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カテゴリ:糖尿病の遺伝学( 4 )

脂質センサーGPR120の機能不全は、マウスとヒトの両方で肥満をもたらす

Dysfunction of lipid sensor GPR120 leads to obesity in both mouse and human.

Ichimura A, Hirasawa A, Poulain-Godefroy O, Bonnefond A, Hara T, Yengo L, Kimura I, Leloire A, Liu N, Iida K, Choquet H, Besnard P, Lecoeur C, Vivequin S, Ayukawa K, Takeuchi M, Ozawa K, Tauber M, Maffeis C, Morandi A, Buzzetti R, Elliott P, Pouta A, Jarvelin MR, Körner A, Kiess W, Pigeyre M, Caiazzo R, Van Hul W, Van Gaal L, Horber F, Balkau B, Lévy-Marchal C, Rouskas K, Kouvatsi A, Hebebrand J, Hinney A, Scherag A, Pattou F, Meyre D, Koshimizu TA, Wolowczuk I, Tsujimoto G, Froguel P.

Nature. 2012 Feb 19 Published online.

【まとめ】
遊離脂肪酸は、生体の重要なエネルギー源でありシグナル伝達分子でもある。いくつかのG蛋白共役受容体が、遊離脂肪酸の受容体として同定されている。GPR120 (別名O3FAR1)は不飽和長鎖遊離脂肪酸の受容体として、血管新生や食欲調節などの過程で重要な役割を果たしている。本研究では、GPR120欠損マウスに高脂肪食を負荷したところ、脂肪細胞分化と脂肪合成の低下を伴う肥満、耐糖能異常、脂肪肝をきたした。また、インスリンシグナル伝達の低下、脂肪組織の炎症の亢進を伴ったインスリン抵抗性が認められた。ヒトにおいては、肥満者で、脂肪組織のGPR120発現の増加が見られた。肥満者のGPR120のexon sequencingにより、有害な非同義突然変異であるp.R270H(注:アミノ酸置換が起こるミスセンス変異、p.はproteinの略)が認められ、これによりGPR120のシグナル伝達活性が阻害されることが示された。さらに、p.R270H変異体は、ヨーロッパの集団において、肥満のリスクを増加させた。以上より、脂質センサーであるGPR120は、高脂肪食を感知するのに重要な役割を果たし、ヒトとマウスの両方においてエネルギーバランスを調節していることが明らかになった。

【論文内容】
GPR120欠損マウスは、野生型(WT)マウスに比べ、正常食では体重に差はないが、高脂肪食を負荷したときの体重増加が10%程度大きかった。両マウスのエネルギー消費を比較したところ、9-10週齢でGPR120欠損マウスにおいて明期(非活動時間)のエネルギー消費が小さかった。GPR120は特に若いマウスでのbasalの代謝に関与していることが示された。高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスはWTに比べ、脂肪量が多く、脂肪細胞が大きく、脂肪組織へのマクロファージの浸潤(F4/80陽性細胞数)が多かった。また、脂肪肝を示し、肝の中性脂肪含量が多かった。

高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスはWTに比べ、空腹時血糖・インスリン値が高値であり、ITTおよびGTTでの血糖が高値であった。また、白色脂肪組織(WAT)、肝、骨格筋におけるインスリンによるAKTのリン酸化が低下していた。qRT-PCRで、WATにおいて脂肪分化マーカー(Fabp4)、脂肪合成関連遺伝子(Scd1)の発現低下が見られ、肝ではScd1および脂肪酸トランスポーター遺伝子(Cd36)の発現増加が認められた。Western blotでも同様にWATでのSCD1の発現低下、肝での増加を認めた。WAT、肝、血漿のlipidomics解析によると、高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスでは肝のオレイン酸(C18:1n9c)が増加し、C18:1対C18:0比(SCD1酵素活性を示す)が増加していた。このマウスでは、WATおよび血漿のパルミトオレイン酸(C16:1n7)は低下しており、WATでのScd1発現低下と一致している結果であった。GPR120欠損マウスでは、脂肪合成の異常があり、特に脂質ホルモンであるC16:1n7パルミトオレイン酸の低下が示された。GPR120欠損マウスにC16:1n7パルミトオレイン酸を6時間注入すると、肝のScd1発現亢進が低下した。これらの結果から、パルミトオレイン酸の低下はこのマウスの代謝異常の原因であることが示唆された。

次に、ヒトにおいてGPR120が肥満に関与しているかを検討した。まず、肥満者と正常者(各n=14)の皮下および大網脂肪組織におけるGPR120の発現を比較したところ、肥満者で有意にGPR120の発現が増加していた。さらに、312名のフランス人非血縁高度肥満者でGPR120の4つのexonの塩基配列を調べた。その結果、2つの非同義突然変異(non-synonymous variant)であるR270Hとp.R67C/rs6186610を同定した。この非同義変異の遺伝子型を6,942名の肥満者と7,654名の正常コントロールで比較したところ、R270Hが肥満と関連していることが明らかになった。次に、p.R67Cとp.R270Hの2つのarginine(67と270)変異の受容体機能への影響を検討するため、内因性アゴニストであるα-リノレン酸(ALA)反応性の細胞内カルシウム([Ca2+]i)反応を比較した。その結果、ALA反応性[Ca2+]i反応は、p.R270Hを持つ受容体で有意に低下していた。また、p.R270H変異受容体を発現させたヒト腸管NCI-H716細胞からのGLP-1分泌を、WTの受容体を発現させた細胞と比較したところ、WTと違ってALA反応性のGLP-1分泌増加が認められなかった。

次に、T-Rex 293細胞にbicistronicに(1つの遺伝子が2種類の蛋白をコード)WT/WT、WT/p.R270H、p.R270H/WT受容体を発現させた場合のALA依存性の[Ca2+]i上昇の用量依存曲線を解析した。WT/WTを発現させた細胞に比べ、WT/p.R270Hまたはp.R270H/WTを発現させた細胞では、ALAによる [Ca2+]i上昇反応が低下していた。したがって、p.R270H変異は、長鎖遊離脂肪酸のシグナル伝達を障害することによりGPR120の機能を抑制することが示された。

p.R270H変異をheterozygousに持つ肥満者10名とnon-carrierの肥満者を比較したところ、皮下・大網脂肪組織でのGPR120発現は同様であった。脂肪分化マーカーPPARGおよび脂肪合成関連因子SCD、マクロファージマーカーCD68の発現も両群で差はなかった。しかし、脂肪酸結合蛋白FABP4の大網脂肪組織での発現は、p.R270H carrierで有意に低下していた。

【結論】
omega-3脂肪酸の受容体である脂質センサーGPR120は、マウスとヒトの両方で肥満に関連していた。この受容体は、肥満および脂質代謝異常、肝疾患などの治療の有望なターゲットになると考えられる。
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by md345797 | 2012-02-23 17:17 | 糖尿病の遺伝学

GWASのメタアナリシスにより明らかになった、東アジア人2型糖尿病の新しい8個の遺伝子座

Meta-analysis of genome-wide association studies identifies eight new loci for type 2 diabetes in east Asians.

Cho YS, Chen C-H, Hu C, Long J, Ong RTH, Sim X, Takeuchi F, Wu Y, Go MJ, Yamauchi T, Chang Y-C, Kwak SH, Ma RCW, Yamamoto K, et al.

Nat Genet. 44, 67–72, 2012.

【まとめ】
東アジア人の2型糖尿病(T2D)の感受性遺伝子座を同定するため、3段階の遺伝子解析を行った。Stage 1のT2Dのゲノムワイド関連研究(GWAS)8研究のメタアナリシス (T2Dを持つ6,952 casesと11,865 controls)に続き、stage 2 のin silico replication解析(5,843 casesと4,574 controls)およびstage 3の de novo replication 解析(12,284 casesと13,172 controls)を行った。以上の解析により、8個の新しいT2D遺伝子座が明らかになり、それらは、GLIS3PEPDFITM2-R3HDML-HNF4AKCNK16MAEAGCC1-PAX4PSMD6 およびZFAND3の中または近傍に位置した。GLIS3は膵β細胞の発生とインスリン遺伝子発現に関わっており、空腹時血糖値に関連があることが知られている。PEPDHNF4AとT2Dとの関連は以前から知られていた。KCNK16は膵のグルコース応答性インスリン分泌を制御している可能性がある。東アジア人におけるこれらの結果は、T2Dの病因解明に新しい知見をもたらすものである。

【論文内容】
東アジア人は、欧州人と比べ低いBMIでも高率に2型糖尿病(T2D)を発症することが知られており、T2D発症の病態が欧州人と異なる可能性がある。この研究では、東アジア人での新たなT2Dの遺伝子座を発見するため、3段階の関連解析を行い、8個の遺伝子座を発見した。

その一つ目は、膵β細胞に多く発現するGLIS3のイントロン内に位置する。この遺伝子産物は、Krüppel-like zinc finger transcription factorであり、膵β細胞発生とインスリン遺伝子発現を調節しており、1型糖尿病や空腹時血糖にも関連がある。2つ目の遺伝子座は、PEPDのイントロンに位置し、3つ目はFITM2-R3HDML-HNF4Aの近傍にある。FITM2は脂肪滴蓄積に関与し、HNF4Aの変異はMODY1型として知られている。他の5つの遺伝子座はKCNK16MAEA GCC1-PAX4PSMD6 およびZFAND3の中または近傍にあり、これらは今までに代謝に関する遺伝形質との関連が知られていなかったものである。KCNK16は主に膵に発現し、pore-forming Pドメインを含むKチャネルをエンコードする。MAEAは赤芽球の除核およびマクロファージ成熟に関与している。GCG1はトランスGolgiネットワークの形成に、PAX4は膵島発生にそれぞれ関与している。PSMD6はおそらくユビキチン化した蛋白の分解に関わっており、ZFAND3の役割は不明だが、同じ遺伝子ファミリーのZFAND6はT2D遺伝子座であることが知られている。

この研究は、東アジア人のT2Dに対して行った、過去最大のGWASメタアナリシスである。この研究により、新たな生物学的なパスウェイが見出されただけでなく、集団特異的なT2Dの遺伝子座が明らかになったことも重要である。例えば、ZFAND3のrs9470794とT2Dとの関連は東アジア人特有である一方で、ZFAND6近傍のrs11634397とT2Dとの関連は欧州人特異的のようである。このことは、広義のA20ドメインを含むzinc finger proteinファミリーが糖尿病の成因に関わっていることを推測させる。このように、上記の知見はそれぞれの集団における糖尿病の形質(アジア人では低いBMIで効率の糖尿病が見られることなど)を理解するのに役立つ可能性がある。
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by md345797 | 2011-12-12 22:46 | 糖尿病の遺伝学

南アジア系統のヒトのゲノムワイド関連解析により、新たな6つの2型糖尿病感受性遺伝子座が同定された

Genome-wide association study in individuals of South Asian ancestry identifies six new type 2 diabetes susceptibility loci.

Kooner JS, Saleheen D, Sim X, Sehmi J, Zhang W, Frossard P, Been LF, Chia KS, Dimas AS, Hassanali N, Jafar T, Jowett JB, Li X, Radha V, Rees SD, Takeuchi F, Young R, Aung T, Basit A, Chidambaram M, Das D, Grunberg E, Hedman AK, Hydrie ZI, Islam M, Khor CC, Kowlessur S, Kristensen MM, Liju S, Lim WY, Matthews DR, Liu J, Morris AP, Nica AC, Pinidiyapathirage JM, Prokopenko I, Rasheed A, Samuel M, Shah N, Shera AS, Small KS, Suo C, Wickremasinghe AR, Wong TY, Yang M, Zhang F; DIAGRAM; MuTHER, Abecasis GR, Barnett AH, Caulfield M, Deloukas P, Frayling TM, Froguel P, Kato N, Katulanda P, Kelly MA, Liang J, Mohan V, Sanghera DK, Scott J, Seielstad M, Zimmet PZ, Elliott P, Teo YY, McCarthy MI, Danesh J, Tai ES, Chambers JC.

Nat Genet. 43, 984–989, 2011.

【まとめ】
南アジア系統の2型糖尿病5,561名とコントロール14,458名を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。その結果、2型糖尿病に関連する20のSNPsと、2型糖尿病で遺伝子変異を持つ新しい6つの遺伝子座(GRB14, ST6GAL1, VPS26A, HMG20A, AP3S2, HNF4A)を同定した。GRB14のSNPsはインスリン感受性に関連し、ST6GAL1およびHNF4AのSNPsは膵β細胞機能に関連していた。これらの結果は、南アジア人における2型糖尿病の遺伝的メカニズムの解明に役立つと思われる。

【論文内容】
南アジア系統のヒトはヨーロッパ人に比べ2型糖尿病のリスクが4倍高いとされており、2030年には世界の全糖尿病患者の4分の1である8000万人を南アジア人が占めると予想されている。現在までにGWASによって42の遺伝子が2型糖尿病感受性に関連があることが明らかになっている。これらの多くはヨーロッパ系が対象であるが、この研究では、ロンドン・パキスタン・シンガポールの2型糖尿病南アジア人5,561名とコントロールの南アジア人14,458名を対象にGWASを行った。その結果、2型糖尿病リスクの遺伝子座としてよく知られたTCF7L2のSNP(rs7903146)が有意であった。そのほかに6つのSNPsが次の遺伝子座に認められた(GRB14, ST6GAL1, VPS26A, HMG20A, AP3S2, HNF4A)。

GRB14近傍のrs3923113は2型糖尿病と強い相関を示していたが、GRB14はインスリン受容体のアダプター蛋白としてチロシンキナーゼシグナルの阻害を起こすことが知られている。Grb14-/-マウスはインスリン感受性が亢進している。rs3923113のリスクアリールは南アジア人でインスリン感受性が低下しており、GRB14の機能亢進型の変異(gain of function)を呈していると考えられる。ST6GAL1は、ゴルジ装置に局在する酵素をエンコードしており、細胞表面のtraffickingやインスリン作用に関連している可能性がある。VPS26Aはエンドソームからトランスゴルジネットワークへの蛋白輸送に関わる蛋白をエンコードしており、膵や脂肪組織に発現している。HNF4Aは肝に強く発現する核内転写因子で、その変異はMODY(maturity-onset diabetes of the young)のtype 1として知られる。HNF4Aのイントロン中のrs4812829のリスクアリールは南アジア人において、膵β細胞機能低下と関連した。

【結論】
GWASにより、南アジア人で初めて2型糖尿病と関連する遺伝子座を明らかにした。今回の解析で6つの新しい遺伝子座が2型糖尿病に関連していることが分かった。
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by md345797 | 2011-09-01 17:16 | 糖尿病の遺伝学

父親の高脂肪食摂取がメスの仔ラットのβ細胞障害をプログラムする

Chronic high-fat diet in fathers programs β-cell dysfunction in female rat offspring.

Ng SF, Lin RC, Laybutt DR, Barres R, Owens JA, Morris MJ.

Nature. 2010 Oct 21;467(7318):963-6.


【まとめ】
食事による母親の肥満が、子の脂肪蓄積や代謝に与える影響は明らかにされているが、父親の肥満の影響については分かっていない。このグループでは、オスのSDラットに慢性的に高脂肪食を負荷した結果、これらのラットのメスの仔ラットに膵島面積の低下、インスリン分泌低下、耐糖能悪化が認められた。メス仔ラットの膵島において発現の変化が最も大きかったIl13ra2遺伝子ではメチル化の減少が見られ、エピジェネティックなメカニズムの関与が示された。

【論文内容】
オスのSDラットにコントロール食(n=8)と高脂肪食(n=9)をそれぞれ摂取させ、メスのSDラット(コントロール食)と交配させた。高脂肪食を慢性的に摂取したオスのラットでは、体重増加、耐糖能の悪化、インスリン抵抗性の増悪が認められた。このラットのメス仔ラットを、コントロール食を摂取したラットのメス仔ラットと比較すると、体重、脂肪蓄積、leptin、TG、NEFAに差は見られなかった。ところが、GTTで耐糖能異常とインスリン値の減少が見られた。なおインスリン感受性(ITT、insulin resistant index)には差がなかった。

高脂肪食ラットのメス仔ラットでは、膵島面積が低下しており、グルコースによるインスリン分泌を保つには膵β細胞予備能が不十分と考えられた。

次にこれらのラットの膵島で発現に変化が見られた2492個の遺伝子に対するパスウェイ解析を行ったところ、calcium-、MAPK-、Wnt-signalling pathway、apoptosis、 cell cycleの関与が示された(これらは膵形態の変化、インスリン顆粒のexocytosis障害に影響があると考えられる)。発現の変化が最も大きかった遺伝子はIl13ra2で、pancreatic cancer cell lineに発現し、増殖を調節すると考えられている。この遺伝子の-960cytocinのメチル化が高脂肪食ラットのメス仔ラットで低下していた。このメチル化の低下は膵島機能を変化させるepigenetic modificationであると考えられる。

【結論】
父親の高脂肪食摂取という環境因子の影響が、非遺伝的に父親から仔世代へ伝達されることを哺乳類で示した最初の報告である。このメカニズムには遺伝子のepigenetic modificationが含まれると思われるが、今後解明が必要である。
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by md345797 | 2010-11-13 00:41 | 糖尿病の遺伝学