「ほっ」と。キャンペーン

一人抄読会

syodokukai.exblog.jp
ブログトップ

<   2011年 06月 ( 5 )   > この月の画像一覧

Grb10はmTORC1の基質であり、インスリンシグナル伝達を負に調節する

Phosphoproteomic analysis identifies Grb10 as an mTORC1 substrate that negatively regulates insulin signaling.

Yu Y, Yoon SO, Poulogiannis G, Yang Q, Ma XM, Villén J, Kubica N, Hoffman GR, Cantley LC, Gygi SP, Blenis J.

Science. 2011 Jun 10;332(6035):1322-6.

【まとめ】
この研究ではphosphoproteomics の手法により、mTORC1下流のシグナル伝達を明らかにした。mTORC1の基質の一つがgrowth factor receptor-bound protein 10 (Grb10)であることが分かり、mTORC1によるGrb10のリン酸化による安定化が、PI 3KとERK-MAPK系のフィードバック阻害に働いていることが示された。Grb10の発現はさまざまな癌で低下しており、Grb10はmTORC1によって調節される腫瘍抑制因子(tumor suppressor)である可能性が示唆された。

【論文内容】
mTORの調節異常は多くの癌で認められるが、mTORC1の選択的阻害剤であるrapamycinの抗腫瘍効果を示す臨床試験は少ない。このrapamycin抵抗性は、フィードバックループを介してPI 3KとERK-MAPK系を活性化してしまうために起こると考えられているが、そのメカニズムは分かっていない。mTORC1の基質を同定することが、rapamycin抵抗性の原因を知る上で重要である。

そこで、Tsc2-/-のMEF細胞(constitutiveにmTORC1が活性化される)を用いてrapamycinおよびKu-0063794(mTOR inhibitor)による抑制効果をSILAC(stable isotope labeling with amino acids in cell culture)実験で検討した。大規模定量的phosphoproteomicsにより、rapamycinで強くリン酸化が減少する蛋白としてGrb10が同定された。

Grb10はS6Kを介してではなく、mTORC1により直接リン酸化される。また、mTORC1のみに結合してmTORC2には結合しない。mTORC1はGrb10のS501とS503をリン酸化することにより、蛋白を安定化させる。

Grb10はインスリンシグナル伝達のnegative regulatorとして機能することが知られており、Grb10欠損マウスはPI3K-Akt経路の活性化によりインスリン感受性が亢進することが分かっている。Tsc2-/-細胞においてGrb10をノックダウンするとAkt、ERKのリン酸化が亢進した。これは一部はmTORC1-S6KによるIRSのリン酸化とdegradationによるものであり、一部はmTORC1によるGrb10のリン酸化と増加によるものである。

Grb10を欠損させると細胞をアポトーシスから保護(PI3Kの活性化を介して細胞生存を促進)することができた。これは腫瘍の生存を助けることにもつながり、rapamycinによるGrb10リン酸化低下はcytotoxicではなくcytostaticに働く可能性がある。報告されているマイクロアレイの包括的なメタアナリシスによると、GRB10の量は多くの種類の腫瘍で低下している。また、腫瘍ではGRB10とPTENの発現量には負の相関があり(腫瘍ではGRB10発現が低下すると、腫瘍抑制因子であるPTENの発現が増加している)、これらは相互に排他的に働いている。

【まとめ】
Grb10はmTORC1によってリン酸化される基質であり、インスリンシグナル伝達に対するnegative feedback作用を果たしている。その点でGrb10は腫瘍抑制因子であると考えられる。長い間S6K-IRSフィードバックループだけではmTORC1のインスリンシグナル抑制効果は不十分だと思われていたが、mTORC1-Grb10メカニズムの発見によりこのギャップが埋められたと言える。

[PR]
by md345797 | 2011-06-21 21:52 | シグナル伝達機構

MicroRNAs 103/107はインスリン感受性を調節する

MicroRNAs 103 and 107 regulate insulin sensitivity

Trajkovski M, Hausser J, Soutschek J, Bhat B, Akin A, Zavolan M, Heim MH, Stoffel M.

Nature. Published online 08 June 2011.

【まとめ】
In vivoで、microRNAがインスリン感受性を調節しているかどうかは分かっていない。この研究では、miR-103/107の発現が肥満マウスで亢進していることを明らかにした。これらをsilencingすると糖代謝、インスリン感受性が改善され、肝臓・脂肪組織でこれらの機能を亢進させると糖代謝が障害された。インスリン受容体の主要な調節因子であるcaveolin-1がmiR-103/107のターゲットであり、miR-103/107の阻害によりcaveolin-1が増加すると、インスリン受容体の安定化によってインスリンシグナルの増強、脂肪細胞サイズの低下、インスリンによるグルコース取り込みの増加が認められた。これらの結果から、miR-103/107はインスリン感受性の調節に重要であり、肥満・糖尿病治療の新たなターゲットになるものと思われた。

【論文内容】
肥満・インスリン抵抗性の状態で変化しているmiRNAを同定するため、ob/obマウス、高脂肪食負荷マウスの肝臓を用いて、マイクロアレイ解析を行ったところ、miR-103/107の発現が亢進していることが分かった。ヒトの肝生検を行ったところ、正常とウイルス性肝炎の肝臓ではこれらの発現が同様であったが、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)では発現が増加していた。また、患者のHOMA indexとmiR-103/107の発現には正の相関が認められた。

アデノウイルスを用いて、正常マウスの肝にmiR-107を過剰発現させたところ、耐糖能が悪化し、インスリン感受性の低下、肝糖産生の増加が認められた。miR-103/107をsilencingさせる"antagomir" を作製して(ant-103)、ob/obマウスと高脂肪食マウスに全身性に投与したところ、耐糖能とインスリン抵抗性の改善、肝糖産生の低下が認められた。これらのマウスでは代謝(O2消費、CO2産生)が亢進しており、脂肪細胞におけるβ-酸化遺伝子の発現増加が認められた。

肝臓にのみ特異的にmiR-103/107の発現を消失させるant-103をliposomal formulationを用いて投与しても、ob/obマウスの血糖、インスリン値、耐糖能は改善しなかった。これは、脂肪組織でのmiR-103の発現が肝臓・筋肉に比べ8倍多いためと考えられ、miR-103/107のsilencingの脂肪への影響を検討したところ、小型脂肪細胞が増加している(脂肪分化が促進されている)ことが分かった。このマウスのprimary adipocyteを単離し、in vitroでインスリン刺激したところ、糖取り込みが増加、adiponectinが増加していた。

また、マイクロアレイを用いたゲノムワイド発現解析によって、miR-107で発現が低下する遺伝子としてcaveolin-1 (Cav1)が同定された。Cav1はインスリンシグナル伝達を活性化する(細胞膜のcaveolaeとそれに結合するインスリン受容体を安定化させる)。ob/obマウスの肝臓・脂肪組織でmiR-103/107をsilencingさせると、Cav1の発現増加とインスリン受容体(IRβ)の増加、IRβとAktのリン酸化の増加が認められた。脂肪組織にmiR-107をアデノウイルスで過剰発現させると、Cav1の発現低下、IRβとAktリン酸化の低下が認められた。

さらに、高脂肪食負荷したCav1欠損マウスにmiR-103/107を過剰発現またはsilencingしても、糖代謝とインスリンシグナル伝達には影響はなかった。しかし、脂肪組織でのlipolytic遺伝子発現には変化が見られたため、miR-103/107にはCav1非依存性の経路もあると考えられた。

【結論】
miR-103/107はインスリン感受性のnegative regulatorである。これらはインスリン抵抗性または脂肪肝の肝臓で発現が亢進している。全身性にmiR-103/107をsilencingすると肝臓・脂肪でのインスリンシグナル伝達が亢進するが、肝臓のみでsilencingしても代謝改善には不十分である。脂肪組織でのmiR-103のsilencingがインスリン感受性改善に重要である。このメカニズムの一つとしてCav1がターゲットと考えられ、Cav1の低下がインスリン受容体の安定性の低下とインスリンシグナル伝達の低下につながる。肥満動物におけるこれらの知見は、糖尿病の新しい治療に貢献すると考えられる。
[PR]
by md345797 | 2011-06-14 20:40 | インスリン抵抗性

サーチュイン、加齢、薬剤

Sirtuins, aging, and medicine.

Guarente L.

N Engl J Med. 2011 Jun 9;364(23):2235-44


【総説内容】
寿命に関連ある遺伝子として、NAD-依存性蛋白脱アセチル化酵素であるサーチュインが発見された。サーチュインは、カロリー制限による寿命の延長に重要である。哺乳類は7種類のサーチュインを持ち、環境ストレス、特に飢餓状態への適応に重要な役割を果たしている。サーチュインを活性化する分子も報告されており、それらの分子が抗加齢に役立つのかが議論されている。

酵母の生存期間を延長させるSir2の発見に始まり、線虫、ショウジョウバエ、マウスなど全生物でSir2相当遺伝子(sirtuins)が寿命延長に関わっていることが示されてきた。哺乳類では、SIRT1が主要な核蛋白であり、そのターゲット遺伝子にはPGC-1αやFOXOが含まれる。SIRT1は概日時計の構成因子(BMAL1、PER2)の調節も行う。またAMPKに関連してエネルギー制限時の代謝に関与している。

SIRT1の活性化物質レスベラトロール(resveratrol)を肥満マウスまたは高脂肪食負荷マウスに投与すると、抗糖尿病作用が見られる。SIRT1を過剰発現したトランスジェニックマウスも同様の糖尿病予防作用がある。また、心臓にSIRT1を過剰発現したマウスでは病的な心肥大を防ぐことができ、AT1受容体の発現を減らし平滑筋が保護された。同時にコレステロール代謝、腎尿細管上皮の保護、アルツハイマー病予防にも役立っている。

小分子のスクリーニングにより、レスベラトロールのようなポリフェノールがSIRT1を活性化することが分かった。また、SIRT1を阻害するDBC1という分子も知られており、DBC1欠損マウスはSIRT1トランスジェニックマウスに似た形質が現れた。現在、2つの異なるSIRT1活性化物質による臨床試験(第1相、第2相)が進行中である。
[PR]
by md345797 | 2011-06-13 05:33 | 症例検討/臨床総説

脂肪組織リモデリングと肥満

Adipose tissue remodeling and obesity.

Sun K, Kusminski CM, Scherer PE.

J Clin Invest. 2011 Jun 1;121(6):2094-101.

【総説内容】
2003年に、脂肪組織の肥大に伴う生理的な現象として、マクロファージの浸潤が報告され、その後も肥満によるインスリン抵抗性にマクロファージによって引き起こされた炎症が関与するとする報告が相次いだ。マウスだけでなく、肥満のヒトの内臓脂肪でも脂肪組織マクロファージ(ATMΦ)に伴う炎症が見られ、体重減少によって回復することが示された。

脂肪組織へのマクロファージ浸潤の開始は、次の4つのメカニズムによって起こる。
①脂肪細胞の死:肥大によってnecrosisを起こした脂肪細胞の周りにATMΦがcrown-like structures(CLSs)を形成して蓄積する。
②Chemokineによる調節:chemokineは炎症性の小分子であり、マクロファージを骨髄から誘導する。肥満マウスでは、MCP-1などの発現増加が認められている。
③低酸素:脂肪細胞の肥大は局所の低酸素状態を引き起こす。低酸素により、HIF-1によって調節をうけMIF、MMP2/9、IL-6、Angptl4などの発現が増加する。
④脂肪酸の流れ:脂肪組織からFFAが放出され、TLR4を受容体として炎症反応を惹起する。

ATMΦは2つのタイプに分かれる。すなわち、炎症性の「classically activated」M1 form(F4/80, CD11c,TNF-α,IL-6などを発現)と、抗炎症作用のある「alternatively activated」M2 form(F4/80,CD301,IL-10などを発現)である。病的な肥満の状態では、M1マクロファージが増加、M2が低下する。

脂肪組織の増大には、hypertropy(=脂肪細胞の大きさの増加)とhyperplasia(=脂肪細胞の数の増加)がある。

血管新生は、腫瘍の増大や転移において重要な役割を果たしている。健康な成人ではほとんどの組織が増殖することはないのに対し、脂肪組織だけは生涯を通じて増大しうる。新生した脂肪組織は血管新生が豊富である。VEGF-Aは唯一の血管内皮細胞の成長因子であり、血管新生に必要である。VEGF受容体(VEGF-R2)をブロックすると脂肪組織の増加を抑制できる。

脂肪細胞はECM(細胞外マトリックス)に囲まれている。ECMは脂肪組織の機械的な支持を担うだけでなく、正常時・肥満時の脂肪組織のリモデリングの調節も行っている。ECMは、MMPs(matrix metalloproteinases)による調節を受けている。MMP-14は脂肪組織の分化に直接影響しており、MMP-14を欠損させると脂肪組織形成が障害され、lipodystrophyを起こす。
d0194774_17465099.jpg

[PR]
by md345797 | 2011-06-08 17:48 | エネルギー代謝

腸内細菌叢と肥満、メタボリックシンドローム

Gut microbiome, obesity, and metabolic dysfunction.

Tilg H, Kaser A.

J Clin Invest. 2011 Jun 1;121(6):2126-32.

【総説内容】
ヒトの腸内細菌叢は、10の14乗の細菌(約1,100種類、宿主ゲノムの150倍の遺伝子を含む)からなる。肥満やメタボリックシンドロームが腸内細菌叢と関連することが示されており、食物からエネルギーを多く抽出する「肥満細菌叢」と言うべきものの存在も示唆されている。哺乳類の腸内細菌叢は大きく分けて4つの門(phyla)で構成される。これらは、グラム陰性のBacteroidetesとProteobacteria、グラム陽性のActinobacteriaとFirmicutesである。肥満を示すob/obマウスは、正常マウスと比べてBacteroidetesが減少し、Firmicutesの割合が増加していた。正常マウスに高脂肪食を負荷するとこれと同様の変化があり、他の肥満マウスでも同様のFirmicutesの増加/Bacteroidetesの減少が認められた。ただし、これと反する結果も得られており、これらの門の比率だけでなく、腸内細菌叢メタゲノムに基づいた機能の変化が重要と考えられている。

無菌(germ-free)マウスは、肥満やメタボリックシンドロームを起こしにくく、このマウスに通常の腸内細菌叢を植え付けると(conventionalization)、体脂肪増加やインスリン抵抗性をきたす。そのため、腸内細菌叢が食物からエネルギーを抽出する過程が肥満を促進している可能性が考えられている。

食事内容が細菌構成に影響しているという報告が見られる。Resistin-like molecule β(RELMβ)-KOマウスは食事による肥満が起きにくいが、高脂肪食にすると肥満のあるなしに関わらずBacteroidetesが減少し、FirmicutesとProteobacteriaが増加することが報告されている。別の研究でヒトの便をgerm-freeのC57BL/6Jマウスに移植し(microbially humanized mice)、高脂肪食を負荷すると、マウスは肥満になり、その形質は細菌叢の移植によって他のマウスに伝達可能である。また、アフリカの子供の細菌叢はBacteroidetesに富み、Firmicutesが少ないという特徴があり、環境因子が細菌叢に大きく関与していることが分かる。

Fasting –induced adipose factor (Fiaf、別名angiopoietin-like protein 4, ANGPTL4)は、小腸・肝臓・脂肪組織で作られ、血液中を循環するlipoprotein lipase (Lpl) inhibitorである。Germ-freeマウスをconventionalizationすると、腸上皮細胞でのFiafの発現が低下する。これにより、脂肪組織でのLpl活性が増加し、脂肪細胞の脂肪酸取り込みとトリグリセリド蓄積が増加する。また、高脂肪食負荷マウスにLactobacillus paracaseiを投与すると、血液中のFiafが増加して体脂肪が減少する。このようにFiafはエネルギー代謝調節に重要であり、その活性は腸内細菌叢によって調節されている。さらに、細菌による発酵でSCFAs(短鎖脂肪酸、主に酢酸、プロピオン酸、酪酸)が産生され、小腸上皮にあるGpr41およびGpr43に結合して宿主のエネルギー代謝を調節している。Bacteroidetesの接種により、Grp41が活性化され、腸管由来ホルモンであるPYYの分泌、小腸の食物通過の加速が起こり、食物からのカロリー抽出が少なくなる。

Ob/obマウスに抗生剤(norfloxacin、ampicillin)を投与し腸内細菌叢を変化させるとインスリン抵抗性と耐糖能の改善が認められるが、それに伴い全身の「代謝性」endotoxemiaと炎症性パラメータ―が改善する。また、innate immune systemをつかさどるTlr5を介した経路が示唆されており、Tlr5-/-マウスでは、肥満、インスリン抵抗性が起こるが、このマウスの腸内細菌叢を野生型のgerm freeマウスに移植すると同様のメタボリックシンドローム形質が認められるという報告がある。

解決されていない問題は数多くあるが、将来的には例えば便の移植がClostridium difficile感染の治療になるように、肥満やメタボリックシンドロームの治療にも用いられるかもしれない。
d0194774_2121524.jpg

[PR]
by md345797 | 2011-06-07 21:22 | その他