一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

<   2011年 04月 ( 19 )   > この月の画像一覧

哺乳類AMPKの構造とそのADPによる調節

Structure of mammalian AMPK and its regulation by ADP.

Xiao B, Sanders MJ, Underwood E, Heath R, Mayer FV, Carmena D, Jing C, Walker PA, Eccleston JF, Haire LF, Saiu P, Howell SA, Aasland R, Martin SR, Carling D, Gamblin SJ.

Nature. 2011 Apr 14;472(7342):230-3.

【まとめ】
AMPKは、αサブユニット(触媒サブユニット)とβ、γサブユニット(調節サブユニット)からなるヘテロ三量体で、 αサブユニットのキナーゼドメイン内にあるactivation loopのThr172リン酸化によって不活性型から活性型に変換される。さらに、γサブユニットにAMPが結合すると、①AMPKの脱リン酸化を防ぐと同時に、②アロステリックな活性化を引き起こす。この研究では、ADPもγサブユニットに結合するが、ADPの結合では①AMPKの脱リン酸化は妨げられるが、アロステリックな活性化は起こらないことを示した。また、活性なAMPKの結晶構造を決定し、上記のAMPK活性調節の機構を示すモデルを作成した。

【論文内容】
AMPKは、上流のキナーゼ(CAMKKβ、LKB1)によって、αサブユニットのThr172がリン酸化されることで、その活性は数百倍に増加する。AMPは、Thr172の脱リン酸化を防ぐことによって、AMPKの活性化が維持されることが以前から示されている。AMPはそれと同時に、AMPKのアロステリックな変化を起こし、その活性をさらに2-5倍増加させることも知られている。AMPKのγサブユニットには4か所のnucleotide-binding sites (ATP、ADPまたはAMPが結合しうる部位)があり、3か所がすでに結合している。

ADPはAMPと違ってアロステリックなAMPKの活性化は起こさないが、AMPと同様にThr172の脱リン酸化は抑制する。通常の細胞では、ATP濃度は3000-8000μM、ADPは50-200μM、AMPは0.5-5μMとなっており、ADPがAMPKの脱リン酸化阻害に作用していることは生理的なメカニズムとして重要と考えられる。

さらに、活性なAMPKの結晶構造から、AMPK活性調節のメカニズムを明らかにした。下図では、R(調節ドメイン)に、K(キナーゼドメイン)のα-hook(調節サブユニットとの結合部位)が結合している。基底状態(細胞のエネルギーが充分の場合:右端図)では、調節ドメイン(R)のsite 3にはATP(図右)が結合している。ここで、キナーゼドメインh(K)の中にあるacitivation loop(キナーゼドメイン内の紫色のループ)のThr172はリン酸化を受けていない。この状態からThr172が上流酵素によってリン酸化されると、Kのキナーゼ活性は大きく上昇する(図中央)。さらに、Rに結合するのがATPからADPに変化すると(図左)、アロステリックな変化によりactivation loop が脱リン酸化から保護される。

d0194774_5163443.png

[PR]
by md345797 | 2011-04-25 18:01 | シグナル伝達機構

2型糖尿病における血糖目標の個別化

Individualizing glycemic targets in type 2 diabetes: Implications of recent clinical trials.

Ismail-Beigi F, Moghissi E, Tiktin M, Hirsch IB, Inzucchi SE, Genuth S.

Ann Intern Med. 2011 Apr 19;154(8):554-559.

【まとめ】

4つの大規模試験(UKPDS、ACCORD、ADVANCE 、VADT)の結果が出た現在、2型糖尿病治療における血糖目標は個別化(individualization)して考える必要がある。概略をまとめると、①年齢が若いほど、②糖尿病の罹病期間が短いほどHbA1c目標を低く設定する。また、③CVDの診断がついている患者や合併症の進行した患者ではHbA1c目標を高めに設定する。これらの目標は、心理社会経済的な状況を考慮して変更する。
(注:文中のHbA1cはNGSP値であり、現時点で日本の現状に当てはめるには0.4%を引いて考える)

【論文内容】
2型糖尿病治療において、血糖目標を個別化して設定すること(individualizing glycemic goals)は重要である。本論文では、外来診療における個々の患者についての血糖目標の枠組みを提示する。
2型糖尿病を対象とした4つの大規模臨床試験の概要をまとめると、
UKPDS:新規発症2型糖尿病の中年(平均53歳)を対象に、強化血糖降下療法と通常療法の効果を比較したもの。結果はDCCT(1型糖尿病が対象)と同様で、強化療法でミクロアルブミン尿と網膜症の発症・進展が抑制されたが、心筋梗塞のリスクは減らなかった。DCCT10年後の追跡調査では、2年後に強化療法群でHbA1cが8%に戻っても心筋梗塞の割合は減少していた。

以下の②③④は高齢(60-66歳)で糖尿病罹病期間が長い患者で、心血管疾患(CVD)のリスクファクターか既往がある人を対象としている。
ACCORD:5年間の追跡を予定していたが、強化療法群での総死亡とCVD関連死が大きく3.5年で中止された。
ADVANCE:HbA1c 6.5%以下を目標に強化療法を行い、CVDアウトカムについて検討した。
VADT:コントロール不良の2型糖尿病を対象にHbA1c 6.0%以下を目標に強化療法を行った。
③と④では、死亡率に差はなかったもののCVDに関して強化療法のメリットはなかった。また、強化療法群で体重増加と重篤な低血糖が2-3倍多く認められた。①‐④で共通しているのは、強化療法で細小血管症が抑制されたということである。これらの結果をもとに、以下のように臨床的特徴と心理社会経済的状況を考慮して、個別化した血糖目標を設定した。

臨床的特徴
併発症:併発している疾患によって血糖目標の設定は変わってくる。併発症で寿命短縮が予想される場合などはやや高めの血糖目標でもよい。

年齢:若年で発症して間もない2型糖尿病では今後高血糖にさらされる期間が長いが、高齢で発症した場合は併発症があることが多く、残った寿命も短い。若年発症が多くなり、高齢化する現代において、糖尿病治療の際に年齢を考慮することは重要である。

糖尿病罹病期間:UKPDSは新規に糖尿病と診断された患者が対象だったが、ACCORD/ADVANCE/VADTは8.0-11.5年の罹病期間のある糖尿病患者が対象であった。これらの結果は、早期からの強化療法の重要性を示唆している。

CVD(大血管症):心筋梗塞の既往のある2型糖尿病では、イベント再発の危険がある。しかし、強化療法では新たなCVDイベントや死亡率の低下が見られなかった。進行したCVDの患者ではあまり厳格なHbA1cの低下は望ましくない。

細小血管症:Kumamoto studyでは、強化インスリン療法でアルブミン尿と網膜症の進展を抑制できた。ACCORDでも強化療法で網膜症の進展が抑制されたが、進行した細小血管症の複合転帰は改善されなかった。自律神経障害の患者では、低血糖に気づかないことがあったり、心疾患死亡率が高いことがあるので注意する。

重篤な低血糖:強化療法は通常療法に比べ、低血糖が2-3倍多く、特に認知機能が落ちている人に多い。ACCORD、ADVANCEでは低血糖と死亡率の関連が示唆されているが、直接の因果関係は示されていない。重篤な低血糖を起こした患者では、強力なHbA1cの低下は推奨されない。

心理・社会・経済的状況
安全性とサポート:一人暮らしで周囲のチェックがない患者には高度な強化インスリン療法は不適切。患者教育やコーチングは患者のエンパワーメントにつながる。

薬剤の副作用:インスリン・SU薬による体重増加、低血糖、チアゾリジン系薬剤による浮腫、心不全、骨折など。副作用と血糖降下のリスク・ベネフィットを考慮する。
心理的または認知状態:抑うつは糖尿病でしばしば見られ、目標達成を妨げる。糖尿病における認知機能抑制(脳血管障害、アルツハイマー病)も問題となる。

経済的考慮:古くからよくある安い薬で治療すると、患者からは劣った治療を受けていると取られることもある。糖尿病の総死亡率は、低所得層で多い。これらのことも十分議論されるべき。

QOL:治療の究極の目的は短期・長期的なQOLを改善することである。

治療目標の設定 (実際のHbA1c値については論文の表2参照)
概略をまとめると、①年齢が若いほど、②糖尿病の罹病期間が短いほどHbA1c目標を低く設定する。また、③CVDの診断がついている患者や合併症の進行した患者では、HbA1c目標を高めに設定する。さらにこれらの目標は、心理社会経済的な状況を考慮して変更する。
[PR]
by md345797 | 2011-04-22 21:03 | 症例検討/臨床総説

原子力発電所事故の短期的および長期的な健康へのリスク

Short-term and long-term health risks of nuclear-power-plant accidents.

Christodouleas JP, Forrest RD, Ainsley CG, Tochner Z, Hahn SM, Glatstein E.

N Engl J Med. April 20, 2011 online publication. 364:2334-2341 June 16, 2011.

【論文内容】
2011年3月11日、マグニチュード9.0の地震とそれによる津波で福島第一原子力発電所が損害を受けたが、その全容はいまだ明らかではない。このような事故に伴う放射線被曝についてスリーマイル島事故(1979年)、チェルノブイリ事故(1986年)に関する議論をもとに述べる。

被曝のメカニズム
原子力発電所では、燃料であるアイソトープを分裂させエネルギーを取り出すが、その際放射性の核分裂生成物が生成される。事故が起こると、これらの生成物が環境中に放出されうる。スリーマイル島事故では少量の放射線が放出されただけであったが、チェルノブイリ事故では爆発とそれに伴う火災によって大量の放射性物質が大気中に放出され、事故の年に28名が放射線被曝のために死亡した。福島の放射能放出と健康被害の状況は、これら二つの事故の中間にある。

d0194774_10185724.jpg


放射線被曝の種類は、①放射線源の近傍にいることによる全身または部分被曝、②外部汚染、③内部汚染に分けられる。①では放射線の種類やエネルギーによって到達度がさまざまである(β線は組織の表面まで到達する一方、γ線は深く浸透するなど)。②は核分裂生成物が付着することによって起こるもので、原子炉事故近隣の住民にできるだけ屋内に留まるように指示が出たのはこのためである。③は核分裂生成物が体内に入ることであり、チェルノブイリ事故の後500万人が内部汚染によって被曝したとされている。原子炉事故の後は、多種類の種類のラジオアイソトープが環境に放出される(下の表参照)。中には半減期の短いもの、半減期の非常に長いもの、気体のもの、線量の少ないものなどさまざまである。その中でもヨウ素131は、吸入や食物連鎖から体内に入り甲状腺に蓄積してβ線源となる。福島では放射性の水が海に放出され、海産物が汚染されて食物連鎖に影響していると考えられる。

d0194774_10171451.jpg

放射線被曝の臨床的な結果
放射線被曝によって起こるDNA障害は、回復する場合もあり、発癌や細胞死に至る場合もある。その臨床的な効果は、被曝の種類(前述の①②③)、被曝した臓器の種類、放射線の種類(β線かγ線か)、身体の深部到達度、被曝線量、線量率(被曝した線量と時間の割合)などさまざまな要因によって異なる。また、放射線の吸収線量をGy、生物学的影響を加えた効果線量をSvで表す。高エネルギーのγ線を全身に被曝した場合、1Gy=1Svである。医療で被曝する線量とスリーマイル島、チェルノブイリ事故での被曝線量を比較した(論文の表2)。

急性放射線障害とその治療(放射線被曝の短期的影響)
全身に1回で1Gy以上の放射線に被曝すると、急性放射線障害(acute radiation sickness; 急性放射線宿酔とも)が起こる。チェルノブイリ事故(最高で16Gyの被曝)では、急性放射線障害患者134名が骨髄抑制を起こし、19名が放射性皮膚炎、15名が強度の胃腸障害を起こした。急性放射線障害は、前駆症状、潜伏期、発症の3段階に分けられる。この3段階と被曝の程度を合わせて、嘔吐・リンパ球減少・疲労・発熱などの症状をまとめた(論文の表3)。治療としては、まず生命を脅かす障害(外傷、熱傷など)があればその管理、さらに放射性物質の汚染除去を行う。中等度の線量(<2Gy)を受けている場合は悪心・嘔吐の管理、2Gy以上の場合は骨髄抑制に対処し抗菌薬の投与や造血因子の投与を検討する。消化管障害には保存療法としてプロバイオティクスの投与などを行う。

長期的な発癌リスクの増加(放射線被曝の長期的影響)
日本の原子爆弾およびチェルノブイリ事故の生存者に白血病、固形癌の発症が多いことが知られているが、後者の場合発癌のスクリーニングが強化されている可能性などがあり、同列に扱うことはできない。しかし、チェルノブイリ事故における小児生存者でヨウ素131による甲状腺癌の発生率が高いことには十分なエビデンスがある。また、チェルノブイリ事故後に安定性ヨウ素を投与された小児は、されなかった小児に比べ甲状腺癌の発症が3分の1だったとする報告もある。ヨウ素131が放出された地域においては、その地域産の食物や水の消費は最小限にすべきである。ヨウ素の半減期は8日のため、2-3か月たてば大部分のヨウ素131は消失する。さらに、それらの地域ではヨウ素131の甲状腺への取り込みを抑えるため、被曝後数時間以内にヨウ化カリウムを服用するようアドバイスをする機関もある。ただしヨウ化カリウムには毒性もあるが、1000万人の青少年が予防的にヨウ化カリウムを服用したポーランドでは罹患率が低かったとする報告がある。

【結論】
原子炉事故は非常にまれな事象であるため、被曝を受けた患者や一般への対応に関する経験がほとんどない。しかし関連機関は、これらの急性放射線障害や慢性の発癌リスクに関して一般の理解を広めておく必要がある。
[PR]
by md345797 | 2011-04-21 21:16 | その他

食塩感受性高血圧における腎β-adrenergic–WNK4経路のエピジェネティックな調節

Epigenetic modulation of the renal β-adrenergic–WNK4 pathway in salt-sensitive hypertension.

Mu SY, Shimosawa T, Ogura S, Wang H, Uetake Y, Kawakami-Mori F, Marumo T, Yatomi Y, Geller DS, Tanaka H, Fujita T.

Nat Med. Published online: 17 April 2011.

【まとめ】
高食塩食は腎の交感神経活性を上げ、腎のNa保持を介して高血圧をもたらすが、この分子機序は不明である。この研究では、β2-adrenergic receptor (β2AR) の刺激が、Na再吸収の調節因子であるWNK4の転写を低下させることを示した。β2AR刺激はcAMP依存性にhistone deacetylase-8 (HDAC8)活性を抑制し、ヒストンのアセチル化を増加させる。このことが、グルココルチコイド受容体(GR) がプロモーター部位のグルココルチコイド反応性エレメント(GRE)に結合することにつながり、WNK4発現を低下させる。食塩感受性高血圧ラットでは、交感神経が過剰に活性化し、食塩負荷で腎のWNK4発現が抑制され、Na+-Cl− cotransporterを活性化し、食塩感受性高血圧が起きる。食塩感受性高血圧の発症にはWNK4転写のエピジェネティックな調節が関与していることが示唆され、腎のβ2AR-WNK4経路は食塩感受性高血圧の治療のターゲットになりうる。

【論文内容】
Serine-threonine kinaseであるWNKファミリーは、腎尿細管Na再吸収に重要な役割を果たしている。WNK4遺伝子のloss-of-function変異を持つ人(偽性アルドステロン症Ⅱ型)はNa+-Cl− cotransporter (NCC)とepithelial Na+ channel (ENaC)の活性化を介して遠位ネフロンでのNa再吸収が増加し、食塩感受性高血圧を示す。同様に、WNK4のdominant-negative mutant を過剰発現させたトランスジェニックマウスは、遠位尿細管(DCT)の過形成とDCTでのNCCの発現亢進が起き高血圧をきたす。

NCCとENaCは交感神経のNa再吸収調節、血圧調節に関わっており、食塩感受性高血圧ラットでは、腎の交感神経活性化とNCC活性上昇が見られる。腎の交感神経活性化はβ2AR活性化とcAMP増加を伴い、腎のENaC活性化によりNa再吸収を亢進させる。

β2AR刺激は腎のWNK4を抑制し、食塩感受性高血圧を発症させる
Norepinephrine (NE)またはisoproterenol (Iso)をマウスに持続注入すると、正常食では血圧は上がらないが、高食塩食にすると血圧が上昇する。この効果はβ遮断薬であるpropranololで阻害される。このとき、腎におけるWNK4発現はNEで低下し、propranololで低下が阻害される。交感神経活性化による食塩感受性高血圧発症にどのβ adrenergic受容体が重要かをβ1KOとβ2KOを用いて検討したところ、β2KOでは上記の高食塩食での血圧上昇とWNK4発現低下が見られなかったため、β2AR刺激を介するものであることが分かった。

WNK4はNCCの負の調節因子であり、マウスにNEを投与すると、NCCの量およびリン酸化が増加し、これはpropranololで阻害された。NCCのin vivoでの役割を検討するため、NCC阻害剤であるhydrochlorothiazide (HCTZ) を高食塩食負荷Iso注入マウスに投与したところ、FENaとUNaVが増加した。そこにβ2ARアンタゴニスト(ICI118551)を投与すると、その効果が消失したため、β2ARがNCCを活性化していることが分かる。

GRは、β2AR刺激によるWNK4抑制に不可欠である
WNK4転写はGRによって負の調節を受ける。グルココルチコイド(Dex)とIsoをmouse DCT(mDCT)細胞に添加したところ、IsoだけではWNK4発現が低下しなかったが、DexはWNK4発現を低下させ、Isoはその低下を増強した。

さらに、mDCT細胞においてGRをsiRNAで欠損させたところ、Iso・DexによるWNK4発現低下はブロックされた。また、GR欠損マウスにIsoを投与してもWNK4発現は低下せず、高食塩食にしても血圧は上がらなかった。これらのことから、GRはβ2ARによるWNK4発現低下と食塩による高血圧発症に不可欠であると考えられた。

β2AR活性化によるWNK4転写のヒストン調節
ヒストンアセチル化はGR依存性に(核内のGR-GRE結合を介して)遺伝子の転写を促進する。mDCT細胞をIsoで刺激すると、ヒストンH3、H4のアセチル化が増加し、これはPKA阻害薬H89で阻害された。ヒストンアセチル化はHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)によって調節されるため、HDAC阻害薬(tricostatin A)添加によってIsoによるWNK4転写の抑制がブロックされたことから、IsoによるWNK4抑制の過程はWNK4プロモーターのヒストン修飾はHDAC(mutantを用いた検討からHDAC-8)活性の抑制によるものと考えられた。

食塩感受性高血圧における異常なβ2AR-WNK4経路
正常ラットでは、高食塩食を与えても腎のNEターンオーバーが少ないが、食塩感受性高血圧のDOCA-saltラットでは大きい(腎の交感神経活性化が大きい)。この腎の交感神経の過剰活性化によりWNK4抑制が起こり、NCCが増加してNa保持が過剰になる。Dahl-Sラットでも同様で(Dahl-Rと比較して)、高食塩食でNEターンオーバーが大きく、血圧上昇する。Dahl-Sラットで腎の交感神経切断術を施行すると、高食塩によるWNK4低下が起こらず、高食塩による血圧増加が起こらなくなる。

【結論】
食塩感受性高血圧の分子機序を明らかにした。高食塩食によって交感神経活性化が起こり、β2ARが活性化、PKAを介してHDAC8の活性を低下させる。これにより、核内のGREのヒストンアセチル化が増加、グルココルチコイドおよびGRが結合し、これがWNK4の発現低下をもたらす。さらにWNK4の低下はNCCの活性化を起こし、それがNa保持の増加につながり、高食塩食による高血圧が起きる。
[PR]
by md345797 | 2011-04-20 04:07 | 腎高血圧

福島第一原子力発電所の作業員の安全性

Safety of workers at the Fukushima Daiichi nuclear power plant

Tanimoto T, Uchida N, Kodama Y, Teshima T, Taniguchi S

Lancet. April 15, 2011. (Published Online)

【Correspondence内容】
2011年3月11日、マグニチュード9.0の地震とそれに伴う津波が日本の東北部の都市を破壊し、東京電力福島第一原子力発電所の冷却システムが機能しなくなり、現在数百名の作業員が復旧作業を行っている。4月12日には、原子力安全・保安院が危機の深刻度を最悪のレベル7に引き上げ、1986年のチェルノブイリ事故と同等と判断した。

一般的に、急速に分裂する細胞(造血細胞、消化管細胞など)は放射線感受性が高い。5Gy以上の放射線被曝の場合、造血細胞に対しては幹細胞レスキューが必要である。そのため3月25日に、福島の作業員の放射線被曝事故に備えて自家末梢血幹細胞(autologous PBSCs)を採取・貯蔵することを提案した。この自家末梢血幹細胞移植の計画の利点は、①他人からの移植と違ってGVHDがない、②免疫抑制剤が不要、③造血細胞の回復が骨髄細胞より速い、④冷凍保存が容易、⑤安全性が確立している、⑥万一白血病を発症した際の治療にも使える、などである。この方法の限界は、①骨髄障害の障害にしか用いられない(消化管や肺の障害には使えない)、②アフェレーシスの過程などで副作用が生じうる、③医療費のコストが高い(これは製薬会社の寄付で補てん可能であるが)、などである。

3月29日に日本造血細胞移植学会は、この計画に全国107施設が対応可能、とする声明を発表した。一方で、国の原子力安全委員会は、自家末梢血幹細胞採取・貯蔵は不要と発表。理由として作業員の負担が大きい、専門家・国民のコンセンサスが得られていないなどとした。

日本の原子力産業は史上最悪の危機を迎えており、世界中の人がその情報開示の不透明性を懸念している。この事態で最も重視されるのは、作業員の生命と地域社会を守ることである。福島原発を廃炉にするまでには数年を要し、その間の放射線被曝事故のリスクが大きくなると、自家末梢血幹細胞の貯蔵はますます重要になってくる。この計画が正しいかどうかの判断は、通常時の費用対効果のバランスではなく、作業員の観点からなされるべきである。東京の虎の門病院では、要求に応じて自家末梢血幹細胞を採取し貯蔵する用意ができている。
[PR]
by md345797 | 2011-04-16 23:08 | その他

脂肪酸によるNLRP3-ASC inflammasomeの活性化はインスリンシグナル伝達を障害する

Fatty acid-induced NLRP3-ASC inflammasome activation interferes with insulin signaling.

Wen H, Gris D, Lei Y, Jha S, Zhang L, Huang MT, Brickey WJ, Ting JP.

Nat Immunol. 2011 May;12(5):408-15. Epub 2011 Apr 10.

【まとめ】
高脂肪食と炎症がインスリン抵抗性を惹起することはよく知られており、IL-1βの関与が示唆されているが、高脂肪食中の脂肪酸がどのようにIL-1βを誘導し、IL-1βがどのようにインスリンシグナル伝達を変えるかは不明である。この研究では、飽和脂肪酸であるパルミチン酸(palmitate)がNLRP3-ASC inflammasomeを活性化し、caspase-1、IL-1β、IL-18の産生につながることを示す。この経路には、AMPKの不活化、ミトコンドリアの活性酸素種(ROS)産生亢進、ULK1オートファジーシグナル伝達の低下が関与している。マクロファージにおけるinflammasomeの活性化はIL-1βを介してインスリンシグナル伝達を障害し、in vivoで耐糖能とインスリン感受性を障害する。

【論文内容】
インスリン抵抗性は低レベルの全身性炎症を伴い、炎症性サイトカインの産生が増加している状態と考えられている。IL-1βは2型糖尿病のインスリン抵抗性への関与が知られており、臨床研究ではIL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA=anakynra)やIL-1β抗体が2型糖尿病の治療に有用であることが示されている。また、高脂肪食による血漿中FFAの増加はTLRsを介して、NF-κB依存性にTNFやIL-6を産生につながるが、TLRsに加えてNLR(Nod-like receptor)ファミリーがどのようにFFAへの反応に関わっているのかは分かっていない。そこで、NLR分子であるNLR3(nucleotide-binding domain, leucine-rich–containing family, pyrin domain–containing-3)、アダプター蛋白であるASC(別名PYCARD)、およびprocaspase-1を含む複合体であるinflammasomeがIL-1β分泌にどのように関与し、IL-1βがインスリンシグナル伝達をどう障害するかを検討した。

パルミチン酸はNLRP3-ASC inflammasomeを活性化する
Caspase-1によるIL-1βとIL-18の産生には2つのシグナルが必要で、一つはLPSなどによってprimingされたマクロファージによるpro-IL-1β、pro-IL-18の転写とtranslocationで、もう一つがprocaspase-1をcaspase-1にcleaveするinflammasomeの活性化である。高脂肪食によって増加するパルミチン酸は、血漿中に最も豊富に存在する飽和脂肪酸の一つである。パルミチン酸はLPS刺激後の骨髄由来マクロファージからのIL-1βの産生を促進するが、このパルミチン酸によるIL-1β産生促進は、NLRP3、ASC、caspase-1(Nlrp3-/-、Pycard-/-またはCasp1-/-)欠損のマクロファージでは認められず、NLRP3-ASC inflammasome活性化依存性と考えられる。

Inflammasome活性化はAMPK-ROSシグナル伝達を伴う
活性酸素種(ROS)はinflammasome活性化に必要である。マクロファージをパルミチン酸とLPSで刺激するとROSが産生され、これはROS阻害剤であるAPDCで抑制される。APDCはパルミチン酸によるIL-1β産生やcaspase、IL-1βのcleavageも阻害した。また、AMPKは脂肪酸代謝のメディエーターであり、NADPH oxidaseを阻害することでROSを抑制し、マクロファージで抗炎症作用を持つと考えられている。マクロファージをパルミチン酸とLPSで刺激すると、AMPK-αサブユニットのリン酸化が低下した。AMPK刺激剤AICARを加えると、パルミチン酸とLPSによるROS産生が減少し、IL-1β産生が阻害された。マクロファージにAMPKのconstitutive active α1サブユニットを発現させても、パルミチン酸とLPSによるIL-1β産生が抑制された。

パルミチン酸は、AMPKを介して、オートファジーを抑制しミトコンドリアROS産生を亢進させる
さらに、パルミチン酸とLPSによるAMPK活性低下とその下流にあるinflammasome活性化の経路の詳細、特にオートファジーとミトコンドリアROS産生について検討した。パルミチン酸とLPSによりAMPK-αリン酸化が低下することに伴いオートファジーの低下が起こり、AICARによってオートファゴソームが増加した。AMPKはオートファジー活性化因子であるULK1をリン酸化・活性化するが、パルミチン酸によりULK1の活性化は阻害された。また、パルミチン酸はミトコンドリアROS産生(MitoSOX stainingで判定)を亢進させた。なお、この亢進はAICARにより消失した。以上よりパルミチン酸とLPSは、AMPKを阻害することにより、オートファジーを抑制し、ミトコンドリアROS産生を亢進させることで、inflammasome活性化を起こしていると考えられた。

パルミチン酸によるIL-1β増加はインスリンシグナル伝達をin vivoで阻害する
次に、パルミチン酸→NLRP3-ASC inflammasome→IL-1β産生がどのようにインスリンシグナル伝達を障害するかについて検討した。マウスの培養肝細胞であるFL38B細胞を用い、IL-1βおよびTNFα添加により、インスリンによるAktのSer473リン酸化が低下し、IRS-1のSer307リン酸化が増加することを確認した。FL38B細胞に野生型(WT)マクロファージのmediumを添加するとインスリンによるAktのリン酸化は抑制されたが、NLRP3、ASC、caspase-1欠損マクロファージのmediumを添加しても変化はなかった。WTマクロファージのmediumにIL-1β阻害剤(anakinra)、TNF中和抗体を加えるとAktリン酸化抑制が解除されたため、これらIL-1βとTNFαがインスリンシグナル伝達を障害していると考えられた。

IL-1βとTNFは協調してインスリン抵抗性を惹起する
IL-1βのin vivoでの効果を検討するため、マウスにIL-1βを注入したところITTでのインスリン感受性は低下した。一方、IL-1β欠損マウスに高脂肪食を負荷してもインスリン抵抗性にならなかった。IL-1βをWTマウスに注入するとTNF濃度が上昇したが、Tnfa-/-マウスに注入した場合は部分的にインスリン抵抗性は改善した。すなわちIL-1β単独でもインスリン抵抗性を悪化させることが示された。

NLRP inflammasomeはin vivoでインスリン抵抗性を促進する
最後に、NLRP3-ASC依存的なIL-1β産生がin vivoでインスリン抵抗性を起こすかを検討した。NLRP3欠損またはASC欠損マウス(いずれもinflammasomeの構成因子が欠損している)に高脂肪食を負荷しても、血糖・インスリンは低値であり、耐糖能・インスリン感受性ともに悪化しないことが分かった。ASC欠損マウスとWTマウスの間での骨髄移植実験により、この改善効果は骨髄由来細胞によるものであることが分かり、造血細胞でのinflammasome活性化が関与している(炎症性サイトカインの放出を促し、インスリンシグナル伝達障害を起こしている) と考えられた。

【結論】
高脂肪食によるパルミチン酸が、マクロファージのAMPKを活性化→オートファジー低下とミトコンドリアROS産生の亢進→マクロファージのNLRP3-ASC inflammasomeを活性化→マクロファージからIL-1β産生亢進→インスリンシグナル伝達の障害、インスリン抵抗性亢進、耐糖能の悪化という経路が明らかになった。高脂肪食によるインスリン抵抗性を説明するメカニズムにinflammasomeが関与していることが示された。

【解説記事】
Dampening insulin signaling by an NLRP3 'meta-flammasome'.
Choi AM, Nakahira K.
Nat Immunol. 2011 May;12(5):379-80.

本論文およびVandanmagsar B et al. (Nat Med, 2011)についての解説記事より。

d0194774_1554379.jpg

[PR]
by md345797 | 2011-04-14 00:10 | インスリン抵抗性

Lipodystrophy:病態生理と治療の進歩

Lipodystrophy: pathophysiology and advances in treatment.

Fiorenza CG, Chou SH, Mantzoros CS.

Nat Rev Endocrinol. 2011 Mar;7(3):137-50.

【Lipodystrophyとは】
Lipodystrophyとは、完全なまたは部分的な脂肪組織の消失(lipoatrophy)と他の部位への病的な脂肪の蓄積(lipohypertrophy)が起きている状態を指す包括的用語である。遺伝的なものと後天的なものがあるが、遺伝的なものはまれであり、現在最も多いタイプのlipodystrophyはHIVの治療(HAART)を受けている患者におけるHALS(HIV-associated lipodystrophy syndrome)である。

【Lipodystrophyの分類】
Lipodystrophyは、病因によって(先天的・後天的)または脂肪組織消失のパターンによって(全身性・部分性)分類される。

全身性lipodystrophy:
Congenital generalized lipodystrophy(CGL)はまれな遺伝疾患である(フォスファチジン酸合成酵素であるAGPAT1遺伝子変異や脂肪分化に関わるseipinをコードするBSCL2遺伝子変異などによる)。後天的全身性lipodystrophy(Lawrence-Seip症候群)は、皮下脂肪の炎症や自己免疫などによって起き、皮下脂肪の著明な減少、インスリン抵抗性、低アディポネクチン血症などを伴う。

部分性lipodystrophy:
先天的部分性lipodystrophyは多くのタイプがあるが、いずれもきわめてまれなものである。FPLD(familial partial lipodystrophy)1,2,3があり、FPLD3はPPARγの遺伝子変異である。後天的部分性lipodystrophyでは、Barraquer-Simons症候群は感染や自己免疫疾患に関与している。
HIVの治療(Highly Active Anti-Retroviral Therapy:HAART)を受けている患者におけるlipodystrophy (HALS) は重要な問題である。これは背頚部と腹部の脂肪沈着に、四肢の脂肪消失を伴う。HALSの発症メカニズムはよくわかっていないが、HAARTにおける核逆転写阻害剤(NRTIs)がもつミトコンドリア毒性が脂肪のミトコンドリア増殖の異常を促したり、蛋白分解酵素阻害剤(protease inhibitors) が脂肪分化異常を促すことによると考えられている。

【Lipodystrophyの治療】
Lipodystrophyは上記のように病因が多様であるため、治療も多岐にわたる。
まず食事栄養療法と運動を含む生活習慣改善が第一に必要である。糖尿病の管理では、メトホルミン(HALSの腹部内臓脂肪蓄積に有効)やチアゾリジン系薬剤(pioglitazoneについてはさらにエビデンスが必要)が用いられる。高脂血症の管理として、主にHALSに対してスタチン、フィブラート、ニコチン酸が用いられる。エゼチミブの効果には限界がある。

HALSの管理:
HAARTの調節が必要である(心筋梗塞の既往のある患者にはprotease inhibitorを避けるなど)。さらに、HALSの患者はGHが不足しているため、GHまたはGHRHを投与することが推奨されている。外見の問題から脂肪吸引を行うこともある。

【Lipodystrophyにおけるアディポカイン】
Lipodystrophyではアディポネクチンが低値であり、インスリン感受性が低下している。マウスの実験では先天的lipodystrophyのモデルマウスやprotease inhibitor投与による高脂血症でアディポネクチン投与が有効であった。

Lipodystrophyではレプチンも低値である。マウスモデル(PPARγノックアウトマウス、Agpat2 nullマウス、aP2-DT-Aマウス、A-ZIP/F-1マウスなど)のインスリン抵抗性改善や脂肪肝の軽減にはレプチン補充が有効である。ヒトでは、組み換えヒトレプチン (metreleptin)を用いた臨床研究が行われている。先天的または後天的な全身性lipodystrophyに、生理的用量のmetreleptinが有効であり、インスリン抵抗性の改善、脂肪量の減少(満腹感)が見られる。HALSに対するプラセボとの無作為比較試験でも、metreleptinはインスリン抵抗性や体幹部肥満に対し有効であった。
[PR]
by md345797 | 2011-04-13 04:46 | エネルギー代謝

腸内細菌叢によるホスファチジルコリン代謝は心血管疾患を促進する

Gut flora metabolism of phosphatidylcholine promotes cardiovascular disease.

Wang Z, Klipfell E, Bennett BJ, Koeth R, Levison BS, Dugar B, Feldstein AE, Britt EB, Fu X, Chung YM, Wu Y, Schauer P, Smith JD, Allayee H, Tang WH, DiDonato JA, Lusis AJ, Hazen SL.

Nature. 2011 Apr 7;472(7341):57-63.

【まとめ】
本研究ではメタボロミクスの手法を用いて、食餌中に含まれるホスファチジルコリン(別名レシチン)の3つの代謝産物であるコリン、TMAO (トリメチルアミン N-オキシド)、ベタインが心血管疾患リスクを予測できることを臨床コホートで示した。そこで、マウスの食餌中にコリン、TMAO、またはベタインを追加すると、動脈硬化と関連するマクロファージスカベンジャー受容体の発現が増加し、コリンまたはTMAOで動脈硬化が促進された。無菌マウスを用いた研究によって、食餌中のコリンが、腸内細菌叢のTMAO産生とマクロファージのコレステロール蓄積促進と泡沫細胞形成に重要な役割を果たすことが明らかになった。さらに、動脈硬化を発症しやすいマウスの腸内細菌叢を抗生剤で抑制すると、食餌中のコリンによる動脈硬化促進が抑制された。高脂血症マウスの動脈硬化によって、TMAOの産生酵素であるフラビンモノオキゲナーゼ(FMO)3の発現を調節する変異が分離された。腸内細菌叢依存性の食餌中ホスファチジルコリンの代謝と心血管疾患の関連が発見されたことは、動脈硬化性心疾患の新たな診断と治療が開発につながりうる。

【論文内容】
腸内細菌叢は、食物という外的環境に対するフィルターの役割を果たしており、肥満やインスリン抵抗性、NAFLDなどの疾患との関連が知られている。この研究ではメタボロミクスの手法を用いて、「検討コホート」(3年以内に心筋梗塞、新血管イベント、死亡をきたした50例とその対照群50例)の血漿を採取し、LC/MSおよびメタボロミクスの手法を用いて心血管疾患に特異的な分析物質の同定を試みた。さらに、独立した「確認コホート」で同様の検討を行い、両者の結果から代謝産物を絞り込んだ。その結果、心血管疾患リスクに関連する分子として、TMAO、コリン、ベタインが同定された。さらに、血漿中のコリン、TMAO、ベタイン濃度がアテローム性動脈硬化のリスクになることが示された。

マウスに重水素ラベルしたコリン(d9-PC)を食餌と一緒に与えると、d9-TMAOが血漿中に出現する。この実験で、抗生剤で腸内細菌叢を抑制しておくと、TMAOが産生されなくなる。食餌中のコリンからTMAOを生成するのに腸内細菌叢が必要であることが分かる。

動脈硬化を起こしやすいマウス(C57BL/6J Apoe-/-マウス)に高コリン食を与えたところ、正常食に比べ大動脈の動脈硬化病変が大きかった。また、血漿TMAOの濃度と動脈硬化病変の面積には正の相関が見られた。

肝のFMO (Flavine monooxygenase)3は、(コリン代謝産物である)TMAからTMAOを作る酵素である。この酵素異常はTMA尿症(fish malodour syndrome)をきたす。前述の動脈硬化を起こしやすいマウスと起こしにくいいマウス(C3H/HeJ Apoe-/-)の肝に発現遺伝子を比較したところ、Fmo3の発現は、動脈硬化病変面積と正の相関を、HDL-Cと負の相関を、血漿TMAO濃度とは正の相関を示した。

動脈硬化を起こしやすいマウスに、コリン、TMAOまたはベタインを食餌中に入れて投与したところ、腹腔マクロファージにおいてスカベンジャー受容体CD36とSR-A1の発現が増加した。食餌中にコリンを多く追加した場合、腹腔マクロファージがコレステロールを多く含む泡沫細胞化した。一方、このコリン負荷の影響は抗生剤投与で腸内細菌叢を抑制すると、認められなくなった。さらに、高コリン食によって大動脈プラーク面積が大きくなったが、この増加は抗生剤投与で腸内細菌叢を抑制すると認められなかった。

【まとめ】
以上の結果から、食餌中の脂質 (コリン)→腸内細菌叢 (TMAの生成)、→肝(FMO3によるTMAOの生成)→動脈硬化発症をつなぐ新たなpathwayを同定した。

コリン自体は必須の栄養素であり、その欠乏は動脈硬化や脂肪肝につながると考えられてきた(そのためレシチンとしてサプリメントとしても服用されてきた)。しかし、その効果は腸内細菌叢の構成が個人間の差によって影響されると考えられる。

本研究は「腸内細菌叢と心血管疾患リスク」を結び付けた初めての成果である。新しい動脈硬化の治療として、コリンの摂取を減らしたり、腸内細菌叢の中でTMAを産生する菌が同定できればその菌を減らしたり、probiotics (治療に有用な生きた細菌)を用いてTMA産生を抑制したり、肝でFMO3の活性を調節したりすることが考えられる。
[PR]
by md345797 | 2011-04-12 04:20 | 心血管疾患

好酸球は、脂肪細胞のalternatively activated macrophagesを増加させ、糖恒常性を維持している

Eosinophils sustain adipose alternatively activated macrophages associated with glucose homeostasis.

Wu D, Molofsky AB, Liang HE, Ricardo-Gonzalez RR, Jouihan HA, Bando JK, Chawla A, Locksley RM.

Science. 2011 Apr 8;332(6026):243-7.

【まとめ】
好酸球は、しばしばalternatively activated macrophages (AAMs)を伴って、寄生虫免疫やアレルギーに関与する。脂肪組織のAAMsは、IL-4によって誘導され、糖代謝の維持に重要な役割を果たす。この研究では、白色脂肪組織の中で、好酸球はIL-4を発現する主要な細胞であり、好酸球がないとAAMsは大きく減少することを示した。 好酸球はインテグリン依存性の過程により脂肪組織に遊走し、IL-4、IL-13を介してAAMsを再構成する。高脂肪食を負荷したマウスは、好酸球がないと体脂肪が増加し、耐糖能・インスリン抵抗性が悪化する。寄生虫による生理的な脂肪組織の好酸球増多は、耐糖能を改善する。これらの結果から、好酸球は、脂肪組織のAAMsを維持することにより、糖代謝に重要な役割を果たしている。

【論文内容】
脂肪組織マクロファージは慢性炎症を起こし、インスリン抵抗性や肥満に関与している。肥満マウスから採取した脂肪組織マクロファージはclassically activated inflammatory phenotype(M1:活性型・炎症性変化を促進)を示すのに対し、正常マウスではalternatively activated phenotype(M2:非活性型・炎症性変化を抑制)を示す。Alternatively activated macrophage (AAMs)は、IL-4、IL-13によって誘導されるが、生体でIL-4、IL-13がどこの由来かは明らかではない。

そこで、4getマウス(IL-4産生細胞をeGFP発現でモニターできるマウス)で脂肪組織のIL-4産生細胞の構成を調べたところ、90%が好酸球であった。さらに、好酸球マーカー(Siglec-F)を用いて、好酸球が欠損しているマウス(ΔdblGATAマウス)、好酸球が正常の100倍程度増加しているマウス(IL-5tg: 好酸球増加を刺激するIL-5のトランスジェニックマウス)の、脂肪組織の好酸球欠損と増加を確認した。また、高脂肪食負荷マウスやob/obマウスの脂肪組織では好酸球が減少しており、好酸球数はマウスの体重に逆相関することが分かった。

生体で好酸球が脂肪組織に遊走してくることを検討するため、IL-5tg x 4getマウスの好酸球を好酸球欠損マウスに移す実験を行った。その結果、好酸球は脂肪組織にインテグリン(α4、αL integrins)を介して移行することが分かった。

また、YARG mice、すなわちArg-1(AAMで発現が増加するシグネチャー遺伝子)にYFP(yellow fluorescent protein)を組み込むことによってAAMsをin vivo で同定できるマウスを用いて、脂肪組織のマクロファージは、IL-4とIL-13欠損マウスまたは好酸球欠損マウスでは、alternative activationされないことを確認した。

好酸球増加マウス(IL-5tgマウス)の内臓脂肪(精巣周囲脂肪)は、WTに比べて明らかに小さく、GTTにおける耐糖能も改善していた。好酸球欠損マウスは、高脂肪食負荷するとWTよりも脂肪が増加しやすかった。すなわち、好酸球には高脂肪食による肥満(diet-induced obesity)を起こしにくくする働きがある。好酸球欠損マウスはWTに比べ耐糖能が悪化し、空腹時血糖も上昇、脂肪組織のインスリン反応性(Aktのリン酸化)が低下していた。

さらに、生理的な好酸球増加によって高脂肪食による耐糖能障害が改善するかを調べるため、高脂肪食負荷マウスにNippostrongylus brasiliensis (ブラジル鉤虫) を感染させた。寄生虫は8日で消失したが、その後の空腹時血糖低下、インスリン抵抗性改善、耐糖能改善は35日後まで持続した(脂肪組織の好酸球増加は45日後まで持続)。

【結論】
脂肪組織の好酸球(IL-5によって増加する)は、脂肪組織においてIL-4産生を介してAAMsを維持している。これにより、インスリン抵抗性、肥満が改善される。寄生虫による生理的な好酸球増加でもインスリン抵抗性・耐糖能が改善することが示された。これらの結果は、代謝と免疫の密接な関連(intertwined relationship between metabolism and immunity)を支持するものである。脂肪組織の好酸球の数や機能を調節することによって、ヒトの代謝疾患の新しい治療法が得られる可能性も出てきた。
[PR]
by md345797 | 2011-04-11 00:04 | インスリン抵抗性

AMPKとcalcineurinによる寿命調節は、CRTCとCREBを介する

Lifespan extension induced by AMPK and calcineurin is mediated by CRTC-1 and CREB.

Mair W, Morantte I, Rodrigues AP, Manning G, Montminy M, Shaw RJ, Dillin A.

Nature. 2011 Feb 17;470(7334):404-8.

【まとめ】
C. elegans (線虫)において、AMPKの活性化とcalcineurinの不活性化は老化を遅らせるため、これらは哺乳類の老化関連疾患の治療標的として重要と考えられている。本研究ではこの寿命延長が、CRTC-1 (線虫のCRTC)の転写後調節だけによっていることが示された。CRTC-1はAMPKによって不活性化される直接のターゲットであり、CRTC-1は転写因子CREB homologue-1 (CRH-1:線虫のCREB)と結合する。AMKPの活性化、calcineurinの不活性化はCTCR・CRH-1の活性を低下させることにより、転写活性を抑制し、寿命を延長する。crtc-1の発現を低下させると、crh-1依存性に寿命が延長され、crh-1の発現を低下させても寿命延長が起こる。エネルギー状態を反映するAMPKとcalcineurinによるCRTCとCREBの活性化低下は、低エネルギー状態に対応する寿命延長の分子機構であると言える。

【論文内容】
寿命調節に関わるAMPK(とcalcineurin)は、CRTCs の2つのセリンをリン酸化(脱リン酸化)し、転写調節を不活性化(活性化)するため、CRTCsが寿命調節にかかわっているのではないかとの仮説を立てた。実際、CRTC-1の発現をRNAiで低下させた線虫の寿命は、野生型に比べて53%延長していた。これは、AMPK(AAK-2 catalytic subunit)の過剰発現、calcineurin(tax-6 catalytic subunit)のノックダウンによる寿命延長と同様の効果であった。

絶食(starvation)と熱ショックを加えると(すなわちAMPK活性化・calcineurin不活性化が起きると)、CRTC-1は、刺激により核から細胞質に移行(nuclear exclusion, cytosolic sequestering)し不活化される。AMPKの活性型を発現させるとこの移行が起きるが、不活性型AMPKでは起きない。CTCRが核から細胞質に移行し細胞質で保持されるには、AMPKにリン酸化される(calcineurinによって脱リン酸化される)2つのセリンに14-3-3が結合することが必要であり、14-3-3のノックダウンではCRTC-1の核から細胞質への移行・不活化が起きなかった。また、constitutiveに核にとどまるCRTC-1 mutant (14-3-3結合Ser→Alaに置換)は、AMPKの過剰発現やcalcineurinのノックダウンを行っても寿命が延長しなかった。そのため、AMPK(とcalcineurin)はCRTC-1をリン酸化(脱リン酸化)することで、寿命を延長(短縮)していると考えられる。

CTRC-1の下流については、CREB(線虫ではCRH-1)がCRTC-1に直接結合することが免疫沈降で示された。さらにCRH-1によって転写が調節されている遺伝子を線虫全ゲノムアレイを用いて調べたところ、CRH-1によって調節されている遺伝子は、AMPK・calcineurinによって調節されている遺伝子はかなりオーバーラップしていることが分かり、CRH-1はAMPK・calcineurinの主要な下流因子であることが明らかになった。このことからCRTCsとCREBが、AMPK ・calcineurinの下流で寿命調節の重要な働きをしていることが分かる。

【結論】
線虫を用いた寿命に関する検討で、CRTC-1(哺乳類のCRTCs)とCRH-1(哺乳類のCREB)が寿命調節に重要な働きをしていることが明らかになった。

高栄養の時は、calrineurinが活性化されて、CRTCのセリンを脱リン酸化する。脱リン酸化型・活性型CRTCは核に存在し、CREBに結合してターゲット遺伝子の転写を活発にする(この遺伝子発現が寿命の短縮に関係すると考えられ、ERストレスを起こすものが多い)。

一方、低栄養の時は、エネルギー不足を感知してAMPKが活性化されて、CRTCのセリンをリン酸化する。このリン酸化型CRTCは14-3-3が結合するため、細胞質にsequesterされ、核に存在できない不活性型となる。そのため、ターゲット遺伝子の転写は止まる。これが寿命延長につながる。
[PR]
by md345797 | 2011-04-10 07:21 | シグナル伝達機構