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カテゴリ:インスリン抵抗性( 34 )

組織に存在するM2様マクロファージの分化にはTrib1が必要である

Critical role of Trib1 in differentiation of tissue-resident M2-like macrophages.

Satoh T, Kidoya H, Naito H, Yamamoto M, Takemura N, Nakagawa K, Yoshioka Y, Morii E, Takakura N, Takeuchi O, Akira S.

Nature. Published online 20 March 2013.


【まとめ】
マクロファージには少なくともM1とM2の2つのサブグループがある。M1マクロファージは炎症性のマクロファージと考えられ、細菌やウイルス感染に対する宿主防御に重要な役割を果たしている。M2マクロファージは抗炎症反応、寄生虫感染、組織リモデリング、線維化、腫瘍の成長に関連があると考えられている。Trib1は、COP1ユビキチンリガーゼと結合することにより、蛋白の分解を担うアダプター蛋白である。ヒトのゲノムワイド関連解析により、TRIB1は脂質代謝に関連があることが分かっている。本研究では、Trib1は組織に存在するF4/80+MR+マクロファージ(M2様マクロファージ)と好酸球の分化に必要であることが明らかになった。Trib1欠損マウスでは、様々な組織(骨髄、脾、肺、脂肪組織)においてM2様マクロファージが著明に減少していた。Trib1が欠損した骨髄細胞ではC/EBPαの発現が異常に増加し、これがマクロファージ分化を抑制する原因となっていた。血球細胞でTrib1を欠損させたマウスは、予想外なことに、脂肪分解が増加して脂肪組織量が減少していた。このマウスにM2様マクロファージを補うとこれらの異常は回復したため、脂肪分解の増加はTrib1欠損によってM2様マクロファージが欠損したことによると考えられた。この血球細胞Trib1欠損マウスに高脂肪食を負荷したところ、炎症性サイトカイン遺伝子の発現増加に伴う高トリグリセリド血症とインスリン抵抗性が認められた。以上の結果より、Trib1は、組織のM2様マクロファージの分化に必要であり、M2様マクロファージの分化を通じて脂肪組織を維持し、代謝疾患を抑制する働きを持つことが明らかになった。

【論文内容】
Tribbleファミリーは、E3ユビキチンリガーゼであるCOP1に結合して蛋白分解を促進する蛋白である。Trib1はIL-12産生に、Trib1とTrib2は急性骨髄性白血病に、Trib3はインスリンシグナル伝達抑制に関与しているという報告がある。しかし、Tribの血球分化への関与はよく分かっていない。そこで、本研究ではまず、tribbleファミリー遺伝子を欠損したマウスにおいて、脾臓に存在するマクロファージ集団の構成について検討した。Trib1-/-マウスの脾細胞では、F4/80+Mac1+マクロファージ(MR、Arg1、Fizz1も発現している)が著明に減少し、Siglec-F+CCR3+好酸球は欠損していた(B細胞、T細胞、樹状細胞、Ly6 C high Mac1+炎症性単球の割合は変化なし。好中球は増加していた)。Trib1-/-マウスの脾臓には、赤脾髄マクロファージ(通常は老化した赤血球を貪食し鉄を蓄積する)が認められず、鉄の蓄積もなかった。また、Trib1-/-マウスでは、組織に存在するマクロファージが著明に減少していた。(なお、Trib2-/-マウスおよびTrib3-/-マウスでは脾臓の骨髄系・リンパ系細胞の欠損は見られなかった。)MR、Arg1、Fizz1の発現はM2マクロファージの特徴であるため、上記の組織マクロファージをM2様マクロファージと呼ぶことにする。以上の結果からは、Trib1は末梢組織に存在するM2様マクロファージと好酸球の分化に必要であると言える。

Trib1-/-マウスの骨髄においても、F4/80+Mac1+細胞とSiglec-F+CCR3+好酸球は著明に減少し、Gr-1 high好中球は軽度増加していた。CD45.1+WT骨髄細胞とCD45.2+ Trib1-/-骨髄細胞を、放射線照射したWTマウスに(1:1の量で競合的に)移植すると、CD45.2+マクロファージと好酸球の発生が著明に障害され、好中球数が増加した。すなわち、Trib1-/-マウスに見られる血球の欠損は血球細胞に内在的なものであり、Trib1は骨髄における骨髄系細胞の正しい分化調節に必要であると考えられた。コロニー形成アッセイを行うと、Trib1-/-骨髄細胞はWT骨髄細胞に比べて、顆粒球・好中球コロニーは多く形成するが、マクロファージコロニーの形成は著明に減少し、好酸球のコロニーは形成しなかった。マクロファージコロニーは、形態学的にaggregated/smallおよびdiffused/largeという2つのサブグループに分類できたが、WTのマクロファージコロニーの多くは前者だったのに対し、Trib1-/-骨髄細胞由来のマクロファージコロニーは後者だった。すなわち、Trib1は骨髄細胞の正しい分化に必要であると考えられた。

Trib1-/-骨髄細胞にレトロウイルスを用いて全長Trib1を発現させると、aggregated/smallマクロファージコロニーと好酸球コロニーが増加し、顆粒球/好中球コロニーが減少した。それに対し、COP1結合部位を欠失させたTrib1 (Trib1(ΔDQIVPE)変異体)をTrib1-/-骨髄細胞に発現させても、コロニー形成異常は回復しなかった。また、Trib1-/-骨髄細胞に全長Trib1を発現させるとM2マクロファージの発現は回復したが、Trib1(ΔDQIVPE)変異体の発現ではM2マクロファージの発現は回復しなかった。

顆粒球発生と単球発生のバランスを調節するのに重要な転写因子はC/EBPファミリーである。Trib1-/-の骨髄細胞およびマクロファージコロニーではC/EBPαの発現が増加していた。さらに、Trib1-/-骨髄細胞に全長Trib1を発現させると、C/EBPα発現が抑制された。そこで、Trib1-/-欠損による骨髄細胞分化異常にC/EBPα発現増加が関与しているかを検討するため、Trib1-/-骨髄細胞のC/EBPα発現をshRNAsを用いて抑制する実験を行った。その結果、Trib1-/-骨髄細胞でC/EBPα発現を抑制するとaggregated/smallマクロファージコロニーと好酸球コロニーの増加、顆粒球/好中球コロニーの減少が起きた。以上の結果から、Trib1はC/EBPα発現をCOP1依存性に変化させて、骨髄細胞分化を調節していることが明らかになった。

最近のゲノムワイド関連解析により、TRIB1に対応する遺伝子座の変異は、血漿リポ蛋白の増加と虚血性心疾患・心筋梗塞のリスク増加に関連していることが示されている。これらのことから、脂肪組織におけるTrib1の役割を検討することにした。Trib1-/-マウスの精巣上脂肪組織の間質血管分画(stromal vascular fraction; SVF)に存在するMR+F4/80+ M2様マクロファージは、WTマウスに比べて著明に減少していた。血球細胞でTrib1を欠損するマウスでも精巣上脂肪組織でのM2様マクロファージは減少し、好酸球は欠損していた。正常の脂肪細胞分画(mature adipocyte Fraction; MAF)にはTrib1はほとんど発現していないので、このM2様マクロファージ減少と好酸球欠損は、血球細胞のTrib1欠損によるものであると言える。(なお、CD11c+Mac1+ M1マクロファージは、正常食負荷下ではWTマウスでもTrib1-/-マウスでも脂肪組織にはほとんど認められていない。)

予想外なことに、血球でTrib1欠損させたマウスは、MRIで観察すると腹部脂肪組織が著明に減少していた。正常食負荷下で、血球細胞でTrib1を欠損させたマウスおよび全身でTrib1を欠損させたマウスは、WTマウスに比べ精巣上脂肪組織と脂肪細胞のサイズが有意に小さかった。すなわち、これらのTrib1欠損マウスは脂肪萎縮形質を示していた。一方で、Trib1-/-マウスでもWT血球細胞を持つ(WT骨髄細胞を移植した)キメラマウスでは脂肪萎縮が起こらなかった。したがって、血球細胞でのTrib1欠損が脂肪萎縮の原因であると考えられた。さらに、Trib1-/-マウスに(WTマウスの脂肪組織から得た)M2様マクロファージを注入すると、3週間後には精巣上脂肪組織と脂肪細胞のサイズが回復した。したがって、Trib1欠損によるM2様マクロファージの消失によって脂肪萎縮形質が起きていると考えられた。

次に、血球でのTrib1欠損によって起こる脂肪萎縮のメカニズムを検討した。脂肪組織は、脂肪合成と脂肪分解のバランスによって維持されている。Trib1-/-骨髄細胞をWTマウスに骨髄移植したキメラマウスは、WT骨髄を移植したWTマウス(コントロール)と比較して、脂肪細胞分化や脂肪合成に関係する遺伝子の発現に差はなかったが、血清NEFAやグリセロール濃度が有意に上昇しており、脂肪分化が亢進している可能性が考えられた。血球細胞でTrib1を欠損させたマウスの精巣上脂肪組織では、IL-10の発現が著明に低下していたが、TnfInosのmRNA発現は増加していた。IL-10は抗炎症作用のほか、脂肪分解を抑制する役割もあるため、M2様マクロファージは一部はIL-10産生を介して脂肪分解を抑制し、脂肪組織を維持していると考えられた(もちろん他の因子の関与も考えられる)。

脂肪萎縮には代謝異常が伴うことが多い。Trib1-/-骨髄細胞をWTマウスに移植したキメラマウスは、高脂肪食を負荷すると空腹時血糖、インスリン、トリグリセリド、コレステロール値が大きく増加し、耐糖能障害およびインスリン抵抗性を示した(ただし体重はWT骨髄細胞をWTに移植したコントロールマウスと差はない)。このキメラマウスはM1マクロファージの数は変化なかったが、脂肪組織のM2様マクロファージの数が著明に減少し、脂肪萎縮(脂肪細胞のサイズが小さい)が認められ、脂肪組織におけるTnfおよびInos mRNAが大きく増加していた。上記の結果から、Trib1-/-骨髄をWTマウスに移植したキメラマウスは、脂肪萎縮があるため、高脂肪食負荷下での脂質のバッファーリングが障害され、代謝疾患が起きていると考えられた。

【結論】
代謝疾患の悪化には、脂肪組織の低レベルの慢性炎症が重要な役割を果たしている。M1マクロファージは肥満の脂肪組織に浸潤し、炎症性サイトカインを産生し低レベルの炎症を引き起こす。本研究によって、M2様マクロファージは、骨髄においてTrib1依存性に分化し、脂肪組織において脂肪分解抑制によって脂肪組織の維持に働き、代謝異常を抑制する作用があることが明らかになった。脂肪組織のM2様マクロファージは、好酸球から産生されるIL-4およびIL-13によって活性化されることが知られているが、このM2様マクロファージがどのように脂肪組織を維持しているかはさらなる検討が必要であろう。ヒトにおけるTRIB1の変異が、組織のM2様マクロファージの分化調節異常を介して代謝疾患を引き起こしている可能性も今後検討が必要である。
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by md345797 | 2013-03-22 07:51 | インスリン抵抗性

骨格筋でオートファジーを欠損させると、mitokineとしてFgf21発現が増加し、インスリン抵抗性が改善する

Autophagy deficiency leads to protection from obesity and insulin resistance by inducing Fgf21 as a mitokine.

Kim KH, Jeong YT, Oh H, Kim SH, Cho JM, Kim Y-N, Kim SS, Kim DH, Hur KY, Kim HK, Ko TH, Han J, Kim HL, Kim J, Back SH, Komatsu M, Chen H, Chan DC, Konishi M, Itoh N, Choi CS, Lee M-S.

Nat Med. 19, 83–92, 1 January 2013.

【まとめ】
糖・脂質代謝におけるオートファジーの役割は年々解明が進んでいるとはいえ、現在も不明な点が多い。本研究では骨格筋特異的Atg7欠損マウスを作製したところ、予想外なことにこれらのマウスは脂肪量が少なく、高脂肪食による肥満やインスリン抵抗性が起きにくかった。この予想外のインスリン感受性亢進は、Fgf21の発現増加に伴う、脂肪酸β酸化の増加と白色脂肪組織(WAT)の褐色化によるものと考えられた。骨格筋でのオートファジー欠損はミトコンドリア機能異常をもたらすが、これがAtf4 (integrated stress responseのマスター調節因子の一つ)の発現亢進を介して、Fgf21の発現を増加させたことが明らかになった。骨格筋培養細胞であるC2C12 myotubeに薬剤(ミトコンドリア呼吸鎖阻害剤)によるミトコンドリア機能異常を起こした場合も、Atf4依存性にFgf21の発現が誘導された。なお、肝でオートファジーを欠損させたマウスでも、高脂肪食に伴う肥満とインスリン抵抗性が改善した。

以上の結果から、骨格筋でのオートファジーの欠損によってミトコンドリア機能異常が起こり、それがFgf21の発現を増加させ、Fgf21の増加によって肥満とインスリン抵抗性が改善されることが示された。Fgf21はミトコンドリアに生じたストレスを伝達するために細胞外に放出される一種の内分泌因子であり、mitokineと呼ぶことができるものである。

【論文内容】
オートファジーは、細胞質において不要となった蛋白をリソソームに運搬して分解し細胞小器官や栄養素のリサイクルに用いる、進化的に保存された過程である。膵β細胞でオートファジーが欠損するとインスリン分泌に障害が起こることからも分かるように、オートファジーは全身の糖代謝に重要な働きをしている。ほかにも、脂肪組織でオートファジーを欠損させると脂肪細胞の分化や過剰脂肪の分解が障害されることが分かっており、オートファジーの欠損はインスリン抵抗性や糖尿病の発症につながると考えられている。

オートファジーはミトコンドリアのターンオーバーも調節しており(この過程はmitophagyと呼ばれる)、そのためオートファジーの欠損はミトコンドリアの構造・機能の異常をもたらす。このミトコンドリア機能異常はインスリン抵抗性と2型糖尿病の発症原因となり、2型糖尿病患者の骨格筋ではミトコンドリアの酸化的リン酸化(mtOxPhos)関連遺伝子の発現が低下していることが報告されている。ただし、2型糖尿病患者高脂肪食負荷マウスの骨格筋においてmtOxPhos活性は正常か上昇しているという相反する報告もある。さらにはAifm1(mitochondrial flavoprotein apoptosis-inducing factor)欠損マウス骨格筋特異的Tfam (mitochondrial transcription factor A)欠損マウスでは、mtOxPhos活性が障害されるが耐糖能・インスリン感受性は亢進するという報告もある。このように、骨格筋のミトコンドリア機能障害がインスリン抵抗性をもたらすのかインスリン感受性をもたらすのかは実はよく分かっていない。

本研究では、骨格筋においてオートファジーの欠損を起こしたマウスを作製し、それにより骨格筋のミトコンドリア機能を障害したところ、予想外にFgf21が発現誘導され、その結果脂質のβ酸化とWATの褐色化が起こって、肥満抵抗性・インスリン感受性亢進がもたらされたことを報告する。本研究においてFgf21は、ミトコンドリアに生じたストレスを細胞外へ伝達するシグナル(2011年に線虫モデルにおいて、「mitokine」という名称で提唱されている)として作用していると考えられた。

Atg7Δsmマウスは骨格筋と脂肪量が減少している
骨格筋特異的にオートファジーが欠損したマウス(Atg7Δsm)を作製し、骨格筋でのLc3-IからLc3-IIへの変換の減少、p62やユビキチン化蛋白の蓄積(いずれもオートファジー欠損を示す)を確認した。Atg7Δsmマウスは、正常食摂食下でコントロールに比べて体重および除脂肪体重が少なく、骨格筋量と筋線維のサイズが有意に小さかった(オートファジー欠損に伴う筋萎縮)。また、このマウスはWATでのオートファジーは正常に保たれているのに、コントロールに比べて脂肪量が少なく脂肪細胞が小さかった。

Atg7Δsmマウスではエネルギー消費が増大している
Atg7Δsmマウスを正常食で飼育し、間質熱量計によりエネルギー消費を測定した。Atg7Δsmマウスはコントロールに比べると、摂食および運動に差はなく、運動以外のエネルギー消費が大きかった。また、このマウスは空腹時血糖とインスリン値が低く、(骨格筋でのオートファジー欠損で予想されたインスリン抵抗性とは逆に)耐糖能亢進とインスリン感受性亢進が認められた

Atg7Δsmマウスは高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性増悪が起きにくい
Atg7Δsmマウスに高脂肪食を負荷しても、コントロールに比べて、体重・脂肪重量の増加が起きにくかった。また、高脂肪食負荷したAtg7Δsmマウスはコントロールに比べ、エネルギー消費が大きかった。また、このマウスは空腹時インスリン値、HOMA-IR、高インスリン正常血糖クランプによりインスリン感受性の亢進が認められた。なお、クランプにおけるインスリン抵抗性の改善は、(骨格筋でオートファジーの欠損があるにもかかわらず)骨格筋での糖取り込みの亢進と肝での糖産生抑制によるものであった。

Atg7Δsmマウスにおける脂質異化とWATの褐色化
高脂肪食負荷したAtg7Δsmマウスのin vivoでのβ酸化は、コントロールに比べ亢進していた([1-14C]オレイン酸を投与した後の14CO2の放出を測定)。さらに、脂肪組織・肝・骨格筋のex vivoでのβ酸化を調べたところ、高脂肪食負荷したAtg7ΔsmマウスのWATのβ酸化率はコントロールマウスに比べて亢進していた。それに対し(骨格筋でオートファジーを欠損させているのにもかかわらず)骨格筋では差がなかった。高脂肪食負荷したAtg7Δsmマウスの肝では、脂質蓄積が大きく低下し、β酸化関連遺伝子(PparaAcadlなど)の発現が増加していたが、肝におけるβ酸化はコントロールと比べ同等だった。なお、この高脂肪食負荷Atg7Δsmマウスは、肝のリンパ浸潤と肝機能障害の程度はコントロールに比べて少なかった。

次にAtg7Δsmマウスの脂肪分解(lipolysis)について検討した。高脂肪食負荷Atg7Δsmマウスの空腹時血清グリセロール能度はコントロールに比べて高く、また血清FFA濃度もやや高く、in vivo脂肪分解が亢進していると考えられた。さらにこのマウスは腎周囲WATとBATで、脂肪分解遺伝子(Ppargc1aなど)の発現が増加していた。以上のβ酸化亢進と脂肪分解の亢進によって、高脂肪食負荷Atg7ΔsmマウスのWATとBATの脂肪細胞のサイズが小さくなっていると考えられた。

それに対し、肝における脂肪合成(lipogenic)遺伝子の発現は、高脂肪食負荷Atg7Δsmマウスで低下していた。また、高脂肪食負荷したAtg7ΔsmマウスのWAT(腎周囲、鼠径部)では、コントロールに比べてUcp1Pgc1αの発現が増加していた(=WATの褐色化)。さらに、BATにおける糖取り込み(BAT活性)も亢進していた。

Atg7ΔsmマウスではFgf21が増加している
Atg7Δsmマウスではエネルギー消費とインスリン感受性が亢進していたが、free T3・adipoQ (adiponectin)・レプチン・カテコラミンの濃度はコントロールマウスと比べて差がなかった。そこで骨格筋由来の代謝活性化因子(myokine)の発現に違いがないか検討すべくマイクロアレイ解析を行ったところ、Atg7Δsmマウスの骨格筋でFgf21遺伝子発現が大きく増加していることが分かった。Atg7Δsmマウスは血清Fgf21濃度も高値であり、Fgf21が一種の内分泌因子として働いていると考えられた。なお、Atg7Δsmマウスの筋肉以外の組織(肝、WAT、BAT)ではFgf21の発現増加は見られなかった。また、2種類のオートファジー欠損(Atg7-nullとTet-off Atg5-null)マウスのMEFs (mouse embryonic fibroblasts)およびAtg7をアデノウイルスでノックダウンした骨格筋培養細胞(C2C12 myotubes)でもFgf21の発現増加が認められ、骨格筋におけるFgf21の発現はオートファジー欠損による細胞内在性(cell-intrinsic)なものであることが示唆された。

なお、高脂肪食負荷Atg7ΔsmマウスにおけるFgf21の増加が肥満防止とインスリン感受性亢進に働いていることを確認するため、Fgf21-/-; Atg7Δsmマウスを作製し高脂肪食負荷したところ、高脂肪食負荷したFgf21+/+; Atg7Δsmマウスに比べて肥満・インスリン抵抗性であった。

オートファジー欠損の骨格筋では、Atf4依存性にFgf21発現が増加する
さらに、Atg7ΔsmマウスにおけるFgf21発現増加のメカニズムを検討した。マイクロアレイ解析により、Atg7Δsmマウスの骨格筋ではAtf4 (integrated stress responseのマスター調節因子)の発現が低下していることが分かり、Atf4の蛋白発現とその上流のEif2αのリン酸化が増加していることも確認された。また、C2C12 myotubuesにアデノウイルスでAtf4を過剰発現させるとFgf21の発現が増加し、さらにFgf21プロモーター内のAtg4-responsive elements (ATF4REs)の欠損および点変異を用いたレポーターアッセイによりATF4REsの重要性が示された。

Atf4によるFgf21発現増加にはmtOxPhosの障害が重要な役割を果たす
次に、オートファジー欠損の状態ではどのようにAtf4が活性化されるのかを検討した。Atg7Δsmマウスの骨格筋では、ミトコンドリアの形態異常(膨張した形)と機能低下(O2消費・cytochrome c oxidase (Cox)活性・ATP含量・mtOxPhos関連遺伝子発現の低下)が認められた。またin vitroの系では、C2C12 myotubesにミトコンドリア機能障害を起こすため、ミトコンドリア呼吸鎖阻害剤であるrotenone (complex I阻害剤)またはantimycin A (complex III阻害剤)を添加したところ、Eif2α-Atf4経路の活性化とFgf21発現の増加が認められた。Fgf21はミトコンドリアに生じたストレスに反応して放出される因子、すなわち「mitokine」である可能性がある。Atf4-siRNAをtransfectしたC2C12 myotubesやAtf4欠損またはEif2a A/A変異を持つMEFsではミトコンドリアストレスによるFgf21発現増加は抑制されていた。逆に、骨格筋特異的mitofusin 1およびmitofusin 2のダブルノックアウトマウス(mitochondrial fusionの欠損によりmtOxPhosが障害されている)では、Fgf21 mRNA発現・Atf4蛋白発現・Eif2αリン酸化が著明に増加していた。

Atg7Δhepマウスおよび栄養欠乏マウスにおけるFgf21の役割
最後に、肝特異的にオートファジーを欠損させたマウス(Atg7Δhepマウス)を作製した。このマウスはAtg7Δsm同様、コントロールに比べて体重と脂肪重量が少なく、耐糖能が亢進していた。また、肝の脂肪蓄積は少なく、脂肪酸・トリグリセリド合成関連の遺伝子発現は低下していた。Atg7Δhepマウスの肝でもミトコンドリア機能(Cox活性とmtOxPhos関連遺伝子発現)が低下しており、それに伴って肝のFgf21 mRNA発現と血清Fgf21濃度は増大きく増加していた。これが、Atg7Δhepマウスの脂肪重量の低下と耐糖能亢進につながっていると考えられる。高脂肪食負荷Atg7Δhepマウスはコントロールに比べ、体重および血糖・インスリン値・HOMA-IRが低値だった。また、高脂肪食負荷Atg7Δhepマウスの肝では、コントロールで見られるような脂肪肝は見られず、脂肪酸・トリグリセリド合成関連遺伝子発現が低下していた。

なお、β細胞特異的Atg7欠損マウスでは、β細胞のFgf21発現や血清Fgf21濃度は増加していなかった。また、leucine欠乏(単なるカロリー制限ではなく栄養欠乏のモデル)マウスでは、肝のミトコンドリア機能異常-Atf4-Fgf21系を介して血清Fgf21濃度が増加し、体重減少とインスリン感受性亢進が起きていることが確認された。

【結論】
本研究では、骨格筋におけるオートファジーの欠損がAtf4活性化を介してFgf21の発現を増加させること、さらに増加したFgf21が一種の内分泌因子としてWATのβ酸化と褐色化をもたらすことにより、高脂肪食に伴う肥満・インスリン抵抗性が防止されることが示された。さらに、オートファジー欠損はミトコンドリア機能異常を起こすことによってFgf21を増加させる、という機構が解明された。したがってFgf21は、線虫モデルで提唱されていた「mitokine」(ミトコンドリアに生じたストレス反応を他の細胞に伝達する細胞外シグナル)の、哺乳類で同定された最初のものと考えられた。(最近、脂肪細胞にmitoNEETを過剰発現させたトランスジェニックマウスでミトコンドリア機能異常と、adiponectin産生増加、インスリン感受性亢進が起きることが報告されている。しかし、このトランスジェニックマウスでは、ミトコンドリア機能異常とadiponectin産生増加の因果関係は不明である。)

本研究のAtg7Δsmマウスにおいて、ミトコンドリア機能異常がインスリン抵抗性改善をもたらすという結果は、従来の「ミトコンドリア機能異常はインスリン抵抗性をもたらす」という考えとは相反するものである。しかし、肝または骨格筋特異的Aifm1欠損マウスではmtOxPhosが障害されるがインスリン感受性は亢進するという報告とは一致している。ミトコンドリア機能異常は、それが起こる部位によっても代謝への影響は異なり、例えばβ細胞特異的Tfam欠損はインスリン分泌低下と耐糖能異常を起こすが、骨格筋でのTfam欠損は耐糖能改善をもたらす。オートファジー欠損も、その起こる部位によって代謝に及ぼす影響は異なっている。β細胞におけるAtg7欠損はインスリン分泌障害により耐糖能異常を起こすが、脂肪細胞特異的または骨格筋特異的(本研究)Atg7欠損はインスリン抵抗性改善をもたらす。さらに、オートファジー欠損の期間によっても代謝への影響は異なるようである。例えば、アデノウイルスを用いたAtg7-shRNAにより肝で急性にオートファジー欠損を起こした場合は耐糖能異常となり、本研究の結果とは異なっている。最近、運動により骨格筋のオートファジーが誘導されるが、Bcl2ノックイン変異を持つマウスでは非運動時のオートファジーは正常に起きているが、運動によるオートファジー誘導が障害されて、高脂肪食によるインスリン抵抗性が運動によって改善しないという結果が報告された。すなわち、オートファジー欠損の様式(非運動時の欠損か運動時の欠損かなど)も代謝改善に影響するようである。

オートファジー欠損はその部位、期間、様式によって代謝に及ぼす役割が異なり、オートファジー欠損とインスリン抵抗性の関係は予想していたよりも複雑なものであることが分かってきた。
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by md345797 | 2012-12-09 05:10 | インスリン抵抗性

脂肪組織のnatural killer T細胞はインスリン抵抗性を防止する

Natural killer T cells in adipose tissue prevent insulin resistance.

Schipper HS, Rakhshandehroo M, van de Graaf SF, Venken K, Koppen A, Stienstra R, Prop S, Meerding J, Hamers N, Besra G, Boon L, Nieuwenhuis EE, Elewaut D, Prakken B, Kersten S, Boes M, Kalkhoven E.

J Clin Invest. 2012 Aug 6. Published online.

【まとめ】
CD1d拘束性invariant natural killer T (iNKT)細胞は、脂質負荷に伴うインスリン抵抗性の発症への関与が想定されているが、最近、高脂肪食負荷時にはiNKT細胞数が減少し、iNKT細胞のインスリン抵抗性への関与は少ないことが報告されている。そこで、本研究では、正常食負荷の状態におけるiNKT細胞の役割について検討した。CD1d欠損マウス(iNKT細胞欠損マウス)は低脂肪食(マウスにとっての正常食)下では、脂肪組織の炎症はないが独特のインスリン抵抗性形質を示した。このインスリン抵抗性は、脂肪細胞の肥大、レプチンの増加、アディポネクチンの低下などの脂肪細胞機能異常を伴っていた。このマウスでは肝に異常を認めないことから、インスリン抵抗性の発症には脂肪組織に存在するiNKT細胞が重要な役割を果たすと考えられた。興味深いことに、iNKT細胞の機能は脂肪細胞によって直接調節され、脂肪細胞はCD1dを介する脂質抗原提示細胞として作用していた。これらの結果から、低脂肪食下では、脂肪組織に存在するiNKT細胞は脂肪細胞との直接の相互作用を介してインスリン抵抗性を防止し、正常な脂肪組織機能を維持することに役立っていると考えられた。

【論文内容】
CD1d拘束性インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞は脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性発症に関与しているという報告があるものの、高脂肪食負荷時のiNKT細胞のインスリン抵抗性への関与の程度は少ないとされている。そこで、本研究では、高脂肪食下ではない正常食の状態での脂肪組織に存在するiNKT細胞の機能について検討することにした。ここでは、CD1d欠損マウス、およびJα18欠損マウス、WTマウスからiNKT細胞を抗体を用いて欠損させたモデル(いずれもiNKT細胞欠損モデル)を用いて、低脂肪食(マウスにとっての正常食)下におけるiNKT細胞の正常な脂肪細胞機能維持およびインスリン抵抗性の防止効果を検討した。

iNKT細胞を欠損または抗体により減少させるとインスリン抵抗性が惹起される
CD1d欠損マウス(iNKT細胞を欠損するマウス)および野生型(WT)C57BL/6マウスに低脂肪食(LFD)または高脂肪食(HFD)を負荷したところ、体重・摂食に差はなかったが、CD1d欠損マウスでは(特にLFDで)耐糖能が悪化した。同様に、Jα18欠損マウス(type 1 iNKT細胞が選択的に欠損したマウス)や 抗NK1.1抗体投与によるiNKT細胞減少マウスでも、LFD負荷後の耐糖能が悪化した。これとは逆に、CD1d拘束性iNKT細胞の活性化リガンドであるα-galactosyl ceramide (αGalCer)を注入したマウスでは、in vivoでiNKT細胞が活性化されると考えられたが、このマウスでは耐糖能は改善しなかった(これはWTマウスではもともとLFDで十分にインスリン感受性になっていたため、さらには改善しなかったと考えられる)。以上より、CD1d拘束性iNKT細胞は、特にLFD負荷マウスではインスリン抵抗性を防止する役割を果たしていると考えられた。

iNKT細胞は肝にも脂肪組織にも存在するが、LFD負荷CD1d欠損マウスの肝は、組織像、脂肪含量、肝機能酵素(AST、ALT)、肝の炎症マーカー(lipocalin-2、serum amyloid A)が、WTマウスと比較して差がなかったため、脂肪組織に存在するiNKT細胞に注目することにした。

脂肪組織に存在するiNKT細胞は抗炎症形質をもち、HFD負荷により減少する
脂肪組織に存在するiNKT細胞は、内臓脂肪組織T細胞の5-10%を占め、脾由来のiNKT細胞に比べ、多くがCD4-CD8-で、NK1.1の発現が減少しているという特徴がある。脂肪組織に存在するiNKT細胞は、脾由来iNKT細胞に比べると、細胞内IL-4、IL-13が多く、IFN-γが少ないという、抗炎症形質を示す。CD1d欠損マウスでは脂肪組織のIl4Il13 mRNA発現が減少していたため、脂肪組織のこれらのサイトカインレベルの維持にはiNKT細胞が重要な役割を果たしていると考えられた。また、HFD負荷WTマウスは、LFD負荷マウスに比べると、内臓脂肪と皮下脂肪のiNKT細胞の数と活性が低下していた。

CD1d欠損マウスは脂肪組織Treg数が増加し、インスリン抵抗性の増悪を防止している
HFD負荷したWTマウスでは、脂肪組織へのCD8+T細胞の浸潤およびM1形質マクロファージの浸潤がインスリン抵抗性発症に重要と考えられている。しかし、同様にインスリン抵抗性を示すLFD負荷CD1d欠損マウスでは、このような脂肪組織CD8+T細胞浸潤、マクロファージ浸潤、M1形質への分極化は見られなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスではCD4+CD25+T細胞数の増加が見られ、この細胞はFoxp3を高発現していた。すなわち、iNKT細胞の欠損状態では、インスリン抵抗性防止に役立つと考えられているTreg (regulatory T細胞)の増加が認められた。そこで、LFD負荷CD1d欠損マウスにおいて、抗CD25抗体を用いてTregを減少させたところ、耐糖能・インスリン抵抗性はさらに悪化した。したがって、LFD負荷CD1d欠損マウスでは、よく知られたHFD負荷に伴う脂肪組織へのCD8+T細胞やマクロファージの浸潤ではなく、脂肪組織Treg数の増加が認められた。このTregの増加は、LFD負荷CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性のさらなる悪化を防止する働きがあると考えられる。

CD1d拘束性 iNKT細胞がないと脂肪細胞の機能不全が生じる
LFD負荷CD1d欠損マウスの脂肪組織のマイクロアレイ解析によると、このインスリン抵抗性マウスの脂肪組織の遺伝子発現は、HFD負荷インスリン抵抗性マウスのパターンとは異なっていた。HFDで増加する古典的な炎症性マーカー(Tnfa、F4/80、Cd11c、Ccl2、Saa3、Adam8)は、LFD負荷CD1d欠損マウスでWTマウスと比べて増加していなかった。LFD負荷CD1d欠損マウスはWTマウスに比べ脂肪細胞の肥大が見られたが、精巣上脂肪重量や総脂肪量に差はなかった。また、脂肪合成(Scd1、Fas)、脂肪滴形成(perilipin1=Lipin1、Pparg) 、熱産生(Ucp1、Ppara)に関連する遺伝子も増加はなかった。しかし、LFD負荷CD1d欠損マウスではadiponectinの低下とleptinの増加が見られ、adipokine分泌において脂肪細胞の機能低下があることが示唆された。

ヒト脂肪組織にはCCR2+iNKT細胞が豊富である
健康なヒトドナー6名より採取した腹部皮下脂肪組織と血液でiNKT細胞数を測定したところ、血中に比べ腹部皮下脂肪組織ではiNKT細胞が約10倍多かった。血液と腹部脂肪組織のiNKT細胞のケモカイン受容体の発現を検討したところ、血中に比べ腹部脂肪組織のiNKT細胞ではCCR2(脂肪細胞が分泌するMCP-1の受容体)、CXCR2、CXCR6の発現が多かった。このことから、脂肪組織へのiNKT細胞の浸潤にはMCP-1/CCR2および、CXCR2、CXCR6を介する走化性が関与していると考えられた。

ヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、iNKT細胞機能を調節する
脂肪細胞はCD1d抗原リガンドとなる脂質を含んでいる。そこで、脂肪細胞が脂質抗原を提示することにより、直接iNKT細胞機能を調節している可能性について検討した。まず、培養細胞系であるヒトSGBS preadipocyte(未分化の状態)では、抗原提示に必要な因子(pro-saponin、NPC2、α-galactosidase)とCD1Dの発現が少ないが、分化したSGBS adipocyteとヒト初代脂肪細胞ではこれらの発現が増加していることを確認した。このことから、脂肪細胞がiNKT細胞の脂質抗原提示細胞として機能している可能性を考えた。そこで、5名の健常者の血液からiNKT細胞株を作製し、脂質抗原であるαGalCerを加え、ヒト脂肪細胞株と共培養した。その結果、iNKT細胞の細胞内および上清中のIL-4、IL-13、IFN-γが増加し、これらは脂肪細胞のCD1dノックダウンにより減少した。以上より分化したヒト脂肪細胞はCD1dを発現し、脂質抗原提示細胞としてiNKT細胞の機能を調節していると考えられた。

【結論】
マウスの正常食負荷(ここではLFD)の状態では、CD1d拘束性iNKT細胞は、脂肪細胞機能異常を防止し、インスリン抵抗性の発症を抑制することが示された。また、脂肪細胞に発現するCD1dが脂肪組織に豊富に存在する脂質抗原を提示することによりiNKT細胞の機能を調節するという、ユニークな調節機構があることも分かった。CD1d欠損マウスのインスリン抵抗性は、脂肪組織のTregを減少させることによりさらに悪化したため、iNKT細胞はTregと協調してインスリン抵抗性を防止していると考えられた。本研究のLFD条件下でiNKT細胞により産生されるIL-4、IL-13はインスリン抵抗性を抑制すると考えられる。(iNKT細胞から産生されるIFN-γはインスリン抵抗性を増悪させることが知られているが、これはHFD負荷でのiNKT細胞によるインスリン抵抗性増悪に関連しているのかもしれない。HFD条件下でのiNKT細胞の役割は種々の報告があるものの不明。) 脂肪組織に存在するiNKT細胞のインスリン抵抗性防止効果は、食餌の構成や期間によって異なり、今回の検討では長期のLFD負荷によって最も著明に認められた。
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by md345797 | 2012-08-16 00:56 | インスリン抵抗性

好中球はエラスターゼ分泌を介して高脂肪食によるインスリン抵抗性を調節している

Neutrophils mediate insulin resistance in mice fed a high-fat diet through secreted elastase.

Talukdar S, Oh DY, Bandyopadhyay G, Li D, Xu J, McNelis J, Lu M, Li P, Yan Q, Zhu Y, Ofrecio J, Lin M, Brenner MB, Olefsky JM.

Nat Med. 18, 1407–1412, 2012.

【まとめ】
脂肪組織と肝臓における慢性的な低レベルの炎症は、肥満・2型糖尿病に存在するインスリン抵抗性の主要な原因であるが、そこにはさまざまな免疫細胞(マクロファージT細胞B細胞肥満細胞好酸球)が関わっている。好中球は、炎症に反応する最初の典型的な免疫細胞であり、マクロファージを誘導したり、抗原提示細胞と相互作用したりすることにより慢性炎症を悪化させる。好中球はいくつかのプロテアーゼを分泌して炎症反応を促進するが、その一つは好中球エラスターゼ(neutrophil elastase)である。この研究では、肝細胞に好中球エラスターゼを添加すると細胞のインスリン抵抗性を惹起すること、好中球エラスターゼを欠損させたマウスに高脂肪食を負荷しても脂肪組織の好中球やマクロファージ量が増えず、組織の炎症が少なく、インスリン抵抗性が起こりにくいことなどを示した。これらの結果より、好中球も、炎症に伴う代謝疾患に関与する免疫細胞の一つであることが分かった。

【論文内容】
マウスに高脂肪食を負荷すると、脂肪組織に好中球の浸潤が見られる。この脂肪組織好中球(adipose tissue neutrophils; ATNs)は、ケモカイン・サイトカインを放出してマクロファージ浸潤を促進し、慢性炎症を惹起している。好中球由来の好中球エラスターゼなどのセリンプロテアーゼは無菌的な炎症に重要な役割を果たしていることも知られている。

高脂肪食負荷に伴う脂肪組織好中球浸潤・インスリン抵抗性と、好中球エラスターゼの関連
C57BL/6Jマウスに高脂肪食を負荷後、脂肪組織好中球(ATNs=脂肪組織間質血管細胞(SVCs)のうち、FACSを用いて好中球マーカーLy6g、Cd11bが陽性、マクロファージマーカーF4/80、Cd11cが陰性の細胞)の増加のtime courseを調べた。その結果、高脂肪食負荷3日後で急速なATNの増加が認められ、負荷90日まで持続することが分かった。免疫組織化学による検討で、高脂肪食負荷によって、白色脂肪組織(WAT)にLys6g+Cd11b+細胞が増加した。FACS解析でも、高脂肪食12週負荷後のSVCs中のLys6g+Cd11b+ F4/80-Cd11c-細胞の数は20倍に増加していた。好中球エラスターゼの発現と活性も、高脂肪食負荷3日後には増加し、負荷12週まで高値だった。高脂肪食負荷しても、好中球エラスターゼ阻害剤GW311616Aを14日間連日投与したマウスでは、耐糖能障害が改善した。逆に、recombinantのマウス好中球エラスターゼを7日間投与した正常食負荷マウスは、著明な耐糖能異常をきたした。

NEKOマウスにおけるインスリン感受性の亢進
次に、好中球エラスターゼ欠損(NEKO)マウスに高脂肪食を負荷したところ、野生型(WT)マウスに比べGTTで耐糖能が良好でITTでインスリン感受性だった。また、NEKOマウスはWTに比べ、高脂肪食負荷後のATN量が90%程度低値であった。GW311616Aを投与したWTマウスに高脂肪食を負荷した場合は、ATN量は大きく低下した。したがって、遺伝的にまたは薬物により好中球エラスターゼ機能を消失させると、ATNsの低下に伴い、耐糖能が改善すると考えられる。

さらに、これらのマウスのインスリン感受性を、高インスリン正常血糖クランプを用いて検討した。NEKOマウスはWTマウスに比べ、正常血糖を維持するためのグルコース注入率が増加しており、クランプ中の肝糖産生が低下していた。またNEKOマウスでは、インスリンによる遊離脂肪酸(FFA)の抑制が大きかった。すなわち、好中球エラスターゼ欠損により、肝および脂肪組織におけるインスリン感受性が亢進していると考えられた。

次にNEKOマウスとWTマウスで、インスリン注入による肝と精巣上脂肪組織(eWAT)における急性効果を調べた。その結果どちらの組織でも、NEKOマウスにおいてインスリン刺激によるAktリン酸化が亢進していた。

高脂肪食による肝への好中球浸潤とIrs1 degradationによるインスリンシグナル伝達の障害
高脂肪食負荷したWTマウスの肝では、正常食投与したマウスに比べ、好中球数が増加していたが、高脂肪食負荷したNEKOマウスでは差はなかった。肝の好中球エラスターゼ活性も、高脂肪食負荷したWTマウスでは、正常食投与に比べ増加していた。細胞外の好中球エラスターゼは細胞内に移行して、Irs1のdegradationを起こすことが知られている。NEKOマウスの肝および脂肪組織のIrs1は、WTマウスに比べて増加していた。好中球エラスターゼを2時間ごとにC57BL/6Jマウスに投与すると、肝およびeWATのIrs1量とインスリンによるAktのリン酸化は低下した。NEKOマウスの肝と脂肪組織のIrs1発現量は、WTマウスに比べ増加していた。

次に、マウスとヒトの初代肝細胞に好中球エラスターゼを直接添加したところ、どちらの細胞でもIrs1蛋白量の減少、インスリンによるAktリン酸化低下が認められた。さらに、マウス初代肝細胞のグルカゴン添加による糖産生とインスリンによるその抑制を調べたところ、好中球エラスターゼを添加するとベースの糖産生が50%増加し、インスリンによるグルカゴン応答性肝糖産生の抑制が効かなくなった。好中球エラスターゼは初代肝細胞において、Irs1 degradationを介して細胞内インスリンシグナル伝達を抑制し、糖産生抑制を抑えると考えられた。なお、3T3-L1脂肪細胞に好中球エラスターゼを添加しても、同様のIrs1 degradationとインスリンによるAktリン酸化低下が認められた。

NEKOマウスでは炎症のトーンが低下している
好中球エラスターゼは、Toll-like receptor 4(Tlr4)を活性化することにより炎症を増加させると考えられているため、WTとTlr4欠損(Tlr4KO)マウスの腹腔内マクロファージをLPSおよび好中球エラスターゼで刺激した。LPS刺激により、WTのマクロファージでTnfa、Il1b、Cxcl1、Il6のmRNAが増加したが、Tlr4KOのマクロファージでは増加しなかった。好中球エラスターゼによる刺激の結果も同様であり、好中球エラスターゼの作用がTlr4依存性であることが確認された。NEKOマウスの肝ではWTに比べて、炎症性マーカー(Tnfa、Emr1(F4/80)、Cxcl1、Il1r1、Il1b、CCl2(Mcp1))の発現が低下、抗炎症マーカー(Arginase)の発現が増加し、IκBのdegradationも少なかった。脂肪組織でも同様で、NEKOマウスではWTに比べて炎症性マーカー(Il1b、Tnfa、Cxcl1、Cd68、Irf4、Irf5)の発現が低下し、抗炎症マーカー(Arg、Clec10a(Mgl1)、Il4)の発現が増加、IκBのdegradationが低下していた。NEKOマウスの脂肪組織の中では、脂肪組織マクロファージ(ATM)のうち、M1様細胞(Cd11c+)の数が低下、M2様細胞(Cd11b+Cd11c-)の数が増加していた。好中球から分泌されたエラスターゼが、マクロファージの分極化(polarization)を変化させていると考えられた。NEKOマウスでは肝と脂肪組織の炎症のトーンの低下に伴い、血清中のIl-1β、Tnf-α、Mcp-1、Il-6、GM-CSF、Ccl3、Ccl4、resistin濃度が低値であった。なお、NEKOマウスから単離したeWATをex vivoでインスリン刺激したところ、2-deoxyglucose取り込みが増加しており、インスリン感受性が亢進していることが示された。

【結論】
高脂肪食負荷に伴うインスリン抵抗性において、肝および脂肪組織に浸潤する好中球とそこから分泌されるエラスターゼは、炎症の発症に重要な役割を果たしている。好中球エラスターゼはTlr4経路を活性化し、免疫細胞や脂肪細胞からのサイトカイン産生を変化させ、さらなる炎症の増幅を促進していると考えられる。好中球エラスターゼ阻害は、高脂肪食に伴うインスリン抵抗性の治療手段となりうるだろう。
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by md345797 | 2012-08-06 23:49 | インスリン抵抗性

FGF21は、PPARγ活性とTZDの抗糖尿病作用を調節している

Fibroblast Growth Factor-21 Regulates PPARγ Activity and the Antidiabetic Actions of Thiazolidinediones.

Dutchak PA, Katafuchi T, Bookout AL, Choi JH, Yu RT, Mangelsdorf DJ, Kliewer SA.

Cell. 2012 Feb 3;148(3):556-67.

【まとめ】
FGF21は血液中を循環するhepatokineであり、炭水化物や脂質の代謝に好影響を与えると考えられている。今回この研究では、FGF21は脂肪組織のautocrine factorであり、PPARγ活性をフィードフォワード的に調節することを示す。FGF21ノックアウト(KO)マウスは、体重減少、PPARγ依存性遺伝子発現の低下などのPPARγシグナル伝達の障害を示す。さらに、FGF21-KOマウスでは、rosiglitazoneのインスリン感受性亢進作用と副作用が起こりにくい。このFGF-KOマウスの機能消失は、PPARγのsumoylationによる転写活性の減弱を伴っていた。このマウスにFGF21を投与すると、PPARγのsumoylationが阻害され、PPARγ活性が回復した。以上より、FGF21は生理的、薬理的にPPARγ活性を調節する重要な因子であることが示された。

【論文内容】
PPARγ活性は、転写後のSUMO化(sumoylation)によって調節を受ける。PPARγ2のK107のsumoylationは、corepressorの結合を促進することにより、PPARγの転写活性を抑制すると考えられている。

FGF21は摂食によりWATでの発現が誘導される
野生型(WT)マウスにrosiglitazoneを投与すると、白色脂肪組織(WAT)でFGF21の発現が誘導される。肝では、PPARαアゴニスト(GW7647)投与によって発現が誘導され、血中のFGF21濃度が増加したが、rosiglitazoneでは血中濃度は増加しなかった。単離した脂肪細胞では、rosiglitazoneによってFGF21の発現が増加する(GW7647では増加しない)ため、FGF21はWATでautocrine/paracrine様に局所で作用していると考えられた。また、マウスにおいて、摂食によりWATでのFGF21発現が増加したが、血中濃度は増加しなかった。

FGF21-KOマウスは中等度の脂肪萎縮を示す
FGF21-KOマウスは、WTマウスと比べて脂肪量が低下していたが、摂食や総体重は差がなかった。両マウスで精巣上WATのDNA量は差がなく、この脂肪量減少は脂肪細胞数の減少ではなく、脂肪細胞の小型化によるものと考えられた。

FGF21は脂肪細胞分化を促進する
WTマウスとFGF21-KOマウスの脂肪前駆細胞の分化の違いをin vitroで比較した。その結果、FGF21-KOマウスでは、Pparg mRNAの誘導が遅れており、これはrecombinant FGF21の添加により回復した。各種lipogenic geneの発現と脂肪蓄積もFGF21-KOマウスで低下し、FGF21投与で回復した。

FGF21はPPARγの転写活性を刺激する
上記のように、FGF21-KOマウスの脂肪前駆細胞では分化と脂肪蓄積が障害されていたため、FGF21がPPARγの活性化を調節するのではないかと考えられた。WT脂肪細胞にrosiglitazoneを添加すると、lipogenic gene発現と脂肪蓄積が増加したが、FGF21-KO脂肪細胞ではそれらは減弱していた。これはFGF21の添加により回復した。WTおよびFGF21-KO脂肪細胞で、PPARγの総蛋白量に差はなかったが、sumoylated PPARγ(SUMO1抗体で免疫沈降されたPPARγ)はFGF21-KO脂肪細胞で大きく増加しており、これはFGF21添加により正常化した。以上のin vitroのデータと同様、FGF21-KOマウスのWATでのin vivoでのPPARγ sumoylationも増加しており、PPARγターゲット遺伝子の発現は低下していた。すなわち、FGF21はPPARγのsumoylationを抑制することにより、その転写活性を増加させていることが明らかになった。

PPARγは、K107およびK395がsumoylationを受けるため、両部位の変異体を作りlentivirusでFGF21-KO脂肪細胞に導入した。その結果、K395ではなく、K107のsumoylationがPPARγの活性を阻害することが分かった。次にPPARγ-K107Rを導入した(PPARγがsumoylationされない)FGF21-KO脂肪前駆細胞は、コントロールのFGF21-KO細胞と違って、脂肪細胞への分化が障害されないことを示した。

FGF21-KOマウスはrosiglitazoneに不応性である
次に、高脂肪食負荷WTおよびFGF21-KOマウスにrosiglitazoneを投与した。RosiglitazoneはWTのWATでのFGF21発現を増加させたが、肝での発現は逆に低下させ、血中FGF21は減少した。このことからも、WATで産生されるFGF21はホルモンではなくautocrine/paracrine的に作用していると考えられる。WTマウスはrosiglitazone投与によりGTT、ITTでのグルコース変動が改善したが、FGF21-KOマウスでは改善しなかった。さらに、rosiglitazoneの副作用である脂肪増加と体液貯留も、WTでは見られたが、FGF21-KOでは認められなかった。したがって、FGF21はrosiglitazoneのインスリン感受性亢進作用と副作用発現に必要であることが分かった。

高脂肪食負荷においても、FGF21-KOマウスはWTに比べてWATのsumoylated PPARγが増加していた。また、マイクロアレイ解析では、WTマウスでrosiglitazoneで増加・減少している遺伝子のクラスターが、FGF21-KOでは認められなかった。FGF21-KOでのrosiglitazone反応性の消失は、PPARγのターゲット遺伝子でも認められ、特にrosiglitazoneによるTnfa発現の低下がFGF21-KOでは認められず、rosiglitazoneによる血中adiponectin増加がFGF21-KOでは減弱していた。

【結論】
WATにおいて、rosiglitazone刺激によるPPARγ活性化はFGF21の発現を増加させ、これがautocrine/paracrine的にWATに作用してPPARγのsumoylationを阻害して、さらにPPARγ活性化をもたらす、というフィードフォワード機構が存在すると考えられた。さらに、rosiglitazoneによるインスリン感受性亢進作用と副作用発現に、FGF21が必要であることが示された。

FGF21には、肝で産生されホルモンとして分泌されて絶食中の適応反応を調節する「全身作用」と、WATで産生されてautocrine/paracrine的にWATに作用して摂食後のPPARγ活性を増加させる「局所作用」があると考えられた。
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by md345797 | 2012-02-10 07:08 | インスリン抵抗性

運動による糖代謝の改善には、BCL2により調節されるオートファジーの誘導が必要である

Exercise-induced BCL2-regulated autophagy is required for muscle glucose homeostasis

He C, Bassik MC, Moresi V, Sun K, Wei Y, Zou Z, An Z, Loh J, Fisher J, Sun Q, Korsmeyer S, Packer M, May HI, Hill JA, Virgin HW, Gilpin C, Xiao G, Bassel-Duby R, Scherer PE, Levine B.

Nature. 2012 Jan 18;481(7382):511-5.

【まとめ】
運動の代謝疾患に対する効果の分子機構はまだ十分に分かっていない。リソソームによる分解経路であるオートファジーは、細胞内小器官や蛋白の品質管理を行う細胞内のリサイクリングシステムである。オートファジーは、癌、神経変性疾患、感染、炎症性疾患、加齢、インスリン抵抗性などの疾患の抑制に役立っている。この研究では、急性の運動が、マウスの骨格筋および心筋にオートファジーを誘導することを示した。この運動によるオートファジーの役割を検討するため、非刺激時(basal)のオートファジーは正常に起きるが、刺激(in vivoにおける運動やin vitroにおける培養細胞のstarvation)によるオートファジーが起きない変異マウス(BCL2AAAマウス)を作製した。このマウスは、BCL2のリン酸化部位に変異(Thr69Ala、Ser70Ala、Ser84Ala)をノックインしたもので、刺激によるBCL2-beclin-1複合体の形成およびオートファジーの誘導が阻害されている。BCL2AAAマウスは、急性運動に対する耐性が低下し、グルコース代謝改善効果が障害されていた。また、高脂肪食負荷に伴う耐糖能の異常に対する、慢性運動による予防効果も障害されていた。本研究では、運動によってオートファジーが誘導されること、BCL2は運動によるオートファジーの主要な調節因子であることが示された。オートファジーの誘導は、運動の代謝疾患に対する有益な効果に重要な役割を果たしていることが示唆される。

【論文内容】
運動によってオートファジーが誘導されるかを検討するため、GFPでラベルしたオートファーゴソームのマーカー(GFP-L3)を発現するトランスジェニックマウスにトレッドミル運動させた後に組織を検討した。骨格筋と心筋の両方で、走行運動30分後にオートファーゴソーム(GFP-LC puncta)の数が増加し、80分でピークに達した。
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また、運動により、non-lipidated formのLC3、LC3-Iが、オートファーゴソーム膜結合型のlipidated formLC3-IIに変換され、オートファジー基質蛋白p62の分解が認められた。さらに、運動によるオートファジーの誘導は、肝、脂肪組織、膵β細胞でも認められ、運動はin vivoでオートファジーを誘導する刺激であることが新たに分かった。

抗オートファジー蛋白BCL2は、小胞体においてオートファジー蛋白beclin 1に結合することでオートファジーを阻害する。刺激によるオートファジーの誘導には、BCL2–beclin-1複合体形成が阻害されることが必要である。マウス筋肉においてBCL2とbeclin 1の結合解離を検討したところ、15分の運動でこの結合が少なくなり、30分でほとんど検出されなくなった。

次に、刺激によるオートファジーの誘導が起こらない変異マウスを作製した。BCL2の3つの部位(マウスのThr 69、Ser 70、Ser 84)のリン酸化が刺激によるオートファジー誘導に必要であることがin vitroで知られている。そこで、これらのリン酸化部位をAlaに置換したBCL2 AAAノックインマウスを作製した。BCL2AAAマウス由来のMEFs(マウス胎児線維芽細胞)は、刺激(starvation)によるBCL2のリン酸化およびbeclin1との解離が起こらず、オートファジーが誘導されなかった。

ここで、コントロールのGFP-LC3野生型マウスとGFP-LC3 BCL2AAAマウスをそれぞれ80分または最大運動容量の75%の運動をさせたところ、BCL2 AAAマウスの骨格筋と心筋で運動によるオートファジーの誘導が障害されている(GFP–LC3 punctaの数の低下)のが認められた。BCL2AAAマウスの筋肉では、運動によるLC3-IIへの転換とp62分解が低下し、BCL2-beclin-1複合体の解離が障害している。以上より、リン酸化されないBCL2では非刺激時(basal)のオートファジーは変化がないが、starvationや運動によるオートファジーの活性化が障害されることが分かった。

運動によるオートファジーが欠損したBCL2AAAマウスは、最大運動容量が少なかった。ただし、筋肉の形態学、グリコゲン・ミトコンドリア量などの検討では野生型と差は見られなかった。BCL2AAAマウスは、運動によるインスリン感受性亢進が障害され(血糖、インスリンの低下が少ない)、骨格筋でのGLUT4の膜への局在とグルコース取り込みも低下していた。さらに、BCL2AAAマウスでは、骨格筋におけるAMPK Thr 172のリン酸化(すなわち活性)が低下していた。

これらの運動耐性とグルコース代謝の低下が、オートファジーの欠損によるものであることを示すために、オートファジー蛋白beclin 1が減少しているBecn1+/-マウスを用いて検討を進めた。Becn1+/-マウスは、BCL2AAAマウスと同様、運動による骨格筋でのオートファジーが障害され、運動耐性も低下しており、運動によるGLUT4の膜への局在・グルコース取り込み・AMPK活性化が減少している。いずれのマウスでも、オートファジー機能が運動による正常なAMPKの活性化に必要であることを示している。

次に、運動によるオートファジーの誘導は、長期運動による有益な代謝効果に必要かどうかを高脂肪食負荷マウスを用いて検討した。野生型およびBCL2AAAマウスに4週間高脂肪食を負荷し、さらに8週間高脂肪食に追加して毎日50分のトレッドミル運動を行った。どちらのマウスも高脂肪食により耐糖能が悪化したが、野生型マウスに比べBCL2AAAマウスは運動による耐糖能の改善が認められなかった。

【結論】
以上の結果から、運動には強力なオートファジー誘導作用があり、急性および慢性の運動による糖代謝の改善はオートファジー誘導を介すると考えられた。また、オートファジー抑制蛋白BCL2とオートファジー蛋白beclin 1との解離が阻害されることにより、運動による有益な効果が障害された。BCL2のオートファジー抑制効果を阻害する方法があれば、運動の効果を模倣することができ、代謝異常を予防・治療できるかもしれない。さらに、運動とオートファジーと代謝改善の結びつきが明らかになったことで、運動が寿命延長や癌・心血管障害・炎症性疾患の予防に重要であることの細胞メカニズムの解明が期待される。
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by md345797 | 2012-01-18 02:06 | インスリン抵抗性

白色脂肪からの褐色脂肪様発生と熱産生を促進する、PGC1-α依存性のmyokine

A PGC1-α-dependent myokine that drives brown-fat-like development of white fat and thermogenesis.

Boström P, Wu J, Jedrychowski MP, Korde A, Ye L, Lo JC, Rasbach KA, Boström EA, Choi JH, Long JZ, Kajimura S, Zingaretti MC, Vind BF, Tu H, Cinti S, Højlund K, Gygi SP, Spiegelman BM.

Nature. 2012 Jan 11;481(7382):463-8.

【まとめ】
筋肉における運動の効果は、転写co-activatorであるPPAR-γ co-activator-1 α (PGC1-α)が担っていることがよく知られている。このグループは、マウスにおいて、 PGC1-αの筋肉での過剰発現が、膜蛋白FNDC5の発現を増加させ、それが切断されて新規同定ホルモンであるirisinが分泌されることを明らかにした。Irisinは培養白色脂肪細胞およびin vivoにおいてUCP1の発現を促進し、褐色脂肪様の発生プログラムを刺激する。Irisinは、マウスおよびヒトにおいて運動によって誘導され 血中irisinが増加するとエネルギー消費が増加する。これにより、肥満と糖代謝が改善される。Irisinは運動で改善されるメタボリックシンドロームや他の疾患の治療に役立つ可能性がある。

【論文内容】
PGC1-αは、運動によって骨格筋で誘導され、ミトコンドリア生合成を起こすなどの作用を発揮する。PGC1-αトランスジェニックマウスは肥満や糖尿病になりにくく、寿命が延長する。そのため、PGC1-αにより筋肉で何らかの因子が分泌され、他の臓器に作用することが予想されていた。

筋肉特異的PGC1-αトランスジェニックマウス
筋肉特異的なPGC1-αトランスジェニックマウスでは、白色脂肪組織が「褐色化」(browning)している(=UCP-1を発現する脂肪細胞が見られる)。3週間のwheel running運動をさせたマウス、温水でswimming運動をさせたマウスの白色脂肪組織でも同様の褐色化が見られたため、筋肉特異的PGC1-α発現は、運動による白色脂肪の褐色化に関与している可能性が考えられた。

PGC1-α依存性の分泌蛋白を同定
PGC1-αを過剰発現させた筋肉細胞のserum-free mediumで皮下脂肪細胞を培養すると、Ucp1を初め褐色脂肪細胞特異的遺伝子の発現が認められた。そのためPGC1-αにより、筋肉細胞から何らかの蛋白が分泌されていると考えられた。そこで、Affymetrix-based gene expression arrayと分泌蛋白予測アルゴリズムを用いてPGC1-αのターゲット遺伝子を検討したところ、FNDC5、VEGF-β、LRG1、TIMP4、IL-15が候補となった。これらの蛋白を培養皮下脂肪細胞に添加する実験を行ったところ、FNDC5がUcp1の発現を7倍に増加させ、FNDC5が白色脂肪の褐色化に重要であることが示された。

Fndc5はin vitroで脂肪の褐色化を促進する
FNDC5は、鼠径脂肪から取ったSVFから分化させた脂肪細胞でUcp1遺伝子発現を7-500倍に増加させ、その効果には用量依存性が認められた。また、FNDC5添加により、脂肪細胞の酸素消費が増加した。さらに、FNDC5は、PPAR-αの発現を増加させることによって、Ucp1発現を誘導し脂肪細胞を褐色化し、これはPPAR-αアンタゴニストであるGW6471によって阻害された。

IrisinはFndc5の切断・分泌断片である
FNDC5は2つのfibronectinドメインと1つの疎水性ドメインを持つ膜貫通型のペプチドであるため、分泌されるには細胞外の部分が切断されるのではないかと考えた。C端にFlag-tagを付けたFNDC5を作製したが、medium中にFlag-tag免疫活性は認められなかった。また、抗FNDC5抗体でmedium中に32kDaの蛋白(全長FNDC5より少し小さい)が検出され、C端が切断され分泌蛋白(N端側)を産生していることが示された。Western blotによるとglycosylationによると考えられる複数のバンドが認められ、peptide N-glycosidase Fを添加すると、20kDaの蛋白が検出された。Mass spectrometryによってこの分泌蛋白のシークエンスを決定したところ、ヒトとマウスで100%同一の配列が得られた。これは以前には知られていなかった蛋白であり、ギリシア神話の女神・アイリスの名にちなんでirisinと名付けられた。

Irisinはマウスとヒトの血漿中に存在し、肥満・インスリン抵抗性を減少させる
Western blotにより(アデノウイルスによる全長FNDC5をpositive controlとして)、マウス血中にirisin は約40nM存在することが分かった。Irisinは健常人の血漿でも認められた。ヒト、マウスで、運動後は血漿irisinの濃度が増加した。

アデノウイルスを用いて肝に全長FNDC5を発現させると、血漿irisinの濃度は3-4倍に上昇する。ウイルス注入10日後、皮下脂肪のUcp1 mRNA発現量は13倍に増加した。すなわち、血漿irisinの中程度(3倍程度)の増加により、in vivoで白色脂肪組織の褐色化が促進されることが示された。高脂肪食負荷による肥満・インスリン抵抗性マウスにFNDC5を過剰発現させると、酸素消費が大きく増加し、体重の軽度減少、空腹時血糖・耐糖能の改善が認められた。

最後に運動による白色脂肪に対する効果にirisinが必要であるかを検討するため、運動させたマウスに抗FNDC5抗体を注入したところ、運動によるUcp1発現の増加が大きく抑制された。したがって、運動による白色脂肪の褐色化の遺伝子発現には、かなりの部分irisinの効果が必要であることが分かった。

【結論】
Irisinはマウスとヒトで100%配列が同一であり、高度に保存された機能を持つことが予想される。この受容体はまだ知られていない。Irisinが筋肉で産生され、脂肪組織で熱産生の過程を活性化するということは、進化的には低体温に対する防御機構であるとも考えられる。

褐色脂肪または、ベージュ(beige)/褐白色(brite)脂肪は、マウスモデルおよび成人のヒトで抗肥満、抗糖尿病作用が期待されている。白色脂肪の褐色化をもたらすirisinは、注射可能なポリペプチドであり、糖尿病関連疾患の治療への応用が期待される。また、運動の効果にirisinが重要な役割を果たしていることも明らかになった。
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by md345797 | 2012-01-12 18:36 | インスリン抵抗性

PGRNは、脂肪組織でのIL-6を介して高脂肪食によるインスリン抵抗性と肥満を惹起するadipokineである

PGRN is a Key Adipokine Mediating High Fat Diet-Induced Insulin Resistance and Obesity through IL-6 in Adipose Tissue.

Matsubara T, Mita A, Minami K, Hosooka T, Kitazawa S, Takahashi K, Tamori Y, Yokoi N, Watanabe M, Matsuo E, Nishimura O, Seino S.

Cell Metab. 2012 Jan 4, 15(1) 38-50.

【まとめ】
Progranulin (PGRN) は、TNF-αおよび dexamethasoneによって誘導されるadipokineであることが、3T3-L1脂肪細胞でのdifferential proteome analysisによって明らかになった。肥満モデルマウスの血中および脂肪組織ではPGRNが著明に増加し、これはpioglitazone治療によって正常化した。PGRN欠損マウス (Grn-/-)は、高脂肪食を負荷してもインスリン抵抗性や脂肪細胞肥大、肥満を起こさなかった。Grn欠損は、高脂肪食による炎症性サイトカインIL-6の血中、脂肪組織での上昇を抑制した。また、PGRNの慢性投与によって起きるインスリン抵抗性は、IL-6の中和抗体によって抑制された。このように、PGRNは高脂肪食によりインスリン抵抗性と肥満を惹起する重要なadipokineであり、その作用は脂肪組織でのIL-6産生を介している。

【論文内容】
炎症性サイトカインであるTNF-αと、抗炎症作用のあるdexamethasoneのいずれによってもインスリン抵抗性が惹起される。そこで、3T3-L1脂肪細胞を用いて、この両者でインスリン抵抗性を起こすのに重要な新規adipokineを同定することを試みた。

In vitroでのインスリン抵抗性に関するadipokineであるPGRNの同定
コントロールおよび、TNF-αまたはdexamethasoneを添加した3T3-L1脂肪細胞を比較するdifferential proteome analysisを行ったところ、TNF-αとdexamethasoneで共通して増加する21の蛋白が同定された。それらのうち、分泌蛋白で炎症性作用を持つものとしてprogranulin (PGRN)を同定した。TNF-αとdexamethasoneによるPGRNの発現増加は、pioglitazoneによって完全に阻害された。

PGRNはin vivoでインスリン抵抗性の原因となる
PGRNは精巣上脂肪に多く発現し、その発現は高脂肪食で増加した。脂肪組織の中では、脂肪細胞、間質血管分画(SVF)のいずれにも発現が認められた。ob/obマウスでは、白色脂肪組織でPGRN(遺伝子名はGrn)発現が増加していたが褐色脂肪組織ではコントロールと比べ変化なかった。ob/obマウスでは血中PGRNも増加していた。免疫染色ではPGRNは脂肪細胞の細胞質およびマクロファージに存在した。ob/obマウスにpioglitazoneを投与すると、白色脂肪組織のGrn発現が減少し、血中PGRNも正常化した。recombinant mouse PGRN (rmPGRN)を野生型マウスに14日間注入したところ、血中PGRN濃度が2.0-2.5倍程度に上昇し(ob/obマウスと同程度)、それに伴って空腹時血糖の上昇、インスリン負荷試験(ITT)によるインスリン抵抗性の亢進が認められた。

Grnの欠損は高脂肪食による肥満とインスリン抵抗性を抑制する
Grn欠損 (Grn -/-) マウスは野生型に比べ、高脂肪食負荷による体重増加が少なく、皮下脂肪・内臓脂肪が少ない。高脂肪食負荷したGrn-/-マウスは野生型マウスに比べ、脂肪細胞径が小さく、マクロファージ浸潤が少ない。また、耐糖能が改善し血清インスリン値も低く、インスリン感受性が亢進していた。

PGRNは脂肪細胞のインスリンシグナル伝達を阻害する
PGRNは、3T3-L1脂肪細胞においてインスリン刺激によるIRS-1およびAktのリン酸化を用量依存的に低下させ、糖取り込みを減少させた。さらに、Grnに対するshRNAを用いてPGRNをノックダウンすると、インスリンによるIRS-1およびAktのリン酸化が増加し、糖取り込みも増加した。また、TNF-αによるAktリン酸化の低下も回復し、TNF-αによるインスリンシグナル伝達の低下はPGRNを介していることが示唆された。

PGRNは3T3-L1脂肪細胞でIL-6発現を介して、TNF-αによるインスリン抵抗性を惹起する
Grnノックダウン脂肪細胞では、adipogenic genes (Pparg およびCebpa)の発現が低下、TNF-αによって誘導される炎症性adipokine(Lep, Il6, Tnf, Ccl2)の中ではIl6の誘導が完全に抑制されていた。IL-6はJAK/STAT系およびSOCS3発現抑制を介してインスリン抵抗性を惹起するが、PGRNはIl6およびSocs3発現を用量依存的に増加させることが分かった。また、TNF-αによるSTAT3リン酸化とSocs3の発現は、Grnノックダウン脂肪細胞では阻害された。すなわち、PGRNは脂肪細胞でのIL-6発現を促進し、それがJAK-STAT系を活性化してSOCS3(=IRS-1チロシンリン酸化を低下させ、IRS-1のdegradationを促進するという報告がある)の発現を増加することによりインスリン抵抗性が惹起されることが明らかになった。

PGRNはin vivoで脂肪組織でのIL-6発現を介して、高脂肪食によるインスリン抵抗性を惹起する
Grn-/-マウスの精巣上脂肪では、PpargCebpa, Fabp4, Glut4, Adipoqの発現が低下していた。また、高脂肪食による炎症性マーカー(Il6, Tnf, Emr1)の発現増加は認めなかった。さらに、Grn-/-マウスでは高脂肪食による血清IL-6濃度の上昇、脂肪組織・肝臓におけるSocs3の発現は抑制されていた。

IL-6の中和によりPGRNによるin vivoのインスリン抵抗性は改善する
rmPGRN (20μg/日)を野生型マウスに3週間投与したところ、PGRNは2.1倍増加した。この状態で空腹時インスリン値は増加、ITTによりインスリン抵抗性を示したが、IL-6の中和抗体の投与によっていずれも改善した。したがって、PGRNによるin vivoのインスリン抵抗性は、IL-6を介していると言える。

【結論】
以前よりPGRNは、炎症と抗炎症作用の両方があることが知られていた。最近では、TNF受容体に結合してTNF-αとの結合を阻害するという報告もあった。しかし、この研究ではPGRNがインスリン抵抗性を惹起することがin vitroin vivoで証明された。また、それは脂肪組織でのIL-6発現を介して、SOCS3発現を増加させることによることが明らかになった。
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by md345797 | 2012-01-04 22:05 | インスリン抵抗性

FGF21の作用と役割

FGF21 reloaded: challenges of a rapidly growing field.

Kharitonenkov A, Larsen P.

Trends Endocrinol Metab. 2011 Mar;22(3):81-6.

【総説内容】
Fibroblast growth factor 21(FGF21)はgrowth factorではない

FGF21は他のFGFsと10-30%の相同性を持ってはいるが、成長を促進する作用はなく「growth factor」としての活性はない。FGF21は、FGFsの中ではFGF19やFGF23を含む、いわゆる「ホルモン様」のサブグループに含まれる。このサブグループは内分泌作用を示し、それぞれ糖・脂質代謝(FGF21)やコレステロール・胆汁酸合成(FGF19)、リン・vitaminD調節(FGF23)に関与している。

FGF21はどこに発現しているか?
FGF21は当初はマウスの肝でクローニングされたが、脂肪や筋でも発現が認められ、その後、膵(外分泌腺とβ細胞)で強い発現が確認された。このことからin vivoでのFGF21の主要な産生源は膵であるように思われたが、膵での発現調節のメカニズムはいまだ検討中の段階である。

FGF21の標的組織は何か?
FGF21の標的組織は当初脂肪組織と考えられていたが、それだけではないことが分かっている。例えば、FGF21は、単離膵島やINS-1細胞を刺激してグルコースによるインスリン産生・グルカゴン抑制を促進したり、マウスや霊長類に投与することでβ細胞量や機能を維持したりする作用がある(ただし後者はインスリン抵抗性・糖毒性改善を介する間接的な作用の可能性もある)。また、肝細胞に直接作用するとする報告もある。現在は、肝・膵・脂肪組織がFGF21の主要な標的組織と考えられており、これはFGF受容体のco-receptorである膜貫通型βKlotho(KLB)の発現臓器とも一致する。

FGF21受容体はどのようなものか?
FGF21は古典的なFGFsと違ってFGF受容体(FGFR)と直接結合せず、FGF21の作用には膜貫通型KLBが必要である。FGF21受容体はFGFRとKLBから成り、KLBはFGFがFGFRと結合するために必要なアダプター蛋白の役割を果たしている。FGFRには4種類ありFGFR1がFGF21の受容体を構成していると考えられている(ただし、そうでないことを示す報告もある)。

FGF21は内分泌因子か?
FGF21は主に肝で産生され、脂肪組織を標的臓器としていると考えられてきたため、肝から脂肪組織へとシグナルを伝達する内分泌因子のように思われているが、活性型のFGF21が血中に存在するかは不明である。現在のELISAキットによる測定では、非活性もしくは阻害型のFGF21が存在している可能性もある。FGF21が真にホルモンとして作用しているか、局所的に働く分子なのかという問題はまだ分かっていない。

FGF21の生理的役割は何か?
FGF21の役割は、飢餓に対する適応とも考えられている。空腹に反応して肝の脂質代謝が亢進、またケトン体が産生されると、FGF21が放出され、全身のインスリン感受性が亢進する。Ketogenic diet(低炭水化物、高蛋白食)で血中FGF21が増加するため、FGF21は飢餓に対するホルモンと言えるかもしれない。

In vivoでのFGF21作用メカニズム
FGF21を全身的に投与すると、血糖・中性脂肪が低下、β細胞の機能と量が保持、肥満と脂肪肝が改善、レプチン抵抗性が改善、LDL-Cが低下・HDL-Cが増加、adiponectinが増加、心血管リスクファクターマーカーが減少するなどの効果が見られる。これらの統一的なメカニズムは明らかではないが、いくつかの仮説が報告されている。FGF21の肝におけるインスリン抵抗性改善作用や脂肪組織におけるlipolytic活性によるFFA低下作用、FGF21投与によるエネルギー消費亢進、などがそれである。FGF21を投与すると視床下部に作用して、Agouti-related peptideやneuropeptide Y産生が増加するという報告もある。

FGF21抵抗性
代謝異常を示すヒトやげっ歯類で高インスリン血症および高レプチン血症が見られるように、血漿FGF21値も高値を示しており、「FGF21抵抗性」の概念が提唱されてきた。ob/obマウスや高脂肪食負荷マウスでは、血中FGF21値が増加しており、FGF21投与に対する反応が低下している。これらのマウスでは、FGF21標的臓器でFGFRやKLBの発現が低下しているとする報告もある。

FGF21関連研究の将来
FGF21に関する報告は2005年以来毎年倍増しているが、FGF21の理解はいまだに断片的で議論が分かれるところである。チアゾリジン系薬剤がFGF21およびKLBの発現を増やし、FGF21感受性を上げるという報告があり、抗糖尿病薬の効果の一部がFGF21経路を介しているという可能性もある。現在、FGF21の変異体やFGF21アゴニストが、薬剤の候補として臨床研究に応用されつつあり、今後の代謝疾患の治療において有望な手段となるかもしれない。
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by md345797 | 2011-12-27 17:35 | インスリン抵抗性

抗体を用いたFGF受容体1の活性化は2型糖尿病を改善する

Amelioration of type 2 diabetes by antibody-mediated activation of fibroblast growth factor receptor 1.

Wu AL, Kolumam G, Stawicki S, Chen Y, Li J, Zavala-Solorio J, Phamluong K, Feng B, Li L, Marsters S, Kates L, van Bruggen N, Leabman M, Wong A, West D, Stern H, Luis E, Kim HS, Yansura D, Peterson AS, Filvaroff E, Wu Y, Sonoda J.

Sci Transl Med. 2011 Dec 14;3(113):113ra126.

【まとめ】
Recombinant FGF21の2型糖尿病および肥満関連疾患への応用が提案されているが、FGF21の薬物動態が不安定なため(=poor pharmacokinetics)、臨床での使用は難しい。そこで、受容体アゴニストである抗FGFR1抗体を用いて、FGF21の代謝効果を模倣した抗糖尿病治療について検討した。この抗体、R1MAb(Receptor 1 Monoclonal Antibody)を肥満糖尿病マウスに単回注入すると持続的に高血糖が改善され、高インスリン血症、高脂血症、脂肪肝が改善する。R1MAbは脂肪組織のMAPKを活性化するが、脂肪萎縮マウスのグルコース消失は改善しないため、これらの効果は脂肪組織を介することが示された。褐色脂肪組織において、 FGF21もR1MAbもCREBのリン酸化と、PGC-1αおよびその下流の酸化的代謝遺伝子の発現を増加させる。脂肪組織のFGFR1はFGF21の主要な機能的受容体であり、PGC-1αの上流の調節因子でもあるため、2型糖尿病の抗体を用いた治療の重要なターゲットになりうる。

【論文内容】
受容体アゴニストである抗FGFR1抗体の同定

ファージディスプレイ法を用いて、FGFR1細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体を作製した。この抗体はFGFR1特異的に(他のFGFR2-4には反応せず)下流のMAPKを活性化した。また、この抗体をC57BL/6マウスの腹腔内に注入すると、その白色脂肪組織でFGF受容体基質(FRS2α)およびMEKのリン酸化が起こり、in vivoでも受容体アゴニストとして作用していることが示された。

糖尿病マウスにおいてR1MAbは持続的な抗糖尿病作用を示す
db/dbマウスにR1MAbを単回投与すると、血糖が1週間以上正常化したが、低血糖は起こさなかった。すなわち、R1MAbにはインスリン感受性亢進作用があると考えられた。また、db/dbマウスで、recombinant human FGF21の持続注入と、R1MAbの単回投与の効果を比較したところ同様の効果があり、R1MAbはFGF21のmimeticとして作用することが示された。

R1MAbおよびFGF21の抗糖尿病作用における脂肪組織の役割
FGF21をマウスの腹腔に注入すると、FGFRのco-receptorであるKLB(βklotho)が発現している組織(肝、白色脂肪、褐色脂肪、膵)でMEK/ERKのリン酸化が増加する。これに対し、R1MAbを注入すると、脂肪組織と膵でリン酸化が増加するが、肝では増加しない(肝ではFGFRの発現が非常に少ない)。R1MAbは肝脂肪および血清脂質を低下させるが、これは脂肪組織で代謝活性化を起こした間接的な効果と考えられる。さらに、脂肪萎縮マウス(aP2-SREBP-1cトランスジェニックマウス)にR1MAbを単回注入またはFGF21を持続注入しても血糖、HOMA-IR、グルコース消失が改善しないことから、これらの効果は脂肪組織に依存しているものと考えられた。

R1MAbによる褐色脂肪組織でのPGC-1α活性化
近年、FGF21は脂肪組織および肝でPGC-1αを活性化し、下流の酸化的代謝遺伝子の発現を誘導することが報告されている。ob/obマウスにR1MAbを注入すると、褐色脂肪組織で、ミトコンドリア酸化的リン酸化および脂肪酸代謝関連の遺伝子発現が増加した。R1MAbの注入は、C57BL/6マウスにおいて熱産生を増加(活動度には影響なく)させた。

PGC-1αのmRNAは、CREBがCRE(cAMP response elements)に結合することによって調節されている。FGF21およびR1MAbはHEK293細胞において、GAL-CREB reporterを活性化した。さらに、FGF21およびR1MAbによるMEK/ERKのリン酸化がp90RSKのリン酸化を起こし、これがCREBのリン酸化、PGC-1αの活性化、酸化的代謝の活性化へとつながる経路が明らかになった。

【結論】
FGF受容体アゴニストであるFGFR抗体を作製した。この抗体は、in vivoでrecombinant FGF21の効果を再現し、2型糖尿病および肥満関連疾患(脂肪肝など)の治療に有効であることが示された。FGF21およびFGFR抗体の抗糖尿病作用は、主に脂肪組織を介するものである。
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by md345797 | 2011-12-26 07:43 | インスリン抵抗性