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尿崩症、下垂体前葉機能低下症、下垂体茎肥厚を呈した患者

A patient with diabetes insipidus, anterior hypopituitarism and pituitary stalk thickening.

Tritos NA, Byrne TN, Wu CL, Klibanski A.

Nat Rev Endocrinol. 2011 Jan;7(1):54-9.

【症例】
42歳の女性、突然起きた強い口渇と多尿があり、1日12リットルの水を飲んでいた。月経不順もあった。視野異常、頭部外傷、悪性疾患の既往はなかった。
水制限試験で血清Naは147mmol/l、血清浸透圧は302mmol/kgと上昇、尿浸透圧は69(正常700以下)mmol/kgと低下した。尿浸透圧はデスモプレシン点鼻で367mmol/kgまで上昇したので、中枢性尿崩症と診断された。デスモプレシン点鼻治療が行われたところ、口渇・多尿の症状は軽快した。また中枢性性腺機能低下症があり、エストロゲン・プロゲステロン投与が行われた。なお、下垂体MRIでは下垂体茎の増強が認められた。

2年後、持続する疲労を訴え、FT4の低下・TSH正常と、中枢性甲状腺機能低下症が認められた。これに対しT4補充療法が行われたが、血清IGF-1値も低値であったため、GH刺激試験(GRH+アルギニン負荷)を行った。その結果、GH分泌反応が低下しており、GH欠損と診断、GH補充療法(0.2mg/日皮下注)を開始した。

1年後、左頸部の痛みと腫脹を訴え、顎下腺唾液腺炎と診断、顎下腺切除と組織診断によりランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis; LCH)であることが明らかになった。ホルモン補充療法を行い、内分泌学的には安定している。下垂体病変も診断から7年たっても変化なかった。

【診断】
口渇・多尿は、高血糖・高カルシウム血症・低カリウム血症を除外し、水制限試験で尿濃縮能欠乏・デスモプレシンに対する尿浸透圧の上昇を確認すれば尿崩症と診断できる。尿崩症の患者では下垂体前葉機能検査を行うべきであり、この患者では中枢性性腺機能低下症とGH欠損症が認められた。

MRIでの下垂体茎肥厚は、外傷性・先天性・炎症性・腫瘍性などの可能性が考えられる。本例ではリンパ球性下垂体炎またはLCHが考えられたが、顎下腺切除の組織診断によりLCHと診断された。LCHは成人では稀で(100万人に1-2人/年の発症)、その病態についても炎症性か腫瘍性か分かっていない。骨・肺・皮膚などが広く冒され、下垂体茎・視床下部に浸潤することもある。LCHで最も頻度が高い内分泌疾患は尿崩症であり、下垂体前葉機能低下症も通常起きる。

【治療と管理】
高用量グルココルチコイド療法および抗腫瘍化学療法との併用が推奨されているが、この治療には議論があるところである。内分泌欠損に対しては標準的な補充療法を行う。LCHの予後は病変の部位と拡がりによる。多臓器疾患では死亡率は20%にもなる。本患者のように下垂体と唾液腺に病変が限定しているような例では、緩慢な経過(indolent course)をたどる。
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by md345797 | 2011-01-28 19:18 | 症例検討/臨床総説

GH、IGF axis、インスリンと癌のリスク

Growth hormone, the insulin-like growth factor axis, insulin and cancer risk.

Clayton PE, Banerjee I, Murray PG, Renehan AG.

Nat Rev Endocrinol. 2011 Jan;7(1):11-24.

【GH、IGFと癌のリスク】(省略)

【インスリンと癌のリスク】
インスリン投与または血中のインスリン高値によって、大腸癌および前癌状態になるリスクが高まり、インスリン・IGF-Ⅰの高い肥満マウスに癌細胞(肺癌、大腸癌)を注入すると癌の進展がコントロールマウスより速いことが分かっている。A-ZIP/F-1マウス(脂肪がなく高度のインスリン抵抗性でインスリン・IGF-Ⅰ高値)を乳癌マウスと掛け合わせると、早期に癌が増大する。膵癌・乳癌にはインスリン受容体があり、後者にはインスリン-IGF-I hybrid受容体が存在するため、インスリン存在下で増殖する。インスリン、IGF-I、ハイブリッド受容体の下流ではリン酸化IRS-1を介してPI3K、MAPK経路が活性化され、これらの阻害薬により癌細胞の増殖が抑制される。

【インスリン抵抗性と癌】
肥満や運動不足によるインスリン抵抗性は、癌の発症・死亡率のリスクファクターである。Renehanらによるメタアナリシス(Lancet, 2008)では、BMIと20の癌のリスクとの関連が示された。Waist to hip ratioも乳癌、大腸癌とのリスクが示されている。

インスリン抵抗性が癌につながるメカニズムとして、インスリンは肝でのIGFBP-1,2の産生を抑止し、これらが結合しない活性型IGF-1を増加させることによって腫瘍の増殖を促すという考え方がある。

【糖尿病、インスリン治療、癌】
2型糖尿病はいくつかのタイプの癌の発症と関連があるとされている(非ホジキンリンパ腫、閉経後乳癌、直腸癌、子宮内膜癌、肝癌、膵癌)。治療に関しても、インスリンは細胞分裂を促し、疫学的にもインスリン治療と癌の進行は関連がある。しかし、これらのデータは比較者にも問題があり、多くの非インスリン使用者はメトホルミンを使用しており、これが癌の防止に役立っている。メトホルミンはインスリン抵抗性を改善しインスリン濃度を低下させることと、直接AMPKを活性化することで癌細胞のエネルギー制限と同様の現象を起こし、癌の減少をもたらすと考えられている。

インスリンアナログであるインスリングラルギンは、一連の観察研究により癌の発症率増加に関連があるとされた (Diabetologia, 2009)。これらの研究は多くの議論を引き起こし、専門家による欠点の指摘も行われており現在も関心が寄せられている。
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by md345797 | 2011-01-25 17:42 | 糖尿病の病態生理

潜在性甲状腺機能低下症と虚血性心疾患の関連における年齢の影響―メタアナリシス

The influence of age on the relationship between subclinical hypothyroidism and ischemic heart disease: a metaanalysis.

Razvi S, Shakoor A, Vanderpump M, Weaver JU, Pearce SH.

J Clin Endocrinol Metab. 2008 Aug;93(8):2998-3007.


【論文内容】
潜在性甲状腺機能低下症(SCH: subclinical hypothyroidism)は、甲状腺ホルモンは正常であるが、TSHが増加している病態で、人口の4-10%に認められる。SCHは虚血性心疾患に関連していることが分かっており、SCHの多い高齢者では大きな問題となっている。SCHと虚血性心疾患の関係は、年齢・性別によって異なるとされているが、今回systematic reviewを用いてこれを検討した。

その結果、65歳未満のSCHで有意に虚血性心疾患の頻度が高くなること、65歳以上では有意差が認められないことが明らかになった。発症率についても同様で、65歳未満で有意に虚血性心疾患の発症率が上昇した。

【追加コメント・日本における治療指針】
潜在性甲状腺機能低下症の診断と治療の手引き(2008年案)より

診断にはF4とTSHを測定し、F4が基準値内でTSHは基準値上限(およそ4.5μU/ml)を超える値であることが必要。

治療として、比較的少量(25-50μg/日)のT4で補うことでeuthyroidが得られる。軽微な甲状腺ホルモン不足が様々な障害をもたらす可能性がある(うつ、認知障害、冠動脈疾患の進展、妊娠経過への影響など)ため、T4補充療法は有益である。

妊娠においては、甲状腺機能低下症が妊娠継続、児の発育に障害をもたらす可能性があることから、速やかに治療を開始する。

当初は1-2カ月に1度TSH測定、血中TSHを基準値内に維持するように補充量を調節する。

85歳以上の高齢者は、NTI(non thyroidal illness)や生理的変動の可能性を考え、慎重に治療する(基本的には治療しない)。
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by md345797 | 2011-01-24 20:15 | 臨床研究

LADA (Latent Autoimmune Diabetes in Adults:成人潜在性自己免疫型糖尿病)

Latent autoimmune diabetes in adults.

Naik RG, Brooks-Worrell BM, Palmer JP.

J Clin Endocrinol Metab. 2009 Dec;94(12):4635-44.

【まとめ】
膵島抗原に対する自己抗体は通常は1型糖尿病で認められるが、2型糖尿病の約10%でも膵島自己抗体の少なくとも1つが認められる。このグループは、LADAと呼ばれている。LADAは自己免疫疾患という点で1型糖尿病と似た遺伝的・免疫学的特徴を示すが、自己抗体クラスターやT細胞反応性、遺伝的感受性などで1型糖尿病とは明らかに異なることが知られている。

【総説内容】
2型糖尿病のうち、約10%が膵島自己抗体=ICA抗体、GAD65抗体、IA-2抗体、インスリン抗体(IAA: insulin autoantibody)のうち少なくとも一つが陽性であり、Zimmet(1995, Diabetes Care)はこのグループをLADA (Latent Autoimmune Diabetes in Adults、成人潜在性自己免疫糖尿病)と呼んだ。これは、slowly progressive type 1 diabetes (緩除進行型1型糖尿病)、type 1.5 diabetesとも呼ばれている。

LADAは、自己抗体の少なくとも1つが陽性で、一般的に35歳以上で、肥満がなく、当初食事療法だけでコントロールが付いていたが、徐々にインスリン依存状態になる糖尿病である。自己抗体陰性の2型糖尿病よりもインスリン治療が急速に必要になる状態であることが分かっている。また、LADAの臨床症状は自己抗体のtiterと数に相関することも知られている。LADAのβ細胞機能は、1型糖尿病と2型糖尿病の中間であり、インスリン抵抗性は1型糖尿病と同様で、2型糖尿病よりは少ないと考えられている。膵島の炎症反応は、1型糖尿病(サイトカインによるβ細胞機能不全)と2型糖尿病(栄養状態によるβ細胞機能不全)ではオーバーラップするところがあり(IL-1βシグナル伝達経路など)、1型と2型は連続する同じ病態の2つの対極にあるものととらえることもできる。

LADAの治療には、①早期のインスリン導入が有用であることが報告されており、そのほかに②thiazolidinedioneにより炎症を抑える治療、③GADワクチンを用いたimmunomodulationなどが考えられている。

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by md345797 | 2011-01-23 20:45 | 糖尿病の病態生理

NF-κBと炎症と代謝疾患

NF-κB, inflammation, and metabolic disease.

Baker RG, Hayden MS, Ghosh S.

Cell Metab. 2011 Jan 5;13(1):11-22.

【NF-κBと免疫応答】
サイトカインや病原体関連分子パターン(PAMPs: pathogen-associated molecular patterns)は細胞表面のTNFα受容体、TLR(Toll-like receptor)などの受容体を介して、NF-κBの活性化を起こす。肝臓、脂肪組織などにおけるNF-κB活性化が炎症に伴う代謝疾患の発症に関与している。NF-κBは刺激のない状態では、IκBに結合した状態で細胞質に存在するが、サイトカインやPAMPsの細胞表面受容体への結合によって、IKKが活性化され、IκBのリン酸化、degradationによりNF-κBの核への移行が起こり、標的遺伝子の転写が活性化される。これにより、免疫細胞の分化が促進される。特に重要なものは単球からマクロファージへの分化であり、M1マクロファージ(IL-1、6、TNF-αを産生し、自然免疫開始を助ける。また、リンパ球移動を促進し、適応免疫を開始する)とM2マクロファージ(創傷治癒に関与し、抗炎症作用のあるIL-10 を産生する)の2種に大別される。

【炎症と肥満】
肥満のゲノムワイド関連研究で、マクロファージ遺伝子ネットワークと肥満の関連が指摘されている。このメカニズムについては正確には明らかではないが、現在までによく分かっているのは、肥満の脂肪組織における炎症性M1マクロファージの活性化による慢性炎症である。何が脂肪組織に炎症を起こすのかは明らかではないが、栄養過剰による小胞体ストレス、脂肪酸増加に伴うTLRの活性化などが提唱されている。そのほかに、(1)中枢神経系の炎症が過食・肥満を起こす、(2)TLR4が直接、飽和脂肪酸による肥満をもたらす、(3)腸管の細菌叢の異常が肥満を起こす、などのメカニズムが提唱されている。

【NF-κB、インスリン抵抗性、2型糖尿病】
栄養過剰によりIKKβが活性化され、これが直接またはNF-κBによる転写活性化を介してインスリンシグナル伝達障害を引き起こすと考えられている。

【NF-κBと動脈硬化の進展】
動脈硬化は、酸化リポ蛋白が血管内皮細胞からのMIP-1α、MCP-1などの分泌を促進することによる、動脈壁の炎症であると認識されるようになっている。NF-κBは動脈硬化性プラーク形成のいくつもの段階に関与することが知られている。血管内皮細胞特異的にIκBシグナルを阻害したApoE欠損マウスでは、高脂肪食に伴う動脈硬化が少ない。
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by md345797 | 2011-01-19 20:43 | インスリン抵抗性

糖尿病黄斑浮腫に対するラニビズマブの安全性と効果(RESOLVE試験)

Safety and efficacy of ranibizumab in diabetic macular edema (RESOLVE Study): a 12-month, randomized, controlled, double-masked, multicenter phase II study.

Massin P, Bandello F, Garweg JG, Hansen LL, Harding SP, Larsen M, Mitchell P, Sharp D, Wolf-Schnurrbusch UE, Gekkieva M, Weichselberger A, Wolf S.

Diabetes Care. 2010 Nov;33(11):2399-405.

【まとめ】
糖尿病黄斑浮腫(DME: diabetic macular edema)ではVEGF(血管内皮増殖因子)の発現が増加しており、その原因として重要と考えられている。そこで、VEGFに結合し作用を阻害する抗体であるラニビズマブ(ranibizumab)の効果と安全性について検討した。本研究は12か月の多施設、二重マスクの研究であり、ラニビズマブ硝子体内投与群とsham群を比較した。12か月の試験期間後、ラニビズマブ硝子体内投与群はsham群に比べ、中心網膜厚(CRT) と最高矯正視力(BCVA)が有意に改善した。安全性に関しても以前の研究と同様で大きな問題はなかった。ラニビズマブはDMEの治療に有用、安全であり、さらなる長期試験による検討が待たれる。

【論文内容】
DMEは糖尿病網膜症における重要な視力低下原因である。DMEの発症において、VEGFが血管新生と細小血管からの漏出をもたらすことが大きな原因となっている。現在、DMEに対してはレーザー光凝固療法がメインの治療法であるが、新しい治療法としてVEGFを抑制する治療が可能である。現在、VEGFに対するモノクローナル抗体であるラニビズマブの硝子体投与は、新生血管を伴う加齢黄斑変性(nAMD: neovascular age-related macular degeneration)の治療に用いられている。この治療では、硝子体から全身へ循環する抗体のVEGF阻害の安全性を検討する必要がある。そこで、DMEに対するラニビズマブの効果と安全性を検討するため、RESOLVE第Ⅱ相試験が行われた。
ラニビズマブ硝子体投与群 (n=102)はsham群 (n=49)に比べ、ベースラインでのCRT、BCVAに差はなかったが、12か月の試験後ラニビズマブ投与群で、BCVAが有意に改善、CRTが有意に減少した。有害事象に関しては両群で差はなかった。

【追加コメント】
ラニビズマブ(抗VEGF抗体、販売名「ルセンティス® 」ノバルティス)は以前から「新生血管を伴う加齢黄斑変性」に適応だったが、今回EUにおいて、ラニビズマブが、DMEの治療薬として新たな適応症を承認取得した(日本ではDMEに対しては2011年1月現在、第Ⅲ相臨床試験中)。
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by md345797 | 2011-01-18 01:57 | 糖尿病合併症

CRTC3はカテラコミンシグナルをエネルギーバランスに結び付ける

CRTC3 links catecholamine signalling to energy balance.

Song Y, Altarejos J, Goodarzi MO, Inoue H, Guo X, Berdeaux R, Kim JH, Goode J, Igata M, Paz JC, Hogan MF, Singh PK, Goebel N, Vera L, Miller N, Cui J, Jones MR; CHARGE Consortium; GIANT Consortium, Chen YD, Taylor KD, Hsueh WA, Rotter JI, Montminy M.

Nature. 2010 Dec 16;468(7326):933-9.

【まとめ】
CREB(cAMP response element binding protein)を単離し、そのcoactivatorであるCRTC(当初はTORCとも呼ばれていた*)の機能と代謝への関連の解明を続けてきたSalk InstituteのMarc Montminyのグループの報告。CRTC3-/-マウスを作製したところ、脂肪組織でのβアドレナリン受容体のシグナル伝達の減弱によって肥満が促進された。メキシコ系アメリカ人コホートにおいて、転写活性が増加しているヒトCRTC3異型が肥満と関連づけられていることもあり、脂肪細胞のCRTC3はヒトの肥満の発症に関与している可能性がある。

【論文内容】
βアドレナリン受容体が活性化されると、cAMPの上昇に伴ってCRTCs(CREB regulated transcriptional coactivators)による遺伝子発現が増加する。CRTCは3種類(Crtc1-3)が存在し、Crtc1は主に脳に発現しレプチンによるエネルギー消費を、Crtc2(別名TORC2*)は肝臓に発現し空腹時の糖新生を調節している。Crtc2ノックアウトマウスは糖新生が低下し、高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性が減弱している。今回、Crtc3(WATに主に発現している)の役割を検討するため、Crtc3-/-マウスを作製した。

Crtc3-/-マウスは高脂肪食負荷時の体重増加が少なかったが、これはWTと比べ食事摂取・運動量は同じであるのに対し、エネルギー消費(酸素消費量・脂肪酸酸化)が増加していたためと考えられた。またCrtc3-/-マウスでは、高脂肪食による脂肪肝や脂肪組織マクロファージ浸潤も少なかった。また、インスリン感受性が亢進し、耐糖能も正常であった。このマウスの脂肪細胞にISO(isoproterenol, βアドレナリン受容体agonist)を加えると、WTマウスに比べ、lipolysis ratesが増加していた。Crtc3はカテコラミンシグナルに反応して活性化され、Rgs2 (adenyl cyclase活性を阻害するG-protein)の発現を亢進させることによりadenyl cyclase活性を抑制した。

Crtc3による転写活性が増加するミスセンス変異(S72N)と肥満との関連をメキシコ系アメリカ人のコホートで調べたところ、72Nが肥満(BMI, hip-circumference)と関連づけられた。

【結論】
高脂肪食は、エネルギー摂取の増加とそれに伴う肝臓への異所性脂肪蓄積により肥満とインスリン抵抗性を引き起こす。Crtc3は脂肪組織のカテコラミンシグナルを減弱させることにより、この過程に関与している。Crtc3は、予想外なことに、脂肪細胞cAMPシグナルのnegative feedback regulator(シグナルをself-attenuate するメカニズム)であった。また、脂肪細胞においてカテコラミンによるlipolysisやfatty-acid oxidationを制限する、いわゆる「倹約遺伝子」の役割もはたしていると考えられる。

*ここでのTORCやTORC2は、transducers of regulated CREBの略で、mTORC2(mTOR complex 2)とは別物であるので注意。
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by md345797 | 2011-01-17 16:27 | エネルギー代謝

Inflammasomeを介したcaspase-1活性化は、脂肪細胞の分化とインスリン感受性を調節する

The inflammasome-mediated caspase-1 activation controls adipocyte differentiation and insulin sensitivity.

Stienstra R, Joosten LA, Koenen T, van Tits B, van Diepen JA, van den Berg SA, Rensen PC, Voshol PJ, Fantuzzi G, Hijmans A, Kersten S, Müller M, van den Berg WB, van Rooijen N, Wabitsch M, Kullberg BJ, van der Meer JW, Kanneganti T, Tack CJ, Netea MG.

Cell Metab. 2010 Dec 1;12(6):593-605.


【まとめ】
肥満に伴う脂肪組織での炎症は、IL-1β・IL-18を介して、インスリン感受性を低下させる。IL-1β・IL-18は、inflammatomeと呼ばれる蛋白複合体によって調節されるcaspase-1によってcleaveされることにより活性化する。この研究では、inflammasome/caspase-1が主にIL-1βを介して、脂肪細胞分化とインスリン感受性を調節することを示す。肥満モデルマウスでは脂肪細胞でのcaspase-1およびIL-1β活性が増加しており、逆にcaspase-1欠損マウスではインスリン感受性が亢進していた。 In vivoで肥満マウスにcaspase-1阻害薬を投与するとインスリン感受性が増加した。Caspase-1欠損マウスでは、脂肪酸化率が上昇していた。
以上より、inflammasomeは脂肪細胞機能の重要な調節因子であり、caspase-1の阻害が肥満とインスリン抵抗性の新たな治療ターゲットであることが示された。

【論文内容】
Inflammasomeによるcaspase-1の活性化が、脂肪細胞におけるIL-1β、IL-18の活性化を介して、インスリン抵抗性を調節していることを検討した。培養脂肪細胞の分化に伴ってcaspase-1の発現と活性が増加していた。ここでcaspase-1阻害薬(Pralnacasan)を用いて活性を抑制したところ、分化マーカーのPPARγ・adiponectin・Glut4発現が増加、IL-1βの分泌は低下した。Recombinant IL-1βを添加すると脂肪細胞の分化は抑制されたが、IL-18では変化がなかった。

高脂肪食負荷マウスおよびdb/db、ob/obマウスの脂肪組織で、肥満に伴いcaspase-1の活性が増加し、それに伴いIL-1βとIL-18の量も増加した。また、caspase-1欠損マウスでは脂肪細胞の分化が亢進し、adiponectinの発現も増加、インスリンによるAktのリン酸化も亢進していた。なお、NLRP3はinflammasomeの重要な構成因子であり、NLRP3欠損マウスの脂肪組織でも同様の現象が起きた。

Caspase-1欠損マウスでは、脂肪細胞の分化が促進され(小型脂肪細胞化)、脂肪量も低下していた。このマウスおよびIL-1β欠損、NLRP3欠損マウスではインスリン感受性が亢進していた。さらにob/obマウスにcaspase-1阻害薬を経口投与すると、インスリン感受性の亢進、体重減少(摂食減少は伴わない)、脂肪組織中のIL-1βの減少が認められた。また、caspase-1欠損マウスでは脂肪酸化率が増加していた。

【結論】
肥満により、脂肪細胞においてinflammasomeのNLRP3が活性化され、これによりcaspase-1の活性化が起こる。Caspase-1は、IL-1βをcleaveすることにより活性型とし、活性型IL-1βがインスリン抵抗性を惹き起こす。これらの経路の阻害により、脂肪細胞の分化およびインスリン感受性亢進が起き、脂肪酸化が促進される。
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by md345797 | 2011-01-14 18:08 | インスリン抵抗性

NLRP3 inflammasomeは肥満による炎症とインスリン抵抗性を惹起する

The NLRP3 inflammasome instigates obesity-induced inflammation and insulin resistance.

Vandanmagsar B, Youm YH, Ravussin A, Galgani JE, Stadler K, Mynatt RL, Ravussin E, Stephens JM, Dixit VD.

Nat Med. 2011 Feb;17(2):179-88. Epub 2011 Jan 9.

【まとめ】
肥満に伴い、明らかな感染や自己免疫がなくても慢性炎症が起こる。自然免疫のセンサーであるNod-like receptor (NLR) familyのうちnucleotide-binding domain, leucine-rich–containing family, pyrin domain–containing-3 (Nlrp3) inflammasomeは、微生物によらない危険シグナルを認識し、caspase-1 を活性化し、IL-1β・IL-18を分泌するのに重要である。このグループでは、カロリー制限や運動により、2型糖尿病肥満者の体重減少が脂肪組織でのNlrp3発現低下、炎症の減少、インスリン感受性の改善をもたらすことを示した。また、Nlrp3 inflammasomeは脂肪毒性による細胞内セラミドの増加とそれによるcaspase-1 cleavageをもたらすことを明らかにした。マウスでNlrp3 を欠損させると、脂肪および肝臓での、肥満に伴うinflammasome 活性化とインスリンシグナルの亢進が起き、脂肪細胞でのIL-18とIFN-γ発現が低下し、naive T 細胞が増加、effector T細胞が減少した。これらのことから、Nlrp3 inflammasomeは肥満による危険シグナルを感知し、肥満に伴う炎症とインスリン抵抗性を惹起することが明らかになった。

【論文内容】
マウスにカロリー制限をすると、脂肪細胞の大きさの減少に伴い、Nlrp3およびIl1βの発現が低下することが分かった。同様のことが2型糖尿病の肥満者でも認められ、これらの蛋白の発現低下に伴い、インスリン感受性が亢進(HOMA-IRで評価)した。

Nlrp3 inflammasome(inflammasome=複数の蛋白からなる蛋白複合体で、,細胞質内の異物をNLRP3などを介して細胞に対するdanger signalとして認識し,非活性型のprocaspase-1を活性型のcaspase-1にし、casepase-1はpro- IL-1βやpro- IL-18を炎症性サイトカインとして実際に働くIL-1βやIL-18にし、炎症反応を誘導する)は脂肪組織のマクロファージ(ATM)に存在し、高脂肪食による肥満の状態で脂肪組織でのcaspase-1活性化をきたしIL-1、IL-18の分泌が増加する。Nlrp3-/-マウスではこの過程が阻害された。

さらに、Nlrp3欠損マウスは高脂肪食を負荷した状態でも、インスリン感受性が亢進し耐糖能が改善しており、脂肪・肝臓・筋肉でのインスリンによるAKTリン酸化が亢進していた。次に、肥満の過程でATMが脂肪酸からセラミドを合成することから、Nlrp3 inflammasomeがセラミドを感知するかどうかを検討した。Nlrp3-/-のマクロファージではセラミドによるIL-1βの分泌が低下していた。Nlrp3欠損により、セラミドによるATMの炎症性活性化(TNFαの発現など)が起こらなくなった。

肥満状態での脂肪組織においてT細胞活性化も炎症の維持に重要である。Nlrp3欠損により、肥満マウスの脂肪組織のeffector T細胞が減少、マクロファージを介するT細胞活性化も減少していた。

【結論】
肥満に伴い、マクロファージが脂肪細胞に浸潤し炎症性メディエーターを放出することがインスリン抵抗性の原因となっているが、免疫細胞活性化の上流のメカニズムは不明であった。今回の報告で、Nlrp3 inflammasomeが脂肪細胞のcaspase-1活性化を介して、炎症を起こすメカニズムが明らかになった。
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by md345797 | 2011-01-13 14:06 | インスリン抵抗性

神経でのリポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損は、エネルギーバランスを変化させ肥満を惹き起こす

Deficiency of lipoprotein lipase in neurons modifies the regulation of energy balance and leads to obesity.

Wang H, Astarita G, Taussig MD, Bharadwaj KG, Dipatrizio NV, Nave KA, Piomelli D, Goldberg IJ, Eckel RH.

Cell Metab. 2011 Jan 5;13(1):105-13.

【まとめ】
FFAを視床下部に注入すると食欲が抑制される。LPL(=TG-rich リポ蛋白からFFAを放出させる)がその過程にどのように影響しているか検討するため、神経特異的LPL欠損マウス(NEXLPL-/-)を作製した。このマウスは過食・肥満をきたし、視床下部での食欲亢進ペプチドであるAgRP・NPYの発現が増加、代謝率が低下していた。また、TG-rich リポ蛋白からのFFA取り込みが低下していた。したがって、脳でのLPLを介したTG-rich リポ蛋白の感知が、体重・エネルギーバランスの中枢制御に重要である。

【論文内容】
視床下部でのFA(fatty acid)によるエネルギーバランス調節についてはよく知られているが、脳でのde novo合成なのか、末梢でのFA利用なのかは分かっていない。FFAを視床下部(第三脳室)に注入すると食欲が抑制されるが、in vivoでのFFAの由来については不明である。そこで、神経特異的LPL欠損マウス(NEXLPL-/-)を作製し、中枢神経におけるFFA産生が摂食・エネルギー消費に与える役割を検討した。その結果、このマウスはコントロールと比較して肥満であり、一時的に摂食が増加し、代謝率・運動量が低下していた。

次に脳のLPLが、TG-rich リポ蛋白のFAをどう利用しているか検討するため、放射性ラベルしたTGを含むカイロミクロンをこのマウスに注入した。その結果、NEXLPL-/-マウスの視床下部ではTG-rich リポ蛋白由来のFA取り込みが減少していた。このことがエネルギーバランスと体重にどのように影響しているかを検討するため、食欲調節神経ペプチドの発現を調べた。その結果、NEXLPL-/-マウスの視床下部では食欲亢進ペプチドであるAgRPとNPYの発現が増加していた。

【結論】
神経特異的なLPL欠損により、肥満が惹起される。これは摂食亢進とともに運動量と代謝率の低下によって起こっており、視床下部のAgRPとNPYの発現増加を介している。
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by md345797 | 2011-01-12 16:37 | エネルギー代謝