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14-3-3蛋白のリン酸化蛋白への結合はインスリン作用を調節する

The capture of phosphoproteins by 14-3-3 proteins mediates actions of insulin.

Chen S, Synowsky S, Tinti M, Mackintosh C.

Trends Endocrinol Metab. 2011 Nov;22(11):429-36. Epub 2011 Aug 24.

【総説内容】
インスリンがチロシンキナーゼ受容体に結合して作用を発揮するまでの経路は、PI 3K-PKB(AKT)-mTORC1-p70S6KとRas-Raf-ERK-p90RSKがよく知られている。この総説では、14-3-3というリン酸化蛋白結合蛋白がインスリンの糖恒常性維持作用にどのように影響しているかを述べる。

14-3-3は特定のリン酸化部位のペアに結合する
14-3-3はダイマーを形成しており、2つのリン酸化残基を結合させるが、しばしば一つの標的蛋白の縦列に並んだリン酸化部位にドッキングする。これは、デジタル電子回路における論理ゲートの役割を果たし、2つの入力から1つの出力を出す際のORやANDに相当する。例えば、BAD(BCL-XL/BCL-2-associated death promoter)に結合する14-3-3はORゲートの役割を果たしている(BADの2つあるリン酸化部位のどちらか一方がリン酸化されていれば14-3-3が結合し、抗アポトーシス作用のあるBCL-XLの結合を防ぐため)。もし2つあるリン酸化部位の両方がリン酸化されたところに14-3-3が結合する場合は、ANDゲートの役割を果たす。2つのリン酸化とその部位への14-3-3の結合は蛋白によって異なるため、論理回路がよりfuzzyになる。

14-3-3は標的蛋白の2つのリン酸化部位に結合して、「てこ」とその支点の役割を果たしたり(例:RGS3を活性化する場合)、標的蛋白のリン酸化をマスクしたり(例:PKBによってリン酸化されたFOXO4に結合し、核への局在を防ぎ転写活性化を阻害する場合)する。また、機能的ドメインを外側に向けるクリップの役割を果たすこともある(例:IRS2、PRAS40, rictorに結合する場合)。

AS160とTBC1D1の調節
また、14-3-3はRab GTPase activating proteinsであるAS160とTBC1D1結合し、GLUT4の細胞膜への移行を起こし、筋肉の糖取り込みに作用する。AS160はAKTの基質であり、GLUT4の移行に重要である。インスリンによるGLUT4小胞の膜への融合は、AS160と14-3-3の結合をブロックすると阻害される。一方で、TBC1D1は、2つあるリン酸化部位のうち1つがAMPKによってリン酸化される。これらの蛋白の重要性を検討するためには、AS160とTBC1D1の14-3-3結合部位のknock-in mutationを持つマウスを作製する必要がある。既報の、AS160のThr649(14-3-3結合部位)をAlaに置換したknock-inマウスでは、変異AS160に14-3-3が結合せず、GLUT4の移行が正常に起きなくなり、耐糖能異常をきたす。

14-3-3結合蛋白のプロテオミクス
蛋白への14-3-3の結合はインスリンによって動的に調節されているが、これはプロテオーム解析によって定量可能である。例えば、14-3-3のaffinity captureを用いて、2-3種類の条件下での細胞のlysateから14-3-3結合蛋白を単離することができる。また、SIRAC(stable isotope labeling using amino acids in cell culture:細胞培養液中のアミノ酸を用いた安定同位体ラベル)を用いて発現量の変化した蛋白の同定・定量を質量分析法(MS)で 網羅的に解析することができる。これらの方法により、インスリンシグナル伝達の新たな調節機構が解明されつつある。
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by md345797 | 2011-08-31 16:52 | インスリン抵抗性

地球規模の肥満の増加

The global obesity pandemic: shaped by global drivers and local environments.

Swinburn BA, Sacks G, Hall KD, Pherson K, Finegood DT, Moodie ML, Gortmaker SL

Lancet. 378: 804-814, Aug 27, 2011.

【総説内容】
2011年9月にニューヨークでnon-communicable disease (NCD:非伝染性疾患)に関する国連ハイレベル会合(the UN High-level Meeting on Non-communicable Diseases)が行われるが、そこで世界的な肥満の増加が大きな問題になると思われる。この総説では、何が肥満をもたらしてきたのかに焦点を当てて述べる。

肥満有病率の世界的な増加

肥満の増加は高収入国で1970‐80年代に始まったが、現在はほとんどの中所得国、多くの低所得国でも肥満の急増が起こっている。2008年までに14.6億人が過体重(BMI 25を超える)、5.02億人が肥満(BMI 30を超える)、1.70億人の小児(18歳未満)が過体重か肥満である。この肥満の増加は2型糖尿病、心血管障害、多くのがんなど疾患の原因となり、特に低所得国の財政の圧迫を招いている。肥満有病率は、国によって大きな差があり、中国および日本などでは少ないが、トンガ・サモアでは非常に多い。

肥満に関する広い経済効果
肥満を増加させる最も明白な前提条件は、その国が裕福であることである。GDPと平均BMIの関係はGDPが5,000ドル/人・年までは正の相関がある。GDPが増加するにつれ、人口動態的(若年から高齢者へ、農村から都会へ)、疫学的(感染症からNCDへ)、技術的(機械化、交通の発達)、栄養学的(伝統的な食事から加工した高栄養の食事へ)な移行が見られる。この移行は近年加速している。肥満の増加は、肥満を起こさせる(obesogenic)環境に対する正常な反応であり、肥満を起こさせる環境は政治経済的な環境に対する正常な反応と言える。広い見方をすれば、肥満は、温室効果ガスの増加と同じく、個人や企業の消費過剰の有害な影響でもある。したがって、肥満進行防止には、市場を制限する政府の介入も必要と考えられる。

肥満の蔓延をもたらした要因 (Drivers of the obesity epidemic)
肥満増加の明白な要因は、食品システムの変化(安くて食べやすく、高栄養の食事が簡便に得られるようになったこと)である。食品の供給が過剰になったことが、1970年代以降の米国での肥満の増加につながったと考えられている。それまではエネルギー摂取がエネルギー消費を下回っていたのが、1960年代を転換点(flipping point)として、上回るようになったと考えられている。肥満の増加をもたらした要因としては、このようなエネルギーバランスの異常と行動パターンの変化(高エネルギー食の摂取と身体活動の低下)、さらにそれ以前の社会経済的な環境(消費と成長を可能にする社会や市場の環境)が挙げられる。これらの環境の重要性を認識することは、肥満の増加を加速するのか減速するのかに大きく関わってくる。

環境および個人の影響
不健康な食品の価格を上げる、または健康な食品の価格を下げるなどの介入は近年注目を集めているが、これらが食品の選択に与える影響はほとんど研究されていない。ある食品を消費するかどうか、または運動するかどうかの最終決定は個人の判断であるが、この判断も生理学的、環境的な要因に対する反応である。

肥満の蔓延に対するアプローチ

行動変化をもたらす介入(健康促進プログラムや教育)、政策介入(法規制など)によって環境要因は変えることができる(健康な食物のコストを減らし、不健康な食品は増やす)。これらの介入は、政府によるもの(農業政策、小児への不健康な食品の禁止など)と食品業界によるもの(健康な食品への生産物の変更、市場の自主規制など)が主なものである。トランス脂肪酸の使用を法規制したデンマークが、その成功した例である。特定の行動(例としてシートベルトの着用やオフィスでの禁煙)を求める政策と違って、「ある食品を食べるか食べないか」、「運動するかどうか」を決める規制はない。これらの行動に直接かかわる戦略としては、健康教育やヘルスプロモーションプログラムを増やすことが求められる。
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by md345797 | 2011-08-30 22:05 | 症例検討/臨床総説

肥満における腸内細菌叢:プレバイオティクスとプロバイオティクスの効果

Targeting gut microbiota in obesity: effects of prebiotics and probiotics.

Delzenne NM, Neyrinck AM, Bäckhed F, Cani PD.

Nat Rev Endocrinol. 2011 Aug 9 published online.

【総説内容】
ヒト腸管には10の14乗個の細菌が生息しており、その種類は1,000~1,150種類と言われている。細菌のcoding sequence(metagenomeと呼ぶ)の解析により、ヒトやマウスの腸内細菌として多いのはBacteroidetes、Firmicutes、Actinobacteriaであり、肥満ではFirmicutesが増え、Bacteroidetesが減ることが示されている。高脂肪食にすると24時間後には Erysipelotrichi (Firmicutes 門)が増加する。

腸内細菌叢は、消化管からのエネルギー吸収を促進する作用がある。肥満では、炭水化物発酵の容量が増加し、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、L-乳酸)の増加によりエネルギー吸収効率が上がっている。短鎖脂肪酸は特異的受容体GPR41、GPR43に結合し、それぞれ消化管ホルモンPYYの分泌や脂肪組織の増加に働いている。さらに、腸内細菌叢はAngptl4の発現に関与している。Angptl4の発現が増加すると、脂肪組織でのLPL活性が低下し(Angptl4は強力なLPL inhibitorである)、脂肪蓄積が減少する。
高脂肪食による肥満・糖尿病の発症には、グラム陰性菌細胞壁の構成要素であるLPS(lipopolysaccharide)が重要な役割を果たしている(「metabolic endotoxemia」の状態)。この状態では腸管のendocannabinoid系が亢進しており、腸管の透過性亢進を招き、全身性の炎症を引き起こす。また、SAA3(serum amyloid A3 protein)も高脂肪食によって増加し、炎症・インスリン抵抗性のメディエーターになっている。

プレバイオティクス(注:上部消化管で分解されず、腸管内で生体に有利な細菌の増殖を促進する物質)の概念は1995年に提唱され、inulin-type fructans投与によりBifidobacteria(Bacteroidetes門)が増加することが示された。この増加は数日で起こったが、このプレバイオティクス化合物を中止すると1週間でこの変化は消失した。

これに対し、プロバイオティクス(注:経口で腸内細菌叢に到達し、そのバランスを改善することにより生体に利益をもたらす生きた微生物)による治療が期待される。例えば、無菌マウスにLactobacillus paracaseiを単独投与すると、Angptl4が増加し脂肪量が減少する。ヒトに対するLactobacilli補充療法も行われているが、その効果は現在議論中の段階である。

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by md345797 | 2011-08-29 07:19 | その他

グルコース応答性のインスリン分泌を示すヒト膵β細胞株

A genetically engineered human pancreatic β cell line exhibiting glucose-inducible insulin secretion.

Ravassard P, Hazhouz Y, Pechberty S, Bricout-Neveu E, Armanet M, Czernichow P, Scharfmann R.

J Clin Invest. 2011 Aug 25 Published on line.

【まとめ】
げっ歯類の膵β細胞株(ラット、ハムスター、マウス由来)は存在するが、ヒトの膵β細胞株は30年以上の努力にも関わらず得られていなかった。この研究では、ヒト胎児組織に腫瘍形成を起こさせることにより、機能的なヒトβ細胞株を作製する技術を開発した。ヒト胎児膵芽に、インスリンプロモーター下にSV40LTを発現させるレンチウイルスベクターを形質導入し、それをSCIDマウスに移植して膵組織を発生させた。新しく形成されたSV40LTを発現するβ細胞は、増殖してインスリノーマを形成した。そのβ細胞にヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)を導入し、別のSCIDマウスに移植し、それをin vitroで増殖させ細胞株を得ることができた。その細胞株の一つであるEndoC-βH1は、多くのβ細胞特異的マーカーを発現しており、他の膵細胞のマーカーは発現していなかった。この細胞は、グルコースやその他のインスリン分泌刺激に反応してインスリンを分泌し、糖尿病マウスに移植すると糖尿病を改善した。この細胞は、大規模創薬研究や糖尿病の細胞治療にも有用な手段になる。さらに、この技術はヒト細胞株を作製する一般的な方法にもなりうる。

【論文内容】
ヒト胎児膵由来のインスリン陽性細胞

ヒト胎児の膵原基に、ラットインスリンⅡプロモーター下でSV40LTを発現するレンチウイルスベクターを導入し、SCIDマウスの腎被膜下に移植した。移植3か月後、インスリン陽性細胞でSV40LTの発現が増殖(増殖マーカーのKi67が陽性)を促しており、インスリノーマを形成していた。この腫瘤を取り出し、細胞の老化を防止するため、hTERTを発現させるレンチウイルスを導入し別のSCIDマウスに移植した。このマウスは低血糖をきたし、インスリン発現細胞はSV40LTおよびPDX1陽性であったが、グルカゴンやアミラーゼは陽性ではなかった。

EndoC-βH1ヒトβ細胞株の派生と特徴
上記のインスリノーマを持った移植マウスを500以上作製し、in vitroで細胞株を派生させた。そのうちの一つであるEndoC-βH1は、冷凍・融解可能で、少なくとも80 passageを継代でき、ヒト膵島と同程度のβ細胞転写因子(PDX1、MAFA、NKX6-1、PAX6、NEUROD1)を発現していた。グルコースセンサーであるグルコキナーゼ(GCK)も高レベルに発現していた。グルカゴンやソマトスタチン、IAPP(islet amyloid pancreatic polypeptide)は陰性であった。

インスリン量とインスリン分泌
EndoC-βH1細胞は、0.46μg/million cellsのインスリンを含む。グルコース刺激によりインスリン分泌は3倍に増加し、GLP1R agonistであるexendin-4や、K-ATPチャネル阻害薬のglibenclamide、分枝鎖アミノ酸(L-leucine)によってもインスリン分泌が促進された。

EndoC-βH1細胞の移植によりマウス糖尿病が改善する
EndoC-βH1細胞のin vivoでの機能を検討するため、STZを投与したSCIDマウスにEndoC-βH1細胞を移植した。数日以内に血糖は低下し、GTTでの反応も改善した。このマウスの膵にはインスリン陽性細胞はほとんどないが、移植部位にはヒトのインスリン陽性細胞が認められた。

【結論】
グルコース応答性のインスリン分泌を示すヒト膵β細胞株を作製する技術を開発した。この技術は他のヒトの細胞株作製に応用可能である。このEndoC-βH1細胞はヒトβ細胞の生理学の理解、大規模創薬研究、糖尿病の細胞治療に有用と考えられる。
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by md345797 | 2011-08-26 17:28 | インスリン分泌

糖尿病合併症におけるmicoRNAの展望

Diabetes complications: the microRNA perspective.

Kantharidis P, Wang B, Carew RM, Lan HY.

Diabetes. 2011 Jul;60(7):1832-7.

【総説内容】
糖尿病腎症におけるmiRNAs

STZ糖尿病マウスおよびdb/dbマウスの腎メサンギウム細胞において、miR-192の発現が増加している。これにより転写抑制因子ZEB2の翻訳が抑制され、collagen 1a2の発現が増加することによりコラーゲン沈着が増加し、腎症をきたすと考えられている。miR-192の発現は、IgA腎症や高血圧性腎症でも重症度と相関することが知られている。近年、TGF-β1がSmad3を介してmiR-192発現を調節している機構が明らかになってきた。

miR-200ファミリーは、腎症におけるEpithelial-Mesenchymal Transition (EMT;上皮間葉移行)との関連が示されている。また、miR-29は高血圧性腎症モデルで線維化との関連が示唆されている。miR-216aはメサンギウム細胞で高血糖に伴うTGF-β1活性化によって発現が増加し、PTENを抑制することによりAKTのリン酸化亢進=活性化につながる。miR-21は糖尿病腎症で発現が低下しているが、これを強制発現させると高血糖の状態でもメサンギウム細胞の増殖が抑制される。このように、miR-216aとmiR-21は発現亢進により逆の作用を及ぼす。miR-377は糖尿病モデル動物の腎症で増加し、fibronectinの発現亢進をもたらす。miR-93は、VEGF-Aをターゲットとする高血糖状態の「signature miRNA」で、高血糖によって発現が低下する。

糖尿病網膜症におけるmiRNAs
糖尿病網膜症はVEGFの上昇に伴う血管新生が病態に大きく関与しているとされているが、miRNAとの関連に関してはまだ明らかになっていない。

アテローム性動脈硬化におけるmiRNAs
AGEs(advanced glycation end products)はその受容体(RAGE)を介して炎症性経路を活性化する。RAGEは、内因性のリガンドS100b(S100/calgranulinファミリーの一つ)と結合してアテローム性動脈硬化に関与することが知られている。単球細胞において S100bとRAGEとの結合により、miR-16のCOX-2 mRNA3’UTRヘの結合が阻害されることが報告されており、動脈硬化の治療にmiRNAの知識が役立つかもしれないことを示している。

心臓におけるmiRNAs
糖尿病性心筋障害は心肥大と収縮障害によって心不全をきたしうる。miR-133は心臓に多く発現し、心発生に関与している。糖尿病性心筋障害では、serum response factor(SRF)によりmiR-133が増加するが、miR-133の低下も心肥大に関与する。miR-320によって調節される因子(VEGF, FGF, IGF-1, IGF-1R)は糖尿病性心筋障害に関連している。miR-320の発現増加に伴うIGF-1、IGF-1Rの発現低下は糖尿病で見られる血管新生障害に重要な役割を果たす。

糖尿病合併症におけるmiRNAsの将来展望
以上のような研究結果を次の臨床段階に役立たせるために二つの障害となるものがある。一つはmiRNA inhibitorのdeliveryに関する問題であり、コレステロール修飾やlocked nucleic acid-modified anti-miRNAなどが用いられるが、1回の注射でin vivoでの作用時間が短いなどの課題が残っている。二つ目は、特異的な臓器を標的とすることについての問題であり、特定の臓器にmiRNAやそのinhibitorを到達させる方法が必要とされている。
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by md345797 | 2011-08-25 17:57 | 糖尿病合併症

SRT1720は肥満マウスにおいて生存率と健康寿命を改善する

SRT1720 improves survival and healthspan of obese mice.

Minor RK, Baur JA, Gomes AP et al.

Scientific Reports. 1:70, Aug 18, 2011.

【まとめ】
SRT1720はin vitroでSirt1を活性化することが示されている合成化合物であり、高脂肪食負荷マウスの寿命を延長させる。さらに、脂肪肝の減少、インスリン感受性の亢進、運動量の増加、炎症・アポトーシスマーカー遺伝子発現の正常化をもたらし、明らかな毒性は認められなかった。 SIRT1ノックアウトマウスや遺伝子ノックダウンを用いて、SRT1720はSirt1およびPGC-1α依存性にミトコンドリア呼吸に関連していることが明らかになった。SRT1720は哺乳類で寿命延長、加齢に伴うさまざまな疾患の予防に有効かつ安全な新規分子であることが示された。

【論文内容】
Sirt1はNAD+ 依存性脱アセチル化酵素であり、下位生物で寿命延長に関連している。その活性化剤であるresveratrolは高脂肪食負荷マウスの健康寿命(healthspan)を改善することが示されているが、resveratrolはin vivoではさまざまなターゲットがあり、その効果については議論が分かれている。Sirt1を活性化する合成化合物であるSRT1720は、短期的には肥満マウスのインスリン抵抗性を改善するなどのことが知られているが、長期の効果については不明であった。

SRT1720は肥満マウスの寿命を延長し、肝膵の保護作用を示す
1年齢のC57BL/6Jマウスに高脂肪食を負荷し、2通りの用量のSRT1720を投与して残りの寿命について検討した。その結果、高脂肪食負荷したマウスでは寿命が短縮するが、SRT1720投与によって平均寿命、最大寿命が改善した。高脂肪食による体重増加はSRT1720によって変化しなかったが、SRT1720投与群では、高脂肪食に伴う脂肪肝、肝機能異常、膵島の肥大が改善していた。

SRT1720は高脂肪食負荷マウスの体組成・糖代謝を改善する
SRT1720投与群では、高脂肪食による肝・腎・心の肥大が改善され、脂肪量が低下、血清HDL-C値が上昇した。また、SRT1720により、高脂肪食に伴う酸素消費量増加が低下し、身体活動の低下が改善した。

SRT1720は肥満マウスにおける肝のアポトーシスを抑制し、遺伝子発現を正常化する
SRT1720投与群では、高脂肪食による肝におけるアポトーシスマーカー(caspase3)やDNA fragmentationの亢進が改善した。肝の全ゲノムマイクロアレイ解析によると、SRT1720により遺伝子発現が大きく変わり、例えば糖新生関連蛋白(G-6-Pasey、IGFBP1)およびAdiponectin receptor2の発現が増加していた。TNFやIL-6の発現は高脂肪食で増加したが、SRT1720投与によって低下した。

SRT1720によって肝のPGC-1αのアセチル化が保たれミトコンドリア生合成が増加する
肝でのSirt1の直接のターゲットであるPGC-1αは、高脂肪食によってアセチル化が増加するが、SRT1720投与によりアセチル化は減少した。さらに、Sirt1KOマウスと野生型マウスから採取したMEFs(mouse embryonic fibroblasts)にSRT1720を添加すると、野生型では酸素消費量が増加(ミトコンドリア生合成が増加)したが、KOマウスでは増加が認められなかった。また、SRT1720によるミトコンドリア機能の増強は、PGC-1αをノックダウンすると認められなくなったため、SRT1720の作用にはPGC-1αの作用が必要であることが示された。

Sirt1ノックアウトマウスでは、SRT1720によってミトコンドリア呼吸能は変化しない
この研究ではコンディショナル(tamoxifen-inducible) Sirt1KOマウスを作製し、SRT1720によるミトコンドリア呼吸能の改善について検討した。その結果、in vivoでも呼吸能が改善し、コンディショナルKOマウスでは改善しなかった。

【結論】
肥満マウスへのSRT1720長期投与は、脂肪肝などの代謝疾患を抑制し、ミトコンドリア生合成や呼吸能の増加を伴い、寿命延長をもたらすことが明らかになった。
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by md345797 | 2011-08-24 07:54 | エネルギー代謝

死亡率を低下させ平均余命を延長するための身体活動の最低量

Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study.

Wen CP, Wai JPM, Tsai MK, Yang YC, Cheng TYD, Lee M-C, Chan HT, Tsao CK, Tsai SP, Wu X.

Lancet. Aug 16 online publication.

【まとめ】
余暇時間の身体活動(leisure-time physical activity: LTPA)が健康に良いことは知られているが、以前から推奨されている週150分より短い運動が、平均余命に好影響を与えるかどうかは不明であった。台湾の前向きコホート研究416,175名を平均8.05年追跡し、1週間の運動量に基づき5つのカテゴリー(非活動、低活動量、中程度活動量、高活動量、非常に高度な活動量)に分類し死亡リスクと平均余命を算出した。非活動グループと比較すると、低活動量グループ(1日15分の運動)では、すべての死因による死亡が14%減少し、平均余命が3年延長した。これに1日15分の運動を追加していくと、総死亡率は4%ずつ低下した。この結果は、年齢、性別、心血管疾患リスクの有無にかかわらず当てはまった。以上より、1日15分(1週間で90分)の中等度強度の身体活動は、心血管疾患のリスクがある人にも好影響をもたらすことが明らかになった。

【論文内容】
週150分(1日30分、週5日)以上のLTPAが健康に好影響を与えることが、WHOのガイドラインなどで推奨されている。アメリカ成人の1/3がこの推奨に従っているが、中国、日本、台湾などの東アジア諸国ではその数は1/5程度とされている。本研究では死亡率を減少させるための最低限の身体活動量について、台湾のコホートを用いて検討した。

416,175名の20歳以上の男女を質問票により、身体活動量(MET-h/週)により、「非活動inactive」、「低活動量low-volume=1日15分週6日の3.75-7.49MET-hの運動」「推奨に見合う活動量=1日30分週5日以上の運動(これを中等度medium、高度high、非常に高度very high-volumeに分けた)」に分類した(2008 physical activity guidelines for Americansに基づく分類)。

非活動グループは、低活動量グループに比べて総死亡率(all-cause mortality)が17%高く、がんの死亡率(all-cancer mortality)が11%高かった。総死亡率は身体活動とdose-responseの関係が認められ、非常に高度な活動量のグループが最も死亡率が少なかった。総死亡率低下と1日の身体運動時間をグラフにすると、1日15分の運動で14%の総死亡率低下が見られ、さらに15分増やすごとに4%の総死亡率低下が認められた。

性別・年齢・心血管疾患リスクによるサブグループでの比較を行っても、低活動量グループは非活動グループに比べて総死亡率が低かった。身体活動の強度は、活発な強度(vigorous-intensity)は、中等度強度(moderate-intensity)に比べ同じかそれ以上、総死亡率低下が認められた。

30歳における平均余命は、非活動グループに比べ低活動量グループでは男性で2.55年、女性で3.10年延長した。推奨に見合う量の身体活動を行ったグループでは、4.21年(男性)、3.67年(女性)の平均余命延長が認められた。

【結論】
1日15分の中等度強度の身体活動を行う人は、非活動性の人に比べ、健康への好影響(総死亡率の14%低下、がん死亡率の10%低下、平均余命の3年程度延長)が認められた。この低活動量の身体運動の重要性を広めることは、世界のnon-communicable disease(がんや心血管疾患など非感染症疾患)との戦いに重要な役割を果たすと考えられる。
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by md345797 | 2011-08-19 07:53 | 大規模臨床試験

Cdkal1によるtRNA Lysの修飾が欠損すると、マウスで2型糖尿病を発症する

Deficit of tRNALys modification by Cdkal1 causes the development of type 2 diabetes in mice.

Wei FY, Suzuki T, Watanabe S, Kimura S, Kaitsuka T, Fujimura A, Matsui H, Atta M, Michiue H, Fontecave M, Yamagata K, Suzuki T, Tomizawa K.

J Clin Invest. 2011 Aug 15 published on line.

【まとめ】
Cdk5 regulatory associated protein 1-like1(Cdkal1)の遺伝子多型は、さまざまな民族でインスリン分泌低下と2型糖尿病のリスクに関連していることが分かっているが、この蛋白の機能は不明であった。本研究では、Cdkal1が、tRNA Lys(UUU)において2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(ms2t6A)を合成するメチルチオトランスフェラーゼ(MTT)であることを示し、AAAおよびAAGコドンのLys(リシン)ヘの正確な翻訳に必要であることを示した。膵β細胞で特異的にCdkal1を欠損させたマウス(β cell KOマウス)は膵島の過形成、インスリン分泌の低下、血糖調節の障害を示した。Cdkal1欠損β細胞においては、プロインスリン中のLysコドンの翻訳障害により、グルコース応答性のプロインスリン合成が低下している。また、ERストレス関連遺伝子の発現が亢進しており、異常な構造のERが認められた。さらに、β cell KOマウスは高脂肪食誘導性のERストレスが起こりやすかった。これらの結果から、グルコース応答性のプロインスリン翻訳には、tRNA Lys(UUU)の修飾が必要であり、これがcdkal1のリスク対立遺伝子を持つ患者における糖尿病発症のメカニズムであると考えられた。

【論文内容】
このグループは、Cdkal1がMTTであることを明らかにし、細菌においてtRNAのms2t6Aを合成することを報告してきた。本研究では、マウスのMIN6細胞およびヒトHeLa細胞において、Cdkal1が哺乳類のms2t6A合成を修飾することを示し、この修飾がtRNA Lys(UUU)によるAAAおよびAAG→Lysの正確な翻訳に必要であることを明らかにした。

Cdkal1はERに局在する蛋白であり、Cdk5/p35(=インスリン分泌に関連)とは結合せず機能的な関連はない。Cdkal1の膵β細胞特異的KOマウスを作製(βcell KOマウス)したところ、膵島の形態に変化はないがサイズの増大を認めた。さらにグルコース応答性インスリン分泌の低下および血糖の上昇が認められた。

プロインスリンのプロセッシングにおいて、Lys残基は、インスリンA鎖とC-ペプチドの切断部位に存在するため、特に重要である。そのためLysの翻訳異常により(プロ)インスリンの切断異常が起こり、結果的にインスリン産生の低下、耐糖能障害につながりうる。実際、Cdkal1欠損のβ細胞では、14C-リシンのプロインスリンへの取り込みが低下し、βcell KOマウスでは膵および血漿中のC-ペプチドが減少していた。

Cdkal1欠損のβ細胞では、GLUT2の発現が低下しており細胞質に存在した。これはβ細胞のERストレスが関連していると考え、ERストレス関連遺伝子の発現を検討したところspiced Xbp1発現が亢進しており、異常な構造のERが認められた。

βcell KOマウスに高脂肪食を負荷すると、WTに比べ体重には差がなかったが、血糖高値、インスリンの低値が認められた。ITTではインスリン感受性に差はなかった。Cdkal1の欠損によりβ細胞でのERストレスが亢進し、インスリン分泌が低下し、耐糖能異常をきたすと考えられた。

【結論】
tRNAのアンチコドン周辺の核酸の化学修飾は、翻訳の正確性と効率に重要な役割を果たす。今回、Cdkal1によるtRNA Lys(UUU)の修飾が、インスリン中のLysを正確に翻訳するのに必要であることを示した。この翻訳障害はプロインスリンの折り畳み異常を起こし、β細胞でのERストレスを惹起する。これらの結果により、Cdkal1の異常がインスリン分泌を低下させるメカニズムが明らかになった。
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by md345797 | 2011-08-18 08:05 | インスリン分泌

膵島の低酸素化亜集団は内分泌細胞の機能的備蓄として働いている

A low-oxygenated subpopulation of pancreatic islets constitutes a functional reserve of endocrine cells.

Olsson R, Carlsson PO.

Diabetes. 2011 Aug;60(8):2068-75.

【まとめ】
膵島の血液還流は大きく変動し、血糖値によって緊密に調節されている。膵島の酸素化についてはin vitroで詳しく検討されてきたが、in vivoでの知見は少ない。Pimonidazoleは、組織の酸素分圧が10 mmHg未満で細胞内に蓄積するため、免疫染色で低酸素マーカーとして用いられる。正常マウスでは20-25%の膵島が低酸素状態(酸素分圧10 mmHg未満)であるのに対し、膵移植後のマウスでは低酸素化膵島の割合が2倍であり、60%部分膵切除マウスではその割合がほとんどなかった。さらに、よく酸素化された膵島はleucine依存性の蛋白合成(プロインスリン合成を含む)が50%多く、酸素化は代謝に関連していることが明らかになった。以上から、休眠中の低酸素化膵島(dormant low-oxygenated islets)の亜集団(subpopulation)があることが明らかになり、これらは膵内分泌細胞の機能的備蓄(functional reserve)として働いていると考えられた。

【論文内容】
膵島は、膵全体の1-2%の体積しか占めないが、膵全体の5-10%の血流を受けている。表面積の大きい膵島の酸素分圧は40 mmHg程度で、他の腹腔内臓器に比べ大幅に高い。このような高度な血管形成はβ細胞の複製や膵島ホルモンの速い流出に重要な役割を果たしていると考えられる。膵島の血液還流は膵島の大きさによってさまざまであるが、この不均一な酸素化(heterogeneous islet oxygenation)が各々の膵島の機能に異なる影響を与えている。

正常ラットに膵移植、または60%膵部分切除を行い、それぞれ膵島を2倍、または40-50%にしたラットを作製した。これらのラットの膵島を取り出してカバーグラスに乗せ、pimonidazole取り込み(低酸素のマーカー:酸素分圧が10 mmHg未満の臓器に蓄積する)を検討した。

コントロールのラットでは、20-25%の膵島がpimonidazole陽性となる。膵移植をしたラットではpimonidazole陽性細胞の割合が増加しており、膵切除をしたラットでは陽性細胞の割合が大きく低下していた。

β細胞の蛋白合成には不均一性(heterogeneity)があることが知られている。この研究では、pimonidazoleに染色されない膵島の方が、蛋白合成(leucine-dependent protein biosynthesis=プロインスリン生合成を含む)が多いことが示された。また、pimonidazoleに染色されない膵島の方が、血流が多い(=microsphere(血流を測定するために注入した高分子微粒子)の分布数が多い)ことが分かった。

【結論】
本研究では、膵島の酸素化に大きな不均一性があることを初めて示した。さらに、低酸素化の亜集団(20-25%)は、血流が少なく蛋白合成が少ないため機能的に不活性であり、インスリン産生の機能的備蓄として働いていることが示唆された。この休眠中の膵島(dormant islet)の割合は、マウスにおいて膵移植/膵切除によって大きく減少/増加したことから、妊娠やインスリン抵抗性などの場合に同様のことが起こる可能性もあると考えられた。今後、「ヒトの膵島ではどのくらいの割合が不活性なのか」、「肥満や運動時にそれがどのように変わるか」、「活性化・不活性化を決めるメカニズムは」などの問題が想定される。
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by md345797 | 2011-08-17 07:17 | インスリン分泌

慢性腎臓病

Chronic kidney disease.

Levey AS, Coresh J.

Lancet. Aug 15 online publication.

【総説内容】
慢性腎臓病(CKD)とは、腎の構造と機能に関する不均一(heterogeneous)な疾患を表す用語である。2002年の米国ガイドラインでは、世界的な公衆衛生問題として、早期には一般内科医が管理するものという認識が高められた。CKDの管理は、GFRとアルブミン尿によるステージに基づいた分類に従って行われる。CKDはルーチンの検査で発見でき、進行を遅らせ、心血管疾患のリスクを減らしQOLを改善する治療が可能である。

概念的なモデル・定義・転帰
CKDの概念的なモデルは、正常→高リスク→腎障害→GFR低下→腎不全→死へと進行するもので、各段階から合併症にいたる危険がある。CKDの定義は、現在の腎障害(アルブミン尿)または腎機能低下(GFRが60ml/min/1.73m2未満)が3か月以上続くことである。CKDは、GFRに基づいて5つのステージに分けられる(GFR 90以上=stage1、60-89=stage2、30-59=stage3、15-29=stage4、15未満=stage5)。腎不全はCKDの最も重篤な転帰であり、GFR 15未満と定義される。

CKDの原因
先進国では、CKDは加齢、糖尿病、高血圧、肥満、心血管疾患などが関連しており、原因疾患としては糖尿病性腎硬化症、高血圧性腎硬化症がある。発展途上国では、感染や薬剤・毒物が原因の糸球体疾患・尿管間質疾患が多い。

CKDの発見と診断
CKD発見と診断のためには、5つのステップがある。① CKDのハイリスク(加齢、家族歴、急性腎障害の既往、心血管疾患およびそのリスク、自己免疫疾患、感染、薬剤など)を認識する、②血清クレアチニンの測定とGFRの推定、③GFRが60未満、または腎障害が3か月以上続いていれば CKDと判断、④糖尿病性の腎疾患か、そうでないか(糸球体疾患、血管疾患、腎移植後など)、⑤GFRによるステージングを行う。

CKDの管理
CKDの進行を遅らせ、アルブミン尿を減少させる:

40歳以降では通常、GFRが毎年0.75-1.00減少する。アルブミン尿、糖尿病、高血圧がある人はこの速度が速い。この進行を遅らせるのに最も推奨されるのは、 ACE阻害薬とARBの使用である。これらはアルブミン尿減少にも効果を示す。また、強化血糖コントロールは糖尿病腎症の進展遅延に有効である。

GFR低下による合併症を予防する:
薬剤の濃度の異常、細胞外液不足、造影剤の使用など、医療上の原因でGFRが低下することがある(NSAIDsやヨード造影剤による急性腎障害(AKI)など)。
尿毒症(uremia)は当初は無症状であるが、GFRの低下に伴い高血圧、貧血、副甲状腺機能亢進症、高リン血症、低Ca血症、アシドーシスなどをきたし、それぞれの治療が必要となる。また、ネフローゼ症候群は糸球体疾患の主要な症状の一つであり、ACE阻害薬・ARBによる尿蛋白の減少、塩分制限、浮腫のための利尿剤の投与などが必要となる。

問題点と今後の課題
加齢と血管疾患がGFRの低下に大きく関与するため、現在の定義ではCKDを過剰診断してしまうことが問われている。また、CKDの転帰を改善する大規模臨床試験が少ないことも、新規治療を臨床に導入する上で問題になっている。
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by md345797 | 2011-08-16 08:13 | 腎高血圧