプチンを投与したところ、どちらも同じように摂食抑制が起きた。これらのマウスでは、レプチン投与によりrostral arcuate nucleus (吻側弓状核;ARC)におけるc-fosとPOMC発現の亢進、NPY発現の抑制も同じように起きた。したがって、肝のGK過剰発現はARCニューロン活性および摂食抑制に対しては影響がないといえる。それに対し、肝にGKを過剰発現させた場合、レプチンによるBATのUCP1・PGC-1αの発現増加とrRPaのc-fos発現増加は抑制された。したがって、この肝GK過剰発現によるレプチン作用の抑制は、rRPa-SNS-BAT経路を介していると考えられる。rRPaの上流においては、paraventricular nucleus of the hypothalamus (視床下部室傍核;PVN)がレプチンによって活性化されることが知られているが、両者のマウスではレプチン投与によるPVNにおけるc-fos発現増加と熱産生神経伝達物質(CRH、TRH)の産生増加に差は見られなかった。したがって、肝のGK過剰発現は、レプチンによるエネルギー消費促進効果を、視床下部より下流で阻害していると考えられる。

肝のGK発現は肥満しやすさの傾向を決めるのに貢献している
上記の肝のGK発現に端を発する神経メカニズムは、生理的な状況下ではどのような役割を果たしているのか。それを検討するため、肥満しやすい系統のマウス(C57BL/6、AKR)と肥満に抵抗性の系統のマウス(SWR/J、A/J)に高脂肪食を1週間負荷し、それぞれ肝の内因性GK、BATのUCP1の発現を比較した。高脂肪食による肝のGK発現増加は、肥満抵抗性の系統より肥満しやすい系統の方が大きかった。さらに、肝のGK発現増加はBATのUCP1発現の程度と逆の相関を示した。そこで、肝GK発現からBATへのシグナル伝達が肥満しやすさの傾向を決めている可能性を考え、以下の実験を行った。まず、肥満抵抗性系統のSWR/Jマウスに正常食を負荷し、アデノウイルスを用いて肝にGKを過剰発現させたところ、BATのUCP1・PGC-1α ・D2発現が抑制され、(肥満抵抗性にもかかわらず)体重増加が亢進した。次に、肥満しやすい系統のC57BL/6マウスにGKのshRNAを含むアデノウイルスを注入して肝の内因性GKの発現をノックダウンして(GK-KDマウス)、高脂肪食を負荷した。その結果、高脂肪食負荷GK-KDマウスでは、BATのUCP1・PGC-1α・D2発現が増加し、rRPaでのc-fos発現も増加していた。さらにGK-KDマウスでは、ノルエピネフリン投与による酸素消費が増加しており、その結果、高脂肪食による体重増加が抑制されていた。以上より、高脂肪食負荷に伴う肝の内因性のGK発現増加は、適応熱産生を調節することにより、肥満しやすさの傾向を決めている可能性が考えられた。
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【結論】
高脂肪食負荷(栄養過剰)の条件下では肝のGK発現が亢進し、このことがBATの熱産生を抑制することにより、肥満を助長するメカニズムが明らかになった。この組織間メカニズムは肥満を促進する代謝スイッチになっていると考えられ、また肥満しやすさの傾向を決めている可能性もある。このシステムは、かつてはエネルギー貯蔵に有利な「倹約システム」ともいうべきフィードフォワードのメカニズムとして働いていたが、栄養過剰の現代においては肥満助長の引き金になっているのかもしれない。
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by md345797 | 2012-12-07 00:11 | エネルギー代謝

MitoNEETによる脂肪細胞ミトコンドリア機能の調節は、肥満におけるインスリン感受性維持に重要

MitoNEET-driven alterations in adipocyte mitochondrial activity reveal a crucial adaptive process that preserves insulin sensitivity in obesity.

Kusminski CM, Holland WL, Sun K, Park J, Spurgin SB, Lin Y, Askew GR, Simcox JA, McClain DA, Li C, Scherer PE.

Nat Med. 2012 Sep 9;18(10):1539-49.

【まとめ】
ミトコンドリア外膜に存在する蛋白であるmitoNEETの脂肪細胞における発現を変化させたモデルマウスを用いて、ミトコンドリア機能と代謝への影響を検討した。脂肪細胞特異的にmitoNEETを過剰発現させたところ、脂質の取り込みと貯蔵が促進され、脂肪組織量が増加した。そのマウスは結果的に肥満にはなるが、インスリン感受性は保たれた。鉄はミトコンドリア電子伝達系の律速因子であるが、mitoNEETはミトコンドリアのマトリックスへの鉄輸送を阻害すること、β酸化率を低下させることを明らかにした。これによりミトコンドリア膜電位が低下、活性酸素種による障害が減少し、これに伴ってadiponectin産生が増加した。逆に、mitoNEET発現を減少させたマウスでは、ミトコンドリアマトリックス内の鉄の量が増加してミトコンドリア呼吸能が促進され、高脂肪食負荷しても体重減少が少なかった。しかし、このmitoNEET発現の減少は酸化ストレスの亢進と耐糖能障害をもたらした。以上の結果より、mitoNEETの発現を変えることによってミトコンドリア機能を変化させると、細胞および全身の脂質恒常性が大きく影響されることが明らかになった。

【論文内容】
正常な脂肪組織は、他の組織では毒性をもつ遊離脂肪酸(FFAs)を貯蔵しておく「safe haven(安全な避難先)」として、糖尿病を防ぐ役割を担っている。脂肪細胞から分泌されるadiponectinは(インスリン抵抗性改善作用のほかに)、トリグリセリドを脂肪組織に貯蔵する働きがあり、それにより代謝を改善させる。脂肪組織ではミトコンドリアでのβ酸化によって脂質の酸化が起きているため、ミトコンドリア機能(β酸化率、酸化酵素活性、電子伝達系(ETC))の低下は2型糖尿病につながりうる。この研究では、ミトコンドリア膜蛋白であるmitoNEETのgain-of-functionおよびloss-of-functionモデルを用いて、ミトコンドリア機能と全身の代謝の関連について検討した。MitoNEETはpioglitazioneとクロスリンクして安定化するミトコンドリア膜の蛋白として同定された。ミトコンドリア外膜に存在し、C末端配列がAsnGluGluThr(NEET)であるため、この名称がある。また、2つの鉄イオンと硫黄イオンを含むクラスター(2Fe-2S cluster)を持ち、pioglitazoneはこれらの放出に対して蛋白を安定化する作用がある。MitoNEETはミトコンドリアの鉄の含量の強力な調節因子であり、ミトコンドリア鉄含量は細胞および全身の代謝に影響することが知られている。

MitoNEETは脂肪組織の増大を促進する
d0194774_12125815.pngマウスに高脂肪食負荷すると、脂肪組織と肝臓におけるmitoNEETの発現は低下した。そこで、脂肪組織におけるmitoNEET活性を増加させるため、aP2 promotorを用いて、脂肪細胞特異的mitoNEET過剰発現トランスジェニックマウス(MitoN-Tgマウス)を作製した。これをob/obマウスと交配したMitoN-Tg ob/obマウスは、体重が非常に増加した(最大で129.5g)。しかし、通常のob/obマウスが高血糖(474±26 mg/dl)なのに対し、Mito-N ob/obマウスは正常血糖(111±14 mg/dl)であった。MitoN-Tg ob/obマウスは、OGTTで正常耐糖能、高インスリン正常血糖クランプで全身および肝のインスリン感受性亢進を示した。MitoN-Tg ob/obマウスは肝・脂肪組織・膵への脂肪蓄積が少なく、膵島の数や形態も野生型(WT)マウスと同様であった。インスリン抵抗性に関与しているとされるceramideの肝における濃度は、MitoN-Tg ob/obマウスは通常のob/obマウスより低く、20%intralipid経口投与後の脂肪組織中の過酸化脂質(F2-isoprostane)濃度も低かった。

MitoNEETは脂質の取り込みとadiponectin産生を促進する
MitoNEET過剰発現により、脂肪分化・トリグリセリド合成・脂肪滴関連蛋白合成・脂肪酸取り込みと輸送・グルコース取り込みの経路で遺伝子発現の変化が認められた。特に、WTの皮下白色脂肪組織(sWAT)に比べると、MitoN-TgのsWATでは、 adiponectinおよびPpargc1a(PGC1)αの発現が増加していた。また、脂肪酸トランスポーターCd36の発現も亢進しており、経口脂質負荷後のトリグリセリドのクリアランスが有意に増加していた。MitoN-TgマウスはWTマウスに比べて血中adiponectinが高値であり、mitoNEETがadiponectin産生と放出に関連していること分かった。MitoN-Tg Adiponectin欠損マウスではトリグリセリドのクリアランスが増加しなかったため、mitoNEETによるトリグリセリドのクリアランス増加の一部は、adiponectinの増加によるものと考えられた。通常、トリグリセリドは、カテコラミン刺激によりFFAとグリセロールに分解される。β3-adrenergic agonist(CL316,243)を投与すると、MitoN-TgマウスはWTに比べ多くのグリセロールを放出した。また、MitoN-TgのsWATではPepck発現が著明に亢進しており、グリセロール合成が促進されていた。LPL(lipoprotein lipase)は、トリグリセリドのクリアランスを調節する重要な作用があるが、MitoN-TgのsWATは、WTに比べてLPL活性が亢進していた。

MitoNEETを介する脂肪酸代謝の調節
さらに脂肪酸代謝について検討するため、MitoN-TgマウスとWTマウスに3H-trioleinトレーサーを投与して、脂質蓄積とβ酸化率を定量する実験を行った。MitoN-TgマウスはWTマウスに比べ、全身の3H-trioleinクリアランスが亢進していた。MitoNEETの主要な発現部位であるsWATおよび、その他の発現部位であるBATにおいて、MitoN-Tgマウスのβ酸化率は亢進していた。また、MitoN-TgのsWATではWTのsWATに比べて、脂肪細胞が小さく、インスリン抵抗性につながる肥大した脂肪細胞は少ないことが分かった。

MitoNEETはミトコンドリア機能と鉄量を調節する
MitoNEETは鉄・硫黄クラスター輸送蛋白であり、ミトコンドリアの鉄代謝に関わっている。実際に、mitoNEET過剰発現によって、sWATのミトコンドリアの鉄(電子伝達系の律速因子)の量は50%程度にまで減少してしまう。mitoNEETがどのようにβ酸化を低下させ、脂質蓄積を促進するかを検討するため、3T3-L1脂肪前駆細胞にmitoNEETを過剰発現したところミトコンドリアの膜電位(ΔΨm)は低下した。同様のΔΨmの低下はTZDの投与でも起こった。このmitoNEETによるΔΨmの低下は、mitoNEET 発現増加による電子伝達系活性の低下・ミトコンドリアへの不十分な基質供給・ミトコンドリアマトリックスへの電子流入の増加によると考えられた。さらに、ミトコンドリア機能の評価として以前報告した電子流入解析と酸素消費率(OCRs)を測定したところ、MitoN-TgマウスのsWATは基質に反応したOCRsが著明に低下していたが、rotenone(complex I阻害剤、ROSによる酸化ストレスを亢進させる)に反応するOCRsは増加していた。さらに、MitoN-TgのsWATはNAD+:NADH比が低下しており、NADHのETCによる再酸化が不十分、またはmitoNEETはβ酸化の低下を代償するため解糖率(NADH産生過程)が亢進させていると考えられた。

MitoN-TgとWTマウスに20%intralipidを経口投与し、脂質によるROS産生が亢進している状態にしても、MitoN-TgのsWATではROSによる過酸化脂質(F2-isoprostane)産生が少なかった。電顕でミトコンドリア像を比較すると、MitoN-TgのsWATのミトコンドリアは伸長され、長いフィラメント構造を呈し、脂肪滴様構造が隣接していた(運動した骨格筋でみられるような現象である)。また、脂肪組織中のミトコンドリアの量も多く、ミトコンドリア生合成が増加していると考えられ、これはMitoN-TgのsWATでPgc1-αのmRNAが増加していることと一致していた。

MitoNEET発現低下は正反対の効果をもたらす

次に、doxycycline(Dox)誘導性にmitoNEET発現をshRNAノックダウンするマウス(shRNA-mitoNマウス)を作製し、全身でmitoNEETの発現を低下させるモデルを作製した。このマウスにDoxを含む高脂肪食(Dox-HFD)を負荷したところ、WTマウスに比べ体重増加が少ないものの、耐糖能は悪化していた。shRNA-mitoNマウスは、肝におけるROS誘導性の蛋白傷害(カルボニル化)が増加していた。Dox-HFD負荷shRNA-mitoNマウスは、肝への脂肪蓄積が少なかった(局所でのβ酸化の増加による)。また、Doxを添加したshRNA-mitoNマウスのMEFs1は、ΔΨmが増加(TMRM染色が増加)し、パルミチン酸に反応したOCRsが増加(β酸化が亢進)していた。さらに、shRNA-mitoNマウスの肝のミトコンドリアは基質に対するOCRsが増加していた。以上のloss-of-functionマウスの特徴はgain-of-functionマウスの形質と正反対であったため、mitoNEET発現量によりミトコンドリア活性が調節されていることが示された。なお、shRNA-mitoNマウスはWTマウスに比べてミトコンドリア鉄の濃度が高く、このこともmitoNEETがミトコンドリア鉄含量の重要な調節因子であることを示している。

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【結論】
MitoNEETの発現量を変更することにより、ミトコンドリア機能と脂質恒常性を変化させ、全身のインスリン感受性を調節することができた。脂肪細胞特異的mitoNEET過剰発現では、β酸化の低下により著明な肥満マウス(mitoN-Tg ob/obマウス:報告されているマウスモデルのうち最大かそれ以上の重量を示した)となったが、それにもかかわらず全身のインスリン感受性は亢進している、いわゆる「metabolically healthy but obese」の状態を示した。これは、MitoN-Tgでは脂肪細胞のミトコンドリアにおけるβ酸化の低下により、sWATへの脂肪取り込みと蓄積が亢進して異所性脂肪が減少したためと考えられる。また、脂肪細胞のミトコンドリア機能はadiponectin産生に重要なので、このマウスではadiponectin分泌により、トリグリセリドクリアランスとインスリン感受性の亢進をもたらしたと考えられる。
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by md345797 | 2012-11-01 02:40 | エネルギー代謝

Resveratrol補充により、正常耐糖能女性の代謝機能は改善しなかった

Resveratrol supplementation does not improve metabolic function in nonobese women with normal glucose tolerance.

Yoshino J, Conte C, Fontana L, Mittendorfer B, Imai S, Schechtman KB, Gu C, Kunz I, Fanelli FR, Patterson BW,Klein S.

Cell Metab. Published online October 25, 2012.


【まとめ】
Resveratrolは、代謝異常のマウスおよびヒトで代謝を改善することが報告されているが、正常耐糖能の非肥満者の研究はなされていない。そこで、非肥満・閉経後の正常耐糖能女性に対する、12週間のresveratrol 投与(75 mg/day)のランダム化二重盲検プラセボ比較試験を行った。その結果、resveratrol投与により、体組成、安静時代謝率、血漿脂質、炎症性マーカーは変化しなかった。安定アイソトープラベルトレーサー注入を行う2段階高インスリン正常血糖クランプを行ったところ、resveratrolにより肝・筋肉・脂肪組織でのインスリン感受性は増加しなかった。同様に、resveratrolにより骨格筋や脂肪組織でのSIRT1NAMPTPPARGC1Aの発現、AMPKのリン酸化に影響は見られなかった。以上より、非肥満、閉経後の正常耐糖能女性では、resveratrol投与の代謝に対する有効性は認められなかった。

【論文内容】
天然ポリフェノールであるresveratrolは、カロリー制限と同様の代謝改善効果をもたらすとされている。そのため、resveratrolサプリメントの売り上げは、米国だけでも年間3000万ドルに達しているという。現在までのデータは、高脂肪食による肥満モデルマウスにおいて、resveratrolがインスリン抵抗性や脂質を改善、炎症や酸化ストレスを抑制し、寿命を延長するというものであった。それに対し、正常マウスでは、インスリン抵抗性や脂質、寿命はresveratrolによってさらに改善されることはないことが報告されている。最近、肥満の2型糖尿病または耐糖能異常患者にresveratrolを投与するとインスリン感受性とミトコンドリア機能が改善し、炎症が抑制されることが示されたが、一般の非肥満の正常耐糖能者で同様の効果があるかは分かっていない。そこで、非肥満(正常および過体重)女性を対象に、12週間resveratrol(75mg/日)を補充するランダム化二重盲検プラセボ比較試験を行った。

Resveratrol投与による副作用はなかった
Resveratrol補充を受けた群(n =15; 58.2 ± 4.0歳)とプラセボ服用群(n = 14; 59.8 ± 4.3歳)のベースラインの特徴は同じであった。Resveratrol服用による副作用は認めず、resveratrol群で血中のresveratrolおよびdihydroresveratrolの値が上昇していた(プラセボ群ではいずれも認めず)。

Resveratrol補充は、体組成、代謝指標、インスリン感受性に影響なかった
Resveratrol補充の12週後の体重、体組成(脂肪量、除脂肪体重、腹腔内脂肪量、肝内トリグリセリド量)に変化なく、血漿グルコース、インスリン、脂質、adiponectin、leptin、炎症性マーカー(CRP、IL-6)、HOMA-IR、安静時代謝率も変化がなかった。より厳密にインスリン感受性を評価するため、高インスリン正常血糖クランプを行った、resveratrol投与により、肝(インスリンによる糖産生抑制)、脂肪組織(インスリンによるパルミチン酸放出抑制)、骨格筋(インスリンによる糖の消失率)に差はなく、インスリンリン感受性の改善は認めなかった。


Resveratrol補充は、代謝に有効な分子の変化をもたらさなかった
動物実験によると、resveratrolの効果は、AMPK、NAD+生合成、SIRT1(NAD+-dependent protein deacetylase)、PGC1α(PPARGC1A)、Ucp3発現増加によるミトコンドリア生合成の増加、という経路を介していることが知られている。さらにresveratrolによってSIRT1、NAMPT(nicotinamide phosphoribosyltransferase、NAD+合成酵素)、PPARGC1A、UCP3の発現が増加する。ところが、この研究で骨格筋と脂肪組織でのこれらの発現を調べたところ、いずれもresveratrol投与により変化はなかった。さらにマイクロアレイにより、resveratrolで影響を受ける経路を検討するため、骨格筋・脂肪組織サンプルでマイクロアレイを用いたgene set enrichment analysis (GSEA)を行った。しかし、resveratrolはミトコンドリア機能、炎症、AMPK経路の遺伝子発現には変化を与えず、骨格筋において2つの経路(KINESIN_COMPLEX, false discovery rate [FDR] = 0.015; UBIQUITIN_LIGASE_COMPLEX, FDR = 0.216)に影響したのみであった。さらに、resveratrolは、骨格筋のAMPKのリン酸化やその経路に影響を与えなかった。

【結論】
Resveratrolは、肥満や代謝異常のヒトにおいてのみ代謝状態を改善するが、非肥満・正常耐糖能の女性には効果はなかった。
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by md345797 | 2012-10-26 17:41 | エネルギー代謝

ベージュ脂肪細胞は、マウスとヒトにおける独自の熱産生脂肪細胞である

Beige adipocytes are a distinct type of thermogenic fat cell in mouse and human.

Wu J, Boström P, Sparks LM, Ye L, Choi LH, Giang A-H, Khandekar M, Virtanen KA, Nuutila P, Schaart G, Huang K, Tu H, Lichtenbelt WDM, Hoeks J, Enerbäck S, Schrauwen P, Spiegelman BM.

Cell. 2012 Jul 20;150(2):366-76. Epub 2012 Jul 12.

【まとめ】
褐色脂肪は、ミトコンドリア脱共役蛋白UCP1を介して熱産生を行い、低体温と肥満を防止する働きをしている。最近の研究により、2つの区別できるタイプの褐色脂肪があることが分かっている。一つはmyf-5(筋肉様)細胞系列から発生する古典的な褐色脂肪であり、もう一つは非myf-5系列由来の白色脂肪から発生するUCP-1陽性細胞であり、後者はベージュ(または”brite”)脂肪細胞と呼ばれている。この研究では、マウスの白色脂肪組織からベージュ脂肪細胞を単離したことを報告する。ベージュ細胞は、白色脂肪と同じくベースのUCP1の発現は極めて低いが、古典的な褐色脂肪同様、cAMP刺激に反応して高レベルのUCP1発現と呼吸率を示す。ベージュ細胞は、白色脂肪とも褐色脂肪とも区別される独自の遺伝子発現パターンを持ち、ポリペプチドホルモンであるirisinに選択的に反応する。さらに、以前同定された成人ヒトの褐色脂肪組織は、ベージュ脂肪細胞からなることも示された。この新しいタイプの脂肪細胞の研究は治療への基礎につながると考えられる。
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【論文内容】
多房性のUCP1陽性細胞は、マウス皮下白色脂肪組織に多く含まれる
従来より、マウスの皮下白色脂肪組織は、内臓白色脂肪組織に比べると、高率にUCP1や他の褐色脂肪遺伝子を発現する傾向があることが知られていた。129SVEマウスの鼠径皮下脂肪においても、多房性(multilocular)の褐色脂肪様の細胞が見られた。この皮下脂肪組織の遺伝子発現解析によると、UCP1および褐色脂肪遺伝子 (CIDEA、PGC1α)の発現が見られた(発現量は内臓白色脂肪組織と古典的な褐色脂肪組織の中間程度であった)。これらの細胞をin vitroで分化させても、同様の遺伝子発現が見られたため、これらの細胞の「中間的な褐色」の性質は、外因(神経支配、血流など)によるものでないと考えられた。

遺伝子発現解析により、皮下脂肪組織の中に2つの区別できる脂肪細胞タイプが存在することが示された
鼠径部皮下脂肪のSVF(stromal vascular fraction)を単離して培養し、限界希釈法によって個々の細胞をクローン化した。これらのうち、20以上が分化誘導によって脂肪を蓄積した。同様に肩甲骨間褐色脂肪からも3つのクローン細胞株を得た。これらの細胞株を分化させ、forskolin(cAMP-inducing agent)で処理したのち、RNAをマイクロアレイで解析したところ、白色脂肪細胞の23細胞株は2つのグループに分けられた。このクラスタリングによると、鼠径部白色脂肪由来の1グループの方はもう1つのグループに比べて、褐色脂肪細胞株により近い遺伝子発現を示した。これら3つの細胞株グループを主成分分析で解析したところ、古典的な褐色脂肪細胞に近い(が同じではない)独自の細胞集団(ベージュ細胞)の存在が示唆された。

ベージュ細胞は白色および褐色脂肪細胞の両方の特徴を持つ
皮下脂肪由来の2つのサブグループ(白色脂肪細胞とベージュ細胞)は、同様の脂肪合成と脂肪細胞特異的マーカー(aP2、Adiponectin、Adipsin、Pparγ)の発現を示した。どちらの細胞もベースの状態では、古典的な褐色脂肪細胞で見られる遺伝子(Ucp1、Cox7a1、Cidea)の発現は少なかった。しかし、cAMP刺激後はベージュ細胞株でのUcp1遺伝子発現の誘導は非常に大きく、肩甲骨間褐色脂肪細胞と同レベルに達した。cAMPによるUcp1誘導の倍率は、褐色脂肪細胞で40倍程度なのに対し、ベージュ細胞では150倍程度と非常に大きかった。

次に、移植実験によりin vivoでの白色脂肪細胞およびベージュ細胞のUcp1発現能の差を検討した。免疫不全マウスに白色またはベージュ細胞株を移植すると、in vivoで分化して4-6週間後には異所性脂肪パッドを形成する。ベースの刺激のない状態では、ベージュ細胞株も白色細胞株も、Cidea、Cox7a1、Ucp1発現レベルは同様であった。これらのマウスに交感神経刺激を模倣するCL316,243 (β3-adrenergic agonist)を投与し5時間後に脂肪パッドを採取したところ、ベージュ細胞株由来の脂肪由来の脂肪パッドではUcp-1 mRNAがベースの10-30倍に増加していたのに対し、白色細胞株由来の脂肪パッドでは5倍程度の増加であった。このように白色およびベージュ細胞のUcp1発現の違いは、in vivoでも確認することができた。

さらに、白色、ベージュ、褐色細胞のミトコンドリア呼吸(酸素消費)を調べるため、oligomycin(ATP synthase inhibitor)添加により、脱共役呼吸率(uncoupled respiration rate)を比較した。まず、褐色細胞でcAMP刺激なしのとき、脱共役呼吸がベースの呼吸率の78%を占めていた。これはベージュ細胞の60%より有意に大きかった。cAMP存在下では、脱共役呼吸は褐色細胞で1.2倍に増加したのに対し、ベージュ細胞では2倍に増加した。白色脂肪細胞では脱共役呼吸のcAMPによる増加はほとんど見られず、褐色およびベージュ細胞に比べcAMP存在下でのベースまたは脱共役呼吸率は有意に低かった。以上より、ベージュ細胞は高い呼吸能を持ち、cAMPに対する反応性は褐色細胞より高いことが明らかになった。

ベージュ脂肪細胞は独自の遺伝子発現プロファイルを示す
ベージュ脂肪細胞と褐色脂肪細胞は、関連はあるが別個の遺伝子発現プロファイルを示していた。ベージュ選択的遺伝子は、発生過程の転写因子(Tbx1)、脂質代謝経路のコンポーネント(Slc27a1)、免疫・炎症経路で重要な分子(CD40、CD137)などを含んでいた。マウス脂肪組織においても、鼠径脂肪組織ではTMEM26、CD137、TBX1などのベージュ脂肪細胞マーカーが増加していたのに対し、肩甲骨間褐色脂肪組織ではEva1などの褐色脂肪細胞マーカーの発現が増加していた。これらの発現は、in vivoの免疫染色でも確認でき、鼠径脂肪組織のUCP1陽性細胞はCD137とTMEM26の発現が認められた(肩甲骨間褐色脂肪組織のUCP1陽性細胞には認められなかった)。

ベージュ細胞表面蛋白は、初代ベージュ脂肪前駆細胞の選択に用いることができる
ベージュ細胞特異的マーカー(CD137、TMEM26)が同定されたので、FACSを用いてSVFから初代細胞を単離することが可能となった。CD137陽性細胞やTMEM26陽性細胞はそうでない細胞に比べてUcp1の発現や他の熱産生関連遺伝子(ミトコンドリア遺伝子のCox7a1Cox8b、転写調節因子Prdm16Pgc-1β、熱産生ホルモンFgf21)の発現が高レベルであった。

このグループは最近、筋肉から分泌され運動によって増加するペプチドホルモンであるirisinを報告している。Irisinは、皮下白色脂肪組織を「褐色化(browning)」するが、肩甲骨間から採取した古典的な褐色脂肪細胞にはほとんど影響を及ぼさない。このirisinをヒトIgGのFcフラグメントとの融合蛋白(irisin-Fc)、または膜貫通前駆体であるFNDC5として、初代鼠径部前駆細胞として単離したベージュ細胞(CD137高発現細胞)に添加した。Irisin添加により、これらの細胞ではUcp-1および他の褐色様遺伝子(Prdm16Cox8b)の発現が増加した。Irisinは白色脂肪細胞(CD137低発現細胞)にはほとんど影響はなかった。このことから、ベージュ前駆細胞はirisinによる褐色化効果の感受性が特に高いことが分かる。

成人ヒトの褐色脂肪は、マウスの褐色脂肪細胞よりベージュ細胞の分子的特徴を多く持っている
2つの独立したコホートから生検で採取した成人ヒト褐色脂肪組織を用いて、ベージュ細胞または褐色細胞特異的遺伝子の発現レベルを解析した。褐色脂肪組織にも白色脂肪細胞が混入しているものの、Ucp1 mRNA発現レベルは、白色脂肪組織サンプルに比べ、褐色脂肪組織で数倍多かった。ベージュ細胞の特徴的遺伝子であるCD137、TMEM26、TBX1の発現は、ヒト白色脂肪組織に比べ褐色脂肪組織で多かった。重要なことは、古典的なマウス褐色脂肪の特徴的遺伝子であるEBF3、EVA1、FBO31はどちらの組織でも発現に差がなかったということである。成人ヒト褐色脂肪組織には褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞が混合しているため、免疫染色によりUCP1陽性細胞を同定した。すると、鎖骨上部位の褐色脂肪組織におけるUCP1陽性細胞は、ベージュ細胞マーカーであるCD137とTMEM26も陽性であった。一方、近傍の白色脂肪組織(perilipin-1陽性、UCP1陰性)ではCD137の発現は見られなかった。これらの結果から、成人ヒトで同定された褐色脂肪組織は、マウスにおける古典的な褐色脂肪ではなく、ベージュ脂肪により似ていると考えられる。

【結論】
マウス皮下脂肪内に、古典的な白色脂肪細胞とも褐色脂肪細胞とも異なる「ベージュ脂肪細胞」を生じる前駆細胞を同定した。ベージュ細胞は、非刺激下の状態ではUCP1を含む熱産生遺伝子をほとんど発現していないが、刺激後は褐色脂肪細胞と同程度のUCP1を発現する。また、成人ヒトの鎖骨上および頚部の褐色脂肪組織は、、古典的な褐色脂肪細胞というよりもベージュ脂肪細胞に選択的なマーカーを発現していた。なお、運動によって増加するホルモンであるirisinは、マウスのベージュ脂肪細胞を活性化することが示されているため、ヒトでの応用可能性も示唆された。
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by md345797 | 2012-07-18 01:08 | エネルギー代謝

REV-ERBの合成アゴニストによる概日行動と代謝の調節

Regulation of circadian behaviour and metabolism by synthetic REV-ERB agonists.

Solt LA, Wang Y, Banerjee S, Hughes T, Kojetin DJ, Lundasen T, Shin Y, Liu J, Cameron MD, Noel R, Yoo SH, Takahashi JS, Butler AA, Kamenecka TM, Burris TP.

Nature. 2012 Mar 29;485(7396):62-8.

【まとめ】
核内受容体REV-ERB-αとREV-ERB-βは行動と代謝のリズムを調節する時計蛋白の発現を統合する役割を果たしている。この研究では、REV-ERBにin vivoで結合する強力な合成アゴニストを報告する。合成REV-ERBリガンドをマウスに投与すると、概日行動と視床下部の時計遺伝子の発現の概日パターンが変化した。また、肝・骨格筋・脂肪組織における一連の代謝遺伝子発現の概日パターンも変化し、エネルギー消費が増大した。高脂肪食負荷・肥満マウスにREV-ERBアゴニストを投与すると、高脂血症や高血糖が改善され、肥満が減少した。これらの結果から、概日リズムをターゲットとした薬剤である合成REV-ERBリガンドは、代謝疾患の治療に有効である可能性が示された。

【論文内容】
哺乳類では、ほぼすべての組織が概日分子ペースメーカーをもち、視床下部の視交叉上核(SCN)がそれらを統合し、環境の昼/夜サイクルに生理的リズムを合わせるマスター概日ペースメーカーの役目を果たしている。これらの分子時計は、転写因子BMAL1とCLOCKまたはNPAS2がperiod (Per1Per2Per3)とcryptochrome(Cry1Cry2)の転写を活性化し、発現が亢進したPERおよびCRY蛋白はBMAL1-CLOCK活性を阻害する、というフィードバックループからなり、その結果これらの遺伝子がリズミックな概日パターンで発現する。Bmal1Clockは、核内受容体REV-ERBの直接のターゲット遺伝子になっているため、REV-ERB-αが欠損すると概日行動が変わってしまう。REV-ERB-α/βの生理的リガンドはヘム(Heme)であることが分かっているが、このグループはREV-ERB活性を調節する小分子の合成リガンドを同定した。

REV-ERB-α/βの合成アゴニスト
このグループは、合成した2種類のREV-ERB-α/βリガンド(SR9011とSR9009)が、用量依存的にREV-ERB依存性のリプレッサー活性を増加させることをHEK293細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイで確認した。これらの化合物はHepG2細胞で、REV-ERB-α/β依存的にBMAL1 mRNA発現を抑制した。Per2-lucレポーターマウスのSCNの組織片にSR9011を添加すると、概日リズムの振幅が可逆的に減少された。SR9011またはSR9009を様々な濃度で6日間マウスに投与したところ、肝において、REV-ERB反応性遺伝子であるSerpine1(plasminogen activator inhibitor type 1)、Cyp7a1(cholesterol 7α-hydroxylase)、Srebf1(sterol response element binding protein)の各遺伝子の発現が用量依存的に抑制された。

REV-ERB アゴニストは概日行動を調節する
概日運動活性は、マウスを通常の明期/暗期(L/D)で1週間飼育したのち、暗期のみ(D/D)にしたときの運動活性で測定する。D/D条件下に12日おいたマウスにSR9011またはSR9009またはvehicleを単回投与した。Vehicle投与では概日運動活性に変化はなかったのに対し、REV-ERBアゴニストを投与した場合は運動活性が消失した。なお、これらの化合物で毒性は認められなかった。次に、D/D条件下のマウスから単離した視床下部における時計遺伝子発現が、SR9011やSR9009の単回投与によってどのように影響を受けるかを検討した。これらの化合物投与によりPer2発現は増幅され、Cry2発現は抑制された。Bmal1は軽度の影響しか受けなかったが、Npas2発現の振動は消失し、Clock発現もPer2の振動と同様発現が増幅された。

REV-ERB アゴニストはin vivoで代謝を調節する
時計遺伝子を変化させると代謝形質が変わることが示されており、REV-ERBは脂質・糖代謝に関連する遺伝子を直接調節していることも報告されている。正常のマウスにSR9011またはSR9009を長期(12日間)投与すると脂肪量が減少し体重が低下した(なお、摂食量に変化はなかった)。さらにComprehensive laboratory animal monitoring system (CLAMS)を用いて検討したところ、SR9011を1日2回10日間投与したマウスは、酸素消費量が5%増加した。SR9011投与によって夜間摂食量は10%増加、運動量は15%低下したにもかかわらず、代謝亢進によってエネルギー消費は増加し、脂肪量が減少した。SR9011を単回投与したマウスの肝では、Per2の発現パターンが変化したがBmal1Npas2の発現は変化なかった。このようにREV-ERBアゴニストは、中枢(視床下部)と末梢(肝)の時計遺伝子発現に対する効果が異なっていた。

SR9011投与により、脂肪合成遺伝子(Srebf1)、fatty acid synthase (Fasn) 、 stearoyl-CoA-desaturase 1 (Scd1)の発現は大きく変化した(Srebf1Scad1の発現は抑制され、Fasnの発現は時間がシフトした)。コレステロールや胆汁酸代謝酵素の発現も変化し、Srebf2Cyp7a1は減少したが、HMG-CoA reductase (Hmgcr)の発現は変化なかった。PGC-1αおよび1β (Ppargc1aPpargc1b)の発現は強い概日パターンを示していたが、SR9011投与によって抑制された。骨格筋におけるβ酸化の律速酵素(carnitine palmitoyltransferase 1b;Cpt1b)および骨格筋への脂肪酸輸送酵素(fatty acid transport protein 1;Fatp1、別名Slc27a1)はSR9011によって発現が増加した。また、Pppargc1bの発現およびUcp3の発現も増加した。解糖系酵素(hexokinase (Hk1)とpyruvate kinase (Pkm2))の発現は両者とも増加しており、SR9011によるグルコース酸化の増加も認められた。NAD+生合成酵素であるNAMPTはNAD+依存性脱アセチル化酵素であるSIRT1の概日発現を調節していることが分かっているが、SR9011投与によって肝のNampt発現が抑制されており、REV-ERBアゴニストは蛋白翻訳後のアセチル化も変化させている可能性が示された。

脂肪酸酸化や解糖系の酵素発現が増幅されている骨格筋とは対照的に、白色脂肪組織(WAT)では脂肪蓄積に関連する遺伝子発現の抑制が見られた。SR9011投与により、トリグリセリド合成を担う酵素であるdiglyceride acyltransferase 1および2 (Dgat1Dgat2)やmonoacylglycerol acyltransferase (Mgat1)は発現が抑制された。また、perilipin1(Plin1)やホルモン感受性リパーゼ(Hsl、別名Lipe)のような脂肪滴結合蛋白の発現も、SR9011投与によって抑制された。

以上のように、REV-ERBの合成アゴニストの投与により、肝・骨格筋・WATの代謝関連遺伝子の発現が変化した。すなわち、肝では脂肪合成とコレステロール合成が低下、骨格筋では脂肪とグルコースの酸化が増加、WATではトリグリセリド合成と貯蔵が低下した。

REV-ERB アゴニストは肥満マウスの代謝プロファイルを改善する
次に、高脂肪食を14週間負荷した20週齢の肥満C57BL/6マウスにSR9009を1日2回30日間投与した。その結果、SR9009投与によりマウスの体重は、vehicle投与群(1日2回の腹腔内注射のストレスで体重は減少)の60%大きく減少した(なお、摂食量に差はなかった)。また、SR9009投与により血漿トリグリセリドは12%、コレステロールは47%、NEFAは23%、血糖は19%減少した。脂肪の減少に伴い、レプチンが80%、IL-6が72%減少した。SR9009投与により、肥満マウスの肝で脂肪合成酵素(FasnScd1)とコレステロール合成に関する酵素(HmgcrSrebf2)の発現が低下し、WATでトリグリセリド合成が低下した。また、骨格筋で脂肪酸およびグルコース酸化酵素(Cpt1b, Ucp3, Ppargc1b, Pkm2 , Hk1)の発現が増加していた。遺伝的肥満モデルであるob/obマウスにSR9009を12日間投与した場合でも、体重増加が抑制された。

【結論】
REV-ERBα/βアゴニストであるSR9011およびSR9009をマウスに投与すると、エネルギー消費が亢進して脂肪量が減少し、血漿トリグリセリドとコレステロール値が低下した。これらの化合物は、代謝疾患の治療に有用である可能性がある。
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by md345797 | 2012-05-08 17:33 | エネルギー代謝

PPARγ-FGF1軸は、適応のための脂肪組織リモデリングと代謝恒常性の維持に必要である

A PPARγ–FGF1 axis is required for adaptive adipose remodelling and metabolic homeostasis.

Jonker JW, Suh JM, Atkins AR, Ahmadian M, Li P, Whyte J, He M, Juguilon H, Yin Y-Q, Phillips CT, Yu RT, Olefsky JM, Henry RR, Downes M, Evans RM.

Nature. Published online, 22 April 2012.

【まとめ】
脂肪組織のリモデリングは、飢餓と飽食のサイクルという栄養状態の変動に適応して代謝恒常性を維持するために重要な過程だが、そのメカニズムは分かっていない。このグループは、FGF1がこの過程の重要な調節因子であり、FGF1の発現はPPARγによって調節されていることを明らかにした。

FGF1は22種の蛋白を含むFGFファミリーの原型で、発生・創傷治癒・心血管の変化など多くの生理学的過程で重要な役割を果たしているにもかかわらず、FGF1欠損マウスは通常の条件下では明らかな形質を示さない。しかし、このグループは、高脂肪食負荷を行うと脂肪組織におけるFGF1の発現が誘導されこと、Fgf1-/-マウスは強い糖尿病形質を示し、脂肪拡大の異常をきたすことを明らかにした。高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスの脂肪組織では血管ネットワークの異常や、炎症反応の亢進、脂肪細胞サイズの異常、膵リパーゼの異所性発現などが認められた。このマウスで高脂肪食負荷を中止すると、炎症性脂肪組織は広範な脂肪壊死を起こした。また、摂食後の高脂肪食による脂肪組織でのFGF1発現誘導はPPARγによって調節されている(FGF1遺伝子のプロモーターに近いPPAR反応性エレメントに作用することによる)ことが分かった。このFGF1欠損マウスの形質の発見によって PPARγ-FGF1軸が代謝恒常性とインスリン感受性維持に必要であることが明らかになった。

【論文内容】
高脂肪食に反応する遺伝子発現スクリーニングにより、内臓脂肪(精巣脂肪gonadal WAT=gWAT)の脂肪細胞分画で、FGF1発現が選択的に増加することが明らかになった。Fgf1-/-マウスは、過去の報告でもこの研究でも、通常条件下では代謝異常や遺伝子発現の変化は見られなかった。しかし、このマウスに高脂肪食を負荷すると、糖尿病形質(空腹時血糖およびインスリン値の増加、インスリン負荷試験でのインスリン抵抗性亢進、マクロファージの脂肪浸潤のマーカーである血清MCP1濃度の上昇)が認められた。さらに、この高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスは、高インスリン正常血糖クランプにて、グルコース注入率および肝糖産生抑制が低下しており、インスリン抵抗性の亢進が示された。このマウスは野生型と比較して脂肪肝が増強され(=脂肪がWATに貯められず肝にたまってしまう)、gWATへのマクロファージ浸潤の増加(=炎症性変化)が認められた。

高脂肪食負荷したFgf1-/-マウスのgWATでは脂肪細胞のサイズが増加し、蛍光マイクロビーズを腹腔内注射した後の蛍光顕微鏡で血管密度の減少が認められた。さらに、マイクロアレイを用いた転写変化の解析で、PPARγの発現が増加していた。しかも、脂肪壊死関連の膵リパーゼと組織リモデリング因子であるelastase1の発現が大きく増加していた。

これらの異常は、高脂肪食負荷に反応する正常な脂肪リモデリングが障害されていることを示唆する所見である。そこで、高脂肪食負荷後のFgf1-/-および野生型マウスに再び正常食を与えたところ、Fgf1-/-では適応の異常が起こり脂肪組織の断片化および脂肪壊死が見られた。このことから、FGF1は、高脂肪食とその後の正常食という栄養状態の変動に伴う、脂肪組織の拡大と収縮過程に必要であることが分かる。言い換えれば、Fgf1-/-マウスは、食事の変化に反応する内臓脂肪のリモデリングができない。FGF1欠損による脂肪可塑性(adipose plasticity)の欠落は、脂肪肝や全身のインスリン抵抗性につながると考えられる。以上より、FGF1は栄養の変動に反応する脂肪組織リモデリングの調節因子であり、代謝疾患の防止に不可欠であると考えられた。

高脂肪食は血中のPPARリガンドの濃度を増加させる。ルシフェラーゼレポーターアッセイにより、PPARα、PPARγ、PPARδによる活性化によるFGF1A転写誘導の中では、PPARγによるものが最も強力であることがわかった。FGF1A転写産物のプロモーター領域の検討により、転写開始部位から約100bp近位に、高度に保存されたPPAR反応性エレメント(PPRE)を含む部位を同定した。このPPREを変異導入により不活化したところ、PPARγに対する反応は完全に消失した。PPARγによるFGF1調節の機能的保存性を確認するために、いくつかの動物種のPPREsを含むレポーターコンストラクトでヒト・マウスのFGF1Aプロモーターのアッセイを行ったところ、PPARγによるFGF1Aプロモーターの活性化は、4種の動物(ヒト、マウス、ラット、ウマ)のプロモーターで認められた。ChIP実験では、3T3-L1脂肪細胞でPPARγが実際に同定されたPPREに結合することを確かめた。PPARγ-Fgf1aプロモーターとの相互作用はWATの中でも脂肪細胞分画で特異的に起きている。以上より、脂肪細胞のPPARγ-FGF1軸は多くの動物で機能的に保存されていることが示唆された。

さらに、PPARγリガンドであるrosiglitazoneに対するFgf1a転写産物の発現を調べた。Fgf1-/-マウスに経口でrosiglitazoneを投与すると食後の状態でのみgWATのFgf1a転写産物が増加した。なお、脂肪細胞特異的PPARγ欠損マウスでは、脂肪細胞のFGF1量が低下していた。

【結論】
この研究では、栄養状態の変化(=高脂肪食の負荷と中止)が「センサースイッチ」であるPPARγのスイッチをON/OFFし、その「シグナル変換因子」であるFGF1が、栄養状態に適応するための脂肪組織リモデリングを起こす、というメカニズムが明らかになった。FGF1欠損マウスは、食事に応じた脂肪組織のリモデリングが正しく起きず、その結果代謝障害・インスリン抵抗性をきたすことから、FGF1が代謝恒常性に不可欠な役割を果たしていることが分かる。最近は、いくつかのFGFファミリー(FGF15/19、FGF21)が代謝恒常性に関連していることが分かってきている。今回の研究では、FGF1も代謝恒常性に関与し、PPARγ–FGF1軸が脂肪組織に必要なリモデリングと全身のインスリン感受性の亢進を担っていることが示された。
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by md345797 | 2012-04-25 04:48 | エネルギー代謝

心ナトリウム利尿ペプチドは、脂肪細胞でp38MAPKを介して褐色脂肪の熱産生プログラムを促進する

Cardiac natriuretic peptides act via p38 MAPK to induce the brown fat thermogenic program in mouse and human adipocytes.

Bordicchia M, Liu D, Amri EZ, Ailhaud G, Dessì-Fulgheri P, Zhang C, Takahashi N, Sarzani R, Collins S.

J Clin Invest. 2012 Mar 1;122(3):1022-36.

【まとめ】
白色脂肪組織中の褐色脂肪細胞の数と活性を増加させることは、体脂肪蓄積を防ぐために役立っている。β-adrenergic receptors (β-ARs)の活性化がこの「褐色様」脂肪細胞形質への促進を行っている。心臓のナトリウム利尿ペプチド (NPs) とβ-ARアゴニストは同じように強力に脂肪細胞でのlipolysisを刺激することが分かっているため、NPsが脂肪組織において褐色脂肪形質を獲得する(UCP1発現が増加して熱エネルギー消費が増加する)ことを促進するかどうかを検討した。ヒト脂肪細胞において、心房性NP(ANP)と心室性NP(BNP)は、PGC-1αとUCP1の発現を増加させ、ミトコンドリア生合成と呼吸を増加させた。低濃度では、ANPとβ-ARアゴニストは相加的に、p38MAPK依存的に褐色脂肪マーカーを増加させた。低温環境においたマウスは血中のNPsが増加し、褐色脂肪組織(BAT)・白色脂肪組織(WAT)において、NPのsignaling receptorが増加、NP clearance receptor (NPRC)が減少した。NPR-C-/-マウスは、脂肪組織が小さく、Ucp1などの熱産生遺伝子の発現が亢進していた。マウスにBNPを注入すると、WATおよびBATでUcp1とPgc-1αの発現が増加し、呼吸とエネルギー消費の亢進が認められた。以上の結果から、NPsは、白色脂肪の褐色化(browning)を促進し、エネルギー消費を増加させることが明らかになり、心臓は脂肪組織を調節する重要な臓器であることが示された。

【論文内容】
心臓のナトリウム利尿ペプチド(NPs: natriuretic peptides)には心房性(ANP)と心室性(BNP)があり、これらはNP receptor A(NPRA)に結合し、体液や血行動態の恒常性を調節している。もう一つのNP受容体ファミリーであるNPRC(NP clearance receptor)は、ANP・BNPに結合して血中からこれらを除外する役割がある(下流へのシグナル伝達は行わない)。ANPは、交感神経系におけるカテコラミンと同じように、脂肪組織でlipolysisを増加させることが知られている。β-adrenergic receptors (βARs)はcAMPを増加させ、PKAの活性化を介してHSLをリン酸化するが、NPsはcGMPを増加させ、PKG (cGMP-dependent protein kinase)を活性化することによりlipolysisを増加させる。運動によって心拍出量が増加してNPsが放出されると、lipolysisが増加し心筋・骨格筋への脂肪酸の供給が増加する。本研究では、NPsが、カテコラミン/βARs系と並行して、脂肪細胞を「褐色様」形質に変化させるかを検討した。

ANPとlipolysis
まず、野生型マウスとNPRC欠損(NPR-C-/-)マウスのWAT・BATで、ANPによるlipolysisを比較した。NPR-C-/-マウスは野生型に比べ、WAT・BATとも脂肪量が少なく、組織学的にも脂肪滴および脂肪細胞サイズが小さかった。また、このマウスのWAT・BATではUCP1、PGC-1αの発現が増加していた。したがって、NPR-C-/-マウスは(ANPによく反応することにより)褐色脂肪細胞の熱産生プログラムが亢進していると考えられた。

ANPは褐色脂肪細胞形質の獲得を促進する
また、分化させたヒト脂肪細胞(human multipotent adipose-derived stem cells: hMADS cells)にANPを添加したところ、UCP1、PGC-1αおよび褐色脂肪分化に重要な因子であるPRDM16の発現が増加した。また、ANPは、βARアゴニストであるisoproterenol(Iso)やβ3ARアゴニスト(L755)と同じようにUCP1、PGC-1αの発現を増加させた。ここで、PKGの阻害物質(PKGiとする)を投与しておくとANPの作用は阻害された。

次に、ANPがミトコンドリア生合成と呼吸を示すパラメーターを増加させるかを調べたところ、CPT1B、COX10などの発現とミトコンドリアDNAがANP投与で増加し、PKGiで抑制された。また、ANPの投与で、hMADS cellsの酸素消費率が増加した。

βARsおよびANPは、PKA/PKGからp38MAPKに至る並行するシグナル伝達経路を用いている
βARsは、PKAを介してp38MAPKを活性化することで、UCP1、PGC-1α発現を増加させることが分かっている。同様にANPは、hMADS cellsにおいてp38MAPK活性を増加させ、これはPKGiによって阻害された。さらに、SB203850でp38MAPKを阻害すると、ANPによるUCP1・PGC-1αの発現増加も阻害されたため、ANPはPKGからp38MAPKへのシグナル伝達経路を用いて、UCP1発現を起こしていることが分かった。

ANPによるUcp1プロモーターへの転写因子の結合
UCP1遺伝子のエンハンサー領域には、βAR/PKA/p38αMAPKカスケード依存性の領域であるPPREとCRE2という転写因子結合部位が含まれている。ヒト脂肪細胞をANP刺激することにより、p38MAPKが転写調節因子ATF2のリン酸化とCRE2への結合を促進し、それによってPGC1-αが発現誘導され、さらにPGC-1αがPPARγとRXRαのPPREへの結合を促進することによって、最終的にUCP1の発現が誘導される(これは、PKGiおよびSBによって阻害される)ことが示された。

NPsとβARsの相加的な反応により、褐色脂肪細胞様の遺伝子発現パターンが増加する
hMADS cellsに低濃度のANPおよびIsoを添加すると、UCP1、PGC-1αの発現が相加的に促進された。すなわち、ANPによる経路とβARによる経路が、相加的にp38MAPKを活性化することが分かった。

NPsは、in vivoで褐色脂肪の形質とエネルギー消費を増加させる
上記のNPシステムが、βARシグナルと同様に寒冷によって刺激されるかについて検討した。マウスを4℃におくと、血漿BNPおよび心臓でのANP、BNPの発現が増加した。NPシステムは、交感神経系とともに、寒冷環境でのlipolysisと熱産生に関与している可能性がある。最後に、BNPをミニポンプを用いて7日間持続注入すると、酸素消費、エネルギー消費が増加した。また、これにより、脂肪組織での褐色脂肪細胞マーカー(UCP1、PGC-1α)の発現が増加した。すなわち、BNPの注入は、BATの活性化、WATの「褐色化(browning)」を促進することにより、エネルギー消費を増加させることが示された。

【結論】
心ナトリウム利尿ペプチドの脂肪組織に対する作用(脂肪細胞の褐色脂肪様形質への変化を促進する)が分かり、cardiometabolic hormoneとしての役割が明らかになった。

(臨床的には、心不全における病的な体重減少(cardiac cachexia)でNPsが増加していることが知られており、脂肪組織におけるエネルギー消費の亢進が原因として想定される。また本研究の結果からは、NPsが肥満・代謝疾患の治療に利用できる可能性も考えられる。)
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by md345797 | 2012-02-14 23:50 | エネルギー代謝