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Resveratrolは、cAMP PDEsを阻害することにより加齢関連の代謝障害を改善する

Resveratrol ameliorates aging-related metabolic phenotypes by inhibiting cAMP phosphodiesterases.

Park SJ, Ahmad F, Philp A, Baar K, Williams T, Luo H, Ke H, Rehmann H, Taussig R, Brown AL, Kim MK, Beaven MA, Burgin AB, Manganiello V, Chung JH.

Cell. 2012 Feb 3;148(3):421-33.

【まとめ】
Resveratrolは、カロリー制限を模倣する作用があり、抗加齢・抗糖尿病効果を持つと報告されているが、その作用機序は不明である。このグループは、resveratrolはcAMPを分解するphosphodiesterases(PDEs)を阻害することにより、cAMPを増加させることを明らかにした。これにより、cAMPのeffector proteinであるEpac1が活性化され、phospholipase Cとryanodine receptor Ca(2+)-release channelを介して細胞内のCa(2+)が増加し、CamKKβ-AMPK系が活性化される。その結果、NAD(+)が増加し、Sirt1活性が亢進する。PDE4をrolipramを用いて阻害することにより、resveratrolの代謝効果(マウスにおける高脂肪食に伴う肥満の防止、ミトコンドリア機能、運動能、耐糖能の亢進)が再現された。したがって、PDE4阻害剤投与は、加齢に伴う代謝障害の防止および改善に役立つと考えられる。
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【論文内容】
Resveratrolは、Epac1依存性にAMPKを活性化する
C2C12筋肉細胞に低濃度(50μM以下)のresveratrolを添加するとcAMPが上昇した。また、マウスにresveratrolを経口投与すると筋肉および白色脂肪組織(WAT)で cAMPが上昇した。筋肉細胞およびHeLa細胞にadenylyl cyclase(AC)阻害剤を添加した状態で、resveratrolを加えるとAMPKのリン酸化、ACC(AMPKの基質)のリン酸化が阻害された。そのため、cAMPはresveratrolによるAMPK活性化に必要であると言える。

細胞内cAMPシグナルは、PKAおよびcAMP-regulated guanine nucleotide exchange factors(cAMP-GEFs, Epac1, Epac2)の2つを介している。このどちらがresveratrolによるAMPK活性化につながるかを検討するため、PKAまたはEpac1のsiRNAをHeLa細胞に加えた後、resveratrolを添加した。その結果、Epac1 siRNAのみで、AMPKとACCリン酸化が阻害されたため、resveratrolの効果にはEpac1を介する経路が必要であることが示された。

EpacはGDPからGTPへの変換を促進し、Rap1、Rap2を活性化する。Resveratrolにより、筋肉細胞においてEpac1活性が増加(GTP結合Rap1が増加)し、Epac1特異的アゴニスト投与でもAMPK活性化が起こることが示された。

Resveratrolは、Epac1を介してNAD+を増加させる
AMPKはNAD+を増加させてSirt1活性を亢進させるため、resveratrolによるNAD+増加がEpac1依存性であるかを検討した。Epac1 siRNAにより、resveratrolによるNAD+上昇が抑制され、(Sirt1による)PGC-1αの脱アセチル化も抑制された。筋肉細胞をEpac1アゴニストで刺激すると、それだけでもミトコンドリア量が50%増加し、酸素消費率、脂肪酸化が増加した。また、resveratrolおよびEpac1アゴニストは活性酸素種(ROS)の産生を低下させた。以上より、resveratrolはEpac1依存性に、間接的にSirt1を活性化することが明らかになった。

ResveratrolはPLC-Ryr2経路を介してCamKKβ-AMPK経路を活性化する
AMPKは、2つのAMPK kinase、すなわちLKB1またはCamKKβのうちの一つによってリン酸化されることで活性化される。Resveratrolは細胞質Ca2+を増加させ、Epac1はPLC依存性にCamKIIを介して細胞質Ca2+を増加させることから、resveratrolおよびEpac1がCamKKβ-AMPK経路を活性化するかどうかを検討した。そのために、筋肉細胞にカルシウムキレート剤(BAPTA-AM)またはCamKK阻害剤(STO609)を添加した後にresveratrolを加えた。その結果、これらの薬剤によって、低濃度resveratrolおよび Epac1アゴニストによるAMPK活性化が抑制された。以上より、resveratrolはEpac1を介してCamKKβ-AMPK経路を活性化することが示された。

また、resveratrolによる細胞内Ca2+増加およびAMPK活性化は、PLC阻害剤(U73122)で抑制されたので、この過程はPLC依存性と言える。Epac1の活性化により、小胞体上にあるryanodine receptor 2(Ryr2)がリン酸化され、小胞体からのCa2+放出が促進される。筋肉細胞にRyr2の阻害剤(ryanodine)を添加してからresveratrolを加えると、AMPK活性化が阻害された。さらに、Epac1 siRNAでCamKIIによるRyr2のリン酸化が阻害されたため、resveratrolはEpac1-PLC-Ryr経路を介して、CamKK-AMPK系を活性化することが示された。

Resveratrolは、非選択的なphophodiesterase阻害剤である
細胞内cAMP濃度は、AC(=ATPからcAMPを合成)とcyclic nucleotide PDEs(=cAMPをAMPに、cGMPをGMPに加水分解)の活性によって決定する。ResveratrolはAC活性には影響しなかったため、PDEsを抑制してcAMP濃度を増加させることが示唆された。PDEには11のアイソフォームがあり、それぞれ基質特異性が異なる。そこで、resveratrolによるPDE1-5の活性低下を調べたところ、PDE1,3,4の活性が抑制された。ところが、高濃度のcAMPの存在下ではresveratrolによるPDE3活性抑制が見られず、resveratrolはcAMPと競合的にPDE活性を阻害すると考えられた。これは、resveratrolと、UVでPDE3とクロスリンクする蛍光cAMPの競合実験でも確認された。

ResveratrolはPDEsを阻害することによりAMPKを活性化し、ミトコンドリア生合成を増加させる
もしresveratrolの代謝作用がPDEsの阻害によるなら、既知のPDE阻害剤によってもresveratrol同様の効果が得られるはずである。筋肉細胞ではPDE4がPDE活性の多くを占めるため、筋肉細胞にPDE4阻害剤(rolipram)を添加したところ、resveratrolと同様のcAMPの増加が認められ、Epac1依存性にAMPK活性化が起こった。マウスにrolipramを投与して筋肉を採取したところ、AMPKの活性化、NAD+の増加、PGC-1αの脱アセチル化(Sirt1活性化を示す)が起きていた。さらに、高脂肪食負荷マウスにrolipramを12-14週間投与したところ、筋肉細胞においてresveratrolおよびAMPK活性化と同様の遺伝子発現の増加が認められ、ミトコンドリア生合成の亢進、ミトコンドリア量の増加が起きた。また、Rolipram投与マウスでは、運動耐性が増加した(トレッドミルで長距離走ることができた)。

PDEの阻害は高脂肪食による肥満や耐糖能悪化を防止する
WATでのAMPK活性化も、resveratrol同様、rolipramでも起こった。Rolipram投与マウスは高脂肪食でも体重増加が少なく、摂食は同じでも脂肪量が低下していた。これは運動量の増加ではなく、酸素消費率の増加によるものであった。Resveratrol投与マウスおよびrolipram投与マウスはコントロールと比較して、空腹時の体温が高く、脂肪組織における熱産生遺伝子であるUCPs、PGC-1αの発現が増加していた。

PGC-1αはROSの消去能(scavenging capacity)を増加させる。Rolipram投与マウスはPGC-1αの発現が多いため、WATのROSが少ない。さらに、高脂肪食を負荷したrolipram投与マウスは、コントロールに比べて耐糖能が改善していた。また、GLP-1の発現はcAMPによって増加するため、resveratrolとrolipram投与マウスの血清GLP-1量を調べたところ、20%増加が認められた。これらの結果から、resveratrolおよびrolipramは、ホルモン調節によっても2型糖尿病改善に役立つことが分かった。

【結論】
Resveratrolは、Sirt1を直接のターゲットにしているのではなく、PDEsの競合阻害→cAMPの増加→Epac1活性化→PLCを介したCamKIIの活性化→小胞体のRyr2のリン酸化→小胞体からのCa2+の放出→CamKKβの活性化→AMPKのリン酸化→NAD+の増加→Sirt1活性化という経路で、間接的にSirt1活性化を起こしている。Sirt1活性化剤(SRT1720など)が同様の経路でSirt1を活性化しているのか、興味のあるところである。また、カロリー制限はグルカゴンやカテコラミンの増加、インスリン/IGF1シグナルの低下により結果的にcAMPを増加させるので、これがresveratrolと同様の効果をもたらしているのかもしれない。さらに、PDE4阻害剤の効果は加齢関連疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病)の動物モデルで示されており、これが加齢関連の代謝疾患に有効である可能性もある。
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by md345797 | 2012-02-25 20:35 | シグナル伝達機構

脂質センサーGPR120の機能不全は、マウスとヒトの両方で肥満をもたらす

Dysfunction of lipid sensor GPR120 leads to obesity in both mouse and human.

Ichimura A, Hirasawa A, Poulain-Godefroy O, Bonnefond A, Hara T, Yengo L, Kimura I, Leloire A, Liu N, Iida K, Choquet H, Besnard P, Lecoeur C, Vivequin S, Ayukawa K, Takeuchi M, Ozawa K, Tauber M, Maffeis C, Morandi A, Buzzetti R, Elliott P, Pouta A, Jarvelin MR, Körner A, Kiess W, Pigeyre M, Caiazzo R, Van Hul W, Van Gaal L, Horber F, Balkau B, Lévy-Marchal C, Rouskas K, Kouvatsi A, Hebebrand J, Hinney A, Scherag A, Pattou F, Meyre D, Koshimizu TA, Wolowczuk I, Tsujimoto G, Froguel P.

Nature. 2012 Feb 19 Published online.

【まとめ】
遊離脂肪酸は、生体の重要なエネルギー源でありシグナル伝達分子でもある。いくつかのG蛋白共役受容体が、遊離脂肪酸の受容体として同定されている。GPR120 (別名O3FAR1)は不飽和長鎖遊離脂肪酸の受容体として、血管新生や食欲調節などの過程で重要な役割を果たしている。本研究では、GPR120欠損マウスに高脂肪食を負荷したところ、脂肪細胞分化と脂肪合成の低下を伴う肥満、耐糖能異常、脂肪肝をきたした。また、インスリンシグナル伝達の低下、脂肪組織の炎症の亢進を伴ったインスリン抵抗性が認められた。ヒトにおいては、肥満者で、脂肪組織のGPR120発現の増加が見られた。肥満者のGPR120のexon sequencingにより、有害な非同義突然変異であるp.R270H(注:アミノ酸置換が起こるミスセンス変異、p.はproteinの略)が認められ、これによりGPR120のシグナル伝達活性が阻害されることが示された。さらに、p.R270H変異体は、ヨーロッパの集団において、肥満のリスクを増加させた。以上より、脂質センサーであるGPR120は、高脂肪食を感知するのに重要な役割を果たし、ヒトとマウスの両方においてエネルギーバランスを調節していることが明らかになった。

【論文内容】
GPR120欠損マウスは、野生型(WT)マウスに比べ、正常食では体重に差はないが、高脂肪食を負荷したときの体重増加が10%程度大きかった。両マウスのエネルギー消費を比較したところ、9-10週齢でGPR120欠損マウスにおいて明期(非活動時間)のエネルギー消費が小さかった。GPR120は特に若いマウスでのbasalの代謝に関与していることが示された。高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスはWTに比べ、脂肪量が多く、脂肪細胞が大きく、脂肪組織へのマクロファージの浸潤(F4/80陽性細胞数)が多かった。また、脂肪肝を示し、肝の中性脂肪含量が多かった。

高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスはWTに比べ、空腹時血糖・インスリン値が高値であり、ITTおよびGTTでの血糖が高値であった。また、白色脂肪組織(WAT)、肝、骨格筋におけるインスリンによるAKTのリン酸化が低下していた。qRT-PCRで、WATにおいて脂肪分化マーカー(Fabp4)、脂肪合成関連遺伝子(Scd1)の発現低下が見られ、肝ではScd1および脂肪酸トランスポーター遺伝子(Cd36)の発現増加が認められた。Western blotでも同様にWATでのSCD1の発現低下、肝での増加を認めた。WAT、肝、血漿のlipidomics解析によると、高脂肪食負荷したGPR120欠損マウスでは肝のオレイン酸(C18:1n9c)が増加し、C18:1対C18:0比(SCD1酵素活性を示す)が増加していた。このマウスでは、WATおよび血漿のパルミトオレイン酸(C16:1n7)は低下しており、WATでのScd1発現低下と一致している結果であった。GPR120欠損マウスでは、脂肪合成の異常があり、特に脂質ホルモンであるC16:1n7パルミトオレイン酸の低下が示された。GPR120欠損マウスにC16:1n7パルミトオレイン酸を6時間注入すると、肝のScd1発現亢進が低下した。これらの結果から、パルミトオレイン酸の低下はこのマウスの代謝異常の原因であることが示唆された。

次に、ヒトにおいてGPR120が肥満に関与しているかを検討した。まず、肥満者と正常者(各n=14)の皮下および大網脂肪組織におけるGPR120の発現を比較したところ、肥満者で有意にGPR120の発現が増加していた。さらに、312名のフランス人非血縁高度肥満者でGPR120の4つのexonの塩基配列を調べた。その結果、2つの非同義突然変異(non-synonymous variant)であるR270Hとp.R67C/rs6186610を同定した。この非同義変異の遺伝子型を6,942名の肥満者と7,654名の正常コントロールで比較したところ、R270Hが肥満と関連していることが明らかになった。次に、p.R67Cとp.R270Hの2つのarginine(67と270)変異の受容体機能への影響を検討するため、内因性アゴニストであるα-リノレン酸(ALA)反応性の細胞内カルシウム([Ca2+]i)反応を比較した。その結果、ALA反応性[Ca2+]i反応は、p.R270Hを持つ受容体で有意に低下していた。また、p.R270H変異受容体を発現させたヒト腸管NCI-H716細胞からのGLP-1分泌を、WTの受容体を発現させた細胞と比較したところ、WTと違ってALA反応性のGLP-1分泌増加が認められなかった。

次に、T-Rex 293細胞にbicistronicに(1つの遺伝子が2種類の蛋白をコード)WT/WT、WT/p.R270H、p.R270H/WT受容体を発現させた場合のALA依存性の[Ca2+]i上昇の用量依存曲線を解析した。WT/WTを発現させた細胞に比べ、WT/p.R270Hまたはp.R270H/WTを発現させた細胞では、ALAによる [Ca2+]i上昇反応が低下していた。したがって、p.R270H変異は、長鎖遊離脂肪酸のシグナル伝達を障害することによりGPR120の機能を抑制することが示された。

p.R270H変異をheterozygousに持つ肥満者10名とnon-carrierの肥満者を比較したところ、皮下・大網脂肪組織でのGPR120発現は同様であった。脂肪分化マーカーPPARGおよび脂肪合成関連因子SCD、マクロファージマーカーCD68の発現も両群で差はなかった。しかし、脂肪酸結合蛋白FABP4の大網脂肪組織での発現は、p.R270H carrierで有意に低下していた。

【結論】
omega-3脂肪酸の受容体である脂質センサーGPR120は、マウスとヒトの両方で肥満に関連していた。この受容体は、肥満および脂質代謝異常、肝疾患などの治療の有望なターゲットになると考えられる。
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by md345797 | 2012-02-23 17:17 | 糖尿病の遺伝学

γ-グルタミルトランスペプチダーゼで活性化される蛍光プローブの局所スプレーによるがんの迅速な検出法

Rapid cancer detection by topically spraying a γ-glutamyltranspeptidase-activated fluorescent probe.

Urano Y, Sakabe M, Kosaka N, Ogawa M, Mitsunaga M, Asanuma D, Kamiya M, Young MR, Nagano T, Choyke PL, Kobayashi H.

Sci Transl Med. 2011 Nov 23;3(110):110ra119.

【まとめ】
蛍光プローブは微小ながんを可視化するために有用であるが、バックグラウンドのシグナルが高いことや投与から検出まで時間がかかることなどが問題になっていた。この研究では、迅速に活性化される、がん選択的な蛍光イメージングプローブであるγ-glutamyl hydroxymethyl rhodamine green (gGlu-HMRG)を合成した。正常組織では発現しておらず、さまざまながん細胞の細胞膜に過剰発現しているγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)によってこのプローブのグルタミン酸が切断されると、プローブの脱消光(dequenching)が起こり、蛍光を発する。このgGlu-HMRGのin vitroでの活性化を、11種のヒト卵巣がん細胞で確認した。また、卵巣がんの腹膜播種のin vivoマウスモデルにおいて、gGlu-HMRGを局所的にスプレーすると1分以内に活性化が起こり、がんとバックグラウンドの高いシグナルコントラストが得られた。gGlu-HMRGプローブは、がん細胞表面のGGTとの接触により迅速で強力な活性化を受けるため、外科手術または内視鏡検査に臨床応用可能である。

【論文内容】
迅速で正確ながん組織の検出と完全な切除が、がんの治療に必要である。これを高感度・低コストで可能にする蛍光プローブは、「always on」(常に一定のシグナルを発し続ける)プローブと「activatable」(ある環境下で初めて蛍光を発する)プローブに大別される。Always-onプローブはバックグラウンドシグナルが高くなり、 十分なtarget-to-background ratios (TBRs)を得るのが難しく、activatableプローブは活性化に数時間から数日かかりリアルタイムの臨床応用が困難という欠点があった。このグループでは、がん特異的抗体を用いたactivatableプローブを開発したが、十分なTBRを得るために少なくとも1時間かかるものであった。この研究では、ヒトの多くのがん細胞の細胞表面に発現しているGGTを利用して、通常は蛍光団が消光(quenched)している状態だが、GGTによる切断を受けるとこの状態が解除され蛍光を発するプローブ、gGlu-HMRGを論理的に設計した。

アミノペプチダーゼ反応性の蛍光プローブの開発
gGlu-HMRGプローブは親水性のため細胞膜を透過しないが、癌細胞表面のGGTにより加水分解されてHMRGとなると蛍光を発し、疎水性となるため細胞膜を透過して細胞内のリソソームに蓄積する。さまざまなアミノペプチダーゼの酵素活性を検出するために5種類のアミノ酸をもつプローブ(gGluのほかに、Leu、Gly、Ile、Phe)を合成した。これらは無色・無蛍光(分子内閉環のため消光)だが、それぞれのアミノペプチダーゼにより加水分解される(開環になる)と、可視光の蛍光を発する。

がん細胞におけるアミノペプチダーゼ活性と特異性の評価
腫瘍関連酵素であるGGTとLAP(leucine aminopeptidase)のプローブ(gGlu-HMRGとLeu-HMRG)をそれぞれヒト卵巣がん細胞SHIN3および正常細胞HUVECsに添加した。その結果、gGlu-HMRGプローブにより、SHIN3細胞のみで蛍光シグナルが得られ、高いGGT活性を検出することができた(この区別はLeu-HMRGプローブを用いてはできなかった)。また、gGlu-HMRGプローブによるGGTの検出は、GGT阻害剤やGGT-1のsiRNAを用いて抑制された。

gGlu-HMRGプローブによるSHIN3腫瘍細胞のin vivo検出
上記5種のアミノペプチダーゼプローブおよびFDA(fluorescein diacetate=esterase反応性プローブ)をSHIN3腫瘍を持つマウスの腹腔内に注入した。Leu-HMRGとFDAは、腫瘍部位とバックグラウンドで非特異的に蛍光を発したが、gGlu-HMRGは高いTBRをもって腫瘍部位を蛍光検出し、直径1mm未満の微小腫瘍部位も裸眼で可視化することができた。さらにSHIN3腫瘍を持たないマウスにgGlu-HMRGを注入しても蛍光は見られず、血清中や正常組織でのバックグラウンドのGGT活性が低いことが示された。

gGlu-HMRG によるin vitroでの卵巣がん細胞、およびin vivoでの腹膜腫瘍の蛍光検出
gGlu-HMRを、in vitroで11種のヒト卵巣がん細胞株と、in vivoで移植した6種の卵巣がんに添加した。その結果、11の細胞株はすべてgGlu-HMRGプローブにより蛍光検出された。また、6種の卵巣がんを腹膜に移植したマウスの腹腔内に、gGlu-HMRGプローブを内視鏡でスプレーし観察した(食道がんの検出にルゴール液をスプレーしたり、早期胃がんや大腸がんにメチレンブルーをスプレーするのと同様)ところ、4種の卵巣がんでスプレー後数分で蛍光シグナルが観察された。この蛍光強度や時間経過はがん細胞の種類によって異なっていた。また、麻酔した生きたマウスの腹膜に存在するSHIN3の小結節(1mm以下)はgGlu-HMRGのスプレー後30秒で検出され、蛍光ガイド下で内視鏡的に切除することができた。

gGlu-HMRGによるSHIN3腫瘍の微小な腹膜播種のイメージング
Red fluorescent protein(RFP)-transfected SHIN3細胞(SHIN3-RFP)のマウスの腹膜播種を、gGlu-HMRGプローブを腹腔内注入することにより検出した。その結果、gGlu-HMRGの腹腔内注入10分後には、gGlu-HMRGの緑色とSHIN3-RFPの赤色の蛍光がオーバーラップした。また、gGlu-HMRGプローブ(緑色蛍光シグナル閾値10 arbitrary units)によるSHIN3-RFP細胞(赤色蛍光シグナル閾値4 a.u.)の検出の感度・特異度は、どちらも100%だった。

【結論】
gGlu-HMRGプローブを用いることにより、正確な生検や腫瘍切除が可能になり、腫瘍断端や残存腫瘍を検出することができる。GGTはすべてのがんの特異的なマーカーではないが、腫瘍表面に存在する酵素が分かれば同様の方法で蛍光プロープを開発できると考えられる。
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by md345797 | 2012-02-21 07:43 | その他

心ナトリウム利尿ペプチドは、脂肪細胞でp38MAPKを介して褐色脂肪の熱産生プログラムを促進する

Cardiac natriuretic peptides act via p38 MAPK to induce the brown fat thermogenic program in mouse and human adipocytes.

Bordicchia M, Liu D, Amri EZ, Ailhaud G, Dessì-Fulgheri P, Zhang C, Takahashi N, Sarzani R, Collins S.

J Clin Invest. 2012 Mar 1;122(3):1022-36.

【まとめ】
白色脂肪組織中の褐色脂肪細胞の数と活性を増加させることは、体脂肪蓄積を防ぐために役立っている。β-adrenergic receptors (β-ARs)の活性化がこの「褐色様」脂肪細胞形質への促進を行っている。心臓のナトリウム利尿ペプチド (NPs) とβ-ARアゴニストは同じように強力に脂肪細胞でのlipolysisを刺激することが分かっているため、NPsが脂肪組織において褐色脂肪形質を獲得する(UCP1発現が増加して熱エネルギー消費が増加する)ことを促進するかどうかを検討した。ヒト脂肪細胞において、心房性NP(ANP)と心室性NP(BNP)は、PGC-1αとUCP1の発現を増加させ、ミトコンドリア生合成と呼吸を増加させた。低濃度では、ANPとβ-ARアゴニストは相加的に、p38MAPK依存的に褐色脂肪マーカーを増加させた。低温環境においたマウスは血中のNPsが増加し、褐色脂肪組織(BAT)・白色脂肪組織(WAT)において、NPのsignaling receptorが増加、NP clearance receptor (NPRC)が減少した。NPR-C-/-マウスは、脂肪組織が小さく、Ucp1などの熱産生遺伝子の発現が亢進していた。マウスにBNPを注入すると、WATおよびBATでUcp1とPgc-1αの発現が増加し、呼吸とエネルギー消費の亢進が認められた。以上の結果から、NPsは、白色脂肪の褐色化(browning)を促進し、エネルギー消費を増加させることが明らかになり、心臓は脂肪組織を調節する重要な臓器であることが示された。

【論文内容】
心臓のナトリウム利尿ペプチド(NPs: natriuretic peptides)には心房性(ANP)と心室性(BNP)があり、これらはNP receptor A(NPRA)に結合し、体液や血行動態の恒常性を調節している。もう一つのNP受容体ファミリーであるNPRC(NP clearance receptor)は、ANP・BNPに結合して血中からこれらを除外する役割がある(下流へのシグナル伝達は行わない)。ANPは、交感神経系におけるカテコラミンと同じように、脂肪組織でlipolysisを増加させることが知られている。β-adrenergic receptors (βARs)はcAMPを増加させ、PKAの活性化を介してHSLをリン酸化するが、NPsはcGMPを増加させ、PKG (cGMP-dependent protein kinase)を活性化することによりlipolysisを増加させる。運動によって心拍出量が増加してNPsが放出されると、lipolysisが増加し心筋・骨格筋への脂肪酸の供給が増加する。本研究では、NPsが、カテコラミン/βARs系と並行して、脂肪細胞を「褐色様」形質に変化させるかを検討した。

ANPとlipolysis
まず、野生型マウスとNPRC欠損(NPR-C-/-)マウスのWAT・BATで、ANPによるlipolysisを比較した。NPR-C-/-マウスは野生型に比べ、WAT・BATとも脂肪量が少なく、組織学的にも脂肪滴および脂肪細胞サイズが小さかった。また、このマウスのWAT・BATではUCP1、PGC-1αの発現が増加していた。したがって、NPR-C-/-マウスは(ANPによく反応することにより)褐色脂肪細胞の熱産生プログラムが亢進していると考えられた。

ANPは褐色脂肪細胞形質の獲得を促進する
また、分化させたヒト脂肪細胞(human multipotent adipose-derived stem cells: hMADS cells)にANPを添加したところ、UCP1、PGC-1αおよび褐色脂肪分化に重要な因子であるPRDM16の発現が増加した。また、ANPは、βARアゴニストであるisoproterenol(Iso)やβ3ARアゴニスト(L755)と同じようにUCP1、PGC-1αの発現を増加させた。ここで、PKGの阻害物質(PKGiとする)を投与しておくとANPの作用は阻害された。

次に、ANPがミトコンドリア生合成と呼吸を示すパラメーターを増加させるかを調べたところ、CPT1B、COX10などの発現とミトコンドリアDNAがANP投与で増加し、PKGiで抑制された。また、ANPの投与で、hMADS cellsの酸素消費率が増加した。

βARsおよびANPは、PKA/PKGからp38MAPKに至る並行するシグナル伝達経路を用いている
βARsは、PKAを介してp38MAPKを活性化することで、UCP1、PGC-1α発現を増加させることが分かっている。同様にANPは、hMADS cellsにおいてp38MAPK活性を増加させ、これはPKGiによって阻害された。さらに、SB203850でp38MAPKを阻害すると、ANPによるUCP1・PGC-1αの発現増加も阻害されたため、ANPはPKGからp38MAPKへのシグナル伝達経路を用いて、UCP1発現を起こしていることが分かった。

ANPによるUcp1プロモーターへの転写因子の結合
UCP1遺伝子のエンハンサー領域には、βAR/PKA/p38αMAPKカスケード依存性の領域であるPPREとCRE2という転写因子結合部位が含まれている。ヒト脂肪細胞をANP刺激することにより、p38MAPKが転写調節因子ATF2のリン酸化とCRE2への結合を促進し、それによってPGC1-αが発現誘導され、さらにPGC-1αがPPARγとRXRαのPPREへの結合を促進することによって、最終的にUCP1の発現が誘導される(これは、PKGiおよびSBによって阻害される)ことが示された。

NPsとβARsの相加的な反応により、褐色脂肪細胞様の遺伝子発現パターンが増加する
hMADS cellsに低濃度のANPおよびIsoを添加すると、UCP1、PGC-1αの発現が相加的に促進された。すなわち、ANPによる経路とβARによる経路が、相加的にp38MAPKを活性化することが分かった。

NPsは、in vivoで褐色脂肪の形質とエネルギー消費を増加させる
上記のNPシステムが、βARシグナルと同様に寒冷によって刺激されるかについて検討した。マウスを4℃におくと、血漿BNPおよび心臓でのANP、BNPの発現が増加した。NPシステムは、交感神経系とともに、寒冷環境でのlipolysisと熱産生に関与している可能性がある。最後に、BNPをミニポンプを用いて7日間持続注入すると、酸素消費、エネルギー消費が増加した。また、これにより、脂肪組織での褐色脂肪細胞マーカー(UCP1、PGC-1α)の発現が増加した。すなわち、BNPの注入は、BATの活性化、WATの「褐色化(browning)」を促進することにより、エネルギー消費を増加させることが示された。

【結論】
心ナトリウム利尿ペプチドの脂肪組織に対する作用(脂肪細胞の褐色脂肪様形質への変化を促進する)が分かり、cardiometabolic hormoneとしての役割が明らかになった。

(臨床的には、心不全における病的な体重減少(cardiac cachexia)でNPsが増加していることが知られており、脂肪組織におけるエネルギー消費の亢進が原因として想定される。また本研究の結果からは、NPsが肥満・代謝疾患の治療に利用できる可能性も考えられる。)
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by md345797 | 2012-02-14 23:50 | エネルギー代謝

FGF21は、PPARγ活性とTZDの抗糖尿病作用を調節している

Fibroblast Growth Factor-21 Regulates PPARγ Activity and the Antidiabetic Actions of Thiazolidinediones.

Dutchak PA, Katafuchi T, Bookout AL, Choi JH, Yu RT, Mangelsdorf DJ, Kliewer SA.

Cell. 2012 Feb 3;148(3):556-67.

【まとめ】
FGF21は血液中を循環するhepatokineであり、炭水化物や脂質の代謝に好影響を与えると考えられている。今回この研究では、FGF21は脂肪組織のautocrine factorであり、PPARγ活性をフィードフォワード的に調節することを示す。FGF21ノックアウト(KO)マウスは、体重減少、PPARγ依存性遺伝子発現の低下などのPPARγシグナル伝達の障害を示す。さらに、FGF21-KOマウスでは、rosiglitazoneのインスリン感受性亢進作用と副作用が起こりにくい。このFGF-KOマウスの機能消失は、PPARγのsumoylationによる転写活性の減弱を伴っていた。このマウスにFGF21を投与すると、PPARγのsumoylationが阻害され、PPARγ活性が回復した。以上より、FGF21は生理的、薬理的にPPARγ活性を調節する重要な因子であることが示された。

【論文内容】
PPARγ活性は、転写後のSUMO化(sumoylation)によって調節を受ける。PPARγ2のK107のsumoylationは、corepressorの結合を促進することにより、PPARγの転写活性を抑制すると考えられている。

FGF21は摂食によりWATでの発現が誘導される
野生型(WT)マウスにrosiglitazoneを投与すると、白色脂肪組織(WAT)でFGF21の発現が誘導される。肝では、PPARαアゴニスト(GW7647)投与によって発現が誘導され、血中のFGF21濃度が増加したが、rosiglitazoneでは血中濃度は増加しなかった。単離した脂肪細胞では、rosiglitazoneによってFGF21の発現が増加する(GW7647では増加しない)ため、FGF21はWATでautocrine/paracrine様に局所で作用していると考えられた。また、マウスにおいて、摂食によりWATでのFGF21発現が増加したが、血中濃度は増加しなかった。

FGF21-KOマウスは中等度の脂肪萎縮を示す
FGF21-KOマウスは、WTマウスと比べて脂肪量が低下していたが、摂食や総体重は差がなかった。両マウスで精巣上WATのDNA量は差がなく、この脂肪量減少は脂肪細胞数の減少ではなく、脂肪細胞の小型化によるものと考えられた。

FGF21は脂肪細胞分化を促進する
WTマウスとFGF21-KOマウスの脂肪前駆細胞の分化の違いをin vitroで比較した。その結果、FGF21-KOマウスでは、Pparg mRNAの誘導が遅れており、これはrecombinant FGF21の添加により回復した。各種lipogenic geneの発現と脂肪蓄積もFGF21-KOマウスで低下し、FGF21投与で回復した。

FGF21はPPARγの転写活性を刺激する
上記のように、FGF21-KOマウスの脂肪前駆細胞では分化と脂肪蓄積が障害されていたため、FGF21がPPARγの活性化を調節するのではないかと考えられた。WT脂肪細胞にrosiglitazoneを添加すると、lipogenic gene発現と脂肪蓄積が増加したが、FGF21-KO脂肪細胞ではそれらは減弱していた。これはFGF21の添加により回復した。WTおよびFGF21-KO脂肪細胞で、PPARγの総蛋白量に差はなかったが、sumoylated PPARγ(SUMO1抗体で免疫沈降されたPPARγ)はFGF21-KO脂肪細胞で大きく増加しており、これはFGF21添加により正常化した。以上のin vitroのデータと同様、FGF21-KOマウスのWATでのin vivoでのPPARγ sumoylationも増加しており、PPARγターゲット遺伝子の発現は低下していた。すなわち、FGF21はPPARγのsumoylationを抑制することにより、その転写活性を増加させていることが明らかになった。

PPARγは、K107およびK395がsumoylationを受けるため、両部位の変異体を作りlentivirusでFGF21-KO脂肪細胞に導入した。その結果、K395ではなく、K107のsumoylationがPPARγの活性を阻害することが分かった。次にPPARγ-K107Rを導入した(PPARγがsumoylationされない)FGF21-KO脂肪前駆細胞は、コントロールのFGF21-KO細胞と違って、脂肪細胞への分化が障害されないことを示した。

FGF21-KOマウスはrosiglitazoneに不応性である
次に、高脂肪食負荷WTおよびFGF21-KOマウスにrosiglitazoneを投与した。RosiglitazoneはWTのWATでのFGF21発現を増加させたが、肝での発現は逆に低下させ、血中FGF21は減少した。このことからも、WATで産生されるFGF21はホルモンではなくautocrine/paracrine的に作用していると考えられる。WTマウスはrosiglitazone投与によりGTT、ITTでのグルコース変動が改善したが、FGF21-KOマウスでは改善しなかった。さらに、rosiglitazoneの副作用である脂肪増加と体液貯留も、WTでは見られたが、FGF21-KOでは認められなかった。したがって、FGF21はrosiglitazoneのインスリン感受性亢進作用と副作用発現に必要であることが分かった。

高脂肪食負荷においても、FGF21-KOマウスはWTに比べてWATのsumoylated PPARγが増加していた。また、マイクロアレイ解析では、WTマウスでrosiglitazoneで増加・減少している遺伝子のクラスターが、FGF21-KOでは認められなかった。FGF21-KOでのrosiglitazone反応性の消失は、PPARγのターゲット遺伝子でも認められ、特にrosiglitazoneによるTnfa発現の低下がFGF21-KOでは認められず、rosiglitazoneによる血中adiponectin増加がFGF21-KOでは減弱していた。

【結論】
WATにおいて、rosiglitazone刺激によるPPARγ活性化はFGF21の発現を増加させ、これがautocrine/paracrine的にWATに作用してPPARγのsumoylationを阻害して、さらにPPARγ活性化をもたらす、というフィードフォワード機構が存在すると考えられた。さらに、rosiglitazoneによるインスリン感受性亢進作用と副作用発現に、FGF21が必要であることが示された。

FGF21には、肝で産生されホルモンとして分泌されて絶食中の適応反応を調節する「全身作用」と、WATで産生されてautocrine/paracrine的にWATに作用して摂食後のPPARγ活性を増加させる「局所作用」があると考えられた。
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by md345797 | 2012-02-10 07:08 | インスリン抵抗性

Irs1のSerine/Threonineリン酸化によるインスリンシグナル伝達の調節

The Regulation of Insulin Signaling by Serine/Threonine Phosphorylation of Irs1

Morris F. White, Children's Hospital Boston

Keystone Symposia:Pathogenesis of Diabetes Feb 2, 2012, Santa Fe.

Irs1は、インスリン、炎症性サイトカイン、脂肪酸などによりSer/Thr残基がリン酸化される。Irs1のSer/Thrリン酸化は一般的にインスリン抵抗性に関連していることが分かっており、インスリン抵抗性のメカニズムの一つとなっている。Irs1には少なくとも30のSer/Thrリン酸化部位があり、インスリンシグナル伝達を調節しているが、生理的な状態でそのリン酸化を定量するのは困難であった。

そこで、このグループでは、30のSer/Thrリン酸化部位に特異的なモノクローナル抗体を作製した。これを用いて培養細胞(L6、CHO、FAO細胞)において、basalの各Ser/Thr部位のリン酸化およびインスリンによるリン酸化増加のtime courseを定量することができた(細胞の種類、各部位によってリン酸化の程度は異なっていた)。また、kinase阻害薬(PI3K、AKT、TOR、S6Kの各阻害剤)を用いて、インスリンによるSer/Thrリン酸化とTyrリン酸化に逆の関係があることが示された(どの部位のSer/Thrリン酸化がTyrリン酸化の低下とどの程度相関するかまで示された)。

特にIrs1のS302, S307, S325およびS346のリン酸化は、培養細胞においてtyrリン酸化と負の相関を示した。そこで、Ser307またはSer302をAlaに置換したノックインマウスを作製した。その結果、高脂肪食を負荷した307A/Aマウスは、コントロールマウスに比べ強いインスリン抵抗性を示した。さらに307S alleleをもつIrs1/Irs2肝臓ダブルノックアウト(LDKO)マウスは耐糖能正常であるが、307A alleleを持つものは耐糖能異常・インスリン抵抗性をきたした。一方、302A/Aマウスは302S/Sマウスと比較してIrs1 tyrリン酸化は同様であり、一つの302Aまたは302S alleleはいずれもLDKOマウスの耐糖能を回復した。したがって、Ser302のインスリンシグナルに対する効果は少なく、Ser307リン酸化はin vivoでは(培養細胞の実験結果と異なり)インスリン感受性を促進すると考えられた(Cell Metab, 2009)。
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by md345797 | 2012-02-03 18:46 | その他

脂肪組織のインスリンシグナル伝達障害

Insulin Signaling Dysfunction in Adipose Tissue

Michael P. Czech, University of Massachusetts Medical School

Keystone Symposia:Pathogenesis of Diabetes Feb 2, 2012, Santa Fe.

このグループはsiRNAスクリーニングを用いて、脂肪細胞のインスリンシグナル伝達を負に制御する新規分子の同定を試み、Map4k4を同定した。Map4k4は、脂肪組織に存在する、脂肪細胞、マクロファージ、内皮細胞の3種の細胞に発現し、マクロファージのサイトカイン(IL-1とTNF-α)発現を調節し、脂肪合成を抑制する(Nature, 2009)。内皮細胞特異的Map4k4欠損により内皮細胞の活性化(=マクロファージの脂肪組織への浸潤に必要)が阻害できる。以上より、Map4k4は、脂肪組織の脂肪細胞、マクロファージ、内皮細胞で作用し、脂肪組織の機能不全を促進する因子と言える。

また、脂肪組織マクロファージが本当に脂肪組織機能不全の原因となっているかを検討するため、内臓脂肪組織(VAT)マクロファージに特異的に gene silencingができる方法を検討した。脂肪組織のマクロファージにsiRNAを到達させるため、マクロファージβ-glucan受容体のリガンドであるβ1,3-D-glucanによってカプセル化したsiRNA(glucan-encapsulated siRNA particles: GeRPs)が利用されている(Biochem J, 2011)。この方法でGeRPsを作用させると、ob/obマウスの精巣上脂肪組織(VAT)のマクロファージのほとんどがGeRPsを含むようになる(肝や皮下脂肪組織のマクロファージにはGeRPsは行かない)。これにより、VATマクロファージに特異的なgene targetingが可能となっている。
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by md345797 | 2012-02-03 18:25 | その他

FGF21の代謝における多様な役割

Multiple Metabolic roles of FGF21

Eleftheria Maratos-Flier, Beth Israel Deaconess Medical Center

Keystone Symposia:Pathogenesis of Diabetes Feb 2, 2012, Santa Fe.

マウスに高脂肪食(HF)を負荷すると体重が増加するが、同じカロリーのケトン誘発食(ketogenic diet:KD)を負荷すると体重は減少する。マウスにHFとKDを負荷した場合に肝で発現が増減する遺伝子をAffimetrixのDNA microarrayでチェックしたところ、KDでFGF21の発現が大きく増加することが明らかになった。

肝におけるFGF21をadenovirusでノックダウンすると、KDで脂肪肝・TG増加をきたした。さらに、FGF21欠損マウスは、中程度の肥満、中程度の過食、耐糖能障害を示し、KDで肝重量が増加、脂肪滴増加が認められた。これらの結果から、FGF21は肝で発現し、肝をターゲットとし(肝のFRS2、ERK1/2リン酸化が増加)し、肝の脂質酸化を調節していると言える。

肥満マウスではFGF21の発現が多く、肥満では「FGF21抵抗性」があると考えられる。実際、肥満マウスにFGF21を投与した場合、肝でのERK1/2リン酸化は低下している。

また、FGF21は寒冷に対する熱産生に重要な役割を果たしている。寒冷条件下では、inguinal WATのFGF21発現は増加し、PGC-1αとUCP1の発現を増加させている(「brite」脂肪細胞に変化させている)。このとき血中FGF21濃度は変化していない。FGF21はhormonalではなく、WATにおいてautocrine様に局所で作用していると言える。FGF21欠損マウスは、野生型と違って、寒冷条件下で体幹温度が低下してしまう。これは、寒冷下でPGC-1α、UCP1の発現が少ない(すなわちbrite脂肪細胞への転換が少ない)ことによる。通常のマウスでも、3日間FGF21を注入すると、WATでUCP1およびBATマーカーの発現が認められ、寒冷条件に対するWATの褐色化が起こる。

以上の知見から、FGF21は古典的な「ホルモン」とは言えない。肝に注目するとhepatokineであり、WATを褐色化させるadipokineでもあり、いろいろな臓器で産生され作用するomnikineとでも言えるものである
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by md345797 | 2012-02-03 07:00 | その他

脂肪組織のインスリン抵抗性のメカニズム

Mechanistic Insights into Adipose Tissue Insulin Sensitivity

Philipp E. Scherer, University of Texas Southwestern Medical Center at Dallas, USA

Keystone Symposia:Pathogenesis of Diabetes Feb 2, 2012, Santa Fe..

①脂肪組織におけるHIF1αは高脂肪食に伴う肥満の発症に重要な役割を果たしている。HIF1α阻害剤で高脂肪食による肥満・耐糖能障害が改善される。また、DOX誘導性に脂肪細胞特異的にdn-HIF1αを発現させると、高脂肪食による肥満・TG増加が抑制される。
②VEGFによる血管新生は代謝に好影響をもたらす。VEGFのトランスジェニックマウスで血糖・TGが低下し、脂肪肝が改善、WATの褐色化(PGC-1α、UCP1の発現増加)が認められる。VEGFのモノクローナル抗体(mcr84IgG)による阻害は、空腹時インスリン値およびTGの増加をもたらす。ただし、脂肪組織が増殖しすぎたときには、VEGFの中和は逆に代謝に良い影響をもたらす。
③脂肪組織と腫瘍増殖をつなぐ分子として、collagen VIの切断産物であるendotrophinが同定された。ob/obマウスではWATでendotrophinが増加している。MMTV(マウス乳癌ウイルス)プロモーターによりendotrophinを過剰発現させたトランスジェニックマウスは、乳腺の腫瘍成長、転移が増加しており、腫瘍の線維化や血管新生、EMT(Epithelial-mesenchymal transition;上皮間葉移行)が促進されている。
④また、正常な脂肪組織の生存にはPPARγが必要であることを、脂肪細胞特異的なinducible deletion of PPARγによって示した。
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by md345797 | 2012-02-03 06:59 | その他

PPARγ1のエピジェネティックなプログラミングは、肥満におけるマクロファージの極性化を調節する

Epigenetic programming of PPARgamma1 regulates macrophage polarization in obesity.

Xianfeng Wang, Hang Shi and Bingzhong Xue.
Wake Forest University School of Medicine.

Keystone Symposia:Pathogenesis of Diabetes Feb 2, 2012 (Poster 438)

肥満は、classically activated M1 adipose tissue macrophages (ATMs)の増加と、alternatively activated M2 ATMsの減少を伴っており、これが肥満に伴う炎症とインスリン抵抗性に寄与している。この根底にはエピジェネティックなメカニズムが重要な働きをしていると考えられる。この研究では、マクロファージに飽和脂肪酸(SFA)を添加するとDNA methyltransferases(DNMT1)の発現が有意に増加することを明らかにした。さらに炎症性サイトカインであるTNFαは肥満マウスから単離したATMsで高値を示すが、classically activated M1 ATMsに比べ、alternatively activated M2 ATMsでは発現が低い。

DNAメチル化を薬剤(5-aza-2'-deoxycytidine)によりまたは、遺伝的に(myeloid-specific DNMT1 knockout mice:MD1KO)から採取したマクロファージを用いて)阻害することにより、マクロファージの極性化をalternatively activated M2形質にすることができた(M2マクロファージのマーカーであるarginase I (ARG1), mannose receptor, Dectin-1, programmed cell death 1 ligand 2, interleukin 1 receptor antagonist, interleukin 10および、macrophage alternative activationを調節する転写因子PPARγ1の発現で確認)。その一方で、マクロファージにDNMT1を過剰発現すると、interleukin 4 (IL4)誘導性ARG1およびPPARγ1の発現が大きく抑制された。

PPARγ1のプロモーターおよび5'-untranslated regionsはCpG部位を多く含む。ステアリン酸とTNFαはPPARγ1の発現を有意に抑制するが、これは、5-メチルシチジンと、DNMT1のPPARγ1プロモーターへの結合、PPARγ1プロモーターDNAメチル化を増加させた。なお、MD1KOマウスは高脂肪食を負荷しても、体重は変化しないのにGTT、ITTにおいてインスリン感受性が亢進していた。

以上の結果より、DNAメチル化は、マクロファージの極性化の調節に重要な役割を果たしており、PPARγ1プロモーターのDNAメチル化を阻害することにより、マクロファージの極性化をalternatively activated M2形質に促進することができる。一方で、飽和脂肪酸やTNFαのような炎症性サイトカインはPPARγ1プロモーターのDNAメチル化を増加させ、マクロファージの極性化を障害し、肥満における炎症とインスリン抵抗性をもたらすと考えられる。
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by md345797 | 2012-02-03 06:17 | その他