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FGF21の作用と役割

FGF21 reloaded: challenges of a rapidly growing field.

Kharitonenkov A, Larsen P.

Trends Endocrinol Metab. 2011 Mar;22(3):81-6.

【総説内容】
Fibroblast growth factor 21(FGF21)はgrowth factorではない

FGF21は他のFGFsと10-30%の相同性を持ってはいるが、成長を促進する作用はなく「growth factor」としての活性はない。FGF21は、FGFsの中ではFGF19やFGF23を含む、いわゆる「ホルモン様」のサブグループに含まれる。このサブグループは内分泌作用を示し、それぞれ糖・脂質代謝(FGF21)やコレステロール・胆汁酸合成(FGF19)、リン・vitaminD調節(FGF23)に関与している。

FGF21はどこに発現しているか?
FGF21は当初はマウスの肝でクローニングされたが、脂肪や筋でも発現が認められ、その後、膵(外分泌腺とβ細胞)で強い発現が確認された。このことからin vivoでのFGF21の主要な産生源は膵であるように思われたが、膵での発現調節のメカニズムはいまだ検討中の段階である。

FGF21の標的組織は何か?
FGF21の標的組織は当初脂肪組織と考えられていたが、それだけではないことが分かっている。例えば、FGF21は、単離膵島やINS-1細胞を刺激してグルコースによるインスリン産生・グルカゴン抑制を促進したり、マウスや霊長類に投与することでβ細胞量や機能を維持したりする作用がある(ただし後者はインスリン抵抗性・糖毒性改善を介する間接的な作用の可能性もある)。また、肝細胞に直接作用するとする報告もある。現在は、肝・膵・脂肪組織がFGF21の主要な標的組織と考えられており、これはFGF受容体のco-receptorである膜貫通型βKlotho(KLB)の発現臓器とも一致する。

FGF21受容体はどのようなものか?
FGF21は古典的なFGFsと違ってFGF受容体(FGFR)と直接結合せず、FGF21の作用には膜貫通型KLBが必要である。FGF21受容体はFGFRとKLBから成り、KLBはFGFがFGFRと結合するために必要なアダプター蛋白の役割を果たしている。FGFRには4種類ありFGFR1がFGF21の受容体を構成していると考えられている(ただし、そうでないことを示す報告もある)。

FGF21は内分泌因子か?
FGF21は主に肝で産生され、脂肪組織を標的臓器としていると考えられてきたため、肝から脂肪組織へとシグナルを伝達する内分泌因子のように思われているが、活性型のFGF21が血中に存在するかは不明である。現在のELISAキットによる測定では、非活性もしくは阻害型のFGF21が存在している可能性もある。FGF21が真にホルモンとして作用しているか、局所的に働く分子なのかという問題はまだ分かっていない。

FGF21の生理的役割は何か?
FGF21の役割は、飢餓に対する適応とも考えられている。空腹に反応して肝の脂質代謝が亢進、またケトン体が産生されると、FGF21が放出され、全身のインスリン感受性が亢進する。Ketogenic diet(低炭水化物、高蛋白食)で血中FGF21が増加するため、FGF21は飢餓に対するホルモンと言えるかもしれない。

In vivoでのFGF21作用メカニズム
FGF21を全身的に投与すると、血糖・中性脂肪が低下、β細胞の機能と量が保持、肥満と脂肪肝が改善、レプチン抵抗性が改善、LDL-Cが低下・HDL-Cが増加、adiponectinが増加、心血管リスクファクターマーカーが減少するなどの効果が見られる。これらの統一的なメカニズムは明らかではないが、いくつかの仮説が報告されている。FGF21の肝におけるインスリン抵抗性改善作用や脂肪組織におけるlipolytic活性によるFFA低下作用、FGF21投与によるエネルギー消費亢進、などがそれである。FGF21を投与すると視床下部に作用して、Agouti-related peptideやneuropeptide Y産生が増加するという報告もある。

FGF21抵抗性
代謝異常を示すヒトやげっ歯類で高インスリン血症および高レプチン血症が見られるように、血漿FGF21値も高値を示しており、「FGF21抵抗性」の概念が提唱されてきた。ob/obマウスや高脂肪食負荷マウスでは、血中FGF21値が増加しており、FGF21投与に対する反応が低下している。これらのマウスでは、FGF21標的臓器でFGFRやKLBの発現が低下しているとする報告もある。

FGF21関連研究の将来
FGF21に関する報告は2005年以来毎年倍増しているが、FGF21の理解はいまだに断片的で議論が分かれるところである。チアゾリジン系薬剤がFGF21およびKLBの発現を増やし、FGF21感受性を上げるという報告があり、抗糖尿病薬の効果の一部がFGF21経路を介しているという可能性もある。現在、FGF21の変異体やFGF21アゴニストが、薬剤の候補として臨床研究に応用されつつあり、今後の代謝疾患の治療において有望な手段となるかもしれない。
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by md345797 | 2011-12-27 17:35 | インスリン抵抗性

抗体を用いたFGF受容体1の活性化は2型糖尿病を改善する

Amelioration of type 2 diabetes by antibody-mediated activation of fibroblast growth factor receptor 1.

Wu AL, Kolumam G, Stawicki S, Chen Y, Li J, Zavala-Solorio J, Phamluong K, Feng B, Li L, Marsters S, Kates L, van Bruggen N, Leabman M, Wong A, West D, Stern H, Luis E, Kim HS, Yansura D, Peterson AS, Filvaroff E, Wu Y, Sonoda J.

Sci Transl Med. 2011 Dec 14;3(113):113ra126.

【まとめ】
Recombinant FGF21の2型糖尿病および肥満関連疾患への応用が提案されているが、FGF21の薬物動態が不安定なため(=poor pharmacokinetics)、臨床での使用は難しい。そこで、受容体アゴニストである抗FGFR1抗体を用いて、FGF21の代謝効果を模倣した抗糖尿病治療について検討した。この抗体、R1MAb(Receptor 1 Monoclonal Antibody)を肥満糖尿病マウスに単回注入すると持続的に高血糖が改善され、高インスリン血症、高脂血症、脂肪肝が改善する。R1MAbは脂肪組織のMAPKを活性化するが、脂肪萎縮マウスのグルコース消失は改善しないため、これらの効果は脂肪組織を介することが示された。褐色脂肪組織において、 FGF21もR1MAbもCREBのリン酸化と、PGC-1αおよびその下流の酸化的代謝遺伝子の発現を増加させる。脂肪組織のFGFR1はFGF21の主要な機能的受容体であり、PGC-1αの上流の調節因子でもあるため、2型糖尿病の抗体を用いた治療の重要なターゲットになりうる。

【論文内容】
受容体アゴニストである抗FGFR1抗体の同定

ファージディスプレイ法を用いて、FGFR1細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体を作製した。この抗体はFGFR1特異的に(他のFGFR2-4には反応せず)下流のMAPKを活性化した。また、この抗体をC57BL/6マウスの腹腔内に注入すると、その白色脂肪組織でFGF受容体基質(FRS2α)およびMEKのリン酸化が起こり、in vivoでも受容体アゴニストとして作用していることが示された。

糖尿病マウスにおいてR1MAbは持続的な抗糖尿病作用を示す
db/dbマウスにR1MAbを単回投与すると、血糖が1週間以上正常化したが、低血糖は起こさなかった。すなわち、R1MAbにはインスリン感受性亢進作用があると考えられた。また、db/dbマウスで、recombinant human FGF21の持続注入と、R1MAbの単回投与の効果を比較したところ同様の効果があり、R1MAbはFGF21のmimeticとして作用することが示された。

R1MAbおよびFGF21の抗糖尿病作用における脂肪組織の役割
FGF21をマウスの腹腔に注入すると、FGFRのco-receptorであるKLB(βklotho)が発現している組織(肝、白色脂肪、褐色脂肪、膵)でMEK/ERKのリン酸化が増加する。これに対し、R1MAbを注入すると、脂肪組織と膵でリン酸化が増加するが、肝では増加しない(肝ではFGFRの発現が非常に少ない)。R1MAbは肝脂肪および血清脂質を低下させるが、これは脂肪組織で代謝活性化を起こした間接的な効果と考えられる。さらに、脂肪萎縮マウス(aP2-SREBP-1cトランスジェニックマウス)にR1MAbを単回注入またはFGF21を持続注入しても血糖、HOMA-IR、グルコース消失が改善しないことから、これらの効果は脂肪組織に依存しているものと考えられた。

R1MAbによる褐色脂肪組織でのPGC-1α活性化
近年、FGF21は脂肪組織および肝でPGC-1αを活性化し、下流の酸化的代謝遺伝子の発現を誘導することが報告されている。ob/obマウスにR1MAbを注入すると、褐色脂肪組織で、ミトコンドリア酸化的リン酸化および脂肪酸代謝関連の遺伝子発現が増加した。R1MAbの注入は、C57BL/6マウスにおいて熱産生を増加(活動度には影響なく)させた。

PGC-1αのmRNAは、CREBがCRE(cAMP response elements)に結合することによって調節されている。FGF21およびR1MAbはHEK293細胞において、GAL-CREB reporterを活性化した。さらに、FGF21およびR1MAbによるMEK/ERKのリン酸化がp90RSKのリン酸化を起こし、これがCREBのリン酸化、PGC-1αの活性化、酸化的代謝の活性化へとつながる経路が明らかになった。

【結論】
FGF受容体アゴニストであるFGFR抗体を作製した。この抗体は、in vivoでrecombinant FGF21の効果を再現し、2型糖尿病および肥満関連疾患(脂肪肝など)の治療に有効であることが示された。FGF21およびFGFR抗体の抗糖尿病作用は、主に脂肪組織を介するものである。
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by md345797 | 2011-12-26 07:43 | インスリン抵抗性

インスリン抵抗性、高血糖と動脈硬化

Insulin resistance, hyperglycemia, and atherosclerosis.

Bornfeldt KE, Tabas I.

Cell Metab. 2011 Nov 2;14(5):575-85.

【総説内容】
インスリン抵抗性と動脈硬化

インスリン抵抗性は、高血糖を伴わなくても動脈硬化のリスクとなることが広く知られている。インスリン抵抗性の状態では、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、マクロファージの3種類の細胞でインスリンリンシグナル伝達が著しく低下している。
①内皮細胞
内皮細胞でインスリン受容体(IR)を欠損したマウスをApoe-/-マウスと交配すると(EIRAKOマウス)、コントロールに比べ血糖、インスリン、脂質、血圧に差がないにもかかわらず、動脈硬化が促進される。コントロールの内皮細胞ではインスリンはeNOSのSer1177をリン酸化(eNOS活性化)し、VCAM-1(動脈硬化を起こす鍵となる内皮・白血球接着分子)の発現を抑制し、抗動脈硬化的に作用する。これらがEIRAKOマウスでは減少し、NOによる血管拡張が阻害され、VCAM-1依存性の白血球接着が増加する。すなわち、血管内皮細胞における正常のインスリンシグナル伝達は動脈硬化保護的に作用し、インスリン抵抗性の状態は動脈硬化を促進する。また、Akt1-/-Apoe-/-マウスはApoe-/-に比べ、eNOS Ser-1176のリン酸化が低下して動脈硬化が促進される。したがって、内皮細胞のAkt1リン酸化の低下(インスリン抵抗性)は、動脈硬化促進的に作用すると考えられる。
②血管平滑筋細胞
血管平滑筋細胞では、IRとIGF-1受容体(IGF1R)のヘテロダイマーが発現しており、インスリンの作用は主にIGF1Rを介していると考えられている。IR欠損の血管平滑筋細胞にインスリンを加えるとIGF1Rシグナルを介してERK-1/2の活性化が起こり、細胞増殖を起こす(動脈硬化促進的)。逆に血管内皮細胞のIGF1RをsiRNAを用いてサイレンシングすると、IRを介してAkt活性化が促進される(動脈硬化抑制的)。これらの結果から、IGF1RのIRに対するバランスの異常が動脈硬化を促進すると考えられる。ただし、これを疑問視するデータもあり、インスリン抵抗性の状態においてin vivoでの血管平滑筋細胞のアテローム形成・プラーク進行における役割はさらに検討する必要がある。
③マクロファージ
マクロファージでのIRシグナル伝達が欠損すると動脈硬化促進につながることは、myeloid cell特異的にIRを欠損させたマウスで明らかになっている。しかしこのマウスをApoe-/-マウスと交配し、Western食(高コレステロール、高コール酸)を負荷した場合、myeloid cell特異的IR欠損で動脈硬化病変が50%程度減少した。また、コントロールのApoe-/-骨髄またはApoe-/-Irs2-/-の骨髄を移植すると、Apoe-/-Irs2-/-の骨髄を移植した場合に20-30%動脈硬化病変が減少した。したがってWestern食の条件下では、マクロファージのIRシグナル伝達は動脈硬化を促進するようである。

高血糖と動脈硬化

高血糖と冠動脈疾患の関連については、DCCT-EDIC研究において1型糖尿病患者の強化血糖降下群で冠動脈疾患、脳卒中、心血管死を57%減少できるという結果などが知られている。しかし一方で、ACCORD研究では心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病で強化血糖降下療法が5年生存率を低下させるという結果もある。動物実験では、Ldlr-/-やApoe-/-マウスにSTZを投与したマウスや、Ldlr-/-マウスのインスリンリンプロモーター下にLCMVを発現した(β細胞破壊)トランスジェニックマウスなどが知られているが、いずれも高血糖に伴い大動脈壁で動脈硬化の促進が見られ、インスリン治療で予防可能である。
①内皮細胞
高血糖が直接、内皮細胞に及ぼす影響についてのin vitroの研究は多いが、 in vivo研究は少ない。げっ歯類へのグルコースの急性投与(12時間以内)で血管内皮細胞への白血球の接着が増加することが生体顕微鏡で確認されており、この状態ではP-selectin、VCAM-1、ICAM-1の発現が増加していることが示されている。また、高血糖状態では、細胞内グルコースはaldose reductase(AR)によってソルビトールに変換される(AR /polyol経路)。STZ投与Ldlr-/-マウスにARを過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製すると、高血糖の動脈硬化への影響が増強された。今後、AR inhibitor投与でヒトの心血管疾患の進展が抑制されるかの検討が必要である。また、高血糖で内皮細胞でのPKC活性が起こるが、Apoe-/-マウスでPKCβを欠損させると動脈硬化が抑制されることが示されており、PKCβ阻害剤(ruboxistaurin)を用いた臨床試験も有望な結果を得ている。さらに、高血糖ではAGEsの産生が内皮細胞のRAGEを介してVCAM-1発現を促進し、動脈硬化につながることが示されている。
②血管平滑筋細胞
血管平滑筋細胞では、主にGLUT1を介してグルコース取り込みが行われている。血管平滑筋細胞にGLUT1を過剰発現させたマウスでは、これらの細胞への糖取り込みが増加し、血管内皮細胞の増殖が促進される。このマウスでは、血管障害後のMCP-1が増加、グルタチオンが低下する。
③マクロファージ
マクロファージを高濃度グルコースで培養すると、LPSなどの刺激による炎症が増強される。また、Western食を負荷したLdlr-/-マウスにSTZを投与し、さらにコレステロール低下を行った。その結果、高血糖があると、コレステロール低下に伴う動脈硬化の退縮が妨げられることが明らかになった。

治療への応用
LXR agonistsは、マウスにおいてプラーク形成・進展を抑制することが知られている。LXR agonistsはABCG1およびABCA1トランスポーター発現を増加させ、それぞれHDLおよびApoA-Iによるマクロファージからのコレステロール引き抜きを促進する。また、pioglitazoneはPPARγ活性化剤のみならずLXR inducerでもあり、2型糖尿病の動脈硬化抑制に働く。また、サイトカイン阻害療法として、IL-1β中和抗体が心血管疾患を減少させるかどうかの臨床試験が進行中である。インスリン抵抗性や高血糖が動脈硬化を進展させる際、内皮細胞とマクロファージにおける異常なERストレスが活性化されることも重要である。PBA(4-phenyl butyric acid)をWestern食のApoe-/-マウスに投与すると、血管のERストレスが軽減され、動脈硬化が抑制される。さらに、酸化ストレスもインスリン抵抗性、高血糖に伴う動脈硬化進展の原因になる。 NADPH oxidaseやglutathione peroxidase-1をターゲットとした治療が今後動脈硬化の治療に役立つと考えられる。
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by md345797 | 2011-12-15 23:27 | 心血管疾患

GWASのメタアナリシスにより明らかになった、東アジア人2型糖尿病の新しい8個の遺伝子座

Meta-analysis of genome-wide association studies identifies eight new loci for type 2 diabetes in east Asians.

Cho YS, Chen C-H, Hu C, Long J, Ong RTH, Sim X, Takeuchi F, Wu Y, Go MJ, Yamauchi T, Chang Y-C, Kwak SH, Ma RCW, Yamamoto K, et al.

Nat Genet. 44, 67–72, 2012.

【まとめ】
東アジア人の2型糖尿病(T2D)の感受性遺伝子座を同定するため、3段階の遺伝子解析を行った。Stage 1のT2Dのゲノムワイド関連研究(GWAS)8研究のメタアナリシス (T2Dを持つ6,952 casesと11,865 controls)に続き、stage 2 のin silico replication解析(5,843 casesと4,574 controls)およびstage 3の de novo replication 解析(12,284 casesと13,172 controls)を行った。以上の解析により、8個の新しいT2D遺伝子座が明らかになり、それらは、GLIS3PEPDFITM2-R3HDML-HNF4AKCNK16MAEAGCC1-PAX4PSMD6 およびZFAND3の中または近傍に位置した。GLIS3は膵β細胞の発生とインスリン遺伝子発現に関わっており、空腹時血糖値に関連があることが知られている。PEPDHNF4AとT2Dとの関連は以前から知られていた。KCNK16は膵のグルコース応答性インスリン分泌を制御している可能性がある。東アジア人におけるこれらの結果は、T2Dの病因解明に新しい知見をもたらすものである。

【論文内容】
東アジア人は、欧州人と比べ低いBMIでも高率に2型糖尿病(T2D)を発症することが知られており、T2D発症の病態が欧州人と異なる可能性がある。この研究では、東アジア人での新たなT2Dの遺伝子座を発見するため、3段階の関連解析を行い、8個の遺伝子座を発見した。

その一つ目は、膵β細胞に多く発現するGLIS3のイントロン内に位置する。この遺伝子産物は、Krüppel-like zinc finger transcription factorであり、膵β細胞発生とインスリン遺伝子発現を調節しており、1型糖尿病や空腹時血糖にも関連がある。2つ目の遺伝子座は、PEPDのイントロンに位置し、3つ目はFITM2-R3HDML-HNF4Aの近傍にある。FITM2は脂肪滴蓄積に関与し、HNF4Aの変異はMODY1型として知られている。他の5つの遺伝子座はKCNK16MAEA GCC1-PAX4PSMD6 およびZFAND3の中または近傍にあり、これらは今までに代謝に関する遺伝形質との関連が知られていなかったものである。KCNK16は主に膵に発現し、pore-forming Pドメインを含むKチャネルをエンコードする。MAEAは赤芽球の除核およびマクロファージ成熟に関与している。GCG1はトランスGolgiネットワークの形成に、PAX4は膵島発生にそれぞれ関与している。PSMD6はおそらくユビキチン化した蛋白の分解に関わっており、ZFAND3の役割は不明だが、同じ遺伝子ファミリーのZFAND6はT2D遺伝子座であることが知られている。

この研究は、東アジア人のT2Dに対して行った、過去最大のGWASメタアナリシスである。この研究により、新たな生物学的なパスウェイが見出されただけでなく、集団特異的なT2Dの遺伝子座が明らかになったことも重要である。例えば、ZFAND3のrs9470794とT2Dとの関連は東アジア人特有である一方で、ZFAND6近傍のrs11634397とT2Dとの関連は欧州人特異的のようである。このことは、広義のA20ドメインを含むzinc finger proteinファミリーが糖尿病の成因に関わっていることを推測させる。このように、上記の知見はそれぞれの集団における糖尿病の形質(アジア人では低いBMIで効率の糖尿病が見られることなど)を理解するのに役立つ可能性がある。
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by md345797 | 2011-12-12 22:46 | 糖尿病の遺伝学

多能性幹細胞を胚盤胞に注入し、マウスにラット膵を作製

Generation of rat pancreas in mouse by interspecific blastocyst injection of pluripotent stem cells.

Kobayashi T, Yamaguchi T, Hamanaka S, Kato-Itoh M, Yamazaki Y, Ibata M, Sato H, Lee YS, Usui J, Knisely AS, Hirabayashi M, Nakauchi H.

Cell. 2010 Sep 3;142(5):787-99.

【まとめ】
患者自身の多能性幹細胞(pluripotent stem cells; PSC)から臓器を作製することは、再生医学の究極の目的の一つである。本研究では、野生型マウスの多能性幹細胞をPdx1-/-(膵が作られない)マウスの胚盤胞(blastcyst)に注入し、多能性幹細胞由来の膵を作ることに成功した。すなわち、発生段階での「空き」(developmental niche)を、胚盤胞に多能性幹細胞を注入する方法によって、補完することができる(=胚盤胞補完:blastcyst complementation)ことが明らかになった。また、異種間でのキメラ形成が可能かを検討するため、マウスまたはラットの多能性幹細胞をラットまたはマウスの胚盤胞にそれぞれ注入して異種間キメラを作製した。さらに、野生型ラットの多能性幹細胞をPdx1-/-マウスの胚盤胞に注入することによって、Pdx1-/-マウスに、正常に機能する膵を作製することができた。これらの結果から、異種間で胚盤胞補完ができることが証明され、ドナーの多能性幹細胞から異種動物の環境を用いてin vivoで臓器を作製できることが示された。

【論文内容】
現在、iPS細胞の技術を用いて、患者由来の多能性幹細胞を作製することが可能である。しかし、iPS細胞を用いてin vitroで臓器を作るのは極めて複雑で困難である。これに対し、この研究グループは、胚盤胞補完法という方法に着目した。この方法は、発生段階での「空き」(niche)がある動物(例えばリンパ球を欠損したRag2-/-マウス)の胚盤胞に正常動物由来の多能性幹細胞を注入すると、欠損している細胞が多能性幹細胞由来のもので補われるというものである。この方法を、膵形成が欠損したPdx1-/-マウスの胚盤胞に応用した。

[1]Pdx1-/-マウスに、野生型マウスのiPS細胞由来の膵を作製した
Pdx1-/-マウスの胚盤胞に、EGFP(緑色蛍光蛋白)トランスジェニックマウスの尾の線維芽細胞から樹立したiPS細胞を注入し、キメラマウスを作製した。注入された胚は仮親マウスの子宮に移植し、その産仔の膵形成を観察したところ、一葉にEGFP蛍光を示すiPS細胞由来の膵が認められた。この方法で膵を形成したPdx1-/-マウスは、コントロールのPdx1+/-マウスと同様の血糖変動を示した。上記の方法で作製したiPS細胞由来の膵島をSTZ投与糖尿病マウスに移植したところ、STZ投与マウスの高血糖が正常化され、GTTでの血糖変動も正常になった。すなわち、同種間の胚盤胞補完によって、iPS細胞由来の機能的な膵の作製に成功し、この方法が糖尿病治療にも役立つことが示された。

[2]マウスとラットを用いた、異種間キメラの作製
EGFPで標識したマウスおよびラットのiPS細胞をそれぞれラットとマウスの胚盤胞に注入し、それぞれの異種間キメラの胎仔を作製することができた。これらの異種間キメラは、正常に生まれ、成体になってもEGFPマウスまたはラット由来の細胞を一部持ったキメラ状態になっていた。生まれてきた個体はどちらもマウス/ラットのキメラではあるが、これらキメラの個体サイズはその胚盤胞と仮親とおおむね同等であった。

[3]異種間の胚盤胞補完によりマウスにラット膵を作製した
次に上記の[1]と[2]の2つの技術を組み合わせて、Pdx1-/-マウスに異種であるラットの膵を作製することを試みた。結果として、Pdx1-/-マウスの生体内に一様にEGFP蛍光を示すラット膵が作製された。このマウスの膵はインスリン、アミラーゼなどの内分泌・外分泌マーカーを発現し、マウスは成体まで発育してPdx1+/-マウスと同等の血糖を示した。以上より、異種間の胚盤胞補完という方法で、異種iPS細胞由来の臓器の作製が可能であることが示された。

【結論】
この方法は、ブタなどの異種動物を用いてヒトに応用可能かもしれない(ヒトの患者からiPS細胞を樹立し、臓器欠損ブタの胚盤胞に移植してブタで臓器を作製し、もとの患者に移植するなど)。しかし、マウス・ラットといったげっ歯類以外の多能性幹細胞ではキメラ形成能を持たないことが分かっており、キメラ形成能を持つ家畜や霊長類の多能性幹細胞を作製する必要がある。さらに、倫理的な問題(現在の日本では、ヒト多能性幹細胞を動物胚に注入することは禁止)にも直面する。しかし、このin vivoで臓器を作製する方法は、臓器発生のメカニズムの理解を促進し、臓器再生医学の第一歩となるだろう。
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by md345797 | 2011-12-04 21:52 | 再生治療